ワンフォーオール…?知らない子ですね 作:悲しいなぁ@silvie
本来…と言うか正史において、緑谷出久と爆豪勝己がこの日この時間にこの路地裏を通る事は無かった。
水切りの出来ない緑谷を爆豪が馬鹿にし、その後足を滑らせ川に落ちた彼は機嫌をすこぶる悪くしながらも着替える為に家に帰っていた。
緑谷はそんな彼との軋轢から一緒に帰る事はなく、日が暮れる前には家に帰りオールマイトの活躍をテレビに囓りつくように観ていた。
二人共が日暮れには家に居たし、何なら同じニュースを観て同じようにオールマイトの活躍に胸を踊らせていた。
しかし、事今回に限っては話が変わった…変わってしまった。
緑谷が水切りで対岸に届くまで跳ねさせてしまい、それに対して爆豪が張り合って何時間も投げ合っていたし…足を滑らせた爆豪を彼は風邪をひいては親御さんが心配してしまうと川に落ちぬように引き上げた為に家に帰る理由が無くなってしまった。
子供にとって、遊びを止めて家に帰るにはそれ相応の理由が必要だった…山で遊んでいた彼らには木々が遮って日が赤らんできたという感覚が薄かった。
彼も遊ぶ事が子供の発育に必要であると遅くなってもギリギリまで解散を提案しなかった。
そんな、普段ならば微笑ましいワンシーンで済む日常はこの日、この時、この場所に限り…最悪の結果を産んでしまった。
「…なぁ、イズク。俺は…俺はヒーローに成る!
オールマイトだって超えるようなすっげぇヒーローに成ってやる!!…だから、お前をそんな俺の
「んー?別にいいよ。俺別にヒーローになる気ないし。」
山からの帰り道、オレンジ色の日が差す道を二人で歩いているとかっちんがこちらを見ないままに喋り出した。
んー…そもそもヒーローって歩合給だろ?やだよそんな不安定な職業。
スポーツ選手みてぇに年くったら引退だろうけど、そっから何すんの?てかその引退までに幾ら稼げんの?そもそもまだ地盤も固まってないような職なんだし…やめない?一緒に公務員目指そうぜ?かっちん。
…とかはまぁ流石に言わんけどさ。
かっちんともあろうものが、俺の返事に対して反応が無い…多分断られると思ってなかったんだろうなぁ。
きっと、かっちんはかっちんなりに俺の事を評価してくれてんだろう…と思う。…多分だけど。
だから、俺を誘ってくれてんだろうし…それに、この子は孤独だ。
他の奴が聞けば大勢の子の中心に居るかっちんに何言ってんだって思われるかもだが、かっちんは優秀で…目立ち過ぎてる。
だから、その表面を見て皆付いて来てる。
この子の本質を見て…中身に惹かれて付いて来ている人間が一体何人居るんだろうか。
…いや、子供の内に何言ってんだって感じだけどさ。
でも、きっとこのままほっとくと…かっちんはこのまま大きくなる気がする。
あくまで気がするだけだし、余計なお節介なんだがな。
でも、子供の内は人の好悪には敏感だ…きっとかっちんも何処かでそれをわかってる。
だから…尊大なこの子にしては珍しく、寂しがってるんだろうと思う。
「…だからさ、かっちんが俺も思わず憧れちまうぐれーのスーパーヒーローに成ったら…そん時はこっちから頼みに行くぜ。」
「…っ!ばっ、バーカ!!そん時にはもう
「えー?そっちから誘って来たのに?」
「ケッ!イズクが土下座して頼むんなら
そんな話をしていたかっちんの顔は、年相応の笑顔が浮かんでいた。
だから、これは…これは何かの夢で、目が覚めたらマミーが朝ごはんだよって笑ってくれて…食べ終わったらかっちんが遊びに来て…
「肉…小さい肉、丁寧に、丁寧に、溢れないように…」
だから、あの血溜まりも…この鉄の匂いも、吐き気も、夢で…夢で夢だから夢だし夢、夢なんだろ?
はやく、覚めなきゃ…
なぁ、かっちん。
「あー、動くと綺麗な肉面にならないだろぉ」
かっちんに伸ばそうとした右腕が裂けた。
そこから吹き出す、赤、朱、緋、紅、
血?なんで?駄目だ、おニューのシャツ着てるのに…マミーに怒られる。
かっちん?なんで泣いてんだ?変な夢だな…?泣くな泣くな、大丈夫、俺なら大丈夫だから…
大丈夫…大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫…
痛い、痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたい
なんで?
わかんない…
「避けろっ!!イズクゥゥゥ!!!」
かっちんの言葉に反射的に頭を下げる。
その刹那、直ぐ上を通るナニカ。
ああ、そっか…痛いなら、本当なんだ。
俺たちは、ヴィランに襲われてて…このままだと多分…死ぬ。
…なら、かっちんだけでも逃がさねぇとな。
「かっちん!!今すぐ路地出てヒーロー呼んで来て!この路地出て右手に真っ直ぐ行けばヒーロー事務所がある!」
「なっ!お、お前はどーすんだよっ!!イズクも一緒に…」
「速く行けって言ってんだろぉがぁ!!!」
この身体になってから初めて出した大声…こんな事で出したくなかったぜ。
かっちんはまだ動かない…当たり前だ、目の前で、多分…人が死んでる。
死体こそ見えないが、あの血溜まりの量…多分、生きちゃいないだろう。
こんな状況で、その犯人から逃げろったって…そりゃ足もすくむ。その上、俺まで一緒だったのが不味い。
かっちんの性格上、単に逃げろって言っても絶対聞かねぇと思ってヒーロー呼んでこいって言ったのに…それでも納得しねぇとはな…本当にヒーロー向きだぜ。
だから、この子をこんな所で…こんな奴に殺されて堪るかってんだ!!
「腕、腕の肉、綺麗な肉面に、もっと…もっと見せて」
ヴィランの口から真っ直ぐにナニカがこちらに向かってくる。
今度はソレを身を捻って、余裕を持って回避する…よし、大丈夫…落ち着いて対処すればこの距離なら当たる速さじゃない。
二度、三度と避けていく…よし、これなら!?こっ、こいつっ!かっちんの方に…!
駄目だ、かっちんはまだ動けない…!
直ぐ様かっちんの方へ向けて走り出す…そして、俺はそのままかっちんの胸元へ向かっていたソレへ向けて跳び蹴りを繰り出す。
前重心の上に筋力もなく体重も軽いこの身体で…成功したのはきっと偶然だったと思う。
金属同士を撃ち合わせたような硬質な音が響き渡る…嘘だろ?4歳の誕生日にパピーに買って貰った安全靴が、裂けやがった!?
鉄じゃないのかよ…クソ、右足がちっとばかし切れたじゃねぇかよ…!!
「あ…イズク、だ、大…丈夫…」
「いいから!!速く、行けーー!!」
目の前で叫んだのがこうを奏したのか…ようやく、かっちんは弾かれたように路地を引き返して行く。
「肉~~駄目だぁああ逃がさなぃいいい!!」
一気に三本の凶刃がかっちんの背へ向かって行く。
「行かせっかよぉお゛!!」
再びソレを蹴り飛ばそうとーーーした、
しまった…真っ直ぐにしか伸びないと思って、いや思わされてたのか…途中で枝分かれするうえに、細くなって先端速度が上がりやがった…
不味い…
「あぁ、きれいだきれいだよ…でももう一人居るから…みとれてちゃだめだよ」
ずるり、と引き抜かれる。
それと同時に熱が嘘のようになくなって…身体中の熱が詮を抜かれたように失せていく。
寒い…駄目だ、これ…死ぬ?俺、ここで死ぬ、のか…?
パピーとマミー…悲しむよな…マミーなんか、泣きじゃくりそう……ふざけんな!
俺の…俺の家族を!!
「泣かしてんじゃねぇぇえぞぉお゛おお!!」
「…肉」
目の前には無数の刃、避けきれる筈もない。
あぁ、かっちん…逃げ切れたかな。
「うわああぁぁぁぁぁ!!!」
…は?かっ…ちん?なんで…?いや、それより!!
駄目だ!当たる!?
KABOOOOOM!!
耳をつんざくような爆発音と共にこちらに迫っていた無数の刃が吹き飛ぶ。
これは…かっちんの個性…
「なんで…なんで戻って来たんだよ!かっちん!!」
「俺はっ!!オールマイトを超えるようなヒーローになるんだ!だからこんな奴相手に逃げられっかよ!!」
「んな事言ってんじゃねぇ!!死ぬかも知れねぇのに、なんでっ!!」
トップヒーローと呼ばれる人間達は、学生時代より多くの逸話を残している…そして、彼らの多くが話をこう結ぶ。
曰く、考えるより先に体が動いていた…と。
「イズクが…
しかし、現実は非情である。
爆豪が個性により凌いだ無数の刃は砕けることもなく再び彼らを狙う。
ムーンフィッシュは強力な個性を持つ爆豪に狙いを定めていた…
ムーンフィッシュは、快楽殺人犯である。
本能と欲望の赴くままに既に9人の命を奪っている。
しかし、ムーンフィッシュは狂ってはいても決して愚かでも無能でもなかった。
更に、この子供達は自分の顔を見ている…警察やヒーローは優秀だ、自分が今まで捕まらなかったのも人目につかない場所で目撃者を無くして来たから。
ならば、この子供達を殺す事は確定事項…後はヒーローがたどり着くまでに逃げ切ればいい。
この子供と一緒にヒーローが来ていない以上、恐らくは子供のイタズラか何かと思いそこまで急いで来ていないか…若しくは犯人を自分かもっと凶悪なヴィランだと当りをつけて応援を要請しているのか…どちらにせよ好都合。
肉を見れないのは悲しいが、この子供を始末してさっさと逃げるとしよう…
ムーンフィッシュはコンマ数秒で思考を纏めると個性を使用する。
先程のように数本ずつではなく、口内の歯を全て刃へと変えて少年達へ殺到させる。
ムーンフィッシュは先の爆発を見ての攻撃であったが、仮に先程と同じ攻撃であっても爆豪にはもうソレを弾くすべは無かった。
先程の爆発は極度の恐怖や興奮から来る大量の発汗によるものであった。更に、子供の体では爆発により生じる衝撃に耐えきれない。
事実、爆豪は先の爆発で右手の人差し指と中指を骨折していた。
このままでは、二人は無惨にもヴィランの手にかかり明日のワイドショーにて世間の不安を煽る一因となろう。
ヒーローは己の無力を嘆き、人々はそれに更に不安を抱く…そうなってしまうのだろう。
今回を除いては。
「もう大丈夫だ少年達!何故って!?
私が来た!!」
ヴィランよ、刮目しろ。
これこそが平和の象徴、決して折れぬ正義の柱。
オールマイトはムーンフィッシュの刃を全て砕きながら、少年達の前に降り立った。
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ヒロイン最大トーナメントッ!!
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ホークス…?知らない子ですね
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