やはり俺がめぐり先輩と同棲するのは間違っている 作:タン塩レモンティー
「ね、どうするの? 今度の連休」
俺の肩に顔を乗せて小町がそう尋ねてきたのは四月も終わり頃だった。小町は抜き打ち検査と称して、俺の家に居座っていた。
「小町と一緒に過ごしたい」
「は? 何言ってんの」
底冷えするような冷たい目つきで俺を見つめる。そんな子に育てた覚えはありませんよ。……あ、娘じゃありませんでしたね。
「てか、帰らなくていいのかよ」
「許可ならとってるよ」
小町は俺にスマホの画面を見せつける。翌朝までいて朝食を作ってくれるとの事。そのまま明日もいたいと思ってるかもしれないが、その場合どうしたものか。
「めぐりさんのことだろ。今からじゃ旅行とかは無理だろ」
「そうかもだけどさ、めぐりさんもきっとそわそわしてると思うけどなぁ。お兄ちゃんと同窓会で再会して初めてのゴールデンウィークなんだし」
「……今からでも無理しないで楽しめるところあるのかよ?」
こちらの問いかけに小町は笑みを浮かべるや、俺から離れてバッグの中から一冊の本を取り出した。しかもところどころに付箋があった。
「えっとね、この辺りなんてどうかな?」
小町は俺の左隣に寄り添いながら、雑誌に載っている『箱根』の部分を指し示す。
「……箱根はさすがに行きにくくないか?」
「車ならそうでもないよ。お兄ちゃん免許持っているでしょ」
「けど、時期が時期だし、電車で行ける場所のほうがいい。いろんな意味で」
「むぅ、確かにねぇ。大事な人を乗せるんだから猶更」
大事な人を強調して答える。そう、俺は運転には慣れている。けれど、ゴールデンウィークなので渋滞はするだろうし、万が一の事態があってはならない。
「そういう訳なんで電車で無理なく行けるとこで」
「了解。じゃあ……」
小町は再びガイドブックを捲り始める。そこへめぐりさんが帰ってきた。
「暑いね~」
「めぐりさん、お邪魔しています」
お辞儀する小町をよそに、めぐりさんはオレンジのイラストが描かれた缶入り飲料をおもむろに飲み始める。
「めぐりさん、それ、リキュール!」
「あ、ホントだぁ、頬が熱くなってるぅ。全身がポカポカしてきたぁ。あはははっ」
俺は一目散に駆け寄ると、カシスオレンジの缶を掴んでテーブルに置いた。
「お酒飲めないのに……。お兄ちゃん、水!」
「ほら、とりあえず水飲め」
俺は水がたっぷり入ったコップをめぐりさんに渡す。コップの水をゴクゴクと飲んでいく。
「あはっ、お水ってこんなに美味しかったんだぁ~」
コップを置いて、満面の笑みを浮かべるめぐりさん。
「今日もお疲れ様ぁ」
すると、めぐりさんは俺の頭を優しく撫で始めた。俺に向けてくれるやんわりとした笑みがとても可愛らしい。吐息からほんのりアルコールの匂いがするけど。
めぐりさんは酔っ払うと表情や声が一層柔らかくなる。さらに可愛らしさに拍車がかかる。
「えへへっ、こんなに素敵な人とお付き合いできて、めぐりはとっても幸せなんですよぉ」
「わ、私は兄じゃありませんよ……」
めぐりさんは小町の腕を抱きしめ、頭をすりすりとさせてくる。その姿に小町も困惑しきりだ。
「ほら、めぐりさん、大丈夫ですか」
俺が呼びかけると抱きついて頬ずりをしてくる。
「はちまんさーん、『ですます』禁止!」
「……はいはい」
どこかの水先案内人みたいな台詞を言いながら、目を細めて笑みを浮かべている。
お酒が回っているからか、普段よりも彼女から伝わってくる熱が強い。彼女が酔っ払うと自分のことを名前で呼ぶようになるのは慣れたとはいえ、大変なのもまた事実。
しばらく横にさせて酔いが覚めてからは水入らずの時間を過ごした。猫いらずではない。
いかがだったでしょうか。