魔法科高校の優等生(仮題)   作:Aruka

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今回もあんまり進みませんでした。
申し訳ありません。


第四話

 

 

 

 あの日桐原が起こした剣道部との不祥事。

 桐原を連行する際に、また一騒動あったのだが、咲は怪我をしている桐原を保健室に運んだために、その後に起こった騒動の渦中にいなかった。

 咲が話に聞いたところによれば、剣術部十人以上を相手に達也が大立ち回りをしたらしい。

 

 その日の最後に、部活連会頭である十文字や風紀委員長の摩利、生徒会会長の真由美ら三名に、達也と咲の二人で事の経緯を説明し、桐原は厳重注意という形で騒動の幕を引いた。

 

 

 

 

 そして新入生の勧誘期間は終わりを告げた

 咲にとってのこの期間は、概ね波乱はなく(といっても何度か逮捕者を連行したのだが)過ぎ去っていった。

 もう一人の一年生風紀委員である達也は、この一週間で何度も事故に見せかけた魔法攻撃を受けたり、剣道部の先輩にアプローチを掛けられる、等波乱しかなかった、と言えるだろう。

 

 達也が魔法攻撃を受けた、という事を咲は聞いていた。

 それでも、達也なら大丈夫、そう思い特に行動を起こすことはなかった。

 信頼からくる言葉でもあった。

 それにもし達也に攻撃を当てる事ができたのなら、それは犯人の実力が高い事を証明すると同義である。

 それほど高い実力者なら数はかなり限られてくる為、犯人を特定しやすくなる。など、色々と咲にも思惑はあったが、達也の出来事に介入しなかった一番の要因は、大きく波乱がなかったとは言え、他人の面倒を見てられるほどの余裕がなかったからだろう。

 

 ただ武力で押さえつけるだけだったなら、簡単だっただろう。

 しかし、風紀委員として捕らえた後の事後処理や、提出する報告書の作成、といった普段全くやり慣れていない部分が、咲の武術で鍛え上げた無尽蔵な体力を容易に削りとっていた。

 咲の学力は低いわけではない、学年の平均より僅かに上、といった具合だろう。

 ただ今まで人生の大半を武術や魔法等に費やしてきたのだ。闘う事に特化している咲にとって、事務仕事という壁は、打ち破ることが困難な強大な敵へと進化していたのであった。

 

 

 

 

 咲の登校時間は早い。毎日の早朝鍛錬をこなす彼に遅刻とは無縁のものであった。

 早いとは言っても教室の中に全く人がいないというわけではなく、何名かはすでに登校しているクラスメートの姿を見かける。

 一限目のカリキュラムまで時間は大分残っている。

 それまで友人たちと雑談に花を咲かせたりするのが、一般的な学生の姿であるのだろう。

 咲も普段であれば、その一般学生の例に漏れることなく、雑談に花を咲かせているのであるが、まだ仲の良いクラスメートが登校してくるであろう時間を、時計の針は指し示していなかった。

 

 それから五分ほど端末に目を通していたのだが、一旦端末から目を離し、目の前を通る登校してきた女子生徒二人組に、いつも通り挨拶をした。

 

 「おはよう、北山さんに光井さん」

 

 既に習慣になりつつある挨拶に、雫とほのかもいつも通りに挨拶を返す。

 

 咲の後ろの席に雫の席があり、さらにその後ろが深雪の席である。

 初日こそ話すことはなかったが、校門で起こった事件の際に仲良くなった。

 それから雫の父と咲自身が既知の間柄でもあることが判明したこともあり、咲と雫たちは予鈴の時間まで雑談することが、一日のサイクルに組み込まれていた。

 

 

 「沖田君、昨日は凄かったらしいね」

 

 問いかけてきたのは雫だった。

 話す声や顔の表情が乏しい雫であるが、なんとなくその声には労わりが感じられる。

 

 昨日の事といえば咲の心当たりは一つしかない。雫の言っている凄かったことと、咲の心当たりは同じであることは明らかであった。

 

 「雫、それって私も知ってる事?」

 

 ただほのかはその事にいまいちピンときていない様子で、首を傾げている。

 

 「ほのかも昨日聞いてた筈......」

 

 知っている筈の事実に首を傾げているほのかに、雫も首を傾げていた。

 

 その微笑ましい光景を目に入れながら、咲はほのかに伝わるように昨日の出来事を振り返った。

 

 「北山さんの言ってた事と合ってると思うんだけど、それってマーシャル・マジック・アーツ部のことだよね?」

 「そう、それ」

 「えっ! あれって沖田君のことだったのっ!?」

 

 どうやら雫は昨日のことを咲の出来事だと認識できていたようだが、ほのかはそれができていなかった。

 今回の場合ほのかの方が一般的な反応であろう。

 雫は父から沖田家が武術一家であること、それに咲自身が高名な武術家である事を聞いていた。

 それが雫とほのかの認識の差に繋がったのだ。

 

 

 昨日の放課後に雫とほのかの耳に入ってきた噂はこうだった。

 

 『マーシャル・マジック・アーツ部全員が頭を下げて、新入生を勧誘したらしい』と。

 

 マーシャル・マジック・アーツとはUSNA軍の海兵隊にて開発された、魔法を併用した近接戦闘技術である。

 それを生業とする部活が、文字通り『マーシャル・マジック・アーツ部』である。

 

 部の構成メンバーは全員が男であり、それもかなり体格の良い人が大半。

 そんな男たちが列を成し、威勢よく頭を下げ、恐らく部活の代表者である人物がその体格にふさわしい大きな声で言った

 

 『是非我が部に入部していただけないでしょうかっ!!』 

 

 それは噂にもなるだろう。

 恐らくは同じ風紀委員であり、マーシャル・マジック・アーツ部に所属している沢木が、咲の存在を伝えたのだろう。

 

 咲が武術家であることを知っている人間は、校内では限られてくる。

 だが眉唾物の逸話を幾つも残す『少年武術家』の話は、その筋の人間には割りと有名なのだ。

 もしその人物が入部してくれれば大会は優勝が確実、大会にでてくれなくても同じ場所で時間を過せば、得るものはかなり大きい。

 羨望や打算等色々な思惑が混じった結果が、あのような勧誘になったのである。

 

 

 雫も父から聞き及んでいた咲のことをほのかに説明しているが、どうやら短い期間ではあるが出来た今までの咲のイメージと、高名な武術家としての咲のイメージがうまく結びつかない様子で、ただ雫に言われたことを、漠然と飲み込んでいるだけの様であった。

 

 「......なんか今までのイメージとうまく結びつかないけど、沖田君実は凄い人だったんだね」

 「ほのか、気持ちは分かるけど、それは沖田君に失礼」

 

 雫のフォローと無自覚の鋭い口撃を受け、いつも通りに周りから感じるあまり好ましくない視線もついでに受けとめる。

 その原因も分からなくはない。

 学年でトップクラスの成績とルックスを持つ二人を両手に話をしているのだ、男子生徒の視線の意味も理解できる。ただ普段の状況に比べれば、まだまだこの視線は序の口だろう。

 ここに、全ての人がトップと認める成績とルックスが備わった深雪がここに加わることを考えたら、今とは比べ物にならないくらい視線は濃くなることは容易に想像出来る。

 それでも深雪に無理やり話しかけたりしてこない辺り、彼等も少しは学習したのだろう。

 

 

 時間が経てば登校してくる生徒も増えてくる、その中にはもちろん深雪も含まれる。

 深雪が扉を潜り、咲に一瞬視線を合わせた。

 

 最近では咲に対する深雪の口調は、同姓の友人に接するように、大分砕けたものになってきた。

 その事は咲にとって好ましいものではある。

 ただ遠慮がなくなったと言うべきか、時々達也と同じ血が濃く流れているのを、改めて確認してしまうような(深雪本人には褒め言葉として取られてしまうだろうが)、人の悪さが出てくる部分もある。

 だが、それもすらも美徳に変えてしまうのは深雪だからこそ、なのだろう。

 

 まもなく三人の会話が四人の会話に、変化する。

 

 当たり前だが咲も歳相応の感情を多く持ち合わせている。

 美少女である三人と会話をするのは、とても楽しいことであることは間違いない。

 

 ただ、その代償といってもいいだろう。

 咲は大きな大きな問題を抱えている。

 

 沖田咲にはクラス内で同性の友達がいない。

 

 

 

 深刻な問題であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 咲は珍しくその日、深雪・雫・ほのかに誘われて一緒に昼食を取っていた。

 エリカからは既に連絡が届いている。

 今日は居残りで課題をやる、ということは知っていたので、食後は届け物があるからそれまでで良ければ、と条件付きで誘いに了承した。

 

 

 

 

 「お兄様におつかいを頼まれたのだけど、一緒に来る?」

 

 食事が終わった直後に深雪の口からそんな言葉が出てきた。

 おつかいの内容を聞いてみれば、居残りで課題をやっている友人たちにお昼を届けに行く、とのこと。

 咲の届け物と深雪のおつかいの目的は同じであることが判明したので、雫とほのか、両名と一緒に深雪に同行する事にした。

 

 

 

 

 咲が扉の内側に足を踏み入れた時、達也がエリカとレオに『あと一回で終わらせる』とプレッシャーを掛けている瞬間であった。

 エリカに声を掛けるべきか悩んだが、静謐な佇まいで集中力を高める姿を見て、心の中で応援することに決める。

 

 

 

 

 「ようやく終わった~」

 

 エリカの言葉が課題の終了を告げる鐘の音となった。

 

 「お疲れ様」

 

 笑顔で近づきながら、エリカに飲み物を手渡す咲。

 

 「まぁね、ちょっと苦戦した~」

 

 エリカは飲み物を受け取り、それで喉を潤す。

 どこか気品を感じられる姿で、一口飲みそれを咲へと戻す。

 

 「これ、買ってきたのだけど、お昼ご飯だよ」

 「ありがとー、お腹ぺこぺこだったのよ」

 

 エリカの表情に曇りはなく、それだけでここまで来た甲斐があった。

 購買で買ってきたことが分かる袋から、昼食を取り出したエリカの顔が曇った。

 

 「......咲? これ、あたしが食べる為に買って来たのよね」

 「そりゃそうだよ? エリカそれ嫌いだったけ?」

 「......いや、嫌いじゃないけどさ。......あと少ししかない休憩時間でこれ全てを食べろと? 女子のあたしに?」

 

 段々と凄みをまして話しかけてくるエリカの手には、ずっしりと重量感のある弁当。そのパッケージには、『カツ丼(超大盛)』とデカデカと書いてあった。

 エリカは特別食が細いわけではない、身体を動かす事を本職にしている為、スレンダーな体系からすれば食が太い方であろう。

 それでも、

 

 (超大盛はない、でしょ......)

 

 

 「......ガッ、ガンバレ」

 

 と引き攣った笑顔で親指を立てている咲。

 

 不器用すぎる幼馴染の行動についてエリカは考える。

 純粋にお腹が空いているだろう、と考え、さらに栄養価の良さそうなもの(栄養バランスが良いものではない)と考えて、これを選んで来た事は容易に想像がついた。

 残っていたのがこれだけでしょうがなく買ってきた、という線は考えない。恐らく数十種類以上あってもこれを選んできただろうから。

 

 隣にいるレオは、残り時間や食べやすさを重視したサンドイッチを持っている。

 それには指示した達也の、気配りを感じられる。

 

 ただ、これを食べないという選択肢はない。

 咲の気持ちを無下にできるような性格を、エリカはしていない。

 

 段々引き攣った笑みから、親しい人にしか分からない程度ではあるが、罰が悪そうにしている咲の姿を見て決心する。

 

 (今後の為に、このことは後で反省させるとして......)

 

 今はこれを食べよう。

 そう思い箸を手に取ろうとしたとき、横から余計な助け舟が出された。

 

 「なんだよ、食えないんだったらオレのサンドイッチと交換してやる」

 

 レオの申し出に、悪意は全くない。

 自分であれば、弁当を時間内に食べきれる自信がある、そういった気遣いも感じられた。

 

 そっとエリカの持っている弁当をレオが持ち上げようとしたとき、無意識にレオの手を叩いてしまった。

 やってしまった、そう思ってからではもう遅い。

 レオは叩かれるとは思ってもいなかったので、呆気にとられている。

 この場合で最適なのは間違いなく、レオの申し出を受けることだった。

 だが本当の意味で時間を戻すことはできない。

 

 「あんたは深雪に買ってきて貰った、サンドイッチでも食べてなさい。アンタにカツ丼(超大盛)はもったいないわ」

 

 自分でも意味不明な事を言っている自覚は合った。

 深雪と達也の瞳が全てを見通してるかのように生温かったのが、エリカには一番堪えた。

 

 「~~~~っっ、咲っ! この量あたし一人で食べきれるわけないでしょっ! 買ってきた罰として残ったら全部食べなさいっ」

 「えっ? 僕、もう食べてきたんだけど......」

 「うるさいっ! いいからこっちに来なさいっ!」

 「......理不尽すぎる」

 

 自分の隣を駄々を捏ねた子供のようにバシバシと叩き、咲に着席を促すエリカの姿を、今度は全員が生温かい目で見ていた。

 

 

 

 

 徐々にエリカも平静を取り戻し、話題は今まで行われていた課題の話に移っていた。

 

 「ねぇ、参考までに、どのくらいのタイムかやってみてくれない?」

 

 好奇心を抑え切れなかったエリカが、先ほどまで学校の設備に物申していた深雪に試技をお願いした。

 達也に了解を得た、深雪は繊細にピアノを弾く様な仕草でパネルに指を置いた。

 計測が始まる。

 それは一瞬、瞬きほどのことであった。

 

 深雪とエリカが行った課題の内容に差異はない。

 だが、あまりにもスピードが違いすぎて、同じ事を行ったとは到底思えなかった。

 計測をしていた美月からいつまで経っても結果が聞こえてこない。

 そのことに焦れたエリカが美月に催促した。

 

 「......二三五ms......」

 

 聞き間違いや、測り間違いを疑うような圧倒的スピードであった。

 

 「何度聞いてもすごい数値よね......」

 「深雪の処理能力は、人間の反応速度の限界に迫っている」

 

 それに圧倒されたのは、以前にも見ている筈の雫とほのかも同じであった。

 ただあの時と同じならば恐らくこの後も同じことが起きるはず。

 そう半ば確信し、深雪の結果が発表された瞬間に、エリカから受け取った弁当を、頬袋をいっぱいにして物凄い勢いで食べている咲に視線を移した。

 

 なんとなく察しはついていたのであろう、エリカもやれやれ、といった感じで呆れている。

 

 食べ終えた咲は、エリカから貰った飲み物で喉を潤し、立ち上がった。

 その意味を理解できたのは、A組三人とエリカのみ。

 

 

 そして咲はパネルの前に立ち、

 

 「柴田さん、お願い」

 

 美月に試技の計測をお願いしたのであった。

 一瞬呆気にとられたが、すぐに持ち直し了承した。

 計測開始。

 これも一瞬の出来事で。

 先ほど行われていた深雪の試技に近いモノがあった。

 

 結果はまたしても周りを驚かすには十分なモノであった。

 

 「......すっ、凄い。二九五msです」

 

 美月は連続して出た脅威のスピードに興奮している。

 先ほどの深雪の結果で体性が出来たのか、今度は言葉を失わなかった。

 ただ、それでも咲の顔色は優れない。

 

 

 今回の課題内容からすれば、五〇〇ms以内が一人前の魔法師として呼べる目安とされている。

 それを加味すれば、これ以上ない、ともいえる十分過ぎる結果であろう。

 

 「......もう一度、お願い」

 

 

 それから三度同じ事を行ったが、どれだけ一般の基準より早かろうと深雪よりは遅い。

 

 それもそうだろう、急に魔法が早くなるようなことはない。

 エリカやレオ達のように、まだまだ改善の余地が十分にある場合は、うまい助言や教え方で早くなることもあるだろう。

 だが、それは深雪や咲には当てはまらない。

 一秒とコンマ二秒弱、その二つの記録から、コンマ一秒を縮める。

 結果は同じであるとは言えその難易度は次元が違う。

 

 それでも咲は挑み続ける。

 今の記録より、次の記録、その記録よりも次の記録、より良い記録を出し深雪に勝つ為に。

 

 

 その姿を深雪は楽しそうに見つめ、エリカは呆れながらも見守っている。

 

 深雪は今まで突出した魔法力を持っていたせいで、競い合う、というに縁がなかった。

 実力の一端を知った相手は、適わないと悟り深雪に挑もうとすらしなくなった。

 ただ咲は違った。

 単一系統・単一工程の簡単な魔法であるが、深雪のすぐ後ろまで迫り、追い越そうとしてくる。

 常に自分は兄である達也の背を追いかけている、と思っている深雪の瞳には、咲という存在は新鮮に映った。

 

 事の始まりは、敬愛する兄よりも体術で上回る存在と聞いた事。

 その事実に、信じられない、そう思った。

 それと同時に兄を上回る存在に僅かな嫉妬と敵意、そして大きな興味(興味を抱いた理由は兄が興味を持っていることを悟ったから、という深雪らしい理由だが)を持った。

 

 初めて話しかけたとき、僅かではあるが、こちらを探られているような感じがした。

 だけどもそれは、同年代の男性がしてくるような、邪まな感じはなく、興味や好奇心のようなものを感じられた。

 そこから兄をの友達を通し、徐々に話すようになった。

 随分と口調も砕けてきたし、軽い冗談も言えるようになってきた。

 深雪は咲のことを好ましい、と感じる程までになっていた。

 

 

 ただその感情に恋愛は存在しない。

 

 

 以前女性向けの記事で『異性との間に友情は成立するか?』といった見出しが合ったのを思い出す。あの時は、否定的であったが、今なら何の躊躇もなく頷くことができる。

 

 そして未だ、自分を追い越そうとしている『友達』の姿を深雪は見続けた。

 

 

 

 エリカは呆れながらも、咲の意外な一面に驚いている面々に、聞こえるように少し声を大きくして話し出した。

 

 「意外でしょ。あれでも咲、筋金入りの負けず嫌いだから。......魔法の処理速度だけ(・・)は自信があったみたいだし、咲より早いって深雪はホントに凄いのね」

  

 感嘆の言葉に真っ先に反応したのは達也だった。

 

 「こっちこそ驚いた。深雪に近いタイムが出る奴が、同い年にいるなんて思ってもみなかったからな」

 

 達也こそ驚いていた。

 全力を出していない深雪とはいえ、彼女に迫る記録を残す存在がいるとは露ほども考えていなかった。

 

 

 「なぁ、処理速度だけ(・・)ってことは......」

 

 達也の言葉に続くような形で聞いてきたのはレオだった。

 ただエリカに問いかけたのは、あくまで確認の為。エリカの言葉から察せないほど、レオは頭の回転が遅いわけではないのだ。

 

 「そうよ、あんたの思っている通り、咲は処理速度以外の項目・演算規模・干渉強度で特別優れているってわけじゃないの。まぁ、それでもあたしたちよりは、上なんだけどね」

 

 エリカの言う通りに、咲の総合成績は一科生の中でも真ん中より少し上程度に収まってしまうだろう。

 今回のような単一系統・単一工程の簡単な魔法であれば深雪に迫る驚異的な記録を残す事が可能だが、系統や工程が増えるに連れて深雪とはどんどん差が離れていくだろう。

 その事が分かっているからこそ、今回の試技に対する思い入れが強い。

 

 「なるほどな、それでも武術の才能もあって、魔法の才能もある。羨ましいぜっ」

 

 レオのその言葉に嫉妬の色はない。

 本人も軽く、茶化すような気持ちもあったのだろう。

 笑顔でそういうと立ち上がり、もうすぐ予鈴がなる事を確認し、皆にそろそろ戻ろう、と提案していた。

 

 「......さ...りす...の......のよ」

 

 レオの言葉に、ほんの一瞬、刹那とも言える短い時間だがエリカの顔色に陰りが差した。

 立ち上がる際に、何かを呟いた様だがレオの耳には届かなかったようだ。

 エリカが立ち上がった際には、既に陰りはなく、いつも通りに笑いながら咲に話しかけていた。

 

 「ほら~、咲行くよー」

 「......もう一度だけ、お願い」

 「あんたねぇー、ほらっ、美月も。咲に付き合ってたら一生帰れないわよ」

 

 何度も何度も計測をしていた美月にも限界が来ていたらしく、エリカを見る目は、まるで救いの女神をみているかのように、輝いていた。

 

 計測してくれる人間がいなくなったことで、咲の挑戦は終わりを告げた。

 渋々ながらもエリカ達の後に着いて退出していく。

 

 まだ部屋に留まっているのは、達也・深雪・雫・ほのかの四名のみ。

 

 「あのっ、達也さんどうかしたんですか? 顔色があまり良くありませんが」

 「いや、大丈夫だ。考え事をしていただけだから」

 

 最後まで達也の隣に陣取っていたほのかの問いかけに、達也は答えた。

 

 確かに達也は考え事をしていた。

 エリカが最後に呟いた言葉。あれは誰にも聞かせるつもりはなく、つい反射的に出てきてしまった言葉なのだろう。

 それを達也の耳は聞き逃さなかった。

 

 

 『......才能が有りすぎるのも問題なのよ』

 

 

 エリカのつい聞こえてしまった言葉を詮索するのは、マナー違反だということは達也にも理解できている。

 それでも不確定要素は無くしておきたい。

 

 だがこの時の達也には、その答えを導き出す為の情報が不足していた。

 

 

 

 

 




カツ丼(超大盛)としょうが焼き(特大)のどっちにするかで十五分ほど悩みました。


あと一、二話で入学編を終わらせるつもりです。
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