原作スモやんの作戦が最善策すぎてチビっているのは私です。
「……!」
「どうした、何か異変があったか?」
このローグタウンの名物、〝海賊王ゴールド・ロジャー〟の刑が執行された死刑台。
それが見渡せる建物に私たち海軍は潜伏している。
「きたか、おにぃ」
「あァ?」
「スモーカー大佐、兄がローグタウンに上陸したみたいです」
「ンだと? まだ港で張ってる部下からは何も……」
その時、スモーカー大佐の脇に置いてある電伝虫がプルルル、という特有の着信音を奏で始めた。
「もしもし、おれだ。どうした?
……そうか、報告ご苦労。そのまま待機して次の指令を待て」
「どうでした?」
「……」
帰ってきたのは沈黙。
よし、私のおにぃセンサーは今日も絶好調のようだ。幸先が良い。
「……お前、もしかして〝見聞色の覇気〟が使えんのか?」
「ケンブンショクノハキ? えっと、それはなんでしょうか?」
「知らねェのか……。まァおれも
「ん、んー?」
ハキ……はき? 覇気、だろうか? うーん、聞いたことがないなぁ……。
「曰く、三色の〝覇気〟はそれぞれの潜在意識の開花。
実体の掴めない悪魔の実の能力を捉えたり、鋭敏に気配を察知したり、はたまた威圧だけで相手を気絶させたり……そういう小難しい話はおれにはわかんねェが、まァ一種の戦闘技術みたいなもんらしい。
本部じゃ中将以上の位に就くには、その〝覇気〟の習得が必須だってもっぱらの噂だぜ」
「なるほど……勉強になります!」
〝覇気〟か……覚えておこう。
スモーカー大佐の話を聞いている限り、身につければ相当役に立つ代物だ。
中将になるには必須事項ということは、本部に行けばその使い手の人が沢山いるということ。
見取り稽古は得意な方なので、行くことがあれば是非学ばせて貰おう。
今は見張りに集中だ。
標的のおにぃたち一行がこの町にはもう来ているのだから。
今回の任務、捕縛対象はあくまでおにぃただ1人。
そのため事前におにぃが立ち寄るであろう場所をリストアップし、そこに海兵を忍ばせてある。
主に飯屋と、最有力候補であるこの死刑台だ。
私の勘が正しければ、おにぃはまず真っ直ぐここに来る。
最も偉大な海賊が死んだ場所。
〝海賊王〟を志すおにぃにとって、立ち寄らないという選択肢はあり得ない。
そしてまどろっこしいことが嫌いなおにぃのことだから、行く場所が決まっていれば一直線に向かう筈なのだ。
そこを狙い撃ちにする。
観光名所である死刑台周りは人が多いため、私服で市民に扮した海兵も紛れやすい。
大勢で取り囲んだところを対能力者用の海楼石が編み込まれた捕獲ネットで拘束して終わりだ。
よしんば包囲を抜けたとしても、沖に隠してある軍艦によって船での逃げ道を塞ぐ手筈となっている。
……できるだけ非殺傷の捕獲作戦を立案してくださったスモーカー大佐には頭が上がらないな。
最初は
今ではめちゃくちゃ尊敬している上官です。
それから数十分程経過した後、ついにおにぃと思わしき人影が姿を現した。
「うっっっはーーーーー!! これが海賊王の見た景色っ!!! そして死んだのかーーーっ!!!」
うん、死ぬほど堂々と姿現したね。
死刑台の上登っちゃってるもん。気味悪くないのかな……まァおにぃはそういうのぜっっったい気にしないタイプだけど。
「おい、アレか?」
「はい。あの赤い服に麦わら帽子……間違いなく兄です」
「とんでもねェバカだな」
「はい……申し訳ございません……」
くそっ、なんで私が謝ってるんだ!? これもあそこで無邪気にはしゃいでるバカおにぃのせいだ……!
まぁそれは置いておくとして!
そんなおにぃに気付かれないよう、私たちは慎重に私服海兵に合図を送り、ジリジリとその包囲を狭めていく。
よしよし、いい感じだ……全く気づいてない。
このままなら私が出なくても、おにぃを五体満足で捕まえられ——
「久しぶりだねェ、探したよルフィ……! まさかこの世界一の美女の顔を……忘れたわけじゃないだろうね!!」
「ハデに久しぶりだなァ、麦わら
てめェに吹き飛ばされたあの日から、山あり谷あり執念燃やして復讐に来たこのおれ様こそ——」
「なんだ、バギーか。あと誰だ隣のお前」
「アルビダだよっ!! この鈍感っ!!!」
「フザケんなこのガキャー!! 相変わらずこの〝道化のバギー〟様に向かっていい度胸だなこのスットンキョーがァーーー!!!」
「おい、誰だあいつらは」
「知ってる
なんでお前らがここで出てくるんだよ伏線とかなにもなかっただろうが!!
こっちも準備大変だったんだぞ脇からしゃしゃり出やがって包囲網バレたらどうしてくれんだこの腐れ海賊どもがよォーーー!!!
そんな風に心中で思いっきり慟哭している間にも事態は超スピードで進んでいく。
なんとバギー海賊団の参謀長カバジによっておにぃが死刑台に拘束されてしまったのだ。
「おい、なんであのバカ海賊共をここに通した! 警備は何してやがったんだ!!」
「は、はっ! スモーカー大佐、それが奴ら変装をしていたようで、モンキー・D・ルフィとその一味を中心に監視していたため気づかず……」
「チッ! 変装は〝道化〟の十八番ってか? 舐めやがって……!」
バギーのクソ野郎がおにぃの首に剣を宛てがっている。
度し難い……! 今すぐ死刑台ごと切り倒しておにぃを捕まえてから海楼石で能力封じて八つ裂きにしてやる……!!
この距離からでも攻撃は届く。
空気に斬撃の振動を寸分の無駄なく流して繰り出す飛ぶ斬撃でまずは死刑台を崩して、それから——
「待て」
「ッ……! なんですかスモーカー大佐! 時間がない、早くおにぃの救出を——」
「待てと言ってんだろうが! 上官の命令が聞けねェか!!」
「はい!」
「良い返事してんじゃねェよ!!
いいか、海賊が海賊を始末してくれようってんだ、世話ねェこった! いいか、モンキー・D・ルフィの首が飛んだらバギー、アルビダ及びその一味を包囲し畳み掛けろ」
「けど、それじゃあ!」
「言ったろ? おれはおれのやり方で勝手にやると。
おれはこの町から海賊を逃したことがねェのを誇りに思ってる……! てめェ、おれの言うことが聞けねェってんなら……命令違反で銃殺も視野に入るぞ!!」
ンなもん銃弾受け流して終いじゃい!
世界の何よりも優先されるべきはおにぃの命!
悪いがスモーカー大佐、あなたに構っている時間はない!!
腰だめに剣を構え、いざ斬撃を飛ばさんと抜き放つ、その瞬間。
「わりィ、おれ死んだ」
笑った。
本気で自分の人生がここまでだと悟ってなお、死を受け入れ覚悟して——笑ったのだ。
それはおにぃの強さでもあり、だからこそ私が心配しているところ。
おにぃは自分が全力で行動して、その結果訪れる死なら構わず受け入れる。
だからこそ、毎回本気で命をかけて勝てるかどうかもわからない強敵相手に全力を尽くせる。
紛れもなく王の器だ。
そして覇王となる資質持つ者は、例外なく〝天運〟すらをも自らの力とする。
バギーの剣がおにぃの首筋に振り下ろされる刹那、いつの間にか空を覆っていた黒雲が瞬き、一筋の青い閃光とともに
轟音と火花を撒き散らし、直撃したバギーを黒焦げにしながら倒れゆく死刑台。
巻き上がった砂煙が晴れたそこには、1人の男が悠然と
「なははは、やっぱ生きてた。もうけっ!」
先程までは静観に徹していたあのスモーカー大佐でさえも呆然としている。
正しく伝説的瞬間だ。
だが、私がそうはさせない。
おにぃは〝海賊王〟になれる器を持った男だと思う。
しかしそれはおにぃを以ってしても、数々の修羅場、生死の境目をくぐり抜けなければ到達できない境地に違いない。
そして達成してもなお、安息の日々が訪れるかは誰にもわからない。
だから止めるのだ、私が。
例えおにぃの手足を——切り落としたとしても!!!
「〝
「うわァ!? 今度は何だァ!!?」
初撃の飛ぶ斬撃は不発。
だが牽制用に放っただけだ、さして問題はない。
おにぃが攻撃を避けた隙に、私は建物の窓から猛スピードで躍り出て広場に突撃する。
「全隊突撃せよ! バギー、アルビダ一味を狙え! 囲んでなにもさせるなァ!!
「うおおおー!! マイン軍曹に遅れを取るな、突撃ーーー!!!」
「なっ!? 海軍だとォ!? いつの間にかハデに包囲してやがったのか!!」
驚きの声を上げるバギーを素通りし、おにぃに急接近。
飛びかかって上段からの唐竹割りを腕目掛けて叩き込む。
しかし、さすがはおにぃと言ったところか。
すんでのところでギリギリ回避し、バク転で距離を取られてしまった。
まァ、準備運動代わりの小手調べだ。気にすることはない。
「げェっ、マインじゃねェか!!」
「数日ぶりだね、おにぃ。今回は私の体調も武装も万全……いつかの続きといこうじゃん」
おにぃに
「決着にしよう、おにぃ」
私は今日、伝説を
☆★☆★☆
「〝ゴムゴムの
「〝
私とおにぃは殴り合い斬り合いながら絶え間なく走り回り、戦場は大通りへと移行していた。
「〝ゴムゴムのスタンプ〟!」
「〝
「〝ゴムゴムの
「〝
攻撃が打ち合わされる度に衝撃が発生し、石畳の舗装された道路が抉れ、捲り上がり、街灯がヘシ折れ吹き飛ばされる。
私もおにぃもフーシャ村を出た時と比べると数段技のキレが増しているのが実感できた。
「〝ゴムゴムのバズーカ〟!!!」
「〝
一際大きな激突。
一拍おいて衝突した一点から爆風にも思える衝撃が広がり、大通りを囲む建物にヒビを入れ、ガラガラと崩壊させる。
事前に包囲のために住民を避難させていて良かった。
おかげで全力で戦える……!
「へへっ、お前すげェな! 前に戦った時とは全然ちげェ! 強くなったなァ、マイン」
「なに甘いこと言ってんのさ、おにぃ」
「んん?」
「
バギーたちとの交戦で漂流した際に身につけた、全身に神経を張り巡らせ、肉体を通常とは比べ物にならない高精度で制御する技術。
私はついに、それを実戦レベルまで昇華することに成功した。
これにより、私の身体能力は一段階進化する……!
「〝
宣言と同時、私の瞳孔が深紅に染まる。
人間の肉体は、通常は
この技は、その制御をすべて
例えば——、普段身体が壊れないように
「いっ!?」
「〝
「うわァァ!? いてェーーー!!」
まずは移動能力を削ぐために脚を狙う。
先程までとは比べ物にならない速度の攻撃に、おにぃはたまらずうめき声を上げる。
間一髪で避けられたため切り落とすまでには至らなかったが、そこそこ深めの傷を与えることができた。
「んにゃろっ! 〝ゴムゴムの
「〝
「うええっ!? 滑るー!? なんだこれェ!!」
動体視力も強化されている私には、今まではほとんど同時攻撃のように見えていたこの攻撃もまるでスローモーションのように映って見える。
そしてその1発1発の拳から伝わる衝撃全てを自身の力として受け流し、還元し、刃に乗せて思い切り振り下ろす。
「いっ!? これはやべェ……!」
「〝
大上段からの全力斬り下ろし。
単純な動作だが、今の私は細胞単位で肉体を操作できる。
無駄の一切を省いたその一撃の威力は私自身にも想像以上で、石質の道路を深々と両断するに止まらず、伝導した斬撃が死刑台広場まで到達し、その奥の刑務所跡まで断ち切った。
しかし、もうもうと立ち込める土埃の中、強化された私の瞳は五体満足のおにぃを正確に把握していた。
「いやー! すげー強くなってんなァ、マイン! さすがおれの妹だ!」
「……褒めても何も出ないよ。それより、よく避けたね」
「おう、ちょっと前にめちゃくちゃ
ま、おれが勝ったけどな! ししし!」
そう言っておにぃは、ぐっぐっ、と膝に手を突いて身体の凝りをほぐしていた。
「ねェ、おにぃ。そろそろ諦めたら?
私強くなったでしょ? 今のは避けれても、次はもっとギアを上げる。手足が付いてるうちに投降して。私だって、好きでおにぃを斬りたいわけじゃないってわかるよね?」
「ああ。……なァ、マイン」
「何? おにぃ」
おにぃが俯いていた顔をゆっくりと上げ、不敵に笑う。
「おめェ、おれをあんまり舐めてんじゃねェぞ」
「っ……!」
「お前が海軍に入って強くなったのはよーくわかった。
でもよ、おれも今までの冒険で強くならなかったわけじゃねェ。見せてやるよ、お前がはじめてだ」
「誰もお前に追いつけねェと思うなよ。
これでおれの技もみんな……一段階進化する!!」
剣を構え直す。
私は優位になど立っていなかった。
まだ勝敗は決まっていない……ここからが、本当の兄妹喧嘩だ。
「〝ギア 2〟」