リュウノスケェ!!に殺されたショタの姉に転生しました。   作:シーボーギウム

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感想、評価ありがとうございます。



────それは、生きる意味を探す物語

 真っ白だった。

 

「────」

 

 誰かがいる。何かを言っている。

 

「──」

 

 誰だろう。いや、私は()()を知っている。

 

「───────」

 

 彼女が私に触れた。聞き慣れたはずの、全く知らない声が、私へ問い掛ける。

 

 

 

「貴女は、どちらを選ぶ?」

 

 

 

 愚問だった。答えるまでもない。思考する必要すらない。遥か前から、答えは決まっている。

 

「私は、貴女にはならないよ」

 

 分かりきっていたその返答に、「()」が微笑んだ。

 

 

 

「なら、死んでる暇は無いよ」

 

 

 

 トンッ、と身体が押された。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「────起動(Open)

「っ!?」

 

 驚愕に染まっているのであろう言峰へ手を伸ばす。そうして私の手が何処かに触れた所で、言峰が跳び退いた。どうやら試みは成功したらしい。

 今度は、その手をそのまま己に向ける。完全に未調整の上に初めての使用。当然制御は容易では無く、全身を掘削機ですり潰されるような激痛が襲った。

 

「…………」

 

 まだまだ痛みは残っている。だが折れた首は元に戻り、失われた左眼は再び光を手に入れた。対照的に、右眼の瞼は異様な重さが与えられた。こればかりはどうしようもない。むしろ、今の私の右眼の正体を考えれば死んでいないのが不思議なくらいだ。

 ゆっくりと、左眼を開く。視界の先、言峰の胸部。カソックが、その皮膚が溶け落ちたかの如く消えていた。 そして地面には滴り落ちた血とは別に、不自然に濡れた部分がある。私の右手もまた、濡れていた。

 

「………自分でやっといて言うのもなんだけど、グロいな」

 

 私は今、この手で触れた奴のカソックと皮膚を()()()()()。そして私に、数分前の私を()()した。

 それは、言うなれば衛宮士郎にとっての無限の剣製で、衛宮切嗣にとっての起源弾。私が私であるが故の切り札。

 

 記録錬金(Ars Magna)

 

 「記録」という起源の本質は()()()だ。私が触れたものに、それとは全く別の情報を"上書き"することで、その性質を変化させる。普段の投影も、投影した物品に、より確度の高い記録を上書きすることで本物へ昇華させているのだ。とはいえ今の魔術行使(水への変化)は本来ならば不可能だ。同じ物を上書きするのと、全く別の物を上書きするのでは必要な魔力は段違いに跳ね上がる。今の私は、「()」のバックアップによる数分限りの反則の上に成り立っているに過ぎない。

 

「時間が無い、さっさと片付けないと」

 

 ただ、生きるため。今ひと時の間、私は限界を超える。

 そうだ、さっきは言葉を間違えた。私が言うべき言葉は()()じゃない。だってそれは、いつだって、私が成し遂げようとするための手段なのだから。

 

「是が、非でも」

 

 その死を阻止し、拒否し、否定する。ああ、こんなにも────

 

()()()()

 

 ────私は生きている。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 放たれた拳を掌で迎え撃つ。先程の光景を思い出したのか寸前で止まった拳に向けて、私は変わらず手を伸ばした。その手は空を切る。だがすぐさま掌を地に向けて振り下ろした。

 

「っ!?」

 

 私の手が触れた位置から言峰の周辺に至るまでの地面を水へ変質させる。水深は5m。勢いそのまま深く落ちた言峰を確認してから、その水を鋼鉄へ変質させる。

 

「生き埋めだ」

 

 しかし変質させきる前に言峰が水面から飛び上がった。相変わらず人外じみた身体能力を発揮する様に驚きながら、変質を空気にまで及ばせる。

 大気を、業火へ。一切の予備動作無く現れた炎に流石に対応が間に合わなかったのか、火炎から抜け出した言峰は全身の至る所に火傷を負っていた。

 だいぶ使い方に慣れてきた。もう少し応用するとしよう。

 

「次」

 

 地面を薄く水へ変える。焼け落ちたカソックの端に掌を向け、()()()()()()()変化させる。生み出された電撃が、水へ触れる。

 

「ごっ、が、あぁァ!!?」

 

 全身がずぶ濡れになった言峰の身体を電気が走る。火傷などで剥き出しになった皮膚の下から体内にまで容赦なく電流が流れていく。

 大気を、刃に。生み出したナイフを手に、駆ける。深呼吸を、一つ。

 

「────直死」

 

 銀閃が走る。まっすぐと伸ばされた腕が、その手に握られるナイフが、心臓に向けて突き進む。鋒が、刀身が、言峰の身体へ沈んでいく。

 

 ドスン

 

「………」

 

 ナイフから手を離す。そうするとゆっくり、言峰が背後に倒れた。

 

「…………助かった」

 

 勝った、という意識は微塵も無かった。使った力はその殆どが「私」由来。それにきっと、この男は息を吹き返す。キャスターが生存しているとはいえ聖杯を無理矢理顕現させることは可能な筈。本来の流れに比べればそのペースは遅々としたものだろうが、大聖杯は既にその呪いを吐き出し始めているはずだ。いずれこの地下駐車場も泥で満ちることだろう。

 

「逃げ……なきゃ………」

 

 生き残った安心感からか、それとも「私」からのバックアップが消失したからか、全身を凄まじい倦怠感が襲う。油断すれば即座に気絶してしまいそうなほどのそれに抗いながら、私は外へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 破壊しなければ。全ての人は救えない。ならば少しでも多くの人を。

 

「…………」

 

 会館の中を突き進むうち、彼は頭上を突き破って現れた黒い泥に呑まれた。その中で見た白昼夢。最後の最後に至るまで終わることの無いトロッコ問題の末、その地獄を拒絶した男は、やはり救済の為に歩みを続ける。

 

「…………」

 

 遂に現れることの無かった言峰綺礼の存在に疑問と疑惑を抱えつつ、目の前で虚空に浮かぶ聖杯、かつて己の妻だった物を見据え、その先にいる血塗れのセイバーを確認した。

 僅かな安堵が衛宮切嗣に与えられる。セイバーの宝具ならば聖杯の破壊は容易だ。そしてセイバーもまた、彼の存在に気が付いた。

 

「衛宮切嗣の名の下に令呪を以てセイバーに命ずる」

「────────」

「………は?」

 

 覚悟の下、打開の命令を待つセイバーに向け、彼は聖杯戦争を終わらせる為の命令を下した。その意味を、意義を理解出来ぬまま、星の聖剣のその姿が晒される。セイバーの意に反して振り上げられていく聖剣をどうにか抑えようとしながら、セイバーは己のマスターに向けて問いを投げた。

 

「何故だ!?切嗣ッ!よりにもよって貴方が何故ッ!!?」

 

 その問いへの返答は、無い。なおも無慈悲に、令呪が行使される。

 

「聖杯を────」

「やめろ………やめてくれ…………ッ!!」

 

 懇願は、聞きいられることなく、

 

「────破壊しろ」

 

 その輝きが解放された。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「……………あっ」

 

 突如発生した揺れに足を取られる。立ち上がろうと腕に力を込めようにも、駄目だった。

 

「ま……ず…………」

 

 無理矢理に蘇生した身体はとうに限界で、最早這う力すら残っていない。初めの大きな振動以後、僅かな揺れは今も尚響き続いている。恐らく、初めの振動はセイバーによるもので、続くこれらは流れ落ちた泥が解放されたが故のものだ。

 

(結局、死んじゃうな………)

 

 動くのをやめる。生き足掻くのを、やめる。つい先程まで生き残ろうとしていたというのに、どういう訳か私は現状を受け入れていた。

 

(桜は、ウェイバーがどうにかしてくれるかな。キャスターは……桜と契約すれば現界は保てるかな…………)

 

 死にたくない。だけれど仕方がない。ここまで頑張ったのだから。所詮私はこの世界からすれば異物だ。私が居なくても、世界は続くし、廻り行く。

 

(桜を泣かせちゃうかもな…………)

 

 ここまで助けようとしておいて、中途半端に投げ出すことに罪悪感を抱く。桜はその心に大きな傷を負うかもしれない。だけどきっと大丈夫だ。キャスターが、ウェイバーが、きっとあの娘を立派に育ててくれる。その傷もきっと衛宮士郎(正義の味方)が見逃さない。他力本願で身勝手な想定でしかないが、それでも桜の未来は明るいものになるはずだから。

 そこまで考えて、ふと気がついた。

 

(そこに、私はいないのか…………)

 

 それは嫌だな。

 

「やっ……ぱり………生き…たい……なぁ…………っ!」

 

 結局、私は生き足掻いている。受け入れた?そんな訳がない。そう言い聞かせていただけだ。死にたくなんてない。キャスターの、シェヘラザードの語る物語をもっと聞きたい。桜のことを抱きしめたい。一般などとは言えなくて、通常なんて消え去って、普通などとうに捨て去って、平凡は最早望めなくて、日常は既に程遠くて、それでも私は、この新たに与えられた非日常の中で幸せを掴もうとした。天涯孤独の小娘に、心の疲弊した幼子に、死を恐れすぎる英霊。そんなあまりにも歪な形でも、あの中にいた私は間違いなく幸せだったのだ。

 視界の先、天井を突き破り、柱をくだき、どうしようもない呪いの泥()の濁流が私に向かってくる。せめて最後は少しでも楽に、そう思い、瞼をおろす。意識が、薄れていく。

 

「ごめ……ん…ね………」

 

 誰へ向けた謝罪なのか、自分自身でも分からないまま、私は意識を落とし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「識姫さんっ!!」

 

 ────誰かの声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「………………あ、れ…………」

「お目覚め、ですか………?」

「キャス、ター…………?」

 

 どういう訳か、私は生きていた。全身を襲う倦怠感は未だ激しいものだが、先程に比べれば随分とマシになった。どうやらキャスターが助けてくれたらしい。

 左眼を開く。空には煙が立ち上り、その煙が赤く照らされていた。大災害の真っ只中といった所だろう。そして私がいるのはキャスターの空飛ぶ絨毯の上だ。一先ず泥の影響の無い場所まで向かっているのだろう。そこで、感謝を伝えていないことを思い出した。

 

「ありがとう、キャスター。でもあの状況からどうやっ……て……………」

 

 言葉と共に目を向けたその先に、信じ難い光景が広がっていた。キャスター、シェヘラザードは、全身の至る所が紅く黒い泥に侵され、苦しげな表情でただ前を向いていた。

 

「何………で…………ッ!」

「申し訳、ありません………多少、無理を、してしまって…………」

「そういうことじゃ………っ!!」

 

 叫んでも意味が無いことに気が付き、私は令呪を行使しようと手を掲げる。だがその手をシェヘラザードが止めた。

 

「いけません、それだけは」

「〜〜〜〜!何でっ!?」

「もう、少し……ですから…………」

 

 どういう意味かを問うよりも先に、絨毯が少しずつ高度を下げていく。その後速度も少しずつ下がっていく。しかし完全に止まりきるよりも先に、絨毯が光の粒子となって掻き消えた。唐突に空中に投げ出され、私は疲弊した肉体に鞭を打ってどうにか不完全ながらも受身を取る。しかし重傷のシェヘラザードにはそんな余裕は無かった。ゴロゴロと血を撒き散らしながら転がっていく彼女の姿に、心臓が掴まれるかのような錯覚を覚えた。

 

「シェヘラザードッ!!」

 

 襲い来る痛みすら忘れ、私は彼女の元に全力で走り寄る。改めて見た彼女の状態は、最悪と言っていいものだった。呪いの泥は彼女の身体の至る所を侵し続け、右眼は失われ、右脚は膝から下が消えていた。あまりにも惨たらしい様相に、息を詰まらせる。

 

「どうして………!どうしてこんな無茶を…………ッ!!」

 

 無駄な問いだ。何故?そんなの、私を助けるためだ。その為に彼女はこうして死にかけている。ここまで聖杯の泥に侵されてしまっては治療の余地すらない。

 

「死な、ないで……!やだよ……!まだ聞いてない話も、聞きたい話もいっぱいあるんだ………!」

「すい、ません……それは、少し、難しそうです…………」

 

 流れる涙を気にかける余裕も無く、彼女の顔を見る。そこに浮かぶ表情はとても穏やかで暖かなもので、何故そんな顔をしているのかが、私には分からなかった。

 

「此度の聖杯戦争で、私は、何故、死にたくないのかを、思い出しました………」

 

 微笑みながら、彼女は泥に侵されていない左手で私の頬を撫でる。その仕草があまりにも優しくて、私はその手を握って、ただ彼女の言葉を聞くことしか出来なくなった。

 

「私は、例え仮初でも、偽物でも、あの幸福を、失いたく、なかったのです」

「でも、また、死んじゃう………!」

「ええ、ですが、私は、サーヴァントですから………」

 

 彼女の手から、力が失われていく。その死の訪れを感じさせる。逸る心を押さえつける。彼女の言葉を、一言一句聞き逃す訳にはいかない。

 

「識姫さんも、桜さんも、亡くなってしまえば、終わりです………でも、私は、私なら、取り返しが、つきます」

「どう、いう…………」

「簡単、です……いずれ、また、私を召喚して下さい………」

「っ!?でもそれは………!」

 

 その、彼女の願いを根底から覆す言葉に、耳を疑った。

 

「死にたくないのは、事実です………ですが、それ以上に、私は、貴女達と、生きていきたい…………」

「うん……!うん……!!」

「識姫さんのことを、放っては、おけないですしね…………」

 

 少しずつ、少しずつ、彼女の身体が解けていく。

 

「約束する……絶対!必ず!また、貴女を喚ぶから!だから………!その、時は………!」

「ええ、物語の続きは、その時に…………では、結びとしましょう────」

 

 

────今宵は、ここまで────

 

 

「あ、う、あぁ…………ッ!!」

 

 その言葉を最期に、ふわりと微笑みながらシェヘラザードが消えていく。もっと別の道はなかったのか、あの時違う選択をしていれば彼女は死なずに済んだんじゃないかと、無意味な問いが浮かんでは消えていく。辛くて、苦しくて、悲しくて、哀しくて、悔しくて、それでも私はその感情を押し込めて、己の背後へ眼差しを向けた。

 そこには、緩慢ながら未だに止まることなく地獄を広げようとする紅黒い泥の波があった。孔が閉じてなお、この泥は無慈悲に、理由なく命を奪い続けている。

 そうだ、この惨状は防げたものだ。だからまだ、やるべきことがある。

 

「この結果は、私の自業自得だ。だからこれは…………」

 

 全身全霊の八つ当たりでもある。

 懐にしまっていた、英雄王から下賜された、無駄に豪華な装飾が施された瓶を取り出す。その蓋を開け、一気に飲み干した。カッと、胃が熱くなるのを感じながら、私は右眼を開いた。

 蘇生の後、私の左眼から()()()()()()()()()()()()()()。だが直死の魔眼は問題なく使える。それは、眠っていた分も含めて直死の魔眼に関わる全ての力が私の右眼に収束したからだ。

 

魔眼、臨界

 

 その輝きは、黄金では到底及ばず、宝石など敵うはずも無く、虹程度では届かず、()()()()()()()()()。例えるならそれは

 

「  」の魔眼

 

死ね

 

 言葉と同時にピシリという音と共に、右眼からヒビが走った。そして聖杯の泥は、私の視界の外に至るものまで含めて全てが消し飛んだ。

 一瞬の激痛と、それが凄まじい速度で無くなっていくのを感じながら私はその場に倒れ込む。意識が薄れていく。

 

「私、は………」

 

 その意識の中、私は言葉を紡ぐ。終ぞ口にする事の無かったその言葉を。

 

 死にたい、などでは無い。

 死にたくない、では足りない。

 生きてみよう、でも届かない。

 

 そうだ、私は────

 

「────私は、()()()()()()

 




ここまでご愛読、ありがとうございました。
まだまだ続きはありますが、こうして区切りまで書ききれたことすらないハイパー飽き性の自分がこうしてここまで続けられたのは沢山の感想、評価、お気に入り登録のお陰です。
この後エピローグと幾つか閑話を挟んだ後で第五次聖杯戦争編へ行きます。もしよろしければ、今後もよろしくお願いします。
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