ワンフォーオール…?知らない子ですね 作:悲しいなぁ@silvie
「ハァ、ハァ、ハァッ!」
夜の闇の中、男は死にものぐるいで駆け回っていた。その顔は恐怖に歪み何かに縋りたくて仕方なく…けれど何者も信用出来ぬ程に憔悴していた。
男の背後からコツコツと、品の良い足音と共に仕立ての良いスーツを身に纏った男が現れる。
「なにをそんなに恐れる事があるんだい?僕は別に君を始末しようと言ってるんじゃない…ただ、君のその個性を見せてくれと頼んでいるだけじゃないか。」
恐ろしく、艶めかしく、狂気的で紳士的で、破滅的なようで救済者のような声音で男は話し掛ける。疲弊しきった男の心にするりと入り込むような甘く蠱惑的な言葉…本当に個性を見せるだけで良いのかもしれないと納得しそうになる心を叱り飛ばし男は耳を塞ぎながら走り続ける。
男とて知っている、裏の世界で伽話のように語り継がれる伝説を。
曰く、超常黎明期より君臨し続ける帝王。
曰く、あらゆるヴィランを統べる支配者。
曰く、あまねく全ての個性を操る超越者。
挙げればきりのない程に畏怖される裏世界の救世主。男とて知っている…否、崇拝していると言っても良いだろう。
故に、逃げなければならない。男には決して自身の個性を見せてはならない理由があった。
自身が崇拝し、年頃の娘が恋焦がれるように夢想する悪の帝王だからこそ…自身の個性を見せられない。
それ以外ならば、なんだって喜んでしようとも。彼が死ねと言えば二の句を継がせず心臓を抉り出そう。彼が差し出せと言えば己の全てを、この身体にある血液の一滴まで笑顔で搾り出そう。
ただ…個性を見せるのだけは駄目だ。この世の何よりも
「残念だが、鬼ごっこは終わりにしようか。僕もこう見えて忙しい身でね…少し乱暴になるが、許しておくれ。」
と、悪びれもせずに言い放つとスーツの男の指先から黒い硬質な爪のようなものが伸びる。ソレはまるで意思を持つかのように男に追い縋るとその背中を突き刺した。
「あっ、ぐぅっ!!や、やめて…下さい…個性以外なら、なんでも…」
「おいおい、そんな言い方をされると余計に気になるじゃないか!君は随分とセールストークが上手いね。
まぁ、安心すると良い…君が珍しい個性を持っていると聞いたから足を運んだが、その個性によっては君に危害を加える事は無いよ。」
黒い爪は細いようでいてかなりの耐久性を持ち、男を持ち上げ主の前まで運ぶ。
スーツの男は無邪気な少年のような、底冷えする邪悪な笑みを浮かべる。
「個性強制発動」
そう呟くと黒い爪に支えられていた男の身体が痙攣する。
白目を剥き口の端から泡まで吹きながらも男は叫んだ。
「逃げ…て…逃げて下さい!!貴方に使いたくないっ!
今すぐ私から離れて下さいっ、オール・フォー・ワン!!」
男の叫びとオール・フォー・ワンと呼ばれた男が光に包まれたのは同時だった。
「うん…ん?寝ていた…のか?ここは……確か、そう…
そうだ、僕は珍しい個性を持つ逃がし屋の情報を聞いて…っ!?なんで寝てるっ!気絶したのか!?この僕が!」
言いながら身体を跳ね起こす。何らかのダメージが残っているのか立ち上がる筈が上体を起こしただけに留まってしまったが。
いったいどれだけ寝ていたんだ…?眩しい、日の光か…最後の記憶では確か夜だった筈だから少なくとも1〜2時間ではなさそうだな。
「いったいなんの個性だったんだ…?僕を気絶させたのならなぜ何もしていない?」
どこか気怠く身体が重いが特に痛むところは無い。なんならこの場所だって最後の記憶からそう変わらない。
どんな個性を使ったにせよ僕をそのままにしておくなんて事があるだろうか…?
報復を恐れたとか?…わからないな、ともかくもう一度彼を探して…
と、そう思い立ち上がろうとしたところで漸く僕は気付いた。遅まきながらと言うならそうだが…流石の僕も長い刻を共に生きた身体が
「…は?なんだコレは…まさか、他人と精神を入れ替える個性か!?なら僕の身体はっ!
…いや、この服は間違いなく僕のスーツだ…
………??なら、どういう事だ…?僕の身体は?この貧相な身体はどういう…?」
弁解させて貰えるなら、僕にだって不測の事態ぐらいある。だってそうだろ?いきなり自分の身体が女になるんだぜ?そりゃ誰だって混乱するさ。
「…まさか、コレが僕か?……嘘だろ…?
いや…逃がし屋の個性として姿を全くの別人に変える個性ってのは出来過ぎてる。となると…とんだやぶ蛇って訳か…
参ったね、流石にずっとこのままでは無いんだろうが…」
漸く正解に行き着いた僕はなんとか冷静さを取り戻し辺りを見渡す。そして、本当にやぶ蛇だったと後悔する事になった。
「…?誰か倒れているのか?
…っ!?この男は!例の逃がし屋!?なぜ倒れて…!
死んでる…のか?」
僕はここまで来てやっと昨日の夜の事を完全に思い出した。
彼を黒爪で刺した時に読み取った記憶…僕を変貌させたこの個性の説明。
その個性の名は『
つまり、つまりだ…僕は何故か彼にとても好かれていてその結果かなりの時間変化させられるのだろう。
彼の年齢は確か28だったから…日本人の平均寿命は男で70代後半だったか?………いや、逃がし屋としてこの個性を使ってた筈だからもう少し…でも仕事で使ってたんなら大体が初対面の相手に使ってる訳だから効果時間も短いか…?
……冗談だろ?まさかあと五十年弱このままって事か!?
「おいおい、勘弁してくれよ…」
と、僕は冷静に状況を分析しているつもりだったが…そもそももっと大きな事を考えていなかった。ソレには最初に違和感を覚えていた筈なのに。
「おんやぁ〜?どしたのお姉さん、もしかして飲み会の帰りとか?」
「そのスーツとかめちゃくちゃ高そーじゃん!」
「こんな時間に女の子一人とかアブネーよ?俺らが送ってってあげよっか?」
そう声を掛けて来たのは若い三人組の男だった。
…女に成ると不思議なもので人の視線に敏感になるのかな?その男達が僕の身体に下卑た目線を向けているのが手に取る様に解った。
大方、こんな時間に人気の無い所に居る僕を手籠めにしようとでも考えたのだろう…
「僕は今虫の居所が悪いんだ…ナンパなら他をあたってくれないか?」
「ナンパ?違う違う!お姉さんってば勘違いしてるって!俺らはただお姉さんが心配でさ〜」
「…くだらない、小学生でももう少しマシな弁解をするだろうね。まぁ、僕の言い方も悪かった…今は機嫌が悪いんだ、死にたくないなら失せろ。」
そう言うと男達は面を食らったように互いに顔を見合わせる。
…この時にもっと冷静に状況分析が出来ていたならこんな軽率な真似はしなかったんだがね。
「ちょっとお姉さん?んな言い方ってねぇんじゃね〜の?」
男達の一人が右手で僕の肩を掴みながら言う。
おいおい、それで威圧でもしてるつもりか?あまり無益な事をする趣味は無いが…憂さ晴らしぐらいしてもバチは当たらないか。
パシンと、その手を払いのけると僕は増強系の個性を幾つか使いその男の顔を殴った。
…筈だった。
「チッ、てぇな!このアマっ!!」
骨が砕け肉が飛び散る…そんな威力の筈の僕の拳は男の頬を軽く叩くだけに留まった。
「は?なんで…僕の個性が…っぎぃ!?」
眼の前の現実に理解が及ばず硬直する僕の顔を男は殴り飛ばした。
本来ならばショック吸収や衝撃反転により僕を殴ろうなんて馬鹿は逆に潰れる。…でも、僕は男に殴られて倒れ込んだ。
痛い…?なんで、僕の個性が…まさか個性を打ち消す個性持ちが…?いや、そんなレア個性をこんなそこらのチンピラが持ってる筈が…
「おいおい、顔は止めろって…腫れた顔じゃたたねぇだろ?」
「っせぇな!コイツ…俺の顔殴りやがった!こっちが優しくしてりゃチョーシこきやがってよぉ!!」
「あーあ、せっかく可愛かったのに…せめて見れるぐらいで止めとけよ〜」
僕を殴った男は倒れ込んだ僕の腹を蹴り上げてきた。
痛みなんて、どれだけ味わっていなかったろう…内蔵の位置が入れ替わったんじゃないかと言う程の痛みに僕は嘔吐した。
「うぐっ!?げ、げぇぇっ、はぁ…はぁ…」
「チッ、キッタネェ…靴に着いちまったじゃねぇかよ!」
そこから、男は僕を何度も、何度も蹴り続けた。
そして、僕も漸く気付いたんだ…この身体では個性が使えない事に。僕は心底絶望したよ。眼の前のこんなチンピラ共なんて本来なら数秒もかからずに挽き肉に出来るのに、そんな奴らにいいようにされてるだから。
そして、男が息を切らしながら肩を上下させ始めた頃になってやっと蹴りを止めた。
「ご、ごめんな…さい。もう…止めてくれ、痛いんだ…」
僕は涙すら流していた…怖かったんだ。もう百年は感じた事のない恐怖という奴を感じる程には参っていた。
「はぁ…はぁ…最初っからそうやってりゃ良いんだよ!
はぁ…おい、服脱げ。」
意味がわからなかった。…いやわかってたけどわかりたくなかった。
男はズボンのベルトを外しながら更に呼吸を荒くしだして…後ろの二人はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
嘘だろ…?まさか…こんな奴らに、この僕が…犯される?
「いやだ…嫌、嫌だぁぁぁ!!うあぁぁ!!」
「テメェ!また蹴られてぇのか!?暴れんじゃねぇ!」
恥も外聞もかなぐり捨てて僕は叫んだ。もちろん人なんか来ない…元はと言えば僕が人気の少ない場所だと選んだんだから。
でも、それでも誰かに来て欲しかった。今なら解る…僕が凡百の輩と見下していた連中がヒーローに頼り縋る気持ちが。
こんなにも不安なのか…こんなにも絶望するのか…
弱さとはかくも人を歪めるのか。
「助けて…誰か、誰か…助けて!!」
「もし…そこのお嬢さん。道を尋ねたいんだが。」
僕の叫びに応えたのは場違いな程に落ち着いた声だった。
声の主は白い髪に赤い眼をした若い…それこそ学生ぐらいの男だった。
「ここって何処だろう…いや、ナンパやら冷やかしじゃあない。
本当にわからないんだ、出来れば難波までの道を教えてくれるととても助かるんだが…」
「おい!テメェ状況視えてねぇのか!?とっとと失せろ!」
僕に何度も暴力をふるった男は彼の胸ぐらを掴みそう言った。
すると彼は呆気にとられたように目を見開くと数回瞬きして急に笑いだした。
「クスクスクス…最近の猿は躾が良いな。喋る猿なんて初めて見たよ。」
彼の言葉に男は青筋を立てて震えながら喋る。
「さっ、猿ぅ…?おいおいおいおい…それってまさか俺に言ってんのかよぉ!!」
「なんだ、喋るだけで日本語は下手なんだな…それ以外の受け取り方が有ると思うか?」
その言葉がきっかけだった。男は我慢の限界がきたのか彼を殴りながら叫んだ。
…彼に対して、決して言ってはならないソレを。
「テメェ!ブッ殺すぞ!!」
瞬間、空気が変わった。月並みな表現で悪いが…本当にそうとしか言えなかった。さっきまで興味がなさそうだった彼の様子が急激に変わった。
路傍の石でも見るようだった目が途端に輝き出して、口元は弧を描く。まるで思い焦がれた待ち人が来たような風情で…しかし、その目は昏く濁った輝きだったんだ。
「殺す…!殺す、殺す殺す殺す!!ブッ殺すだって!?嗚呼!!なんて甘美な響きだろう!
駄目だよ…駄目だ駄目だ、駄目駄目…速く帰らなきゃいけないのに、誘ってくるなよ!!」
彼は恍惚の表情を浮かべ、あまつさえ口の端からヨダレまで垂らしながら男を見ていた。
その様子に気圧された男が後ずさるのも構わず肩を両手で掴むと捲し立てるように続ける。
「で?どうやって殺すんだ!?
斬殺か?撲殺か?絞殺か?刺殺か?欧殺か?扼殺か?轢殺か?焼殺か?抉殺か?溺殺や射殺、銃殺ってのも捨てがたいな!
ちと準備が要るが薬殺や毒殺に爆殺ってのももちろんアリだぜ!!
ああ!胸が踊る!!安心してくれよぉ!?俺も協力するからさぁ!!」
「な、なんなんだよお前ぇ…」
男が気圧されたのも無理もないだろうね。僕の方に向きもしていないというのに近くに居ただけの僕だって全身の汗腺が開いて震えがくる程の狂気と迫力だった。
そして…追い込まれた人間のやる事といえば2種類だけ。対峙か逃走…後ろの仲間や僕の事もあったのだろう、男が選んだのは前者だった。
男は彼の頸を掴むと目が眩む程の光を発した。恐らくは帯電系の個性だったんだろう。
これには僕も焦ったよ、得体がしれないとは言え僕を助けようとしてくれた…してくれたんだよな?まぁ、そんな彼が眼の前で電撃を喰らったんだからね。
僕だって伊達に複数の個性を持ってる訳じゃない。鑑定系の個性無しでもあの電撃が即死級だって事ぐらい見ればわかるさ…だから、その後の光景には目を疑ったよ。
「……冗談だろ?まさか…まさかお前、コレ…か?
こんな…こんな女子供の護身用のスタンガンなんかで!?
こんなもんで…こんなもんで俺を殺す気だったのか!!」
数秒の電撃の後には、激昂する彼とその彼に詰め寄られ顔を青くする男の姿があった。
「なっ、なんで…当たったのに…」
「やっぱりそうなんだな…俺を…俺を誘っておいて、こんな玩具で…」
怒りに身を震わせるというのはよく見聞きする表現だけど、本当にそうなっている人間を見るのは初めてだったよ。
彼は歯を食い縛りながら拳を握り締め震えていた。男は歯と膝を鳴らしながら固まっていたよ…蛇に睨まれた蛙ってやつさ。余りにも隔絶した実力差があると生物ってのは生存を諦める。
彼は握り締めていた拳を開くと男の頭に乗せ…
意味がわからないって?そう言われても困る、だってそうとしか言えなかったんだ。彼が頭に乗せた手に力を入れた瞬間に男の頸が潰れて胴体にめり込み、次いで頭がひしゃげながら胴体を掘り進めて終いには膝やら胴体から骨が砕けて飛び出しながら血飛沫をあげて男は30cmぐらいの高さにまで圧し潰されたんだ。
「一人で勝手に逝きやがって…このソーロー野郎が…っ!!」
「タクちゃん!?」
「こっ、コイツタクちゃんを殺しやがったぁ!!」
仲間が眼の前で死んだからか…漸く事態の深刻さを理解した後ろの二人は、しかし一瞬の間に目の前まで来ていた彼に逃がして貰えない。
「お前らは…違うよなぁ?あんなオナニー野郎と違って、ちゃんと俺を逝かせてくれるよな…なぁ!!!」
二人はガチガチと歯を鳴らしながら顔中から涙やらの体液を流していた。
いっそ気絶しなかった事を褒めるべきなのかもね。
でも、彼はそれで止めてくれる程に優しくなかった。
「そっちの大きい君…お前だよ!!お前ぇぇ!!!
お前…俺を殺してみろ。」
下を向いていた二人の内の一人…恐らくは増強系らしき方が彼に指名され怯えきった表情で彼を見る。
殺してみろ、その言葉に怖気づきながらも先の二の舞いにならない為にはそうするしかない。男は泣きながら彼に殴りかかると中々のスピードで連打を打ち込んでいく。
恐らくは増強系の中でも拳撃の威力や速度だけで言えばなかなか悪くない方だろう。
…相手が彼でなければ。
「………がっかりだよ。殺すっていったのに…あんなに誘っておいて!!こんなド下手くそな愛撫じゃ逝ける訳ねぇだろぉがよ!!?」
彼はそう言うと男の両肩を掴んだ。
君達は子供の頃にトンボって捕まえなかったかな。トンボ…そうあの童謡にもなってる虫だよ。
なんの話だって?まぁ聞けよ。子供ってのは好奇心の塊で、手加減って奴を知らない。だからトンボを捕まえてどうなってるんだろうって翅を持つんだよ。
トンボの翅ってかなり重要な器官だからホントはそんな持ち方しちゃいけないのに無遠慮に両手で摘んでしっかり観ようと引っ張るんだ…君達も見たことないかい?子供がトンボを引き裂いてるの。
それの人間版が目の前で行われた。
彼は男の肩を左右に引っ張って男を引き裂いた。夥しい量の血と臓物が辺りを赤黒く染め上げた。
「君は違うよな…?俺を、殺してくれるよな…?」
残された最後の一人はぐちゃぐちゃに汚れた顔で、しかしどこか覚悟を決めたように彼に向かって手を振った。
そして、その手の軌道と寸分違わず彼の腕が
彼は呆然と噴水のように血を噴く自分の腕を眺めると、
「う~~うううあんまりだ…HEEEYYYYあァァァんまりだァァアァAHYYYAHYYYAHYWHOOOOOOOHHHHHH!!!」
彼が泣きじゃくる姿を見て好機と男は更に個性を使い彼に向けて腕を振るう。それが大きな
「死ねっ!!このバケモノがぁっ!死ねっ!死ねっ!!死っ!?あぎっ!!いだいぃ!?いだァァァ待っ、じぬぅ……っ!」
「酷い…あんまりだぁ……なんで、なんで腕なんだぁ!!頭なら!!最初にお前が頭を狙ってれば!!!俺はっ!!死ねたかもしれないのにィィッ!!」
彼は男を
「効かないんだよぉ!!このクソッタレの肉はなぁ!千切れようが潰れようが燃えようが消し飛ぼうが瞬きする間に治っちまう!それもご丁寧に受けた攻撃への耐性付きでなぁ!!だからぁ!?お前が俺の腕を最初に狙った時点で!!!お前は俺を殺せなくなってんだよぉ!!!ドゥゥゥユゥゥゥゥ!!アンダスタンンンン!!?」
先程彼の腕を消し飛ばした男の個性は最早彼の薄皮一枚傷付ける事すら出来ず虚しく撫でるだけに留まっていた。
彼はとうに絶命した男の亡骸をなおも締め潰しながら涙を流す。
「誰も、俺を殺せない…
殺せはしないというのかぁ!!」
その叫びは狂気的でありながら、何処か寂しそうな…まるで親とはぐれてしまった子供が泣き喚いているように僕には聞こえた。
「殺せるさ…」
僕の呟くような声に彼はゆっくりとこちらを振り向いた。
そして、次の瞬間には僕の目の前でこちらを見下ろし睨むように立っていた。正直言っていつ動いたのかさえわからないような速度だった。
「もう一度言ってみろ…なんだって?」
「君を殺せると言ったんだ…僕の個性ならね。」
早鐘のように打つ心臓の鼓動がうるさい程に耳につく。これでは彼にも聴こえているのではないか…だが、この個性も使えない体で一人で居るのは危険過ぎる。
今回のチンピラ程度ならまだしも…僕も自分に敵が多いのはよく知っている。もしもヒーローやヴィランに狙われれば一溜まりもないだろう。
だから…彼には僕のボディーガードになってもらう。
「……あんな有象無象共に輪姦されそうになってた奴が、俺を殺せるだと…?そんな与太話を俺が信じるとでも?」
「僕の個性は、相手の個性を奪い取る事が出来る…もちろん君のそれも例外じゃない。」
「……個性?まぁ、それが本当だとして…ならなんであんな奴らにいいようにされてたんだ?まさかお楽しみ中で邪魔したか?」
「なっ!?そんな訳ないだろう!!
…その、相手の性別を変える個性を喰らって…個性が使えなくなってしまったんだ。」
交渉材料なんて無いに等しい。だから、せめて嘘偽り無く全て真実を答えて信頼を得る…
「…要は、その変化が解けて自由に能力が使えるようになるまでお前のお守りをしろって訳か。」
「ああ、その通り…話が速くて助かるよ。」
「…性転換まで出来るとなると物理的法則は無視できるのか…?いや、そもそもさっきの奴の攻撃だって俺の腕を飛ばした訳だしな…能力が個性と言われている時点でありふれているモノの可能性が高い、さっきのチンピラでもいい線行ってた訳で…」
彼はブツブツと考えているようだった。普段なら読心なりで相手の考えを見透してから有利に交渉するんだが…ないものねだりをしても仕方ない。
どうにかして引き込まないと…
「良いだろう…乗った。」
「……へ?」
「乗ったって言ってんだ…不服か?」
「あっ!いや、そんな事は!!…でも、自分で言うのもなんだがよく信じてくれたね?」
「信じる訳ねぇだろ馬鹿がよ…
ただ、目の前で3人殺してる奴に護衛頼むって事はそれだけお前が逼迫した状況で相手もかなり強い訳だろ…?
なら、俺にとっても悪くない。いちいち喧嘩売りに行くよか売ってくんの待ってた方が楽だからな。
だから、お前の与太話は物の序でだ…本当ならラッキー程度のもんでしかない。」
それは、僕が交渉材料として言おうと思っていた内容と同じだった。彼の狂った言動で誤解していたが…意外と頭の回転が速い方のようだ。
「あぁ、保証するよ…僕を僕と知って狙うような奴は大体がトップクラスの実力者だってね。」
彼は口元を歪めると僕の前で膝をつき僕の手を取ると手の甲に口づけをして気障ったらしく言う。
「では…これより貴女を護る騎士として、誠心誠意お仕えさせていただきますよ…マイレディ。」
「…僕は男だけどね。」
「わかったわかった…」
「わかってないだろ!?信じろとは言えないが…そこまで軽く流すか普通?」
彼はとっとと立ち上がると膝を払いながらそれに…と続ける。
「姫を護る騎士が最後には褒賞として願いを聞き届けられるってのは、童話みたいで悪くない。俺の人生の幕にしちゃ上出来だ。」
彼はそう言って僕を抱き抱える。丁度さっき言ってたみたいにお姫様抱っこって奴だ。
…いや、女扱いするなとかよりさっきの殺し方を見てたから純粋に止めて欲しいんだが…それに血塗れの君に抱えられるとこっちまで血塗れになるし…
「これから宜しくな!俺をがっかりさせないでくれよ…お姫サマ?」
「ああ…宜しくね。えぇと…」
「ん?ああ…俺は藤見、藤の花の藤に見学の見で藤見。それに疼くって書いてひいら…藤見疼だ。」
「ヒーラ…うん、宜しくねヒーラ。」
これは、後に最悪最大の女帝と呼ばれるヴィランと同じく不死身の狂人と呼ばれるヴィランの出会いの物語。
物語を盛り上げる為に虚飾も辞さないのであれば…彼女と彼の有り得たかもしれない恋の始まり。
かくして賽は投げられたのであった。
コソコソ設定集
TS個性君
実は昔AFOが個性により迫害されていた所を助けてその個性を奪ってあげた人の息子。
父親からその事を聞かされて自身も人を助けられるように成りたいと思い生きるも学生時代に自身の個性のせいで恋人を男体化させてしまい訴えられる。
裁判自体は個性事故として片付けられるも恋人からの心無い言葉により闇堕ちし、犯罪者達をヒーローや警察から逃がす逃がし屋の仕事に就く。
そんな折に父から聞いていたAFOが闇の帝王だという事実を聞いてこの世の善悪は当事者しか決められないと理解しAFOを崇拝するようになる。
AFOちゃん
クソ強ラスボスがクソ雑魚ナメクジになるのって興奮する…しない?
見た目は完全に某悪平等さん。
実はAFOが消えた訳ではなく別の身体になったので全く別の個性が使えるようになってるだけだったりする。
三人組君
三人はどういう集まりなんだっけ?
AFOちゃんの読み通り酔い潰れた女性を襲ったりしてた悪い子達。
でも別にここまでされる謂れはない。
殉職した順から『帯電』『腕力強化』『空間掘削』の個性持ち。
藤見君
一般通過バケモノ
本作の主人公君の中の人にして人外。
こういう本編の重要な設定とかキャラとかが番外編とか外伝であっさり明かされたり登場したりするのって興奮する…しない?
死にたがりのバケモノにして死ねないバケモノ。
その正体は母親の子宮内に発生したがん細胞が肥大化したもの。
本質的に人間ではなく、人間のようなカタチをした人間のように思考し人間のように振る舞う何か。
名前の由来は不死身とHeLa細胞。
今回は憑依ではなく本人がそのまま転移している。
AFOちゃんとの話で大体自分の現状を把握して帰れないなら面白そうだし着いてくか。ぐらいの考えでAFOちゃんの護衛となった。
なんでこういう本編と関係ない話がクソ長くなるんですか?
愛の戦士君ネタに需要って…
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そんなものうちには…無いよ
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こんなもん有れば有る程ええですからね
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お得男(ヘドリアン)
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そんな事よりAFOがヒロインになったぜ