やはり俺がめぐり先輩と同棲するのは間違っている 作:タン塩レモンティー
窓辺から柔らかな光が差し込んで目が覚める。私達は朝食会場へと向かった。
今が一番の朝食時だからか、多くの宿泊客がいる。私達のように浴衣姿の人が多い。あと、朝食会場だけあって、食欲をそそる匂いがしてくる。
旅館ご自慢の和定食が運ばれてきた。『いただきます』と言ってから、味噌汁に口をつける。出汁が利いていて、味噌の濃さもちょうどいい。
今度作ってみようかな。私達はメニューの美味しさに満足して部屋に戻った。
「チェックアウトは十時だから、もう一度、露天風呂入るか?」
そう八幡さんに言われて朝風呂を楽しむことにした。
朝の露天風呂って、ものすごく贅沢な気分がする。昨夜、入った時には周りは真っ暗で、それはそれで、また風情があって良かったのだけれど、違った魅力も感じたい。
朝靄のかかった景色が、淡い水色の空に映えて思わず見惚れてしまう。この季節は若葉の緑が輝いて見えて本当に美しい。
「また来ような」
「うん」
お湯に浸かって八幡さんが私に言った。
「次はいつにしようか?」
「八幡さんと一緒なら、いつでもいいよ」
「めぐりさん、こっちおいで」
今朝は向かい合って、お互い足を伸ばして反対側にそれぞれ座っていた。お湯の中を移動して八幡さんの隣り。そうしたら、やっぱり八幡さんの膝の上に座らされた。
「……恥ずかしい」
「大丈夫だよ。俺しか見てないから」
そのまま八幡さんに唇を塞がれて、もう私は彼に抱かれることしか考えられない。耳元で彼が囁く。
「このまま、ここで抱くよ」
「えっ?」
誰かに見られてるかも……。いいえ、見られなくても声が聞こえるかも……。
でも八幡さんの囁きに嫌と言えない私がいた。私は彼と向かい合って激しくキスしながら抱かれていた。声を我慢するのに必死になりながら……。
心の中も私の体も八幡さんだけを感じている。そして彼は私の髪を直しながら耳元で囁く。
「綺麗だよ。めぐりさん」
そうして、唇にそっと触れるキスをしてくれた。熱ったお互いの体にお湯を掛け合って、甘く溶け合った二人の汗を流して……。
甘い痺れが残ったままの体で、うつ伏せの私は背中に八幡さんの擽るような指先を感じていた。何度、抱かれても恥ずかしい気持ちは無くならない。おばさんになっても、おばあちゃんになっても愛され続けたら、それは人として最高に幸せなことだと思う。
よしっ、今の自分の気持ちと八幡さんの気持ちを信じよう。
「めぐりさん。なに考えてるの?」
「なんでもなーい」
「本当に?」
髪を撫でられて優しく見つめられた。
「今、すごく幸せだから、もっと前から幸せだったらって。私、欲張りだから」
「言うなって」
八幡さんが私の唇にそっとキスする。頬の赤さはお風呂の温かさなのだろう。
「さぁ、そろそろ帰るか」
「うん。支度するね」
身支度を済ませてチェックアウトをする。
「ありがとうございました。また、お越しくださいませ」
「お世話になりました」
私たちは旅館を後にした。駅まで行って電車に乗ると八幡さんはすぐに別世界にいざなわれた。
私は視線を車窓へと向ける。列車の撮影ポイントらしき鉄橋から眺めた相模湾と青空に感心したりもしたが、平塚あたりからは次第に見覚えのある日常へと変わりつつある。
ただ一つ異なるのは、私のすぐ傍に感じる寝息と温もり。そして、失いたくない温かさ。それを微笑みながら私は外を見つめ続ける。
『The next station is Shinagawa, JT03』
川崎を発車して多摩川を渡り切ったタイミングで自動放送が流れると、隣が大きく動いた。
「……もうすぐ品川か」
「帰りは早いね。またこんな風に何処かへ連れてきてくれる?」
「時間が合えばいつでも連れて行くよ」
「じゃあ、次は別の大きなお風呂付の部屋にしない?」
「おいおい、探すのが大変そうだな」
彼の軽口を聞きながら、私は横顔を眺めていた。
「そうだ、今度デートしない? 私のプランで」
ぽんと手を叩いた私を見て八幡さんは目を丸くしたけど、了解の合図を出してくれた。
これも温泉のお湯が癒してくれたのかな。何よりも八幡さんと過ごした時間が、とても幸せで、この先、何があっても一緒に笑い合って生きて行けるような気がしていた。
いかがだったでしょうか。