ワンフォーオール…?知らない子ですね 作:悲しいなぁ@silvie
敵連合:ライジング
「ん〜、どっちのスーツが良いかな?ねぇ弔、君はどっちが良いと思う?」
黒いダブルスーツと紺のシングルスーツを両手に持って姿見を見ていた男、AFOは悩ましげな声を上げた。
「弔?んー、出掛けてるのか…」
「死柄木弔ならいつもの散歩ですよ。」
「おや、そうかい…黒霧はお留守番なんだね。」
AFOは振り返る事もなくそう返すと黒霧と呼ばれた男に再度問い掛ける。
「ところで…今度緑谷君をグランピングに誘おうと思うんだけど、黒霧はどっちのスーツが良いと思う?」
「はぁ…申し訳ありませんが私にはどちらが良いとも言えませんね。」
「ふむ、やっぱり弔の忌憚のない意見が欲しいな。」
AFOは若干肩を落としながら自分が拾った子供の帰りを待つのであった。
公安直属のヒーロー、レディ・ナガンは辟易していた。
日々を生きる人々に美しいものだけを見せるこの仕事にも、その為に汚れろと暗に言ってくる上司にも、この状況を打開しようとも思わない程に擦り減った自分にも。
レディ・ナガン、本名筒美火伊那は華々しいと言っていいヒーロー業界に身を置きはしているが自身がその華々しいという形容詞が似合う人間であると思った事などない。
ヒーロー業界とは人々の安全と安寧を護る為に有る。
私達は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない。他に自分達を守るものはいない、自分自身が立ち上がらなければならないのだ。
…と、それが建前だ。そうやって立ち上がったのがヴィジランテ達…まぁ、いわゆるヒーローの前身という奴だ。
しかし、この話には続きがある。
私達が健全で正常な世界で生きていけるように、私達が光の中で暮らす間、誰かは暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。
そう、この個性社会に限らずとも完全な安寧など訪れない。
オールマイトという平和の象徴が居ようとテロを画策する輩が居なくなる事は無く、エンデヴァーという解決率No.1のヒーローが居ようと社会に仇なす人間というのは居なくならない。
強烈な個が目立てば表はさぞ綺麗に見えるだろう。しかし、表が綺麗になればなる程に奴等は裏へ潜むのだ。
まるで陽の光を嫌う虫ケラが、岩の下に潜り込むように…うじゃうじゃとワラワラと。
そんな虫が何時しか結託し光の下へ出ようとする…その前に駆除する仕事。それがレディ・ナガンの仕事だ。
そして、今日もまたスコープを覗く。隣のビルの7階で話し合っているこの男達もまた人々の安寧を脅かす虫なのだ。
ムシ、虫、蟲…ただのムシケラだ。人語を喋るだけのソレを黙らせる為にレディ・ナガンはトリガーを引こうとして…硬直した。
いきなりターゲットの居た部屋のドアが
なんの脈絡も無く崩れ落ちた。経年劣化やらではこうはならない、ならば誰かの個性か…?しかしターゲット達の中にこんな個性を持った奴は…と、そこまで考えて再びレディ・ナガンの思考は停止する。
崩れ落ちたドアから小学生か中学生くらいの子供が入って来たのだ。
「ーーッ!不味い!一般人か!?」
人払いが不十分だったのか!?とレディ・ナガンが若干の焦りを見せながら急いでターゲットを撃とうと再びトリガーを引こうとして、再三硬直する。
「なんだ…コレは、人が…崩れて…」
スコープ越しの光景にレディ・ナガンは思わず呆気にとられる。
入って来た少年は部屋の中を一瞥すると散歩でもするかのような気軽さでターゲット達に近付くとその両手でただ…触った。
まるで肩でも叩くようにポンと触るとそこからドミノ倒しのように男の身体が崩れていく。
少年が部屋に入って僅か2秒程の間に部屋に居た三人の男達はパズルの世界チャンピオンにも復元出来ない程にグズグズの塵になった。
レディ・ナガンの背をやけに冷たい汗が流れた。
あの男達は死ぬべきムシケラだったが、それは同時に放っておけないという意味でもある。無力な人間の叫びなど放っておけば良いのだ。企みとは、画策とは、力が伴って初めて脅威となる。
つまり、あのムシケラ達には曲がりなりにも力があった…というのにあの少年は一切の抵抗の余地もなく始末してみせた。それが問題なのだ。
そして、なによりの問題は…
「見えてる、のか…?そこから何メートルあると思ってんだ…っ!」
少年は血みどろの部屋を見渡すとこちらに向かって手を振ってきたのだ。
勿論、向こうから見えるような位置取りなどしていないというのにだ。少年は数回手を振るとドアであった場所から出ていった。
…ここで、自身がとれる行動とは何であろうかとレディ・ナガンは思案する。
逃走、これが一番現実的だ。相手の個性は恐らくは触れたものを崩壊させる個性…出力や発動条件の有無はわからないが人一人を簡単に殺せる事は実演済だ。明らかに今回のターゲット達よりも危険度は高く一人で対処すべきではない。
もう一つは、対峙。一般的なヒーローなら多くが選ぶであろう選択だ。
今回のターゲットが排除されるべき悪であるという情報は殆ど漏れていない、故にあの少年は推定無罪の一般人を殺している事になる。
触れるだけで人を殺せる個性を持ち、見境なくその個性を振りかざす存在など…見過ごせる筈がないという思考を持っていればこちらの選択をする事もあるだろう。
しかし、レディ・ナガンは少年を追うでもなくされどその場を動く事も無かった。
決して呆けていた訳でも足が竦んだ訳でもない。そんな弱さは彼女に無い。…ならば、何故か?
……わからない
少なくとも、
「良い夜だ…そう思わないか?」
その声は後ろから聞こえた。
レディ・ナガンは何故か、振り返るまでもなくその声の主が先の少年であると確信していた。
声が若いからとか、この場に来る可能性がある人間が他に居ないだとかそういう論理的な考えからでは無くただ漠然とあの少年ならこんな声だろうなと思った。その理由も
「ビルの中で暴れたのはお前か…?」
この質問に意味は無かった。振り返り姿を確認した上で、何となく無言で睨み合うのを嫌って口から出ただけの確認とも言えない質問だった。
「そうだと言ったら…俺を捕まえるのか?レディ・ナガン」
……名前を知られているとは思わなかった。
自身がある程度の知名度を持つ事は自覚していたが何となく、目の前の少年はそういう世俗だとかには興味が無いように思えたから…
「さてな…案外、子供の夜歩きを叱るだけかもな。」
そう言いながらも銃口は少年を捉え続け、トリガーは今にも引き切られそうな程であった。スコープは…覗かない、覗けない。
彼我の距離は約7メートル…実力者ならば一息に詰めうる距離。
そも、自身の実力であれば外す距離ではない。
ならなぜスコープの事を考えて…?……わからない。
少年の実力を測りかねているから。……本当に?
人を人とも思わず殺したヴィランを見たくないから。…嘘だ、レディ・ナガンはそんなに弱い人間ではない。
日の当たらない泥濘で生きてきた自身はそのようなモノで怯む感性を持っていない。そんなモノはもう擦り切れている。
…………本当に?
…………………本当だと思う。
なら……なぜ、こんなにも……この少年を
今すぐに目を瞑りたい。スコープ越しでも拒絶したいほどに……だが、
目を離せば自身が死ぬからだ……そう言い聞かせる。
「良い月だな、こういう日は散歩するんだ…ルーチンワークってヤツだよ。
だから、アンタもちょっと見てみろよ……ああ、不意打ちなんてしないって。…それとも、人殺しの言う事は信用ならないか?」
自然と、あんなに動いて欲しくとも動かなかった目が上を向く。
まるで極上のエサを前に待てをされた犬がようやく主人の許しを貰えたように…目の前の少年の言葉に反射的に私の身体は反応した。
月…良いと言われたソレは雲で霞んで、ただでさえ細いその全貌をさらに小さく見せていた。そういう趣味は無いが三日月とかよりも一層細く見えるソレが見頃には到底思えなかった。
「良い月だろう…明るいモノを隠して、でもちょっとだけ視えるんだ。アレを見るとさ…こう、あとちょっとだ!……って思わないか?
あとちょっとで…全部隠せる。明るい全部を壊せるんだって!
ああ…本当に……人を殺すには良い月だ……」
そう、少し興奮気味に話す少年の顔は年相応な笑顔で……その目だけが歴史に名を刻むヴィランのような暗い意思を宿した光があった。
とんだ見当違いだった。少年は危険なヴィランではなく世界を覆しうる怪物だった。
…逃げなくては。そう思う。……本当に?
逃げなくては死んでしまう。………何がいけない?
死ねば……何がいけないんだろう…?
………わからない。
「……なんで泣いてんだ?有名なヒーローにも悩みがあるのかよ。」
「泣いて…?………そうか、私は泣いてんのか…」
「気付いて無かったのかよ…別に、俺はアンタに喧嘩売りに来たんじゃねぇ。なんならその逆だよ、獲物を横取りした詫びでも入れようかって来たんだぜ…?」
「………殺して…」
「…ああ゛?」
「もう、疲れた…殺してくれ…」
「………イヤだ。」
「ッ!!なんで!」
「ソレは、俺の自由じゃない。人にやらされるなんてまっぴらだ。殺すも生かすも俺の自由だ…人に言われてやるんじゃない、俺がしたいからやるんだよ。」
年相応の我儘、そう取るか稀代のヴィランの美学と取るか。
レディ・ナガンは後者と受け取った。
「そう……か…」
「……なんでだろうな、レディ・ナガン。」
少年はいつの間にか自身のすぐ側にまで近付いていて、私の頭を撫でていて……
「アンタみたいに名声も社会的地位もあって、オマケに実力だって有るヒーローが…なんでこんなにも苦しまなきゃダメなんだろうな…?」
優しく、丁寧に、零さぬように注ぐ言葉は私の壊れた器に入っていく。
「誰が悪いんだろうな…ヒーローが居ても構わず暴れるヴィランか?……いいや、その為のヒーローだ。暴れようが何しようが捕まえりゃいい。
じゃあ、その処理を命令する奴等か?…いいや、悪い奴等が隠れるなんて当たり前だろ。ソレを見つけるのがヒーローの仕事だ。それに、裏切り者なんて以ての他だろ?」
なぜ、私の仕事をそんなに知っている?
おかしい…隠蔽工作を徹底している上がこんな少年にここまで掴ませる訳がない。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい………
「なんでアンタ一人が潰されなきゃいけない?人を助けるのがヒーローなら…ヒーローは誰に助けて貰うんだ?」
後ろに居るのだ、私程度には及びもつかない黒幕が。でなければおかしい…
「弱い者の為に強いヤツが潰れるなんて間違ってる…無能と無知は免罪符じゃない。弱者が尊ばれ強者が消耗される社会なんて滑稽だろ?」
聞くな、ソレを……それ以上聞くな、聞くな、聞いては…
「そう、全部…
弱者救済を掲げて優れた人間が均されるように弱者に貢献し、弱者はソレを当然と思って胡座をかく!
誰がこんな社会にした?ヒーローだ!
救うだのなんだのと全部を救った気になって何人も見捨ててるアイツ等が悪いんだ!!
このヒーロー社会が!ヒーローが!!あの英雄気取りの偽善者が…お前を追い詰めるのさ、
跪き、彼の顔を見上げる私を…彼はそう言って抱き締めてくれた。
身長差があるから私の頭を胸に埋めるような抱き方で、優しく…でも力強く抱き締めてくれた。
「お前も来いよ…お前の無念も、残念も、疑念も、執念も、怨念も、想念も、思念も、全部呑み込んでやる。
俺の憎悪で呑み込んで…連れて行ってやるよ。」
まるで、母が子にするように抱き締めた私の頭を撫でながら彼が言う。
本当に意地悪だ、私がなんと言うかなんてわかりきっているだろうに。……だから、ほんの少し私も意地悪で返す。
「何処に連れてってくれるの?」
彼はその言葉に笑みを深めると耳元で教え聞かせるように話してくれる。
「無限の荒野に。」
「荒野…?」
「ああ…お前を縛るものも、お前を汚すものも、お前を貶めるものも…お前を苦しめる全てを壊す。全部壊して…平らにする。
そして、その後に俺達が立つんだ。」
「…素敵。」
それしか、言葉が出なかった。一流メロドラマの口説き文句なんかよりも…よっぽどの
「だから…お前も来い、火伊那。
……俺には、お前が必要なんだ。」
その瞬間、私は
薬物中毒者がソレを摂取した時のように…恋人同士が情事をするように呆気なく、みっともなく絶頂し頭の中が真っ白になった。
ただでさえ低かった姿勢は最早這いつくばるように低くなって…でも目だけは彼に向け続ける。
今、ようやくわかった。
私が産まれたのは、私がこの個性に目覚めたのは、私がヒーローとして過ごしてきたのは、全部この為だったんだ。
私は…筒美火伊那は彼に出逢う為に産まれて来たのだ。
彼のイヌに成る為に。私は犬だ、賤しき犬…彼の為だけの狗。
「名前を…貴方の名前を教えて…」
「名前…?ああ、言ってなかったか、俺は死柄木…死柄木弔だ。」
「トムラ…弔、弔クン…」
これは、私の大事な
「弔クン…私を、貴方の為に…
「イヤだね、俺の為に生きろ。」
私はコレを…誰にも言うことはない。
「ああ、仲間に嘘は駄目だよな…
死柄木弔
次代の悪の象徴にして敵連合のトップ
美しき悪の華は見るものを魅了し惹きつける
されどその華は鋭い棘でもって近付く全てを刺し貫いて、より美しく咲き誇る
カリスマS
小児性愛者のラスボス君
弔君の帰宅後どちらが似合うか聞くと
「キャンプにスーツで行く気か?頭おかしいだろ」
と至極真っ当なツッコミを入れられるも
「でもこのスーツは僕のシンボルみたいなものだからね…いくら弔のお願いといえど、聞けないね。」
とクソウザい顔で言った為5発殴られた。
黒霧君
ちゃんとお留守番出来てえらいね!
ナガンちゃん
この後すぐに敵連合に加入した。
頭を撫でて貰うと喜ぶ。
愛の戦士君ネタに需要って…
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そんなものうちには…無いよ
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こんなもん有れば有る程ええですからね
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お得男(ヘドリアン)
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そんな事よりAFOがヒロインになったぜ