Re:ゼロから始める×××生活   作:舞江鯖鶴

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ステーキ×再開×ハンター試験

 三人と分かれたスバルは、深刻な空腹に悩まされていた。

 そもそも空腹のためにコンビニへ向かったところで異世界に放り込まれたわけで、興奮によるジャミングはあれどそこから何も食べていない状態は無視できない辛さがあった。

 

 手元には相変わらずカップ麺とコンポタお菓子。空きっ腹にスナックは少し遠慮したい為、必然的にカップ麺が食べたい気分なのだが、こいつを食すには適量のお湯が必要だ。お湯がある場所と言えば、銭湯か、レストランだろう。一文無しのスバルがレストランを見つけたところでどうするのかという問題はあるが。

 

 しかしここで問題が生じた。

 まず、土地勘がない。どこへ行けばどんな施設があるのかちんぷんかんぷんで、数分適当に歩いただけで精神的にくたびれてしまった。

 

 そして二番目に、字が全くわからない。

 これは先ほどから気がついていたことなのだが、やはりそうとう痛手だった。看板から手がかりを得ようにも全くわからないのだ。

 

「ったく、のっけからハードモードだぜ。俺無双どこいったのよ」

 

 無双も何も、ゴン達に助けて貰わなければスバルの命はあそこで終わっていたかもしれなかったが、それは一旦スルー。

 だが、それら二つは実は些細な問題にすぎない。なによりも深刻なのは初対面の相手に何事かを尋ねるという行為のハードルが高すぎることだった。圧倒的コミュ障の谷を転がり落ちていたスバルにとって、自分から見知らぬ他人へコミュニケーションを図ることは、空飛ぶ巨大クジラと戦うよりも大変なことだった。空飛ぶ巨大クジラとはなんぞや。

 

 今は町の中でも特に大きく開けている広場のようなところで腰を落ち着けていた。空は青、足は止まれ。わかりやすい飲食店でもあれば良いのだが、そんなものあるわけもなく。こうしてじっとしている間にも空腹は容赦なくスバルを襲う。

 

「くそー、マジで腹減ったー。そのまま生で食べちまうかもう。そうだよ、某インスタント鶏ガララーメンだってお湯使わなくて十分美味しいんだし、案外そのまま美味しく頂けちゃうのでは? 俺ってば天才!?」

 

 やけくそ気味の自画自賛と共に顔を上げてみれば、広場の丁度反対側に見覚えのある三人を見つけた。間違いない、ゴン達だ。今はさらにキツネ目の男を一人加えて四人で大きな博物館らしき建物を見上げている。

 彼らを見つけたとき、スバルの心は不思議と安堵に包まれていた。

 

「おいおい、また会っちまったじゃねぇか。これって、もしかして運命だったり。はぁ、俺の冒険の仲間は美少女じゃないのかよ」

 

 立ち上がって広場を突っ切る。

 しかし三人はスバルには気づいていない様子で、キツネ目の男に連れられて隣の建物に入ってしまった。後を追って、スバルも店の前まで行く。

 

「これって、どう見ても定食屋じゃない!? あっれ、俺の目的見つけちゃったよ!」

 

 まさか先ほどの恩人達が自分の探していた場所に入っていくなど、いったいどのくらいの確率だろうか。

 とても信じられない偶然に店の前でスバルは、しかし中に入れないでいた。

 一つは一文無しだったため。二つは、先ほど別れた男が再び同じ店に現れたときのゴン達の反応を考えたため。そしてやはり、深く染みついたコミュ障根性が一歩踏み出すのを躊躇わせていた。

 うじうじと店の前を行ったり来たりすると、店から一人男が出てくる。先ほどゴン達といたキツネ目だ。

 どこかへ立ち去ろうとする男の背中へ、スバルは声をかけていた。

 

「あの、すいません」

 

「おや、どうしたんだ?」

 

 キツネ目は振り返りスバルを認めると軽い調子で聞いてくる。威圧感はない。これなら、話しやすい。

 

「今、三人の人と一緒に入りましたよね。出てきたのはあなただけですけど、他の三人はまだ中ですか?」

 

 難しいことを訊ねたつもりはなかったのだが、男は「あー」と逡巡した後、

 

「いるけど、いないかな」

 

「はぁ、とんちか……?」

 

「ははは、とんちじゃないよ。あの三人のお友達かな? なぁに、そのままの意味さ。いるけどいない。気になるなら中を確認してきてごらんよ」

 

 そう言って店を指し示す。スバルは男の言っている意味がわからなかったが、促されるまま中を覗くことにした。

 スバルは自分を単純バカだとは思っていない。だが、本人でも気づいていないが挑発に乗ってしまいガチな部分があったのだ。

 

 扉をあけると、懐かしいような内装が出迎えた。カウンターにテーブルが三つ。オープンなキッチンで炒め物をする店主はザ・定食屋の親父といった出で立ちだ。勢いよい「いらっしぇーい!!」が飛んでくる。

 キョロキョロと店内を見回すも、キツネ目の言う通りそこにゴン達の姿はなかった。

 

「な、いないだろ?」

 

 気がつくといつの間にか後ろにキツネ目が立っている。

 振り返ると、今度は先ほどまでスバルが向いていた方へキツネ目は移動し再び死角に回られる。

 スバルが遊ばれていると、店主のおじさんが声を張った。

 

「なんだい。その兄ちゃんもか?」

 

「いんや、この子は別口さ。邪魔したね」

 

「ややこしいことするなよ。ふん」

 

 そんなこんなで再び店の外に。

 スバルは混乱する頭でキツネ目に訊ねていた。

 

「どういうことだよ。三人は、確かに中に入って行ったのに」

 

「ははは、それはね。彼らはハンター試験を受けに行ったんだよ」

 

「ハンター試験?」

 

「おや、ハンター試験を知らないのか。と、いうことはハンターも知らないのか?」

 

 物珍しいものを見る目でしげしげと見つめられる。

 スバルもハンターという職業があることは知っている。だが、それに資格がいるという話は、少なくとも向こうの世界では聞いたこともない。

 自分の無知をひけらかすように、胸を張って応える。

 

「まぁな、このナツキスバル、天衣無縫の無一文でな。ちょっとここら辺のことには疎いんだ。教えてくれると嬉しいです」

 

「ここら辺にって、相当無知か田舎で育ったのか……」

 

 そう前置きして、キツネ目は教えてくれた。

 ハンターとは珍獣や怪獣、財宝や秘宝、魔境や秘境といったこの世の未知を追い求めるものがなる職業だとか。ハンター試験に合格した者に与えられるハンターライセンスはほとんどの国をフリーパスで行けて、大概の公共施設もタダで使える免罪符らしい。ハンターになれば、この世界では安定した地位と名声を得られるということのようだった。

 

「はぁー、めちゃめちゃ凄いじゃんハンター。せっかくの異世界召喚だ。この試験で俺の秘めたる能力が発動しちゃうかもしれないし……」

 

 スバルの浅はかな目論見は、キツネ目に一笑される。

 彼はにこやかにかぶりを振って否定した。

 

「いやいや、お兄さんには無理だよ。ハンター試験は超難関。世界中の試験の中でももっとも突破出来ないと言われているんだからさ。ま、お兄さんもそれなりに鍛えてはいるのかもだけど、ハンター試験に挑むとなればまだまだだね」

 

「ハンター試験怖ぇ……。ゴン達凄いんだな」

 

 月並みな感想と共に店を見る。

 この中で行われるとしたら、やはりペーパーテストだろうか。文字も読めない自分には到底クリアできそうにないなと考える。

 

「もし本当にハンター試験を受けたいのなら、みっちり修行してみなよ。十年頑張れば、そうだね、一次試験は参加出来るようになるかもね」

 

「いやどんな無理ゲーなんだよ! 世界観設定バグってない??」

 

 十年で足下にちょこっと及ぶ程度とは、試験のレベルが高すぎるのか、潜在的な素質が低すぎるのか、スバルには推し量れなかった。

 

 キツネ目と別れてとぼとぼと歩く。スバルは今、ハンターライセンスに後ろ髪を引かれていた。捕らぬ狸の皮算用とはまさにこの事だ。

 しかし、一枚あるだけで身分証以上の効果を発揮してくれる資格は、今の後ろ盾のないスバルにとって非常に魅力的で、もしも何かの間違いで取れてしまったらと勘違い的妄想を働かせてしまうのも無理からぬことなのだ。

 

「はぁ、せめて一次試験だけでもどんなのか体験したかったぜ。俺のスーパーチートが発動してもおかしくないって言うのによ」

 

 広場をぐるっと一周し、元来た方向へ向かう通りに入りかけたところで、ふと苦しむような声が路地から聞こえた。

 

「……また路地か」

 

 どうしても、先ほどの物盗り達を思い出してしまう。だが、苦しんでいる声を聞いてしまった今、黙って見知らぬふりが出来るほどスバルは大人ではなかった。

 恐る恐る周囲の様子を伺いながら路地へと入る。するとそこには、お腹を抱えて丸まっている人がいた。ローブを着ていてよくわからないが、どうやら男の人のようだ。

 

「クソ、せっかくここまで来たってのに……はぅっ!!」

 

 男はなにやら無念そうに呟くと、真っ青な顔で閉眼した。誰の目から見ても、明らかに苦しそうだ。

 慌てて駆け寄って背中をさすった。

 

「もしもし、大丈夫かよオッサン」

 

「……だ、誰だ」

 

「通りすがりの純情ボーイだよ。それより、アンタ相当顔色わりいけどどうしたんだよ。賞味期限切れのハムでも食ったのか??」

 

「そうだ……はぁ、クソ、トンパの野郎……ふぐぅっ!」

 

「おいおい大丈夫かよ。大人しくしとけって」

 

 恨めしそうにトンパという奴を呼んだと思えば不調に体をよじらせる。下剤でも仕込まれたのだろうかと邪推していると、いよいよ深刻そうな表情に変わった男が、さすり続けるスバルの腕を力強く掴んだ。

 驚いて体を引くが、恐るべき強力で掴まれてしまい離れられない。

 

「おい、なんだよ離せ」

 

「おいアンタ。俺は、パンナビという。アンタに頼みがある……くっ!」

 

「無理すんな」

 

「黙って聞け! 俺は、今日ハンター試験に参加する予定だったんだ」

 

 大声で遮られ驚いた耳が、気になる発言をキャッチした。

 それは、つい先ほどキツネ目の男から教えて貰ったとんでも難関試験だった。

 

「ハンター試験?」

 

「あぁ。だが、ある男に下剤を仕込まれてしまって、このザマだ。おそらくもう参加は不可のうっ!!」

 

 苦しみに顔をゆがめながらも、言葉を紡ぐ男。荒い鼻息と額に浮かぶ玉汗が男の懸命さをこれでもかと伝えてきた。自然、聞き手のスバルの背筋も直っていく。

 

「だが、あの男――トンパは絶対に許せん。そこでアンタに頼みたいんだが、俺の代わりに試験に参加してトンパを、くぅっ! 試験から引きずり下ろしてくれないか……」

 

 思ってもみない状況だった。

 これは、スバルに替え玉受験をしてくれと言ってきているのだ。

 

「もちろん、アンタが試験を受かる必要はない。替え玉というのも、すぐにバレてしまうかもな。だが、何としてでもトンパを、トンパに一発かまして欲しいんだ!! 頼む!!」

 

 千載一遇のチャンスは、思ってもみないときに、想像もしないところから降ってくるもの。

 ハンター試験に参加するチャンスが目の前に到来した。彼の頼みはともかく、もしかして上手くやればハンター試験に合格するかもしれない。それこそ、スバルに秘められたチート能力が発動して見事に試験の難関を突破してしまうかもしれないのだ。

 この時、断るという選択肢がスバルの頭からなくなっていた。

 

 男の手を強く握って、スバルは応えた。

 

「任せとけ。俺がそのトンパって奴の横ッ面、ひっぱたいてきてやるからよ!」

 

 もちろん真の目論見はまた別の所にあったが、男にそれを知る術はない。

 安心したようで柔らかい笑みを浮かべる。

 

「あ、ありがとう……。私の鞄がそこに転がっている。その中にある替えのローブを着ていけ。向こうのレストランの前で女のナビゲーターが私を待っているはずだ。任せたぞ」

 

「ああ、任された」

 

 すぐに近くに放り出してあった鞄からローブを出して身につけると、顔がバレないように深めにフードを被ってさっきまでいたレストランへと急いだ。

 広場を突っ切ると、男の言うとおり目のぱっちりした女性が誰かを待っていた。彼女はスバルを見つけると、大きく手を振って、

 

「パンナビさん!! 早くー! もう始まっちゃいますよ!!」

 

「あ、ああ悪……すまない。少しトイレが手間取ってしまった」

 

 慌てて声色を変えて応える。女性はスバルを待たずに店内に駆け込むと「ステーキ定食! 弱火でじっくり!」と外まで聞こえる声で叫んだ。

 後を追って店内に駆け込むと、ちょうど奥へ続く扉が開かれるところだった。

 

「さ、中に早く!」

 

 促されるまま、中へ入る。扉が閉められたと思うや否や部屋の床が下へ緩やかに落ちていった。

 

「おぉ! なんだ、エレベーターなのか。なるほどな、こういう仕掛けでゴン達は消えたわけだ」

 

 それにしてもあたりまえのようにエレベーターがあるとは、思っていたよりも文明が発達した世界なのかもしれないなと考える。いやむしろ、現代でもこのような仕組みのエレベーターはなかった。自分の元いた世界よりも発展している可能性もあるとスバルは唾を飲み込む。

 どんどん下っていく部屋の中で、スバルの鼓動は対照的に加速していった。

 なりゆきで参加する事になってしまったが、果たしてどんな人が集まり、どんな試験が待ち受けているのだろうか。

 だが、その疑問の片方はすぐに晴れることになった。

 

「B100」の表示が光って、チーンという音と共に扉がゆっくりと開く。顔を上げて気圧される。

 

 そこは配管がむき出しとなった半円状の大きな通路だった。そこには沢山の人間が集まっており、いずれも顔つきが只者でないのはハッキリとわかった。

 豆頭の男に、番号札を渡される。そこには「406」の文字が。つまりここには四百人以上の受験生がいるということだった。

 

(どいつもこいつも、生半可じゃないってことか……)

 

 張り詰めた空気に肝を冷やしながらも、スバルはどこか楽しい気分で試験が始まるのを待った。




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