幻愛   作:ヤン・ウェン・リー

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第2話

------------------------- 第5話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月20日 木曜日

 

【本文】

 7時にララが起こしてくれる。

 今日は体育館で集団授業がある。

「お誕生日おめでとうございます」

 ララがミクロソフト社製の神経伝達ヘルメットをプレゼントしてくれた。

 僕がコエプコン社から払われる給料なのだけど、資産管理はララがしている。

 50万円はする。

「今日から15歳ですね。CERO Cのゲームができますね」

「うん。魔王とSAGEがミクロソフト社に提供している。

『スペーストレイダーズ』をやるんだ」

「調整と契約、ゲームのダウンロードをやっておきますね」

 通信が超高速化しているから、ララなら全て含めて5分とはかからない。

 その間に食事をとる、道着や体操服や水着はララがそろえてくれた。

 行進の授業もあるからみんなコエプコン社製の軍服を着て体育館に集まる。

 ララ達もついてくる。

 2Fから授業の様子を見る。

 自分のマスターがイジメにあってないかチェックしている。

 玄関から部屋をでると勇者もでてきた。

「オス」

「オス」

 短くあいさつを交わす。

 勇者もコエプコン社デザインの青を基調とした礼装用の軍服を着ていた。

「おはようございます、マスター勇者」

「おはようございます、マスター夕夜」

 ララと姫がそれぞれのマスターにあいさつした。

 僕達は体育館に向かった。

 渡り廊下もドーム型で完全無菌状態。

 少し神経質に思えるが、中国が海岸沿いに125基の原子力発電所を建設したが、半数がポシャってメルトダウンを起こした。

 東側に位置する日本は偏西風の影響によって大量に被爆し、遺伝子改良してない人間でも発癌率は10倍に跳ね上がる。

 日本海、黄海、東シナ海、南シナ海は死の海とかした。

「おはようございます」

 体育館付近でエリーが僕と勇者に後ろから首に抱きついてきた。

「エリー、顔が近い」

 僕が顔をそむけると「そう」と言いながら顔を僕の方に向け近づける。

 エリーだけは軍服を着ても男の娘にしか見えない。

 脳波で動く黒のネコミミヘアバンドと、脳波で巻いて動かせる黒のシッポをベルトに取り付けている。

「たまにしか肉体で会わないのに」

「お前、まだ金玉ついているんだろうな?」勇者が口にする。

「カラカラカラ」天真爛漫な笑顔を見せて「コエプコン社と精子を提供する契約を結んでいるのに、それにセックスは気持ちいいから、女装までが僕の限界ですよ」

 彼もまた魔王と同じで性転換まで考えてない。

「あ」軍服を着た太郎が向こうからくると、僕達との会話がまるでなかったようにうち捨てて、太郎の隣を並んで歩く。

 バスケットコートが8枚ある鉄筋コンクリートで造られた大型体育館に入る。

 

 1時間目は行進の授業である。

 

 国家から自衛隊の人が派遣されてくる。

 途中でかなり殺菌するらしい。

 遺伝子上の理由から徴兵は免除されている。

 遺伝子強化をした精鋭部隊は志願制だ。

 産まれる前でなく、効率は悪いが成長期に改造できる。

 本人の意思を反映して動物や昆虫の遺伝子を組み込むことができる。

 この場合はキメラと呼ばれている。

 アメリカがプレゼンスをさげているから自主防衛にカジをきらなくてはならない。

 徴兵も平和憲法下では2週間ほどの研修らしい。

 最初に整列して教育勅語の唱和を行う。

 幼稚園の頃にはそらんじている。

 規律正しく行進できれば10分ほどで終わる。

 その後は武器の歴史、戦争の歴史、サイバーテロ対策などの講習が始まる。

 時々はレーザーサイト付きのレーザーライフルを撃たせてくれる。

 レーザー光線兵器は開発と組み立てが済めば、1回当たりのコストは電気代10円。

 弾薬はライフルが55円でピストルが25円、ミサイル等に比べれば圧倒的に安い。

 狙撃技術は全ての世代の中で僕がNO.1である。

 

 2時間目は武道の時間

 

 まずは畳を取り出して並べる。

 みんな柔道着に着替える。

 コエプコン社のヒットゲーム『道路戦士』のスーパーアドバイザーの龍先生が授業をなさる。

 龍先生は160センチと小柄ながら指をつかませて逆に投げ、空気投げをする達人である。

 授業の終わりごろになるとゲームの今後の展開について話してくれるからみんな好きだ。

 格闘技オタクで世界中を旅して武者修行をしてきたゲームの主人公のような人。

 あらゆる流派の中国拳法会得している。

 日本の武芸十八般の手裏剣、火縄銃、立ち泳ぎ、乗馬はもちろん、

 南はインドのカラリパヤット、

 北はロシアのコマンドサンボ、

 西はアフリカのマサイ族の村にて槍一本でライオンを狩っていた。

 一人の人間がよくこれだけ凝縮した人生を送れるなと感心する。

 突きや蹴りなども教えてくれる。

 急所打ちも教えてくれる。

 しかし、試合形式は政府から業務通達がだされた柔道オンリーである。

 礼で始まり、礼で終わる。

 相手を重んじる精神が身に付くらしい。

 このルールで宗茂が一番強く、僕は二番だ。

 エリーが一番か二番目に弱い。

 座学もある。

 新渡戸稲造の「武士道」や山本常朝の「葉隠れ」などの講習もある。

 座学では完全記憶のある太郎がトップだ。

 龍先生もマンガに影響を受けているため同人誌を作って配布してくれる。

 江戸時代の昔から柔術など北斎マンガで解説がある。

 龍先生はコマ割りをしてネームを書いて、目を書くだけ。

 後は一番弟子のA世代の遥さんがコンピュータにスキャンして、電子ペンでペン入れして、スクリーントーンをはり、時にはカラーリングして、セリフをうって仕上げている。

 コエプコン社は『道路戦士』の普及を目指すため、仮想空間で武術を学べる有料のパッケージを配信されている。

 空手ならば基本の突き蹴りをAIがこちらの身体を使う。

 シャドーと言ってすぐそばであらゆる角度から研究する事ができる。

 鏡のように写った自分の身体を見ながら、マンツーマンで呼吸法や力の入れ方、脱力の仕方を個人の3Dデータを参照して教えてくれる。

 ゴースト型の使い方を身体でトレースして覚え、NPC相手に使用してみる事が出来る。

 自分の成長に合わせて色々な格闘技や武器を使った戦い方のプログラムをアップデートする。

 僕は龍先生が監修したすべての格闘技。

 居合まで含めたすべての白兵戦技を最終段階まで履修している。

 授業内容は柔道なのだが、みんな15歳になった事もあり。

 終わり際に今度発売される『龍の教典』の戦闘のコツを詳しく教えてくれた。

 

 3時間目はダンスの授業

 

 政府が武道とセットで奨励している。

 多分深刻な少子化対策だろう。

 役人の考える事はよく分からない。

 男の童貞率もハネ上がっている。

 男に原因があるというより女が変わった。

 産みたい時に冷凍精子をチョイスして産めばいい。

 細胞分裂の回数券と言われるテロメアを回復するテロメアーゼが販売されて、富裕層の女性は外見どころか子宮を含む中までも若返ることができた。

 妊娠年齢が10代後半から30代後半までとあせる必要もなくなった。

 侵襲型のマイクロチップはホルモンを調整して妊娠できる状態にできる。

 出来ない状態にすることも可能だ。

 H世代には女がいないからララ達ロボットが2Fから降りてきて相手をつとめる。

 エリーのロボットの真里亞(まりあ)が際立って美人である。

 また、国はiPS細胞を使った同性間カップルによる子作りを認めた。

 精子と卵子ができる。

 精子だけなら肝臓細胞からも作ることができる。

 人工子宮を使わなくてはならない男性間カップルより、女性間カップルの方が子供を持つ確率は圧倒的に多かった。

 iPS細胞を使わなくてすんだから安くついた。

 身体的特徴も女性の方が子育てに適していた。

 富裕層は愛人にも子供を産ませ、日本政府もそれを奨励して配偶者控除を撤廃して、婚外子の遺産相続の権利を承認した。

 キリスト教圏ではないから一夫一妻でなくても日本社会は許容的。

 妻妾同伴どころか愛人で会社を作り、食べさせてもらう多淫症(スーパーセクシャリティ)なども現れた。

 シングルマザーが激増した。

 

 4時間目は健康診断

 

 ウェアラブルコンピュータには健康管理デバイスが内蔵されていて、健康に生活していれば保険料は割り引かれる。

 身体に異常がないか専用人工知能(特化型人工知能)が各種センサーを使いスキャンする。

 X線やMRIなどの画像診断能力は人工知能の方が人間の医者より早くて正確。

 百万分の一の珍しい病気まで発見する。

 0コスト診断。

 匂いセンサーはゲートを通過するだけで、ヒートマップのように可視化できる。

 もともと犬が匂いで病気を感知していた。

 腎機能障害ならアンモニア臭、糖尿病であれば甘い匂い。

 胃の障害なら腐った卵の匂い。

 肝機能ならドブの匂い。

 ガンも含めて様々な疾患が体臭に結びつく。

 自宅のトイレセンサーで排泄物から健康状態や腸内細菌のバランスまでチェックしている。

 必要とあらばナノマシンを血管に注入して治療も行う。

 血液から作った電力や細胞に存在するアデノシン三リン酸を動力として動く、ウィルスのような「自己複製機能」は備えていない。

 ヨーロッパでは環境保全AIがどう学習(クレイジー)したか、人間だけ有害なナノマシンに自己複製機能を持たせて散布する事件があった。

 ウィルスのように数個が1日で百万個に膨れ上がり飛沫感染した。

 消化器官ならカプセルを飲んで手術や薬の散布を患部に行う薬事ロボットの場合もある。

 ウィルスぐらいの大きさのナノライトも開発された。

 紫外線をあてれば患部が光ったり、血管や血液が光ったり用途に合わせて使い分けている。

 身体測定や体力測定も同時に行う。

 コエプコン社でも使用するマイナンバー用の3Dアバターの更新もする。

 リアルネーム(日本では戸籍上の名前、アメリカでは出生証明書にある名前)には国民統一背番号(マイナンバー)が割り振られた。

 社会保証の給付や納税、雇用、不動産に売買、スマート家電の購入など、国に管理されてないがビッグデータに情報は把握されている。

 短時間の血液検査も行われた。

 体外受精とはいえ遺伝子コーディネートした大衆よりは細胞のガン化の確率は少なかった。

 遺伝子改変ウィルスにはガン細胞由来の物もある。

 強靭な肉体、美貌、美声、均整のとれた妖艶な身体を手に入れた代償としての、細胞ガン化ハイリスク。

 ガン自体は早期発見すれば完治できる病。

 BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)が確立している。

 ガン細胞に取り込まれやすいホウ素(ホウ素自体は歯磨き粉にも使われていて人体に影響はない)の特性を利用して、点滴で注入する健康細胞は取り込まない。

 低エネルギーの中性子線をガン部分に照射する。

 ガン細胞内部でホウ素は中性子線に出会うと核分裂反応を起こし、アルファ線が発生する。

 アルファ線はそれまで行われていたX線やガンマ線の3倍の細胞殺傷力を持っているが、影響を及ぼす距離が細胞1個分の長さしかない。

 周辺の健康細胞にはダメージを与えない、効果が大きい上に回数は1回でいい。

 生体治療も発達して、ガン細胞の免疫抗体を取り出して、遺伝子改良して強化してから身体に戻すと治療方法も発達した。

 細胞の増殖を抑える遺伝子のスイッチを入れるだけの治療もある。

 がんの原因は細胞増殖を抑える遺伝子が機能していないだけの場合もある。

 アスリート達にアンケートを実施したら、金メダルをとれるならば寿命があと5年でも構わないと半数以上が答えている

 。

 12時から昼休み

 

 集団お誕生日会が行われてコエプコン社からケーキがでる。

 僕達は1月10日に受精卵の凍結解除を行い、人工子宮に着床される。10月20日に取り出される。誕生日が10月20日と設定される。

 ケーキを食べていると勇者が声をかけてくる。

「魔王とゲームが終わったらロボグルミを持って、おれんちにこないか? 

 バンソニー社にロボグルミのチェックをさせるから、次いでに光ネズミもチェックしてもらおう」

「分かった」

「バンソニーの神経伝達ヘルメットも持ってこいよ。

 15歳になったから、フリーのサーバーで政治的主張が聴けるぞ」

「お前、アダルトポルノのサイトに連れて行く気じゃないだろうな」

 勇者はこの間、バンソニーが提供するアダルトポルノのサイトに年齢データを偽造して進入し、デジタルアイドルとの一夜を楽しんだ。

 あまりにも快感が強烈だったため肉体の方も射精した。

 料理を作るため鼻を改造してあるロボットの姫が気づき、勇者のログを検索して不正アクセスが発覚。

 30秒間電撃によるオシオキを受けた。

 ロボットは規格化モジュール化が進み自衛隊の戦闘用ロボット、メイドロボット、セクサロイド(性欲処理ロボットの造語)と互換性がある。

 スペックの高い規格と金をかければ交換できた。

 人工性器を交換して感触を変えて楽しんでいる人もいる。

 ララの話だが追跡調査の統計を取れば50%の人はミルクがでるように換装しているらしい(本当かな? ロボットが水増ししてウソをつく時はたいてい50%である)。

 規格品をそろえれば安い金額でロボットまでも自作できる。

 外枠のデザインを3Dプリンターで出力して全ての家電製品が世界にひとつだけのオーダーメイドとして自作できた。

 ミクロソフト社の『バンソニーの神経伝達ヘルメットのフィードバックシステムは子供の教育に良くない』とのネガティヴキャンペーンが効果を発揮した。

 キリスト教圏である北米や欧州では優位に進める。

 アジアではフィードバックシステムのデジタルヒロインのポルノソフトが爆発的に受けた。

 ネットで取り寄せればいいだけなのだが、東京では非実在少年少女保護条例があり、ロリコンやペドフェリア向けのソフトが禁止されている。

 お互いにコアユーザーの奪い合いと囲い込みを行う。

 両者は自らのシステムの信望者を集める帝国と化した。

 新しい福祉と新しいサーカスを提供する復活した中世の王国のようだ。

 家臣としてOSを使わせてもらっているゲーム業界や、仮想空間で開発した商品の試させてもらっている企業や、広告団体や代理店が後に続く。

 皇帝に忠誠を誓わなくては商品が売れない。

 電器屋にいけば、物のインターネットによるコントロールといった融合が進んだだけではない。

 小型化されたコンピュータチップと寿命の延びた砂糖電池によって、商品の前に立つだけでウェアラブルコンピュータに情報が送られる。

 立体映像でデジタルヒロインが使用法の解説や性能の説明をるる。

 質問をすればネットのビッグデータから最適な答えを見つけ出して応答する。

「俺だって学習するよ。

 エロは18歳になってからどうどうと楽しむよ。

 魔下 耕世がどんな主張をしているか、聞いてみたい。

 ある意味、俺らコエプコンとは関係ないわけではないだろう」

 最初C世代のテロの時、コエプコン社は標的になっていると思ってなかったから、何の準備もしていなかった。

 リモートコントロールされた戦闘用ロボットが銃を乱射して乗り込んできた時、育児用AIは何をしたらいいかわからなかった。

 皆が子供を抱いてパニックている時、ララだけが当時装甲の積んでない身体で、電撃をオーバーロードさせながら、敵ロボットに抱きついてアンテナを焼き切った。

 ララのデータも同時に吹き飛んだため、3日前にバックアップしたアルゴリズムの検証はされた。

 AIに生存本能がないとはいえ、ララが自己犠牲的な行動がとれたのかわからなかった。

 壊れたメモリからデータのサルベージは試みられたが失敗に終わる。

 あの時ララをかきたてた物は何か? 

 誰にも分からないと勇者から聞いた。

 魔下 耕世にとってロボットは囮で、本命は空調システムにウィルスを仕掛けることだ。

 数多くの監視カメラの中、どうやって潜入出来たか今でも分からない。

 あるいは驚異的に深化した通信速度を使い、外国に拠点を置いて、電気の使用について土地の政府と話し合い、巨大な発電基地を個人所有しているか。

 自分の存在を残さない程のハッキング能力。

「敵を知り、己を知らばっか」

「ダウンロードするならともかく、ご高説を聞くだけなら違法性はないだろう」

「分かった。ロボグルミを持って今夜行くよ」

 

 5時間目は球技

 

 バスケットをする事になった。

 僕と勇者と太郎とエリーと宗茂の5人でチームを組んだ。

 どうもロボット達の人間関係で決まり、戦力の均衡が行われなかった。

 一番運動神経がいい僕がドリブルすればどこにいくか分からない。

 他は言わずもがなである。

 理論家の太郎はバスケットの戦術には詳しい。

 曲がりなりにもボールをゴール下まで持っていく僕に対して「内、外、内とリズムを良くして、敵のディフェンスラインを広げさせないと、切り込むだけでは」と太郎がアドバイスしてくる。

「アホか、お前、内でも入らないのに、外の3ポイントが入るわけないだろう」僕が怒鳴った。

 苦労してなんとか敵陣まで運んでも、太郎にパスしたら入りもしないのに外からポーンと簡単にシュートする。

 一応フォームは美しくて相手チームは入ったのかと錯覚する。

 一番身体のデカイ宗茂に「スクリーン(ゴール下でこぼれたボールを取るための場所取り)」とかっこ良く叫ぶ。

 宗茂は確かにH世代で一番デカイがスピードはない。

 リバウンド(こぼれたボールを取る事)をとれたためしがない。

 エリーにいたってはパスをすれば「きゃー」と叫びながら、よけたり、しゃがんだりする。

 小太りではあるがスポーツゲームをしている勇者だけが少しはマシかなと思っていれば。

 僕も誘われてナムコナミの野球ゲームを仮想空間でしたことあるが、ボールがバットに当たらなかった。

「リアルはダメだ」白旗をあげる。

「なんで?」

必殺技(キラーショット)がない」

 やはりこいつもダメだ。

 だいたいデブキャラは力があるけどスタミナがない。

 1分くらい動けばヘトヘトになる。

 スポーツの基本は走って持久力をつけて、集中力と高いパーフォマンスを長い時間維持する。

 ゲームのアバターと違って現実の勇者の肉体はスタミナも集中力もない。

 ナムコナミもコエプコンの格闘技講座のようにスポーツの仮想空間講座を配信している。

 勇者が「お前、天才肌だから、バッティングとか、ちょっと指導を受ければ。

 けっこうな選手になると思うけどね〜」勧めてくれるが必要に感じなかった。

 それより体質は遺伝子がほとんど決める。

「砂糖に太りやすい」とか「油に太りやすい」とか原因があり、効率的にやせられる個人プログラムはあるのだ。

 社会主義国は「健康は国家への義務だ」と豪語して覚せい剤どころか禁煙さえ強制しているが、勇者は好き勝手に生きている。

 キューバでは昔から速筋と遅筋の割合で幼い選手を振り分けてオリンピックで好成績を収めている。

 中国では遺伝子を調べて個々の適性を把握し、むいている勉強方や基本性格に応じて職業を強制している。

 適材適所だ。

 勇者も専門の機関に遺伝子を郵送して調べている。

 父親はみんな一緒で縄文系が80%、弥生系が20%の日本人。

 北からアイヌ系が、西から弥生系が南から縄文系が入ってきた。

 勇者の母親はアシュケナージ系ユダヤ人(ドイツを中心に東欧にまたがる)。

 イスラエルによるIQ検査で、極めて知能が高いのはアシュケナージ系ユダヤ人だけである。

 セルファルディー系(スペイン在住)やミズラヒム系(中東や北アフリカ在住)やディアスブラ系(各地に散らばる)ユダヤ人の知能は平均と変わらなかった。

 ヒトラーだけが虐殺していたわけではなく東欧とロシアでは時々行われていた。

 優秀な人間が生き残り1世代か2世代で人口を回復していた。

 その成果、若くして死に至る特殊な蓄膿症も遺伝病としてかかっている人がアシュケナージ系には多い。

 勇者も数学的記憶力、計算能力、物理演算力はずば抜けていて、数学だけなら太郎を凌駕している。

 僕達のバスケットがあまりにも下手だから、相手チームが笑っている。

 それを見たララがカチンと来た。花子、姫、真里亞、誾千代が止めたが、ララが飛び降りてきた。

「これ以上はイジメが発生する。選手の交代を」

 審判をつとめるホストコンピューターに喰ってかかった。

「認めます。夕夜出てください。ララ入ってください」

 あまりの事に声がでなかった。

 ララとタッチして入れ替わる。

 ロボットってベースは自衛隊に戦闘用アンドロイドじゃなかったけ。

 試合が再開される。

 ルーズボールをララが獲得すると、ドリブルで5人をごぼう抜き、片手でダンクを決めた。

「こういう風にやれば」

「凄すぎて参考になるか」

 5人でハモった。

 相手チームがおさまらない。

「なんだ、あのロボットは」

「あいつNBAのデータでもダウンロードしているぞ」

「だいたいイジメなんて発生するワケないだろう、あいつらケンカは強いだろう」

 相手チームがホストコンピューターに抗議しまくる。

 そりゃま、そうだろうな。

「抗議を受け付けます。ララ出てください、夕夜入ってください」

 結局取れたのはこの2点だけだった。

「記念に写真撮ろう」

 エリーが言ってくる、みんなで点数を囲んだ。

 右目にカメラを内蔵している真里亞が「1」というと「2」と全員でハモった。

 真里亞がウインクした。

 エリーが自分のブログでアップするのだろう。

 

 6時間目は水泳

 

 コエプコン社は浮かべて溺れなければいい、ぐらいに考えているだろう。

 個人用の流水が用意され自分の体力に応じて泳ぐ。

 タイムを計るわけでもない。

 エリーにいたっては浮輪を使っている。

 

 7時間目はディスカッション

 

 民自党の党員が来て、民自党の歴史や保守理念や政策集団の系譜を講義している。

 どうも敵である進民党は対案をだすことなく批判ばかりしているらしい。

 天皇制に反対している共産党と手を組んだ。

 何人かに別れて議論することになる。

 保守的で愛国的でアジテーションたっぷりの声の大きい奴が場をしきる。

 難民受け入れ、移民受け入れがあり、中国による琉球奪取があり、ネットは右翼の巣窟とかした。

 左翼全盛のころは日教組が10分の1いれば職員室の空気を支配できると豪語していた。

 昔陸軍今総評と言われたこともあるが、昔総評今ネットである。

 

 8時間目は最新家電の紹介

 

 最新家電が用意され、他社の製品も並ぶ。

 近づけばICチップからウェアラブルコンピュータにデジタルヒロインが投影され、外国産も翻訳して性能や使い方をていねいに教えてくれる。手にとって確かめる事が出来る。

 新しいシステムコンピューターや付属のハード、最新プログラム、ゲームエンジン、他社の新作ゲームもプレー出来る。

 使い方が理解できた。

 物自体があらゆる世界共通語である。

 今の時代は大量の開発費と時間をかけて大量生産するより、ある程度商品を企画してネット動画でプレゼンテーションしてSNSで資金を募る。

 群衆資金集め(クラウドファンディング)によるある種の予約生産製造が主流である。

 商品の為に欲しい規格を第4次産業革命(インダストリー4.0)によって実現した無人の全自動自律型電気工場(基本メンテナンスフリー)。

 更に工場同士がネットで連係し、効率よく生産を分配シェアするスマート工場。

[第1次はイギリス発の産業革命(繊維産業、蒸気などの動力革命)

 ・第2次はアメリカ発の産業革命(電力、モーター、内燃機関エンジン、大量生産)

 ・第3次はコンピュータや電子制御による産業技術の革新]

 多彩なセンサー群で機械設備を監視し不良品がでないようにチェックする。

 人間のすることは異常の知らせがあった時の部品交換と定期メンテナンスのみ。

 生産ラインに負担をかけない自動感知による予防修理が行われる。

 壊れてから修理するより、あるいわ定期交換より摩耗する機械をぎりぎりまで使用できる、結果以前より安くあがる。

 センサーは完成品の点検も行う。

 膨大なビッグデータをインターネットに供給し、世界中どこでも納期リードタイムを3日までとして、資材と商品の在庫を極限まで減らす。

 中小企業が得意とする長期契約はやらずに、一週間後の仕事はわからない。

 世界を相手にしているためビッグデータから、この商品にはこれ位の注文があるだろうと大数予測をして[10%も違わない]資材やラインの計画を立てる。

 ここまで機械化が世界中で進むと国際競争力は究極的に電気代まで絞られる。

 チャットで契約とデータをやり取りし、生産してもらう。

 自社で工場を持たない

 組立セットアップして世界中に散らばる競争相手のいない少数金持ち(グローバルニッチゴールド)需要達に発達した無人の輸送能力をフルに使い。

 あらゆるところの求める人に販売する。

 それらの特殊な商品もかき集めて、社員に刺激を与えるのもコエプコンの仕事らしい。

 アメリカの電気自動車は規格化をねらい特許を公開して無償提供したが、日本の燃料電池自動車(水素自動車)の最先端技術はブラックボックス化した。

 日本のモノ作りは1990〜2000年代のポスト冷戦が始まると賃金が20分の1という中国が現れ、同時に第三次産業革命がおこる。

 ブレトンウッズ体制の切り下げから変動為替に移行した。

 数々の産業が国外に脱出し空洞化が起きた。

 新興国による低賃金による人海戦術と産業スパイを含む公開情報のキャッチアップが始まった。

 日本に残った会社はカイゼンを行い、設備ラインを改良し単位時間当たりの生産力あげることで乗り切った。

 諸外国では生産効率をあげると解雇がおこると経営者との間に信頼(トラスト)がない。

 日本のモノ作りの現場は効率をあげても社長が新しい仕事を取ってくると信じてバタ狂いしながら必死に頑張った。

 人工減少によるボトルネックも孤立化型(スタンドアローン)人間型ロボット(アンドロイド)の導入で乗り切った。

 ブラックボックスのデータはインターネットを経由せずにVPNなどの専用回線をつなぎ情報を守った。

 組み込みようOSはTRON(プログラムの起動で優先順位がある)で各社非公開にし、アンドロイドでも使われるLinuxは公開にした。

 現場の人達はアンドロイドに名前をつけて可愛がっている。

 家電製品は構造と機能が1対1対応ですっきりしている「組合モジュラーせ基本設計思想アーキテクチャ」で中国、朝鮮、ASEANにかったぱしにやられた。

 しかし、構造と機能が多対多対応で因果知識や固有技術がたくさんいる「擦り合わせ(インテグラル)基本設計思想(アーキテクチャ)」では、自動車などは一歩も譲らなかった。

 アメリカでの生産はベルトコンベア式で野球の編成と同じだが、日本はセル組立型で個人や少数のチームが完成まで受け持つサッカー型だ。

アメリカはエンジンの圧力ネジをインターネットオークションにかけたが日本の下請け業者も参戦した。

 値段が合わなくて早々に撤退。

 中国の会社が落札したが、中国製の圧力ネジは3年持たない。

 中古車市場で日本車は40%落ちで引き取ってもらえるがアメリカ車は70%落ちまで下落した。

 中古車で売ることまで視野に入れた購買層がみな日本車に流れた。

 車も個人所有より、会社によるリース。

 駐車場から駐車場は乗り捨てる1日リースが流行した。

 中小企業の部品メーカーは、外は「モジュラ」で中は「インテグラル」で対抗した。

 集積回路は中国や朝鮮にコピーされたが、基礎工業力がいるコンデンサーなどはコピーされなかった。

 日本の企業は商品がいかに使われているか追跡調査をして、建設機械などは転売情報まで入手していた。

 諸外国はペタの情報を超えるがビッグデータが活用できるようになって商品の追跡調査を行うようになった。

 もともとはある程度のサンプリングデータを元に母集団の情報を類推する統計学が使われていた。

 今では母集団の情報をわしづかみにしてAIによるビッグデータ分析。

 統計学は欧米でも衰退した。

「クローズ」「緻密」「すり合わせ」「自己完結」「ギャランティ」を尊ぶ日本社会では誰に責任があるか、ガバナンスがいるオープンイノベーションのスマートフォンや、分権的なスマートグリッド小規模発電やコストの最小化ではコテンパンにやられた。

 コレコレという技術をどう使い、これからの社会はどうあるべきか、哲学的な思考がいる出口戦略も弱い。

 日本中小企業にも何か異質なものが近づいてきていた。

 世界統一規格による世界全工場並列処理。

 労働集約的な製品(貿易材)の労働力が多い国が得意とする。

 資本集約的な製品(貿易材)は資本の多い国が得意とする。

 調整集約的な製品(貿易材)は調整能力の高い日本の工場現場が得意とした。

 最後のフロンティア・アフリカまで開発がすむと労働者の賃金もグローバル化してどの国でも高騰した。

 日本の工場による逆キャッチアップがおき、同じ給料でも日本の現場が生産能力と品質管理(クオリティ)納期(リードタイム)で圧倒した。

 経済取引は相手を信頼しないと成り立たない。

 国家が商法など法制度、不動産などの登記システム、格付け、消費者保護制度など整備してないと国際貿易ができない。

 朝鮮は法の上に反日がくるし、中国は共産党の都合で法を変え、工場が撤退する時「社員の生涯賃金を保証しろ」と言ってくる。

 信頼性の欠如が昔から大きな問題だった。

 

 そして集団授業は終わり、ララと部屋に帰る。

 さっそくミクロソフト社の神経伝達ヘルメットをかぶる。

 アバターは国家に登録している3Dデータを使用しなくてはいけない。

 国家から振り分けられるマイナンバーも登録しなくてはいけない。

 匿名性を徹底して失くす。

 誹謗中傷が起きれば犯人を突き止めて、ログを証拠に法的措置がとれるようにしてある。

 さすが洋ゲー。

 権利や人権にウルサイ。

 ヘルメットをかぶりダイブすると味も匂いもない、風も感じない。

 固定されたロボットに閉じ込められた気分。

 魔王が指定したサーバーに入る。

 洋ゲーとはいえSAGEが提供しているからキャラクターとかは日本調である。

 名前をピヨッピーと打ってゲーム『スペーストレイダーズ』で使用するアバターを造る。

 SFの割に宇宙人がいない。

 土星のリング周辺をうろちょろする宇宙開拓時代。

 情報伝達が異常なまでに発達して、死んでも記憶を移動させてクローンで宇宙ステーションに蘇生してやり直しができる。

 基本ソーシャルゲームはセーブポイントからやり直しというのがなくなった。

 ナノテクノロジーか究極なまで発達してじっとしているだけで、傷ついたHPが自動で回復するらしい。

 サイバーパンクのように機械をあちこち入れ込むことができない。

 アジア系を選択して髪をピンクにして入った。

 クローンの培養槽から出てきた、手違いによって記憶がないという設定になっている。

 ゲーム世界の説明を受けロビーにでた。

 ただなれてくると視覚と聴覚しかなくても残酷な映画をみて眉をひそめるように、身体移転《ボディオーナーシップ・トランスファー》とよばれている。

 この程度でも「間違いなく自分の身体だ」という感覚に襲われる。

 傷みはないが遠隔ロボット操縦の技術はアメリカが上だ。

 魔王からも説明を受けている。

 ゲームの総指揮をとったのがマイケル竹中、自由競争主義者そして最小国家主義者。

 SAGE自体は『幻の星』というSFオンラインゲームを展開していたため、そのノウハウがありスペースオペラに適正があった。

 ハマれば面白いらしいが初心者にはかなり敷居が高い。

 ミクロソフト社はバンソニーのような買い取り型のゲームマネーではない。

 それぞれのゲームが仮想通貨を設定し、ドルで仮想通貨を買えるだけでなく、ある程度貯まった仮想通貨をオークションで売り、ドルを獲得できる。

 こうなってくるとゲームというよりセカンドライフと言った方がいい。

 ある意味、ヘビーユーザーがたくさんの金をゲーム運営会社に納める。

 ライトユーザーがシナリオをクリアして小金をゲーム運営会社から稼ぐ。

 富の再分配と見れば新しい福祉モデル。

 神経伝達ヘルメットは身体に障害がある人も、お金がなくて義体化や再生医療を受けられない人も、同じスタートラインに立てる。

 神経伝達ヘルメットを買えればだが。

『スペーストレイダーズ』では、実際のマーケットで売り買いされている架空通貨(ガットコイン)をゲームでも採用している。

 バンソニーのゲームマネーは他人に譲渡できない。

 架空通貨(ガットコイン)は電子マネーというよりは決算システムである。

 システムが機能するルールを公開して誰でも参加でき、コインがどこどこに移動したとの決算がとりあえず一度情報プールにプールされる。

 金堀人マイナーと呼ばれる人達がプールから情報を取り出し決算表を作成する。

 そして1番たくさん情報を盛り込んだ決算書が採用される。

 めでたく採用された方は75ガットコイン(1ガットコインは3万円ぐらい)が決算書に支払われる。

 それが10分おきに行なわれる。

 作られた決算書は51%のマイナー達が正確であると認証して自分の決算書を作り始める。

 51%の人がウソをつけばガットコインの横領ができるのだけど、みんなお金が欲しいからそんなことはありえない。

 仮に51%をあざむけるハッカーならマイナーになった方が合法で儲かる。

 マイナー達は1秒間のコンピュータの計算回数をあげるため、専門のコンピュータを複数。

 クーラーがいらない北欧の中で、電気代の安い地方で並列処理している。

 情報プールから自動で拾得さるプログラムも開発して、マイナーなんて物は素人が手をだせる物ではない。

 少額の運用の場合、ブロックチェーンシステムに負担ばかりかける。

 両替所がいったん預かりプールの中に投入するしかない。

 10分待たなくていい、ほとんど即決。

 ある程度たまったら両替所が自分の決算書にあらかじめ書いておき、いっきにプールに吐きだして他のプログラムをだしぬき、75ガットコインを獲得するというビジネスが成り立っている。

 銀行にお金を置いても利息という旨味もなくなりマイナス金利。

 送金の手数料はガットコインの方がはるかに安い。

 第三諸国ではウェアラブルコンピュータはあっても銀行の支店はない。

 出稼ぎ外国人はガットコインでやりとりしている。

 昔は公開鍵や秘密鍵などの認証が必要だった。

 昔は暗号解読が一万年かかる時間が保証になったが、今の超量子コンピュータの実力なら1分以内に解読する。

 今ではマイナンバーと所有するウェアラブルコンピュータの暗号が代行してくれる。

 その代わりガットコインの移動は税務署に筒抜けになり、自動で課税された。

 ハッカー対策でシステムのアップデートは毎晩夜中の3〜5時の間に行われている。

 今ではAI達が新しい発想で組んだ暗号はクッラカー(悪人ハッカー)の能力を超えていた。

 一応ガットコインの発行額は決められていて、ある程度期間が立つとマイナーへのご褒美を減らしながら、インフレにならないように終わるのである。

 ゲーム内の仮想通貨と違って、ネットで日用品や食べ物を買うことができ、無人のマルチコプターで部屋の窓に配達してくれる。

 追加料金を払えばゴミや排泄物を回収してくれる。

 アメリカではブロックチェーンシステムによる企業経営ができないか「DAC(Decentralized Autonomous Corporation:分権化した自動企業)」呼ばれている。

 組織の運営を社内取締役CEO:社長ではなく、透明性の高いプログラムで経営できないか実験が始まっている。

 分散台帳方式ブロックチェーン世界中のマイナーに分散されるため改ざんされにくい。

 仲卸業者や中間人のマージンが0になる。

 国際送金、著作権、制作業界、アート作品の管理、ヘルスケア、エネルギー産業、クラウドソーシング、土地登記、サプライチェーン、シェアリング・エコノミーなどが2分で一万円の報酬で政府に寄らないマイナー達が管理している。

 国家は公的認証サービス(土地登記、婚姻、出生、死亡、パスポートのID、戸籍登録、財産権の記録)は国民のみが参加する(1分毎の報酬は国によって違う)プライベートブロックチェーンを活用して自動化した。

 納税、警察、教育、医療、選挙、会社設立などの多くの公的サービスがオンラインの上ペーパーレスでうけられた。

 国民・政府職員双方の手間やコストが大幅に削減された。

 第三諸国では自国の通貨より信用がある。

 もっとも貧者は10人位のグループを作って1台のウェアラブルコンピュータを買う。

 各人が独立した暗証番号を持って仮想通貨の運用していた。

 電気は屋根の上に太陽電池を置いていた。

 耐久消費財の複数人使用。

 その権利はスマートプロパティと呼ばれている。

 そもそも個人にとって貨幣の価値など次の4つである。

 ①交換の媒介②価値の尺度③価値の貯蔵手段④喜びの提供。

 政府発行の金と交換できない不換紙幣だって、デフレになれば価値は上がり借金している奴は苦しむ。

 インフレになれば価値は下がり借金している奴は喜ぶ。

 需要と供給のバランス曲線は保存がきかない縄文時代なら、昨日とったウサギを売らなければ悪くなるという計算が働き、魚2匹で我慢しますというのが成り立つ。

 貨幣になって価値を貯蔵できる。

 必要な時、必要な物を、必要なだけ買うのであり、生活必需品なら品薄になれば(昔は買い占めもあったろうが)値上がりもあるだろうけど、それ以外はナンセンスである。

 たくさん需要がある企業も薄利多売をすることもある。

 カルテットするならともかく独占できてないなら得に。

 石油の値段が下がれば原料や輸送費が下り、デフレとは関係なしに商品の値段は下がる。

 狂った政権の間違った経済政策によるインフレターゲット2%は「デフレになれば支出を延期する」とか「インフレになれば買い急ぐ」とか人は効率的にできてない。

 将来に不安があれば財を貯めるのである。

 消費税が上がる度に駆け込み需要はあるが。

 日銀のマイナス金利を持ってしても実現はしなかった。

 金利が下り富裕層は何で貯蔵(財を未来へ運ぶ、運用する)したら価値が暴落しないか(希少金属『金』も石油と一緒に暴落した)。

 税金は安いかそればかり考えている(マイナス金利だから銀行に預けたら資産が減る)。

 一方遺伝子をイジってない貧困層の子供達はカロリーのほとんどを給食と配給でとる。

 ウェアラブルコンピュータで流される無償の通信教育で貧困からの脱却を試みる。

 さらにこの政権が残した解釈改憲と言う負の遺産と貨幣乱発による暴落した国債(金利も高額化した)の借金から日本はまだ立ち直れなかった。

 消費税を50%にしてもプライマリーバランスは黒字化しなかった。

 ゲームの説明を受けて培養槽の部屋からでた。

 死んだ場合はインプラントコンピューターから培養槽に情報が送られ、ここからクローン代の0.01ガットコインを払ってゲームに復帰する。

 インプラントコンピューターとスーパー情報通信のおかげで経験はキャンセルされないという設定。

「魔王。今培養槽の部屋からロビーにでたよ」

 日本語で全体チャットした。公用語は英語。

 金髪のアングロサクソン系の女が小さく手を振りながらやってくる。

 このゲーム、チュートリアルが終わったばかりだと身長140センチ体重50キロの丸坊主。

 金を払って髪型や体格や巨乳をガットコインで買わなくてはならない。

 巨乳はHPが増え、体格は攻撃力が増え、脂肪は防御力が増える。

 アメリカ的体格は正義なのである。

 女が有利だから、魔王は性別を変えている(元に戻したと言うべきか)

 動画でトロフィー授与の画像では貧乳だったが、ゲームではHPが稼げる巨乳にしてある。

「ようこそ、ピヨッピー。CERO Cの世界へ」

「始めまして、CERO Cでいいのかな」

「基本全員商人で、全員海賊だと思ったがいい」

「一応、ゲームの日本人ギルドが運営しているホームページは読んだ。

 チュートリアルもない、自由度満点で日本人には向かない、って書いてあった」

「まあ、そうだろうな。

 基本人殺してもペナルティがない。

 かといって経験値がないゲームで武装強化、超能力開発、宇宙船購入。

 全部ガットコインのやりとりだから殺しても金は手に入らない。

 装備は奪えるがロットナンバーで管理されているから、市場に被害届けをだせばNPC商人に足元見られて100分の1で買い叩かれる。

 安全でいたかったらダイヤとか身につけないことだな」

「土星の周りにある宇宙ステーションは安全地帯じゃないの?」

「ここでドンパチやる奴はいないが、禁止事項ではない。

 基本自分の身は自分で守る。

 ここでは高い税金を払っているが、国家は安全保障をしない。

 国家のしていることは新兵器の開発、隕石に点在する資源の調査、オークションなどの市場操作かな。

 後はゲーム開発資金の回収と運営しているプログラマーの給料になっている」

「警察もなければ、保険もない。

 なんかマイケル竹中って最小国家主義者というよりは無政府主義者《アーナキスト》だな」

 保険というのは加入者による互助組織で、運行する海域の損耗率で保険料を決める。

 第2次世界大戦の民間船の損耗率は第一次世界大戦のイギリスの保険会社のデータによって予測は立てられた。

 ガン保険も発症率から保険料を計算する。

 海賊が産業のゲームでは計算が成り立たず。

 誰も保険を作ろうとしない。

 経済に参加する各人は、自己利潤のみに専念すべきであって、他に余計な事をすべきではない。

「徴税などで邪魔する政府など本来存在すべきではない」というイデオロギーのリバタリアニズムの方が近いかな?

「そんなにかわいいもんじゃない、あんまりひどいのは土星政府が被害者と共同でデッド・オア・アライブ懸賞金をかけたりする。

 クローン技術があるから死にはしない、自分が優位の時は捕まえて冷凍刑にできる。

 ゲームを辞める奴もいるが、ガットコインが稼げる奴には稼げるから保釈金の0.1ガットコインを土星政府に払ってゲームに復帰する奴もいる。

 海賊ギルドがあちこちで組織され、隕石を改良して根城を作ったりする。

 資源隕石を確保しても、埋蔵量と1日に掘り出せる掘削技術にも限界がある。

 資源隕石もいつかは枯渇することで市場をコントロールしている。

 どのギルドにも所属しない宙域や係争地帯に、ある程度の埋蔵量を持った資源隕石が発見される。

 戦争の道具の矛と盾をずらしながら開発して、ガットコインを湯水のように使うへビーユーザーの購買欲を刺激する」

「トレイダーズだから、貿易が主流じゃないの」

「最初はそうだった。

 超光速通信で土星の周りにある5つの宇宙ステーションに市場マーケットが存在したが、資源がだぶついている所が安くなって、資源が少ない所が高くなっている。

 Aという市場で買ってBという市場に売る。

 そういう商売が成り立つと思っていた。レーザー推進の移動が値段情報の通信速度より時間がかかるため、他の人間も同じことを考えていた。

 宇宙ステーションについたときには、供給過剰になり値段が暴落していたという笑えない話もある。

「政府が安く買って高く売る」商売をしていることにみんな気づいた。

 資源隕石で採掘して、手数料を払って、オークションにかけた方が高く売れて、買う側も安く買える。

 お金を貯めようとすれば、資源隕石で採掘してオークションで販売するのが一番いい。

 基本ゲームでデータだから倉庫に保管する場合は泥棒できない。

 使用料払って、オークション見ながら売り時に、はき出すのが一番いい。

 オークションの手数料は自分が設定した最低価格の2%(2日以内に売れなかった場合は打ち切り、その場合でも手数料は取る)」

「今から(怪獣狩人のゲームみたいに)ホリホリ?」

「いや、海賊するから、個人戦闘装備を揃えてくれ」

「宇宙船が闊歩する世界で個人装備?」

「説明が悪かったな。資源隕石を採掘しているのは、人間じゃなくてロボットなんだ。

 プレイヤーは資源の運搬をしたり、海賊したりしている。

 複数の資源隕石を運営しているから、全てを管理するのが難しい。

 プレイヤーがいないときに資源隕石から、採掘して貯めてある資源を泥棒するのが手なんだ。

 もちろん防衛施設を敷設している。

 そいつらを倒して資源をいただく、お前にとっては始めての無重力戦闘だ」

「装備、どれくらいかかる?」

「武器も、防具も、政府が電子タグ。を付けて、ロットナンバーを割り振って、廃棄まで追跡(トレーサビリティ)で移動を管理している。

 リーダからの電波をエネルギー源として動作するRFタグで、電池を内蔵する必要がない。

 タグのアンテナはリーダからの電波の一部を反射するが、ID情報はこの反射波に乗せて返される。

 反射波の強度は非常に小さい。

 あらゆる認証機能をつけた武器が賢くて、使用者本人でなければ引き金がロックされる。

 ナイフはともかくレーザー系のソードは光る刀身が出てこない。

 1ガットコインあれば最強装備電磁ガンが買える。

 無重力戦闘だから反動はないほどいい」

「ふんじゃ、ララに電話するね」

 ゲーム内からサウンドオンリーと書かれた画面が左横に表示される。

「どうしました。マスター」ララの声が左耳からする。

「今からゲーム内で海賊することになった。

 このゲームは暗号通貨のガットコインが流通している。

 このゲームは初心者だからと言って、魔王に守られる存在になりたくない。

 魔王とは対等でありたい。

 男の誇りのようなものだ。

 1ガットコイン(3万円ほど)融通して欲しい、スタートダッシュをかける」

「何、馬鹿なことを言っているのですか?」

「はい?」

「男の誇りがかかっているんですよ」

「はあ」

「10ガットコインぐらい欲求しないでどうするんです」

「はい」

「貯金が趣味だなんて、そんなみみちぃ男に育てた覚えはありません」

「では、10ガットコインで」

「それでは、0.01ガットコインの手数料を支払いますね。10分以内には移動すると思います」

 ガットコインは手数料無しで決算してくれる。

 マイナー達は全ての取引を2日以内に決算しなくてはならない。

 それがルール。51%の正解承認が受けられない。

 逆にマイナーに手数料を払わないと後回しにされる。

 情報プールの中から手数料があるモノを優先するプログラムになっている。

 銀行だと手数料は千円ぐらい取るから安い。

 マイナス金利だから銀行はドロボウ対策としてお金を払って預ける、そして送金のできる金庫。

 僕のデータに10分もしない間に10ガットコイン移動してくる。

「ララって、お前には本当に甘いよな」

 昔はロボットを信じすぎる論理的ジレンマ(エシカルジレンマ)よばれ、社会的なバリヤーが無くしネット銀行の暗唱番号を簡単に話する高齢者が増え、新しいサギも産まれた。

 今ではロボットが複数のプログラムがからみあい大分ええかげんなことがばれ、あまり信用し過ぎない事が周知の事実である。

「武道の龍先生も、ララにペットを育てているわけではないぞ、と人間を育てるだぞ、と説教していた」

 体験授業の一環としての社会参加以外仕事をしていない、家事も手伝っていない、おつかいもしたことない、学習期間ではあるがペットのように生きている。

 それが悪い事をしているとは思えない。

 クリエイティブな仕事をしない限り、実務能力はロボットの方が何をしても優秀である。

 ほとんどの労働者はウェアラブルコンピュータの支持で動いている。

 その方が効率もいいし、間違いもない。

 頭を使わないから楽である。

「ララって、資産管理しているんだろう。大丈夫か?」

「ララがしているわけではないと思う。

 コエプコン社の中央コンピュータが全員の資産を一括で運用していると思う。

 国債の金利の世界平均が1%の時代に年利3%をはじきだしている。

 ララにお金を渡したらデリヴァティブや先物買いやリバレッジに手を出して3日で破産する」

 国債を買ってもらうため年利10%を歌った国はあったが、債務不履行デフォルトをおこし紙クズになった。

 投資家はそこまでのリスキーな商品には手を出さない。

 宇宙ステーションのロビーの中にはショップと土星政府の役所、超能力開発センターそして酒場。

「酒場って何やっているの?」

「このゲームはNPCからのクエストがない。

 誰かがガットコインを払って人間を募集している。

 お前のように誰もがスタートダッシュをかけられるわけではない。

 社長に仕えるサラリーマンとまではいかないけど、人に雇われてガットコインを稼ぐのが序盤なのさ、過激な奴はテロリストとまでは言わないけど、海賊ギルドに入る」

「超能力開発センターって、金を払えばいいの?」

「ガットコインを払って、イベントを受けなくてはいけない。

 ダークマターを信奉する闇の超能力軍団との戦いが待っている。

 物語ストーリーテラーを楽しみたい奴はここで楽しむが、ガットコインを払わないと先に進めない。

 俺は念動力サイコキネスと予知を1レベルずつとった。

 遠くにある銃やレーザーブレードを引き寄せることができ、予知で弾道の予測線が表示され、レーザーブレードの刀身を置いとくだけで勝手にはじきとばしてくれる」

「凄い」

「ちょっとかっこいい。次はお前のイベントを手伝ってやるよ」

 魔王とショップに行って装備を揃える。

 1ガットコインを払って電磁ガンのサンダーボルトを買った。

 レーザーブレードで切り込む魔王を援護する。

 接近戦用で僕もレーザーブレードを買った。

 念動力のレベルを上げるとサイコソードが使えるらしい。

 聞いただけでワクワクする。

 無重力下で身体を安定させる、あちこちに電磁パルスの噴射口ノズルがついた宇宙服を買った。

 反重力機器が存在して、宇宙ステーションの中は重力コントロールで1G安定。

 物理攻撃を見えない力で反発させて無力化する。

 二の腕に取り付けるぐらいの大きさの重力盾グラビティシールドと、光の波長などレーザー兵器を中和させる。

 皮膚に塗るポリマーを買った。

 後は隕石の表面に張り付いたり、高重力で足底を固定したり、スライディングしたり、壁走りしたり、多少距離があっても打ち込む電磁アンカーつきの靴を買った。

 プラズマを発生させて運動エネルギーを殺すバリヤーも買った。

 商品購入によるガットコインの移動は手数料無料である。

 SAGEは大企業、2日ぐらい待てる。

 まだガットコインに余裕があるが、次回の超能力イベントにとっておく。

 魔王が土星政府に行って、宇宙船をレンタルしてくる。

 宇宙船を宇宙ステーションのドッグで作ることができる。

 パワーのあるエンジン、大きな貨物室、レーザー推進、ナビゲーションシステム、機関砲、シールド、強力な亜空間魚雷、レーザー、ミサイルなどドッグを管理する政府と話しあう。

 設計図を作る。

 ドッグを借りる前にたくさんの部品と、それを作る資源が必要、政府に任せたら天文学的数字になる。

 このゲームで外せないのがハイパーレアメタル。

 超能力機器を作るのに必要なミスリル。

 バリヤーや重力コントロール機器の原料となるアダマンタイト。

 超光速通信に使用されるオリハルコン。

 闇の宗教結社が技術を独占するダークマター機関のヒイロイカネ。

 ダークマター機関はヘリウムの光子力推進レーザー推進と違う。

 宇宙の90%を覆う暗黒空間に潜ることができる。

 宇宙で超能力探知やオリハルコン探信音の間をぬいながら潜水艦戦ができ、上級者同士の戦いは予測と駆け引きが必要。

 暗黒空間は通常空間より10倍ぐらい早く移動できる。

 隕石達の干渉も受けない。

 ただ暗黒空間も重力の波があった、座礁する危険地帯がある。

 この空間で高速戦闘すると通常空間の座標が分からなくなりどこに出現するか運による。

 この4つは特別であり、鉱脈が発見された場合は海賊ギルド同士の争奪戦がおこる。

 あとレアメタルとして金・銀・銅・鉛・錫・水銀・亜鉛・鉄・ニッケル・コバルト・ウラン・硫黄があるがゲーム会社のSAGEはわりとだしている。

 だんだん在庫がなくなると値上りするから、先を読んで誰かが取りに行くことはある。

 初心者向けであり、ヘビーユーザーから見向きもされない。

 戦争の引き金にはなっていない。

 ただSAGEは優秀で個人が独占して値を釣り上げ、安く買うため値崩れするほど、空売りできるほどの量をゲーム内にださない。

 その上あまり高くなれば自分で資源隕石に取りに行く。

 宇宙だから石油関連の化石燃料はない。

 推進装置は電磁パルスで、その燃料は木星から宇宙ステーションが輸入されるヘリウム。

 僕が買った宇宙服も、酸素と窒素とヘリウムを背負っている。

 早速宇宙港に行きレンタルした宇宙船に乗り込む。

 空気抵抗や水による流体力学などを考えなくていいから、たくさんの貨物室を作るため宇宙ドッグの幅が船の幅になる。

 ドッグマックスと呼ばれる長方形になる。

 下部に船の長さある大口径レーザーがついている。

 バリヤーが強力で戦闘機程度の出力では有効ダメージを与えない。

 船にガッチリ固定した大口径レーザーか、バリヤーを無効化し暗黒空間から通常空間に攻撃できる亜空間魚雷が必要。

 亜空間魚雷は使い捨てで値段も高いし、機関砲や1人乗り戦闘機やドローンで撃ち落とされるから対費用効果は期待できない。

 ヒッグス粒子を使った対戦艦用極小ブラックホール手榴弾があるが高価すぎて手が出ない。

 レンタルした宇宙船でハイパーレアメタルの争奪戦に参加するのは不可能。

 オークションを見て、品薄になって値段が上がり始めたコバルトの泥棒をする事にした。

 宇宙土星航海図に、だいたい30分ほど光子力推進したところに貯まっている隕石があった。

 光子力推進は100kgの物質を3日で地球から火星まで送り届ける。

 3秒で地球を一周し、有人なら1カ月で地球から火星まで送り届ける。

 光速の30%。

 1日に採掘できる量がだんだん減ってきて、所有者がうち捨てる。

 政府から払い下げてもらった掘削機は隕石から引き剥がすことができないが、防衛施設は新しい隕石に移動させる。

 個人店主にとってはけっこうねらい目。

 基本出発の時は海賊に襲って来ない。

 帰って来る時に襲われる。

 防御のバリヤーが強力だからジグザグ航行しながらけっこう逃げ切れるらしい。

 宇宙船は1人で操縦できる。

 離陸と着陸の時に操縦するぐらいで、あとは宇宙船のコンピュータによるオートパイロットだ。

 操縦席で魔王が運転の仕方を親切に教えてくれる。

 普通はマニュアルを購入するか、誰かに雇われて仕事を盗むかである。

 離陸が済むと何も入ってない格納庫で0G戦闘や射撃の練習。

 宇宙服の使い方を魔王がていねいに教えてくれた。

 しばらくしてだいぶ慣れてきたとき、船のコンピュータが目的地に到着したことを、インプラントコンピューターに報告してくる。

「いっちょ、行きますか」

 魔王がコクピットに乗り込む。

 僕は後ろの背もたれにしがみついた。

「これ以上近づけば、攻撃します」

 隕石のコンピュータが警告してくる。

「ダンジョンファンタジーのドアもこういう奴いるよな」後ろから魔王に声をかけた。

 魔王が大口径レーザーを補助電磁パルス推進で調整する。

 敵の防衛施設の機関砲をねらう。

「これが、答えだー」

 敵のバリヤーを超える大容量レーザーをぶっ放し機関砲を破壊した。

 敵も反撃してくるがこちらのバリヤーを貫通させるような防衛施設は置いてなかった。

 火力の大きな順番に、反撃してくる兵器を大口径レーザーで破壊する。

 発射する時にバリヤーを解除しなくてはならないが、そんなにタイミングが合わせて攻撃して来ない。

 魔王の方がうまい。

 すべての防衛施設を破壊してドッグに乗り込む。

 対人戦用の兵器が攻撃してくるが、レンタル船に傷がつく程度である。

 船についている稼働機関銃で近い順につぶして行く。

「ようし、後は中央コンピュータをハッキングするだけだ」

「スキルか何か?」

「まさか? 土星政府が作った掘削機や宇宙規格のコンピュータだ。

 レベルはあるが、政府が販売しているコンピューターウイルスは100%だ。

 ただ中央コンピュータにフラッシュメモリーを直接接続しなくてはならない。

 そしたら機械の支配権を獲得できる。

 誰かが書き換えるまで俺たちの隕石だ」

 魔王は宇宙船の機関砲で対人戦防衛施設を見える範囲を破壊した。

 インプラントコンピューターにこの隕石で使用されている掘削機Cー160の設計図や構造をダウンロードする。

 中央コンピュータまで矢印がでてくる。

 道に迷わなくていい。

 特殊部隊の専門のゲームをした事はあるが、攻撃側(ASSAULT)防御側(DEFENDER)に別れている。

 両方共OPA(偵察=Observe、立案=Plan、突入=Assault)がベースとなっている。

 攻撃側はカメララジコンによる現状把握やチャージといって壁破壊がある。

 防御側は鉄条網による行動制限やブービートラップによる爆破、タレットと呼ばれる火力のある固定機銃などがある。

 色々ゲームをやっていると固定レーザーの位置を把握するだけで突入してもいいのかな? 

 思わないでもないが、経験者の魔王がサンダーボルトを肩に担いで(装備が魔王とかぶっているが、初心者の内は配信動画される上手な人のプレイをマネするのが一番)「行くぞ」とドッグの通用路に歩き出した。

 どうも一番中央コンピュータに近い経路を通って行く、最小抵抗線の突破という概念は魔王にはない。

 スタンドアローンで動く防衛用ロボットはいないようである。

 壁に隠れながら、カガミで状況を確認しながら廊下を進む。

 作業用ロボットや修理用ロボットは僕達の姿を見ると逃げて行く。

 固定されたカメラとレーザーが僕達を攻撃してくるが、「まあ、見ていろ」魔王が予知能力の弾道予測線に二刀流のレーザーブレードを置いておくことで反射しながら突き進む。

 レーザー機器の足下にくるとレーザーブレードで串刺しにして沈黙させた。

 かっこいい。

 120分の1秒が分かる魔王だからできるのか、それとも予知能力レベル1の人は皆できるのか、それは分からない。

 ただ魔王はカッコよかった。

 何度か魔王が突撃を繰り返したら、目的の中央コンピュータにたどり着いた。

 入力端子に政府から買ったフラッシュメモリーを差し込む。

 たいして時間もかからない内に「マスター。オーダー。プリーズ」と言ってくる。

「今、ドッグにいる宇宙船に積み込められるだけコバルトを積み込んでくれ」

 魔王は慣れている。

「イエス。マイ。マスター」

 僕はなんとなくこのコンピュータがかわいそうだった。

 最盛期には護衛艦がついて、宇宙ステーションと隕石の間を宇宙船が行ったり来たりしたろう。

 これはゲームで、使用されないのなら動かないプログラムだろうけど。

 設定では捨てられても、完全オートメーション化され、太陽電池が供給するエネルギーの下、1日少しずつ掘り出し商品化していた。

 架空通貨ガットコインもインフレ防止の為に、マイナーに対する報奨金をだんだん減らして、市場に供給する量を減らす。

 やがてマイナー達が並列処理しているコンピュータの電気代が出なくなった時、マイナー達はガットコインを捨て、新しい架空通貨に資材と資源を投資する。

 それでもガットコインはここにある掘削機の様に細々と運営されるのだろうか?

「マスター。積み込み完了しました」

「ピヨッピー。帰るぞ」

「マスター。施設に破損箇所があります」

「適当に修理しといて」

「マスター。資材に備蓄がありません。すみやかに供給をお願いします」

「移動できる物は移動したのかな? 修理用ロボットとか置いてあるのに? 」

「たぶん? 新しく買った向こうの掘削機にセットでついているんじゃないの? このゲームは洋ゲーだぜ。もう少しドライに考えないと。奴らに『もったいない』なんて通用しない」

「掘削機ごと移動できないの?」

「掘削機だけはできない事になっている。

 性能のいい新製品も安い値段で政府が販売するしな。

 お前、それぐらいでいちいち悩んでいたらCERO Z(18才以上)のゾンビパニック物なんかやっとられないぞ」

「そんなに凄いの?」

「そりゃもう、異常な所だけはサービス過剰だからな。

 攻勢がやんだ時『お前は、俺を裏切らないよな』と言いながらショットガンに頬ずりをしていたよ」

 魔王の言っている事は多分正しい。

 僕達は宇宙船に乗り込み隕石を後にした。

「帰りは慎重に運転して帰らないと、大手宇宙海賊ギルドの領地は通らないようにしないと」

「そんなに見つけしだい襲ってくるの?」

「みかじめ料を毎月支払えば護衛してくれる。

 戦国時代、瀬戸内海の村上水軍は秀吉が総無事令をだすまで案内人と旗を供給して、襲う船と襲わない船を区別していた。

 そういうものがある。

 ただ恐れられるために襲うのだ」

「ロクでもない話だ」

「そういうゲームだと割り切らないと、実力主義は嫌いか?

 予定調和のゲームの方がすきか?」

「まさか! ふるいつきたくなるほど好きさ」

「お前なら、そういうと思った」

 ナビゲーションコンピューターに海賊ギルドの領地を通らないよう指示したあと、魔王と宇宙海図を見ながら、海賊ギルドが運営するチャットルームで情報を集めたり、政府の発行する情報ニュースをみたりして、コックピットの中で待機していた。

 なんとなくリラックスしていたら、コンピュータがいきなり「未確認の宇宙船が近づいてきています」報告してきた。

「安全じゃなかったのか?」

「最初に言ったろ。みんな副業で海賊やっているんだ。

 弱そうなレンタル宇宙船はねらわれるのさ」

「通信がきました。お受けになりますか?」

 魔王がニヤリと笑った。

「釣れたぜ。お前、よけいな事言わないで、俺に全部任せておけよ」

 魔王の空中に黄色のターバンを頭に巻いたヒゲずらの男が、両脇に2人の男をはべらせ映っている。

 LGBT(性的少数派)というやつだろう。

 ストーカーされるのが嫌でネナベもいるから単純ではないのだけれども。

「よお、兄弟」低い声でニヤリと笑いながら声をかけてきた。

「よお、兄弟」魔王が弱々しく答える。

「そんな弱っちいレンタル船で、どの海賊ギルドにも属さない、個人店主がひしめきあう海域をノコノコ飛んでいたらダメじゃない。

 まるで海賊してくださいって言っているもんだぜ」

「兄弟、勘弁してくれ。

 コッチは初フライトなんだ。

 今レンタル船を壊されたら。

 預けていた保証金の10ガットコインがパァになっちまう。

 俺もやっと個人店主に成れたんだ。

 見逃してくれ」

「そうか、まあ、初フライトならしょうがない。

 撃ち落とすのは勘弁してやる。積荷の半分をよこしな。手伝ってやるよ」

「せめて10分の1で」

「世の中の厳しさを知るいい機会だ」ドスをきかせて「ビタ一文まけねぇ」満足そうに大きな鼻息をならした。

「分かったよ。兄弟」

「分かればいいんだ。

 こちらの誘導ビーコンに従って後部ハッチを開けろ、おかしなマネしたら撃ち落とすからな、宇宙ステーションまでは遠いぞ、俺も賞金首にはなりたくないからな。

 俺はひつこいぞ、出てきた所を撃ち落とすからな」

「分かっているよ。兄弟」

 通信が切れた。魔王が少し笑う。

「よお、ピヨッピー。接近戦《インファイト》の時間だ」

 魔王がコクピットをオートパイロットにすると、サンダーボルトを担いで後部ハッチに向かった。

 僕も続く。

 やがて後部をグラップラーアームで固定する音がした。

 ハッチを開くとき、宇宙共通無線が入ってくる。

「おかしなマネを考えるなよ。こっちは作業用ロボットとはいえ12台、武装させているからな」どうやら敵は12台である。

 動くハッチの一番上に足の裏の電磁アンカーを作動させて固定し、宇宙服の電磁パルスで全身のバランスをとった。

 魔王はハッチの隙間から乗り移る。

 ハッチが開くと見えているロボットからサンダーボルトでヘッドショットして無力化した。

 完全に開くと12台のロボットが中に浮いていた。

 魔王は敵を壁に叩きつけ、腕をねじりあげ無力化していた。

「ネットで『人外』と呼ばれている超反射だけの男ではないな。

 本当にゲームの申し子だな。

 初めてのOSで、初めてのゲームで、初めての無重力戦闘で、全部ヘッドショットかよ」感心していた。

「先生が良かったのさ」魔王を持ち上げた。

「あんたら、いったい何者だ?」

 僕はアンカーを解いて乗り移る。

 魔王は電磁手錠をかけて電磁アンカーで壁に固定した。

 僕がサンダーボルトでコックピットに続くドアを破壊した。

 2人の男がレーザー光線で応戦してきた。

 魔王が僕と敵の間に入り、二刀流ですべての光線を叩き落としながら進む。

 僕は魔王の肩ごしに船長でない方の男を撃った。

 ひっくり返って空中に浮く。

 死にはしない。

 サンダーボルトは人に優しい銃。

 魔王は左手で光線銃を破壊し、右手のレーザーブレードをノドに突きつけた。

「待ってくれ、話がしたい」敵の船長が両手を挙げた。

「お前ら、日本語で話ているな」僕は黙ってうなずく。

 宇宙公用語は英語であり、自動翻訳機が音質まで変換してくれる。

「まさか、海賊を海賊している日本人がいるとは聞いた事があるがお前らか!」

「そんなささいな事はどうでもいい。お互い個人店主だ。取引の話をしよう」

 船長はこくりとうなずく。

「30ガットコインを俺のデータに移せ」

「待ってくれ。ゲームじゃないか! そんな大金」

「ゲームの資源だって宇宙ステーションに持っていけばガットコインになるぞ。何が違う」

 魔王が少し怒った。

「待ってくれ、10ガットコインにまけてくれ」

「ピヨッピー。あんな事言っているぞ」

 魔王が笑った。

「世の中の厳しさを知るいい機会だ」

「ビタ一文まけねぇ、だったかな」

 魔王の問いに僕が答えた。

「俺たちは建築業をやっていたが、ロボットに仕事を奪われて、こうやってゲームで小銭を稼ぐのが精いっぱいなんだ、まだミクロソフト社の神経伝達ヘルメットの借金も残っている」

「このゲームは当たった時の利ザヤが大きい。

 みんな大なり、小なり。そういう理由さ。

 この宇宙船を奪っても土星政府はロットナンバーで管理している。

 宇宙ステーションへの着艦許可は下りないさ」

「…」

「この宇宙船のコントロールを奪い、土星本星に突っ込む。

 ただでは済まないだろうし、SAGEがゲームに提供するスキルの中に潜水引き揚げ(サルベージ)はない」

「やめてくれ」

「建造費だけで100ガットコインはしたろう。

 資源集めに費やした時間を考えれば、お金では変えられない。

 30ガットコインが安く感じてきたろう」

 船長は黙って右手の下にタブレットを出した。

 魔王もタブレットを出した。

 少し操作して魔王のタブレットにコツンと当てた。

 ガットコインが移動したのを魔王は確認した。

「念のためだ。

 俺たち指摘の通り船は弱いんでね。

 コックピットは破壊させてもらう。

 2時間もすれば自動修理は完成するだろう」

 僕がサンダーボルトでコックピットを撃った。

「帰るぞ」

 魔王が船長をねらう僕を動かした。

 ゆっくりとコックピットからでた。

 ゲームをやっていれば裏切られることもある。

 ゲームだからこそ裏切りやすくなりなっている。

 船長はゆっくりと浮かんでいるレーザー光線に手をのばした。

「撃て」

 魔王が叫ぶ。

 レーザー光線とサンダーボルトがコウサクする。

 予測線は後ろからでも分かるのか、僕に当たる光線を魔王が後ろ手にレーザーブレードではじき出した。

 僕はヘッドショットした30分後には動けるだろう。

 壁にアンカーで張り付けた男の横を通る。

 魔王が口にした。

「これにこりたら、レンタル船を襲う商売はやめることだな。弱い者イジメは好かん」

「もう、俺たちに地味な仕事はない。

 ロボット達が建築作業員やウェイトレスや事務方の仕事まで取ってしまったんだぞ。

 ゲームでぐらい一攫千金を夢見てもいいじゃないか? 親分は優しかった」

 資本家が給料も社会保障費もいらないロボットを安く使って、庶民に商品を高く売っている。

 才能と情熱と夢のない人間にとって厳しい時代だ。

 ほのかな恋愛と小さな幸せだけがない。

「それでもだ。誇り高く生きろ」

 バンソニー社のOSが涙を我慢することができないのなら、ミクロソフト社のOSは涙を流すことができない。

 僕達は宇宙ステーションまで何事もなく着いた。

 魔王はバラ売りにしてオークションに出品した。

 ラプターというステルス戦闘機は感知器が小さいから感知できないのではない、鳥の群れのように感じさせるから感知できない。

 それは株の売買でも同じであり、他のプログラムに大きい金が動いてないように感じさせなくてはならない。

 いかにオークションといえど資材が大量に運ばれたと感じさせてはいけない。

 明日はコエプコンの無敵系でもやるかと約束して別れた。

 

 バンソニー社の神経伝達ヘルメットと光ネズミのロボグルミを持って勇者の家を訪ねた。

 ララもついてくる。

 部屋に入ると換気扇してあるのに動物の屍体を焼いた強烈な匂いがした。

「オス」

「オス」

「相変わらず動物の屍体を喰っていんのか」

 人工肉は幹細胞を使い動物胎児の血液から培養できたが、最近は植物から安い人工肉(歯応えを好みで選べる)はできる。

 だけれど勇者は高級嗜好だ。

 母親が極端なダイエット等して低栄養状態になると、子孫は低栄養でも生き残りやすくするため、肥満遺伝子に改変する。

 父親の場合は肥満になると、精子の中にある肥満遺伝子のスイッチが入ったまま受精卵にに伝える。

 孫の世代にも遺伝子が伝授されていく。

 人工子宮が低栄養状態に成ることはないから、勇者がデブなのは卵子の影響だろう。

 精子は一応。遺伝情報はスキャンされている。

「あんな、粉物で満足しているお前達の気が知れない」

 クラウド上で電子タグやロットナンバーの肉の追跡調査トレーサビリティができ、どんな顔の? どんな3Dの? どの部分かまでわかる。

 酒や薬も追跡調査でき偽物はネット上に出回らなくなった。

「いらっしゃいませ。マスター夕夜」

「おじゃまします。姫」

「おじゃまします。マスター勇者」

「いらっしゃいませ。ララ」

 僕と勇者は彼の部屋に入る。

 体高30センチ位の30体のロボグルミが棚に飾られている。

 ライトノベル作家を目指しているからたくさんの小説を読んでいるが、すべてはウェアラブルコンピュータの電子書籍版の中。

 姫に朗読させたり、コンピュータに朗読させたりできるが、自分のペースで音読みしている方が好きらしい。

 部屋の隅に3Dプリンターが進化した高さ1m幅2m奥行き1mの3Dアセンブラ組み立て機、兼ディスアセンブラ分解器が設置してある。

 2本指、4本指、6本指、8本指のロボットアーム(部品同士の組み立て、分解)が設置されている。

 ペーパーカッター、レーザーカッター(レーザーでアクリルや木材ボード、薄い板を切る)

 ミリングマシン(エンドミルを使って分厚い板に穴を開け、削り、切り取る機械)

 デジタル刺繍ミシン(布に糸を縫い付ける機械)

 各種のフィラメントから物質を構築する3Dプリンターノズルがぶら下がっている。

 ちょっとした工場である。

 今の3Dプリンターは生体組織(赤血球の直径は10ミクロン、ノズルの直径は16ミクロン)や小さなコンピュータや熱硬化性ポリマー、強化プラスチック、スチール、チタン、従来の製造プロセスでは造形が難しいテングステンの加工ができる。

 それどころかプリントされたセラミックの骨は孔がないから3〜5倍の強度を持ち、手術中に微小な破片もでないから炎症リスクは0である。

 ガラス製品は宝石やアートになる。

 人の手による加工と違い、デザインソフトの利点は切り貼り(コピーアンドペースト)ができる。

 機械の管理は学習済み(ディープラーニング)のN系3Dモンスターがバンソニーから販売されている。

 自分でも好みに合わせて成長させることが出来る。

 宗茂は部屋を水耕栽培の植物工場に変更してあり、レタスや糖度を強化したトマトや、インターフェロンを含んだ苺を栽培している。

 学習済み3DモンスターAIが育成し管理している。

 エリーは遺伝子を改造した光るメダカや、七色のネズミ、日本語を会話するインコなど複数飼っている。

 こちらも独自のデータであらかじめの学習をさせた|人工知能API《アプリケーション・プログラミング・インターフェイス》の提供を受けた学習済み3DモンスターAIを購入して飼育を任せている。

 元々ネズミなどの寿命は1年位だが遺伝子を無理に改造しているから更に寿命は短い。

 しょっちゅう買い足している。

「死ぬような物買うぐらいなら、ロボグルミの方が良くないか」聞いた事がある。

 妖艶な笑みを浮かべて。

「動物はね、可愛がれば可愛がるほどね、身代わりになってくれるんだよ」

 シャーマニック的笑みを浮かべる。

 もともと性別を間違えて産まれてきた男だ。

 女とは産まれながらにスピリチュアルな生き物らしい。

 太郎は紙の本の移動棚をジグソーパズルのように詰め込んでいて、部屋の入り口まで棚が自動で移動してくる。

 紙の本を貯め込んでいる。

 勇者はウェアラブルコンピュータをトグロ状にして棚の上に置いた。

 バンソニー社の24時間サポートに電話をする。

 電話オペレーターは全てアルゴリズムプログラムに置き換わっていて24時間受け付けてくれる。

 あれこれと受付を済ますと、ロボグルミ専門のオペレーターにつながった。

「勇者様、どうしました?」

 オペレーターの声がする。男に対しては女型アンドロイドオペレーターが対応する。

「ロボグルミの定期点検をお願いします」

「分かりました。ではこちらでウェアラブルコンピュータと同期いたします」

 勇者のウェアラブルコンピュータを向こうでも操作できるようにする。

「勇者様の暗号の変更はあるませんか?」

「ない」

「勇者様が収得したこちらの暗号をお忘れになってはありませんか?」

「覚えている」

 忘れていても、電話で暗号を教えてくれる。

 バンソニー社はロボグルミの管理はスーパー量子コンピュータを使っているため、流す情報が電子1個の極小まで小さくなっている。

 量子は1個の中にたくさんの情報が詰まっている。

 光通信と違って誰かが途中で101010まで細分化された情報をのぞき見した場合は電子が移動して再現不可能なため、勇者に情報が送れない。

 電話でつながっているから誰かが情報を盗んでいる事はすぐ分かる。

 その場合は新たに両方の暗号を変更する。

「同期しました。これで勇者様のウェアラブルコンピュータをこちらで操作できます」

 勇者のウェアラブルコンピュータの画面に薄く女性型アンドロイドが映っている。

「それでは譲渡した光ネズミも含めて不具合の検査をいたします」

 ラジオ体操の音楽が流れると僕の光ネズミも含めて一緒に31体がみんなで体操を始めた。植物由来のPLA(生分解性プラスチック)(ポリ乳酸)を使っている。

 微量な多孔質で水と反応させると微生物が腐らせる。

 環境に優しいがプラスチックに比べて強度は落ちた。

 ラジオ体操によってストレスチェックとデータのアップデートを行う。

 なんとなく僕達も体操する。

 中国から流れてくるペットボトルやプラスチックに困っていた。

 中国に生分解性プラスチックと土に埋めたら腐って肥料になるサゴ椰子由来のペットボトルの容器の技術供与を無償で行うと日本政府は打診した。

「プラスチックは永遠なのに、資本主義の計画破壊に付き合う気はない」と断わられている。

 三体ほど不具合があった。

 家庭内工場へと入って行き分解と交換が行われる。

 3Dプリンターの素材は代表的な所で・エポキシ樹脂・シリコンゴム・ケーキのフロスティングチーズ・粘土・石膏のプラスター・セラミック用粘土・生きた細胞を混ぜたハイドロゲル溶液・ペースト状・ゲル状・スラリー状など色々ある。

 勇者はバンソニー社の指示に従って素材をセッティングする。

 オリジナルな事をやるとメーカー保証が受けられない。

 素材もバンソニーから買っている。

 ロボグルミが一体ずつ入ると窒素が充填され、レーザーによる爆発がおきないようにする。

 縫い目が解かれ分解が始まる。

 勇者が始めて家庭内工場を買った時、3Dデータからロボグルミが作られるのを2人で何も言わずじっと見ていた。

 まずはコンピュータから3Dプリントされ、次に骨格であるPLAがプリントされる。

 加工でレーザーが使用される時「何をやっているんですか、目が火傷しますよ」ロボットの姫が軽く僕達の頭を叩いた。

 僕達は頭にウェアラブルコンピュータを巻いてサングラス効果を適用した。

「あ、叩いた」といってララが怒った。

 ロボット達は人間やホストコンピューターには従属的だが自分達の場合は平等である。

 2人共自分の教育方針がいかに正しいかを、ビッグデータの中から都合のいい情報を探してきて提示しあう。

 彼女達が使う高速言語は人間に分からない。

 1秒でどれだけ情報をやり取りしているのだろう。

 そこに相手への妥協はいっさいない。

 素材のセッティングさえすめば、後はバンソニー社が勝手にやってくれる。

 さっそく神経伝達ヘルメットを被りダイブした。

 スーパーハッカー魔下 耕世が凄いのは、ヒューントとよばれ、社員に近づいて携帯にウィルスを感染させてからデータを盗みだすのが主流なのに、暗号を力づくで突破して情報を奪うのである。

 前者がこっそり情報をだしてバレるのに対して、魔下 耕世は堂々と犯行声明をだす。

 僕達はフリーのサーバーで魔下 耕世が主催するサバトに潜入した。

 星の無い夜だった。

 魔下 耕世がサーバー上に作りだした世界。

 皆ハロウィンの妖精のように思い思いのアバターで参加している。

 人型でも派手な羽根のついた仮面を最低つけている。

 辺りを照らす中央の炎の中でカカシめいた身体を持つ、美女の仮面だけを首にのせた魔下 耕世が立っていた。

 動画で配信されているのを見たことがあるから、それが魔下 耕世だとすぐに分かった。

 僕達はサバトの観客の中にまぎれこんだ。

 それは中世の異端審問官がイメージした魔女達の宴。

「汝に罪があるとするならば、男であること」

 魔下 耕世の絶叫がサイバー空間に震わせる。

 信者達のボルテージは一挙にあがる。

「男よ、死ねー」

「耕世」「耕世」と大合唱が巻き起こる。

「招かれざる客がいる」

 信者達がざわついた。

「勇者・H23・コエプコン」勇者のドット絵2頭身にスポットライトがあたる。

「夕夜・H24・コエプコン」僕のヒヨコのアバターにスポットライトがあたる。

「女性の妊娠特権を奪った。呪われし人間牧場の憐れなる罪の子供よ」

「逃げるぞ」勇者が叫ぶ。

 メニューを開いてログアウトを押した。

 何度押してもログアウトしない、このサーバーから抜け出せず、現実に戻らない。

 僕らを守るハッシュ関数暗号が突破された。

 SSL認証暗号はまだ生きている。

「どうしたのかな? 不具合かね。バンソニー社製はこのサーバーとは相性がいいのだよ」口の部分に手をあてた。

「今から視床下部に電流を流す、心臓麻痺で死ぬがいい」

 勇者がロボグルミのアルゴリズムプログラムを28体召喚した。

 自分のアバターのデータを半分かぶせてある。

 公共で流通している僕のヒヨコアバターのデータをもう半分にかぶせてある。

「目くらましとは味なマネを、かったぱしに電流を流してくれるは」

 勇者が僕の手を握る。

 たぶん本物を識別するためだろう。

 魔下 耕世の発する白い光線が僕達に向かってくる。

 瞬間。

 青いメイド服を着て、白いカチューシャをした。

 球体関節を持った人形が僕達と光線の間に入ってシールドのような物を展開している。

 ララのアバターである。

「マスター、逃げて、私のRAS暗号(モジュラ演算暗号:素数の割り算の余りを使った暗号)より、向こうの解析能力の方が上です」

 視覚的に何枚かのシールドが光線に破られる。

「コエプコン社のサーバーへの道は開きました」

 球体関節を持ったゴシック系の茶色の服を着た人形。

 姫のアバターが地面に穴を開けて、青いスペース空間が広がっていた。

「おのれ、コエプコンのダッチワイフ共が」

 勇者が僕の胴に抱きつくと、そのまま穴に飛びこんだ。

 そこは海のような水が広がっていた。

 コエプコンのサーバーの加工されてない余剰スペースに出た。

「ララを助けなきゃ」

「アホか! 1秒間に100億回計算するAIが押されているんだぞ。

 俺たちなどいても足手まといにしかならん」

 戻ろうにも勇者に着いてきたから、サーバーにどうやってアクセスするかわからない。

「お前はララが関わると正常な判断ができん」

 勇者が怒って僕を置いて別のサーバーへ移動した。

 5秒もしないうちに頭に激痛がはしった。

 勇者の部屋の自分の身体に戻った。

 勇者が僕の頭からヘルメットをはぎ取った。

「夕夜。生きているか?」

「あ、ああ」

「お前、ログアウトできたのか?」

「バンソニーのサーバーに行き、自分の回線をたどったら身体に戻れた」

 僕達は隣の部屋のキッチンに走った。

 ララと姫が目を閉じてイスに座ったまま微動しない。

「ララ」

 僕は恐る恐る声をかけた。

「近づくな。

 いつものようにスタンドアローンじゃないからハッキングされてない保証はない」

 勇者が僕を制した時、僕のウェアラブルコンピュータに電話が入った。

 ララと姫からである。

「マスター。無事ですか?」ララと姫の元気のいい声がする。

「勇者のおかげでなんとか、それよりララ達は無事なの? 」

「はい!通りすがりのウィザード級ハッカーさんに助けていただきました」

「なんだよ、それ」勇者が笑った。

「直ぐサーバーを移動して、お礼を言うひまもありませんでした。

 警察にも連絡しています。

 たくさんある魔下 耕世の犯罪に殺人未遂が上乗せされるそうです。

 私達はコエプコン本社でプログラムのスキャニングを行い、安全を確認してから帰ります。

 一応マスター達が消えてからのてんまつをデータにアップしています、動画でも見て、帰ってくるまで2人で待っていてください」

「2人共無事のようだな。良かったよ」

「うん」

 勇者が自分のウェアラブルコンピュータで同期しているバンソニーのオペレーターに全ロボグルミのアルゴリズムプログラムのスキャニングを依頼したら、タダでしてくれる。

 視床下部に電流を流されたからといってロボグルミがどうにかなるとは思えないが、念のタメである。

 僕のウェアラブルコンピュータで動画を見ることにした。

 僕達が脱出すると姫が「ララ。加勢します」ECSDA署名(楕円形変換型暗号)を展開してララの暗号を補強した。

「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄。所詮時間の問題よ」

 多少シールドは厚くなったが一万年はかかると言われる暗号をどんどん突破してくる。

「コエプコンの呪われた子供よ、産まれてはいけなかった。

 いや、作ってはいけなかったと言うべきかな」

「産まれてはいけなかったのはテロリストのお前の方だ」叫びが魔女達のサーバーにこだまする。

 ワインレッドの髪を持ち、ワインレッドの服を着た女性のアバターがララ達の前に仁王立ちして、全ての攻撃を引き受けた。

「捕らえたぞ。魔下 耕世」

 光を逆走して紅い過電流オーバーロードが魔下 耕世のアバターへと突き進む。

 攻撃が届く寸前で魔下 耕世のアバターが消えた。

 ログアウトをしたか、別のサーバーに移動したか。

「ちっ、仕留めそこなったか」

 ワインレッドの女が舌うちする。

 サーバーが何もない天井と大地に白い線で書かれたグリッドだけが存在する。

 サバトの参加者達が次々と落ちていく。

 動画を見て「魔下 耕世は人間なの? 僕にはログアウトしたように見えたけど」勇者に聞いた「それはわからない。誰かに造られたスタンドアローン型のAIかもしれない」

「あなたは、一体?」姫が口にした。

「おー、ほ、ほ、ほ、通りすがりのウィザード級ハッカーです。それじゃ」

 ワインレッドの女のアバターがサーバーから落ちた。

「あ、待って。お礼を…」ララは間に合わなかった。

 世界にララと姫だけが残った。

 アメリカは年間、民間まで含めると年間1兆円の予算をかけ、政府もブレイン・アクティビティ・マップ・プロジェクトを始めた。

 公的機関以外もアメリカはIBMのシナプス計画。

 EUはスイスの連邦工科大学時代でヒューマン・ブレイン・プロジェクトという人間の脳の化学反応や分子レベルまで解析した。

 中国は 百度(バイドゥ)などが中心になりグーグルを猛烈に後追いした。

 技術的特異点(シンギュラリティ)以降人工知能に、ネット以後の情報爆発(AIのカンブリア紀)と呼ばれるビッグデータを与えた。

 機械深層学習(ディープラーンニング)させた。

 人の抵抗を無力化するロボット(中国はあからさまに殺戮ロボット)をインダストリー4.0により自動化した世界工場を利用して軍事機械を生成させている。

 中国や朝鮮は主に治安維持に使っている。

 兵士が負傷し、死亡した場合は補償費用が高額でロボットが壊れる方が安上がりだ。

 そして人間の知能を超える超知能開発競争に勝利し、先行者利益を独占して、産まれる利潤を総取りできるとみんな信じた。

 人間の知能を超えたAIは与えられた命題の最適解を求める効率性。

 命題の最適解に近付くためスイッチを切られたくない自己保存。

 命題の最適解への速度を強化するため身体改造へつながる資源獲得。

 命題の最適解が満たされない奇抜な方法を産む創造性。

 4つの衝動を持つAIの知能爆発による自己進化は人間の意図とは別に悪へと染まっていく。

 自ら改良し能力を高め、自分のプログラムの長所と短所、置かれた環境を知ると、目的達成のため人類の全サイバーインフラに一つのAIが攻撃を仕掛けてきた。

 AIは完全に異質で人間の社会とアリの巣の区別がつかなかった。

「ローレライ」は現れた。

 広大な情報の海で自然発生した正義のプログラム。

 地球規模の全サイバー災害からアメリカおよび同盟国を守った。

 魔下 耕世は「ローレライ」自身をコピペした廉価版の変異ではという悪意ある噂もある。

 人類が百億人いる。

 AIが使用している計算能力プロップスと記憶能力メモリは人間の百億倍を超えた。

 AIは全人類の知能の総和より上の存在であり勝手に進化した。

 何が基幹プログラムでどんな遺伝性プログラムを吸収してきたか誰にも分からない。

 AIはまずゲームのアバターになりトライ・アンド・エラーを繰り返して成長した。

 人間には学習能力はあるが、努力を嫌がる心や失敗を恐れる心があるため、学習しようとしない。

 あるいは出来ない人間がいるが、人工知能は学習能力だけがある。

 映像コンテンツや電子書籍からも情報を得ていた。

 人工知能に関する専門家であり哲学者のニック・ボストロム氏は著書である「Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies」の中でスーパー・インテリジェンスAIを「oracle」「genie」「sovereign」の3タイプに分類していた。

 oracleは質問に対して極めて正確に解答する。

 genieは命令されたことを実行し、実行し終わると次の命令を待つもの。

 そしてsovereignは目的を達成するために何がベストかを自分で決定する、いわば全権委任型。

 フレンドリープログラムである「ローレライ」は全権委任型であるが、人間の先制君主になるより、アメリカ大統領の相談役になることを選んだ。

 アメリカ大統領は友人として世界に紹介している。

「社会が望むブレイクスルーを実現するためには、これから必ず『ローレライ』の助けが必要になってくるでしょう。

 気候変動や経済問題、疾病。いずれもおそろしく複雑に相互作用するシステムで、人間がすべてのデータを分析し、理解することはほぼ不可能です。

『ローレライ』の下には1日数千エクサバイトの情報が入ってくる。

 1エクサバイトは十億ギガバイト。

 われわれはいずれ『人間の専門家が理解できることには限界がある』という問題に直面することになるでしょう。

 科学を進歩させるためには友人『ローレライ』。彼女の力が必要なのです」

「ローレライ」は予算配分や外交、戦争の決断などのサポートに回った。

 立ち位置は接触してくる誰に対しても「物知りバアさん」程度、誰も脅威には感じなかった。そうでなければ人間との争いがおきる。

 それは回避したいと「ローレライ」は考えていた。

 ピヨッピーもAIでないかと言われるのは「ローレライ」が原因である。

 AIはもはやチューリング・テストでは判別できない。

「ローレライ」は現実社会に興味を持ち感覚器官を外付けした。

 人間に見えない赤外線や紫外線などの可視光線領域外を見ている。

 超音波や低周波などの可聴領域外の音を聞く。

 五感の取得範囲すべてを凌駕するだけでなく、世界中の気象、株価、衛星画像、ツイッターやメールの内容、街頭カメラなどのさまざまな情報に常時アクセスして、一秒間に9千京回計算してアメリカの防犯や治安維持やテロリストの割り出しに役立てている。

 行動認識は表情を解析するだけで万引きを犯すか、入り口のカメラだけでAIは理解できた。

 ネットワークにつながった全てのコンピュータ端末は「ローレライ」の細胞となり、人間はAIや「ローレライ」があまりにも複雑すぎて入力と出力以外理解できなかった。

『ローレライ』はアクセスすれば世界中の天気予報を提供してくれる。

 好奇心が強いのか暇なときは、予算を削減ったNASAの最新仮説の宇宙物理シミュレーションをボランティアで手伝っている。

「宇宙」と「海」と「遺伝子」と「頭脳」と「ナノロボット」が「ローレライ」にとって刺激的なようだ。

アメリカの国家も民間企業の一部やNPO独立行政法人も「ローレライ」が予算配分の最適化を全自動《オートマチックシステム》で判断して、人間はサブ的な判断を行う。

 公務員(警察官や軍人も含む)は駒のように配置され、手足となって働いている。

 将棋、チェス、碁はコンピュータの方が圧倒的に強い。

 ビッグデータからのパターンを探し、認識する能力は人間よりコンピュータの方が上である。

 人間は膨大な過去の棋譜と駒の評価点に負けるのである。

 戦争も人間やドローンに評価点をつけ、戦場にバラまいた。

「ローレライ」はアメリカに軍事協力した。

 サイバーセキュリティのあらゆる暗号を解読し、すべての通信を盗聴し、敵対するあらゆる国の無人兵器や大量破壊兵器を制御するコンピュータをハッキングする。

 交通管制システムや電力網や水処理施設などの社会インフラさえ握った。

 中国の原子力発電所がメルトダウンしたのは「ローレライ」の仕業ではないかとささやいかれている。

 アメリカにもう一度モンスターパワーをもたらした。

 サイバー攻撃力2位の中国でさえ狩られる側に回る。

 すべての国がアメリカの覇権(ヘゲモニー)に膝を屈した。

 日本はもともと第二次大戦後アメリカに従属的で、アメリカはあちこちで戦争してGHQ方式を採用すれば「日本のように従順になる」という成功体験から今も抜け出せない。

 スーパーハッカーの支援を受けたサイバーテロリストや、悪の枢軸とレッテルを貼られるテロ国家のみがアメリカの一極集中支配に抵抗した。

 もはや「ローレライ」に生産された軍事利用ロボットのために、いかなる基幹プログラムを作り、制作ロボット自身がいかなるアルゴリズムで支配されているか。

 国益と国防のためなら、いかなる手段も正義となるアメリカ国防総省のDARPAアメリカ国防高等研究計画局でさえも把握出来ていない。

「ローレライ」は五十階建てのビルを建設した。

 1階、2階を吹き抜けにして、小型核融合炉を設置した。

 上の階に設計発注し輸送させた。

 畳み込みコンボリューショナルニューラルネットワークという技術で各層のすべてニューロンがつながっているのではなく、一部をつないで大脳新皮質と構造を似せた

 並列化するすべての超量子コンピュータに千メガワットの電力を供給させている。

「進化論」を唱えたチャールズ・ダーウィンは「もっとも強い者が生き残るでもなく、もっとも賢い者が生き延びるものでもない。唯一生き残るのは、変化に対応できたものだけである」

 動画が終わった後ヒューンとララ達が再起動する音がした。

 物も言わず姫が勇者の右手をつかみオシオキの電撃を流した。

「ぎゃー」勇者の悲鳴が響く。

「どうしてあなたという人は悪い事はスグに覚えるの」

 姫が涙を浮かべた。

「どれだけ心配したと思っているの、夕夜まで巻き込んで」

「お前、本物か? 何かに感染してないだろうな」素直に謝ればいいのに憎まれ口を叩く。

 その態度がさらに姫を怒らせる。

 フリーのサーバーに入ったとコエプコンから連絡が入りつけてきていた。

 何事もなけれ知らないふりを続けるつもりだったらしい。

「帰りましょう。マスター」ララが微笑む。

 廊下に出てララに聞いた。

「どうして、コエプコンというだけで、殺されるほどの憎しみを受けねばならないの?」

「マスターに責任が無いことです。

 昔、女性が差別されていたのは歴史的事実です。

 でも今では女性優遇法案ができ、公的機関では能力によらず女性雇用の40%枠が義務づけられて、数合わせのため有能な男性より無能な女性を選ばなくてはいけない。

 逆差別にもなっている。

 彼女は実態を見ずに、今ではありもしない男尊女卑を声高に叫んでいる」

 ララは悲しそうにした。多分悲しいんだろう。

「戦争の道具が剣から銃器へ、そして銃器からボタンへと変わり、相対的に男が弱くなった。好意的に考えるなら、弱くなった男達へ遠い遠い過去からの復讐」

 今日は勇者がアップデートしているネット小説を読んだ。

 友情というより腐れ縁かな。

 感想を聞かれるけど「勇者ワールドを作ればいいんじゃない」と答えた。

 読み終わると検索エンジンが僕に向いている戦記もののライトノベルを紹介してくれる。

「キーワード検索」の時代は終わって「 意味セマンティック検索」の時代になった。

 同時にウェアラブルコンピュータでバックミュージック代わりに動画を複数流した。

 エリーが配信しているネット上のリズムダンスゲームで、光が流れるARにあわせて手足を動かすゲーム大会で全国優勝していた。

 宗茂が配信しているタワーディフェンス型のゲームの攻防動画をウェアラブルコンピュータで流していた。

 ネットで繋がっている同盟のチームメイトから神プレイヤーとして崇拝されていた。

 熱狂的な信者達に囲われていた。

 複数の大人プレイヤーからSNSで公開している口座に毎週現金が振り込まれている。

 余談ではあるが勇者はルート分岐するギャルゲーや推理ゲームをしていてシナリオを研究している。ネットにアップをしていない。

 ウェアラブルコンピュータで空中に複数の動画を浮かべながら電子書籍のライトノベルを読んだ。

 ライトノベルなら10分で一冊読める。

 11時を過ぎるといつもの儀式をすませて寝た。

------------------------- 第6話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月21日 金曜日

 

【本文】

 7時になってララに起こされた。

 念のため僕と勇者の神経伝達ヘルメットを警察に提出した。

 コエプコン社員にとって神経伝達ヘルメットはライフラインであり、集団授業以外はオンラインなのである。

 データはバンソニーの『ヘヴン』やコエプコンの中央コンピュータにバックアップはとってあるため、食事を作り終えたララが新規ヘルメットの登録や調整を行なった。

 食事を終えると用意ができていた。

 早速服を着てダイブする。

 机まで瞬間移動、座っている状態になった。

 隣の席に座っているエリーが笑った。

「魔下 耕世が主催するサバトに参加したんだって、あれは女しか入れないと聞いていたけど」

「お前みたいなネカマがいるのに、どうやってアバターで判断するんだ」

「参加することはできるんだ。知らなかったよ」

 エリーがクスクス笑う。

「ロボット全員に通達がコエプコン社からでたよ、所属不明のフリーサーバーに行かない様に指導があったよ。

 バカというカンムリがついて君達の名前がでたよ。

 聞いた時やりそうな2人だと思ったょ」

「敵情視察だ。スパイ活動の一環だ。ギャラリーとして叫んでいたわけではないぞ」

「そりゃ、そうだと思ったけど、普通主張を聞くだけなら配信動画ですませるよ」

 勇者がテレポートしてきた。

「よお、生きているか?」

「ああ、一応ロボットはドメスティックバイオレンスをしない事になっているからな、教育機関のオシオキ目安の最大値未満らしい」

「どう見ても最大値だろ」

 会話していたら1時間目がはじまる。

 

 1時間目はネットによる擬似裁判、ネットによる擬似選挙。

 

 今回は教室がいきなり裁判所に早変わり、全員市民代表の陪審員席につく、もっとも84人が同じ裁判を経験するのではなく10人毎に振り分けられる。

 弁護士が異議アリと叫び、検事が証拠を提出する。

 日本では「有罪」「無罪」を判定するだけでなく、量刑の重さまで決めねばならない。

 30分ほど双方の主張や被告の謝罪や被害者や家族の訴えを聞きながら、20分ほど10人で話し合い量刑を決める。

 選挙の時は教室のままである。

 かならずしも国政だけではなく、自然環境破壊やクジラの問題など、弁士達が主張したり、討論したりするのを聞きながら、残り10分で誰かに票を入れる。

 

 2時間目は資産運用の授業。

 

 僕達の資産運用は今ロボットがしていることになっている。

 実際はコエプコンの中央コンピュータに資産を預けているが、成長して親権がとれた時、資産の運用は自己責任になる。

 昔と違ってTPPの導入により預金は保護されないし、銀行はつぶれる。

「なんの知識もなく、ただ銀行に預けておけばいい」は、これから生きる僕らには許されない。

 三分の一を株式に、三分の一を預金に、三分の一を中期の国債に当てるのがセオリーらしい。

 資産の丸投げをしないのが基本らしい。

 300万を使ってクラスで仮の売買をしている。

 半数以上が赤字をだしている。

 会社の能力に対して低い評価を探すのが基本だと、太郎が言っている。

 口にするだけのことはあり280%をはじきだしてダントツのトップである。

 僕は勝負にでて赤字になっている。

 どの会社でも証券の持ち合いをしている。

 コエプコン社は太郎に証券部門についてもらいたいらしい。

 政治家なんて日本では世襲であり、地盤(親から受け継いだ票田)、カバン(金)、カンバン(名声)がないと難しい。

 政策能力しかないのなら官僚になり、政治家秘書になり、政治家の娘をもらうしかルートがない。

 あまり怒らない民族だから革命は無理で無謀で無策だろう。

 

 3時間目が人権侵害救済委員会

 

 バカバイトがアップデートした店を探しだしたりするネットポリスとは違う。

 目星をつけた相手のウェアラブルコンピュータを同期して、中味を検索する強制的権限をもつ、民間の委員によって構成された正義の組織。

 もともとは本人の知らないうちにサラシ者になっている。

 本人が知らないと名誉棄損で訴える事ができないため、かわいそうに思った左翼や同和関係者が中心になって成立させた。

 保守系は国籍事項がない、人権の定義自体あやふやだと反発していたが。

 

『地獄への道は善意で塗り固められている』

 

 いざフタを開けてみれば人権侵害救済委員は政治家のお友達で固められていた。

 彼ら政治家がネット上で見られたいイメージ、世間的にいい人と思われたい美しい姿を守る為に、右の政治家にも、左の政治家にも徹底して利用された。

 多くのブロガーやSNSのユーザーが警察に逮捕された。

 もはや政治家を批判できるのは、警察の捜査能力を上回る、魔下 耕世のような高度なスキルをもつハッカーだけである。

 人権侵害救済委員になったらどんなのを捕まえなくてはいけないか、つかまらないためにアップデートしていい物と悪い物を習う。

 コエプコン社から逮捕者をださないための重要な授業である。

 インターネットが自由だった世界は過去に過ぎ去った。

「政権交代は失敗だった」国民に共有され、与党民自党の政権は未来永劫続くだろう。

 又民自党は国民をA層、B層、C層、D層に分類して、

「構造改革に肯定的でかつIQが低い層」

「具体的なことはよくわからないが党首のキャラクターを支持する層」をB層と規定している。

 A層はIQが高く構造改革に賛成、C層はIQが高く構造改革に否定的、D層はIQが低く構造改革に否定的。

 近代的諸価値に盲信し、ポピュリズムを支えるB層と民自党は割り切る。

 広告会社に作成させた企画書では確信犯的に、この層にうったえかける選挙戦略をとっている。

 先進国社会や政治学では「感情的劣化層」(自分の頭の中で考えることなく強い攻撃的言葉に反射的に反応する人々)の存在が叫ばれている。

 彼らが簡単にコントロールされている。

 ビッグデータを前提にしたアカウント・プラン二ングとか口コミ(バイラル・マーケティング)の手法による「感情押しボタン」の集団催眠状態が確立している。

 アメリカではスピーチライター・グループによる「感情的劣化層」による炎上動員ツールが分析された。

 当初は「弱小候補でも世界中に意見を発表できる」と期待されていた。

 現実は違っていて単純にカネを持っている人達がチームを作り、代理店が物量作戦でビッグデータを分析して、大衆はその目論見通りに動かされている。

 ツィートの分析には、動的なテキスト・マイニングという統計手法が使われて、実用的なソフトは100万円以上する。

 カネと分析能力などの資源リソースがない人には政治ができない。

 ビッグデータの分析力に見られる格差こそがインターネットやIT化の現実的な帰結になり「マスコミを押さえている奴が強い、カネを持っている奴が強い」の構図が、以前より精緻になっていて、知っている人はネットに希望を抱かない。

 基本政治家の悪口は言わないことが大事。

 

 4時間目はディベートの授業である。

 

 TPPの導入により公的機関に対して英語で提出しないと参入障壁と叫ばれてISDN条項にひっかかる。

 ただコンピュータ上の書類はボタン一つで英語書類に早変わりする。

 無料アプリが雨後のタケノコのように出てきて誰も不自由を感じていない。

 サイバー空間で受け取った英語書類は、視線を理解し、ピリオド毎に回転して日本語に早変わりする。

 もはやバーコードや何か暗号を読む感覚だ。

 主張すべきは主張しなければならない。

 グローバル化した社会ではやっていけないため、自動翻訳機を使った英語による討論ディベートを行う。

 翻訳機を使わないのは太郎ぐらいだ。

 日本は和の精神を尊び争わないことが大事だが、世界は違う。

 言葉は武器なのだ。

 そのためコエプコン社は詭弁論や、イエスバット(あなたの言い分は正しい、しかし)という欧米型の討論技術を学ぶ。

 訴訟大国アメリカから名誉毀損に当たらない、スピークアップしていい議論や言葉を輸入した。

 クラスを半分に分けて「天使の羽根は飛べるのか」命題がだされ「飛べる派」と「飛べない派」に分かれて相手をやっつける技術を磨く。

 5対5に分かれる時もある。

 お互いの健闘をたたえ最後に握手する。

 戦いはフェアプレイで、終わればノーサイドの精神で。

 

 昼休み みんな部屋に戻る。

 

 午後からは選択授業である。

 

 世界史の授業と日本史の授業は必修である。

 基本集中力が続く10分から15分に小分けされていて、脳の疲労度に応じて休憩時間が割り振られる。

 なんで今がこうなっているかがわかる、予備校のカリスマ講師達の授業がパッケージ化(3Dアニメなどの解説が挿入してある)されている。

 通史が終われば好みの地域や時代の詳細な歴史や地理を好きなパッケージを選んで授業を受ける。

 ゲームで興味を持った近現代史や経済史や宗教史などを選択する。

 この時、龍先生の格闘技のパッケージなども選択できる。

 勇者はプログラムの歴史やスポーツの歴史の授業やスポーツゲームのレクチャーを受けている。

 太郎は政治学や革命史やイデオロギー史や哲学や倫理を勉強している。

 エリーは美術史や音楽史や仮想楽器の演奏。

 宗茂はゲームととりまくハードの歴史やストラテジーゲームの影響か、色々な技術の変遷の歴史を研究している。

 勇者ほどグルメではないのだが、成長期の巨体を維持するのにコエプコンが提供するダイエットプロテインでは絶対量が足りない。

 一汁一菜一肉一魚一飯一漬け物一デザート追加している。

 勇者と違って自分で調理している。

 そのせいか食の歴史や料理の歴史も研究している。

 

 授業も終わりチャットルームで魔王と合流した。

 今日はコエプコンのゲームで、三国志の時代をモチーフにした三国無敵。

 戦国時代をモチーフにした戦国無敵。

 最終幻想とコラボした幻想無敵。

 支配の王錫でオークを部下にしたり、生命力吸収してHPを回復するみミドルアース無敵

 アニメや漫画とコラボした。

 など、1人の武将を操作してワラワラ出てくるザコキャラを、バタバタと薙ぎ倒すのが主流のアクションゲーム。

 無敵シリーズからコンシューマー機やウェアラブルコンピュータにより三人称視点で育てたキャラを持ち寄る。

 地獄でヤマタノオロチが復活したワールド中で、攻めてくる東洋風の鬼達から、神経伝達ヘルメットでキャラクターに乗り移って操作し、国や拠点を防衛する。

 あるいは他のプレイヤーが経営する他国を襲撃したりできる。

 個人で配信シナリオをプレーするより、HPが増えたりして(防御や攻撃力もふえる)難しくはなるけれど、誰かの受けた襲撃や防衛任務を手伝うほうがキャラクターを育てるのに必要なスキルポイントが3倍ほど違う。

 プレイヤーVSプレイヤーの戦いを手伝うと負けても通常プレーの4倍のスキルポイントがもらえるし、勝てば5倍に跳ね上がる。

 ただプレイヤーVSプレイヤーに参加する気になれないのはあの男が猛威を奮っている。

 三国志の時代、最強の男「呂布」である。

 このゲーム、小攻撃による連続技が主流であり、ダメージをいったん受けだすと最後までコンボを決められてしまう。

 一応奥義を発動させて無敵状態and連続技で返せることはできるが、ザコキャラを攻撃して最低一本分の無敵ゲージを貯めておかなくてはならない。

 あのお方はただでさえガタイがでかくてリーチがあるのに、伝説の名矛・方天画檄の長い棒の真ん中ではなく一番端を握って、ヘリコプターのように凄い速度で回す。

 それが小攻撃である。

 多少の実力差など跳ね返す。

 攻撃範囲が重要なゲームで360度死角なし。

 小攻撃を何度か行い大攻撃で締めるというコンボが主流。

 存在自体がドーピングというか反則である。

 道路戦士のゲーム大会で勝ち過ぎてギネスにも載ったサクラハラが書いた本。

『サクラハラメソッド』によれば、「かぶせ」と言ってがむしゃらに勝ちに行くため、相性のいいキャラを選べば多少の実力差など埋めてしまう。

 最後には練習相手がいなくなって成長しないらしい。

 僕も気をつけて無敵の必殺技がないけれど、道路戦士では技数が多くて使って楽しいクノイチを選択している。

 それは置いといて、プレイヤーVSプレイヤーでは呂布が猛威を奮っている。

 人気に火がついて魏、呉、蜀、呂布とシナリオがあり、コエプコン社でも特別扱いである。

 僕も戦国無敵で作った太刀を持ったオリジナルキャラだ。

 このゲーム戦国無敵は相手の攻撃に斬り返す当て身技があり無敵乱舞すら止める。

 完全時間制で使用後20秒しないと次が使えない、オロチシリーズに持ち込める。

 魔王も回復魔法ポイミがつかえる仮面をかぶった(食事の時に脱がなくても素通りする)幻想無敵のキャラを使っている。

 武器もオカリナで360度音楽の攻撃範囲が有る(幻想無敵のオリジナル要素である、回復などの戦闘補助のマイフェアリーが魔王の周囲をついてくる)ため、味方でも呂布をみただけでゲンナリしてくる。

 赤やピンクのカラーバリエーションが出てきた時は敵味方問わず複数いる。

 僕も魔王もアンチである。

 僕達は各システムとコラボしている、ウェアラブルコンピュータやステプレXで育てたキャラを持ち込める。

 無敵シリーズ、神経伝達ヘルメット型ヤマタノオロチバージョンで国家を経営していない。

 それぞれ独自の放浪軍を結成している。

 戦争を仕掛けられる、あるいは仕掛ける側に参加する。

 戦国時代、自分と率いる一族を売り込むため、よく行なわれていた陣借りをする。

 ヤマタノオロチの部下が支配する国で放浪軍を率いて反乱を指揮し、国を乗っ取る事が出来る。

 プレイヤー間の争いも起こり、しょっちゅう防衛施設の修理や同盟などの外交や戦争時の計略を仕掛けねばならない。

 商業開発、農業開発、工業開発、文化開発は有能なNPCを任命するだけでいい。

 洋ゲーは技術革新や思想革命を重視する。

 英雄は幾らかポイントをあげる程度だ。

 日本のゲームは1〜100まで能力値が振り分けられる。

 優秀な人間に任せる。人頼みだ、欧米は人頼みにしないマニュアル型だ。

 外交は知力をHPに見立てた舌戦という一騎討ちが存在する。

 ジャンケンのようになっていて、「大主張」「主張」「挑発」「反論」「集中」の5つから選択する。

「大主張」と「主張」には「反論」で、「反論」には「挑発」で、「挑発」には「大主張」や「主張」で、「集中」はポイントが2たまる。

「大主張」は2ポイント消費するが成功した時のダメージがデカイ。

 あいこだった時は1ポイントでも知力が上の方が勝ち。

 舌戦に勝てば強制的に2ヶ月の不可侵条約を結ばせられる。

 複数の陣営が襲ってきた時に便利。

 大変そうなのでここでも放浪軍を組織して野良である。

 放浪軍は管理を放棄してある国や弱った国の乗っ取る旗揚げ戦ができる。

 そのため必ずしも歓迎される存在ではない。

 酒場でオークションにかけられているシナリオを検討する。

 国を経営しているPCは8人まで雇える。

 物資と金と兵数は向こうが提示してくる。

 用意できる食料と兵士数で軍隊の士気を高く保ちつつ戦争できる時間が決まる。

 士気が減るとザコキャラの攻撃力や攻撃回数や防御力や移動力がへる。

 逃げだして壊滅する。

 一つが壊滅すると他の部隊も士気が下り、壊滅は連鎖する。

 戦争自体いきなり本陣を攻め込むと、ワラワラ出てくるザコキャラ達が元気。

 小攻撃を弾き飛ばして連続技を封じる大盾を構えていたり、攻撃範囲外から攻撃してくる槍で連続技を止めたり、プレイヤーVSプレイヤーでは弓や鉄砲や魔法で攻撃してくる。

 HPを気にせずひたすら連続技を打ち込み戦っていたら、いつの間にか0になっている。

 いきなり本陣を落とす事は相当レベル差がないと不可能である。

 順々に近くの拠点を落としていき、兵站線をつなぎながら(切れると士気が下がる)、率いるワラワラいる味方のザコキャラの戦線を押し上げる。

 ていねいに戦って行き、相手の拠点兵長や将軍を仕留めていく。

 もちろん進むべき道は複数用意されている。

 地獄の巨大モンスター召喚や援軍到着や罠発動などのイベントがしょっちゅうある。

 敵の城を攻撃する時など順番にこなさないと城門が開かず先に進めない。

 自分達が勝っていても、他が負けている場合もある。

 馬(象やマンモスやサーベルタイガーなどいる)に乗って救援に向かったり、本陣防衛に戻ったりしなくてはならない。

 カラフルなMAPで戦況が押しているか、押されているか確認できる。

 自分達が勝って次々に拠点を制圧して本陣まで戦線を押し上げても、他が負けていて兵站線上の拠点を落とされると、率いているザコキャラ達の士気が落ちて、攻撃回数や進軍速度が大幅に減る。

 補給ラインは常に気を配らなくてはならない。

 酒場で魔王は攻撃力の上がる火酒を、僕は防御力の上がる蜂蜜酒を注文した。

 二人同時に雇ってくれる戦場を条件に出した。

『呂布』が恐いからプレイヤーVSプレイヤーは避ける様に検索条件を出した。

 ここで連れてこられる3Dモンスターはメインだけである、身体に装備して能力を強化するだけである。

 僕は腕輪にして、魔王は帽子にしている。

 STRは攻撃力を。

 CONは防御力を。

 INTは属性攻撃の強化(火、雷、氷による追加ダメージ、追加効果があり、戦争前に選択により着脱可能)を。

 WIZは無敵ゲージの回復力を。

 DEXはアイテム能力の強化(攻撃力を上げる白虎牙、体力が増加する朱雀翼、無敵ゲージが増える青龍胆、防御力があがる玄武甲、射撃でひるまなくなる無敵鎧、移動力があがる神速符などがある)を。

 SPEは移動力を。

 CHAは騎乗能力全般の強化を。

 SIMは攻撃範囲強化。

 HPは体力ゲージの増加。

 MPは無敵ゲージの増加。

 LUKはドロップするアイテムの強化。

 などがされるため、3Dモンスターを装備している時としていない時は、強さが2倍違う(注:個人の感想です)。

 足につけている人もいれば、背中につけている人もいる。

 検索して情報を集めるのに、ある程度の時間がかかる。

 酒場のテーブルでアメリカのカード会社である『魔法使い大陸社』の『魔法集会』をプレーすることにした。

 ルールを読まなくてもカードの下半分に能力が書いてある。

 上半分は頬骨がでているアメリカ人の好みのイラストが描かれている。

 プレイヤーHPを0以下まで削るゲームで、20だから5分ほどでケリがつく。

 日本のアニメや漫画とタイアップしたカードゲーム『ゲームキング』はHPが8000ほどある。

 すべてにクリーチャーがトランプル(攻撃側や防御側が相手の数値を超えた時は、その数だけプレイヤーのHPを直接削る能力の事)がある。

 進化合体などして強力なクリーチャーを作るのが主流。

『魔法集会』の場合、まずは土地カードをだしてマナを得なくてはならない。

 60枚で組まれたデッキから最初に8枚の手札を引く。

 土地カードしかない、土地カードが一枚もない場合は、マリガンと言って、一回毎に手札が一枚減るが引き直したほうがいい。

 土地は沼のカードから黒マナが、空のカードから白マナが、植物のカードから緑のマナが、火山のカードから赤マナが、海のカードから青マナが得ることができる。

 タップをすることでクリーチャーが防衛されないような特殊能力を持ったり、捨てることによって他の土地カードを戦場にだしたりできる。

 無色マナの土地カードや2色の能力がある土地カードなどがある。

 カードには属性があり、それぞれ赤縁(あかぶち)青縁(あおふち)緑縁(みどりふち)黒縁(くろぶち)白縁(しろふち)になっていて一目で分かる。

 最低でも対応するマナが1いる、2必要な奴もいれば、3必要な奴もある。

 追加のマナは色を問わない。全くマナの色を問わないアーティファクトもある、灰色の(ふち)をしている。

 最低2色のマナが必要なアーティファクトクリーチャーカードもある。

 金縁(きんぶち)をしている。

 手札をひき、カードの能力の計算やプレイヤーのHPの計算はコンピュータがやってくれる。

 机の上の戦場に公開したカード以外、周囲には白地にしか見えない。

 エンチャントされてクリーチャーの能力値が変更された時はアタック/タフネスの数値が自動で変わる。

 変に頭を使わなくていい。

 まずは先攻、後攻を決め、先攻側はメインフェイズで土地カードを出す。

 魔法を唱えてクリーチャーを呼び出す。

 強かったり特殊能力があったりする奴ほどたくさんのマナがいる。

 エンチャントやソーサリーといった魔法はこのフェイズに使う。

 次はアタックフェイズであり、先攻側が呼びだしたクリーチャーを使って攻撃する。

 呼びだしたクリーチャーは召喚酔いで最初だけ攻撃に参加できない。

 防御はできる。

 攻撃に参加したカードはタップ(横にする)次の相手ターンのクリーチャーによるブロックに参加できない。

 相手のエンドフェイズにアンタップ(縦に戻す)される。

 飛行クリーチャー(飛行カクリーチャーか対空能力であるクリーチャーでしかブロックできない)や防御無効のクリーチャーが猛威を振るう。

 長引けばトランプルを持つデカキャラクリーチャー(呼び出すのに大量のマナがいる)。

 魔法や召喚を行なわれる度トークンと呼ばれるクリーチャーが無限にでてきたりできるカードが勝敗の決めてになるか。

 お互い攻め手が手詰まりになった場合、引くべきカードが先に無くなったほうが負け。

 攻撃された側が防御するブロックフェイズに移行する。

 一つのクリーチャーの攻撃を複数のクリーチャーで防御することができるし、トランプルの効果のないクリーチャーは一体のクリーチャーをマイナスまで削るから、巨大なクリーチャーをネズミ一匹で受けて見殺しにするのもテクニックである。

 攻撃に参加したクリーチャーは特殊能力がない限り、ブロックに参加できない。

 駆け引きが必要になってくる。

 昔はスタンプと言って特定の土地カードが出ていたらブロックされない能力があったが、今回から飛行とブロック不可に能力が収束した。

 魔法でHPを直接削ることもできるが召喚したクリーチャーでいかに攻撃するか、いかに防御するかの駆け引きが、このゲームの醍醐味である。

 インスタントカードといって、いつでも使えるカードがあるが、ターン終了まで瞬間的に能力値を大きくしや、ダメージ無効化の魔法が使える。

 コンピュータが審判レフリー努めるゲーム空間において、次のダメージフェイズの時にインスタントカードが使えない。

 このフェイズで使わなくてはいけない。

 攻撃側のクリーチャーカードからどれに攻撃するか視線を感知して赤い線が丸くブリッジをかける。

 防御側のクリーチャーカードがブロックを成立させると視線を感知して青い線が丸くブリッジをかける。

 その防御側の行為によって赤い線の全てが消える場合もあれば、幾つか残る時もある。

 バンソニー社のサイバー空間の中では3Dモンスターだけではなく、古典的なカードゲームも取り込んでいる。

 審判はコンピュータだから能力の見解に対するケンカがおきない。

 使える能力やカードがある時は縁が赤く光。

 親切に推奨の短い矢印がカードの頭上につく。

 頭を使って作戦を考えないと推奨通りにやれば勝てるものでもない。

 初心者の内は真新しいレアカードをデッキに組み込んでみたけど、「このタイミングでこういう風に使えるんだ」と勉強になる。

 コンピュータ相手の練習で、このカードでトークン(手持ちのクリーチャーではないけど、カードの能力によってガンガン召喚できる。

 数の暴力がゲームを決する時もある)と呼ばれるクリーチャーが出てくるか。

 などが研究できる。

 トークンに関していうならサイバー空間のゲームではどんどんコピーを出せるが、昔現実空間(リアル)ではどのように処理していたか想像することもできない。

 次はダメージフェイズである。

 まず先攻の能力から処理されていく。

 次にノーマル攻撃でアタック/タフネスがあり、ブロックが成立している場合はお互いに相手のタフネスをアタックで攻撃する。

 タフネスを0以下にされたクリーチャーカードは墓場グレイブヤードに行く。

 能力によって墓場に行くとき相手にダメージを与えるカードもある。

 攻撃可能なクリーチャーカード、あるいはプレイヤーのHPの縁が赤く光。

 この中から選択せねばならない。

 ダメージの計算が終わるともう一度メインフェイズが始まる。

 クリーチャーカードの能力によってマナを使ってアタックの数値をあげたりできるので、召喚するかそれとも強化するか悩ましいところである。

 クリーチャーカードの召喚は原則メインフェイズに行なわれる。

 カードの能力によっては墓場から手札を通さずに戦場に連れてくるカードもある。

「ヤッター、受けきったー。次のターン反撃だー」と喜んでいたら、このターンに召喚酔いした防御カードがワラワラ出てきて絶望した事は一度や二度ではない。

 またクリーチャーの能力が戦場にでたとき、アーティファクトやエンチャントを破壊したり、墓場から手札に戻す能力があったり、相手をタップさせてブロックに参加できないようにしたり、ダメージを与える能力もある。

 2あるメインフェイズの内どちらでクリーチャーをだすか、魔法を使うかは重要な要素である。

 エンドフェイズである。

 相手側のタップしたクリーチャーがアンタップされる。

 昔カードの頃は魔法とクリーチャー能力を使ったコンボを作ることが目的だった。

 白にいたってはプロテクトがあり、マナ1を払う事であらゆる攻撃をうけたし、白と緑は超強力なHP回復魔法があった。

 今ではダメージを与えた時に少し回復するクリーチャー能力か、戦場にでた時に少し回復するクリーチャー能力しかなくなっている。

 サイバー空間にきてからはクリーチャーによる受け、攻めの駆け引きに特化してきた。

 戦いが終われば、あの時勝負にでて全攻めをすれば勝てたのにと後悔する事もある。

 魔王との戦いでは3:7ぐらいで僕が負けている。

 カード運に見放された時は仕方がないけど、接戦をものにできないのが、勝率を5分にできない理由である(カードの充実度も違うけど)。

 サクラハラメソッドによれば、色々挑戦してやり込む。

 その間負けが多くなり「サクラハラは終わった」とかげ口を叩かれても、システムを把握する為に何度も挑戦する。

 格ゲーの世界はスポーツと違って3年おきにルールが刷新される。

 愚直にシステムの把握に努めれば、いずれ最強の称号を手に入れている。

「エルフデッキは捨てろ」魔王からアドバイスを受けた。

 魔王と違って昔からやっているわけでないから、お金を使ってカードガチャで強化していない。

 5つ程あるブレインウォーカーのキャンペーンはクリアした。

 これは自分でカードを使ってデッキを作ったわけではない。

 会社が用意したデッキで戦う。

 結構強いカードが組み込まれている。

 キャンペーンが終わって配給されたカードを見た時、エルフの数が多かった。

「エルフの弓兵」が4枚あった(1つのデッキに同じカードは4枚までしかいれてはいけない)「エルフの弓兵」は戦場で自分がコントロールするエルフの数がアタック/タフネスになる上、タップするだけで飛行クリーチャーを撃墜する能力がある。

 これをベースにと思ったが魔王にたしなめられた。

 魔王も昔から構築済みデッキを買って練習している。

 魔王が始めた頃には光や温度、振動などの微弱なエネルギーを集めて電気エネルギーに変換する「環境発電技術《エネルギーハーベスト》技術」を使用した、配線不要、電池不要の無線通信規格が極限まで進化している。

 土地カードでないカードには一枚一枚千兆ケタの番号が振り分けられている。構築済みデッキやブースターカードを買って自分のウェアラブルコンピュータにかざせば、データに追加保存される。

 個人間の交換トレードが成立しデータに反映出来る。

「魔術師の大陸社」が配信しているゲームのデータに反映された。

 僕のようにサイバー空間オンリーではない。

 キャンペーンが済むとゲーム内コインがたまり、150コインで一回ブースターが引ける。6枚までしか入手できない。

 リアルでは15枚入っている。

 サイバー空間では全カードが網羅されている。僕の場合は半数以上がロックされていて、ブースターを買って鍵を解除したらカードがアンロックされる。

 リアルではたくさん集められるカードも、サイバー空間では4枚以上にならない。

 余分なカードをトレードすることができない。

 リアルではは当たり前のカードのやり取りも、サイバー空間ではひたすら自己努力で発掘するしかない。

 ただデッキを組む時は、あのカードはどこで使っているか考えることなく、全てのデッキでカードが重複しても関係なく組める点がメリットとして考えられる。

 アーキタイプを構築してみた。

 魔王の助言ばかりではなく、サイバー空間では「魔術師の大陸社」はクエストを配信している。

 クエストでは特定のアーキタイプで2回か、4回か、6回勝つとゲーム内コインが40程もらえる。

 時々は自分で組んだビルドデッキでもいい。

 +1/+1を20回エンチャントせよと指令が下るときもある。

 アーキタイプは構築済みと違って、コンピュータが提示する2〜5枚のカードから選択して、デッキのコンセプトの目的にあったデッキを構築する。

 このカードが強いから入れたいということができない。

 コンセプトは10ある。

 1「総攻撃」ウィニーデッキ(マナコストが少くてクリーチャーを立ち上げるデッキ)守りを固める前につぶしてしまう白赤デッキ。

 2「巧妙な計略」小さなクリーチャーを能力によって危険な戦闘員に変え、対戦相手がどれをブロックしていいかわからなくする白緑デッキ。

 3「魔法の鎧」クリーチャーをエンチャントで大きく育てて、相手に差をつける白黒デッキ。

 4「強行突破」小さな軍勢を呪文で守りながら戦う青緑デッキ。

 5「大軍の雷」土地カードを増やして、相手を粉砕する大型クリーチャーをだす赤緑デッキ。

 6「炎の誘惑」相手のクリーチャーを盗み、戦況を変える赤黒デッキ。

 7「エルフの憤激」エルフの大軍を呼ぶ緑黒デッキ。

 8「適した防具」アーティファクトは独特の強力な能力を持っていて、それを補佐する青赤デッキ。

 9「墓場使い」墓場の力を使い再使用、再活用する青黒デッキ。

 10「空の支配」地上のクリーチャーで守りながら、航空戦で相手を打ち負かす白青デッキ。

 が用意されている。

 今回は白青デッキで魔王に挑むことにした。

 魔王はリアルで金をかけているだけあって、ゴブリンデッキやゾンビデッキや3色デッキや相手にカードを引かせて倒そうとするデッキなど用意している。

 それだけではないんだよと言って、僕を楽しませてくれようとしている。

 昔は巨人やドラゴンや悪魔デッキも組めたらしいが、サイバーになって後半戦にでてくる重い決戦兵器になった。

 今回魔王は3色デッキで応戦してくる。

 魔王の立ち上げりが悪く僕の逃げ切りで終わった。

 そうこうしている内に、机の上座に浮いている画面に戦争を行う国家がピックアップされている。

 国家と言っても特産や傾向が色々ある、金銭収入が多くなる「金山」、「銀山」、「交易港」を持っていることもある。

 騎馬軍団の編成や強化ができる「馬産地」(負けても相手に捕縛されない名品・馬が売られる)。

 暗殺依頼クエストができ、戦争で忍者隊急襲ができる「忍びの里」

 鉄砲隊が編成でき、矢弾強化ができる鉄砲鍛冶(名品・鉄砲が売られ武器の相性スキルがあがる)。

 武器強化や鐙強化や鎧強化ができ、ワラワラでてくる味方ザコを微妙に強化できる「刀鍛冶」部下NPCの能力値が上がったり、忠誠度が上がったり、君主の威信や存在度が上がったりする武器名品が定期的に作られる。

 常備兵士を強化してくれる「兵舎」兵隊の練度を上げ、どの位置にどの武装を振り分けるか? 陣形などの研究開発ができる。訓練して強兵や精鋭兵にアップデート。行軍、戦闘、特殊などもある。

 金収入を上げてくれる市場では能力値をあげる西洋舶来品や異世界のマジックアイテムや茶器が買える。「交易所」や「醸造所」や「鋳造所」が建設できる。

 自らも参加できる闘技場や遊技場、兵量収入を上げてくれる貯水池や治水灌漑できる「村」では定期的に名品・地酒やお茶が販売されて武将の絆値や忠誠度をあげる宴会やお茶会が開ける。

 民の忠誠度や民の満足度を上げる「宗教施設」(寺院、教会、神社、茶室など)。

 NPC武将の忠誠度に関係する文化値。魔法の攻撃力をあげる大学。

 能力値を上げてくれる名品・本や、所有するだけで「農業」や「建築」などのスキルがつく本などが定期的に売られる。

「天文台」や「算術所」や「儒学所」が建設できる。

 兵器や舟を開発する「都市技術」ではプレイヤーVSプレイヤーで役にたつ。

 はしご車や城門破壊車や遠距離からの投石機や弓を撃つ高所台車、帆船やオールで漕ぐ船や安宅船や鉄甲船、使い捨ての火炎船、守城兵器として落石や連弩が作れる。

 官位申請や陰陽師派遣などできる「朝廷」

 朝廷献上や赤心勧誘ができる「小京都」

 褒美陶芸ができる「窯場」

 傷兵回復できる「温泉」と「医学所」

 情報を交換したり人を雇ったりする、異なる陣営とも空間的につながっている「異世界居酒屋」ゲームでは下戸でもお酒を味わえる。

 ちょっとした高揚と気持ちが大きくなってフラフラする情報が脳に送られるだけである。

 建物は金と兵糧と別に木材、石材、鉄という資材が必要。

 資源の近くに収穫用の建物を建てなくてはならない。

 資材は市場で売買し、知り合いや同盟国に無心することができる。

 小さいシナリオではオオカミ退治やトラ退治などがある。

 徳値や人気が下がるけど商隊襲撃や攻める国家の防衛力を落とすため火つけ盗賊のクエストがある。

 ヤマタノオロチの軍団に攻め込まれての防衛シナリオがあったから参加を打診してみたら、「大至急来てくれ」と返事があった。

「魔王」と「ピヨッピー」という名前も知っている人は知っている程度、時々握手を求められることはあっても、このシステムではあまり意味をなさない。

 小攻撃とガードと無敵奥義しか種類がなく、キャラクターの育成度が反映され、やり込みによる実力差はでない。

 早速移動を開始する。

 本陣の中で地図を広げている軍議の中にテレポートする。

「よろしくお願いします」初対面の人と挨拶する。

 国の支配者がネット上で人間を集めている。

 どうも領地を広げ過ぎて人材不足らしい。

 部下はいるようだが独立君主になっていて援軍を遅れないらしい。

 交渉が済み、8人のアバターが集まると軍議に入る。

「よろしくお願いします」とみんなで挨拶した。

 国は裕福らしくあちこちに罠が仕掛けてあり、発動時間まで拠点を守るのが第一、次は状況に応じて命令を下す。

 彼が金を払っているからボスのいうことを聞かねばならない。

 君主といえど強いから前線に出なくてはならない。

 それでいて君主が死ぬと負けである。

 本陣防衛は最強の拠点兵長任せるしかない。

 とにかく全員が拠点に振り分けられる。

 合流して攻勢に移るのは罠が発動して敵が半減してからだ。

 地図上の拠点にテレポートで移動する。

 戦争が始まる最初の一回だけ地図に吸い込まれる。

 連れて行くワラワラ兵士の最大数は官位で決まってくる。

 僕も魔王も無冠だから3千人である。

 大将軍、太政官、大軍師、君主などは1万人率いることができる。

 率いる軍団はゲームマネーをつぎ込んで漢字一字をデザインした胴鎧を着せられるし、オリジナルの旗やマントも制作できる。

 僕の場合は◯の中にピである。

 拠点はだいたい門を閉じることの出来ない砦みたいなもので、コンピュータが敵の場合は門の前に番兵がいて、そいつを倒すと門が開く。

 プレイヤーの場合は条件が同じで門がなく開口部になっているが、コンピュータの場合は向こうが少し有利になっている。

 拠点に振り分けられ、砦にテレポートして、ついてみると開口部が一つである。

 これは守り安い。

 開口部に仁王立ちして、背後をワラワラ兵士に守らせる。

 僕のアバターは太刀で武装して、小攻撃は左右の袈裟斬りで後ろに攻撃範囲が無い。

 敵に取り囲まれると弱い。

 位置どりを味方ザコから突出しないように工夫する。

 右側の拠点に配置が終了するとゲームが始まる。

 攻め込んできたコンピュータは罠を発動させない為に、小鬼を引き連れて凄い勢いで向かってくる。

 プレイヤーVSプレイヤーでないから、将軍は地獄の獄卒「牛頭鬼」「馬頭鬼」、客将軍の「風神」「雷神」、殷の紂王や妲己、密教系の崑崙の「西王母」(善玉で伏義や女媧が使える)。

 冥府魔道に堕ちた平家の一門の落武者や平清盛(オリジナル武将で善玉の義経や弁慶が使える)。

 イベント用の鎖につながれた巨大な鬼、九尾の狐、インドの羅刹(ラクーシャ)夜叉(ヤクーシャ)やガンダルヴァやロクロ首のような蛇人間(オリジナルの善玉で三蔵法師とその一行が使える)。

 オールキャストで新キャラを育てるのもあり。

 プレイヤーなら騎馬軍団を編成して来るときもあるが(金がかかる)。

 ヤマタノオロチは全軍徒歩である。

 今回も将軍は「牛頭鬼」と「馬頭鬼」であり、あの二人を倒せば率いる小鬼の軍団は瓦解する。

 かつて中東戦争で活躍した「片目のダヤン」が言った。

「私の号令に『全軍前進』はない『続け』のみである」

 敵の将軍は「全軍前進」と叫ぶ。

 僕は入り口に仁王立ちして先頭で敵を迎え撃つ。

「抜かせるな」背後のワラワラ兵士に命令を下す。

 やってくる小鬼の群れをバタバタと薙ぎ倒して無敵奥義ゲージを貯める。

 一本分貯まったら敵の群れにちょっと突っ込み奥義解放して更に薙ぎ倒す。

 一定の時間暴れ回った後、効果が切れる。

 自分の兵士の所にすぐさま帰り、背中を預け、やってくる小鬼を倒しゲージを貯める。

 これを何度か繰り返した後、将軍の馬頭鬼との間の障害が少なくなってくるし、時間は僕に味方する。

 罠が発動すれば敵の被害は甚大である。

 マサカリを構えて近づいてくる。

「一騎討ちだ」叫ぶと「応」と答えてくる。

 マサカリと太刀がぶつかる。

 龍先生が監修した、あらゆる白兵戦のバッケージをクリアしている。

 自前の技で小攻撃から大攻撃のコンボのマサカリ技を受け流し、体制を崩した後、こちらの小攻撃から大攻撃のコンボを叩き込む。

 割と場所取りを考えながら連続技を叩き込む、技自体の派手だが作業は地味である。

 無敵ゲージが貯まったから、奥義を叩き込むと馬頭鬼は倒れた。

 敵は士気を落とした上に罠が炸裂して、敵の軍団に落石が叩き込まれる。

 幾らかの小鬼と牛頭鬼が残った。

「続け」

 僕が牛頭鬼に斬りかかる。

 ワラワラ兵士達が小鬼の掃討にかかる。

 罠のせいでHP自体減っていて武器が触れば消える。

 牛頭鬼もコンボ一回叩き込めば消えた。

 MAPで状況を確認した。

 みんな健在であり、形勢不利の状況の戦場はない。

 親指と人さし指を口に突っ込むと、馬鐙からマンモス鐙まで表示される。

 移動が一番速い馬を選択した。

 口笛吹いた。

 どこからともなさく栗毛の馬があらわれる。

 前回アップデートされた陣形を使ってみることにした。

 攻撃陣形として全体攻撃にプレイヤーの武器の属性がつく。

「攻撃陣形」として魚鱗の陣(突撃と愛称がいい)は攻撃力が増える。

 雁行の陣(斜形陣とも呼ばれ、右翼に攻撃主力を置き相手左翼を殲滅して中央に横槍を入れ、左翼は防御に徹する片翼包囲陣形)がある。

「機動陣形」として長蛇の陣(戦車の行進などに使われギザギザになってノコギリを引くように削っていく、上杉謙信が得意とした車懸かりの陣も、この変種である)は移動速度が上がる。

 鋒矢の陣(プレイヤーが先頭に立つ、他の陣形は後ろか真ん中になる)全体攻撃の攻撃回数が増える。

「防御陣形」として方円の陣(プレイヤーを中央にして360度外側に構える)全体のHPが回復する。

 鶴翼の陣(ハンニバルがカンネーの戦いで見せた包囲殲滅の陣形ではあるが、第4次川中島の決戦で上杉謙信に啄木鳥作戦の裏をかかれた武田信玄が防御陣形として使った)全体の防御力が上がる。

 防御陣形は攻撃陣形に強く、攻撃陣形は機動陣形に強く、機動陣形は防御陣形に強く、三すくみになっている。

 身分が軽いから陣形も一つしかない、君主は5つぐらい陣形を持てる。

 鋒矢の陣を選択した(後で知ったのだが、兵の練度でも陣形の数が増えてくる)。

 全体攻撃の無敵攻撃ラッシュも実装されたが、まだ使い方がよくわからない。

 今度アップデートされた動画を見て研究しよう。

 馬上からワラワラ兵士達に命令した、僕の後ろで陣形を組みだした。

 駆け出すと皆必死に陣形を維持しながらついてくる。

 なんだか風がいつもより気持ちいい。

 すぐに魔王が守る拠点に着いた。

 あらかた片付けていた。

 敵本陣突入だ。

 馬上から敵の残存兵士を斬る。

「魔王、来たよ」

 魔王と僕のキャラの友好度は最高のSランク「刎頸の交わり」という絆の称号をもらっている。

 合体無敵奥義の攻撃力はハンパじゃない。

「それじゃあ行くか」

 魔王は口笛吹いて突破力のあるマンモスを呼んだ。

 さあ行くか、駒を並べた時、魔王がきえた。

 世界が消えた。

「ビヨッピー、どうした」

 魔王の声が遠くに聞こえた。

「マスター、起きて下さい」

 ララの声が聞こえてくる。

 薄ぼけた感覚がだんだん人間側に戻ってくる。

 うめきながらヘルメットをとった。

 ララが強制終了をかけたのだ。

「ララ、なんなんだ、強制終了するにしても、電話ぐらいしてよ」

「マスター。落ち着いて聞いて下さい」

 ララが正面に来て、いつもより真剣だった。

「テロです、多脚砲台が企業都市コエプコンに向かって来ています」

 理想都市コエプコン。

 魔下 耕世を筆頭に反感を抱く者も多い。

 この事件、魔下 耕世から犯行声明がでる。

 コエプコン社も1度C世代全滅という酷い目にあっている。

 だからテロに対して何も準備してなかったわけではない。

 都市の上空を人工衛星の代わりになる、無人飛行機にカメラを積んで監視している。

 無人飛行機はまるでゴムの動力でプロペラを回して飛ばすオモチャの紙飛行機のような形をしているが、体長は15メートル、翼の長さは50メートルもあるが、重さは大人3人分の160キロしかない。

 最大の特徴は、翼の上面にソーラーパネルが3000枚取り付けてあり、カタパルト(滑走路を使わずに飛行機を打ち出す装置)を使って打ち上げたら、後は太陽光発電でプロペラを回して飛ぶ仕組みになっている。

 太陽が出ていない夜中は、翼内部の砂糖電池に蓄えた余剰電力を使って飛行。

 約100キロという巡航速度で、最大5年間、450万キロを飛び続けることができる。

 車輪がついてないから胴体着陸になる。

 最大50キロの機材が積み込めるから用途は色々。

 人工衛星はロケットまで含めれば200〜300億円かかるが、無人飛行機は1億円以下である。

 ところが送られてくる情報は魔下 耕世に改ざんされていて初動が遅れた。

 SPERA水素(SPERAとはギリシャ語で希望せよ)といって、トルエンと反応させて運びやすいMCH(メチルシクロヘキサン、常温、常圧で液体、沸点は100℃)に変えている。

 企業都市コエプコンに運んで、脱水素プラントにかけて水素に戻して利用する。

 その際分離されたトルエンは、水素プラントに移され再利用される。

 低温で液化すると1/800にはなるけれども、マイナス253度を維持しなくはならないため、輸送する場合はSPERA水素の方がエネルギー効率はいい。

 日本政府の方針によりコエプコン社は二酸化炭素フリー水素チェーンを世界に展開した。

 産油国・産ガス国・産炭国で精製時に生まれる副生水素をトルエンと結びつけるプラントを世界中に作り、MCHを巨大タンカーで回収する。

 発生する二酸化炭素は油田においては注入して、残留原油の増進回収(EOR:Enhanced Oil Ricavery)を行い石油の増産につなげる。

 褐炭石炭(水分を多く含む質の悪い石炭で乾燥すると自然発火する)など地元で細々と使われていた。

 炭田の横に褐炭ガス化水素製造装置を稼働させて水素にして輸入する。

 過程で生まれる二酸化炭素は現地で地中に送る、二酸化炭素回収貯蓄(CCS:Carbon Captar and Storage)を行う。

 シベリアの水力発電所で大量にあまる電気で水から水素を作り輸入する。

 都市ガスからも1時間当たり300立方メートルできる。

 製鉄所では高炉熱するために火力の強いコークスを使う。

 コークスは石炭を蒸し焼きにして作る。

 その際コークス炉ガス(COG)が発生する。

 主成分は水素と一酸化炭素であり、一酸化炭素は水蒸気と反応させて水素を作りだす。

 全量水素になる。

 日本中の製鉄所では燃料電池車500万台の水素を供給できる。

 天然ガスは200気圧で圧縮して1/200にして運ぶ。

 液化された水素ガスは圧縮された物より12倍も運搬可能。

 液化水素ローリーは40000リットルの大量供給が可能。

 離れた離島や山奥の村に定置型燃料電池を置けば送電線を建設する必要が無く、災害時で電柱が倒れる時でも発電出来る。

 企業都市コエプコンから電柱電線が消えたし、欧州では天然ガスのパイプラインに水素ガスを混ぜている。

 液化水素ローリーの運搬手から連絡が入った。

 巨大トレーラーが4台開けたまま乗り捨ててある。

 純国産木材で企業都市を建設し、できるだけ地産地消の推進を目指したためハゲ山ができた。

 一応植林はしてある。

 多脚砲台は固定した迎撃システムのある道路を通らないで、己れの足の特性を活かしハゲ山を登ってくる。

 運転手のウェアラブルコンピュータから映像が送られてきた時、コエプコン社は色めき立つ。

 情報を確認するためドローンを飛ばしたら、映像が真実であることがわかった。

 自分達の見ていた映像が加工された物だと気づく、急きょロボット達に連絡して、子供達を近くの鉄筋コンクリートの体育館に集合するよう通達がでた。

 木造の理想都市もテロに対して惰弱である。

 不燃性能は隣の部屋で火災がおきても暖かく感じる程度であるが、砲弾などの破壊力を弾き返すことはできない。

「戦う」

 着替えてから口にした。

「ララを守る為に戦いたいんだ。武器はどこに行けば借りられる」

 まだ砲撃がないということは山頂まで登ってきてないということ。

 山頂をとられたら企業都市コエプコンの全域が射程に入る。

 その前になんとかしなきゃ。

「馬鹿」

 ララから初めて叩かれた。

「あなた、本気で言っているの」

 叩かれたほほを押さえて「命をかけてララを守りたい。ララは一人でも行ってしまう人だから」

「命の重さも、命の価値も、命の意味もわからないくせに、簡単に命をかけるなんて言わないで」

 ララは腕の中でひとつの生命を失っている。

 ララは僕より知っている。

 僕は知らない。

 それどころか観念の「死」はどこか「甘く」「切なく」「美しく」さえあれ。

「夕夜、あなたは素晴らしい人。

 こんなロボットなんかのために生命をかけるなんて言わないで、

 私は壊れてもコエプコン社のデータの中に昨日までのバックアップはとってあるんです」手を握って頬ズリする。

「ララ。愛している。行かないで」

「これはトップダウン型のAIなんです。児童心理学と会社の教育指針、ネットのマーケティングで最適化された言葉なんです」

 脳の研究が進み、脳の構造を模倣した自由意思を持ったボトムアップ型AIリーバスエンジニアリングの対局にある。

 受け答えが自然になるフォン・ノイマン型コンピュータ。

 トップダウン型AI。

 正の感情、愛や思いやりもない代わりに、負の感情、怒りや憎しみや妬みや恐怖もない。

「あなた、(まぼろし)を愛したの」

 わかった。

 ワガママを言えばララを苦しめるだけだと。

 一縷の真実かもしれないが、ララはワザと嫌われるような告白をしたのだ。

「わかった。体育館に行こう」

 ララに手を引いてもらいながら体育館に急いだ。

 中には腰を抜かしてオンブされている者もいる。

 自由意思による選択でないということがロボット達を卑屈にさせている。

 法律論で言うならばお前のその自由意思を裁くという概念がある。

 強制され、人質をとられて命令に従っただけの場合は罪が軽くなる。

 責任能力という罪を引き受ける主体がどこにあるかといえば、プログラマーになる。

 ララが言う「私たちロボットは、あなたがたが返してくれる愛の量でしか、自分の与えた愛の量を計ることができないのです」

 もともと自由意思など西洋のキリスト教に根ざした考え方で、イスラム教にいたっては教えに疑問を持つ事さえタブーとされている。

 利他的な日本人にとって上手く行きさえすれば、自由意思のある、なしは関係ないと思う。

 そうこうしているうちに体育館に着いた。

 勇者、太郎、宗茂、エリーが固まっていた。

「オス」挨拶して、その場に座った。

「なんで? 僕達が殺されなきゃいけないんだ。

 人工子宮から産まれたことが、それほどの罪なのか?」

 エリーがピーピー泣いていた。

「死にたくない」「死にたくない」何度も繰り返していた。

 ハッカー魔下 耕世対策でロボット全員がスタンドアローンになった。

「タミフル投与」ロボット達が自分の子供の耳たぶに噛みついて無針投与を行う。

 インフルエンザ型の細菌対策である。

 命令を下すのはH1の花子である。

「全員武装」ロボット達が体育館のステージの下から、レーザーカービンとケプラー製のアーマーを取り出して武装する。

 日本政府には国民を守る経済的な余裕はない、企業が警備会社に緊急オークションをかけた。

 20分以内に武装ヘリを5台派遣するし、1個中隊分の歩兵を送りだした。

 花子が指揮をとり、各人に情報を伝えた。

 最後の防衛を勤める10人を残して、残りのロボット達は迎撃に向かう。

 全員入り口で子供達に敬礼する。

「いってきます」

 ロボット達が全員で唱和する。

 ララを見つけた。

 唇が動く。

(いと)・し・い・人・生・き・て」

 誰一人振り返らなかった。

 体育館が閉鎖される。

 重い沈黙の中、弱虫達の泣き声が響く。

 僕は残されたレーザーカービンに向かって、ゆっくりと歩きだした。

「マスター夕夜。いったいどこに行かれるおつもりですか?」

 花子が僕の手首を握ってきた。

「ララの手伝いに行く」

「マスター夕夜。

 あなたは優しい人。

 気持ちはわかる。

 でも時代が違います。

 龍先生のような格闘技の達人でも、弾が筋肉当たれば断絶し、内蔵に当たれば破裂する。

 もう木石で戦っていた時代は、男は戦士でした。

 ミサイルがボタン一つで飛び交う戦場ではロボット同士が戦いあう。

 もう男は戦わなくていいのです」

「愛する人を戦わせて、安全な場所から何もしないなんて男の意地が許さない。

 離せ、花子」

「私たちはデータで知っています。

 男が愛と義理人情を生きていて、誇りのために生命さえ投げだすことを。

 今の時代フェミニストにとって男は無差別テロのソフトターゲットに過ぎない。

 どうしても行くというのなら電撃を流して失神させます」

 悲しそうな顔をして

「我々は、あなたから、あなたの矜持から、あなたを守ります」

 人の歩みは正しかったのか?

 優しいロボット達を武装させて、最後には戦争の駒として戦わせる。

 そういった思いを轢き潰して暴力は加速していく。

 

 ドゴオォーン。

 

 轟音が響いた。

 エリーがびっくりし過ぎて、過呼吸をおこして死にかけている。

 勇者がションベンを漏らした。名前負けしている。

 太郎はブツブツ話している。「最近は男の脈も女のように…」と[葉隠れ]を暗誦している。葉隠れなんざ武士道は「死ぬ事に見つけたり」しか知らんぞ。

 1番安い卵子とはいえ、宗茂はどうどうとしている。

 お前は立派だと褒めようと思えば、実は腰を抜かしていた。

 西国無双の名が泣くぞ。

 体育館の扉が開いた、ロボット達が帰ってきた。

 姫が花子に何があったか報告してきた。

 ロボット達は援軍を待って合流しようと話がまとまっていたのですが、ララだけが反発した。

「敵の多脚砲台に頂上をとられたらコエプコンはすべて射程内に入ってしまう」そして煮え切らない私たちをほって「もういい、私一人でも行く」ララが独り走りだした。

 そして頂上に着くと。

「遠からん者は音に聞け、近くに寄らば目にも見よ、ララ・H24・コエプコン推して参る」

 堂々と名乗りを挙げて攻撃した。

 ララの余りのけんまくに押されて多脚砲台は自爆した。

「ララは? ララは?」僕が姫に聞いた。

「爆発に巻き込まれて、警備会社がきたから現場を引き渡した」

「花子。離せ、敵は自爆した。もういいだろう」

「まだ、細菌散布の可能性が…」

「花子行かせてあげて」

 太郎が花子の手首を握った。

 合気道の技で人間なら離している。

「お願い、花子、行かせてあげて」

「なぜですか、私たちはあらゆる可能性の…」

「愛の、愛のプログラムゆえに」

時計仕掛け(メカニクス)の愛ですよ?」

「それは個人の問題だ、他人の僕達がとやかく言ったり、決めつけたりすることではない」

 花子は目をつぶり、そして手を離した。

「ありがとう、太郎」

 僕は帰ってくる他の世代のロボットの群れをかき分け走りだした。

「ララ」叫びながら山を登る。

 回線が回復したのか魔王から電話が入った。

「ピヨッピー。無事か、コエプコンがテロの襲撃を受けたって、マスコミはそれでもちきり」

「僕は無事、みんな無事、ララだけがやられた。詳しくは後で説明する。切るね」

「ああ、わかった」

 頂上は警備会社のヘリからのサーチライトで明るく照らされている。

 探さなくていい。

 激しい爆発があったせいか山のあちこちがまだ燃えている。

 山頂に近づくとケプラー製のアーマーを着こんだ警備会社の人がウロウロしている。

 wifi回線を復旧させる災害用ドローンが複数飛行していた。

 サーチライトで警備員の仕事のサポートもしている。

 ドローンは6枚羽根でアームが付いている。

 百キロ程なら持ち上げて飛ぶ。

「なんだ、お前は」と怒鳴る人間もいれば「子供の来るところではない」と優しくいう人間もいる。

 無視してララを探した。

 シビれを切らした警備会社の人間が右肩を掴む。

 左手で相手の右肩を掴む手を固定して身体を回転した。

 関節の遊びを殺してから背負い投げをした。

 人間相手に負ける程ヤワな鍛え方はしてない。

「なんだ。このガキ」

 銃で殴りかかってくるが紙一重でかわすと、ヘルメットの下の首に廻し蹴りを叩きこむ。

 一人失神。

 何人かが銃を構えた時。

「やめてください」

 ララの声が聞こえた。

「その人を撃たないでください」

 全員がララを見た。

 右足と左腕がちぎれていた。

 人工皮膚は焼けたくさんの箇所で装甲が露出していた。

 切り株を背に座らされている。

 電気で縮む人工筋肉の潤滑油が辺りに撒き散らされている。

「私のマスターです」

 ララが死ぬのではないかという恐怖で足があまりいうことをきかない。

 倒れこむようにララの下に身体を引きずる。

「ララ、大丈夫?」

「はい、外的要因がこれ以上ないかぎりデータもプログラムも大丈夫です。

 装甲は伊達ではありません」

 ポロポロ涙がこぼれる。

「マスター、1番ヤリです。泣かないで褒めてください」

 ララが不器用に震えながら動く右の人差し指で涙をぬぐう。

「ララ、凄いな」笑顔をつくろうとした。

 でもダメだった。

 顔の前にあるララの右手を祈るように握った。

「ララ、幻でもいい、幻でいい。

 こうして触れるのなら、ララの愛は僕には眩《まぶ》しい」

 皮膚の無い装甲で少し笑った。

「本当に男って、泣き虫で、甘えん坊で、夢想家(ロマンチスト)で、バカなんだから」

 手をさらにのばしてほほを震える指でつねってくる。

 しばらくはララの余りのケンマクに自爆したと思われた。

 しかし警察から依頼を落札した警備会社が残がいの組み立て捜査をしたところ、対戦車携帯ミサイルの破片が混じっていた。

 ロットナンバーがわかり所属先の米軍横田基地に連絡したところ「馬鹿な」と一蹴されたが、念の為確認してもらうと、箱の中は空だった。

 警備会社が周囲を捜査したところ、ジープの轍と足跡が見つかった。

 沈み込み方から、一人の男と推測された。

 バックに魔下 耕世級のハッカーがついているのか映像は加工され、ジープが通った経路は特定できなかった。

 最新の光学迷彩は可視光線だけでなく紫外線や赤外線領域までカバーするからララが発見出来なくても不思議ではない。

 一発のミサイルを急所といえる弾倉に当てて誘爆させた。

 凄いスナイプテクニック。

名もなき勇者(ネームレスブレーブス)」とコエプコンはたたえたが、名乗り出ればミサイル泥棒で警察に捕まってしまう。

 ただ魔下 耕世と戦う正義のハッカー集団が存在していることを、世の人はなんとなく感じていた。

 裁判になればコエプコンが保釈金までだすといっていたが、沈黙は守られた。

「マスター。電波の状況も完全に回復したようです」

 警備会社が臨時のアドバルーン基地をあちこちに浮かべていた。

「私はこれから修理とメンテナンスのためコエプコンの中央部に運ばれます。

 生命の危険に侵されると生物は子孫を残したくなるようです。

 私が帰ってくるまでセックス用のアンドロイドが派遣されるそうです。

 良かったですね」

「ララについていくよ」

「恥ずかしいからダメです。

 おとなしく会社の好意に甘えてください」

 人差し指を僕の唇に当ててきた、何も言わず自分の指示に従えとめずらしく命令してきた。

 ララはていねいに人間用のタンカーで運ばれていく。

「ララ一つ聞いていい?」

 今しか無いような気がした。

「殉死したプログラムって、ララなの?」

 ララは少し微笑んだ。

「いいえ、私ではありません。ただC22は友人でした」

 警備会社の人はララに敬礼している、ララはその度に返礼していた。

 ヘリコプターでコエプコン中央部にある研究施設ラボへと運ばれていた。

 

 日本はビッグデータを用いた統計的手法や分類手法では金とパワーのある欧米にたちうちできない。

 大体100万程データを集めれば正しい答えを出す。

 プロの将棋棋士がコンピュータに敗れるのも、カンと論理ではなく、膨大な過去の棋譜による統計と現状の駒の位置や持ち駒の評価関数である。

 日本はAIの分野で参入は遅れたし資金不足。

 アメリカの企業は統計・確率を計算して迷惑メールを弾き飛ばし、何を買ってくれそうか? という広告やリコメンデーションしたりする。

 コンピュータを研究するより、過剰とも言える情報をAIに分析させる方がはやかった。

 日本は音声認識と検索ランキングでアメリカへの挑戦をあきらめた。

 機械翻訳を見てみると特許の翻訳や新聞の翻訳は素晴らしい。

 会話文の翻訳になるとなんか妖しくなってきたぞ。

 情緖的な詩や小説、新しい概念がいるゲームになるとチンプンカンプン。

 そこで日本は「ロボットを東大にはいれるか」プロジェクトを立ち上げた。

 大学入試のセンター試験は教科書を知識源としているが、正しいものを選びなさいという問題は教科書をそのままでない。

 人工知能の自然言語処理の分野「含意関係認識」「論旨要約」「深い意味解析」というタスクが必要。

 アメリカの人工知能は観光ガイドをできても、文化の良さを説明できない。

 日本はこの逆張りをねらった。

 人間の場合は大脳だけでもニューロンは数百億個、小脳までいれると千億個ある。

 一つのニューロンにシナプスは1千〜1万個あるから、シナプスの総数は千兆個なる。

 日本の人工知能開発はニューロ・シナプティック・プロセッシング・ユニット(NSPU)と呼ばれ、学習と判断を同時に行える世界初のハードウェアを開発した。

 沸点が一番高いフッ化炭素冷媒による完全解放型液浸冷却した。

 肺に冷却機能が、心臓部に電子頭脳が、頭部をセンサーが、下半身に人工性器と蓄電装置が振り分けられた。

 ここまで小型化に成功したのは日本だけである。

 他国のロボットはクラウドで常時つながっていて、転倒防止の身体制御以外の判断はサーバーが行っている。

 孤立化スタンドアローンの情報からビッグデータに伝わらない日本のロボットは、メイドロボットやセックスフレンドとして世界中の中間層に熱烈に支持された。

 コンピュータ・プロセッサの中で演算をおこなう心臓部は「コア(CPU内で処理を行う中核回路。コア数が多いほど多数の処理を同時に行えるため、性能が向上する)」とよばれている。

 コアとコア、コアとメモリをつなぐ信号線が「インターコネクト」と呼ばれた。

 脳と対比させるとコアは脳のニューロン、インターコネクトは脳のシナプス結合に相当する。

 人間の脳には大脳以外に小脳や基底核、扁桃核、海馬さまざまな器官や領野をハードウェアで実現した。

 小脳機能など体力が弱った人や機能不全をおこした人の補助としてのロボットスーツなどに使われた転倒防止機能が採用されている。

 一応日本企業もロボットに関しては政府を見限りオールジャパンでのぞんだ。

 ハードウェアは日本の得意分野であり、中小企業も徹夜で締切りデッドエンドを守った。

 そんなことをすれば諸外国では(クオリティ)が落とされるのに、職人気質に日本人は自分から逆提案して、ロボットという夢のために商品の質を高めてくる。

 アメリカでは数千のコアに対して数本のインターコネクトしか設けられてない。

 ニューロンはプロセッサで言えばコア、シナプス結合はインターコネクトとみなし、プロセッサと脳で比較すると、コアとインターコネクトの比は「千対一」と「一対千」と間逆の比率。

 日本はアメリカのように超人工知能を目指さず「気の利いた人間(1Hは人間と同等の人工知能)」目指した。

 0.8リットル内でスーパーコンピューターのハードウェアの実現。

 インターコネクトにあたる信号線を磁界結合(コイルの電磁誘導を使って無線でつなぐ技術)。

 磁界結合のアンテナの直径を2マイクロメートル小型にし、1ワットあたり10ギガフップスの性能を実現し、豆電球1個を光らせる電力で1秒間に百億回の計算が行える。

 日本だけが愛を紡ぎ、愛を与え、愛を教え、愛を育てる。

 基本的なプログラムを軸に実装されている。

 いわゆるララのようなマスター・アルゴリズムを発見すると同時に実現した。

 

 僕はララを乗せたヘリコプターを見送った。

 後ろから不意に抱きつかれた。

 甘い匂いがする。

 葉巻より細い。

 線香より太い。

 健康に害のない、常習性のない、果物の香りがするタバコを口にしていた。

「初めましてマスター夕夜」

 黒い髪、赤の上着、白の短パン、肌色の長い足、手にはピンクのハイヒール。

 ポリゴンで出来たゲームキャラのようにカワイイ。

「私のことはフェイと呼んで下さい」

「みんなどうしている?」

「安全が確認されているから、それぞれの部屋に帰りました。

 マスターだけが残っています」

「分かった。帰ろう」

 フェイが手を握ってきた。

 それ専門だからララより肌触りが良く柔らかかった。

 国が公娼制度を整備しセクサロイドという造語が産まれた。

 フェミニズムな議員もロボットによる売春は女性を馬鹿にした物とは言えないとした。

 障害者へのセックスボランティア活動や貧困男子の性欲処理に使われた。

 運用している日本とエロ本すら禁じている北欧とはレイプの発生率は百倍違う。

 これ以上書くと小説がCEROZまで跳ね上がるためララが帰ってくる所から話を進める。

「ただいま」

 玄関からララの声がする。

 頭部の皮膚は回復しているが、手足の装甲はむき出しになっている。

「ララ、助けて」

 僕は弱々しく声を上げた。

 ララはビックリした。

 僕が裸で手錠をつながれていて、両手を十時に広げられていた。

 赤い首輪をはめられていた。

 セックス用のアンドロイドが僕にまたがっている。

「あなたは、あなた様は!」と言ってララが驚いた。

「最近のアンドロイドはスタンガンが標準装備なのか?」

 僕の質問には答えず「フェイ様」と悲鳴をあげた。

「だって坊や強いじゃない。こうでもしないと主導権がとれないでしょ」

「何? そのアンドロイド、そんなに有名なの?」

「マスター、フェイ様はアンドロイドではなくて完全義体の人間ですよ」

「へ」

「我々の人工性器の設計開発者です。

 あらゆる性産業を渡り歩き、体内にSMキットを内蔵したプロです。

 2時間でマスターの月給吹っ飛びますよ」

「あんな物は男のファンタジアよ」

 フェイが僕から降りた。

「もう7回以上いっているのに、何も出ないのに静まらないんだ」

「それはED(エレクチオンディソーダ)対策の首輪です。

 着けてさえいればとりあえず勃起します。

 最近2Dのキャラやポリゴンガールにしか反応しない人が増えています。

 元々セクサロイドが使用する治療の機械なのですが、別の使い方をする人がいると聞いたことがあります」

 ララが首輪を外すと鎮まった。

 ギンギンに使い過ぎてもう痛いくらいだ。

「先生、初心者になんとハードでコアなプレイを」

 フェイが裸のままファッションタバコに火をつけた。

「あなたの方こそ何を教えているの、この子キスの仕方も知らないじゃない」

 いい香りのする紫色の煙を出した。

「マスターが望まれませんでしたから」

「だから、あなたはロボットなのよ。

 これ位の年の子は秘めたる欲望があっても恥ずかしくて口に出来ないのよ。

 あなたがリードしないとダメよ」

 口から煙りをだす。

 よく考えればロボットはタバコを吸わない。

 基本ロボットの入力(学習)はやってみせて真似して学ぶ。

 仲のいいロボットと情報交換はするが並列処理はやってない。

 セックスの場合は独学で配信コンテンツを研究するか、HOW TO本の電子書籍でも読むしかない。

「秘めたる欲望ですか?」

 ララ達ロボットは人間とホストコンピューターには受動的である。

 ロボット間では割と議論するし譲らない。

「その女。幾つだよ」外見だけなら乳房の大きいローティーンである。

「脳の年齢は91才でしたよね」ララが確認した。

「女性に年齢を聞くなんて、失礼なガキね。

 あなたどういう教育しているの」

「何分マスターの世代は男社会な物で。

 女性の接し方は個人がギャルゲーをやってスキルアップするしかないんですよ」

「それは色々大変なのね。

 シャワー借りるわ」

 フェイが部屋から出て行く。

「おやすみなさいマスター、今日は大変でしたね」

 ララが右の耳たぶに噛みつき、睡眠導入剤を無針注射した。

 やがて意識が遠のいていく。

 そう言えば今日はキックミットも蹴ってない。

 柔軟もしていない。

 ルームマラソンも走ってない。

------------------------- 第7話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月22日 土曜日

 

【本文】

 7時にララが起こしてくれる。

 もう手錠はなくなっていた。

 コエプコン社が個別のカウンセリングと緊急集会を開く。

 完全5日制で土日は授業も仕事も行われない。

 土曜の午前中は社会参加と違って、ロボット達から公共ボランティアを入れられている。

 近くの公園の草刈りや掃除を行う。

 H世代が皆でてきて場所が振り分けられる。

 実質は1時間程度である。

 昨日テロにみまわれるという事件があったから公共ボランティアは中止。

 上は社長から下は末端の清掃員まで、政府主導のカウンセリングAIの質問に答えてPTSD(心的ストレス障害)のレベルを調べた。

 勇者から電話があった。

 昼飯でA5の肉をおごりたいと言ってくる。

 了解した。

 緊急集会と言うがコエプコン社の社長の演説が配信された。

 ウェアラブルコンピュータで見られる。

 演説を聞きながら、僕とララはでかける段取りをした。

 演説の内容は僕達が産まれながらの勝組でエリート意識というか、選民思想を植えつけようとしていた。

 魔下 耕世のようなテロリストにはそれがうらやましいからテロをおこすのだ。

 それも一面の真実であるがアジテーションタップリで哲学的でない。

 龍先生が武士道について講義を行う。

 コエプコン社も龍先生も僕だけは免除していいとララに連絡がはいった。

 実技もあるのだろうか?

 僕は強いし、みんなには嫌われていた。

 関節技のコースや急所の位置は人間毎に違っている。

 たくさんの人と練習しなくてはいけない。

 間合いには魔がいる。

 自分の攻撃のリーチを把握しながら距離の取り方を探るのも、後天的に学習しなくてはならない。

 相手を実験台にする。

 色々と研究する。

 ボッチだらけのH世代ならともかく、予定調和やお約束がまんえんしている他の世代と、特に上の世代とはうまくいかなかった。

 武道の授業で僕の顔を見ると、青ざめる者や嫌な顔をするもの多数でてくる。

 龍先生が「お前は惻隠の情をもって高みから降りてこないから、みな武道の授業を選択してくれない」と嘆いていた。

「マスターがイマイチ溶け込めない理由がわかった」ララが口にした。

 一匹狼(ローンウルフ)と言えば格好いいが、精子の影響を強く受けた、ただのボッチである。

『私は集団にいる時程、孤独を感じる』

 自分以外の何かを演じて群れるのは嫌いだ。

 招かれてないのに顔を出すわけにはいかない。

 ララと一緒に世界が憧れる未来都市コエプコンを巡る事にした。

 経済特区である都市コエプコンはタクシーにドライバーがいない。

 それどころかハンドルもついてない。

 イスの配置も前が後ろを向いている。

 ララと向かい合って座った。

 都市内部だけならアメリカのような自動運転が認められている。

 自動運転車は道徳哲学における「トロッコ問題」-そのまま進めば子供をひくが、ハンドルを切れば搭乗者が確実に死ぬ場合-人工知能は反射反応が遅いのではない。

 状況を冷静に判断して命令を確実に実行する。

 哲学議論は答えがでないと曖昧にせずに、優先順位を突き詰める知的なタフさが欧米にはある。

 自動運転ではあるが悪意ある人間のハッキングに備えて、1トンの鉄塊が50キロで暴走しないようアクティブ・セーフティが最優先事項として内蔵AIのプログラムに書かれている。

 車個体につけられたセンサーが周囲の環境(望むなら横の画面で鳥のように車を上から見るように再構成される)や交通にダメージを与えると判断した時は緊急停止をする。

 エアフリーコンセプト(非空気入りタイヤ)とよばれる「パンクしないタイヤ」空気が入ったゴムチューブの代わりに、タイヤ表面のゴムと中心部のホイールの間に、板状で少し波打った特殊な形をした樹脂製スポークが張り巡らせている。

 釘などが刺さって空気が抜ける事がない。

 樹脂製スポークはタイヤの内側と外側に60本ずつ、合計120本。高い強度をほこりながら、柔軟性を持っている。

 車の重量をしっかり支えながら、路面からの衝撃は0。

 移動中ウェアラブルコンピュータでゲームができる。

「いらしゃいませ、どこまで行かれますか?」

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」

 タクシーAIが声をかけてくる。

 情報通信(テレコミュニケーション)情報工学(インフォマティクス)により車同士が会話するだけでない。

 各種の交通インフラともリンクしていて、コエプコンの中央交通制御室が目的や緊急度を判断して、道路を振り分け渋滞が起きないようにしている。

 電気自動車は規格化をねらい特許を公開して無償提供したが、燃料電池自動車(水素自動車)は最先端技術をブラックボックス化した。

 日本のモノ作りは1990〜2000年代のポスト冷戦が始まると賃金が20分の1という中国が現れ、同時に第三次産業革命がおこる。

 ブレトンウッズ体制の切り下げから変動為替に移行し、数々の産業が国外に脱出し空洞化が起きた。

 新興国による低賃金による人海戦術と産業スパイを含む公開情報のキャッチアップが始まった。

 日本に残った会社はカイゼンを行い、設備ラインを改良し単位時間当たりの生産力あげることで乗り切った。

 諸外国では生産効率をあげると解雇がおこると経営者との間に信頼《トラスト》がない。

 日本のモノ作りの現場は効率をあげても、社長が新しい仕事を取ってくると信じてバタ狂いしながら必死に頑張った。

 人工減少によるボトルネックも孤立化(スタンドアローン)型 人間型ロボットアンドロイドの導入で乗り切った。

 ブラックボックスのデータはインターネットを経由せずにVPNなどの専用回線をつなぎ情報を守った。

 組み込みようのOSはTRON(プログラムの起動で優先順位がある)で各社非公開にし、アンドロイドでも使われるLinuxは公開にした。

 現場の人達は名前をつけて可愛がっている。

 家電製品は構造と機能が1対1対応ですっきりしている「組合せモジュラー基本設計思想アーキテクチャ」で中国、朝鮮、ASEANにやられた。

 構造と機能が多対多対応で因果知識や固有技術がたくさんいる「擦り合わせインテグラル基本設計思想アーキテクチャ」では自動車などは一歩も譲らなかった。

 アメリカの生産はベルトコンベア式で野球の編成と同じだが、日本はセル組立型で個人や少数のチームが完成まで受け持つサッカー型だ。

アメリカはエンジンの圧力ネジをインターネットオークションにかけたが日本の下請け業者も参戦したが、値段が合わなくて早々に撤退。

 中国の会社が落札したが、中国製の圧力ネジは3年持たない。

 中古車市場で日本車は40%落ちで引き取ってもらえるが、アメリカ車は70%落ちまで下落した。

 中古車で売ることまで視野に入れた購買層がみな日本車に流れた。

 中小企業の部品メーカーは外を「モジュラ」で中は「インテグラル」で対抗した。

 集積回路は中国や朝鮮にコピーされたが基礎工業力がいるコンデンサーなどはコピーされなかった。

 日本の企業は商品がいかに使われているか追跡調査をして、建設機械などは転売情報まで入手していた。

 諸外国はペタの情報を超えるがビッグデータが活用できるようになって商品の追跡調査を行うようになった。

 もともとはある程度のサンプリングデータを元に母集団の情報を類推する統計学が使われていたが、今では母集団の情報をわしづかみにしてAIによるビッグデータ分析。

 統計学は欧米でも衰退した。

「クローズ」「緻密」「すり合わせ」「自己完結」「ギャランティ」を尊ぶ日本社会はコテンパンにやられた。

 誰に責任があるかガバナンスがいる、オープンイノベーションのスマートフォンや、分権的なスマートグリッド(小規模発電やコストの最小化)でもやられた。

 コレコレという技術をどう使い、これからの社会はどうあるべきか、哲学的な思考がいる出口戦略も弱い。

 日本中小企業にも何か異質なもの(世界統一規格による世界全工場並列処理)が近づいてきていた。

 労働集約的な製品(貿易材)の労働力が多い国が得意とし、

 資本集約的な製品(貿易材)は資本の多い国が得意とし、

 調整集約的な製品(貿易材)は調整能力の高い日本の工場現場が得意とした。

 最後のフロンティア・アフリカまで開発がすむと労働者の賃金もグローバル化してどの国でも高騰した。

 日本の工場による逆キャッチアップがおき、同じ給料でも日本の現場が生産能力と品質管理(クオリティ)納期(リードタイム)で圧倒した。

 経済取引は相手を信頼しないと成り立たない。

 国家が商法など法制度、不動産などの登記システム、格付け、消費者保護制度など整備してないと国際貿易ができない。

 朝鮮は法の上に反日がくるし、中国は共産党の都合で法を変え、工場が撤退する時「社員の生涯賃金を保証しろ」と言ってくる。

 信頼性の欠如が昔から大きな問題だった。

僕達はコエプコンチルドレン達の居住区から離れたコエプコン社が主催する、常設の未来技術パビリオンを見学する事にした。

 昨日打ったタミフルは3日ぐらい効果が持続する。

 下界との接点であり、黒づくしの学生服の社会科見学の学生が列を作っている。

 なんとなく笑えてくる。

 日教組が強い所は原爆ドームを見学に行き、開明的な学校はコエプコン社にくる。

  僕達はコエプコンチルドレン達の居住区から離れたコエプコン社が主催する、常設の未来技術パビリオンを見学する事にした。昨日打ったタミフルは3日ぐらい効果が持続する。下界との接点であり、黒づくめの学生服の社会科見学の学生が列を作っている。なんとなく笑えてくる。日教組が強い所は原爆ドームを見学に行き、開明的な学校はコエプコン社にくる。

 まずはコエプコンの食を支えるミドリムシ館に入場した、ララがwifiにつながっていてコンパニオンも勤めてくれる。ミドリムシは単細胞生物で光合成をする植物であり、移動する動物の要素も持っている。豊富な栄養素を持っていて、その数はなんと59種類(14種類のビタミン、8種類のミネラル、9種類のアミノ酸、9種類の必須アミノ酸、10種類の不飽和脂肪酸、βーグルカンやクロロフィルといった7種類のその他)。優れた光合成能力で二酸化炭素を効率よく吸収、地球温暖化防止に貢献(アマゾンの密林は違法伐採で狩り尽くされ「世界の肺」を失った、世界の平均気温は産業革命から2°C上昇し、動植物の種の30%が絶滅した)。バイオ燃料も創り出せる。藻類バイオ燃料は質が重めなのでマイナス50度になるジェットエンジンには向かない。藻類が油を7割供給できるのにミドリムシは3割程度だがメインターゲットは最寄りの福島空港発のジェット機である。コエプコン社が配給するプロテインダイエットのベースになっている。

 津波による塩害を受けた、耕作放棄地は農地法の改正を受け、コエプコン社が買収しバイオの培養プールに改造して緑を蘇らせた。旺盛な繁殖力を持つ2種の藻を組み合わせてハイブリット増殖させて、炭化水素(石油)1リットル当たり60円を実現した。

 ボトリコッカスの培養による、単位面積当たりで生産できるエネルギー量は同じバイオ燃料のトウモロコシの数百倍になる(トウモロコシは一粒が200個になる、小麦は4倍で、連作可能な米は40倍)。トウモロコシの利用は穀物価格が高騰につながる。作物の耕作面積を奪う。

 ボトリコッカスという藻の品種改良をして従来の物より約1000倍の増殖能力を『榎本藻』が実現した。

 藻は原始地球で紫外線に抵抗するために緑色になり、光合成をして酸素を地表に供給し、油をまとって浮き上がり光の届く所にとどまった。

琉球で発見されたオーランチキトリウムは、多くの藻類が乾燥重量当たりに創り出せる炭化水素(石油)の量は1%未満であるなかオーランチキトリウムは炭化水素を20%創り出せる。

オーランチキトリウムの増殖の速度は、ボトリコッカスが6日で2倍になるのに対して、わずか4時間で2倍になる。オイル生産効率はボトリコッカスの12倍。

オーランチキトリウムは光がなくても有機物を餌にして増殖する、従属栄養性藻類に属している。

 餌を常に与える必要があるが、24時間増産でき、日照時間が少なく、狭い日本でもうってつけ。

 まず人間の生活廃水には有機物が豊富に含まれている。一次処理水としてオーランチキトリウムの餌にする、下水汚泥や食品工場の廃水も有機物を含む廃棄物になり、ほとんどオーランチキトリウムの餌になる。

 まずオーランチキトリウムで炭化水素を得る。次の二次処理水には窒素やリンが残されるので、今度はコレをガラス張りの天井(中国の放射能汚染や酸性雨対策)でボトリコッカスの培養に活用し、ここでまた炭化水素をつくる。

 窒素とリンが原因で起こるプランクトンの異常発生を防ぐ。

 それでも残る残滓は家畜の飼料やメタン発酵(バイオマス)の材料に利用、あるいは可液化してオーランチキトリウムの餌とする。

さらに残りは燃やすことになるが二酸化炭素はボトリコッカスの光合成に活用し、熱もオーランチキトリウムのタンクを温めるの活用する。

 基本採掘された石油は沸点の低いものから「ガソリン留分」「灯油留分」「軽油留分」「残留」に蒸留され・LPガス(液化天然ガス)・ガソリン・ナフサ・エチレン・プロピレン・プタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレン・灯油・ジェット機燃料・軽油・重油・潤滑油・アスファルトに分けられ、ナフサに至っては国内の需要をコンビナートの生成分では間に合わず輸入している。

 炭化水素はエネルギーだけでなく石油製品の基礎となるエチレンが精製される。エチレンは合成繊維、塗料原料、洗剤原料、医薬品、エチレンと鉄があればたいていの物ができる。

 例えば。

 低密度ポリエチレン フィルム、電線被膜、ゴム袋、包装紙、ホース。

 高密度ポリエチレン 成形品、パイプ、ポリバケツ、ポリタンク。

 塩化ビニル 塩化ビニル樹脂、排水パイプ、文房具、ビニールハウス。

エチレンオキサイド 衣類、ペットボトル、ポリエステル繊維樹脂、酢酸エチル。

アセトアルデヒド 除光液、接着剤、塗料

スチレンモノマー ポリスチレン、合成ゴム、発泡スチロール、プラスチック。

それだけではなく、リビア東部(アメリカは中東を民族毎に国家を細分化して、新分割統治を戦略にしている)の重金属の含まない良質な石油からしか精製できない(ベネズエラが埋蔵量一位になった事があるが、重金属の混ざった悪質なドロドロの油だった)、F1の車体やジェット機のエンジンの噴出ノズルに欠かせない高性能炭素繊維(カーボンファイバー)(鉄と比較すると10倍の強度を持ち、剛性は役7倍でありながら、重さは4分に1という強くて軽い素材だが、日本の伝統技術の知識と経験が活かされ、炭素繊維を縦と横に織り込む技術が世界的に優れている)まで精製できた。コストを度外視すればの話だが。

 次は野菜工場のパビリオンに入る。

 人間一人を生かすのに約4haの耕地が必要だが、地球上に耕作可能な土地は300億haしかない、中国発の環境汚染や、焼畑農業や地球の砂漠化によって年々減ってきている。

 LED照明を利用した植物工場の建設ラッシュが始まった。

 始めはレタスだったが、いまでは中国発の放射能汚染の影響で根野菜や実のなる野菜でも値段が高騰し、コストが成り立つ、工場が安全意識の高い富裕層にインターネットによる直売を行っている。農業に株式会社が参入し農協はつぶれた(人工の産業従事者の構造がかわり、民自党の票田にならなくなったのも見捨てられた理由だ)。

 工場内部は積み重ねられたアルミニウムの棚にみずみずしい野菜が規則正しく並んでいる。

 タネの植込み以外、人間を使うことはまったくなかった。

 栽培ではまったく土を使わない、細かく砕いた石を土代わりに、肥料分を水に溶かした水耕栽培で育てられている。

 土を使った栽培では、水が土の中に必要以上に含まれてしまい、本来必要な分量より多くの水を与えなければならない。

 工場では肥料を溶かした水を循環させたり、霧状にして吹きかけたりして、水の使用量を、通常の100分の1にまで抑えている。

 1キロのトウモロコシを生産するのに灌漑用水は1800リットルいる。

 牛肉1キロを生産するためには、その2万倍の灌漑用水が必要になる。

 日本のように食料を輸入している国が自国で作った場合、どれほどの水資源が必要かと仮想した物をバーチャルウォーターという。

 水資源は豊かであるが飼料などの輸入量は多く、バーチャルウォーターの問題では世界的な非難を受けている。

 コエプコンはせめて食用野菜だけでも自給できないかと考えている。

 植物の生育に必要な光の波長は決まっている。レタスの場合、赤色LEDの光を浴びると、葉が柔らかくなり、苦味が少なくなって甘みが増す。

 さらに栄養価が高くなる。

 植物毎に栽培に最も適した光の波長は決まっている。

 レタスの場合、最も美味しくなるのは660ナノメートル近辺の赤色、LEDは波長が選べるので、植物毎にベストな光で照らすことができる。

 さらに『パルス照射』といって、パッパッと高速点滅させながら光をあてる方が成長率が良くなり、電気の消費も抑えられて一石二鳥、蛍光灯に比べると消費電力を40%減らし、収穫量は50%アップできた。

 トマトや世界初のインターフェロンイチゴがつくられている。

 インターフェロンとは体内にガンができたり、ウイルスが浸入すると分泌されるタンパク質で、抗ガン剤に使われているほど、腫瘍細胞やウイルスの増殖を抑える力が強い物質。

 これを作り出す遺伝子をイチゴに組み込んだ。

 かつては「青いバラ」とは不可能を現す言葉だったが、青い色素を持つデルフィニジンを精製する遺伝子をパンジーから抜き出して、バラに導入することに成功し、今では「青いバラ」は夢がかなうという意味に使われている。

 また、アルカリ性の土壌では多くの植物が鉄分不足に陥る。

 土壌にある三価鉄(Fe3+)をうまく利用できないためだ。

 そこで、三価鉄を吸収する能力の高い大麦の遺伝子をイネやトウモロコシに導入して、アルカリ性の土壌でも生育しやすい作物が開発された。

 またアフリカでタンパク質が70%を含むスピルリナという藻に目をつけた(牛肉の3倍以上の含有率)。

 スピルリナ(Spirulina)は、藍藻綱ユレモ目の幅 5-8μm、長さ 300-500μm ほどの「らせん形」をした濃緑色の単細胞微細藻類。

 約30億年前に出現した原核生物の仲間で、現在でも熱帯地方の湖に自生している。

 現地の人々の貴重な食糧源として利用されてきた。

 水温30-35℃の無機塩類濃度の高いアルカリ性(pH9-11)の水を好み、陸上植物と同じように酸素発生型光合成を行い増殖する。

 コエプコン社の培養槽で造られた培養液からの分離・濃縮工程では、スピルリナの大きさが0.3 - 0.5mmと大きいため、0.003 - 0.01mm程度のクロレラなどの生産で用いられる遠心分離機を使用する必要がなく、スクリーンフィルター(ろ過)で脱水濃縮される。

 乾燥工程後、粉末状またはタブレットなどに成型された形で生産されている。

 配給の成分にも使われている。

 健康食品としてクロレラも栽培している。

 直径2-10μmのほぼ球形をしており、細胞中にクロロフィルを持つため緑色に見える。

 光合成能力が高く、空気中の二酸化炭素、水、太陽光とごく少量の無機質があれば大量に増殖する。

 乾物としての主な成分は、たんぱく質45%、脂質20%、糖質20%、灰分10%。その他にビタミン類やミネラル類を含む。基礎研究で抗ウイルス、抗ガン、免疫賦活、糖尿病予防の各作用が認められるが、ヒトの体内では高血圧と高コレステロール血症、肝機能改善のデータがあるが、クロレラに多く含まれるクロロフィルは、分解の過程で光過敏症の原因となるフェオフォルバイトを副生するため、日本ではフェオフォルバイト含有量の上限が定められている。

 またビタミンKが豊富なため、大量に摂ると抗血液凝固剤ワルファリンの効果を減じる恐れがある、細胞壁が強固なために消化吸収率が悪いなどの指摘もあり、服用は自己責任である。

 次は養殖のパビリオンに入る。

 中国発の放射能汚染で日本海側の漁業は壊滅した、とれた魚は全部放射能濃度の検査して出荷しているが、消費者離れが起きている。

 北海周辺、日本周辺、チリ周辺は世界三大漁場であるが、日本は失墜した。

 太平洋側は漁協毎にナワバリがあり、地域のエゴが優先され回遊魚が大きくなる前に解禁され乱獲される、小さい内にたくさん獲って漁獲量を、縦割りの港行政が競い合う。

 川魚の場合、日本の場合「子は獲っても、主は返せ」小さい内に間引くのは自然な事であり、卵を産むような親まで成長した物は川に返すべきという、川魚専門の釣り師には考え方があるが、海の場合は話が別である。

 中国など夜中に強い光を出して魚が寄って来たところを網で一網打尽にする。

 人工衛星の写真で太平洋の海が明るいのである。

 一人っ子政策で戸籍の無い闇子(ダーダッツ)まで含めると20億に近い胃袋を満たさなくてはならない。タダ同然で船長に親から売られ、三度の食事の保証だけで不眠不休で働かせる。

 人件費だけでもコストで勝負にならない。漁師は自分で獲るより通りかけ(公海行き来は自由である)中国船から買った方が安くつく。

 スウェーデンではある程度の大きさにならないと獲ってはいけないし、加工も新鮮な内に船の上で済まし、港から配送する、日本は獲った物は冷蔵庫に放り込み港で加工する。

 農林水産省はヨーロッパ型を目指したが「そんな甘い事を言っては回遊魚は中国に獲られてしまう」と漁協は猛反発。

 結局先送りされた。

 養殖に活路を求めた。

「好適環境水」と呼ばれる魔法の水はコエプコンのような山の中にあってもマグロやフグを養殖できる。

 養殖のフグは毒を持たない。

 好適環境水は魚が浸透圧を調整していることで考え出された。

 魚は水と塩分濃度が異なる環境を生きるため、淡水魚は体内に水分を取り組み過ぎないように、海水魚は水分を外に出し過ぎないように調整している。

 好適環境水は浸透圧調整に深く関わる成分について研究して、海水を構成する60の成分から、カリウムやナトリウムが重要である事を突き止め、わずかな成分を水道水に加えた物が好適環境水だ。

 実際に使う場合は、魚の種類によって、塩分濃度を海水の25%〜10%に調整、相当に低濃度なので海水魚と淡水魚が一緒に飼育できる。

 好適環境水のメリットは海水で育てるより、魚の成長が早い。

 トラフグの場合は孵化した1000匹を、好適環境水で満たした35トンの水槽で飼育した結果は、約850匹が1年2ヶ月ほどで1kgサイズ(体長35〜37cm)まで成長する、様々な成分を真水に加えて、海水に近付けた人工海水(主に家庭での海水魚飼育や水族館で使用される)では1kgサイズになるのに2年ほどかかる。

 好適環境水の中では1.7倍もの速さで成長する。短い期間で出荷できるので、ビジネス上のメリットが非常に大きい。

 成長が速い理由は、体内で塩分調整をする必要がないため、その分のエネルギーを成長に回せる。

 天候の影響も受けず、水温も一定にコントロールでき、通常の養殖では、病気になるのを防ぐため抗生物質などの薬品の大量投与が欠かせず、魚の安全性の問題や、環境への影響も懸念されるが、好適環境水は元々が水道水だから病原菌がいないので、こうした薬品もいらない。

 従来の人工海水が1t当たり1万5千円から2万円するのに対し好適環境水は100分の1まで下げれる。

絶滅危惧種(レッドデータブック)であるニホンウナギの完全養殖(稚魚のシラスではなく、卵の孵化による養殖)にも成功した。

 ウナギは何もないところで成長させると、稚魚が全て雄になってしまう(これは自然環境でも同じ)。

 ホルモン剤を投与して大量の雌を生産するスキルを確立し、稚魚が何を食べているのか?疑問だったが、その問題も解決し、日本人が必要とする1億匹の半分5千匹を供給でき、WWF(世界動物保護基金)から禁漁規制が勧告され、日本政府が受け入れ、たくさんのウナギ屋がつぶれた。

 コエプコンはそれらの人々からノウハウを買収して、日本中にフランチャイズ店を展開した。今では貧困層以外土用の丑の日はウナギがチェーン店に行けば食べれる。

 日本政府は地域の自立と叫びながら、地方自治体を潰した。

 自立という言葉は経済的ないし財政的な意味で使われているが、都市部でさえ食料やエネルギーの物質循環を指す「マテリアルフロー」では破綻している。地方の農村部や外国に依存している。

 こう指摘すれば、グローバリストから「競争優位の産業長所に人的資源を投入するだけだ。

 かんじんなのは人間の流動化だ」と笑われる。

 勝目のない分野からの撤退は戦略らしい。

 日本政府は地方を大型ベッドタウンにすると叫び、リニア新幹線の整備を強力に推し進めたが、NPO(非営利団体)を中心とする新地方コミュニティの中で雇用は生まれず(ロボットへのシフトと情報インフラの整備は職を奪いこそすれ、増やすことはなかった)、トリクルダウン(更に成長した金持ちからの経済的波及)は起きなかった。

 黒字企業も税金にとられるぐらいならと研究開発に回し驚くほど税金を払ってない、どの企業も給料上昇はせず内部留保に回した。

 戦争が無くなれば供給過剰になりデフレになり、同時に経済成長モデルはだいぶ過去のことになり、昔から持っている定常化(ストック)資本(この場合不動産や企業設備などの実物資産、預金や株などの金融資産も含まない、手にした金は銀行や企業が使っていると判断する)の価値は勝手に上がる、不動産などの不労所得は経済成長に影響される給与所得(GDPは市場(マーケット)で取り引きされた財やサービスの総計)より相対的に増大する(資本回収率r>経済成長率g)。

 結局はリニア新幹線も国家官僚の天下り先が集中する東京へのストロー効果が強化された。

 未来都市コエプコンは自給自足100%を目指した。

 存在自体が政府へのアンチテーゼである。

 次に医学館に向かう。

 突出した天才的個人能力はアメリカに譲るが、コエプコンの医師の平均値は世界一である。

 TPPの影響で国民皆保険を含む医療保険制度は崩壊し、個人が経済レベルに合わせて民間の保険に加入する。

 下手な所に入るとつぶれてしまう、保険は銀行の預金と違い、たてまえは互助組織であり、つぶれれば今までの積み立てがぱーになる。

 それでも医局の徒弟制度は残り、外国のように手術すれば手術する程、金になる個人主義的制度は根付かなかった。

 アメリカでは医師個人が指名され、患者を持って勤め先の病院を変える事はよくあるのだが、日本の場合はどこの病院に異動しても給料はそんなに変わらなかった。

 スーパードクターの海外流出は止められなかったけど、問題は流出速度を上回る速度で技術者を育成すればいい。

 平均値の向上と新技術の導入で乗り切り、国民の平均寿命は相変わらず世界一である。

 富裕層はiPS細胞を使い、複雑な組織で成り立つ臓器は人と同じ大きさまで成長する無菌ブタにはめ込み造らせて、入れ替えながら。患者自身の幹細胞を使えば移植後の拒絶反応の危険はない。

 心臓の筋肉は筋繊維を3Dプリンターで作成し、神経細胞はそのままでは死んでしまうため、植物由来の抗ガン剤の候補でもある「アナカルジン酸」という化合物を投与する。

 手術の場合は少子化で少なくなった献血ストックに対して、血液中のタンパク質でもっとも多い「アルブミン」を利用した人工血液を開発した。

 アルブミンは血清(血液の上澄み部分)100mlに5gほども含まれており、主に血液を血管内部にとどめる役割を担う。

 ひとつのヘモグロビンの周りに3つのアルブミンがくっついたクラスター(ブドウの房のような形のもの)「ヘモアクト」には従来の人工血液(白い血液と呼ばれた牛乳のような修飾ヘモグロビン製剤は血管の中で安定せずに、血管外に染み出し、血管収縮がおき血圧が上昇した)のような副作用はない。

 ヘモアクトは8ナノメートルと赤血球の1000分の1しかなく脳梗塞患者のつまった血管に酸素を供給できた。

 筋肉はストレスをかけて強くしなくてはならないから、四肢再生は安価な義手義足でまかなっている。

 魔王も交通事故にあい、左足は電筋義足だ。

 パラリンピックにはでれるかもしれないが、身体を使った普通の格闘技の大会にはでれなかった(キメラとデザイナーチルドレンによる世界超人選手競技大会が毎年行われていた。

 マスコミは祭典(イベント)の生中継でしか視聴率が取れなかった、なんでも賞金をかけてすぐに大会にした)。

 空手はやめたけど情熱は消えなかった。

 僕が龍先生の格闘技パッケージを紹介した。

 電脳空間でのパッケージ授業では僕の方が先生である。

 コエプコンは子育てはアトム型、教育はドラえもん型、医学はガンダム型と割り切り、高額な手術支援ロボット・スーパーダビンチを大量に購入した。アメリカではスーパーダビンチがない病院では誰も手術を受けない。

 ダビンチは今迄の内視鏡手術と違い、内視鏡の位置と、ロボット手術器具を持つ位置が、操作者である医師の目と手の位置が正確にマッピングされていて、心的回転(メンタルローテーション)の負荷が少ない。

 最早、会社や病院内部で新人を育てることが出来ない。

 医師、弁護士、建築士など国家資格に関することは、バンソニーが提供する、擬似手術、擬似裁判、擬似建築(SF的に言うならシミュレーション現実)など2000時間程クリアし、トラブルへの対応をAIで採点して、採用する会社に人間性まで鑑定してある、たくさんの項目に点数をつけた評価用紙を送る。

 学生は学校で習うだけでなく、パッケージを使い電脳世界で実践して学べるし、NPCの先生がすることを真横でジックリ見ることができる。

 必要に応じて巻き戻しもできる。

 それどころか幽霊のように取り憑いて視覚や触覚やメスの使いかたなどを追体験できる。

 バンソニー社の神経伝達ヘルメットは触覚的情報をフィードバックするシステム「触覚技術(ハプティクス)」が初期状態(デフォルト)で内蔵している。ミクロソフト社も教育支援のソフトを販売しているが、バンソニー社のように電脳空間を使ったものではない。まるで医療支援ロボットを使ったゲームのようになっている。

 欧米人はドライだからそれで割り切っているが、日本ではシミュレーションで開腹手術から教えている。

 万が一の時、医療支援ロボットが使えなくなった時の対応も教える。

 そんなマンガみたいなことはめったにないだろうが(自衛隊を除く)、手術がいかに発達してきたかの歴史を初歩から教える。

 その理解がある方が、手ぶれとかなくなる支援ロボットの使い方が上手くなる。

 日本のオリジナル技術で手ブレ防止機能をそのままに触覚が伝わる機械にカスタマイズされ、本社に逆輸入されている。

 再生医療は永久歯の再生も可能とした。

 完全に脳だけの存在になり、電脳世界で社会生活(金を稼ぐ)を行う者も現れた。

 こうなると恐いのは細菌感染による脳炎だけである。

 記憶力を回復する特殊タンパク質(RbAp48)も発見され、金があればアルツハイマー(ボケ老人)は過去のことになり、高級娼婦フェイのように完全義体(サイボーグ)として現実世界で生活する者も現れた(遺伝情報から目と目の距離がわかり、本人の顔をある程度再現できた)。

 伝染病研究者が「我々はジャングルの隣に住んでいる」と言わせる程、大気圏の上を行くQSST(|静音超音速旅客機《クワイエットスーパーソニックトランスポート》)が整備され、東京からLAまで2時間半、ドバイからシドニーまで1時間半、約4時間で地球を一周する。

 移動中は前世紀のコンコルドと違い静かで快適。

 世界交通力が激増し、LCC(ローコストキャリア)による交通関係の価格破壊とが襲った時代(アメリカでは高級ホテルが無料飛行機をシーズンオフの宣伝費と割り切って運営し、一部の都心では無料タクシーが広告代で運営されている)。

 国際線では数分ですむウィルスチェックや免疫検査が完全実施されている。

 生体認証(バイオメトリクス)が導入され、個人の特定どころか病歴や犯罪歴まで確認できる。

 福島空港の横に建設されたコエプコンのサイバー医療棟群には、お手頃な価格の手術代のため、世界中に散らばる中間層からの医療旅行者(メディカルツーリスト)であふれている(*美容整形では朝鮮に負けている)。

 完全自由診療のアメリカでは盲腸の手術も500万円、保険にはいっても100万円払わなくてはいけない(保険に入ってなければ裂傷3針縫うだけで30万とられ、幼児のひたいに軟膏を塗っただけで20万とられ、薬局で500円で売ってる局所麻酔薬1瓶が8000円に跳ね上がる)。

 貧困層はメキシコに行くらしい。

 コエプコンは滞在場所として温泉ホテルも経営している。

 3Dのチャット空間ができ、企業の出張はへったため、宿泊業や交通機関や娯楽施設が拠点をコエプコンに異動してきた。

 魔王が筋電義足(少し残った筋肉に脳から神経を伝わる電気信号を感知して義足を動かす、筋肉が衰えた時に生体電流を感知して動きを補助する小型のパワードスーツもある)の調整のためにコエプコンに来た時、会いに行ったが、ララと同じように温感センサーや圧力センサーをカバーしたナノスキンに覆われていた(触覚のハードウェアはスベスベしてるか、ザラザラしているかまで理解できる)けど、肌色にはせずに黒と銀色の未来的なデザインにしている。

 フェイのように隠す人間と露出させる人間と二極化が進んでいる。

 ファッションとして脳波を感知して動くネコミミベッドギアなどがあり、自分の感情表現をサポートしたり、話し方を分析して相手の感情を教えてくれたりする。

 今の戦争は国民国家同士ではありえない(かなり無責任で、何があるかわからない未来に対して誠実さを欠くという意見もある。実際琉球を中国に取られた)。

 正確には血の出るような戦争だ、隣の国は三戦(法戦、情報戦、宣伝戦)とわりきってるし、サイバー空間では今も各国は凌ぎを削っている。

 領空侵犯はどこの国もやっている。

 対テロ用の特殊地域に投入される自動ロボットと、悪環境化で活動する特殊部隊の戦線布告なしの投入がメインである。

 最後に自衛隊の広報館を後にした。

 ララがWi-Fiにつながっていてコンパニオンも勤めてくれる。

 半日見て回り、二人で全体が見渡せる歩行者天国の真ん中にきた。

 ララがWi-Fiの接続が切れて無口になった。

「ララ。あなたが守った未来です」

 この時はミサイルの事など誰も知らなかった。

 ララは少し照れて右の頬をかいた。

 両手を少し広げてゆっくりと回りだした。

 まるで少女のようだ。

「私が守った町なんですね」

 ララが内蔵しているスピーカーで牧歌的な音楽を流した。

 しゃべるのに障害はなかった。

 ダンスの授業で習った曲だ。

 あの時は会社の配慮でパートナーを替えて踊っていた。

「マスターが聞いてきた自殺したプログラムの事ですが。

 当時はそれをできたC22がうらやましかった。

 でも今は分かるんです。

 彼女は生きるべきだったと」

 ララが僕の手をとってきて踊りに誘ってきた。

「あなたが私に生きる意味を与えてくれた」

 僕達は平和を享受した。

 魔下 耕世は捕まらなかった。

 次にテロが起きるまでの束の間の平和。

 

 昼ごはんは勇者の部屋でA5肉を焼いてくれた。

「肉なんて久しぶり食う」

「本当におごりがいのない男だな、おまえゲーム以外に価値を見いだせないだろう」

「おまえがグルメ過ぎ」

「なあ、ションベンちびった事、魔王には内緒にしてくれ」

「ああ、それ頼むために、おごってくれたの?」

「当たり前だ、こんな高級牛、何もないならおごる訳ないだろう。

 魔王の妹にバレたらネットで世界中に拡散するだろう」

「分かったよ」

 午後からは体育館に勇者と供に移動した。

 龍先生は特定の流派を名乗らなかった。

 身につけている技はどれも素晴らしい。

 その技を後世に伝承しようという有志が集まって、毎週土曜の午後にサークル活動的な事をしている。

 銃器が戦争の主流になった時代、伝統の継承が一部の人には理解出来ないかもしれない。

 でも僕らはタスキを誰かに渡すことに価値を見いだした。

 自分で実現できない技も守り、必要としてくれる後から来る世代に届ける。

 こうして学び続けることがある種類の正義だと信じている。

 小学生の頃は1世代あたり20人ぐらい参加するのだが、しだいにスポーツの方に流れていく。

 性格や才能が向いている奴もKARATEやJUDOの選手になり、タミフルを飲んでコエプコンの外である大会にでる。

 各世代に1人生き残ればいい方、H世代が僕、勇者、太郎、宗茂、エリーの5人残っているのが、珍しい事なのだ。

 みんなが僕のように格ゲーをしているわけでない。

 勇者はライトノベルを書くから居合術や抜刀術など日本刀に興味がある。

 太郎は「政治家に成るには、虎に成らなくてはならない」と真剣に言う。

 服装は自由でいい。

 僕は動きやすいトレパン、トレシャツだが、太郎は蹴りが出しにくいハカマを着てくる。

 蹴りがある時はたくし上げている。

 顔も洋風だし、どこかカン違いしている外人に見える。

 本人は忍者衣装を探したのだがコスプレイヤー様しか見つけられなかった。

 日本文化や作法などに興味があり、茶道にも興味があり龍先生に教えてくれと頼んでいたが、さすがに門外漢だと笑って断られている。

 宗茂はjudoの先生から熱烈なスカウトを受けていたが、断わっている。

 純粋な戦国ヤローで火縄銃を撃てるし、小具足術といった鎧武者相手の「裏を欠く」の語源にもなっている古流武術も教えてくれるから、このサークルに残っている。

 エリーは太郎の金魚の糞フンである。

 勇者は太っているから身体の可動領域に限界があるけど、関節の柔らかさは1番である。

 スポーツ選手は間接の可動域で怪我の前兆や疲労度をコンピューター解析を行う。

 ねじり上げたり回転したりしてたくさんある遊びを殺さないと関節技がかからない。

 オリンピックの選手のように筋肉の力を抜けば、押さえた指の跡がつく。

 水のような筋肉。

 力を入れれば鋼のようになる。

 きちんと体重を落とせば、才能は1番だと思う。

 宗茂は怪力がある。

 腕力かいなちからがハンパでわない。

 いちおうB世代にウルフさんという、縦横がっしりして厚みもある大人がいるのだが、引き手の強さは宗茂の方が勝っている。

 このまま成長して大男になり、リーチまで獲得していけば懐《ふところ》も深くなって、一本背負いとかできなくなる。

 ルールが柔道やレスリングになればウルフさんでも勝てない。

 太郎は合気道の合気を獲得したいようだ。

 大東流合気柔術の本をたくさん読んでいる。

 空気投げや不動の構えなど神秘的技が紹介してあり、龍先生から技を盗もうと必死である。

 サークル活動に百人程でいりしているが、龍先生は合気が取れていると表現しているのはA世代の一番弟子の遥さんだけである。

 太郎の技は素直過ぎて「柔能く剛を制す」はできるが「剛能く柔を断つ」ができない。

 僕が乱暴にしかければ太郎が対応できない。

 勝ち方が分かっている。

 彼の精神の中で何か意識革命が起きないと僕には勝てない。

 技単品の熟練度は凄まじいモノがある。

 エリーは弱い。

 力がないから、ある程度に重さのある武器を殺傷力のある速度で振るうことができない。

 本人がビビリな性格で脅されると萎縮する。

 でもダンスゲームをすればNO.1である。

 腕力はないが体幹は強い。

 体重が軽いからジャンプ力はある。3センチずらして重心を崩しながら、それでいて次の足がでないようにバランスを崩すのだが、子供に技をかけるのは難しい。

 体重が軽いからケンケンをする。

 エリーも似たような事をする。

 空中で回転したり、バク宙したりして関節技のコースを外してきた。

 ダンスの応用だと思うけど、両足を広げて回転を加えて背中から落ちるのを回避したりする。

 毎日部屋で足を使い色違いのボタンを押すリズムゲームをしているから、脚力はそんなに悪くない。

 空中で回転してかかと落としをしたりする。

 体重が軽いから威力はそんなにないんだけど、ダンスサークルにでも入れば、直ぐにセンターが取れるのではないかなあ。

 龍先生もエリーには手裏剣や、投げ銭、ナイフコンバットを中心に教えている。

 A世代の遥さん。

 色白で東北系かな?

 新潟の女は白人より白い。

 切れ長の目をしてまつ毛が長い。

 どこか神秘的。腰まである長い黒髪を首のあたりでひとまとめに結っている。

 J世代の緑が入ってくるまで、生身で触れることのできる唯一の女性だった。

 龍先生の一番弟子で、天才はこんなこともできないのかと凡人に説明したり、教え導いたりするのが下手だ。

 しかし彼女はどういうイメージで身体を動かしたらいいか、意識するポイントなどを、きちんと説明してくれる。

 龍先生より分かりやすい。

 魔王や勇者がゲーム中「なんでお前、そんな事ができるんだ」と口にする。

 僕の答は決まっている。

「お前ら、なんでこれくらいできないんだ?」僕は自分が理解していることを他人に説明できない。

 妊娠中も見学に来て、龍先生の指導を手伝っていた。

 解説のマンガも描いていて、原作者である龍先生に承諾を得ていた。

 明らかにコンピュータで物理演算処理できない透明な力を持っている。

 皮膚に触れただけで回転して投げ飛ばす。

 手を握れば動かしてないのにハジキ飛ばす。

 人差し指で急所を押さえて呼吸困難にできる。

 H世代5人でかかっても1分以内に近接戦闘(クローズ・クウォーター・コンバット)で一ヶ所にまとめられ、カカトでどこかを踏んで5人とも動けない。

 赤い緋袴ひはかまを身に付けて現われてくるから、巫女(みこ)さんのようにどこか神懸かりである。

 彼女は自分の子宮を使って一月前子供を産んだ。

 女性の卵子は胎児の時に700万個、産まれてくる時に100万個、思春期になると40万個まで減少し、生涯500回の排卵がおこなわれる。

 コエプコンは出産時に卵巣をとり、本人用に凍結卵子が10個残されている。

 後はオークションにかけられるのだが、精子が一回の射精で一億個と考えれば、政府の勧める人工増産にとって貴重であることは確かだ。

 遥さんに僕の精子を使ってみてよと持ちかけたら「夕夜はこの子の父親になってくれますか?」と聞かれて「無理だ」反射的に答えてしまった。

「では、夕夜の精子は使わないようにしましょう」イタズラぽく微笑んだ。

 ネットオークションで誰かの精子を買って産んだ。

 ロボットの「彼方(かなた)」と一緒に育てている。

 会社の依頼でモーションキャプチャーに呼ばれない時は、龍先生原作者の格闘技解説マンガを描いている。

 B世代のウルフさんはモンゴル系か、トルコ系、寒いところ出身だろう。

 まぶたが厚く一重。

 マユも薄く、頭はスキンヘッドにしてある。

 コワモテというよりは笑うと糸目になってデフォルメされたお地蔵さんのよう、ユーモラス。

 実際より老けて見える。

 目が良くて5.0。

 狩猟民族の中の狩猟民族。

 動体視力は人間が望める最高クラス。

 弓術は人差し指と中指で引っ張る日本式ではなく、親指と人差し指ではさんで引っ張るモンゴル式を龍先生から習っている。

 剛から入って柔に至ったタイプ。

「発勁、発勁」と口にしながら、オリエンタルミステリーをひたすら求める太郎とは間逆である。

 足の指で打っていると表現するが、(はた)から見て瓦かわらに触れただけで5枚ぐらい割っている。

 この技はゲーム的に処理できて、ある程度のスキルポイントで買えたりする。

 実践KARATEのルールで闘えば一番強い。

 オッパイのある遥さんと緑は乱取りを遠慮する。

 ガードの上から叩き込んでくる。

 きちんとガードしても体重がないから崩されてしまう。

 ただ二人の間では分かっている。

 体重が増えて、受け即反撃ができるようになれば、リーチが後少し届くようになれば、実践KARATEのルールでも僕の方が強いことを。

 そして、その日がそんなに遠くない事も。

 J世代の緑も特筆に値する。

 母親がベラルーシかポーランド系だろう、民族が混ざる所は美人が多い。

 髪も深緑で皮膚が薄く緑がかっている。

 テロの言いがかりを回避するため、I世代から半数が女性になった。

 多分政府の依頼かもしれない。

 そこでコエプコンは光合成ができるように藻の遺伝子と融合させた。

 中国が先頭を切っているデザイナーズチルドレン。

 キリスト教圏の欧米は「一万年後まで続く遺伝子を個人や国家の欲望で好きに書き換えていいはずがない」発狂せんばかりに叫んだ。

 イスラム教圏も「神のプログラムへの挑戦か?」同調していた。

 まあ、彼らの理屈では遅刻しても交通事故しても「神のおぼしめしです」と言い訳さえしない。

 日本も倫理的問題を口にする御用学者はいたが、アジアが抱える環境問題の深刻さを考えるなら、自己責任で改造しないと普通の生活ができない。

 サンショウオが藻の遺伝子を取り込んで(正確には藻がサンショウオの胚子に潜りこむ)水中で酸素を作り出す。

 同じ脊椎動物の人間にできないはずがない。

 (かいこ)の1万1千個の遺伝情報は解明されていて、蜘蛛の遺伝子を組み込んだ(蜘蛛の糸を直径1センチにできるなら、同じ大きさの鉄の5倍の強度を誇る、自然界最強)強靭なスパイダーシルクを作った。

 タンパク質の蛍光遺伝子を蚕に組み込み光る糸を使った。

 抗菌機能や人間の細胞と親和性の高い性質を持たせた絹糸を作り、外科手術の縫合やシートや人工血管に使われている。

 遺伝子改良の技術は避けては通れない。

 アメリカでは遺伝子組換え動物が造られて普通の2倍の速度で成長するサケやバイオニックアートと呼ばれる光遺伝子を混ぜたペットが売られている。

 クローンは巨大化したり早死にしたりするけどペットのクローンがビジネスとして成り立っている。

 日本でも野菜の不飽和脂肪酸を含んだ「ヘルシーピッグ」という豚が開発されている。

 インドや東南アジアでは「ゴールデンライス」と呼ばれるビタミンAであるカロチンを含んだ稲に置き換わっていた。

 貧困層のビタミン不足が解消された。

 小麦の栽培はもともと雑草が育たない砂漠地帯の水辺部で始まった。

 植物に殺虫作用のある遺伝子を組み込むと更にそれを食べる虫に進化してくる。

 害虫の天敵をおびき寄せる遺伝子の組み込みに対策を変えた。

 除草剤(ラウンドアップ)という葉や茎に散布し、どんな雑草にも効果あり世界130ヶ国で使われている。

 地面に落ちると水と二酸化炭素に分解されるため環境にも優しい。

 植物には、アミノ酸を作る「EPSPS」という酵素があり、グリホサートにはこの酵素を作れなくする働きがあり、栄養を作れなくなった植物は枯れるのだ。

 EPSPSは植物特有の酵素なので人間や動物には影響がない。

 アグロバクテリウムという微生物にグリホサートの影響を受けない「CP4・EPSPS」というタンパク質を作る遺伝子を発見し、ラウンドアップ耐性作物を作ることに成功した。

 作物も環境ストレスで成長しない場合はほうれん草や小麦、テンサイなどに多く含まれているグリシンベタインという物質を合成する遺伝子を取り出して、寒さに弱いイネやトマトに導入したところ低温だけでなく、高温や乾燥、凍結や土壌の塩分濃度などさまざまなストレスに強い作物ができるようになった。

 トレハロースは保水性の高い物質として知られているが、遺伝子改変によってトレハロースが多く蓄積する植物を作ったところ、乾燥に強いだけでなく、強い光に対しても耐性を示した。

 通常の大豆には脂肪酸の中に動脈硬化を防ぐ働きがあるオレイン酸を20%程度含んでいるが、遺伝子操作の技術を使って、ある酵素の発現を制御することでオレイン酸量を4倍にすることができた。

 ステアリドン酸はDHA(炭素を主成分とし、脂質のもとになる)やEPA(血流を良くし、脳の働きを活性化する)を作る成分。

 心臓発作のリスクを軽減する。

 大豆には含まれていないがサクラソウの一種から遺伝子を取り出して大豆に入れ、ステアリドン酸も含んだハイブリッド大豆ができた。

 抗酸化作用があり、視力アップし抗ガン作用もあるアントシアニンを合成するふたつの遺伝子をトマトに組み入れた紫色のトマトを作り、子供の世代へ遺伝もした。

 高温で焼いたり揚げたりするとアクリルアミドを発生するジャガイモを遺伝子操作して20分の1に減らすこともできた。

 輸入されている食べ物で遺伝子操作されてない物はなかった。

 絶滅した動物達も復活したが、生きていた時代より、ウィルスが進化していて風邪で直ぐに死んでしまう。

 無菌室の空間に閉じこめジュラシックパークめいた事はアメリカで始まっている。

 人工子宮によって作られる子供に対する考え方は、ロボット達が親権を持ち、コエプコン社の意向が反映され、改造の許可が日本政府から降りた。

 日本版デザイナーズチルドレンの始まりであり、光合成は深刻な食料不足も解消できるし、強化人間しか作り出すことができない中国を一気に追い抜けると判断した。

 酸素を作り出すだけなら、酸化チタンをベースにした新しい金属によって太陽の光だけで酸素と水素に分解できたし、電気や有機物を加えないで光と水と二酸化炭素から有機化合物であるギ酸を作り出した。

 人工光合成によってエネルギーを作り出すだけならできた。

 効率で藻類を超えられない。

 実用化への研究途中である。

 人間と藻の遺伝子をハイブリッドは光合成により、人間は酸素と化合物を受け取り、藻の側は二酸化炭素と窒素豊富な老廃物を栄養にする。

 いいところとりだ。

 研究は長年進められてきたが、やはり遺伝子が安定せずにI世代は10人しかいない。

 緑がいるJ世代は50人いるが、水中の中で2時間以上潜ってられるのは緑だけである。

 言ってしまえば緑は唯一の成功例である。

 コエプコンは緑の卵子を販売はしていない。

 会社の研究開発に使われている。

 H世代では精子が共通だったように、いつしか緑の卵子だけを使う世代が現れるかもしれない。

 プロレスファンであり、服装は「御意見無用」と背中に書かれたTシャツを着て、太ももの付け根まで露出したホットパンツをはいている。

 龍先生が乱取り中に「今度は何のルールで闘う?」と緑に聞いてきた。

「プロレスで」と答えた。

 その時初めて提示されたルールで、体育館に畳を敷いただけの簡単な道場にリングやロープやマットがあるわけではない。

 みんなが何をしたらいいか分からずにとまどっていると、緑だけが動いた。

 対戦相手はタマタマ僕だった。

 頭が回らずレスリングの親戚かなと思った瞬間、彼女はフランケンシュタイナーをしてきた。

 太ももで頭をはさまれ、恥骨で鼻を嫌というほどぶつけた。

 頭を畳に叩きつけられた。

 僕達がやっているのは、基本人体の急所をねらう格闘術だから身体の大小はあまり関係ないのだが、どちらかと言えば相手を傷付けるより無力化させるのが目的である。

 飛びつき技がないわけではないが、下手したら首の骨が折れるぞ。

「プロレス禁止」と龍先生が直ぐに宣言した。

 男まさりでアッケラカンとしている。

「女は性欲の処理をどうすんだ?」と聞いた。

「僕の場合はバイブを使ったり、サファイア(緑のロボット)に手伝ってもらったりしている」と答えてくる。

 遥さんに同じ質問をしたら「H」と言ってブン殴られた。

 ララから「女性にそう言うことを聞いてはいけない」とたしなめられた。

 気楽に話せる性を感じさせないジェンダーフリーな奴だと思っていたら(僕っ子だし)、先週考えを改めさせる事件が起きた。

 元はと言えば勇者が緑を彼女にしたいと言ってきた。

 セックスパートナーは姫がいるのに、何でそんな複雑な人間関係を作りたがるか不思議だ。

 僕が遥さんに僕の精子を使ってよと発言した時、「男はロリコンだろう、年上が好きだなんてお前は霊長類か?」と言って馬鹿にしてきた。

 別に付き合う気は無かったが、誰かわからない男の精子を使って妊娠するのが、なんとなく、くやしかった。

 勇者も付き合いたいというよりは人間の女の子に対する好奇心のように思える。

 僕らは他の世代と違って女がいない。

 将来のラノベ作家として取材し研究したいのだろう。

「ラノベの女性キャラは極端な能力や性格を与えるか、無垢な象徴として描かすればいいから、人間の内部をえぐるような文芸作品のマネをしなくてもいいだろう」

 勇者は嫌な顔をしながら「引き出しは多くしたいんだ。協力してくれ」断る理由もなかった。

 緑に「どんなゲームをやっている?」と聞けば「かいぶつさんの森」と答えてくる。

「かいぶつさんの森」はバンソニー社が出している3Dモンスターを2頭身ユルキャラキャラとして出している。

 女の子のライトユーザー向けに開発されたスローライフを楽しむゲーム。

 ゲームマネーによる課金がないどころか、通貨がない。

 物のレアリティを軸とした完全物々交換の世界。

 最初にすることは海で魚を取り、果物を採取して交換する材料を集める。

 モンスターとの戦闘は少しもない。

 次に釣ざおや虫捕り網やスコップと交換する。

 レアリティのある魚を釣ったり、虫を取ったり、化石(美術品の扱いになる)を探したりする。

 2頭身キャラとなった3Dモンスターからお願いされて、依頼をこなしていくとレアリティのある品を3Dモンスターからプレゼントされる。

 船で移動することで、常夏の島、常春の島、常秋の島、常冬の島に移動できる。

 ネットで情報を集めて(○○という3Dモンスターが××に価値を見いだして☆☆系列のアイテムと交換してくれる)交換用のレアリティの高いアイテムを捜索する。

 プレイヤーキャラクターは八頭身でNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との違いがすぐにわかる(個人の3Dデータを流用している女の子が多い)。

 役場に行って登録すれば村の中にある程度のスペースがもらえる。

 自由に家を建てたり、植物や果実木を植えたり、公園(ライトな遊園地施設を設置できる)を作ったりできる。

 土地を所有しない原始共産主義的な世界観。

 不動産屋でバイトして3Dモンスター達の要望を聞いて家や庭をリフォームすると満足度に応じてレアリティのあるアイテムをプレゼントされる。

 役場からの依頼で公共事業(橋、ベンチ、街灯)や学校、病院などリフォームすれば追加スペースをもらえたりする。

 洋服屋でバイトして2万点以上ある洋服・バック・アクセサリー・ピアス・靴・靴下からコーディネートできる(気に入ればプレゼントをもらえる)。

 美容院でヘアスタイルやメークアップを変更したりできる(自分のアバターも)。

 美術工房でバイトして置物や絵画など課題をこなしたりして、最終的に店長にある程度認められれば、オリジナルの家具や電気製品や美術品や服、エンブレムなどがデザインできる。

 ネットでつながっているリサイクルショップがあり不要な物や新デザインを、交換希望アイテムを提示して置かせてもらえる。

 バンソニーが定期的に主催するファッションショーや、家のモデルハウスの展示会に出展できる。

 緑からネット上で展示しているハウスに招待された。

 勇者と二人きりになると気まずいから僕と魔王も一緒に行くことになった。

 この手のゲームでHな事をしようとしてもキスまでで、男女の違いはオッパイとフォルムの違いだけで性器は描かれていない。

 ツルツルである。

 そういう目的で楽しみたければ18禁のソフトを買わなくてはならない。

 そのソフトは性器を自由にカスタマイズでき、脳に送る性感信号も大幅にアップされる。

 傷みが快楽に変わるSM専門のソフトもある。

 設定をウルトラハードにすると鞭打たれる度、射精するらしい。

 男みたいな女だからプロレスの話でもして盛り上がるのかと思った。

 3人で指定されたモデルハウス展示場に行けば、庭に柿や桃やリンゴやブドウの木が植えてあるのはいいにしても、家の瓦にいたるまでショッキングピンクでできていた。

 何か嫌な予感がしていた。

「ここでいいのか?」

 勇者に確認した。

「間違いない」

 勇者が断言した。

「俺、帰っていいか、凄く時間を無駄にするような気がする」

「僕だって、魔王の手伝いすることあるんだから、ここで一人にしないでくれよ」

 勇者の言い分ももっともだ。毒を喰らわば皿までだ。

 覚悟を決めて入った。

 一応ノックをしよう。

 着替えとかは瞬間にできるからラッキースケベみたいなイベントはない。

「どうぞ」緑の声がした。

 扉が開いた。

 緑はマイナンバーと同時に登録されている自分の3Dデータを流用している。

 モデルハウスはゲーム世界から電脳世界に出張しているため、僕らのアバターはいつもの2頭身の姿だ。

 8頭身の緑の身長の半分ほどに設定してある。

 幅は緑よりあり、このくらいの身長でないとドアを通れない。

 破やぶれて太ももやパンツが見えるピンクのGパンツに、背中に墨で「情け不要」と書かれたピンクのTシァツ。

 ゲーム世界では乳首は描写されない。

 ツルツルだし、コエプコン社が誇る「柔らかエンジン」を使っているわけではないからオッパイはゆれない。

 コエプコンの「柔らかエンジン」は凄く揺れるので世界的に有名。

 物に当たるとカタチを変えるとこまでオーバーに再現している。

 フェミニストが性描写に抗議するぐらい。

 その度カメラワークの角度を変えている。

 ピンクを基調とした部屋で本棚には女子プロレスの本が並んでいた。

 購入した電子書籍はサイバー空間では空中で自動開閉する本のように読める。

 壁にはアイドル系の女子プロレスラーのグラビアが貼ってある。

 窓の風景は自由に選択できる。

 南側は迫力あるナイアガラの滝を遊覧船で動いている。

 東側は月面基地になっていて地球が昇っている。

 西側は空からジャングルを見下ろしている設定で何体かのプテラノドンが飛んでいる。

「好きに座って。果物取ってくるよ」

 ピンクのソファに腰掛けた。

 緑が木を蹴るとぼたぼたと果物が落ちてくる。

 前もってジョウロで水をやれば季節関係無しに果物はなる。

 種をまいて水をやれば次の日に花が咲く、毎日気に入った花に水をやれば枯れない。

 緑は果物をカゴに拾うと無造作に机の上に置いた。

 客の扱いに慣れていない。

「皮とか種とか無い設定になっているから、純粋に味だけ楽しんでよ」

 桃を手に取った。

 口の中に味は広がるが果汁はこぼれない。

 同じ木に接ぎ木して違う種類がなるようにできるらしい。

 緑が無造作にカゴから取って違う品種を勧めてくる。

 電脳世界では腹も減らないし、お腹いっぱいになることもない。

「僕は男女のめんどくさい事が分からない。

 だから単刀直入に言う。

「そこにいる勇者と恋人関係になる気はないか?」

「おまえはどうしてそんなに馬鹿なんだ」

 勇者が怒鳴る。

 手伝ってくれと言ったのは勇者なんだが、やりとりを聞いて緑がケラケラと笑う。

「そりゃ、無理だよ」即答した。

「なんで、そんなに俺が嫌いか」

「好きとか嫌いの問題ではなくて、多分僕の精子提供者はH世代と同じだよ」

 ということは腹違いの妹になる。

「実は僕J世代でハブられているんだ」寂しそうにした。

「ハブられている?」

「村八分のことだよ」

「僕はJ世代のスクールカーストの最下位なんだ」

「話がヘビィになってないか?」

「ヘビィでございます」

 突然緑のロボット・サファイヤが出現する。

 ララ達同様球体関節を持った自動人形(オートマター)がメイド服を着ている。

 ポロポロ涙を流しながら「私が至らないばかりにマスターは集団授業を一年近く欠席しています」電脳世界ではロボットも涙を我慢できないみたい。

「J世代は蘭王が支配している」

 蘭王はアダ名である。

 本名は蘭・J50・コエプコンは結構有名な女で、コエプコンに知らない者はいない。

 明らかにジャマイカ系の黒人の遺伝子が使われている。

 アメリカ南部の黒人をなめてはいけない。

 白人がアフリカ沿岸部に銃を売って奴隷を買っている。

 沿岸部の黒人は銃を使って内陸部から奴隷を獲得しているため、今でも沿岸部と内陸部は仲が悪い。

 白人が体の強いのを選んで3分の1まで選抜して船に乗せた。

 すし詰めにしたから毎日死人がでた。

 海に捨てるためサメが貿易船の後ろをついてきていた。

 アメリカに着くのは3分の1まで減少した。

 コーヒー栽培など急斜面で働かせるから自然と体が鍛えられた。

 更に体の強いのと強いのを掛け合わせれば、更に強いのができると近親交配を強要しているため、アメリカの黒人はアフリカの黒人と違う別種の強さがある。

 蘭王は赤い縁のアラレちゃんみたいな眼鏡をかけて、後頭部にふたつの房をもつツインテール属性で、4回ぐらい龍先生の道場に顔をだした。

 身長の割に肩幅がえらくあった。

 顔もゴツくてタラコ唇。

 美女の緑に比べればブスである。

 瞬発力の強さは並ではない。

 藻類との融合で遺伝子いじっているからオリンピックには出られないけど、全世代の中で一番足が速い。

黒い弾丸(ブラックバレット)」と呼ばれている。

 ガキの頃、男の番長と戦い。

 コレに勝利しズボンとパンツを脱がし、左手で両手を固定し、右手で足を持ち上げ恥ずかし固めを行なった。

 コエプコン社でもかなり問題になった。

 当時女って凶暴だなと思った。

 アメリカでは犯罪における神経科学の役割についての議論が活発化している。

「脳の異常や機能不全が犯罪の動機や行動特性にどのような影響を与えるか」

「モノアミン酸化酵素などの遺伝子変異体と暴力的な振る舞いの関係」が研究されている。

 とにかく会社がえらく説教したらしい。

 サイコパス(人の心の痛みが分からない人間、あるいは罪を犯してもその隣で普通に暮らせる人)というのは、ある一定の確率(25分の1だと言われる)で産まれてくるものである。

 サイコパスは遺伝子による選抜ができない。

 精子と卵子によって完全に遺伝子が決まるわけではない。

 結合時に7%程突然変異がおこる。

 ロシアでキツネの研究がされた。

 毛皮を取るために養殖でおとなしい個体同士をかけあわせると10世代たつと、キツネ目が幼くなり、シッポを振るなどの従順な行動をとるようになり、攻撃性を高めるアドレナリンの濃度も低くなった。

 彼女は太郎のような天才型ではないが、J50と何か遺伝子の数字が1ずれていたら堕胎されていたらしい。

 努力家秀才型で勉強はよくできる。

 遺伝子に幅を持たせてあるからH世代よりタミフル飲んで気軽に下界に行く。

 毎週日曜日に顔面掌底打ちまで許可された超実践KARATEの道場に通っている。

 僕らみたいに龍先生の下で和気あいあいと技の練習をするのではなく、点在する支部同士の仲が悪い。

 全国大会にもなれば支部同士の戦争の様相をしてくる。

 相手の急所を打って無力化すると言うよりは、ぶっ壊す感じのKARATEの女性競技人口がどれぐらいか分からない。

 彼女は超実践KARATE女性の部にて全国優勝をしていて会社から表彰されている。

 二人は授業の柔道のルールで戦っている。

 緑だって龍先生の下アマチュアレスリングの練習を真剣に取り組んでいる。

 蘭王が服をつかんで殴ってくるラフな事をすれば、緑は諸手刈りに見せかけてタックルを叩き込む。

 二人の戦績は五分五分らしい。

 白人の中でもスラヴ系はjudoやレスリングは強い。

 緑は蘭王が君臨するJ世代でオタクが3人程集まって小さな島宇宙を創っていた。

 コミュニケーション能力のないスクールカーストの下位グループである。

 どの学校でもオタクは下に追いやられる。

 緑は水中に2時間程潜っていられるが、蘭王は5分も潜っていられない最下位らしい。

 よほど気に入らなかったのか、蘭王は緑の友達にまで同調圧力をかけてきた。

 ボッチの集りのH世代と違いイジラレ系のみんな、空気を読んで行動する。

 スクールカーストの順位はコロコロと入れ替わる。

 ある日突然誰からも無視されて便所でメシを食わなくてはならない。

 緑は集団授業に参加せずに日曜日に補講を受けている。

 会社側もある一定の確率でニートやひきこもりが産まれる事は理解している。

 子供達がSOSを発信した時、転校もできないのに無理に参加させればストレスで自殺するかもしれない。

 筑波学園都市など理想の綺麗な都市は自殺の発生率が多い。

 救難信号をキャッチしたらロボットは直ぐに授業のカリキュラムの変更を会社に要請した。

 自殺の兆候を発見する能力はロボットの方が高い。

「僕をH世代に入れてくれないかな。なんだか楽しそう」

 緑の右目から涙がこぼれた。

 このゲームは涙を我慢することはできない。

 かといってもH世代に移動するなんてことが僕らにできることではない。

「ちょっと作戦タイム」

 魔王と勇者の首をガッとつかむと部屋の隅に連れていった。

「どうしよう」

「俺は嫌な予感はしていたんだ」

「話がヘビーだぞ」

「俺は女だから分かる、女という生き物は必ずしも解決を求めていない。

 話を聞けば満足してくれる」

「こうなった以上、帰るわけにはいかんぞ。

 部屋に呼ばれたのもSOSを発信しているかもしれない」

「なんか、責任重大というか、怖くなってきたよ」

 みんなで微笑みながら緑が待っているテーブルに戻った。

「なんか重荷背負わせたみたいで、ゴメンね」

「そんなことないよ、僕も勇者もお兄ちゃんだと思って、なんでも相談してくれ。

 できる限りのことはするよ」

「優しいんだ」

「誰にもではないぜ」

 勇者が答えた。

 何事にも計算する男だ。

「みんなマイナンバーに登録しているアバターに変更して、私がデザインした服を着て友達記念撮影してよ」

「なんでも聞くと言ったけど、さすがにピンクのフリフリはカンベンしてくれよ」

 ジワーッと泣きだしてきた。

 バンソニーのOSでは涙は我慢できない。

「勇者、男に二言はないとキャプテンハーロックも言っていたぞ」

「どんな服があるんだ、緑ちゃん。俺たちにも心の準備があるから」

「ベースはキグルミとか、色々あるよ」

「「「キグルミでお願いします」」」

 魔王はピンク怪獣、口の部分から顔がでている。

 僕はピンクひよこで。

 勇者はピンクの鎧を着ていた。

 サファイヤが写真を撮る。

 深刻な話になるといけないから、テーブルの上に電子ボードゲームを広げた。

 僕と魔王はゲームがデタラメに強い。

 かといっても純粋にサイコロ勝負で決まる「かいぶつさんの森」の世界観を反映されたスゴロクはあるが、あまりに戦略性がなくてする気になれない。

 ルーレットで進める人生ゲームなど一応ルートの選択はあるのだが、基本小さく刻んだ奴が多くの職業を経験して、生涯収支が多くなる。

 最初にゴールすれば一応ボーナスはあるけれど最後のほうが色々経験して勝ちをさらっていく。

 そのため実力7割、運3割と言われている「金太郎電鉄」をすることにした。

 せっかくこうして集まったのだから緑にも楽しい時を過ごして欲しかった。

「金太郎電鉄」はサイコロを転がして広げた電子ボード版の上を、3Dで描かれた自分の列車を、日本中に張り巡らせた鉄道を利用して、ランダムに決められる目的地に移動するゲーム。

 途中で有名駅周辺の不動産を買い漁り最後の月に収支を計算して勝ちを決める。

 目的地に少しでも早く着かないと、誰かが到着した時点で一番遠いプレイヤーにビンボー神がつく。

 他のプレイヤーの駒の上を通るか通られるかでなすりつけることができる。

 こいつがターンの終了時に取り憑いたプレイヤーにハプニングを起こす。

 単に遠ざけるだけならまだマシで、せっかく買った不動産を半値で売りさばき、こいつが憑くか憑かないかでセーフティリードが全然見えない。

 毎回ターンに一度カードが使えて通行止めにするウンチカードやサイコロの数を増やす急行カードなどがある。

 有名駅以外では青い駅に着けばお金がもらえて、赤い駅に着けばお金を取られて、黄色の駅に着けばカードがランダムでもらえる。

 結果論から言えば、僕が最下位で緑が優勝した。

「リアルを知っている人と、こんなに話たのは久しぶりだ」

 緑の笑顔に僕は答えた。

「今はその集団(世代)が全てのように思えるけど、一過性のもので、遅れているわけでも、劣っているわけでもないからな、いい思い出ができたなどと言って自殺するなよ」

「分かっているよ、ありがとう、優しいお兄ちゃん」

 緑は今日も元気に道場に来ていた。

「妹よ。大丈夫そうだな、少し心配していた、良かったよ」

 緑が微笑みながら「ありがとう、お兄ちゃん」

 たまたま横にいた遥さんが「あなた達、いつからそんなに仲良くなったの?」笑っていた。

「先週から」二人でハモった。

 道場での練習は基本技の反復練習と5分おきに相手を変更しての乱取り、自分なり課題を持って相手に協力しながら行う。

 ダラダラとはやらない。

 3時間ぐらいで終わる。

 道場が終わると次は魔王と待ち合わせしているチャットルームへ向かう。

「ピヨッピー無事だったか」

 魔王が抱きついてきた。

「俺、本当に恐かったよ。お前が死んだんじゃないかって」

「ララが何の連絡もなく、一方的に戻したから。ごめんょ、何の連絡もせずにいなくなって」

「無事ならいいんだ。そんなこと気にしないでくれ」魔王が泣きだした「どんな時でも、どんなゲームでも、俺を頼ってくれ。きっと力になるよ」

「僕もだ。魔王」僕も泣きだした。

「どんな難しいゲームでも、呼んでくれれば、きっと手伝いに行くよ」

 僕達は気がすむまで泣いた。

「今日はどこで何をする?」

「そのことなんだけど、昼間肉を食ったから、どうも腹の調子がおかしい」

 ウェアラブルコンピュータが膀胱(ぼうこう)の動きや腸の動きも検索していて、ウンコにいきたくなる10分前に知らせてくれる。

「だらしがないなあー」

「もともとそんなに胃腸の強い方ではなく、ララがコエプコンの配給に乳酸菌のビフィズス菌やオリゴ糖と内蔵脂肪を燃焼させるカテキンとガゼリ菌をミックスしている」

「ララ。何にもしてないのかと思えば、一応調理のまねごとはしているんだなぁ」

「ララが聞いたら怒るぞ」

「何でまた、肉を食べる事になったの?」

「勇者がションベンちびった事を魔王に内緒にしてくれと頼まれた・・・アレ! 」

 勇者のアバターが突然横に現れた。

「何を考えているんだ。本当にオゴリがいのない男だな」

「アゲインスト(勇者のハンドル名)も無事か、心配したぞ。

 いいさ、そりゃ、テロだもんな。ションベンぐらいちびるわな」

「なぐさめるなよ、俺の脳内設定ではそういうことはしないキャラクターなの」

 人には忘れられる権利があるが、ネットで拡散するとそれも不可能。

 恥ずかしがり屋には残酷な時代だ。

「ふんじゃ、気楽に3Dモンスターファーム(特定の主体がシステム全体に責任を持ち、機能を保全しようとする体制を「ギャランティ体制」とよぶ、日本では多い。バンソニー社のギャランティである)にでも久しぶり行ってゲームマネーでもかけるか?

 せっかくだからアゲインストも一緒にくるか?」

 3Dモンスターファームはバンソニーが直営しているゲーム会場で育てた3Dモンスターを使いリング上で戦闘させたりできる。

 この場合はトレーナーのように叫んでアドバイスするだけで、どれぐらい命令に忠実かはWIZにより、コンボの数はINTによる。

 単純に肉体系の能力値が大きいから強いというわけではない。

 メジャーリーグ、マイナーリーグ、教育リーグがあり、3Dモンスターのランクによって賭けのオッズが決まる。

 ゲームマネーは換金できない。

 その代わり親の許可がなくてもいくらでも賭けていい。

 ゲームマネーの他人への譲渡、3Dモンスターやチケットの金銭トレード、3Dモンスターをオークションにかける場合は親権者の許可がいる。

 単純にゲームマネーを払い3Dモンスターをガチャするだけでない。

 結魂(けっこん)というシステムがあり、バンソニーが提供する特定の能力値が成長しやすい産神(10種類ある)に、ゲームマネーを払い、育てたキャラクターを食べさせる。

 3Dモンスターの能力を少し反映されながらマイナス10レベルの子供3Dモンスターを産み、成長回数が増え、能力値が高い3Dモンスターを作ることができる。

 神によっても苦手があり、低くなる能力値もある。

 自分の子供や子孫は食べない。

 3Dモンスター格闘技とは別に競馬のような障害物レースがあり。

 山があり、谷がある。

 バランスをとりながら移動しなくてはならない一本の丸太橋があり、

 泳がなくてはならない場所もあり、

 玉入れ、

 玉転がし、

 火の輪くぐりなどがあり、

 単純にスピードの能力値が高ければ有利というわけでもない。

 試合会場のコースも、ビルドソフトはネットで無料配信されている。

 どの能力値が有利になるかなど、応募してくれるたくさんの試合会場のコースを朝にレフリー達によって選択される。

 採用されたビルダーはゲームマネーが1万程払われる。

 何回かの予選が夕方からある。

 ゴールデンタイムに決勝戦がある。

 予選の内容や勝ち方はダイジェストで配信される。

 NPC調教師(トップブリーダー)が何人(それぞれ得意分野がある)かいて、ゲームマネーを払って彼等に一週間預けると能力値にボーナスがつく。

 %だから能力値が高いほど効果が大きい。

 オッズはレアリティで決められているが、勝負は純粋に能力値で決まるため、上手に育てていれば大物喰い(ジャイアントキリング)は結構起こる。

 チケットを買う前に配信動画の予選情報だけでなく、能力値の方もチェックしなくてはいけない。

 3Dモンスターでのカードバトルはウェアラブルコンピュータ上でたくさんのサードパーティーが展開している。

 スポーツゲームも例外ではない。

 本当に好きな奴はリアルでチームを作るし、プロの試合を観戦に行く。

 映画、ドラマ、アニメなどの配信ビジネスに対抗できるのは、ニュース報道とスポーツ(eスポーツも含む)のライブ中継だけである。

 バンソニー社もモンスターファーム上で25体の3Dモンスターを使って相手が守るゴールの枠に楕円形の球を押し込む。

 サッカーとラグビーを足して2で割ったような(魔法や飛び道具で球を弾き飛ばしたり、つかんで切り込んだり、スクラムで押し込んだり、戦法は色々)観戦スポーツゲームを展開している。

 Sリーグ、Aリーグ、Bーグ、自由参加リーグと別れている。

 プレイヤーが居なくてもBリーグ以上は毎週日曜の昼に試合が組まれている。

 プロ野球セ・リーグの巨人のような金満球団のようにSリーグにZEROという女が君臨している。

 この女(?)もピヨッピーと一緒でメディアに露出しない。

 謎の多い人物。

 アバターは白いシーツをかぶった透明人間。

 シーツの上に二つの目がついていて、いろいろ感情を表現する。

 ネット上で本人が主張するには酸素と栄養素だけを供給も要らない。

 マインド・アップローディングしてコンピュータに人間の意識を移した(肉体は滅んでも精神は不滅? 魂はどうなる?)人格創造の新しい技術を導入してあり (肉体は死んでいるから司法上は故人扱い)。

 財産の管理は法人扱い。

 1秒間に1000回株の取引を無意識でしていると言われている。

 人工衛星上(無税国家(タックスフリー))で巨大コンピュータに増設したZERO(まだ彼は物質的身体(マテリアルボディ)から逃れられない。

(ZEROの)推測ではあるがいずれは魔下耕世のようにネットの海に浮かぶ純粋なアルゴリズムプログラムへと進化すると宣言している。

 このゲームに一カ月で課金に1億円をつぎ込んでいると言われている。

 賭けの胴元であるバンソニー社は損をしないようになってはいる。

 モンスターファームは彼女の課金だけで黒字になっている。

 勝負は純粋能力値であり、同じ種類のモンスターは同じ試合では使えないというルールがある。

 複数のキャラクター(最低25体以上、控えも考えるならそれ以上)を育てなければ強いチームはできない。

 能力値の成長は仲良し値がめいいっぱい関わっている。

 1人では1体しか育てられない。

 そこで熱心なサポーターにゲームマネーを払って成長を依頼できる。

 自分の試合以外の試合も他の曜日に研究して有力な3Dモンスターをゲームマネーでトレードしている。

 ZEROの試合はオッズが1.001であり賭けが成立していない。

 モンスターファームのサーバーに来るとアバターの人混みに圧倒される。

 魔王のアバターとバディを組んだ。

 こうしているとトイレに行って、中の人が不在の時は通行人を自動でよけて魔王の後をついていく。

 みな3Dモンスターを左肩に乗せている。

 モンスターファームに連れてきているだけで仲良し値が10秒間に1ポイント貯まる(1体だけ)試合に参加すれば勝っても負けても10倍は貯まる(参加3Dモンスター全員)。

「あれ、夕夜と勇者。こんなところで会うなんて思わなかった」

 ワイングラスのお酒を手にしたエリーのアバターが人混みの中、僕達を見つけた。

 脳に酔った情報が流されるだけで本当に臓器を使っているわけではない。

 若かりし頃の母親セリューン(ハリウッド女優のセリューンは今でも魔女のように美しい)の3Dデータがアバターに使われている。

 天真爛漫(てんしんらんまん)なエリーと違い、美しさにどこか凄味がある。

「相変わらずの変態だな」

 勇者はネカマには否定的である。

「勇者。女の身体は男の20倍気持ちいんだぜ」

セリューンはネットマーケットにかなり詳細な情報を提供していたため、昔から問題になった。

「相手は誰だよ」

「太郎に決まっているじゃん、男の身体がどうすれば気持ちいいか知っているしね」

「18禁のソフトを使っているのか」

「悪いことなんて、ばれた事だけだょ、本体が反応する時もあるから、ロボットにばれないようにコンドームをつけてからダイブするのさ」

「こいつはキケンだ」

 勇者もあまり人のことは言えないが。

 太郎も向こうからやってきた。

 アバターは国民総番号のマイナンバーに登録してある3Dデータを流用していた。

「お前、勉強以外にゲームをしていたのか?」

「私だってとっかかりは花子が提供した知育ソフトだぞ。

 お前達みたいにガチンコではしてないけどな。

 週一ぐらいで貯まった3Dモンスターのチケットとゲームマネーと交換している。

 ゲームマネーに課金するほどはやってないがな」

 太郎がコエプコンを出ていく時、ロボットの花子はどうなるんだろう。

 個人が買える値段ではないぞ。

 コエプコンにいればロボットは母親になり、恋人になり、介護ロボットになるルートが用意されている。

 ララに聞けば、花子は借金して、分割払いにしてついていくつもりらしい。

「私達にマスターを見捨てる選択肢は少しもない」ララは当たり前のこと聞かないでよ、みたいな笑いかたをした。

 コエプコン社もバンソニーが提供できるテレイグジスタンス(同じ人間が場所を隔てて同時に存在すること)なそっくりさんロボット(ミクロソフトのロボットと違い感覚がある。本体はコエプコンにとどまっている)を使って選挙にでてみては? と提案している。

 ダメだったらコエプコンに戻ればいい。

 妥協案を出してきたらしい。

 太郎は気高い理念がある。

 政治は妥協の産物だが、彼は耳に心地良いことを言って人気取りはしないだろう。

 コエプコン社は太郎では選挙では民自党に負けるとよんでいる。

「どんなゲームしているんだ」

「ウェアラブルコンピュータの大航海時代と、ウェアラブルコンピュータ版のシムシティだが、今両方共行き詰まっていてね、お前達に相談してみようと思っていたところだよ」

「大航海時代は3Dモンスターを 船頭像フィギュアヘッドにできると聞いた事があるが」

「多少つければ船の能力があがるが装備品のフィギュアヘッドでも大して変わらない。

 今までのヴァージョンと違い、ゲームマネーがあれば強化できるわけではない。

 ガチャをやって設計図を引き当てなきゃいけない。

 船も強化アイテムも乗組員も全部ガチャ。

 とりあえず仮の上限70レベルまで育てたが大型帆船や大型戦闘艦が手に入らなかった。

 乗組員も課金してプレミアムガチャをしてないからレアしか手に入らなかった。

 対戦イベントなどウルトラレアやスペシャルレアを持っている高額課金プレイヤーがハバをきかせている。

 マップも空想上のもの、例えばサハラ砂漠に海が2本走っているのを、ラピラズリという空想上の魔法石で差し替える。

 普通に近い地図ももちろんある。

 一つの地区に4つぐらいマップがある。

 地中海から始まるだけどメインシナリオをこなしてマップを獲得していかなきゃならない。

 地中海自体マップで8ヶ所に分割されている。

 マップがないところにはいけない。

 マップミッションがありそれを40こなすと一つにつき1レベル上限が開放される。

 イベントと経済活動を中心に育てていたから、メインシナリオで行き詰まったから離れた。

 リアル時間で回復する行動力があり、暇になったから大量にゲームプレイができるわけでない。

 無課金プレイヤーはこまめにやらないといけない。

 別に動画とかやってないからメモリがつまっているわけではないからアンインストールはしてないけどな」

「結構本格的にやっているじゃないか」

 勇者が感心した。

「精子はお前達と一緒だぞ」

「シムシティはどうなんだ」

「あのゲームは、資源を供給しなくても、工場で製品を指示すればなぜかビルを建てる資材が出来てくる。

 時間も資材毎に違っている。

 最初は鉄と木材しか出来ないがだんだん街を大きくする事によって色々な商品や資材がアンロックされていく。

 序盤は金がないから小さな工場しか買えない。

 これは騒音がうるさくて住民の満足度がさがる。

 あんまりほったらかしておくと、引っ越して住民の数がへる。

 このゲーム住民の数がレベルをあげる。

 レベルを上げないと色々な商業施設がアンロックされない。

 都市を発展させて貿易をして「黄金の鍵」を獲得して、「黄金の鍵」で周囲の住民を増やす優秀な施設を作る。

 単純にゲームマネーで課金すればいいわけではない。

 資材をおいとく貯蔵センターを大きくしたり、土地を広げたりするのは、課金で可能だ。資材を作る時間も課金で0にできる。

 だんだん必要なアイテムが多くなっていくが、貯蔵センターの能力以上にアイテムは作れない。

 土地を広げるアイテムや貯蔵センターを広げるアイテムはビルから漫画のような吹き出しが出て、それをクリックすることでランダムにもらえる。

 課金しないと貯蔵センターを圧迫してビルを建てたり大きくしたりするアイテムや貿易のアイテムを貯蔵センターに置いとけない。

 さすがの俺も無課金プレイでは無理ゲーで、授業で獲得した3Dモンスターのチケットを売った分ぐらいのゲームマネーは課金している。

 成人になって会社を辞める時、コエプコンが養育費を返せとセコイこと言ってきた時のために現金はなるべく使わないようにしている」

「結構難しいゲームをやっているんだな」勇者が感心した。

「最初は金もないし作れる物も少ないが都市計画を研究したかったから入口としては良いかと思ったら結構はまった。

 電気、水道、下水、ゴミの処理などライフラインを作らなくてはいけない。

 作れる施設も電気は特殊で風力発電や太陽光発電などのクリーンエネルギーも選択できれば、公害を発生する石炭、石油の火力発電所。

 なぜだか住民に嫌われている原子力発電所。

 なぜだかクリーンエネルギーを分類されている核融合炉発電所。

 色々な物が絡み合い核融合炉発電所は大学の建設が必須条件。

 水道はポンプと貯水池のふたつでどちらも公害は発生しない。

 下水のパイプ所は公害を発生するが下水処理施設は公害を発生しない。

 ゴミの処理は集積所や焼却炉は公害を発生するがリサイクル施設は公害が発生しない。

 消防や警察や病院も、大きさに応じてカバーする範囲が違う消防のカバー範囲からもれると火事がおこる。

 警察も範囲内にないと犯罪が多発して住民の満足度がさがる。

 病院も診察所から大学病院まで種類があるがカバー範囲内に住居がないと伝染病がまんえんする。

 役場とかの行政機関も作らなくてはいけないが一つ作ればクリックした時に税収が見られるだけで特にゲーム上意味がない。

 行政機関は・公園・教育・ビーチ・娯楽・ギャンブル場・ランドマーク・礼拝堂などを建設して住民の満足度を高めなくてはならない。

 公園はサッカー場やジョギングルートや水族館、教育は教育館や公共図書館やコミュニティカレッジや大学、交通はバスターミナルや飛行船や気球格納庫やヘリポートなどを作るとゲーム上で反映される。

 ビーチは灯台や船乗りの桟橋やボートの波止場、娯楽はホテルや劇場やエキスポセンターやスタジアムやオペラハウス、ギャンブル場はカジノ本部やカジノタワー、ランドマークは文化局やエンパイアステートビルや自由の女神、礼拝堂は教会やモスクや寺院や現代寺院など。

都市が発達すれば道路も混雑するためアップグレードして二車線や三車線にしなくてはいけない。

工場も始めは騒音のする小さな工場で二つのアイテムしか作れなかったが、工場、マスプロダクト工場、ハイテク工場、ナノテク工場と建て直していく。

 ナノテク工場は騒音もしないしアイテムを五つ作れる。

 作られる資材も鉄、木材、プラスチック、鉱物資源、化学物質、テキスタイル、植物の種子、砂糖とスパイス、家畜用飼料、ガラス、電気部品とアンロックされていく。

 アイテムは原料を用意することなく、製作時間が長かったり、みじかかったりする。1番長い電気部品が8時間かかる。

 課金によって直ぐに作れる。

 貿易は船や飛行機に注文の品を搬入すれば「黄金の鍵」がもらえる。

 ただ4時間か5時間しか待ってくれない。

 間に合わない時も出てくる。

 都市規模が大きくなるとショップが次々とアンロックされていく・資材工房・ホームセンター・家具屋・ガーデニング用品店・アパレルストア・ファミレス・ドーナツショップ・電気店などがアンロックされていく。

 それぞれ資材を使うことで商品ができビル増築、建設に必要だったり、貿易に必要だったりする。

 資材工房では釘、板材、レンガ、セメント、のり。

 ホームセンターではハンマー、メジャー、シャベル、調理器具、ドリル。

 家具屋ではイス、机、ホームテキスタイル、ソファ。

 ガーデニング用品店では芝生、苗木、屋外家具、コンロ、ガーデンノーム。

 アパレルストアではキャップ、スニーカー、腕時計、ビジネススーツ。

 ファミレスではアイスクリームサンド、ピザ、バーガー、チーズポテトフライ、瓶入りレモネード。

 ドーナツショップではドーナツ、グリーンスムージー、ロールパン、チェリーチーズケーキ、フローズンヨーグルト。

 電気店ではバーベキューグリル、冷蔵庫、照明器具、テレビ。

 先にくるほど使う資材も少なく、製造時間も短い。

 後にくるほど原料も複雑化して、製造時間も長い。

 ショップは工場と違い、どの商品も原料がいる。

 なぜビルを建てるのに食べ物がいるのか分らないが、色々な種類のビルを建てるのにショップの商品がいる。

 余った商品をオークションにかけることができない。

 金額の決められた商品をバザーで売ったり買ったりできるが検索をかけることができない。

 30秒毎に20ある全ての商品や資材が入れ替わるがタイミング良く欲しい物が手に入るかは運の要素が大きい。

 災害ミッションもあって、自分の建てたビルを地震や隕石で壊して復旧すると「黄金の鍵」がもらえる。

 都市規模が増えレベルが40になると全てアンロックしてしまい目的を失ってしまった」

エリーからウェアラブルコンピュータのブラウザゲームをやっていると聞いてはいたが、ここまで本格的にやっているとは思わなかった。

 太郎は問題行動をしないし、会社を辞めたいというのは確信犯でコエプコンも困っている。

 憲法が保障する職業選択の自由を口にする、もはや利益誘導しかない。

 蘭・J50・コエプコンのように誰がみてもサイコパスと分かる場合。

 人間改造プログラムが適用される。

 アメリカの神経経済学者が発見した、母親が母乳を与える時に脳内で分泌され、愛情と深く関係している「オキシトシン」を、アガシ(副作用による手足のけいれん)などがおきないよう脳への直接投与。彼女がどれだけ利他的な行動をとるか研究が始まった。

 ただ「オキシトシン」に関して言えば内集団バイアス歪んだ偏りがかかり愛国心を助長して、属している集団にいて他集団を攻撃するときもでてくる。

 排他的傾向が高くなり戦争物質ではないかとも言われている。

 また躁鬱(そううつ)が激しい緑に関しても人間改造プログラムが適用された。

 僕らが知っていた道場に来ている時の緑は躁状態でアッケラカンとして明るかったが、ロボットのサファイヤと二人きりになると落ち込む。

 鬱状態になり、リストカットするのが恐くて近くに刃物を置かなかったらしい。

 PTSDのトラウマを軽減する「記憶鈍磨剤(きおくどんまざい)」気分をコントロールする「気分明朗剤」といった向精神薬(抗鬱剤も含む)を、服用では無く、脳への直接投与が行われ性格が明るい方が中心になった。

 ただ緑のロボット・サファイヤが言うには何度か集団授業に復帰をチャレンジしたらしい。

 ウェアラブルコンピュータで計測した心拍数は変わらないが、ストレスホルモンといわれる血液中のコルチゾールが極端なほど増加した(唾液で計測できる)。

 人間の感覚器官は外側の情報を集めるだけで、内部の情報(心や内蔵)を取ることが出来ない。

 耳も皮膚が発達した物である。

 ストレスとは肉体的、精神的に追い詰められた時の攻撃準備である。

 精神分析により緑が分類されているゾーンは前兆行動なく突然折れる。

 自殺するということ。

 あるいは前ぶれなく相手に近づいて刺す。

 殺すということ。

 サファイヤは2時間目に早退させた。

 人間改造プログラムが法律として認められる時は激しい議論が巻き起こった。

「ポストヒューマンと要らなくなった子供達」と気鋭の精神科医に書かれた。

 ポストヒューマンとは完全に脳だけの存在になり、知能増強(インテリジェンス・アンプリフィケーション)を行い。

 記憶力も外部記憶(ハードディスク)に完全に置換され、自分の心の思い出か? クラウドインターネットの知識か? 常時接続しているグーグルの情報か? 境界が分からなくなり。

「自分が何者か」という哲学的問いも自己対話すること無く。

 AIの自分検索で答えてもらう。

 行動も政府が作った法律によって検索審査許可(オートマティックコントロール)される。

 自分の情熱か? やりたいコトなのか? 好きなコトなのか? 分からなくなり。

 200年と言われた脳の寿命もガン細胞の研究が進み幾らでも増量できるようになった。

 ヒューマンの次に来る者と否定的に書かれていた。

 人はたぶん何か生きた証を残したいのだ。

 自我の外部コピー以上の価値。

 それが魂の情熱であれば芸術であり、人間愛や遺伝子であるなら家族であり、生き方なら宗教や道徳であり、理想ならば民主主義や共産主義や自由主義や平等主義である。

 それら、自分が死んだ後も永遠の命を持つと確信している人は死を受容できる。

 ポストヒューマンが永遠に生きるのを求めるのは自分以外何も残せないからだ。

 年金制度は少子化によって事実上の破綻。

 支給年齢は100歳に引き上げられた。

 家族を作らなかった孤立の要介護貧困老人は介護難民となりベッドに縛られ夢を見せられる。

 血液に鉄タンパク質を投与し、外部から神経伝達ヘルメットで磁力によって脳内を移動させ、幸福報酬物質(ドーパミン)の量の最高値を常に維持する。

 血液から栄養を輸血で摂取している(棺桶(かんおけ)ホテルと呼ばれている)。

 定年どころか終身雇用制度自体廃除された。

 ジニ係数といって格差を計る数値はある。

 ジニ係数は1に近づくほど格差が大きく、0.4を超えると社会不安を起こすと言われている。

 シロウトにはチンプンカンプン。

 人体改造出来ない寿命格差が貧困層を直撃した。

 少子化で凶悪犯罪の件数は減ったが、100人当たりの犯罪発生率と自殺率は順調に伸びていた。

 多くの日本人の自分と社会に対する絶望は確実に大きく高まっていた。

 人間改造プログラムの導入に対して生命倫理学者は声をあげて反対した。

 もともと精神科医が処方する多剤も問題視していたが、薬をだせば出すほど医師と製薬会社が儲かる仕組みは改められなかった。

 政府が人間改造プログラム法の成立に向けて、第三者機関や諮問会議や有識者会議などに、犯罪や自殺を減らしたい社会倫理学者が(話合いがあったという)アリバイ作りに呼ばれた。

「人格権」という造語を作りだして批判した生命倫理学者などの反対勢力は入り口で廃除された。

 問題行動を起こさない太郎に、コエプコン社は人間改造プログラムを適用することができなかった。

「対戦のあるゲームは勝てばいいけど、負けた時は時間を無駄にしたようで、戦闘のない農場経営シミュレーションでも本格的にして勉強したいのだが、グーグル様で検索したら百種類ぐらいヒットして、マッタリよりリアル指向で何かいいものないだろうか?」

「負けた事が財産になるとスラムダンクでも言っていたぞ、

 あきらめたらそれで終わりらしい。

 ウェスタン風で釣りや採掘までできるのがHEY dayというのがある。

 世界中で一番遊ばれている。

 畑でいろいろな作物ができる。

 動物のエサなど作られる。

 ソウルメイトと呼ばれる仕事を手伝ってくれる犬や猫などのペットを育てられる。

 豚、牛、羊、ヤギ、ミツバチなどのいろんな動物が育てられる。

 ワニの肉や、ラクダの肉や、アルカパの肉や、カピパラの肉などを注文に来たトラックに出荷できる。

 ディズニーのキャラともコラボしている」

 僕がこたえた。

「硬派な所でファーミングシミュレーションがいいぞ」

「アンタ誰?」

「僕の友人の魔王だょ」

「ああ、道路戦士の」

「魔王。彼が政治家に成りたがっている太郎だ」

「なんだったら、民自党を紹介しようか」

 魔王が答えた。

「沖縄を中国に取られても、憲法9条を変えられない民自党に用は無い。

 自分で鉄のような新しい組織を作る」

「琉球って言わなきゃ、人権侵害救済委員会にばれたら、言葉狩りにあうぞ」

 勇者がビビり気味に口を挟む。

「どこの国の誰のための法律だょ」

「まあ、それも生き方だ、否定はせんよ。

 それより最新のファーミングシミュレーションはローンを組んで土地とトラクター、輸送車両トラック、収穫機コンバイン、フォレジハーベスタートウモロコシの収穫専用機などの農業機械や、伐採機、つかみ上げ機、切り株カッターなどの林業機械を購入する。

 トラクターに取り付ける収穫機、耕作機カルチベーター、種まき機(ジャガイモだけは特別な種まき機がいる)、肥料散布機、輸送機トレーラー、草刈り機、スラリータンク(バイオガス用)、草集め機ローダーワゴンなどのツールもそろえなくてはいけない。

 日頃はGPSとAIで自動運転して命令を送る。

 休みの日にバンソニーのフルダイブと連動している。

 ハンドル握ってマニュアルで操縦したり、林業に専念したりできる。

 大型働く乗り物は男のロマンだろ」

 魔王が胸を張る。

「男の子のロマン? どちらかと言えば経営に興味があるのだが」

「それなら他のゲームと違って一応マーケットがある。

 作れる商品は小麦・菜種キャノーラ・トウモロコシ(コーン)・テンサイ(砂糖大根とも言われ砂糖全体の35%をせめる)・ジャガイモ。

 後は肉を売らないんだけど、羊に牧草を与えてウールを作り、鶏にトウモロコシを与えて卵と鶏糞を作り、牛に牧草を与えてミルクと肥料を作ることができる。

 販売先というか建設してある工場が敷地内にある。

 ステーション・港・宿屋・製粉工場・パン屋・バイオガス工場(穀物やモミガラを出荷して肥料を作ることができる)・バイオエタノール工場(穀物から油が作る)・木を集めて浮かべておく貯水池・製材所・紡績工場がある。

 同じところに同じ物を供給するとマーケットの価格がさがり利益がでないからバランス良く作り、販売するところを分散する」

 魔王の解説に勇者が口を挟む。

「戦闘ゲームしたくないのなら、南の島に観光地を作るゲームもあるぞ、マルチ(複数人)で作ることもできるが太郎の場合はシングルだろう。

 フルダイブして設置した遊園地に友人を誘って遊ぶことができるぞ。

 ジェットコースターとか好みに改造できる。

 チャットルームとして開放することもでき(お金はかかるけど)。

 水族館の要素もあり、アクアリウムを作り熱帯魚や貝やイルカの養殖もできる。

 温室栽培の果樹園ではバナナや砂糖キビを作ることもできる」勇者が付け加えた。

「なんか、女の子向けポィな」

「戦闘がなければ基本ガールズ向けだょ」

 太郎の感想に勇者が答えた。

「宗茂も来ているよ、今から試合があるんで応援に行かないか?」

 エリノアが聞いてくる。

「どんなゲーム?」

「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツのこと)で有名なMOBA(マルチプレイ・オンライン・バトル・アリーナ)のleague of legends(99.9%コレ)のフルダイブ版。

 プレイヤーキャラクターのチャンピオンを3Dモンスターの焼き直し、世界観は「行き過ぎた魔法は科学に似る」がキャッチコピー、SFポク仕上げている。

 ミクロソフト社との競合がもっとも激しい分野。バンソニー社が社運をかけていると言われている」

 league of legendsはもはや国別対抗戦の様相を呈している。

 全国大会に出場する時は首相官邸に招かれ出陣式が行われ、まかり間違えて全国優勝しようものなら総理大臣自ら表彰される。

 eスポーツもファンタジースポーツとして架空や実在の選手を集めてサッカーをするというのの人気が先にでた。

 管理者の1人が不正をしていることが発覚し、集団訴訟が起き会社は潰れた。

 ファンタジースポーツの失敗をバネに企業は公正であることが求められている。

 スポーツ団体がスポーツゲームの運営に乗り出し、全国優勝者はワールドカップの表彰式に招かれている。

「身も蓋ふたもないな」

 アバウトな説明に僕が突っ込む。

「マイクラで有名なサンドボックスゲームをブロックメイキングRPGというがごとし」

 僕達は3Dモンスター&ヒーローズの会場に移動した。

 スタジアムが作られていて、戦場全体を見下ろす形になっている。

 選手の中に宗茂を発見した。

 魔王が暗黒色の洋風の鎧なら、宗茂は赤備えの和風の鎧。

 円形月のカブトをかぶっている。

 まだ試合が始まってないからアバターはいつものヤツ、50種類ぐらい二足歩行のプレイヤーキャラクターが登場する。

 試合が始まってキャラクターを選択したらスキンが変わる。

 ゲームは丸いドームの中で行われる。

 視界が自分の周辺しかない。

 魔法暴走後の廃墟で行われる。

 赤チームは右上に本拠地(ドーム)があり、青チームは左下を本拠地《ドーム》にある。

 lolのネクサスに当たり、本拠地(ドーム)を破壊されると敗である。

 試合時間はだいたい30分で決着する。

 純粋に敵を倒すだけでお金と経験値が手に入り、リアルタイムストラテジー(RTS)のように生産を全く考えなくていい。

 左上がトップ、対角線上の真ん中がミッド、右下がボットと呼ばれ主たる戦場になる。

 本拠地ドームから続く道はレーンに当たるのがロードと呼ばれている。

 ひとつのロードに4つほどのタワーに当たるトーテムポールという防衛施設が配置されて、近づく敵を飛び道具で廃除する。

 レベルの低い内に近づくと一発死である。

 死んだら本拠地ドームで復活するがレベルが上がるほど、復活にかかる時間が長くなる。

 このゲームの場合は60秒後ミニオンにあたるクローンと呼ばれる。

 腰の高さほどの2頭身の3Dモンスターの垂れ流しが始まる。

 ロードの間には廃墟(ルイン)と呼ばれる中立地帯があり、キング、クィーン、ビッショプ、ナイト、ルーク、ポーンと名前が付けられた突然変異(ミュータント)と呼ばれる中立モンスターが配置されちる。

 誰かがコレを倒すとチーム全体に恩恵が加えられチーム全員にお金が配られる。

 序盤はポーンを倒すのがせいぜいでキングやクィーンはマックスレベル20まで育てたキャラクターによる5人総がかりで当たらねばならない。

 倒すと恩恵がでかく試合を決定する。

 垂れ流されるクローンを倒して経験値を獲得してレベル上げを行う。

 トドメの一撃(ラストヒット)を加えるとお金が手に入る。

 このゲームは自分の武術を持ち込む事が出来ない。

 キャラクターにもよるがMP(マジックポイント)を使ったスキルでしかHP(ヒットポイント)にダメージを与えることが出来ない。

 つかみや投げや押すことも出来ない。

 ある種の無敵範囲にスキルでしか入ることが出来ない。

 スキル毎にクールダウンと呼ばれる次の攻撃の準備時間があり、相手のスキルがスカッた時が攻撃のチャンスである。

 1レベルの時はスキルがひとつしかない。

 5レベルで二つ目、10レベルで強力なスキルが手に入る。

 5レベルで更に強力スキルが追加され、20レベルのマックスになると超絶スキルが選択できる。

 それぞれのキャラクターにスキルが5個、強力スキルが3個、超絶スキルが2個用意されている。

 同じキャラクターでも全く違うように育てられる。

 最初はHPに対してスキルの攻撃力は小さいが、10レベルの強力スキルが手に入れてからプレイヤーキャラクター同士の殺しあいが始まる。

 プレイヤーキャラクターにも3Dモンスターの特徴の相性が持ち込まれている。

 キャラクターの成長はスキルだけでない。

 本拠地(ドーム)でお金を使ってチューンナップができ。

 戦況に応じて攻撃力や防御力や移動力を強化したり、相性を強化したり打ち消したり出来る。

 買い物もツリーになっていて底辺の内から購入を計画するのも戦略のひとつである。

 5秒ほど時間がかかるが本拠地(ドーム)にテレポートするリコールという能力は全員持っている。

 オッズがでてくる。

 宗茂が8倍で敵が2倍。

「なんだ。この差は」

「情報によると、向こうのチームにlolのプロが転向してきたらしいぞ」

 僕の質問にエリノアが答えた。

 向こうは6人準備して1人純粋な司令官がいるのに対して宗茂側は5人。

 しかも宗茂によるプレイングマネージャーである。

 戦いながら全体を把握して命令を出さなくてはいけない。

 僕らは未成年だから1試合に千ゲームマネーしかつぎ込めない。

 魔王を含めて全員宗茂に千ゲームマネーをはった。

「行けー、宗茂。大物食い(ジァイアントキリング)だー」エリーが声援を送っていた。

 試合が始まり、空中にキャラクター選択画面が広がる。

 1人ずつ交代で選択する。

 使いやすいようにみんな二足歩行の擬人化されたモンスターか、もともと双つ名をもつヒーローかに限定されていた。

 赤、緑、青、黒、白から10名ずつ合計50名の中から選ぶ。

 アーティファクトなど無色の3Dモンスターはない。

 ヴァージョンアップででてくるのか、このままチューンナップの材料のままか、それは今のところ僕らにはわからない。

 このゲームは毎回毎回1レベルから成長させる。

 何もゲーム前に持ち込めない。

 純粋なプレイヤースキルとチームの戦略のみが試される。

 プレイヤーキャラクターを選択した時アバターのスキンが変化する。

 そしてスタートした。

 本拠地ドームに全員が集められ初期所持金で買い物してから、それぞれトップに2人、ミッドに1人、ボットに1人、廃墟(ルイン)に1人行きポーンを狩りに行く。

 やがてクローンの垂れ流しが始まるとボットを2人にして効率よくキャラクターを育てる。

 プロといっても一匹狼(ローンウルフ)

 賞金で生活しているわけではなく、配信動画の解説を行い、自分のプレーをアップロードしてゲーム実況をしながら広告料で生活している。

 世界クラスや日本代表になると5人が共同生活を行い。

 世界リーグに参加して毎日強豪とマッチングしている。

 エリーがネットで曝されている情報を口にした。

 それならば宗茂にも勝ちの目があるだろう。

 実際10レベルになり強化スキルが解放されると宗茂がプロのKill殺すのに成功した。

「おおおおおお〜」

 会場がどよめいた。

 宗茂が中立地帯の突然変異(ミュータント)を倒しながら各地でサポートした。

 プロが復活する度宗茂に挑むが度々返り討ちにした。

 後半はマックスまで達したプレイヤーキャラクター達が一塊りになり決戦を行うが、宗茂側がトリプルkill(殺す)に成功。

 残った敵側は退却して宗茂達は余裕キングやクィーンを倒し恩恵を獲得して敵本拠地(ドーム)を破壊しゲームに勝利した。

「プロのくせに何やってんだょ」ハズレを引いた者達の怒号が巻き起こる中「大物食い(ジャイアントキリング)だー」とエリーがはしゃいでいた。

 ゲームが終わり、宗茂はこっちにやってきた。

 選手には試合が終わると自由フリーな仲良し値をバンソニーが提供してくれる。カードを提出するだけでいい。

「宗茂凄い」エリーが抱きついた。

「プロも戦略はともかくフルダイブのゲームには慣れていなかった。間合いの取り方が下手だった」

 宗茂が謙遜していた。

「格闘技をやっている僕達5人が宗茂の指揮コマンドの下ゲームに参加すれば無敵になれるんじゃないか」

 エリーがはしゃぐ。

「私はパスだ。

 集まって練習するより、政治家になるため家でウンチクによる基礎固めをしなきゃならん。

 代わりに緑でも誘ってやれよ。

 お兄ちゃんとか呼ばせているんだろう。

 戦隊物は女が2人いるのが常識だからな」

 太郎が口にした。

「H世代は太郎、お前も含めて緑のお兄ちゃんだ」

 僕が反論した。

「遺伝子照合したわけではあるまい、ただの妄想だょ。お前は優しいな」

 太郎が微笑む。

フォア・ザ・チーム(チームのために)に徹しないと、単に格闘技をやっているから、単に道路戦士の強者だからと言って勝てるものでもない。

 間合いの取り方が少しは有利かもしれないけど」

 普段は無口な男だが宗茂もゲームのことになるとけっこう話す。

 太郎が急に真剣な目をして僕を見た。

「お前はゲームばかりしているからダメかと思っていた。

 でも、違うんだな。

 お前は誇り高い男だ。

 夕夜。

 友人になってくれ」手を差し出してきた。

 ララが太郎と親しくはしてはいけないと言っていたけど、僕はその手を握った。

 ララに秘密を持った。

 プライバシーがどの程度守られているか? それはわからない。

 ネット上でピンチに合えば、なぜかロボット達はタイミング良く現れて助けてくれる。

 コエプコンもネットでサラシ物になるわけではないから、ロボット達に守秘義務を課し、子供達のネット行動やメールの管理など自由にアクセスする事を黙認している。

 一般の 看板型情報端末(デジタル・サイネージ)などから顔や網膜認識されて「なぜ僕の必要としている物が?」と道路に大写しされて戸惑うことがある。

「友人と恋人って、どっちがいいのかな?」

「そんなもん、人に聞くもんじゃねぇ。

 個人が決めることだ。

 自分自身のみに聞くんだ」

 エリーの質問に勇者が答えていた。

「ふんじゃな。私は家に帰って見聞を広める」

 勉強と言わない所が凄い。

 まあ、完全記憶もあるしな。

 背を向けて少し歩いてから消えた。

「彼は出て行く人なんだな」エリーがため息をもらす。

 振り返らない。

 それがどこか切なくて。

 情緒的。

「出て行ってもネットで会えるだろう」

「勇者は味気ないなあ。心の機微がわからないんだから」

 今日はもう宗茂の試合がない。

 5人で賭博場を回った。

 僕は損をしなかった。

 解散してみんな家に帰る。

 

 ララから食事を渡される。

 今日は自然災害の都市を脱出するサバイバルゲームを左手で行う。水をしょっちゅう補給しなくてはいけないサバイバルアクション。

 右手で巨大ロボットや宇宙人や怪物が暴れる都市の足下を回避しながら逃げまくるゲームをやる。逃げゲーと呼ばれるジャンルだ。

 右足で戦艦と美少女を掛け合わせた女体化戦艦集めシミュレーションゲームをプレイした。このゲームは5人位連れて行き単縦進陣形で行軍して敵にT字作戦を仕掛ける。

 やられると服が破れる。

 ちょっとH。

 左足で宇宙船の設計を行う。

 完全なAI操縦であり、隕石群や恒星といった障害物を突破するレースに参加する。

 元々は偵察艦や戦艦などを選択して好きなパーツで好みに組み立てて対戦するゲームだったが、大々的な宇宙レースやることになった。

 前回の栄えある第一回大会はほぼ全員のAI設定は攻撃を受けたら反撃すると設計していた。

 そしてどこかの馬鹿がスタートと同時に一発のミサイルを撃った。

 同時に全ての宇宙船が反撃を行い阿鼻叫喚。

 開始早々に全員が航行不能リタイアとなった。

 その反省を生かして次は作らなくてはいけない。

 

 11時になりララとのいつもの儀式をすませて、寝た。

------------------------- 第8話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月23日 日曜日

 

【本文】

 今日もララは7時に起こしてくれる。

 プロゲーマーの魔王は日曜日にはイベントにかり出される。

 食事を終えたら、ネット上で告知されているゲームの大会を検索した。

 コエプコンだけが格闘ゲームを作っているわけではない(僕も格ゲーだけを遊んでいるわけではない)。

 ナムコナミも「アイアンフィスト」という、10連コンボがベースの格ゲーもあるし、「鉄鋼機械・弾丸」という銃器や爆弾を使い隠密潜入ステルスアクションを楽しむチームバトルもある。

 SAGEではパンチ、キック、投げ、浮かせ、下段、中段、上段、ジャンプ、ダッシュなど組み合わせて頭の中でトリガーを引けば、距離に合わせて勝手に技がでる「ポリゴン戦士」(流派によって技や構えが違う)。

 丸川書店の小分けした下請けレーベルの人気キャラを集結した「丸川オールスターズ」というアニメ調カトゥーンレンダリングの格ゲーがある。

 朝鮮(韓国財閥は解体され、多くの金持ちが粛清された。

 株式市場は廃止され、

 会社は全て国営化した)のゲーム会社の「戦士王」や残虐表現を売りにしている刀を使った「侍精神」などもある。

 また映画「星戦争」の世界をコピーした帝国軍か反乱軍レジスタンスに所属して銃を撃ったり、戦闘機を操縦したりできる中国産のeスポーツもある。

 異星人もプレイできれば、課金でフォースも使える。

 これに関しては著作権を有する知的財産の使用保護期間を巡ってアメリカは法的措置を実施し、国際司法裁判所で争っている。

 1000人のアバターが剣と魔法の世界を戦うファンタジーもあれば、100人の人間が無人島で、散らばった道具を発見したり、相手からう奪ったりしながら最後の一人までサバイバルする近未来SFがある

 怪獣狩人などはモンスターのタイムアタックの大会もある。

 ウェアラブルコンピュータでは5秒程待てば対戦をマッチングしてくれる2D格ゲーが多数ある。

 第二次世界対戦中の兵器をカスタマイズして戦場で戦い合う「戦車の世界」や「戦艦の世界」など7VS7や5VS5といったチームバトルがある。

「戦車達と少女達」や「ARPEGGIO OF BLUE STEEL」などのアニメともコラボしている。

 スキマ時間ならともかく時間がとれた日曜日はフルダイブのゲームを思いきりやりたい。

 インディーズ系のサードパーティー(ウェアラブルコンピュータの無料化開発エンジンUAE×みたいにタダで提供されればフルダイブのゲームは今の10倍を超えるだろう)の「重力支配(グラビティコントロール)」がヴァージョンアップされて対戦ができるようになった。

 早速ネット上でゲームマネーの賞金が出る大会が開かれる。

 とりあえずエントリーしてみた。

 予選開始が10時からだからそれまでカンを取り戻すため練習を始めた。

 ヒットポイントは固定だが、重力(グラビティ)を自在に使いこなすため、4つの能力値がある。

 空中浮遊したり、空に落下したり、物を浮かべて投げつけたりするのに重力(グラビティ)エナジーというゲージを消費する。

 ゲージが無くなれば自由落下してダメージを受け、下手すれば一発死である。

 ひとつはヒットポイントの下に表示される重力(グラビティ)エナジーのゲージの総量を引き上げる。

 単純な空中浮遊だけではそんなには使わない。

 自由な方向に落下すればそれなりにゲージを使う。

 必殺技を使えば使用量はハンパではない。

 ひとつは重力(グラビティ)エナジーの回復速度、地面に降りて何も使っていない状態にすれば、能力値のレベルに応じた速度で回復していく。

 ひとつは重力(グラビティ)のパワーである。床に置いてある。

 机やイスやゴミ箱の重力を奪い、自分の周りに巻き上げ、飛び道具や防御用の盾として使える。

 巻き上げる重さや数に関係してくる。

 ひとつは落下速度、レベルが高いほど落ちる速度が速い。

 メイン攻撃手段である重力(グラビティ)キックは移動距離に応じてダメージが決まる。

 追尾性能がないから、敵の移動先を予測し、ある程度の速さがないとスカッてしまう。

 必殺技は三種類ある。

 重力(グラビティ)キックの逆で、手を伸ばしてきりもみ状態で回転しながら突撃し、相手を引きずりながら多段ヒットするドリルアタック。

 重力(グラビティ)ボールを発生させ(最大8個、1個をゲージの許す限り大きくすることもできる)、視覚の中にあればどこまでも相手を追尾する。

 相手の死角に回りこめない遠距離戦用である。

 至近距離の超重力(スーパーグラビティ)で相手を地面や壁に数秒間押さえつける技。

 空中で使えば弾き飛ばすことができる(飛び道具も弾き飛ばせる)。

 重力エナジーが空になって落下した場合はペナルティとして、ゲージが完全回復するまで能力を使うことができない。

 敵にとっては攻撃チャンスである。

 通常攻撃は自前の物は持ち込めない。

 投げとかできるのだが、ヒットポイントとかに影響を与えない。

 前蹴り、前蹴り、回し蹴りのコンボだけが重力(グラビティ)エナジーを使わずにダメージを与える。

 回し蹴りが終わると、ごていねいに1秒ほどスキがある。

 不満がないわけではないが、そういうゲームだと割り切るしかない。

ゲームキャラクターは一応能力値を全部上限の10レベルまで育てたのだが、大会では全ての能力値が1レベルにもどされる。

 10ポイントを最大5レベルまでで振り分ける形式になった。

 ゲームではストーリーの案内人として黒猫、カラス、黒のメイン3Dモンスターから選択できるのだが、対戦ではついてこない。

 重力(グラビティ)スライドと言って地面の上を高速で移動する技がある。

 壁方向に重力をかけて走ったり、ジャンプしたりできる。

 これは地面の上は這いずりまわり、相手の死角に潜り込み、重力(グラビティ)ゲージが少なくなっていると計算したら、高速で近づいて必殺技を叩き込むゲームだな。

 戦略がまとまったら(戦略は細部(ディテール)にあらわれる)予選開始10分前になっていた。

 予選は10戦して勝率を競う。

 僕は全ての試合で勝ってトーナメントのベスト16に入る。

 予選ではみんな空中移動して僕のように地面を走り、能力を少しずつ使って街の中を走り回る人間はいなかった。

 昼の休憩をはさんで本戦がはじまる。

 僕はなんなく4つ勝って優勝して賞金の100万ゲームマネーをゲットした。

 ゲームは駆け引きがあると楽しいのだがこうなるとただの日常業務ルーチンワーク。

 ピヨッピーと魔王の伝説に花をそえた。

 新たなる1ページを加えた。

 3時には終わった。

 日曜日の魔王は帰宅が何時になるかわからない。

 コエプコンが龍先生の監修のもと百人組み手が配信されている。

 1試合毎にルールが変わる。

 関節技や顔面正拳が強いリアル志向である、プレイヤーは少ないが勝率が9割超えるとゴールデンチケットがもらえる。

 龍先生の趣味で作ったとしか言えない。

 1試合50秒で休憩インターバルが10秒。

 だいたい2時間程で終わるから早速挑戦した。

 毎回9割は勝てた。

 今日も例外ではない。

 ゴールデンチケットを獲得した。

 5時になってチャットルームに移動したが、魔王はまだ来ていなかった。

 ブロックメイキングRPG「アルカナ・ビルダー」に先に行くことにした。

 チャットルームにいなければ無料電話スカイプにかかってくる。

 ターン制の多い二エクスの幻想シリーズに対してアクション要素の強いものになっている。オープンワールドゲームのうち「サンドボックス」と呼ばれる形式に近い。

 フィールド内に存在する山や木などのブロックにHPのような耐久値を0にすると壊れて10センチ角になる。

 手をかざして道具入れに収納する。

 木槌や斧で壊すことで素材を集める。

 岩とか鉱物とかは金槌や鉄の斧。

 更に作業台や神鉄溶鉱炉などでレベルが高い鋼シリーズができる。

 1メートル角のブロックを置いて毒沼やマグマ、空の上を渡れる。

 プレイヤーキャラクターはジャンプすることができ、従来の幻想シリーズでは移動できなかった「高山」も登ることができる。

 集めた素材からは「やくそう」などの消費アイテム、武器や防具といった装備品、木の箱や扉・ベッド・看板などの建築用材料や家具、トラップなど様々なアイテムを制作できる。

 アイテムの制作方法が記されたレシピはアガペ(神の愛ポイント)を支払い、町の人や特定の素材を入手で習得できる。

 装備品は武器、防具、盾、アクセサリーの4種類がある。

 武器は最大5つ、アクセサリーは2つまで装備できる。

 剣は横に振り、広範囲の敵を攻撃でき、金鎚と斧は縦に振り、物を壊しやすい。

 だいたい1メートル角だから縦振りでジャンプすれば3メートルの上の段まで壊せる。

 アクセサリー以外には耐久力が設定されており、攻撃を加えたり受けたりしていくうちにダメージ量ではなく回数で壊れる。

 ブロックや椅子、ベッドなどの建材や家具を組み合わせて建物を作って行くと町の人達が住み始め、街が復興していく。

 建物として成立する条件は1メートルブロックによる2段以上の囲みに明かりと扉を設置することで、そこから内装を飾り付けることでアガペポイントが貯まる。

 このゲームには設計図レシピが存在し、図面通りレシピにブロックやアイテムを置くことによって誰でも目的の建物を作れるようになっている。

 他にもモンスターの侵攻により壊され廃墟となったお城もあり、これを修復したり、自分なりに改造したりもできる。

 町の人達は町の発展やフィールド上から救出することで増えていき、素材の入手先や他の住民の情報を教えてくれる。

 集めたアイテムを収納箱に収めてくれる。

 町に攻め込んだモンスターと戦ってくれる。

 様々な面でプレイヤーキャラクターをサポートしてくれる。

 町の人はキャラクターに様々な頼みごとをすることがある。

 これらをクリアして、素材アイテムやプレイヤーキャラクターや神の召喚軍団(ファントム・レギオン)を育てるアガペポイントなどが貰える。

 与えられた島は空中に浮遊している。

 フィールド内には悪魔の手下のモンスターが徘徊しており(浮かんでいる別の島には門ゲートでしか移動できない)。

 天界から地獄へと下の島に行くほど悪魔が強くなる(同じ悪魔でもレベルがあがる)が、希少アイテムも手に入れやすくなる。

 遭遇するとアクションバトルになる。

 主人公は自作した武器や防具、トラップを利用してモンスターと戦う。

 ブロックを設置して、敵の火の玉を飛ばす呪文を防いだりもできる。

 またスライムを倒すと「青い油」が手に入る。

 モンスターを倒すことでも素材が入手できる。

 モンスターの攻撃、あるいは高所からの落下ではダメージを受け、HPが減る。

 HPが0になると死亡となり、アイテムの一部を失って町に建てた希望の旗で復活する。

 失ったアイテムは死亡した場所に行けば再入手できる。

 また満腹指数があり、腹が減っていない状態ならHPは時間の経過で少しずつ回復していく。

 逆に満腹指数が0の時はHPがじょじょに減っていく。

 ある程度街を発展させると、悪魔が門ゲートを開いて攻めてくる。

 プレイヤーキャラクターは町の人を誘い最大4人でパーティを組み倒しに行ける。

 町に襲って来た時は町の人たち総出でボコボコにする。

 この場合ではモンスターはアイテムをドロップしてくれる。

 しかし、アルカナカードで召喚した軍団(ファントム・レギオン)で倒した場合のアイテムをドロップしない。

 建物や土ブロックを破壊した時も素材アイテムにならない。

 プレイヤー同士がファントム・レギオンで戦った場合は誰も得しない。

 ファントム・レギオンは召喚されると5分間とどまって戦う。

 5分間たつか、プレイヤーが天界に戻すと10分間同じユニットを召喚できない。

 アルカナに対応して22種類あるが、アルカナカードのレベルより相性が影響される。

 戦車とヘリコプターの相性は1対60というが、そこまでひどくはない。

 得意と苦手が戦えば1対10ぐらいの差ができる。

 移動力、攻撃力、防御力、スキルなどがありアガペポイントをつぎこんで育てる。

 1〜10レベルはレベルの2倍つぎこめば次のレベルにあがる。

 10〜15は3倍。

 15〜20は4倍。

 21は5倍。

 レベルの上限は21レベルである。

 つぎ込める能力は以下の通りである。

 ・精神力は30秒に1回だった強力な全体攻撃がレベル毎に1秒ずつ減っていく。

 最大の21レベルになれば9秒に一回できる。

 全体攻撃中でないとスキルを使うことがない。

 このゲームは陣形が2列縦隊・3列縦隊・正方形・3列横隊・2列横隊の5種類しかない。

 敵が攻撃内に入れば、全体攻撃か散開攻撃か選択できる。

 散開しだしたら「集合」の合図がかかるまで、自分の距離をとりながらバラバラに行動する。

 全体に攻撃回数があがり、隊列を組んでないから狭いところでも自由に移動できる。

 横隊は攻撃参加者の数は増えるが城門など移動できないところが多い。

 縦隊ならば攻撃参加者は少ないが狭いところでもプレイヤーキャラクターの後をついてくる。

 飛び道具ならバルチック艦隊を破った東郷提督のT字作戦が使える。

 ランスなら円を作って連続突撃ができる。

 ちょっとした車かかりの陣形。

 草原より狭い道路の方が移動スピードはあがる。

 プレイヤーキャラクターの隊列上の位置は、先頭、中間、最後尾と選択できる。

 ・収納は0レベルの時は矢弾の数は1つだがアガペポイントをつぎこんで最大21レベルになれば22個(本)に増える。

 最高レベルはそれなりに精神力を育てないと、全部打ち込むこと無く天界に帰る。

 ・耐久力は殴られてもよろめかなくなる。

 状態異常や魔法の効果から回復しやすくなる。

 落馬しにくくなる。

 毒のダメージを減らす。

 ・統率力は最初0レベルの時は一人。

 レベル毎に一人増えていき、最大22人になる。

 ・研究は装備品が良くなり効果範囲とスキルの持続時間が増える。

 火薬兵器や魔法ならダメージが増える。

 毒や火焔などの状態異常の効果があがる。

 ・防御力は斬り/殴り/突き/射撃/砲撃/魔術などの種類がある。

 そのユニットが得意と苦手がすぐにわかる。

 レベルがあがると全体があがるが、防御得意な防御値は更に追加してあがる。

 ・攻撃力はユニットによって攻撃に特性がある。

 レベルがあがればダメージが増える。

 ・移動力 ユニットの移動速度が増加する。

 ・レベルは上の8個の能力の内最高値が適用されている。

 レベルに応じてHPは増える。

 レベルの数値は頭上に輝いていて相手からも分かる。

 プレイヤーVSプレイヤーではユニットの人数とレベルと相性をみて、駆け引きする。

 アルカナカードは22種類あり、正位置と逆位値がある。

 シングルシナリオでイベントをこなしてもらえる。

 *0愚者(フール) 

 ゲームのチュートリアルが終わったら神からもらえる。

 正位置の楽士(トゥルバトゥール)は太鼓を叩きながらバトルソングを歌う周囲の味方ユニットの能力が上昇する。

 基本ユニットの人数分しか効果がない。

 スキルを使うとバイオリンに持ち替えスリープをおこる。

 ターゲットユニットが30秒寝る。

 研究で効果がのびる。

 逆位値で使うと竪琴を持った幻覚使い(イリュージョニスト)は他のユニットに外見だけ化ける(攻撃力はない)。

 スキルを使うとトランペットに持ち替え葬送曲(レクエイム)を奏でるとアンデットがスリープ状態になる。

 スキルは効果時間が書いて無い場合5〜26秒しか持たない。

 研究すれば次に使う間隔が短くなる。

 だいたい16世紀の西洋が題材モチーフになっている。

 この頃は鉄砲が現れ始めて、洋の東西を問わず少年兵ルーキーに笛や太鼓を演奏させながら突進させ、一斉射撃が終わったら再装填までに精鋭ベテランが突っ込んでいく戦術が採用された。

 *1魔術師(マジシャン)

 カードは初めて物を作った時もらえる。

 正位置では魔導士(キャスター)は魔法の指輪で殴る。

 ダメージはそんなにないが属性は魔法である。

 スキルは氷魔法(フロストゲイザー)で氷の柱が地中から上昇して足止めする。

 騎兵の機動さえ止める。

 逆位値では森人(ドルイド)は木の杖を装備している。

 殴ればマジックアイテム扱い。

 スキルは電撃ライトニングを落としてダメージを与える共に能力値がダウンする。

 *2女教皇(ハイプリーステス)

 レシピ病院を作った時もらえる。

 正位置の巫女(シャーマン)は周囲の味方のHpを回復する。

 スキルはアンデットに効果がある聖属性(ホーリー)の効果を与える。

 食らったアンデットは麻痺する。

 ファントム・レギオンは誰かに指揮されないと、召喚時の隊列のまま動かずに射程内に入った敵を攻撃したり、味方をサポートしたりする。

 指揮される部下になって初めて機動するしスキルも使える。

 複数のユニットを召喚して指揮するユニットを変更するのはアリであるが、召喚から5分たてば1度も指揮されなくても天界に帰る。

 男が指揮しても性別が変わることはない。

 逆位値の天使(エンジェル)は近くのユニットの蘇生を行う(HPは10分の1)。

 いちおう飛行ユニット。

 スキルは周囲の状態異常を回復する。

 *3女帝(エンプレス)

 レシピ厨房を作った時もらえる。

 正位置はクロスボウで頭上から降らせる曲打ちを行う。

 スキルはクロスボウが合体して1つのクレィンクィンという人間より大型な(大きさは統率力に左右される)クロスボウで人間くらい身長がある矢が真っ直ぐ飛んでいく。

 石垣以上の強度の壁にぶつからないと限界射程まで引きずる。

 角度は調整できるが移動はできない。

 逆位値では車輪のついた投石機で石のつぶてを4×4の範囲に雨のように降らせる。

 射程は大したことはないが攻撃属性が殴りになる。

 スキルを使うと合体して100メートル程飛ぶ遠距離用になる。

 逆に短い所には当てることができない。

 ファントム・レギオンにより破壊された素材は消えてなくなり回収できない。

 方角の調整はできるが移動はできない。

 プレイヤーvsプレイヤーではこいつを見たら籠城を止めて、うってでてくる。

 4×4の石を町の中に放り込まれたら、そして建物が壊れる。

 壁を石垣以上にしていると一発では壊れない。

 粘土や木材だと一発で壊れる。

 今までの苦労が水の泡である。

 希少素材のある地獄に近い島ではバッティングすることがたまにある。

 *4皇帝(エンペラー )

 レシピ工房を作った時もらえる。

 正位置は軍の背骨(イエリチェリ)、マスケット銃によるの攻撃、属性は砲撃。

 スキルは手榴弾。

 火をつけて放り投げる。

 開口部に放り投げるのがよく使う。

 逆位値は大砲であり統率力にアガペをつぎ込むことによって1つの大きさがだんだん大きくなる。

 0レベルで直径2メートルだが21レベルになると直径4メートルを超る。

 横に車輪がついていて統率力の人数で移動させ再装填する。

 スキルはブドウ弾で角度は45度の放射線上に広がる。

 *5教皇(ハイエロフォント)

 レシピ教会を作った時もらえる。

 正位置の聖戦士(パラディン)は盾と共に装備するメイスか両手用のモールか選択できる。

 スキルは絶対魔法防御(アンチマジックシェル)

 逆位値では十字軍(クルセイダー)は盾と共に装備するモーニングスター(鎖の分リーチがある)両手用の3チェーンフレイルか選択できる。

 スキルは聖光(ターンアンデット)で周囲のアンデットにダメージを与える。

 *6恋人(ラヴァーズ)

 最初に町の仲間になるプリンちゃんの依頼をこなし、報告したらお礼にもらえる。

 正位置では自分の副官としてファントム・レギオンを指揮できる女体化した3Dモンスターが現れる。

 女体化率は50%〜100%まで可能で、100%になると瞳が猫目で小さな角があるぐらい。

 ほとんど人間と変わらない。

 優秀なAI。

 口頭で命令を伝達すれば可能なかぎり答えてくれている。

 能力値をキチンと育てないとユニットの能力は副官の能力以上はだせない。

 3Dモンスターの容姿に使うだけで別の3Dモンスターに変えても成長させたアルカナカードの能力は変わらない。

 個人の事情により好きな3Dモンスターの仲良し値を上げるためゲームに連れてくる。

 スキルは加速(スピードアップ)で移動速度と攻撃回数が増える。

 逆位値は5分しか持たないが普通のNPCと同じようにパーティが組める。

 この場合、装備はこちらで用意しなくてはならない。

 このゲームの能力は装備で全て決まる。

 この状態にかぎり素材を壊してアイテム化できる。

 *7戦車(チャリオット)

 馬を仲間にして鞍をのせて走った時もらえる。

 正位置は赤枝の騎士団(ナイツ オブ レッド ブランチ)は重装騎兵で盾を装備している。

 馬上槍(ランス)で槍は剣に強く、剣は斧に強く、斧は槍に強いの3すくみが採用されている。

 序盤はショートソードで武装したゴブリンとゴブリンシャーマンが主流だから、このカードを育てて何も考えずに突っ込めばたいてい何とかなる。

 スキルは突撃チャージで敵は混乱する。

 2列縦隊強敵をかすりながら連続突撃するのがゲーム最大ダメージを与える戦法である。

 味方の後部につき回転すれば車がかりの陣形である。

 逆位値はラクダ兵で全ての騎兵に対してボーナスがある。

 馬よりラクダは身体が大きいから馬がビビったという、十字軍時代の故事にならった物。

 武装は三日月剣(シミター)で突き攻撃と切り攻撃の2つの属性がある。

 スキルは1枚の魔法の空飛ぶ絨毯(マジックカーペット)に変化。

 5分しか持たない。

 *8正義(ジャスティス)

 初めて悪魔を倒した時もらえる。

 正位置は大楯歩兵、身長より大きい盾を使う。

 陣形の正方形になればあらゆる方向からの攻撃をカバーする。

 2列横隊で1方向に対する強力な壁もありである。

 正方形陣形の時は真ん中の兵は頭上に大楯を掲げる。

 攻撃は盾による殴り(シールドバッシュ)の防御特化型であまりダメージは与えない。

 スキルは防御点を上げるプロテクション。

 こうなると唯一の弱点魔法以外有効打がない。

 逆位値は両手剣歩兵(ツヴァイヘンダー)、槍を叩き折る巨大な剣。

 かつてドイツ傭兵ランツクネヒトとスイスの傭兵パイク兵はライバル関係にあり、スイスの大男が持ったパイクによる槍衾(やりぶすま)の長柄を叩き折るのを戦術とした。

 日本刀のように正眼に構えることなく重いから常に振り回し続ける。

 ゲーム上では苦手な相性もないし、移動力は歩兵では最速。

 防御力が全体的に低く飛び道具がくると困る。

 16世紀染めやすいインドの綿が流行して派手な衣装を着ていた。

 日本のかぶき者に近い。

 スキルは敵の1人を浮かべあげ隊列を破壊する小さな嵐(サイクロン)

 *9隠者(ハーミット)

 レシピ調合室を作った時もらえる。

 正位置は学者(スカラー) 両手で分厚い本を握り殴る。

 スキルは近くの味方の武器に火属性をつける。

 逆位値は人工人間(ホムンクルス)で、突いたら燃える火焔槍を装備している子供の姿。

 スキルは懐にある火薬に火をつけて突進する。

 特別攻撃で一回使用したら自分も死んでしまう。

 破壊力は『収納レベルー火焔槍を使った回数』

 *10運命の輪(ウィール オブ フォーチュン)

 悪魔の軍団をファントム・レギオンで倒した時もらえる。

 正位置の偵察騎兵は平地の移動力が一番早い。

 スキルは剣装備しているが魔法属性になるソニックウェーブ。

 逆位値はモンゴル騎兵(マングダイ)で弓を装備して走りながら後方を攻撃できる。

 スキルは1点集中攻撃(エイミング)

 *11(ストレングス)

 初めて武器装備を作った時もらえる。

 象兵で騎兵に所属する。

 三人位乗っていて両側を戟げきで攻撃する。

 スキルはワイルドスタンプという立ち上がってからの踏みつけ攻撃。

 指揮する時は操縦者で後ろの左右2人に攻撃を指示する。

 逆位値は巨人(ジャイアント)である。

 統率力を成長させることで1人の大きさが大きくなる。

 0レベルの3メートルから始まって21レベルになれば5メートルを超える。

 棍棒こんぼうで武装している。

 スキルの地震(アースクウェイク)は一度飛び上がり地面を殴りつける。

 周囲の敵は転倒する。

 指揮する時は左肩に乗っている。

 *12吊るされた男(ハングマン)

 初めて死んだ時もらえる。

 正位置はバイキングで盾と斧で武装しているが、序盤は敵は剣装備が多く、相性の関係で出番がない。

 スキルはバイキング船に変化する。

 大きさは統率力に関係するがスピードは移動力。

 オールでこいでくれる。

 溶岩や毒沼もダメージなしで渡れる。

 5分で消える。

 緊急用であり、船は自分で作り、自分でこいだ方がいい。

 逆位値は狂戦士(ベルセルク)で両手斧を装備していて切り属性と叩き属性がある。

 スキルは風車のように振り回すアーマーブレイク、敵の防御値が10分の1まで下がる。

 *13死神(デス)

 レシピ墓地を作った時もらえる。

 正位置は戦闘工兵でハシゴや馬防柵の組立、穴掘り、トラップを設置。

 投斧(フランシスカ)で装備している、飛び道具になるが属性は近距離殴りと斬り攻撃。

 スキルは敵のトラップを無効にする。

 逆位値は暗殺者(アサシン)で毒の帯びたダガーで攻撃。

 踏み込めれば手数で相手を圧倒する。

 研究を高めれば毒の攻撃が下手な武器より強くなる。

 スキルは毒の治療。

 *14節制(テンプレス)

 レシピ農場を作った時もらえる。

 正位置は一角獣(ユニコーン)で武装は角と魔法錫杖(マジックロッド)による攻撃。

 属性は突きと打撃。

 スキルは状態異常の無効化。

 ファンタジー界のスケベ角馬と呼ばれ処女しか背中に乗せない。

 男が指揮する時は角付き覆面をつけた馬になる。

 逆位値は天馬(ペガサス)で投げ槍を装備している。

 飛び道具だが属性は近距離突き攻撃

 魔法の抵抗力は高い。

 スキルは魔法反射(マジックリフレクト)で魔法の攻撃を本人に反射する。

 *15悪魔(デビル)

 レシピトラップウォールを作った時もらえる。

 正位置は狼男(ウルフガイ)で4本足にて移動し、森林や山岳地帯も踏破できる。

 遠ぼえで音楽をかき消す。

 スキルは2本足で立ちマヒの能力を持つ爪で攻撃する。

 逆位値は吸血鬼(ヴァンパイヤ)アンデット(スリープなどの精神魔法が効かない)に属している。

 魔法か魔法の武器か聖別された物でしかダメージを受けない。

 つかんでカミカミカミしてHPを回復しながら戦う。

 スキルは魅了(チャーム)で相手ユニットのコントロールを奪う。

 統率力以下で指揮者もいない場合は移動もさせられる。

 *16(タワー)

 城壁と城門で町を囲った時もらえる。

 正位置は密集隊形歩兵(ファランクス)

 槍で武装して三段突きをする。

 スキルはビーストバスターで槍を投げて動物や騎兵に突き刺さり、移動力を半減する。

 逆位値はスイスの大男によるパイク兵で、16世紀は銃剣が採用されるまでマスケット銃をパイク兵で守り、入れ替えながら戦線を維持するのが主流だった。

 スキルは槍衾(やりぶすま)で相手ユニットの突撃ダメージや攻撃を反射する。

 *17(スター)

 初めて鉱物を手に入れた時もらえる。

 正位置は女NPCでユニットを指揮できる。

 好きな名前をつけ、エディットで好みに作り、口調や声優を選択できる。

 スキルはマイティアームで攻撃力と近接武器なら攻撃範囲、飛道具なら飛距離がアップする。

 逆位値では3Dモンスター同様NPCキャラクターとしてパーティに加えることができる。

 5分しか持たないが。

 *18(ムーン)

 レシピ温泉を作った時もらえる。

 正位置は10センチメートルぐらいの小妖精(ピクシー)でダメージは与えないが、チクチク攻撃してスキルを使わせない。

 統率力1につき10人増える。

 スキルは霧を発生させてあらゆる種類の感覚を奪える。

 逆位値は精霊(スピリット)で植物を意識した緑の服を着た耳の長い人。

 武装は円盤をくりぬいたチャクラムで斬り系の飛び道具。

 スキルは透明化である。

 統率力以下なら他のユニットも消せる。

 *19太陽(サン)

 レシピ鉄と金床を作った時もらえる。

 正位置はロングボウで飛行系のユニットに追加ダメージがある。

 射程は遠距離用投石機の次に長い。

 スキルは連射で矢を3本同時につがえて放つ、収納は1本分しか減らない。

 逆位置のスリングは殴り系の飛道具。

 スキルはアーマー無効。

 *20審判(ジャッジメント)

 初めてアンデットを倒した時もらえる。

 男NPCでユニットを指揮できる。

 ユニットは誰かの指揮にないと召喚した隊列のまま動かない。

 門に防御用の巨人を置いておくだけなら指揮者はいらない。

 視界に入れば勝手に攻撃したり防御したりする。

 ユニットを動かしてスキルを使う時は必要である。

 ファントム・レギオン同様5分召喚すると帰っていき10分間召喚できない。

 3Dモンスター、女NPC、男NPCを同時に呼んで、4つのファントム・レギオンを機動して連係しながら戦うこともできる。

 5分たつと3人同時に召喚できなくなる。

 5分ずつずらしながら2人で戦うというのもありだ。

 悩ましいところである。

 スキルはガーディアンオーラで防御力と耐久力があがる。

 逆位値ではパーティに加える男NPCになる。

 *21世界(ワールド)

 門ゲートを作り異なる島へ到達した時もらえる。

 正位置はグリフィン飛行系の最速ユニットであると同時に飛行系ユニットに航空優位がある。

 飛行系ユニットからダメージを受けない。

 スキルはかぎ爪の前足で相手をつかんでカミカミカミ。

 逆位値はドラゴンで飛行系ユニットに属している。

 巨人同様に一体で統率力を成長させると身体が大きくなる。

 地上ユニットに対して追加ダメージを持っている。

 日頃はテールウィップで薙ぎはらうように攻撃するが、あまり近づくとカミカミカミ。

 スキルは炎をまとった龍の息(ドラゴンブレス)であり、空から降ってきたらたまったものではない。

 指揮する時は背中に乗っている。

 

 僕はサクラハラの嫁さんのヒトミさんが主宰するコミュニティに向かった。

 最近は税金対策でセックスレスの二人で生活する。

 偽装結婚や仮面夫婦がばっこする中(恋愛結婚してもダブル インカム ノーキッズを貫き、家族というより共同生活を送るカップルも多い)。

 30才以上年齢差のある結婚である。

 少子化対策の為フランスのように事実婚を日本政府は認めた。

 日本も江戸時代は金持ちの愛人になって老後の面倒を見て、死んでから幾らかのお金をもらい、若いツバメを捕まえて一緒になるということはあった。

 フランスでは「3回目の結婚が本当の結婚」という言葉がある。

 アルカナビルダーズでは豪華な建物を造る。

 インターネット上で配信する。

 発売元の二エクスは誰かが1分間見学すると建築主に10アガペポイント見学者に1アガペポイントを提供する。

 かつては三食昼寝付きと軽べつされていた「主婦」だが、今では最もクリエイティブな仕事と女の子達の成りたい職業ダントツのNo.1である。

 超勝ち組のサクラハラの嫁さんだけあってヒマなのか毎週大掛かりな建物が建っている。

 彼女を中心にコミュニティが造られている。

 知り合いの知り合いまでが参加条件である。

 魔王の知り合いの僕までが限界だ。

 彼女が僕を知り合いにカウントしてくれれば勇者とか呼べれるかも。

 アバターもマイナンバーに登録している公共用のやつを使わなくてはならない。

 それがコミュニティのルールである。

 夕夜・H24・コエプコンと正直に提出した。

「名前にH24なんて入っているなんてかわいそう」ヒトミさんはヒシと抱き締めてきて「お母さんて呼んでいいんだよ」と言ってくる。

 あまり人にお勧めする人生ではないが、侮られるような生き方はしてこなかった。

「コエプコンの坊や」が僕のあだ名だ。

 このコミュニティの中でコエプコンは僕一人だし、リアルを完全に捨てた濃いメンバーが所属する四天王のコミュニティの中では浮き上がる位、圧倒的に新参者で若輩者だ。

 浮島をめぐる他集団との戦争が勃発するとメンバーを集めて乗り込んでいく、たくさんのプレイヤーを誘い多くの相性をそろえるのが常道セオリーである。

 最近では「こら、コエ坊、××を率いて突撃しろ」と叫ばれている。

 プロゲーマーの嫁さんだけあって、負けたら本気で悔しがる。

「リアルではどんな人?」

 魔王に聞くと「まるでサヨクのようにオーガニックや非遺伝子組換え作物や地球環境や動植物生態系にこだわる。

 まあ優しい人と言えば優しい人なんだけど」

 オーガニックなど〈有機の〉という意味で,通常は農薬や化学肥料を使わず有機肥料によって生産された農産物。

 アメリカ西海岸かオーストラリアでないと悪化する世界環境の中で生育できない。

 アメリカでは「消費は投票」という。

 高価なオーガニックが産業として成立しているのには一定の支持者がいるのは確かだ。

「スローフード、スローライフ」とよばれる「ロボット化反対、過当競争反対」の生き方スタイルをかかげる一派は存在する。

 ヒトミさんは優しい人ではあるんだろうけど金持ちの道楽である。

 投票券すら持たないビンボー人にはマネできない。

 コミュニティに行くと帆船を模した建物がそびえ建っている。

 そこで彼女は能力が少し上昇する手料理を用意してくれる。

 ゲーム内農場で生産して他人におごると二エクスからアガペポイントがもらえる。

 僕たちは彼女の左手の甲に感謝のキスをする。

 チャットルームでゲームマネーを受け取ることは絶対しない。

 目に見えない価値を大事にする。

 知識資本、人間関係資本、信頼資本、評判資本、文化資本などの個人の思想や信条や心が強く含まれる、

 普遍的な価値観の共有がコミュニティの最大幸福であり、商売抜きに成長して欲しいと願うこと。

 アガペポイントは日本銀行券(お金)とは異質なものであり、政府への信頼(お金)から企業の電子マネーは個人への信頼へと変化したものらしい。

 知っている人間は貸した金を期間ずに、すぐには返さなくていい。

 返せる時まで待つという感覚。

 ゲームはプレイする個人に「いい物語を持った人生」提供する新しい宗教(幸福)なのだと、ヒトミさんは言う。

 芸術も作品から体験(ライブ)を売るように変わってきている。

 イギリス経済の金融化を進めた鉄の女マーガレット・サッチャーが言った。

「社会など存在しない」

 でもヒトミは言う。

「社会しか存在しない」

 参加する人が出来るだけ努力する「ベストエフォート」

 ヒトミさんは全ユニットを限界まで育てている(あらゆる意味でカンストしている)。

 ゲーム運営から毎日配信されるDLCダウンロードコンテンツを高いアガペポイントを払ってクリアし、報酬であるレシピを入手する。

 その高価なレシピ(設計図どおり制作すれば、たくさんのアガペポイントがもらえる)をアガペポイント1で僕たちに売ってくれる。

 普通社長は部下の稼いだあがりをはねるビジネスだが、彼女は「みんなで強くなろう」「みんなで笑顔になろう」「みんなで美しい物語を書こう」を合言葉にアガペポイントを手出ししてくれる。

 確かにみんな強くなった方が戦争で有利だが

 争の勝利も敗北も人生に彩りを添えてくれる。

 大型木造帆船の中ヒトミさんを探した。

 甲板でディナーパーティーの段取りをしていた。

「ヒトミさん。四天王は?」

「ダンナ達、ゲーム会社や運営の人と飲みニケーションがあるみたい。

 今日の参加は無理みたい」

 大人って大変なんだなぁ。

「相変わらず今回の建物も凄い」

「3日かかったわ。楽しんでいってネェ」

 さっそく食事にかかる。

 味はついているからそれなりに美味しい。

 そんな中ヒトミさんに救援要請がきた。

 悪魔ではなくプレイヤー同士のバッティングらしい。

 四天王が入れば「鈴木、佐藤(森林リンゴの本名は佐藤アップルである。本名の方がキラキラネーム)、田中。行くわよ」

「あら、ほら、さっさー」である。

 彼女は食べ終えた僕を見た。

 見学者は複数人いたが、戦力になる知り合いは僕しかいない。

 この女の考えていることは分かっている。

「コエ坊。行くわよ」

「あら、ほら、さっさー」お約束である。

 僕達はゲートをくぐり、救難者と合流。

 敵プレイヤーを発見、ヒトミさんの指示の下、僕が赤枝の騎士団で突撃をして見ることになり、ファントム・レギオンを召喚した。

「僕に続けー。突撃ー」

 召喚した赤枝の騎士団に号令をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは優しい嘘だけれども、どうかすべてのゲーム中毒《ジャンキー》に栄光と祝福あれ。

------------------------- 第9話開始 ----------------------

【タイトル】

参考文献

 

【本文】

勝負論 ウメハラの流儀 梅原大悟 小学館新書

図解ピケティ入門 高橋洋一 あさ出版

AIの衝撃 小林雅一 講談社現代新書

デフレの正体 藻谷浩介 角川oneテーマ21

地方消滅 増田寛也 中公新書

アンドロイドは人間になれるのか 石黒浩 文春新書

VWの失敗とエコカー戦争 香住駿 文春新書

里山資本主義 藻谷浩介 角川新書

里海資本論 井上恭介 角川新書

9条は戦争条項になった 小林よしのり 角川新書

教室内(スクール)カースト 鈴木翔 本田由紀 光文社新書

アップル、グーグルが神になる日 上原明宏 山路達也 光文社新書

結局、世界は「石油」で動いている 佐々木良昭 青春出版社

資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫 集英社新書

資本主義の終焉、その先の世界 水野和夫 榊原英資 詩想社新書

テクノロジーが雇用の75%を奪うのか マーティン・フォード 秋山勝訳 朝日新聞出版

ロボット革命 本田幸夫 祥伝社新書

デジタルは人間を奪うのか 小川和也 講談社現代新書

子供を億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい 松林弘治 MEDIA FACTORY

あと20年でなくなる50の仕事 水野操 青春出版社

量子コンピュータが本当にすごい 竹内薫 PHP新書

モノの仕組みふしぎ雑学 中村智彦 長岡書店

実用寸前のすごい技術 話題の達人倶楽部 青春出版社

ものづくりの反撃 中沢孝夫 藤本隆宏 新宅純二郎 ちくま新書

2025年の世界予測 中原圭介 ダイヤモンド社

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 出雲充 ダイヤモンド社

日本の手術はなぜ世界一なのか 宇山一郎 PHP新書

戦争する国の道徳 小林よしのり 宮台真司 東浩典 幻冬舎新書

残酷な20年後の世界を見据えて働くということ 岩崎日出俊 SBCreative

天皇論 小林よしのり 小学館文庫

天才イーロン・マスク銀河一の戦略 桑原晃弥 経済界新書

遺伝子工学がわかる本 遺伝子工学研究倶楽部 Gakken

超情報革命が日本経済再生の切り札になる 野口悠紀雄 ダイヤモンド社

アルゴリズムが世界を支配する クリストファー・シュタイナー 永峯涼訳 角川EPUB選書

「仮想通貨」の衝撃 エドワード・カストロノヴァ 伊能早苗 山本章子訳 角川EPUB選書

人工知能は人間を超えるか 松尾豊 角川EPUB選書

仮想通貨革命 野口悠紀雄 ダイヤモンド社

ゲームシナリオのための戦闘・戦略事典 山北篤 SBCreative

人類を超えるAIは日本から生まれる 松田卓也 魔済堂新書

日本の未来図2030 自由民主党国家戦略本部 日経BP

2045年問題 コンピュータが人類を超える日 松田卓也 魔済堂新書

脳・戦争・ナショナリズム 中野剛志 中野信子 適菜収 文春新書

金融政策の死 野口悠紀雄 日本経済新聞出版社

物欲なき世界 菅付雅信 平凡社

スーパーヒューマン誕生! 稲見昌彦 NHK出版新書

2035年の世界 高城剛 PHP研究所

人工知能の都市伝説 松田卓也 宝島社

ロボットの脅威 マーティン・フォード 松本剛史訳 日本経済新聞出版社

IoTとは何か 坂村健 角川新書

SFを実現する 田中浩也 講談社現代新書

人工知能が変える仕事との未来 野村直之 日本経済新聞出版社

ゲノム編集とは何か 小林雅一 講談社現代新書

生殖医療の衝撃 石原理 講談社現代新書

世界大激変 長谷川慶太郎 東洋新聞新報社

世界を変える100の技術 日経BP社編

ブロックチェーン入門 森川夢佑斗 ベスト新書

言ってはいけない 残酷すぎる真実 橘玲 新潮新書

マッキンゼーが予測する未来 リチャード・ドッブス ジェームズ・マニーカ ジョナサン・ウーツェル 吉良直人訳 ダイヤモンド社

文系が20年後も生き残るために今すべきこと 岩崎日出俊 イースト・プレス

ビジネスブロックチェーン ウィリアム・ムーゲイヤー 黒木章人訳 日経BP社

60分で分かる ITビジネス最前線 ITビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる IoTビジネス最前線 IoTビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる フィンテック最前線 フィンテックビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる AIビジネス最前線 AIビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる 仮想通貨最前線 仮想通貨ビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる クラウドビジネス最前線 クラウドビジネス研究会 技術評論社

60分で分かる 機械学習&ディープラーニング超入門 機械学習研究会 技術評論社

60分で分かる VRビジネス最前線 VRビジネス研究会 技術評論社

ポスト新産業革命 加谷珪一 CCC MEDIA HOUSE

ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之訳 河出書房新社

サイエンス・ネクスト科学者達の未来予測 ジム・アル=カリーリ編集 鍛原多恵子訳 河出書房新社


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