ワンフォーオール…?知らない子ですね   作:悲しいなぁ@silvie

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またまた遅れました…
インフェルノが難しくて…つい


前世…?言いたくないですね

治崎廻は自身の分解して治す個性の都合上、痛みに対する許容範囲が常人より広かった。幼少よりひたすら鍛錬を繰り返し、医学書を読み漁っては自身の糧とし今では心停止した人間とて脳さえダメージを受けていなければ個性にて蘇生出来る程の精度にまで達していた。

これも、鍛錬にて負った傷を自らの個性にて修復し続けた…自らを実験台にした個性の探究の結果であった。

全ては死穢八斎會に…自分を拾ってくれた組長への恩を返す為。

ただそれだけを考え、治崎は破滅的と言っても過言ではない鍛錬を未だに続けている。

しかし、その治崎を以てしても少年に蹴り上げられた金的の痛みには一瞬の抵抗も出来ず視界を明滅させた。

睾丸とは、その役割から理解(わか)る通り内臓である。本来は体内にて筋肉や骨格という堅牢な城壁に守護(まも)られている筈の内臓という人類の最急所(ウィークポイント)。しかし、その内臓の中にて一際異質な睾丸(ソレ)は繊細な温度調節が必要という理由にて守護(まも)られていない。

柔軟さと頑健さを併せ持つ筋肉という盾も人体にて最大硬度を誇る骨格という鎧をも拒み、ただ皮膚という脆く脆弱な守りしか持たずに股にぶら下がるのみという圧倒的無防備!

故に、格闘技者の間では如何に金的を喰らわぬように…そして、如何に相手に金的を喰らわせられるかを考える。

どんなに不意打ちであろうとも、どんなに予想外であろうとも金的だけは許さぬよう防備を崩さない。

命中(あた)れば一撃で勝負を決するという望外の必殺性は敵味方問わず必ず意識の片隅にて常に考慮し続けている…故に命中(あた)らない。

一定以上の練度の格闘技者同士の戦闘において、金的とはブラフや連続技の一環として狙い命中(あた)れば儲けもの程度のものでしかない。その証拠に先の乱波との戦闘で少年は何度も金的を狙っていたものの乱波はその悉くを躱していた。

しかし、治崎は幼少より鍛錬を続けていてもそれらはあくまでも独学に過ぎず…更にその鍛えられた反射神経と個性により接近戦を挑まれる経験に乏しかった。

故に知らない。金的の必殺性を…書物や話で如何に知った気になろうとも一度も自身の身で受けていない治崎は警戒が足りなかった。

如何に相手が少年であろうと、如何に相手が素人のように見えようと、如何に反射神経に自身があろうと治崎は警戒を解くべきではなかった。

そして、愚かにも警戒を解いた治崎は余りにも大きな代償を払う。

 

「ごぉっ!!?」

 

蹴られた位置は股だと言うのに下腹部へと走る激痛。

少年の蹴りは一撃で治崎の睾丸を両方とも粉砕していた。

治崎は自分の意志とは無関係に膝を折り、股を縮め全身を硬直させた。激痛に対する反射、数多くの脊髄反射のうち痛覚神経を求心路に持つ屈曲反射はすべての反射に優先する。

当然、意思や思考を介さぬそれは少年にとって余りにも大きな好機であり治崎にとって余りにも致命的な隙であった。

 

「前歯全部折ってやる!!」

 

少年が選択したのは右拳による顔面への打撃。無論、発言はブラフであり治崎の歯ではなく眼球を潰し遠近感を無くすことで遠・中距離での攻撃の精度を落とす事が狙いであった。

金的を決めた事による圧倒的有利に胡座をかかずに相手の戦力を削り復帰後の有利をも確保する手…であったが。

治崎の顔面に迫っていた少年の手が弾かれる。同時に前腕へと走る鋭い痛みを無視して少年は大きく後ろに跳ぶ。

視界には先程まで自分の居た…動かなければ胸に当たっていたであろう位置を射貫く弾丸。そして

 

「この…バケモノめっ!!」

 

こちらに銃口を向ける鉄砲玉八斎衆最後の一人、音本真。

少年は即座に思考する。

タマタマ潰れてグロッキーの治崎にトドメを刺すか…それともコイツを先に片付けるか…今の射撃、振ってる俺の腕を撃ち抜ける技術がある訳で…

一瞬の逡巡の後に少年は音本の元へ駆け寄る。

通常、拳銃の弾速は秒速約200〜600m程と言われる。弾丸の種類や拳銃にもよるが平均して秒速400m、時速にして1400kmを超えるそれは決して避けれられるものでは無い。

無いが故に、音本は自身の眼を疑った。

少年との距離は10メートルも無く、迫って来ている以上更にその距離は短くなるというのに…音本の放った弾丸、計4発は少年に掠ることもなく躱される。如何に、この拳銃が個性破壊弾の特性上貫通させないよう弾速を落としているとはいえこの至近距離で避ける事は叶わぬ筈…世間でまことしやかに囁かれる銃弾避けはあくまでも十分な距離と超人的な反射神経に初速の遅い特殊な弾丸の3つが揃って初めて出来る可能性が生まれる程度のもの。

そも、人間の反応速度は医学的に0.1秒を超えないという結論が出ている。百分の1秒を競う陸上の短距離走においてもスタートの合図から0.1秒未満でのスタートはフライングと見なされるように人体が外部からの刺激により反応するには平均して0.2秒程の時間を要する。訓練を積めば限りなく0.1秒に近付けど0.1秒間で40mもの距離を進む弾丸を回避するには余りにも遅いと言わざるを得ない。

ましてや、少年と音本の距離はたった数メートル。0.0数秒で着弾する距離である。

(このガキッ!一体なんの個性だ!?まさか、未来予知のような個性なのか…?

いや、それならば最初の被弾が説明出来ない…ならばやはり反射速度を上げるような増強系個性…か?)

 

「ばぁっ!捕まえたぁ〜。」

 

少年が見ていたのは音本の視線と銃口。音本の個性が弾丸の軌道に干渉するような個性でない時点で如何に速かろうとも点での攻撃にすぎない。更には音本がこちらに向ける視線が、銃口が、敵意が、全てが少年に発砲のタイミングと弾丸の軌道を教えていた。

音本は眼前にまで迫り自身の胸部を打ち抜かんとする少年を見ながら思う。

(申し訳ありません…若…

我ら鉄砲玉八斎衆が居ながら…お手とお心を煩わせてしまいました。しかし、信じております。若ならばこのような雑輩なぞ歯牙にもかけぬと…この音本は信じております。)

音本は最後まで自身の事ではなくおのが崇拝する治崎の勝利を考えながら意識を手放した。

 

「…ワォ!タマタマ痛い痛い治ったのかい?治崎ちゅぅわぁん。」

 

少年の目線の先には憤怒の表情と共に油断なく構える治崎が居た。

 

「殺してやる…お前みたいな奴に、ウチが…死穢八斎會が舐められてたまるかっ!!」

 

治崎が手を床に叩きつけるのと少年が走り出したのは同時だった。数瞬遅れて少年が居た場所の床が隆起し、巨大な棘と成ってそびえる。少年は治崎の周りの床や時には壁を走りながら的を絞らせぬように動き続ける。

治崎は2度3度と連続して個性を使い少年を串刺しにしようとするも捉えきれない。

(なんだ…この個性は…っ!速さは常軌を逸してる程ではないが、増強個性であるに違いない筈…なぜ当たらない!?

まさか、噂に聞く複数個性持ちのバケモノか…!?)

治崎はまるで自身の思考を読んでいるかのような少年の動きに最悪の場合を想定する。

かの闇の帝王が数年前より着手しているとある計画。複数の個性を一つの器に込めて創り上げる生体兵器の噂。

目の前の明らかに増強系でありながら読心か未来予知のような動きを見せる謎の少年…果たしてこの2つが無関係などあり得るのだろうか?

(まさか、完成した試作品を俺達でテストしようってのか…?それをこちらに知らせない為に、音本の個性を妨害し意味不明な事を言ってこちらの意識を逸して…有り得ない話じゃ無い…っ!

クロノを不意打ちで潰した以上、こちらの構成員の個性を把握している可能性が高い。そこらのガキが個性届をそう簡単に確認出来る筈が無い…ならばやはり…!)

と、全くの見当違いながらも奇跡的に一部を当てた治崎は 更に警戒を高めて少年を攻撃し続ける。

 

「何を言われた…」

 

「ああ゛?あんだって!?もっとデケー声で言ってくれんかね!」

 

「オール・フォー・ワンから、何を言われたと訊いてるんだ!」

 

「オールフォー…あぁ。なに?アレと知り合いなの…?言われたってかなんて言うか…まぁ、頑張ってって言われた…よ?」

 

治崎の中で全てのピースが嵌った瞬間であった。

 

「残念だったなオール・フォー・ワン…死穢八斎會は、オヤジが創った組は!テメェなんぞに潰させねぇ!!ウチは…俺が守る!」

 

その言葉と共に、壁を走っていた少年の膝が崩れた。

そして、床に激突しうずくまる。そして、そこへ無数の棘が覆うように貫いた。

 

「冥土の土産だ…それは個性破壊弾。お前が幾つ個性を持っていようと関係ない。ソレを音本が撃った時点で、お前の負けだ。」

 

治崎が攻撃を止めなかったのは無策でも自棄になっていた訳でも無い。ただ、時間と距離を稼ぐ為。遠距離攻撃を持たぬ少年を遠ざけつつ個性破壊弾の効果が出るまでの時間を稼ぐ為。

治崎は棘に引っ掛かった少年の服の切れ端を見ながら嘆息する。

(まだ、個性破壊弾の情報は漏れてないようだな…当たり前か、まだこの試作品すら流してないんだ。

しかし、悪い事ばかりでは無い…これで泊も付く。かのオール・フォー・ワンの手駒を殺し得る弾丸…売り文句としちゃ悪くない…)

 

「お前の死すら糧にしてやる、俺の夢の為に…」

 

「日に2度金的を喰らうバカが居るか!!」

 

グチャリ、という音と共に再び治崎は視界が白む程の激痛を味わった。

 

 

 


 

 

痛い…なんでだ…?わからない…俺は…何を…

確か、今日は…痛い、なんで…痛い痛い痛い

痛い痛い痛いイタイイタイイタイいたいいた…

 

「ギャアァァァ!!?」

 

「オッハー!やっと起きた?」

 

激痛により気絶した治崎を覚醒させたのもまた激痛であった。

治崎は全身から絶え間なく感じる激痛に子供のように泣きじゃくりのたうち回る。

 

「痛いぃぃ!!痛い痛いイダイィィ!!いぎぃぃぃ!!?」

 

治崎が気絶している間に、少年は治崎の口腔内から一本一本丁寧に全ての歯を抜き取っていた。また、手足揃えて20本の指を全て爪を剥がした上でへし折り後は膝と肩を脱臼させるかと手をかけたところで漸く治崎は覚醒した。

 

「大人のオスがこんな情けない声で鳴くんでごぜーますね!」

 

治崎は考える…この激痛に悶る()()()どこまで少年に通用するか。

無痛症と呼ばれる疾患がある。痛みを感知するサインを正常に処理出来ず、その結果痛みを知覚できない病。主には遺伝子の異常にて起こる先天性のこの疾患を治崎は自身の分解して治す個性により意図的に再現出来る。

治崎は先の金的で負った負傷を治す際に痛覚をある程度遮断するように身体を造り変えた。

完全に遮断しなかったのは相手が近接を得意とする以上、全くの無痛では知らぬ間に戦闘不能になる恐れがあったから…その結果として気絶したが、まだ治崎の優位は崩れない。

(手が動けばこんな負傷はすぐに治せる…そこは問題じゃない。

問題は…ここまでダメージを与えて、苦しむさままで見ておいて未だに隙らしい隙も見せないコイツをどうするかだ。)

治崎の勝利条件は驚く程に容易である…触れさえすれば勝てる。少年が如何に怪物だろうと、如何に精強だろうと問題なく治崎の両手にちらとでも触れればそれで決着なのだ。

 

「そぉ言えばさ!君の部下達は無駄死にだったねぇ!

特に!あの拳銃撃ってきた奴なんて…笑えたよ。俺に個性破壊弾なんて効かないのに…さ?」

 

少年は芝居がかった口調と大袈裟な身振り手振りで言う。

(…は?個性破壊弾の事をなんで知って…いや、それよりも効かない…?なんで…いや、違う!俺の言ったことを適当に言ってるだけだ!!さっきのは当たった振りで…俺を動揺させる為に…)

 

「見ろよ!人の身体に穴まで開けてくれちゃってぇ!」

 

少年は袖を捲って銃創を治崎に見せる。

 

「違う…違う違う違うちがうチガウッ!!個性破壊弾は本物だ!!効かない筈がない!!」

 

「効かないよ…無個性なんだからぁ!!」

 

「………は?無…個性?」

 

「クッカカカカ!!おかしくって腹痛いわ~!

面白いやつだなお前、ほんとに俺のことを…ウヒャヒャヒャ!」

 

「違う…お前は、オール・フォー・ワンの部下で…複数個性で…」

 

「複数個性ぃ?誰それぇ!鈍いなぁ、まぁだ分からないのかよぉ!?

ぜぇーん部俺の演技だよ演技ぃ!!

ジャンジャジャ~~ン!!今明かされる衝撃の真実ゥ。

いやぁ本当に苦労したぜ、間抜けな素人演じてつまらねえ被弾までしてさあ。

しかしお前は単純だよなァ、俺がちょいとそれっぽく見せれば、全部信じちまうんだからなァ!アッハハハハ!!

オヤジの創った組を守るぅ~~?個性破壊弾~~?ヒ〜ッハハハハッハ!!

楽しかったぜェ!お前とのごっこ遊びはよォ~~!!」

 

「…演、技…?なら、増強系のように見せたのも…個性破壊弾が効いたのも…」

 

「その通りぃ!お前って奴は、気持ちいいくらい思い通りに動いてくれるなァァ!!キヒヒヒヒャハハハ!!最高だぜさいっっこぉぉぉ!!

さぁ~て、治崎ぃ頼みの個性破壊弾も効かねぇこの状況でぇ、どうするつもりだァ~~ン?せいぜいあがいてみせろや!!」

 

少年は治崎の痛みが演技であると瞬時に()()()()()()。強靭な精神を持つ治崎のその目が死んでいない事で皮肉にも少年は治崎がまだ折れていない事に気付いた。

肉体的な攻撃では折れない…ならば、その精神をへし折るまで。

少年はオール・フォー・ワンから聞いていた治崎の夢を否定する。治崎の夢…個性破壊弾によるヒーローとヴィランの形骸化及び死穢八斎會による技術と利益の独占。

それは、あくまでも個性持ちが無個性よりも圧倒的に強いからこそ意味があるもの…無個性が個性持ちより強ければ、個性を無効化したところでどうだと言うのだろう。

言葉にすれぱ荒唐無稽で、治崎とて鼻で笑うであろう…故に、実演する。少年は治崎を完膚なきまでに打ちのめした末に心を折りにいく。

治崎は、自身の理解を超えた現実に訳もわからず涙を流し続けている。

 

「…だ、誰…?」

 

そして、そんな二人にとってのイレギュラーは突然に訪れた。

治崎と少年の戦闘による騒音とその後の治崎の絶叫により壊理は自室から覗きに来てしまった。

少年は一瞬硬直する。

これが壊理ちゃん…?こんなに小さいのか…写真で見たよりずっと…

そして、治崎は壊理を見た瞬間に動き出していた。

心が折れようと拷問を受けようと…治崎の執念は最適解を瞬時に実行させた。

バン、と治崎が床を叩く。

少年はその音を聴くと共に駆け出した。

治崎の考えが…壊理を自身の個性で攻撃したのだと解ったから。

 

「うおぉぉぉ!!間に合っった!!!」

 

少年は壊理に飛び付くように抱きかかえるとそのまま床を転がる。腕の中の壊理にキズ一つ無いことを確認すると、少年は深く息を吐いた。

 

「あ…あぁ…お、お兄ちゃん…ご、ごめん、なさい…私は、そんなつもりじゃ…」

 

壊理が青ざめながら少年を見る。

 

「わかってるって!大丈夫…いまからあのバカぶっ飛ばしてやっから、見ときな壊理ちゃん。」

 

「でも…お、お腹に…穴が…!」

 

壊理が震えながら指差した少年の右の脇腹は隆起した棘によって抉り取られ、蛇口を捻ったように血が流れていた。

 

「…ほんっと、お前ら悪モンは少年の大事なトコに硬いもんブチ込むのが好きだよなぁ…この変態共がよぉ!!」

 

「いい加減にしろ…なんでその負傷で立ち上がる…?

さっさとくたばれ!このバケモノがぁ!!」

 

少年は思考する。この負傷ではもう助からないと理解する。

今まで…少年がどれほど窮地に追い込まれようとも、使用を()()()()()()()()()()()技がある。

ソレは少年の…否、彼の。

かつて、不死身の貴人(きじん)と恐れられた藤見疼(ふじみひいら)の切り札であった。

少年の目が紅く染まる…

緑谷出久は明日を捨てた。

 

TS回って需要あるんですか…?私は皆様の正気を疑っております。

  • ある(鋼の意思)
  • そんなものウチにはないよ…
  • いいからラスボスのTSあくしろよ
  • てかTSAFOとか実質安心院さんでは?

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