終末王マーリンとブリテン異聞帯   作:ラビシアの人

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ソールズベリーお茶会事件

 ソールズベリーにて、僕はのんきにオーロラとお茶会をしていた。お茶会は和やかな雰囲気で進んでいたが、連れてきた妖精騎士ランスロットは落ち着かない様子だった。

 今の話題は、僕の世界とソールズベリーを繋ぎたいということであった。

 

「まあ、そんな所があるのですね。このブリテンには、戦えない弱い妖精もたくさんいます。その子達の居場所が保障されるのならこれ程素晴らしいことはないわ」

「それなら、了承してくれるということでいいね」

「ええもちろん。いつか私も行ってみたいわ」

「ああ、もちろん歓迎しよう。楽園は誰に対しても平等に開かれている」

 

 彼女の性格からして、了承してくれることは分かっていた。これで妖精騎士ガヴェインとの約束は果たしたと言える。その後、オーロラの風の報せで、ソールズベリーと僕の世界がつながれ避難場所になると言ったことが伝えられた。

 

 「ところで、そこにいる王子様についてなんだけどね。僕のことを襲ってきたんだ。まあ、何とか抑えること出来たのだけれどね。それで、なぜ襲ってきたのか理由を聞きたいんだけど答えてくれないんだ。何か知っていることはないかい?」

 

  妖精騎士ランスロットは、オーロラの傍で騎士のように佇んでいた。だが、その目は僕を批判しているように感じた。

 

 「そんなことが、ですが私には心当たりがありません。お役に立てずにごめんなさいね」

 「ふむ、それじゃあ終末王という単語の心当たりはないかな」

 「それなら、存じておりますわ。貴方の事ですよね」

 「・・・なぜそれを知っているのかな?その名は、僕の友人しか知らないはず」

 

 僕は、このブリテン異聞帯に来てから一度も終末王と名乗ったことはない。なのに彼女は、僕のことだと知っていた。この矛盾がブリテン異聞帯を導く鍵になるはず。

 

 「私は、風の氏族の長です。戦う力はありませんが噂話を聞くことが出来ます。それで、どこかの誰かが言っていたのを聞いたのでしょう。そういえば、この話をメリュジーヌにしたような気がするわ。それで、終末王という単語を聞いて早とちりしたのね。終末王は、世界を幸福に導いた素晴らしい王様だって聞いていたのだけれど」

 

 うん、これ以上聞いても無駄だね。たぶん、彼女はもう覚えてもいないし気にしてもいない。それにしても、世界を幸福に導いた素晴らしい王様ね。なんて痛烈な皮肉なのだろうか。これを言った人は、途轍もないひねくれもので僕を知っている人物だ。

 

 そんな話をしていると、コーラルという妖精が部屋に入ってきた。

 

 「オーロラ様ご報告があります。モースの大群が突如としてソールズベリー周辺に現れました。現在、戦う勇気のある妖精と人間が出陣の準備をしています。後は、号令があれば動くことができるでしょう。また、力の弱い妖精達や、モースの毒に侵された妖精は養育院にて保護しました。マーリン様の準備が出来次第、避難を開始したいと考えています」

 

 やっぱりおかしい。厄災が動き出すにはまだ早いはず。それも、先ほど避難所に指定したばかりのソールズベリーをピンポイントに襲撃している。こちらの行動が予測されているのか、それとも偶然か。いやこれは偶然ではないな。

 

 「養育院?そんな施設、ソールズベリーにあったかしら?」

 「…オーロラ様が16年前に命じて造らせた。人間の子供たちを育てる施設です。6年前から放置していましたので、今回、私の一存で使わせていただきました」

 「ああ、あの小さなお家!可愛くできて、とても気に入っていたの。でも、ほら…なんて言ったかしら、灰色の髪をした人間の子。あの子を捨ててから、ちょっと行きづらくなってしまって…」

 

 パーシヴァル。選定の槍に選ばれた少年。そして、オーロラに捨てられ、妖精騎士ランスロットの義理の弟のような存在。もう長くは生きられない人工予言の子育成計画の被害者。そんな彼の話をするオーロラを見つめるメリュジーヌの姿はやけに痛々しかった。

 

 「準備ならもう出来ているよ。養育院のところに、僕の世界とこの世界を繋ぐゲートを作っておこう」

 「ありがとうございます。ただ、周囲の森に住んでいる妖精も救援を求めています。また、ソールズベリーの内部にも、モースの呪いにかかった妖精も多く、今後のことを考えると北の妖精が持つモースの呪いを治療する術や、グロスターやロンディニウムから人手の応援を要請したいと考えています。そこで、連絡を取ってもらえませんか」

 「どうして?モースの呪いにかかった妖精は殺してしまえばいいでしょう。そのために、人間の兵を育てたのだから。それに、周囲の妖精達は大丈夫です。彼らは町ではなく、見すぼらしい森での生活を選んだのですから、きっと自分達で何とかするでしょう。私達は、ソールズベリーの平穏を守っていきましょう。そうすれば、多くの人達が安心して避難できるわ」

 

 妖精は、誰もが利己的な生き方をしている。善人も悪人も社会正義より『自分の愛』を一番に考え、行動している。なのでどんな善人でも当然のように他人を傷つけ、どんな悪人でも愛のために自分を捨てる。オーロラにとって重要なのは、大勢に愛してもらうこと。彼女にとって自分自身を愛さないものは必要のないものに成り果てる。

 

 「オーロラ様…何を仰るのです?確かに人間は下等生物ですが、彼らにも心があります。それにせっかく、厄災に対抗するために妖精と人間が手を取り合っているのです。そんなことをしたら…。それに、外の妖精達を見捨てるのはあまりにもーーー」

 「だいじょうぶ。時間が経てば何もかも収まるのよ、コーラル。だから、それまで落ち着いて過ごしましょう?」

 「何もしないということですか…」

 

 ブリテンで最も無垢な簒奪者。彼女は動かない。取り巻きだけに行動させて、目的を成す。きっとこのまま何もしなければ何もかも収まるという言葉は真実だ。ただ、それは全て滅びるという終わりであり、僕の望むものではない。

 

 「何もしなかったら。君を愛してくれる人もいなくなる。ここは、助けるという選択をした方が僕は良いと思うな」

 「そうなったら、貴方の世界に連れ出してくれるのでしょう。今は、このブリテンより、汎人類史よりそちらの方が興味があるの。人の到達点と言われる理想郷。きっと素晴らしい世界なのでしょうね」

 

 「ーーーなんて?」

 

 妖精騎士ランスロットの声が響く。コーラルはただ絶句していた。

 

 「君にとってもうこの世界は意味のないものなんだね」

 「あら?危ないなら逃げるというのは当然のことだと思うのだけれど」

 

 妖精騎士ランスロットがうつむいて答える。

 

 「…それは、当然ではない。きみは考えることをやめたんだ。それにきみを信じて集まった妖精たちを世界を見捨ててどうするつもりなんだ」

 「もうアレらはいいの。だってもっと楽しいものを見つけたのだもの。こんなつまらない退屈な世界良いきっとずっとマシなはず。だって、完璧で憐れな人間達の世界ですもの。もっと簡単に理想の世界を作れるわ。勿論あなたも来ていいのよ。さっきもマーリンが言っていたでしょう。楽園は誰に対しても平等に開かれているって。手を出して、私の手を握って新しい世界に行きましょう?」

 

 オーロラは手を彼女に差し出した。

 

 「それはーーー。…それは、確かに僕が望んでいるものだ。きみはまた、無自覚に鱗粉を撒くのだろう。…無自覚であると自分にさえ言い聞かせ、同じように」

 

 静かに、考え込む。そして彼女は顔上げた。

 

 「オーロラ、僕は、きみを愛している。きみが信じていなくても、きみにとってどうでもいいとしても、愛している。たとえ、どれほど君が邪悪でも、きみの望みは、全て叶える。」

 「え、そう、そうなの!あなたが何を言っているのかわからないけど、そう!じゃあいきましょう、新しい世界へ!素敵な日々が始まるわ!」 

 

 そして彼女は手をーーー

 取らずに剣を彼女に突き立てた。あたりに血が撒かれ、血だまりが出来る。そして、オーロラは地面に倒れ伏した。

 

 「どうしてーーー」

 

 困惑の声がコーラルから漏れる。

 

 「……わけないだろう。……そんな、わけないだろう……。そんなわけないんだよ……!」

 

 力強く彼女の言葉を否定する。その表情は鬼気迫るものがあった。

 

 「君はこの世界でしか愛されない…。きみはここでしか一番になれないのだから…!理想郷は全てが平等で一番というもの自体がない。汎人類史でも、君が害悪であるコトに気づかれて排除される。そんな世界できみが生きて行けるとでも?きれいな水がなければいきていけないきみが!」

 「ーーー」

 「その翅も、姿も、すぐに色あせて衰える!ーーーそんなこときみは耐えられない。自分を愛せなくなった絶望する。それでも自分を騙し生き続け、鏡を見るたび死んでいく。それは、…そんなことは」

 「だから殺したというのですか…!」

 

 ピンク色の翅を震わせて、コーラルは批判するように言った。

 

 「どんな理由であれ、殺すという選択は身勝手なものです。そんな選択をした貴方は身勝手な妖精もどきです。貴方なら、私には取ることすら出来なかった選択だってできたはず。なのにどうして」

 「愛していたから。ただそれだけだよ。愛が現実を歪めた。その一例の結末がこれだ」

 

 例え、愛を失おうとも、愛する人のために、愛する人を地獄に行かせないようにした。でも、その愛はオーロラには届かない。理解されない。それは、悲しい終わりだ。

 

 愛を失ったことによって、メリュジーヌと名付けられた妖精は、竜の亡骸へと堕ちていく。厄災に成り果てるのも時間の問題だった。

 

 「だけど、この結末を僕は認めない。それに、誰かさんによると僕は世界を幸福に導く王様らしいからね。その役目に殉じるとしよう」

 

 まだ、彼女は厄災にはなっていない。ならば、救うことは可能だ。

そして、僕は一つの魔術を使う。

 

  

『決戦魔術式・英霊召喚起動』

 

 

それは、本来なら人間によって築き上げられた文明を滅亡させる大災害、人類悪を滅ぼすために最高峰の七騎を呼び寄せる魔術。だけど今は、厄災になろうとする妖精を英霊という枠組みに抑え込もうとする魔術だった。

 

 言うなれば、冠位作成。

 

 その魔術は、彼女を優しく包み込み純白の妖精であり、竜でもある姿に落とし込んだ。

 

 「良かった。成功率はそんなに高くないと思ってたけど何とかなったね」

 

 彼女は自分自身の変わった姿を見まわした。

 

 「なぜ、助けた。僕には、もう生きる理由なんてないのに」

 「このまま厄災になられたら、僕が困る。それに、まだ終わっていない。ならば、最後まで足掻くのが君の役目だ。僕は君の終わりがもっとより良いものになることを願っているよ」

 

 僕は、オーロラの治療を始める。だが、これはただの延命に過ぎない。たとえ完治したとしても、ブリテンが滅びてしまえば彼女は助からないのだから。

 

 「さあ、いきなさい()()()()()()()()()()。自分自身が納得できる終わりのために」

 

 羽ばたく音が聞こえる。空気の壁を切り裂き、その竜は飛翔した。天と地を分ける境界を進み高く高く舞い上がる竜は、どこまでも身勝手で美しいと感じた。

 

 「さて、世界と世界を繋ぐとしようか。そのあとの避難誘導はコーラル、君に任せる。後モースのための軍も派遣していい」

 

 空の彼方の竜を見つめていた彼女は、はっとした様子で僕に向き直る。

 

 「オーロラ様はどうしますか?」

 「一命はとりとめた。ベッドにでも寝かせておけばいいだろう。後は、王子様が何とかしてくれる」

 

 微笑みながら空を見上げる僕に追随するように彼女は空を見上げる。すでにかの竜はそこにはいない。

 

 この世界の滅びは避けられない。オーロラの命を救うことはできないだろう。それでもそこには希望があることを僕は信じ続けるのだった。

 

 

 

 

 多くの魔力を消耗した。人理のないところで英霊を召喚し、聖剣を振るった。冠位を作ると言う偉業を成し、世界と世界を繋げるゲートを作った。オーロラを治療し、力のない妖精達を僕の世界に避難させた。

 

 でも、まだやるべきことがある。だから、僕は急がなければならない。そんな、焦りを見抜かれていたのだろうか。

 

 僕の視界外の攻撃。それは、不可視にして不可避の攻撃だった。僕の後ろからナイフが突き立てられる。それは、女王モルガンが対マーリン用に用意した夢魔殺しの短剣だった。

 

 短剣を突き立てた犯人を僕は見ることができない。だが、僕はこの懐かしい気配を知っていた。

 

 「ヴォーティガーン…」

 

 その言葉を最後に、僕の意識は深い闇に堕ちていった。

 




 マーリンが死んだ!このろくでなし!

 

 
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