真に救いようのない人   作:楠崎 龍照

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4話 散歩という名の旅

 

 

 

 

「……」

 

朝の6時……。

さてさて暇だ。

手付かずの卒業論文でもやろうか……。

いや、気が乗らない。

あーでも、ほんの少しだけやるかなぁ……。

後々、切羽詰まった時に、進行度が1と10じゃ訳が違うしね。

今のうちに少しでもやっておこう……。

 

「っしょっと」

 

私はベッドに乗ってパソコンを起動した。

デスクトップ画面には、無駄に整頓されたファイルが並べられている。

その中の「卒業論文」と書かれたファイルを開き、ワードを起動した。

山の神信仰と書かれた画面が目に映る。

 

「目次から一切進んでねえ……。夏休みまで何やってたんだよ……私……」

 

2ページしか存在しない卒業論文を見て、意気消沈する。

否、元々意気なんて無かった。

この場合、無気消沈と言うべきか。

 

「やるかぁ……」

 

私はため息を1回ついて、キーボードに触れる。

最低でも6万字は書かなければならないのだから、ため息の1つや2つは出るだろう……。

 

「えーと、まずは初めの文として……何故、自分が山の神を選んだか……」

 

私は少しだけ頭を捻り、キーボードを打つ。

ワードには、"この大学で初めて調べたのが、山の神だったから"と書かれた。

 

「まぁ、これだよな」

 

下手に小難しい事を書くよりも、こんな感じの方が1番良いだろう。

ただ、少しでも文字数を稼ぎたいと考えた私は、あの手この手を使い、字数を確保した。

 

「えーと、神という高次元の存在でありながら、美しい女性に嫉妬してしまう人間臭さに感銘を受けて……こんなもんか」

 

キーボードを打ち終えた私は、一息ついてベッドに寝転がる。

時計を見ると、8時になっていた。

 

「2時間も格闘してたんか……」

 

私は、2時間もかけて出来たのが、初めの文だけなのか……と呆れ果てた。

だが、呆れ果てても仕方ない。

やるしかないのだ。

 

「第一章は動物態の山の神……と」

 

私は大学の図書館から借りてきた山の神関連の本を取り出して、動物態の山の神について書かれたページを見る。

 

「さて……この部分を引用して……その後に自分の考えを書いて……」

 

私は手に持っている山の神の本を見て、独り言を漏らしながらキーボードを打つ。

 

「一章の動物態の山の神は、こんなもんでええやろ……」

 

バタリと私はベッドに寝転んだ。

とりあえず、一章だけで8000字……。

6万字までは程遠いものだ……。

私は少し絶望しつつ、スマホの時計を確認した。

時刻は12時ジャスト。

今日は友人の家にでも行こうかな。

そう思った時だ。

 

〜〜〜〜〜♪

〜〜〜〜〜♪

 

突如、スマホが鳴り出した。

この音は電話着信の音だ。

私は直ぐにスマホを持って、画面を見た。

 

「そっらー?」

 

スマホの着信画面には「そっらー」と表示されていた。

空本。

私の友人だ。

何かあったのかと思い、私は直ぐに受話器のボタンを押した。

 

「はい、もしもし?」

 

私がそう言うと、スマホから空本の声が聴こえてくる。

 

『もしもし龍照か?』

「おん。どした?」

 

私がそう訊くと、彼は『今日暇か?』と一言。

遊びのお誘いだろうか?

私は「おん、暇やで」と返す。

すると、そっらーは少しだけ高揚しているような口調で『そしたら、bmまで散歩しない?』と言った。

私は大歓迎だった。

bmは私の大好きな場所だ。

私は元気よく承諾し、直ぐにbm駅まで向かった。

 

 

 

 

12時30分

 

「〜〜〜♪」

 

私はスマートフォンでjazzを聴きながらbm駅前で、そっらーの到着を待っていた。

電話では40分には到着すると言っていたから、もう少しだろう。

その間に何をしようかな。

私はbmに売店を見つけて、商品を眺めた。

サーモンや鯛などの握り寿司のサンプルがショーケースの中にあった。

 

「(美味そうだな……)」

 

財布を確認すると5000円札1枚、1000円札2枚が確認できる。

 

「いかがですか?」

 

私が財布を確認した為、購買意欲があると思ったのだろう。

店員が笑顔で私に話しかけてくる。

正直、かなり買いたいという欲があったが、今から友人と散歩をする予定だ。

故に店員さんには「今から友人と散歩する予定ですので、帰りに買いに来ます」と言ってお辞儀をして、売店をあとにした。

 

「美味そうだなぁ……帰りまで残ってるといいけど……」

 

私は心の声を口から漏らしつつ、椅子に座ってそっらーが来るのを待った。

 

「うぃーす!」

「おー来たか!」

 

13分後、そっらーが手提げカバンを持ってやってきた。

私は少しだけ気になっている事をそっらーに訊ねた。

 

「珍しいな。ソッラーから散歩の誘いをするなんて」

 

私から散歩の誘いをすることはあるが、ソッラーはあまりなかった。

 

「おん。学門神社に用があって、場所を教えてもらおうと思った」

「なーるほど」

 

そゆことかと首を縦に振った。

しかし、私はある事に気づいた。

それをソッラーに報告する。

 

「ここから学門神社って結構遠いで」

「まぁ、歩くのも面白そうやん」

「まー、そうやな」

 

言われた通りだ。

電車で目的地付近の駅に行くのも良いが、最寄りの駅より2、3駅離れた場所から歩くのも悪くは無い。

歩きながら素晴らしくも美しい景色を眺めるのも一興だ。

 

「そんじゃあ、行くか」

「案内よろしく」

「あいよ」

 

私たちはbm駅から学門神社まで、およそ5kmの距離を歩くことになった。

いいねー!

山の麓にある田舎町を歩く。

最高だ。

セミの合唱も聴こえ、夏の香りが私の鼻を燻る。

 

「あぁ、これだよ……この香りだよ。この夏の香りがいいんだよ」

 

駅を出た私たち。

夏と山の麓の香りに私は恍惚とした表情を浮かべる。

その私の様子に、ソッラーは半笑いになって「ヤク中みたいな顔なってるで」と言った。

 

「んなははははは!」

 

ソッラーの言葉が絶妙に面白く、駅前で爆笑してしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……すまん。そろそろ行くか」

 

行き交う人々の視線すらも気にもとめず一頻り爆笑した私は、息を切らしながらソッラーに謝って歩き出した。

 

「そういや、学門神社行くっていう話やけど、弟さんの受験の合格祈願か?」

 

巨大な鉄橋を歩きながら、私は顔をソッラーの方を見ながら話しかけた。

 

「そうやな。今必死に受験勉強してるで」

「なーる。まぁ受験勉強は大変やからなー」

「ちょっとでも精神面で楽になれればなと」

「なるほどな。それなら私の禁忌なマジナイやってみるか?」

「禁忌のマジナイ?」

 

私の提案に、彼は訝しんだ表情でこちらを見る。

私はニヤっと笑みをこぼして話をする。

 

「まぁ……お守りを介した肩代わりやなー」

 

私の話にソッラーは眉を顰める。

「肩代わり?なにそれ?」と。

話を続けた。

 

「民俗学で習ったマジナイの応用なんやけど、お守りを買うやろ? そんで数時間自分が持ち続けて願いを込めるねん」

「うん」

「確か、大学……2回生の時やったかな? あの時、私の妹が高校受験、友人が大学受験を控えててな。友人に至っては二浪してた」

「おー……」

「で、私は大学をサボって学門神社まで向かったのな。今から向かうルートと同じ道をな」

 

そんな話をしながら鉄橋を越えた私たちは、住宅街へと入った。

そこは古い民家と新しい家が立ち並ぶ場所だ。

こういう新と旧が混じり合うのは結構好き。

 

「で、学門神社で2人の合格を祈り、お守りを購入したのよ」

「ほうほう」

「で、私はそのお守りに願いを込めたのよ」

「なんて込めたの?」

「……妹と友人の苦しみ、痛み、ストレス、全てを私が請け負いますので、2人が絶好調の状態で受験に挑み、無事合格出来ますように。と」

「……なるほど」

 

私の願いに、彼はコクコクと頷く動作をしていた。

 

「それで私はそれをしまって同じ道を何時間もかけて帰った。なんなら、帰る時はbmからじゃなくて、もっと遠い駅までな」

「ん?なんで?」

「お守りに私の魂を宿らせたのよ。その私の魂が2人に降りかかる厄災を身代わりになるように」

「……それで……?」

「帰りは6時間は歩いたよ。お守りに私の魂が入るように、2人の合格を祈りながら」

「龍照凄いな」

 

私の話にソッラーは感服の眼差しを送っていた。

ただ、私には当たり前の事をしてるので、「そうか?」と答えた。

 

「他人にそこまで出来んぞ普通は」

「そんなもんなのかなー」

「それで、その後はどうなったん?」

 

暑さも忘れ、ただ私の言葉を聞くソッラー。

線路伝いの住宅街を歩く私たち。

単線の線路は電車は来ずに、聴こえるのはセミの合唱だけだ。

 

「それで、それを妹と友人に渡した。2人は喜んでいたな。まさか反抗期まっしぐらの妹があーも喜ぶとは、驚いたで」

 

私は少しだけ微笑む。

ソッラーも私の微笑みに、ニヤっとした。

 

「で、その2日後、妹はインフルエンザにかかった」

「おいおい」

 

予想外の言葉にソッラーは苦笑いする。

だが、それを無視して続けた。

 

「でもな、不思議なことにそのインフルエンザは1日で完治した。それどころか、妹自身もそんなに辛くなかったらしい」

「oh.......」

「後から聞いた話やと、友人はいつもより怖いくらい調子が良く、ストレスも感じる事無く勉強に励めたらしい」

「マジか」

「で、私は、と言うとな」

「何かあったの?」

 

ソッラーの問いに私は少しだけ笑って頷く。

 

「胃腸炎で倒れた」

「本当に?」

「マジ。嘔吐、消化不良、腹痛、発熱、全身の筋肉痛で3日間死にかけていたよ。その時、モンハンワールドの発売から2日目だったから最悪だった。寝ても1時間に1回は起きる程に。なんなら1週間は消化不良で大変だった」

「oh……」

 

少し、いや、結構引いているソッラー。

住宅街から出て道路に出て歩道を歩く私達。

辺りは田畑しかなく、田舎町にある車道といったところだ。

私は話を続ける。

 

「で、2人とも試験は合格したよ」

「おおおおおおお!」

 

私の言葉にソッラーは歓声を上げた。

その声は田畑で作業していた夫婦を振り向貸せるには十分過ぎる。

 

「どう思う? これが偶然か? 私は思えん。私の体調は万全やった。ストレスもなく普通に過ごしていて、突然の胃腸炎。私は偶然とは思えない」

「おー、確かに。それで2人は無事卒業出来たのかい?」

「……友人は2回生で退学した」

「おははははははは!!!」

 

私のオチにソッラーの笑い声が田舎町に木霊する。

 

「まぁ妹は卒業したからな。良しとしてるよ。その人の人生や。死以外の事は兎や角言うのはアレやからな」

「確かにそうやけどな」

「で、これが私のお守りのマジナイ。どうする?やる?」

 

私はソッラーの顔を見て訊いた。

その様子は、「力が欲しいか?」のソレである。

私の提案に、ソッラーは「うーーーーん」と唸るように首を傾げて思考する。

だが、それを邪魔する産物が道端に落ちていた。

 

「ん?」

 

私は何か本らしき物が落ちているのに気づいた。

ソッラーも気づいたようで、その場所まで走り出す。

 

「っ!?」

「ちょっ!」

 

落ちている本を見た私とソッラーは、思わず吹き出してしまった。

なんでこんなモンが落ちてんだよ!?

馬鹿じゃねーの!?

 

「なんでエロ本が、んな場所に落ちてんねん!?」

 

私は笑いのこもったツッコミを落ちていたエロ本にぶつけた。

雨に晒されたのだろう、カピカピになったエロ本を手に取った。

パラパラとページを捲り、私とソッラーは爆笑し合った。

 

「マジのエロ本やないか」

「ホンマやなぁ」

 

エロ本で爆笑する大人2人。

ただ、真昼間な為、思考がまともの2人は「何故こんな歩道のど真ん中にエロ本を捨てたのだ?」という疑問が浮かび上がった。

しかし、いくら考えてもその答えは浮かばず……。

その結果。

 

「とりあえず、元に戻しておこう」

「やな」

 

私達は元の場所(歩道)に戻した。

 

「絶妙にモヤモヤする疑問が残ったなぁ」

「そうやなぁ……」

 

頭の上にグチャグチャした毛玉のような物を浮かばせて、路地へと足を踏み入れた。

 

「そういえば、この路地を行った所に小さな店あったな」

「お、行ってみるか」

「おん!」

 

少しの時間、歩いていると私の言った店にたどり着いた。

戸を開けると、そこには野菜や駄菓子、洋菓子等が陳列されたThe・昔ながらの老舗といった店だ。

中に入ると、白い髭を生やした元気なお爺さんが笑顔で迎え入れてくれた。

 

「いらっしゃい。ゆっくり見てくださいな」

 

少しだけ枯れた声で言うおじいさん。

私も笑顔でお辞儀をして「ありがとうございます」と返し、陳列された駄菓子をマジマジと物色する。

 

「ソッラーなんか良いのあった?」

 

私は駄菓子を物色しながらソッラーに話しかける。

ソッラーは野菜のコーナーを見て、何か購入しようとしていた。

 

「色々とあるなー……って、これ見てみ」

「んー? どした? ……おふっ!」

 

ソッラーに言われ、振り返った私の視線に写った物を見た私は、不覚にも吹き出してしまった。

彼の持つ手には大根があった。

これだけでは普通の光景なのだが、その大根に問題があるのだ。

 

「何この大根!?」

「凄いやろ?」

 

その大根はマタコン……いわゆる奇形大根と言うやつだ。

二本足のように先端が枝分かれし、更にその分かれた真ん中に、まぁまぁご立派な1本の伸びた根があった。

最早……いや、やめておこう。

エロ本からのこの奇形大根の流れはまさに奇跡というものだ。

こんな奇跡は非常に複雑であるが……。

 

「凄いな。私よりデカイんじゃない?」

「んははははははははは!」

 

私とソッラーは、クッソしょーもないアホな話をしていると、その笑いに釣られたお爺さんも「これ凄いやろ?」と自慢気に話に入ってきた。

 

私とソッラーもお爺さんの言葉に同意する。

これはヤバイな。

奇跡の代物だわ。

 

「これ欲しいです」

 

イチモツ大根をエラく気に入ったソッラーは、それを購入、私は10円ガムやガブリチュウなどを購入した。

 

「そんじゃあ、行くか」

「おー、そうやな」

「ありがとう、また来てね!」

 

満面な笑顔で手を振るお爺さん。

私とソッラーも笑顔で「もちろん!」と手を振り返した。

 

「そしたら学門神社に向かうか」

「おう」

 

老舗で休憩した私たちは、当初の目的地である学門神社へと足を進ませた。

30分ぐらいだろうか。

それなりの時間歩き、やっと学門神社へとたどり着いた。

以前に来た時と大して変わらない中規模の神社だ。

私たちは端っこを歩いて拝殿へと向かう。

 

「それじゃあ、参拝してくる」

「あいよ。私はここの売店で何か見てるわ」

「りょー」

 

そう言って、ソッラーは1人で参拝しに向かった。

私は売店に売っている合格祈願のお守りや、勾玉を見つめていた。

 

「お待たせー」

「うぃーす」

「んー? 合格祈願のお守りか。何か買おうかな」

 

ソッラーはお守りセットを手に取って、それを購入した。

中にはお守りの他に、塩や勾玉が入っている。

 

「ええやん。そんじゃあ帰る?」

「おー!」

「どうする?bm駅まで戻る? それかak駅まで行く?」

 

私はそう訊ねると、ソッラーは少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「龍照の禁断のマジナイやってみようかな」

 

と。

そうして、私とソッラーは元きた道を戻り、bm駅へと歩みを進めた。

 

 

 

 

後日、笑弥達のグループLINEでソッラーが一言。

急性胃腸炎になった。

と連絡が入った。

 

 

このマジナイ、マジでヤバイな……。

 

 

 

 

 

 

続く




緊急事態だ。
夏休み明けに卒業論文の進捗を確認するらしい。
そして、その進捗状況に応じて色々とあるらしい。
人の話を聞いてなかった……。
ヤバイ、進めなければ……!!
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