勇者なら成し遂げてくれるだろう   作:さなかのさかな

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戦闘描写の練習。

誤字報告ありがとうございます。というか読んでくれてありがとうございます。


戦闘

 勇者の話を聞き、自分が今、どれくらい動けるのかを確かめてみるために久々に結界の外に出てみた。そのまま湖から離れた場所にある俺の住んでいる家に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 入ってみるとあまり飾り気のない殺風景なリビングがある。俺自身、ここで本格的に暮らすことはないと思っていたので特に家具などは置いていない。

 

 

 

 あまり大きくない家の短い廊下を歩き、自分の部屋に入る。

 

 

 

 俺は机の上に置いてある袋に手をつけた。俺らが魔法袋と呼んでいるものだ。簡単に言うと、なんでも入るポケットみたいなものだ。

 

 

 

 こんなのチートじゃねぇか。そう思う人もいる。だが、これは恐らく世界に二つしか存在しない。

 

 

 

 もし仮に、迷宮で魔法袋が出たりしたら大変なことになるだろう。

 

 

 

 大量に魔法袋を手に入れて売りさばき、莫大な利益を得ようとするやつもいれば、少数のみで存在を知らせず独占し、毒などの暗殺武器を隠し持つやつもいるだろう。

 

 

 

 これは初見殺しだ。中身が何か相手側に分かっていないので奇策や裏切りなどで簡単に相手を殺せる。

 

 

 

 一瞬でこのくらいの考えが出たんだ。時間を掛ければもっと悪用する方法は思い付くだろう。

 

 思考が逸れた。

 

 

 

 とはいえ、この袋の中に入れている武器は今の俺にはあまり必要ない。そのため、武器を取り出すことはせず、腹を満たすために食料を取り出す。腹が減っては戦ができぬ、と言う言葉もあるしな。

 

 

 

 食事を済ませた後、俺の知っている魔術を30秒位を掛けて発動させ、魔法袋をしまう。そして腰に切れ味のいいナイフを掛ける。

 

 

 

 小さなものをひとつ入れる魔術だ。この魔術は覚えていても、財布代わりにしか使えない。魔法袋を持っている俺は別だが。

 

 

 

 こういうときは早く行かないと絶対にやらない。そう思った俺はすぐに靴を履いて家の外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しまった。どこで身体を動かすかを考えていなかった。どうしたものか。俺は石を拾い弄りながら考える。

 

 

 

 そんな風に頭を回しながら森の中の道なき道を歩く。長く歩いたせいか、こういうときに転移が使えたら便利だな。などと無駄なことを思考してしまう。そのせいで気づくべき気配に気付けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュ、と近くの地面に矢が刺さる。完全に油断していた。

 

 急いで辺りの気配を探り、敵がいそうな草むらに手に持っている石を投げる。

 

 

 

 グギャ!? 

 

 

 

 そこか。

 

 石を投げたままの姿勢で走りだし草むらに突っ込むと同時に腰に掛けたナイフで自分の手首を切り裂く

 

 

 

 

 

『血液操作《ブラッドコントロール》』

 

 

 

 

 

 俺の()()()()を発動させる。手首から勢いよく出た血を槍の形にし相手の頭を貫く。頭を貫かれた相手はしばらく汚い音を立てながら痙攣している。それを俺は油断せず動かなくなるまで見続ける。

 殺した。そう判断し手首の傷を再生させる。

 

 

 

 

 

「ゴブリン、か」

 

 

 

 

 

 死んだ魔物に目をやると、130cm程の緑色の肌をしたゴブリンが頭から血を流している。相変わらず酷い臭いだ。

 

 

 

 

 

「たかがゴブリン。去れどゴブリン」

 

 

 

 

 

 冒険者の間で伝わる言葉だ。

 

 昔はゴブリンと言う魔物はそれ程強くなかったらしい。しかし魔王が現れた影響で全ての魔物が強化され今では侮れない程の敵となっている。

 

 そのため、魔物の討伐はどんなに弱くても中級の冒険者を連れていくのが普通となっている。

 

 

 

 それにしても油断しすぎだ。ゴブリンが放った矢を見てから存在に気が付くなんて。暫く戦闘をしていないせいで勘が鈍ったな。

 

 辺りを見渡しゴブリンの足跡を探す。

 

 

 

 ゴブリンは基本的に集団で行動しているため、辿っておくとゴブリンの巣を発見できる。

 

 ゴブリンの巣、などと呼ばれているが普通にゴブリンがいるだけの洞窟だ。

 

 

 

 

 

 今日はゴブリンの巣を潰すことにしよう。俺に不意打ちをした罰だ。後悔するんだな。下らないことを考え、少し口角を上げながら足跡を辿っていく。

 

 

 

 

 

 気配を察知した後、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえる。俺は音を立てずに近くにある木に登り息を潜める。

 

 

 

 グギャギャ

 

 

 

 グキグギャグギャ

 

 

 

 二匹のゴブリンは何か話しているようだ。話し続けたまま俺のいる木の下を通り過ぎる。行ったな。

 

 二匹が去るのを確認した後、静かに木から降り足跡を辿る。

 

 

 

 そのまま歩き続けていると洞窟が見えた。入り口には先程見た二匹のゴブリンが立っている。門番の代わりか。手には棍棒を持っている。

 

 

 

 さて、どうしよう。このままごり押しで二匹を殺し、洞窟の入り口に火をつけるのもいいがそれだと勘が取り戻せない。スマートに殺していこう。

 

 

 

 

 

 まず、すぐそばの草むらに石を投げおとを立てる。今のうちに手首を切って血を出しておく。案の定一匹のゴブリンが様子を見に来た。ゴブリンが草むらに顔を出した後、顔を掴み草むらに引きずり込む。手放した棍棒を蹴り飛ばし、パニックを起こしているゴブリンの腹を踏みつける。そのまま、血を剣の形にし喉を突き刺す。

 

 一匹のゴブリンを心配してかちょうど二匹目がやって来た。二匹目は、こちらの様子を確認し

 

 

 

 グギャグギャ! 

 

 

 

 声を上げながら怒ったように棍棒を掲げながら特攻してくる。怒りに任せて棍棒を振ろうとしているため直線的だ。

 

 ブォン、棍棒が顔の横を通り過ぎていく。棍棒を避けた勢いのまま足を一歩踏み出し血の剣をアッパーをする要領で顎を突き刺す。頭のてっぺんまで貫いた後勢いよく引き抜いた。ゴブリンの血が辺りに散らばる。

 

 血の匂いが凄いな。俺は自分の血しか操れないためゴブリンの血に俺の血を紛れ込ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外の異変を察知してか、血の匂いが届いたか、どちらでもよいが10匹ほどゴブリンが出てきた。弓持ちが二匹、後は棍棒持ちか。

 

 少ないな。恐らく洞窟が小さいのだろう。そう結論付け逃げる振りをするとゴブリンが

 

 

 

 グギャギャグギャ♪ 

 

 

 

 と追いかけてきた。

 

 そこだ! 先程紛れ込ませた血を剣の形に変える。先頭を走って追いかけてきた三匹のゴブリンが剣山に下から貫かれた。

 

 

 

 後は正面先頭だ。ゴブリンたちが戸惑っているうちに血の剣を持ち一匹の首をはねる。剣を振るった勢いで身体を回転させもう一匹も仕留める。

 

 その時、腕に痛みを感じた。

 

 クソッ、矢か。痛みにより硬直した俺の腕をゴブリンが棍棒で叩く。

 

 ゴキッ。俺の腕が折れた音がした。さらに体勢を崩した俺に追い打ちを掛ける

 

 

 

 ゴブリンたちが俺に棍棒を振り下ろし続け、身体の様々なところが痛む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もういいか。彼女無しで戦うには俺は弱すぎる。

 

『血を操る《ブラッドコントロール》』で誤魔化してきたがもう無理だ。

 

 それに、彼女がいないのでもういいだろう。そう判断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンたちは戸惑っていた。

 

 洞窟で違和感を感じた外に出てみれば人間が手から血を流しながら立っていた。恐らく戦ったときに傷ついたのだろう。そのそばには同胞の死体がある。こちらは、十匹。人間は一人。殺そう。そう判断し走り出す。

 

 

 

 人間がこちらに気付き、逃げたように走っていったので追いかける。すると、地面から何かが出てきて前の同胞三匹が死んだ。

 

 混乱に陥った後、立て続けに二匹の同胞が流れるように殺された。

 

 

 

 ヒュン、という音の後人間の腕に矢が刺さった。腕の痛みで硬直した人間を同胞が棍棒で殴る。人間はそこから体勢を崩したので一斉に棍棒で殴りつける。10秒ほど人間を殴りつけたので死んだと判断をしそこから離れる。

 

 ここまでだ。ここまではよかった。

 

 

 

 グギャギャギャ! 

 

 

 

 後ろで同胞の声が聞こえ振り返ってみると死んだはずの男が同胞の足首を掴んでいる。

 

 そしてボロボロのはずの身体が再生していく。が、完全に再生せず、所々血が流れていた。

 

 足首を掴まれた同胞が鬱陶しそうに、人間に棍棒を振り下ろそうと掲げると頭が爆ぜた。

 

 人間がのっそりと起き上がる。

 

 

 

 その目は何も写していないように無機質で()()髪は血で赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

『血縛《ちしばり》』

 

 

 

 

 

 人間、いや化け物の声が低く響く。

 

 恐怖でその場を離れようとしても身体が縛られていて動かない。

 

 目の前で同胞がゆっくりと殺される。同胞を全員殺した化け物がこちらに近づいてくる。身体が震える。化け物はそんな様子を()()()()()ゆっくりと首に剣を押し当てる。

 

 ブチィリ、と筋肉繊維が切れていく音を聴きながらゴブリンの視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を戦闘から切り替える。ゴブリンを一匹一匹確実に仕留めていったのでもう大丈夫だ。

 

 それにしても、久々にきたな。ここ最近戦闘をしていないせいか制御できなかった。

 

 再生させる箇所に意識を集中させる。

 

 

 やはり俺は弱い。剣や槍は身体能力に任せて振るうだけだ。得意の死んだ振り作戦が功を奏したが、魔物次第では失敗していただろう。

 

 まあ、今考えても仕方のないことか。思考を切り替え、自分の身体を見てみると、泥や血が服に染み付いていた。

 

 はぁ、お気に入りの服が汚れてしまった。また新しい服を買いにいかないとな。めんどくせぇ。

 

 

 そういえば勇者が誰かを連れてくるようなこと言ってたな。家にある服でいいか。

 早く風呂に入りてぇ。そう思い、家まで走って帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はまた服をボロボロにしたのか。ボクはその戦い方を禁止したはずなのになぁ」

 

 

 

 彼女はため息を溢す。

 いや、まて。俺にも言い分がある。俺は考えていた

 言い訳を口にする

 

 

 

「お前の前では戦っていないだろう」

 

 

 

 どやぁとした顔で彼女にそう返した。

 彼女は自分の髪に触れ少し思考した後、目を細めて

 

 

 

 

 

「ふむふむ。君はそんなことを言うんだね。じゃあ洗濯はこれからは君がやることにしよう」

 

 

 

 

 

 勝ち誇ったかのように彼女は言う。

 それは卑怯だ。だが

 

 

「それは無理だ。俺はまだ洗濯の魔術を使えないからな」

 

 

「いや、良い練習だ。君がやるように」

 

 

 

 即答。墓穴を掘ったか。

 俺の落ち込んでいる姿を見て彼女はにやにやしている。

 

 いつも通り変わらない日々を過ごす。何も変わらない退屈で心地の良い日々を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。身体を起こしている少しぼんやりしている意識を覚醒させる。どうやら風呂に入った後、寝てしまったようだ。

 

 

 

 頬に冷たいものが流れている。ナニかと思って触れると涙だった。

 

 ひどく懐かしい夢を見ていた気がする。幸せで温かい夢を。

 ダメだ、思い出せない。

 

 

 

 思い出せないことを気にしても仕方ない。俺は今日あったことを振り返りながら寝ることにした。

 

 




迷宮

この世界ではダンジョンではなく迷宮と呼ばれている。基本的なことは同じだが、階層の区別が明確に定められていない。各ギルドごとに階層を定めているため、一層や二層がギルドによって異なる。

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