リュウノスケェ!!に殺されたショタの姉に転生しました。   作:シーボーギウム

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感想、評価ありがとうございます。

すいません、話数が増えました。



20.死

 初撃は、言峰綺礼が先だった。

 

()ッ!!」

「っ!」

 

 視認すら不可能な踏み込みによる急接近からの、人体を容易に砕くであろう拳撃。余波によって生まれた風が識姫の髪を靡かせる。死の予感、それによって、彼女はサーヴァントの攻撃ですら初撃なら避けることができる。ならば、いくら威力、速度が優れていても人間の拳を避けられない道理は無い。

 識姫が避けたことが想定内だったのか、言峰は特に気にする様子もなく次撃を放つ。再び、死の予感。再びその拳を避けたところで、彼女は反撃の刃を向けた。初め、その一撃を言峰は防御によって凌ごうとした。しかし直死の魔眼の前に防御の概念は存在しない。魔術的な要素さえ組み込まれた防弾防刃加工の施されたカソックを、何の変哲もないナイフは容易に貫いた。だが、

 

「っ!?」

「ちっ!」

 

 一瞬の驚愕のみを挟んで、言峰は背後に跳び退った。結果、ナイフは言峰の腕に僅かな切り傷を刻むに留まった。

 

(確か、聴勁とかいう技術だったっけ………銃でどうこうできる相手でも無い。至近距離からショットガンでもパなさなきゃあのカソックをぶち抜くのも無理だ。有効打はナイフだけになるのに直撃させるのが不可能に等しい………どうする…………)

(不可解な回避。明らかに私の動きには反応出来ていなかった。おそらくは未来視かそれに準ずる能力を持っていると見ていい。加えて、防刃加工のこのカソックを容易に切り裂く正体不明の手段………さて………)

 

 一瞬の膠着を挟み、二人は再び弾かれるように動き出した。

 次の激突、初撃を放ったのは識姫だった。放たれた突きは言峰の心臓を正確に狙っている。言峰は身を僅かに逸らし回避、直後拳を放つため右腕に力を込めた。しかしそれよりも速く、何も握られていなかったはずの識姫の左手から刃が閃いた。それは記録によって生み出されたもう一振りのナイフだ。想定外の一撃。しかし武芸者として識姫の数段上を行く言峰は危なげなくそれを回避した。再び、言峰は拳を放とうと構える。今度は妨げられることなく放たれたその拳は、識姫の顔面を狙って突き進んで行く。対して識姫は首を軽く傾けるだけでそれを避け、後方へ飛び退いた。

 

「お前、私を殺していいのか?」

「どういうことだ?」

「英雄王は私の眼をご所望だぞ」

「安心しろ、その問題は既に解決している」

 

 言い終わると同時に、言峰は強靭な踏み込みによって識姫に肉迫する。しかしそれを見越していた識姫は左手のナイフを投げ捨て、代わりに左手に現れた二つの手榴弾を言峰に向けて投擲した。即座に反応した言峰は一つを素手で打ち返し、もう一つを蹴りで吹き飛ばした。

 識姫は打ち返された手榴弾を殺しつつ、その隙に創り出したキャリコの銃口を言峰へ向けた。空中を突き進む弾丸。それを、言峰は咄嗟に取り出した黒鍵で弾丸を撃ち落としていく。弾丸を撃ち落とすほどに削れ、欠け、折れていく刀身。それが限界にまで至った所で、言峰は違和感に気が付いた。

 

(銃撃が止まない……!?)

 

 完全に黒鍵が使い物にならなくなり、それを捨て両手での防御へ切り替えた言峰はその隙間から識姫を覗き見た。そこには両手にキャリコを持つ識姫と、地面に打ち捨てられた無数のキャリコがあった。やっていることは単純だ。片側のキャリコを撃ち終えたと同時にもう片方のキャリコでの掃射を開始し、その間に空になったキャリコを捨て再度投影するというのを繰り返しているだけ。だがそれは魔力消費を度外視し、短期決戦を狙うものだった。

 

(仕方あるまい………)

 

 言峰の狙いは、識姫を殺し、その首を桜の前に持っていくこと。元来の歴史では現時点でキャスターは脱落し、聖杯に召し上げられる魂は一つ多い。だが識姫の存在がそれを狂わせ、その聖杯の顕現を遅らせている。それゆえ言峰は識姫を殺し、その後衛宮切嗣との決着を付ける事を考えていた。しかしここに来ての想定外の苦戦。彼は自身が識姫を見誤っていた事を認め、己に課した縛りを解くこととした。

 結果、識姫は己の心臓に向けて真っ直ぐに伸びる死の予感を感知した。

 

「!?」

 

 咄嗟に真横に飛び退いた識姫が見たのは、自分が数瞬前までいた位置に向けて拳を突き出した言峰だった。そしてその右手の甲、そこにあった令呪が一画消費されている事に気がついた。そしてその右手から令呪を消費した時の微光が洩れ出る。

 

(まずいっ!!)

 

 咄嗟の投影によって、識姫はコンテンダーを創り出し、両手でその銃口を言峰へ向ける。そして、「死」という果てしない情報を男の脳へ叩き付けるべくその眼に力を込めた。

 

 だがそれは、灼熱と共に現れた銀閃によって阻まれた。

 

「あ゛、がアぁああ゛ァア゛ぁああア!!?!?!?」

「なるほど、致命傷に拘り過ぎていたか」

 

 失われた左側の視界。激痛のあまり左眼を覆って蹲った識姫に、言峰はゆるりと歩み寄っていく。コツコツという足音が近付くにつれ、どうにかしなければという考えが頭の中を過ぎるが、それを容易に塗り潰す激痛の波が識姫の行動を阻害していた。

 

「時間があればその苦悶をもう少し味わいたいところだが、急がねばな」

「あ、がっ!」

 

 識姫の首を掴み、言峰は力を込めていく。襲い来る死の予感を感じながら、識姫は何とかその手から逃れようと藻掻く。だが膂力の差は歴然で、力を込めようにも地に押し付けられた体勢では満足な結果は得られない。時が、遅くなる。無数の記録(記憶)が浮かんでは消えていく。

 

(死、ぬ……)

 

 打開策を探し、しかしその全てが棄却されていく。

 

(死…た…く……な……)

 

 意識が薄れ、消えていく。そして────

 

 

ゴギンッ

 

 

────蓮葉識姫は死んだ。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 征服王の勇姿を見届け、「生きろ」というその王命に従ったウェイバーはしばらくその場で立ち尽くしていた。数分して、頭を振り、涙を拭ってからウェイバーは行動を再開する。まだ戦いは終わっていない。呪われた聖杯が引き起こす災害がどんなものかも知れない現状で呆けている暇は無い。

 と走り出そうとした時だった。

 

「ウェイバーさん」

「っ!キャスターか」

 

 上空から掛けられた声に視線を向ければ、そこには眠った桜を抱え空飛ぶ絨毯に乗ったキャスターがいた。しかしそこに識姫の姿は無い。その事について問おうとしたウェイバーだったが、それよりも先にキャスターから桜を手渡される。

 

「先に、桜さんを連れて退避なさって下さい」

「お前はどうするんだ?それにアイツは?」

「私はマスターを迎えに………」

「おい、どうした?」

 

 言葉の途中、弾かれたように会館の方へ目を向けるキャスター。その額を流れ落ちていく冷や汗からして宜しくないものだと察したウェイバー。しかし返ってきたのは煮え切らない答えだった。

 

「分かり、ません………」

「どういう……っておい!」

 

 問い返すよりも先に、キャスターは絨毯を浮上させ、会館の方へ向けて急発進した。不安気な様子を隠すこともなく、彼女は戦地へ引き返していく。

 

(マスター………!)

 

 ()()()()()()()()()()()()。その数瞬の後、念話での呼び掛けへの返答が消えた。何かが起こったことは間違いない。嫌な予感をヒシヒシと感じながら、彼女は全速力で識姫の元へと向かった。

 

 





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