リュウノスケェ!!に殺されたショタの姉に転生しました。 作:シーボーギウム
その姿を捉えた瞬間、藤村大河は走り出していた。それは、つい数日前に行方を眩ませた彼女の後輩。家族を皆殺しにされるというあまりにも惨い悲劇に直面した少女だ。
(くっ!流石は識姫ちゃん!足が速い!!)
その少女は彼女の知らない幼げな女の子と共にいた。その視線は優しげで、藤村は弟のいる彼女らしいと思いつつも強烈な違和感に襲われた。
(とりあえず話は捕まえてから!全くどれだけ心配したと………!!)
あくる日穂群原学園に広がった「ある生徒の家族が、巷を騒がせる連続猟奇殺人鬼に皆殺しにされた」という惨すぎる噂。その数日後に判明したのは、その"ある生徒"というのが蓮葉 識姫であるというもの。整った顔立ちに明晰な頭脳、高い運動神経と良くも悪くも注目を集める彼女の話はすぐに高等部にまで届いていた。
そしてその噂が広まり始めたのとほぼ同時に行方不明となったのが彼女だ。そこそこに人望のあった為に、大小はあれどその安否を案じる声は上がっていた。その中でも特に声が大きかったのが藤村大河だ。そもそも面倒見の良い彼女だが、まだ中等部にいた時分、特に識姫のことを可愛がっていた。放課後の自己パトロール、その末、識姫の逃走能力、そして藤村と同じく幸運EXに加え、"危機"というものに敏感なシェヘラザードの索敵によって、彼女は警察でも届かなかった識姫の行方を手に入れようとしていた。
「逃がっさーん!!」
逃げる理由は知らず、様子を見るに見掛けに反してかなり憔悴している上、相当にややこしい状況に巻き込まれているのであろう識姫を見た時点で、藤村大河という生命体からそれまでにあったありとあらゆる考えは吹き飛んでいた。今彼女の頭の中にあるのは、多方面に心配を掛けたことを叱り、一刻も早く傷付いた後輩を抱きしめ、頭を撫でつつ慰めるということだけだった。
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(しつこいっ!!)
見つかってから、もうかれこれ十数分逃げている。こちらは既に息も絶え絶え、横っ腹が痛くて仕方がないが、あちらは見る限り微塵も疲れを感じさせない。根本的に身体能力、というよりその素養は私と彼女、藤村先輩とでそう違いはない。だが私は最近こそ多少の筋トレなどをしているとはいえ元々持っているものを利用しているだけなのに対して、先輩はその素養を剣道その他諸々で磨き上げている。言うなればただの原石と加工済のダイヤモンド。その差は如実だ。
(若干桜が楽しげなのは重畳だけど……!!)
桜の様子に今度遊園地にでも連れて行こう等と現実逃避しつつなお走る。ようやっと新都を抜け、私達は住宅街にまで来た。ここならばこの時間帯に人通りは皆無に等しい。タイミングを考えれば強化魔術で一気に距離を稼げるだろう。
現在の私と先輩の間の距離は30m程。全力疾走では無いことを考えれば角を曲がってからの猶予はおおよそ5秒程度といったところか。
(次の角を曲がってそこで逃げ切る……!)
曲がり角が見えた。20m、10mと近付き、急カーブ。先輩からの視線が切れた瞬間、私は全身に強化魔術を行使した。瞬間、軽くなる肉体。万が一に備えて発動する時間は3秒。全力で踏み込み、劣化したアスファルトに若干のヒビが入るのを感じつつ加速する。
ゴッ!と生み出された風圧が鼓膜を叩いた。そこに煩わしさを感じながら前方を見据え────
「はぁ!?」
────そこでようやく、私の目の前に川があることに気が付いた。そこにあるのは私の腰程までの高さの柵のみ。このままでは間違いなく私達は頭から川に突っ込むだろう。
「やっっっばいっっ!!」
全力で逆方向に力を入れる。が、強化魔術で生み出された速力はそう容易く相殺できるものでは無い。徐々に減速こそすれどそれはとても間に合わず、勢いを殺し切れぬままに柵の目の前まで辿り着いてしまった。何とか柵に激突する事は避けた。だが慣性の法則が急停止した私の身体を水面へ投げ出そうと働く。
「まずっ、落ちっ……!」
「確保ぉぉお!!!」
斯くして、川に墜落する寸前の私を助けるという形で、私は先輩に捕まってしまうのだった。
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「全く!どれだけ!!心配したと!!!思って!!!!」
「………すいません」
あの後、私達は先輩の実家、要するに藤村組に連行された。桜は女性の組員の方に預けて別の部屋にいる。対して私は先輩の自室にまで連れていかれ、絶賛説教の最中だった。現状、その内容は行方を眩ましたことがメインだ。
正直、気が気でない。いつ突っ込んだ内容を聞かれるか、桜のことを聞かれるか。答えたくないことばかりだし、答えられないことばかり。どうするべきかと頭を捻る。
「ようやく見つけたと思ったら逃げるし!知らない女の子といるし!」
「…………」
「笑顔が消えてるし!今も辛そうだし!」
「…………」
「正直言えば聞きたいことも知りたいこともしこたまありますけどともかく!!」
「うぇ!?」
そんなお叱りの言葉の後、先輩はガシッと私を抱き締めた。
「無事で良かった」
それだけ言って、それ以上追求することも無く、ただ優しく抱き締めてきた。困惑する。よく分からない安心感。緩やかに私の頭を撫でるその手に、何も言わないことへの罪悪感が募っていく。だがそれすらも────
「言いたくないんでしょ?なら無理には聞かないから安心して」
まるで、全て分かっているかの如く、欲しい言葉を欲しいタイミングで言って慰めてくれた。身体のこわばりが消えていく。無意識に逃げ出そうとして入っていた力が抜けていく。張り詰めていた何かが、ゆっくりと解かれていく。
「わた、しは………」
こちらのことなど知るかと言わんばかりに叩き付けられた日常。呑まれてはいけないと分かっていながら、その心地良さに身を委ねてしまう。そうして先輩は問答無用に、私を日常というありふれていた幸せに引き戻してくれた。
「わ、だじ、は………!」
忘れていた筈の暖かさに、私はただ涙を流すことしか出来なかった。
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ひとしきり泣いた後のこと。神速で飛来した羞恥心に精神崩壊しながら、私は出来る限りの話を先輩にした。とはいえその内容にも無数のフェイクを入れているし、何なら話せた内容は全容の内の1割にも満たないだろう。だと言うのに
「まぁとりあえず事情は聞きません!代わりに全部終わったら真っ先に私の所に来ること!!」
「え……」
「返事!」
「あ、はい………」
それだけで、話は終わった。あまりにも簡単に終わってしまったが故に困惑する。本当に良いのか、という考えが顔に出ていたのか、先輩は視線を私に向けながら再び口を開いた。
「私が介入しようのない問題なんでしょ?」
「えぇ、まぁ………」
「なら、全部終わるまで待つしかないじゃない」
それから、先輩はさも当然とでも言うかのように話を続ける。
「そして戻ってきたら心配かけた関係各所皆様方に謝罪行脚に行くこと!よろしい!?」
「………」
それは、許されないことだ。先輩は普通の中にいて、それに何より、私はすでに
「わかりました。その時は、手伝ってください」
「もちろん!」
普通にいる人々が
(────ああ、そういうことか)
少しだけ、ほんの少しだけ、私は征服王の言わんとしていたことを理解した。
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藤村組からの帰路。私は大量の服を持ちつつ、眠ってしまった桜を背に帰路に着いていた。その傍らには霊体化を解いたキャスターがいる。
最後まで泊まれと言っていた先輩だったが、私達は未だ聖杯戦争の参加者。万が一、億が一にでも巻き込む可能性を残す訳にはいかない。結局逃げるように別れてしまったが、私の顔がマシになっていたのか今度は見逃してくれた。
「ねぇ、キャスター」
「はい、なんでしょうか……?」
そうして拠点へ行く道の途中。私はふとした疑問から沈黙を破った。
「なんで、死にたくないの?」
思えば、彼女が死にたくないと思っていることは知っていても、死ぬことを恐れているのは知っていても、何故死にたくないのか、死を恐れているのかを、私は知らない。もちろん、死を恐れるのは生物としての本能だ。だが彼女の死への恐れは、どこかそれだけではないように感じた。
「………」
閑散とした街の中、黙したまま目を伏せた彼女の言葉を待つ。新都から遠く、更には夜遅い時間帯。季節柄虫も存在しない、ただただ静かな空間。しばらくして、ぽつりぽつりと零すように彼女は言葉を紡ぎ始めた。
「私の人生は、何も死に怯え続けるだけのものではありませんでした。大切なもの、尊いと思えるものも、当然ありました」
そこに居たのは、英雄ではなく、人としてのシェヘラザードだった。彼女は千と一に及ぶ夜を物語った人類最高の語り部だ。だが、そうである以前に彼女はどうしようもなく人だった。
「そっか、だから貴女は………」
「ええ、だからこs」ゴッ!!
「………………は?」
言葉の途中、彼女が視界から、凄まじい速度で消え失せた。消えた方向に視線を向ければ、そこには、ガードレールに叩きつけられ、血を吐き気絶したキャスターがいた。
視線を、元の場所に戻す。
────そこには、漆黒の騎士がいた。
「っ!?」
咄嗟だった。持っていた服を全て投げ捨て、その上に桜を投げた。下手をすれば頭を打って大怪我をするかもしれないような行動。だがそれでもそうしなければならない程に、
「ぐ、うぅ………!!」
ギリギリのところで背後に飛び退く。そうして私が元いた場所を一撃必死の規格外の暴威が襲う。着地と同時に右手にサバイバルナイフを投影、全身に強化の魔術を施した。
「桜ちゃんを、返せッ………!」
「クソッ……!!」
不快な羽音と共に現れた男に罵倒を飛ばす間もなくバーサーカーが襲いかかってくる。絶死の偽眼を使っても、避けられるのはおそらくこれが最後。となれば次に仕掛けられれば私の命は無い。視界の端で目覚めた桜の姿を確認し、ランサーを呼ぶよう指示を出す準備を整え────
「あ、え………?」
繰り出された一撃、その初動すら見切れぬままに、私は地面をゴロゴロと転がっていた。腹部に走る激痛。口の中に溢れる鉄の味。その感覚に、私はバーサーカーが何をしたのかを理解した。
(私、が………死なない、一撃…………!)
(ま……ず…………)
意識が薄れゆく。そんな私が最後に見たのは、止まれの標識を掲げたバーサーカーの姿だった。
バーサーカーはそこら辺の標識を引っこ抜いてきてます。
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