僕の話をするとしよう
僕の話をするとしよう。
それは、本来ありえない物語、そしてもう終わった物語。
物語は一人の少女が一本の剣を引き抜いたところから始まる。
星の内海にて結晶化し、星によって鍛えられた最後の幻想。
その剣を引き抜くことの意味を少女は知っていた。
だが少女は迷うことなく剣を抜き、王に選定された。
少女が剣を抜く、それが汎人類史とは違う点だった。
少女は夢魔と人間の混血であり、最高位の魔術師でもあった。
その証として少女はちょっと特殊な目を持っていた。その目は、世界を見通す目だった。その目を持っている少女にとって世界はただの物語にすぎなかった。
物語には、あらゆる真実が描かれていた。そこには多くの悲劇が多くの絶望がそして多くの愛と希望があった。
そんな物語を見て少女は、この物語はいつ終わるのだろうかとのんきに考えていた。
永遠もなければ停滞もしない、ただ永久に変わり続けるだけの世界に少女は端的に言うと飽きていた。少女は、この美しい紋様を描く物語の終わりを知りたかったのだ。
そして、ある時終わりを知る方法を少女は思いついた。
「僕がこの物語を終わらせればいいのでは」と。
それからの行動は早かった。選定の剣をサクっと抜き、王になった少女は国を作りあげた。
そして、その国に訪れた白き竜の化身を少女は剣と魔術をもって一人で滅ぼした。それからも数多の困難が数多の厄災は襲ってきた。
だが、それら全てを少女は一人で乗り越えた。襲ってくる外敵はなくなった。そして少女は持ちうる魔術を民に渡した。民は、長い時間をかけて寿命を克服し不老不死になった。
人類は一つ上のステージに達したのだ。そして、彼らは平和を享受した。彼らを脅かすものはそこにはなにもなかった。誰もが平等に生き、誰も傷つける必要もない、誰もが幸せな理想郷がそこにはあった。
かくして物語は少女が望んだようにめでたし、めでたしで終わった。この世界における物語はここで完結したのだった。
うん。ここまでがこの僕、世界を終わらせた終末王マーリンの物語だった。
そして、この物語は当然のように切り捨てられた。まあ、考えてみれば当たり前。この物語は完成してしまった。
ここから発展する余地がない。可能性がない。そんな世界をこの宇宙はゆるさない。そんな結果に僕は満足していた。僕は終わりを求めていた。目的が達成されたのだからもう望むものはない。
そのはずだった・・・
物語の終わりは
その世界では物質の均等化が進みすべてのものが同等の価値として扱われた。それは、黄金と道端に落ちている石が同価値であるということだった。
そして彼らは、望むだけでありとあらゆるものを手に入れられた。そのため、彼らの中に希少性という言葉は存在しなかった。故に彼らに独自性というものはなく、個というものが生まれなかった。
個というものが生まれないということは、争う必要がない。だから、敗者は生まれず勝者も生まれない。平等社会があり、競争社会という概念はない。
そう、彼らは幸せだった。闘争もなく、外敵もなく、差別もない世界で生きる彼らは不幸というものを知らなかった。
故に、彼らは幸せとしか思えなかった。
この結末を僕は気持ち悪いと思った。彼らは考えるということを忘れていた。彼らはただの家畜になり果てた。
鳥籠に閉じ込められ、
僕は多くの戦いに勝利し、多くの人を救ってきた。
だから、僕はこのままだと世界が終わることを知っていた。知っていて終わることを受け入れた。その選択をしたことで多くの人に恨まれることも受け入れていた。
なのに、この結末は何だ。世界の終わりとはこんなにも地獄に満ち溢れているのか、あの美しい物語はこんな結末で終わるのか。
これはない、こんなはずじゃなかった。こんな終わりを僕は求めていたんじゃない。
世界が終わるのは分かっていた。でもそれは、こんな地獄のような終わりではなくもっと素晴らしい終わりだと信じていたのに。
こんな結末なら永久に続く物語を眺めている方がよかった。
いつか来たる終末がこんな気持ち悪いものであるとは僕は認めたくなかった。
だから僕は、終わった世界からいまだ続いている世界を観測することにした。
僕では、ハッピーエンドに導くことができないと知っていたから、ただ探すことしかできないから他人任せにすがることしか僕にはできないから。
より良い終わりをより良い結末をより良い終末を見つけるために僕は観測し続けた。
幸いその手段は僕の目にあった。長い時間の末、僕の目は平行した世界の終わりまで見られるように成長していた。
そしてある時、1つの世界を見つけた。それは、白き遊星が飛来した時代より本来の歴史から分離した世界だった。
その世界は自業自得の終わりを迎えていた。だが、僕はそこで興味深い物を見た。
その世界は一度終わっているはずの物語、何も存在しない世界だった。なのに、その物語は続いていた。何もなかったはずの世界がより鮮やかにより強固になっていった。
それをなしたのはただ1人の少女だった。彼女は何度否定されようと歩み続け、何度挫折しようと立ち上がった。
その結果、美しく素晴らしくより良く繁栄していった。そして彼女は、その過程で運命に出会った。その運命は、彼女の夢を捨ててもいいと思えるほどの出会いだった。
何もかもがうまくいき始めていた。信頼し合える仲間ができ、彼女の世界に平和が訪れようとしていた。
だが、またもこの世界は終わりを告げた。ただ自分は気に食わないからという理由だけで世界を滅ぼした。しかし、彼女の物語は終わらなかった。彼女は、空想樹の魔力を利用し世界を作り直した。
そして、風と土と生命、歌と雨に愛された理想郷、絶対的な王となった彼女の下、円卓が守護する妖精國を作り上げた。
実際は、過去も未来も顧みない邪悪な妖精で満たされた世界だったとしても彼女が作りあげた物語は僕の心を刺激し、記憶に残り続けた。
はじめは終わった物語が続いたことの好奇心だった。それが今では、終わりに執着していたこの僕が彼女の過程に見とれていた。何度でも立ち直り、どんなことがあっても諦めない。それは僕にはなかったものだった。僕はそんな彼女に憧れ、いつの間にか彼女のファンになっていた。僕は、本来の目的を棚に置き、彼女の物語を見続けた。
だが、彼女の物語も終わりを告げた。彼女の失うことができなかった善性と必然の裏切りによって終わってしまった。なぜこうなったのかは僕にはわからない。ただ悪い方、低い方、安い方へと誘導する誰かがいるのではないかと思えるくらいに奇麗に終わった。僕は焦った。このままでは、彼女の愛したものまでも惨たらしく終わってしまう。僕は終わることを恐れた。誰よりも終わりを求めていたのにも関わらず。
僕はここにひとつの決断を下した。
少しだけでいい彼女の愛したものに少しだけ幸福が訪れるように、僕は今一度行動すると。
僕は玉座から立ち上がると妖精國に向かう準備を始めた。長髪の白く虹色に輝く髪を整え、質素ながら魔術が付与された白色のローブをまとい、黄金に輝く剣と愛用の杖を持つと鏡の前で、くるりと回った。
ピンク色の全てを見通す目でおかしなところがないか確認すると、彼女が愛したものを救うために迷いなく、てくてくと歩き始めた。
次回はマーリンがたどり着いたら