リュウノスケェ!!に殺されたショタの姉に転生しました。   作:シーボーギウム

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19.幸福の所在

 冬木市民会館。そこでつい数分前に打ち上げられた「達成」と「勝利」を意味する信号。それはまるで誘蛾灯の如く、この聖杯戦争に参戦するマスターと英霊を呼び寄せていた。

 

 ある者は「救済」を

 ある者は「独善」を

 ある者は「愉悦」を

 ある者は「憧憬」を

 ある者は「家族」を

 

 各々が各々の内に願いを秘め、最後の戦いへと赴く。

 そこに現れんとするは大聖杯。その内の、今は未だ眠る悪の極致は餌を待つ小鳥の如く口を開き、ただ生まれいずる為、糧を待ち続ける。

 

 

 

 

 

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(キャスター、状況は?)

(今から捜索を開始します)

(わかった。そっちはお願い)

 

 あの後、私はキャスターと別れて行動することとした。キャスターには万が一の場合に備えて間桐邸に、私は本命、冬木市民会館に。あちらに桜がいるならそれで良し、いないならば予定通りにことを進めるだけだ。

 

「ごめん、待たせた」

「もう良いのか?」

「全部終わったらいくらでも話せるから」

「ぬはははは!!違いない!!」

 

 途中で合流したライダー達と共に、前方、会館へと続く鉄橋の中心に佇む王へと目を向ける。英雄王ギルガメッシュ。人類最古の英雄にして、ライダーの最後の敵と言える相手だ。

 正直、勝ちの目は薄い。だがゼロでは無い。原作においては残り一度が限界だった王の軍勢(切り札)は、大海魔の召喚が成されなかった事で数度の猶予を残している。それに加えて、ウェイバーによる三画の令呪によるブースト。英雄王のその慢心による隙を突くだけの手札は十二分に揃っている。

 

「ライダー、自慢の戦車はどうした?」

「ちぃとばかししくじってな、だが侮るなよ英雄王。今宵の余はこれまでに比べてもひと味違うぞ?」

「………なるほど、どうやら何の勝算なく(オレ)の前に立ったわけではないらしい」

 

 馬から降り、英雄王と言葉を交わす征服王。正しく最期の会話だ。この後の戦いにて、確実にどちらかが命を落とすこととなるのだから。

 

「アイツら、本当は仲がいいのか………?」

「気が合うんでしょ」

 

 馬上からそう問いかけてくるウェイバーに雑な返しの言葉を投げつつ、眼前の王達の問答を見守る。しかしどういう訳かそれは一度中断され、ライダーがこちらに声をかけてきた。

 

「娘!お前さんは先に行っておけ!!」

「え?」

 

 思わず良いのか?という疑問を込めて英雄王の方へ目線を向ける。しかし彼は沈黙を貫いていた。沈黙は肯定、とするならば許されたのだろう。

 

「じゃあ、私は先に行く。私達の回収よろしくね」

「そこは自力でどうにかするって言うところだろ………」

「移動速度が速い方に頼むのは当然でしょ」

 

 一つ深呼吸。

 

()()()()

「死ぬなよ」

「そっちこそ」

 

 決戦の地へ向け、私は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会館に辿り着き、私は迷う事無く地下駐車場へ向かった。現時点で原作通りの展開ならば、バーサーカーとセイバーはここで最後の戦いを始める筈だ。そしてバーサーカーがそこにいるのなら、間桐雁夜も間違いなくそこにいるだろう。

 

「っ!ビンゴ………」

 

 地下へ降りきったと同時に襲い来る熱波。どうやら戦いは既に始まっていたらしい。煌々と燃え盛る炎と砕け散ったコンクリートの破片が、その激戦の様相をありありと伝えてくる。それだけに飽き足らず、奥の方からは破砕音が鳴り響いていた。

 

(マスター、こちらに桜さんは居ませんでした)

(了解、折を見て令呪で呼ぶからその時はお願い)

(かしこまりました)

 

 タイミング良くキャスターから来た間桐邸に桜はいないという情報。なら、桜が間桐雁夜と共にいるのは最早確定と言っていいだろう。

 音の発生源に向かって走る。根源的な恐怖を誘う音の連続に身体が竦みそうになるのを必死に堪えながら、それでもと足を止めることなく進む。しばらくして、走り続けていた私の目の前を二つの人影が凄まじい勢いで横切った。

 

「っ!?」

 

 衝突により生み出された砂塵と轟音に一瞬足を止める。どうやらセイバー達は私に気が付いていないらしい。ならば気が付かれない内に桜を見つけ出そうと周囲に目を走らせた時だった。

 

()()()()()!!」

「桜っ!!」

 

 助けを求める桜の声に、私は再び駆け出した。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 地下駐車場、そこに間桐雁夜はいた。その傍らには桜もいるが、彼は最早彼女の様子を伺う余裕すら失おうとしていた。

 対して、桜は目の前の男の動向を見逃さないよう警戒しながらも、己の周囲に気を配っていた。彼女が、必ず助けに来てくれると信じて疑っていなかった。耳に劈く金属音と破砕音の並に怯え、目の前の蟲に侵された男の姿に恐怖し、誰一人寄る辺のない孤独感に苛まれ、それでも少女は戦っていた。

 その瞳には涙がある。だがそれはつい数日前まで彼女が失っていたもの。辛い時は泣くということすら満足に行えていなかった少女は、涙を流し、助かろうと、助かりたいと願い、そしてその為に己の道を自ら見つけ出そうとしていた。

 

────そうして悲劇(Fate)は、遂に瓦解する。

 

「お姉ちゃん!!」

「桜っ!」

 

 見つけ出した識姫の姿。声を張り上げ、助けを求める。その声を彼女は聞き逃すことなく桜の元へと駆け出した。しかし、桜の声に反応を示したのは識姫だけでは無かった。

 

「…………」

「っ!」

 

 桜と識姫、その間に立ち塞がるようにして、間桐雁夜は識姫と向き合った。無数の蟲が空を飛び、地を這い、識姫に向けて牙を、爪を向ける。

 

「桜ちゃ…は………渡…ない…………!」

「………それは、お前が決めることじゃない」

 

 彼は、その言葉に疑問を抱いた。間桐雁夜はここに来てその意味すら理解できず、そしてその意味を問うまでもなく、事実として叩き付けられた。

 幼い子供が走る音が、彼の背後から連続する。その音の正体を確かめるために彼が振り返るよりも速く、彼の視界に桜が映る。桜は識姫に走りより、飛び付くように識姫に抱き着いた。そして識姫もまた桜を抱き留め、守るように抱え上げた。

 

「お姉ちゃん!」

「ごめんね、遅くなった」

 

 その光景を理解する事を、間桐雁夜は拒んでいた。有り得ない、許されないと、思考するだけで痛みが走る肉体で、彼は目の前の光景が引き起こされた理由を探す。そうして辿り着いたのは目の前に飛び回っている(魔術)だった。

 

「お、前………桜ちゃ…に何「もうやめてっ!!」っ!」

 

 悲痛な叫び。洗脳、催眠、暗示、どれか分からないが桜に掛けられていたそれが解けたのだと、そう解釈した間桐雁夜は弾かれるように桜を見た。

 しかし、その視線は男に向けられ、冷たく深い拒絶が宿っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「───────────は?」

 

 それは拒絶であり、嫌悪であり、そして否定だった。間桐雁夜のこれまでは全て無意味だった、いや、()()()()()()()()()()()()()()と、逃れようの無い決定を叩き付ける言葉。

 彼の内に、理解が降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫山゛戯゛るなァぁあア!!!!」

 

「おれ゛がァ!どれだげお゛前のため゛に頑張っだど思っでる!?お前゛を助ける゛為にごごまでボロボロになっだん゛だぞ!!?なの゛にッ!!ぞれ゛なの゛にィ゛ィイぃ!!お前ばあァアああァ!!!」

 

 頭を掻きむしり、喚き、叫び散らす男の姿に識姫は即座に桜の目を覆う。そしてそのまま暗示を掛け、彼女を眠らせた。

 

「キャスター、来て」

 

 令呪が光り、収まると同時に彼女の横にキャスターが現れた。二画目の令呪行使。彼女は現れたキャスターに桜を預け、この場から即座に逃げるようにと指示を飛ばした。

 

「マスターは?」

「全部、片付けてから行くよ」

 

 その右手に握られたのは、何の変哲もないコンバットナイフだ。目の前で無数の蟲を使役する魔術師を相手取るにはあまりにも心もとない装備。だが、彼女にはそれで十分だった。

 

「………どうか、ご無事で」

「うん」

 

 走り去ったキャスターを確認してから、識姫は改めて間桐雁夜に目を向けた。この地下駐車場を埋め尽くさんばかりの蟲の大軍。その様に彼女は間桐臓硯との戦いを思い出していた。

 明らかな、間桐雁夜の限界を越えた魔術行使。憤怒に任せた、自身の生命すらを犠牲にした殺意の濁流。それに鋒を向け、瞼を下ろし、そして開いた。

 

 その虹彩は変化する。

 

 そこに悪意は無く、敵意は無く、そして殺意すら無い。ただ、只管に純粋な、()()()という思いだけが、そこにあった。

 

「死ねッ!死ね゛死ね死゛ね死ね死゛ねェえエぇぇエェえ!!!」

 

 蟲の群れが少女に襲いかかる。ギチギチと不快な音を掻き鳴らし、その命を喰らい尽くさんと迫り来る。

 ────しかし、それは決して少女には届かない。

 

絶死

 

 蟲共に叩き付けられる「死」という極大の情報が、その脳の回路を焼き尽くしていく。地を這うもの、空を飛ぶもの、如何なるものでも関係なく、蟲はその命を終わらせていく。それを待つことも無く、少女は走り出した。

 

「悪いけど、死ぬ訳には行かない」

 

 蟲を避け、殺し、彼女は前へ前へと進んで行く。奇しくも間桐臓硯との戦いに似通った状況で、しかしたった一つ、決定的な違いがあった。

 

「桜のために、()()()()()()()()()()()。だから────」

 

 前後左右上下、その全てから襲い来る蟲を意に介すことなく、その意識の全てを目の前の男に向ける。そして彼女は刃を構えた。

 

「────殺すよ」

 

 ()()()()()

 

 不可逆の死が、刃という形でもって叩き付けられた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「……………」

 

 頭と首が分かたれた死体を前に、私はほんの一瞬の祈りを捧げた。感謝など無く、最後の最期に見せたあの身勝手な言葉には憤りを覚える。だがそれでも、その真偽は知れずとも、一番初めに桜を助けようとした人間だ。次の命の平穏をほんの少し祈るくらいは許される筈だ。

 

「…………急がないと」

 

 踵を返し、出口へ向かおうと足を上げた瞬間だった。規則性を持った手を打つ音が背後から響いた。空虚な地下駐車場の中を反響するその不気味な音に私は足を止め、振り返った。そこにいたのは、

 

「お前………」

「素晴らしいものを見せてもらった。私が持ちうる最大限の感謝を送ろう」

 

 言峰綺礼、この聖杯戦争最大の障害となるだろう男だった。奴は口に歪んだ笑みを浮かべている。つまりはそういうことなのだろう。ここで私が桜を奪い返すのも、間桐雁夜の全てが崩れ落ちるのも、全てこの男の台本通りだったということだ。

 

「何故ここにいる」

「丁度、この極上の品(間桐雁夜)に相応しいデザート(間桐桜)を見つけたのでな、今から頂こうという訳だ」

「……あっそう、なら────」

 

「────ぶち殺す

 

 奴が拳を構えるのと、私が刃を構えたのは、ほぼ同時だった。

 





この世界線の言峰はAUOの愉悦講座を受けるのが原作よりちょっと早いので愉悦へのこだわりが原作の同時期に比べて強めです。

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