Re:ゼロから始める×××生活   作:舞江鯖鶴

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スシ?×美食!×メンチ

 二次試験前半、豚の丸焼き審査に無事合格したスバル達を待ち受けるのは、後半の審査をする過激セクシー美女のメンチだった。

 

「あたしはブハラと違って甘くないわよ。審査も厳しく行くわ!」

 

 用意した丸焼きを一つ残らず平らげて、その上全てを合格としてしまった同僚にも聞こえる声で、高らかに宣言する。後ろでは、当のブハラが恥ずかしそうに頭を掻いている。

 

「二次試験後半、あたしのメニューは――スシよ!」

 

 スシ、と聞いてなるほど甘くないと唸る。

 スシ――おそらく寿司のことだろう、この料理は日本出身のスバルにとってはなじみの深いものだったが、作るとなると修業に十年もの年月を要するという上級料理だ。

 果たして異世界におけるスシがどこまでスバルの知っている寿司に類似した料理なのかは定かではないが、美食家の側面もある美食ハンターの、しかも厳しく行くと言われる審査員において、どれだけやれるのか図りかねる。

 

 しかし、スバルの横にならぶ面々は、スバルとはまた違う理由で困惑しているようだった。

 

「寿司、って何?」

 

「聞いたこともねぇ、どんな料理なんだ……」

 

 皆一様に浮かべるのは、初めて聞く単語に対する色。

 スバルは周囲の顔色を伺って、そして気づく。

 

「これもしかして、俺超有利――かも」

 

 どうやら寿司はこの世界では日本ほどの知名度がある料理ではないらしい。スシイコール寿司とは限らないが、本当に知っているのがスバルだけだとすればかなりのアドバンテージになることは間違いない。

 その考えを裏付けるかのように、メンチが二ヒヒと笑う。

 

「だいぶ困ってるわね。ま、知らないのも無理ないわ。小さな島国の民族料理だからね」

 

 メンチの発言に、スバルは思わず驚きを隠せなかった。

 小さな島国の民族料理、とはスバルの知っている寿司に当てはまる。というより、小さな島国というのが仮に日本だとしたら、これはスバルにとって思いがけない報せだ。

 

 スバルはこれまで、この世界を異世界だと思っていた。見たことない文字、知らない動物、突然飛ばされた知らない街並み。異世界だと思い込んでいた。

 だが、もしもそうでないとしたら。ここがスバルの知らない地球上のどこかだとしたならば。

 つまりメンチの言葉が示唆しているのは、これが異世界召喚ではなく、日本から外国への瞬間移動の可能性だった。

 

 異世界召喚をされるのと、瞬間移動による転送だとするのとでは、大きく異なる。

 前者は、地球ではないどこかへ連れて行かれると言うことで、元の世界に戻る方法を探さなければならない。それは次元的な意味で。

 だが後者ならば、日本がこの世界に存在するのならば、同じ地球上で日本まで移動するだけで家に帰れる可能性が浮上してくる。

 

 家に帰れるのならば、だとすれば今すべきことはこんな試験などではない。まず真っ先に日本の手がかりを探さなければならない。

 

 スバルはそこまであの頃の生活に未練があるわけではない。学校は苦手だし、引きこもっている毎日も苦しみさえあった。だからこそ、あの場所と地続きでないここを楽しめているわけであるし。

 それでも、父と母に勝手に出てきてしまったことを悔いる気持ちがないわけでもない。出来るのならばもう一度会いたい。だが――。

 

「ヒントをあげるわ。この中を見てご覧なさい!」

 

 スバルの思考を邪魔するタイミングで、メンチが建物の中へ誘導した。

 皆、一目散に建物の入り口へと近づく。

 ハッと気を取り直して、スバルもレオリオ達の後を追いかけた。

 

 建物の中でジッと待っていたのは、綺麗に並べられたキッチンだった。包丁、まな板、そして米びつが用意されていて、なるほど寿司を作るのに適している。

 

「ここで料理を作るのよ。最低限必要な道具と材料はそろえてあるし、寿司に不可欠なご飯はこちらで用意して上げたわ」

 

 他の受験生に習ってキッチンについたスバルは、米をつまみ食い。ほどよく冷めたご飯にほんのりとお酢の香りがして、ますますスバルの知っている寿司に近づいた。

 

「最大のヒントをあげる。寿司は寿司でも、にぎり寿司しか認めないわ」

 

 にぎり寿司、つまり、手巻き寿司、ちらし寿司はNGと言うわけだ。もう、スバルの思っている寿司の事で間違いないだろう。

 

「それじゃあ試験スタート。あたしが満腹になった時点で終了よ。それまで何個作ってもいいわ」

 

 こうして、二次試験後半戦、寿司審査がスタートした。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 他の受験生が寿司とは何か考えている間、スバルの頭を埋め尽くしていたのは全く違う考えだった。

 

「この世界には、日本が存在する。ここは、地球なのか――?」

 

 不思議な点はいくつもあった。

 瞬間移動だとして、どうして他の国の人間と言葉が通じているのか。ここが少なくとも日本でないことは、それこそ先ほどのメンチの発言からわかる。だとするならば、日本語以外を話しているゴンやレオリオと言葉が通じる理由がわからない。

 ヌメーレ湿原にいた生物は、テレビで見ていた野生生物のそれではない。スバルが無知なだけの可能性も大いにあるが、だとしても未知がすぎないだろうか。

 

 わからない。わからないからこそ、調べなければならない。

 

 寿司を知っている様子から、まず間違いなくメンチは日本を知っているはずだ。スバルが頼れるとすれば、彼女しかいない。

 

 彼女に話を聞くにはどうすれば良いだろうか。

 そのまま「日本について教えて欲しい」と頼むか。いや、今の状況では試験のヒントを得ようとする行為とみなされて取り合ってもらえないかもしれない。

 ではそれとなく情報を引き出してみるか。だが、そんな話術がないことは、それこそ引きこもりのトラウマがスバルに教えてくれていた。

 

 ならば、聞くのはいまじゃない。試験という枠が取り払われた後のわずかな時間。二次試験と三次試験の間だ。そこにかけるしかない。

 そうなれば、スバルはそれこそ二次試験を不合格になるわけには行かなくなった。合格者と違って不合格者が試験官とその後接触できるチャンスは少ないだろうからである。

 

 それに、課題が寿司である以上スバルに圧倒的なアドバンテージがある。早々に合格してしまうのが吉というものだ。そうと決まれば――、

 

「スバルも行くぞ! 川だ!」

 

 そこまで考えた時、不意にクラピカから声がかかった。

 

「川?」

 

「クラピカが思い出したんだよ。スシってのは、なんでも魚と飯を一緒に握る料理らしい!」

 

「民族料理の文献で読んだだけだがな。さ、ぼんやりしている時間はないぞ」

 

 スバルの知っている寿司は基本海の魚を使っているものだったが、知らないだけで川魚を使ったネタもあるのかもしれない。

 よく見てみると、自分達以外にも川に向かって一目散に駆け出している受験生がわんさかいた。どうやら、魚と飯までは皆辿り着いているらしい。さすがの推理力だと感嘆しながらも、二人に続いて、慌ててスバルも川を目指した。

 

 後ろをチラリとのぞき見ると、不適な笑みを浮かべるメンチが受験生の背中を見送っていた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「さて、魚は捕まえてきたわけだが、これをどうするんだ……?」

 

 自分が釣ってきた魚を前にして、レオリオは困りはてていた。魚と米をどのようにミックスすれば正解の料理に辿り着けるのか、とんと見当が付かなかったためだ。

 魚を使った料理という事は知っていたクラピカも、その形まではわかっていなかったようでともに頭を唸らせている。ゴンやキルアも同じ。スバルに至っては、寿司審査が始まってからというもの上の空でろくに使い物にもならない。

 

「だが、握り寿司っつーんだから、大体魚を握りゃあいいんだろ。と、なれば、これをこうしてこうやって……」

 

 仕方がないので妄想と語感の想像だけで作り上げる。そうして出来上がった料理をもって、意気揚々にメンチの元に。

 

「どうだ、俺が完成第一号だ! 名付けてレオリオスペシャル。食ってくれ」

 

「どれどれ」

 

 舌なめずりをしながらクローシュを開けたメンチは――、

 

 出てきた魚一匹まるごと米に埋めた料理を見て、容赦なくぶん投げた。

 

「あぁーー!! 何も捨てるこたぁねぇだろ!!」

 

「食えるかあんなもん!! もっとマシなもん持って来な!」

 

 レオリオに続いて出てきたのは、ゴン。

 自信満々の表情でプレートを運んでくる。

 

 メンチの前に置いて、オープンした皿には――、

 

 魚一匹まるごと米に埋めた料理が。

 

「さっきの奴とレベルが一緒!!」

 

 頭をたれて落ち込むゴンの肩にクラピカが手を置いて慰めていた。

 

「いいこと! 形は大切よ! 握り寿司の形をなしていない物は味見の対象にもならないから!!」

 

 怒って貧乏揺すりを始めたメンチ。

 そろそろ動き出すべきかとスバルが包丁を手に取った所で、隣のクラピカが進み出た。

 

「……試験官の言っていたヒント、それを総合して考えるなら、これだ」

 

 メンチの前に、プレートを置く。ニヤリと笑ったクラピカが提示したそれは――、

 

 魚一匹まるごと以下略

 

「あんたも最初のやつと全く同レベル!!」

 

 まるで閻魔大王に地獄行きを言い渡されたような顔で絶望するクラピカに、レオリオが「そんなにショック受けなくてもいいだろ!!」と突っ込んでいた。

 

 と、そんなやりとりを見ている間にハゲ頭の受験生が今度はメンチの前に来た。

 

「……とうとう俺の番が来たようだな」

 

「あんたは他の奴とは違う雰囲気があるわね」

 

「当然だ。どうだ! これが寿司でいっ!!」

 

 そういって出したものは、なんと確かに寿司だった。

 まさか、この男も日本を知っているのだろうか。

 

「やっとそれっぽいものが出てきたわね。どれどれ……」

 

 メンチはようやく食べ物にありつけるという興奮を収めながら、ゆっくりと寿司を口に含んで、すぐに顔は険しくなった。

 

「ダメね。魚の切り方がなってない」

 

 バッサリ。どうやらブハラと違うというのは本当らしい。

 しかし、ハゲ頭はそれに怒ってしまった。

 

「何でだよ! 寿司ってのは長方形に切った魚肉を握った米に乗せる超お手軽料理だろ! 誰が作っても大差ねーだろがよ!!!!」

 

 どさくさに紛れて、寿司の作り方をまるごと言ってしまった。

 スバルのアドバンテージがあっという間に消え去ったのだが、それよりも、ハゲ頭の発言にメンチが切れた方が問題だった。

 

「お手軽料理? 大差ない?? ふっざけんなよ! 寿司なめてんじゃねーぞ!! これ作るのに十年修行がいるって言われてるんだよぼけーー!!」

 

 ハゲ頭は怒鳴られ突き飛ばされて、とぼとぼと自分のキッチンへと戻っていった。

 

「あー、怒ったらますますお腹減ってきちゃった。つっても、あのハゲがべらべら作り方教えちゃったからもう味で審査するしかないわ。さ、じゃんじゃん持って来なさい!!」

 

 ここからは、あっという間の出来事だった。

 次々と持ち込まれる寿司を腹に収めて、ダメだしをしまくる。

 食っては突き返され、食っては突き返し。

 

 そしてしばらく食べた後、

 

「わり、お腹いっぱいになっちまった。最初に決めたとおり、今年の合格者は出なかったって事で。また来年頑張ってねー」

 

「「「「「「はぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」

 

 会場に受験生の絶叫がこだました。




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