竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~  モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア   作:アママサ二次創作

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第25話 雄英体育祭終了 『神に背いた男』

 皆に連れられて呼人が向かうのは近くのファミレスである。ちなみにクラスのほとんどが電車通学であるのに対し呼人だけが自転車通学であるので、それを押して行くことになった。

 

「百竜、自転車で来てるってことは家近い感じ?」

「あー私もそれ気になるー!!」

「それなりに」

 

 耳郎と芦戸の質問に答えると、尾白と障子が問答無用で頭を小突いてきた。

 

「いてえ」

 

 その光景に見慣れない女子陣がぽかんとした表情をするが、ここ2週間で3人の間ではすでにありふれたものになっている光景である。

 

「百竜、前も言ったと思うけどお前の常識結構ずれてるからな」

「……30キロをそれなりに近いとは言わないぞ」

「30キロ!?」

「それ自転車だと絶対遠いよね?」

「だからそんな良い自転車持ってるんだ……」

 

 葉隠が言う良い自転車というのはあくまでロードバイクのことであり、呼人の乗っている自転車が別段高級品であるというわけではない。

 

「朝の運動に最適だからな。流石に徒歩で走ってると時間がかかりすぎるし」

「自転車でも結構かかってると思うんだけどね」

 

 尾白と障子は苦笑いだ。トレーニングの合間に別のトレーニングをしたり、あるいはいくつかを複合させたり、とにかく百竜という男は文字通りの休息というものを知らない。

 

「あの、百竜さんはそれで毎朝?」

「まあ、うん。自転車だとどこでも行けるし電車の乗り方良くわからんし」

「なるほど……え?」

 

 それも恐らく百竜の言う体を鍛える事の一貫なのかと、後半に聞こえてきた不思議な言葉に、八百万だけでなく皆が首を傾げた。それは所謂お嬢様である八百万ですら知っている、言ってみれば現代社会の常識というもので。

 

「言っただろ? 外国いたから色々疎いんだって」

「疎いってレベルじゃないよね!? 外国にも電車ぐらいあるでしょ!」

「カナダの山奥にそんな文明的なものはない」

 

 そう、本当にない。呼人が生活していた場所は文字通り辺境の地であり、周囲10キロ四方には民家すらない。だからこそ呼人の個性も結構存分に発揮して把握することが出来たのだが。

 ちなみに船とタクシーは乗ったことがある。船は、呼人にとっては火竜か風漂竜か、とにかく飛行能力の高いモンスターに変身して背中に神王寺を乗せれば良いようなものだったのだが、一度目の大移動で懲りた神王寺に止められたのだ。何より二度目の移動先が海外だったために密入国がまずかったというのもある。

 

「カナダの山奥に住んでたんだ……何でそんなとこに?」

「生まれが向こうか生まれてからすぐ行ったのかはわからないけど、保護者代わりの人に拾ってもらったのがそのあたりで、その人は世界中を回ってたらしいんだけどそこに腰を降ろしてくれたんだ」

 

 そんな事を話しているうちに、最寄りではなく2番めに近いファミレスに到着する。例年ではあるが、この日は最寄りのファミレスは広いもののそれですらが席が埋まってしまうのだ。

 

「よし、注文しよう!」

 

 席につくと芦戸がそう宣言し、それぞれがメニューを眺め始める。何をすれば良いのかわかっていないのは呼人と八百万だけだ。

 

「ヤオモモも初めてだったよね。ここはね、この―――」

 

 耳郎が八百万に説明している一方で、呼人も尾白に説明してもらう。

 

「―――後はこのドリンクバーを注文しておけば、好きなだけドリンクが飲めるよ」

「なるほど?」

 

 呼人はこのとき水にこんな金がかかるのかと思ったが、コーヒーのような飲み物もあるんだと一応納得した。この後呼人は、生まれて始めてジュースというものをのんでその美味しさに驚くのだが、それはまた別の話。普段食べることのある栄養ゼリーよりも更に美味しいと呟く呼人に、他のメンバーが驚きの目を向けていたのだが、それもまた別の話だ。

 

 

******

 

 

 食事、と言っても夕食にはまだ早く、机の上には軽めのパスタやポテト、ピザ、からあげといった、話しながらつまみやすいメニューが並んでいる。

 

 やがて、話は体育祭からそれぞれの成果、そして一番の皆の疑問でもある呼人のことや彼の個性の話へと変わっていく。

 

「百竜さっきカナダで拾ってもらった、って言ってたけど、お父さんとお母さんは?」

 

 そして当然話が呼人のことへと変わっていった以上、こんな悪意のない、純粋な疑問も飛び出してしまう。予想出来たその質問だけに顔色を変えることはないが、呼人は少し言葉に詰まった。

 

 保護者代わりの男の事を親だと言うのは嘘をついたことになってしまうし、かと言って黙れば結局訳ありだとわかってしまう。ならば、正直に話した方が後腐れはない。

 のだが。かと言って、話が重くなるのはわかりきっている。結局、呼人は皆に説明することにした。

 

「あー少し重たい話になると思うけど、良いのか?」

 

 それを言っただけで、疑問の表情を浮かべる者は少なく、申し訳無さそうな表情、あるいは驚きの表情を浮かべたものの方が多い。僅かな間と、戸惑うような呼人の空気が、その場の全員にそれを悟らせていた。

 

「俺は、百竜が良いなら聞きたい。というか、もう何かがあるんだって、わかっちゃったし」

「……俺もだ」

「ごめん。話しにくいこと聞いちゃったみたいだね……」

「私は、お聞きできるならお聞きしたいですわ。百竜さんが悩んでいらっしゃるようなら、お力にもなりたいです」

「……うちも、ヤオモモと一緒かな。困ってるなら、なにかしたい」

「私も! 百竜くん助けてくれたし! 今度は私の番だよ!」

 

 余計なおせっかいがヒーローの本質、とはオールマイトが轟と戦った後の緑谷を見て言った言葉だが、ここにいるのもまた、ヒーロー達であった。

 

 それを見た呼人は、軽く息を吸うと話し始める。

 

「親の話、って言ってもそんなに関係がこじれてるとかじゃないんだが……。まあなんというか、俺の両親は個性が発現したばかりの俺の個性で亡くなったんだ。それを偶然通りかかった今の同居人が拾ってくれたって感じだな」

「……え?」

 

 呼人の告白に、皆が呆けた声を出す。割と呼人クオリティーに慣れて来た障子と尾白も、こればかりはぽかんとした表情にならざるを得ない。

 

 得てして、子供の頃の個性というのは『弱い』。それは個性の性質、特徴として弱いのではなく、個性の熟練度、あるいは性能が育っていない、という意味での弱い、だ。

 そのため幼年期の個性の事故というのは結構あることだとしても、それによる死者というのはかなり少ない。はずなのだが。

 

 直後。その様子を想像した芦戸が口元を抑える。耳郎達と違って“知っている”彼女は、想像してしまったのだ。あれが、どう、事故を起こしたのか。呼人の両親を殺したのかを。

 

 実際はやったのはオドガロンではなく砕竜の状態でありとんだとばっちりではあるのだが、呼人は彼女にその事を伝えてはいない。

 

「あ、芦戸?」

 

 その様子に気付いた耳郎が彼女に呼びかけるが、芦戸は目を見開いたまま固まっている。

 

「まあ、そういうわけで俺は個性を制御するように頑張っているわけだ。一応言っておくが、今暴走する事は無いからな。そのときはそもそも、俺の自我が確立されてなかったんだ。だから、赤ちゃんが遊ぶつもりでじゃれたんじゃないかな」

 

 実際の所、その事件の詳細について呼人はモンスター達からも聞いていない。少なくとも影響力の強い古龍種や竜達は一様に知っているだろうにも関わらず、ただそういう事故があったとだけしか伝えてこない。

 

「じゃれる、って……」

「あれにじゃれつかれたらどうなるか、わかるだろ?」

 

 人間形態ならばともかく、完全に変化したオドガロンの体躯は人間のそれの比ではなく、なんなら象なんかよりも遥かに大きく遥かに頑丈で。よほどの強者が来なければ止めようが無い。

 

「百竜の個性って、結局なんなの?」

「この流れで聞いたら絶対後悔すると思うんだが」

 

 な? と言われて、障子と尾白もうなずかざるを得ない。その光景は、想像してしまえば並のヴィランなど可愛いもので。ただ捕食のために暴れるオドガロンなど、恐怖の対象にしかなりえない。

 

「一応次の演習の時には実際使ってるのは見せようと思ってたんだけど……」

 

 この様子じゃあそれもまずいかなと。呼人は呟く。が、耳郎達は止まらなかった。

 

「後悔しても、今見たい」

「私も、だよ」

「……そうです。例え百竜さんの個性がどんなものであっても、私は後悔しませんわ」

 

 そう言い切られてしまえば、ここで止める事は出来ない。が、それでも尾白と障子も懸念する。

 

「あんまり、食事の場で見ないほうが良いんじゃないかな」

「……俺も、そう思う。はっきり言って、怖いだろう」

 

 オドガロンは、何度でも言うが、他のモンスターたちと比べても見た目が少々異質である。他のモンスター達は、一部甲虫、甲殻系モンスターを除けば、恐ろしさの中にある種崇高なかっこよさとも言えるものがあり、生理的嫌悪感は生じない。

 

 だが、オドガロンはどちらかと言えばおどろおどろしいかっこよさであり、生理的嫌悪に繋がる見た目をしている。

 

 それでも、と。揺れながらも覚悟した表情を見せる芦戸以外の女子たち(多分葉隠も見せているのだろう)に、障子が以前撮影した動画を見せた。

 爆豪に見せたものと同じ。

 獲物を見定めるように睥睨しながら歩くオドガロンが、両足を踏ん張って大きく口を開けると、咆哮を上げる。

 その口元にはライオンのそれすら可愛らしく見えるような牙が覗いており、足の爪は禍々しい形状をしている。

 

 芦戸は自分の想像に恐ろしくなったのか、うつむいてしまっていつものその陽気さはない。

  

「……ヒッ」

 

 怯えた声を出したのは、誰だろうか。映像が流れ終わったスマホを、呼人は回収する。

 

「今のが、今日の体育祭で使ってたのだ」

 

 少しの沈黙。尾白と障子は、絶句したとはいえ事前にオドガロンを見ていたこともありもう気を取り直している。何より、個性社会においては子供がいたずらで個性を使ったりまだ自我の確立してない子供が間違って使ってしまうのは、割とよくあることである。

 呼人の場合は、個性が強力すぎただけ。彼に否はない。

 

「……見せてくれてありがと。ああ、どおりで百竜、あんまり見せたがらなかったわけだ」

「怖いだろ?」

「怖くない……いや、怖いっちゃ怖いけど、でもそれを言ったら、どんな個性でも人を殺す可能性はあるんだと思う、から」

 

 耳郎が言っているのは、道理の話。当然、この世のありとあらゆるものは人間を殺し得るわけで。個性なんか使っていない人間でも簡単に起こり得る。だから、呼人のそれもまたただの個性であって、特段恐れるものではない。

 

「他の3人は?」

「私も、大丈夫ですわ」

「私も! だって助けてくれたし! 怖くても大丈夫!」

「わ、私も大丈夫だよ! ごめんね! なんか話しづらいこと聞いちゃって!」

 

 3人の大丈夫という言葉に、呼人は少し嬉しかった。

 

 確かに道理の話をすれば呼人の個性だけをことさら恐れるのはおかしな話で。けれど人間というのはそんな簡単なものではなく。同じ状況でも、見た目的に、あるいは感情的に恐ろしいと感じてしまうものだってあるのだ。

 

 例えば死体。一方は、電気のケーブルで首を絞められて殺されていて。

 もう一方は腹を食い破られ、巨大な獣に食われたかのように体がバラバラになっている。

 

 どちらがより恐怖を感じるかは、言うまでもない。

 4人はその上で、大丈夫だと言ってくれた。

 

「ありがとう。正直怖いのも仕方ないと思うし、だから俺もそのうちそのうちって引き伸ばしてたんだ。馴染んでからの方が、怖がられないで良いかな、ってな」

 

 呼人が軽くそう言うが、場の空気はまだ重い。それは恐怖に踏ん切りをつけたために、元の話に戻って呼人に申し訳ない事を言わせたという申し訳無さを感じていたからだ。だから呼人は、関係ない話をする。

 

「ちなみに、俺がなれるモンスターは一種類じゃなくて複数いる。こいつも、こいつも、体育祭の赤いモンスターとは別のものだ。ただ、こっちの黄色いのはこないだの鱗以上の使い方を学校でするつもりはないし、他のモンスターも危ないから基本的に使わないつもりでいる」

「えっ、個性が一種類じゃないの!?」

「ほんとですの!?」

 

 バンッ、と机を叩く勢いで女子陣が呼人に詰め寄るが、呼人は落ち着け落ち着けとなだめる。

 

「俺の個性は『モンスターになる』っていう個性だ。多分。でその対象になるモンスターには、ちゃんと規則があるみたいだ」

「どういう規則?」

「それは言えない。まだ正確なことが判明してないからな。一応、ヒーローになるためには仕方ないし教師や友人なら少しは良いけど個性はあんまりひけらかすなって言われてるんだ」

「はー、じゃあ何でそのモンスターにしたの? それが強いから?」

「強いと言うより、使いやすいからだな。赤いのも黒いのも、基本的に身体能力に優れたモンスターだ。普通に身体能力に還元されるこいつらは使い勝手が良い。黒い方は、赤い方よりも木とか建物の間を飛び回るのが得意だから、この二種類を使って学校に通おうと決めた」

 

 話の中でモンスターがまだいることは明らかにしたが、その正体は明かさないことにした。理由はいくつかあるのだが、説明に時間がかかりすぎるし、恐らく怖がられ、また下手に知れると利用価値があるために周りがうるさくなるとアドバイスを受けているなど、呼人が我慢出来ることから厄介なことまで様々にあるのだ。

 

「ねね、じゃああの赤いの、どんなのか説明してよ!」

「説明?」

「そうそう! 黒いのはまだ全部見てないけど、赤いのは全部見たから聞いたら説明してくれるんでしょ!」

 

 そう言えばそんな約束はしてある。葉隠はきっと、個性の話は聞いたしもっと隠してるものがあったのもわかったけど、だから 最初の約束通りで良いよと言ってくれているのだろう。

 それに他のメンバーも頷いている。芦戸は……わかっているのか定かではないが。

 

「あのモンスターはオドガロンって言う名前だ。体表は鱗と硬筋っていう頑丈な皮膚で覆われてる。基本的な攻撃手段は爪と牙だな。後身体能力がかなり高い。走るのと、崖とかを登るのも結構得意だ」

「いつもはあの姿してないけど、なんか理由があるの?」

 

 ちなみに、女子4人は、オドガロンの大きさを勘違いしている。呼人の話の細かい部分を忘れてしまった芦戸を含めて。だからそれが人間程度の大きさだと思っており、ならば普段から変身すればいいでは無いかと。

 

「便利さとパターンの使い分けの練習ぐらいかな」

「両方説明お願いします!」

 

 楽しげにそう乗り出してくる(多分身を乗り出している)葉隠に皆が頷いているのを確認して、呼人は人間状態とパターンの話をする。

 

「人間の身体構造って、戦いの細かさっていう意味ではオドガロンよりだいぶ高いんだ。足と手を完全にわけることで手が自由に行動出来るし、足も足で使える。オドガロンじゃあ、一本足で立ち上がって戦うなんて出来ないからな。あとは手がものを掴めるっていうのが大きい」

 

 モンスター達の姿は確かに威風堂々としたものでその力も強大なのだが、その力の全てを余すこと無く使い切れているかというとそうではない。だからそれを、人間の姿で活用する。当然大きさが下がる以上パワーなどは大きく下がっているのだが、それを一点に集約できるのが人間の拳であり、足だ。

 

「パターンの使い分けっていうのは文字通りなんだけど、どんな形態だと相手が対応しにくいか、あるいはどの形態からどの形態に変えるとどう行動や攻撃のパターンが変化して、相手が混乱するか、っていう……」

 

 うまく説明できないな、と呟いやいた呼人は、鞄からノートを取り出して簡単な絵を描き始める。簡単な絵と言っても、長年モンスター達の姿を絵にしてきたのだからその画力は半端なものではない。

 

「例えば、完全な人間の状態だと攻撃パターンはパンチとキック、後は関節技とかか。そして例えばここで腕をオドガロンの爪の生えた状態に変えたり、足をオドガロンの形を模したものにすると、人間の蹴りとかパンチとはまた違った攻撃が出来て、相手にどう対応すれば良いのか悩ませることが出来る、ってことだ。ただそれを完全に自由に作り変えてると俺の頭も混乱するから、なるべく多くのパターンを頭に叩き込んでおいて好きなときに使えるようにしてるんだ」

 

 レベルで言えばただ爪を生やすとかではなく、腕を少し大きくして重心をそっちに寄せる、更に大きくして重心を更にそっちに回す、あるいは足を発達させて――そういうレベルの細かさで使えるように、呼人は鍛えている。

 モンスターの姿になればモンスターの思考回路で制御できるし、人間の姿やそれに近いものであれば容易く行動できる。

 だが両方の形から外れた途端、脳がバランスを取れなくなる。それを呼人は、モンスターたちとの対話で鍛えられた処理能力を使って使いこなしているのだ。

 

「絶対戦いたくない相手だね」

 

 そう苦笑しながら言うのは尾白だ。

 

「そうなの?」

「強いけど轟君の方がすごくない?」

 

 女子2人の質問に、尾白は自分の感想を述べる。

 

「人間は自然に自分のバランスを取れているんだけど、体が一部欠けてしまったり逆に増えるだけでバランスを取れなくなるんだ。例えば俺は尻尾があるから尻尾含めてのバランスを取ってて、尻尾が無くなると歩くのにも苦労するだろうし、逆にみんなに尻尾が生えてきたとするとそれに引っ張られる。でも百竜は、それを全部自分の脳で処理してしまってる。例えばそれを体を動かすことに回さなくても、それで戦況を把握して作戦を練られたらたまらない」

「流石にそれは買いかぶりすぎだ」

 

 その尾白の褒める言葉に、呼人は苦笑するしか無い。

 

「全部体にしみつくまでやってるだけだ。頭はそんなに回らないぞ」

「……そうは思えないがな」

「多少回るとしても流石に尾白が言っているほどじゃないぞ」

 

 そう答える呼人に、今度は芦戸が、耳郎が、葉隠が、八百万が、疑問に思ったことをどんどん投げかけていき、そこから更に話が皆の昔の個性にまつわる思い出話等に変わっていく。

 

(これが多分、楽しい、ってことなんだろうな)

 

 胸の奥に灯るあたたかい感情に、呼人は初めて『楽しい』を実感した。

 

 

 

「……ジュースを飲み過ぎではないか?」

「ジュースまじうまい。やめられないかも知れん」 

 

 

******

 

 

 緊急の連絡を受けて体育祭を飛び出した飯田は、母に連れられて行った先で待っていた事実に、動けずにいた。

 

 

 兄がヴィランにやられたという連絡を受けたのは、体育祭の終盤だった。慌ててクラスメイトと教師に早退する旨を伝えて学校を飛び出し、向かった病院で待っていたのは、たくさんの医療器具に繋がれて横たわる兄の姿だった。

 

 ―――あと手術が2分遅れていたら手遅れになるところでした。

 

 そう告げた医者の言葉も、ただ音が耳を通り抜けていくだけで意味を理解できない。だが、兄の姿が。いつも凛々しく強い兄が横たわる姿が、兄に何が起きたのかを告げていた。

 

「ごめんな……天哉。……おまえが……憧れて……くれてん……のに……俺……負けちまった……」

 

 その言葉に、後ろに立っていた母が衝撃に耐え切れず気を失うのを感じる。

 

 と。自分がそれに反応出来ないにも関わらず、母の体を受け止める人物がいた。

 

「親御さんが来てんのか。後は俺がやっておくからあんた帰って良いぞ」

「いえ、私も結果確認を―――」

「言い方間違えたな。個性使ってるとこ見られたくねえから帰れ」

「……わかりました。しかし、このことは上に報告させて―――」

「監視カメラなんか使ってんじゃねえぞ。もともと個性の利用に関しては最終決定権は俺にあるって約束だろうが」

 

 丁寧に返す男の言葉を、粗野な口調の男が幾度も遮る。やがて、一人の足音が去っていくのが聞こえた。

 

「おい、あんた大丈夫か?」

 

 そこに至ってようやく、天哉は何が起こっているのかと後ろ振り返った。そこでは、分厚いコートを纏った男が崩れ落ちた母を支えていた。

 

「あの、あなたは? ここは―――」

「一応ヒーローやってるものだ。重傷のヒーロー一人治しに来た。お前、インゲニウムの親族か?」

「俺はインゲニウムの弟です。いえ、それより治すとは……?」

 

 突然やってきた男の言葉に戸惑いながらも、天哉は必死に動揺を押しのけて男に答える。

 

「この女性、インゲニウムとお前の母親だろ? ほんとは親御さんも目覚ましてるときに説明したいんだがな……」

 

 そう言うと男は、室内の椅子に天哉の母親と丁寧に座らせ、医療器具に繋がれたままの天晴の元へと向かう。何をする気かと天哉はそれを止めようとするが、男に手で抑えられる。

 

「こいつに目を通してくれ」

 

 そう言って男は天哉に複数の用紙を渡すと、怪我で声を出せないまま目だけでそちらを追っていた天晴に話しかける。

 

「答えないで良いから黙って聞け。俺はあんたを治すよう言われてきた。俺の個性を使ってな。ただし、治す以上代償や副作用は存在するし、こちらから条件の提示もある。だから今から言う条件を聞いた上で答えてくれて構わない」

 

 そう言うと、男は己の個性の結果生じる事を説明し始める。

 

「俺の個性を使えば、あんたの傷は完全に治る。その代わり、寿命が恐らく2年ほど縮まる。老衰寿命だがな。その前に事故なんかで死ねば関係ないが、肉体の衰弱が本来のそれから早くなるってことだ。そしてこの先のあんたの個性の成長が著しく低下する。すでに獲得している分は変化しないが、例えばエンジンの出力をあげようと訓練をしてもそれ以上ほとんど上がらなくなる。あんたの個性の限界値がどこにあるかはわからないが、それが今のラインよりほんの少し上に引き下げられると考えれば良い。そして体の方だが、恐らく俺の個性で治せばあんたの体はほんの少しだが斬撃に対する耐性と出血に対する耐性を獲得する」

 

 それは、天哉が読んでいる用紙にも書かれていた。そしてそこには、今男が言わなかった事も書かれていた。

 

「待ってください! 兄が、もうヒーローを続けられない怪我だというのは本当ですか!?」

 

 そう、渡されていた用紙には、一枚目に男の個性による治療に関する契約書。そして2枚目に書かれていたのは、天晴の正確な怪我の内容。

 

「そういう診断結果だ。だから俺が呼び出された。俺の個性を使えば怪我自体は完全に治り健全な体に治る。ただし、今言った通りの代償が必要となる。わかったら兄と相談してどうするか決めろ。時間は10分しかやれんぞ。怪我してからの時間が開くほど代償がでかくなる可能性が上がる」

 

 男はそう言うと、天晴の立っているベッドから少し離れた。退出するほどの時間は与えない・だからここで決めろ、と。

 

 母親は気絶しているが、インゲニウム自身が決定を下すのであれば、すでに成人して独り立ちしている以上問題ない。

 

 男が下がった後、天哉は動揺しながらも兄天晴に声をかける。兄は話すのも絶え絶えな様子で、その言葉を聞いていた。

 

「兄さん、僕は……何が……」

 

 だが、いざ天晴に向き合うと、なんと声をかければよいのかわからない。

 

「兄ちゃんの、怪我は……治らないのか?」

 

 途切れ途切れに尋ねた天晴に、天哉は言葉に詰まる。確かに、男から渡された用紙には診断結果が端的に文章で書かれていた。だがそれを天晴に告げるのは、あまりに酷過ぎた。

 

 その弟の表情から悟った天晴は、力ない表情で笑う。

 

「あの人を……呼んで……くれ……」

「兄さん!? でも……!」

 

 寿命が縮まる、と。そして個性の成長が無くなる、と。それが何よりも、天哉に男の個性による治療を躊躇わせていた。

 もちろん、憧れる兄がもうヒーローを出来ないなど、とても信じられない。だがそのために、兄が自らの寿命を削っても良いのかは―――わからなかった。

 

 だが、兄の続く一言が天哉の心に刺さる。

 

「俺は……まだ、ヒーローで……いたい、んだ」

 

 

 

 天哉にとって、兄はヒーローそのもので、兄こそがヒーローだった。

 緑谷達がオールマイトに憧れを抱く中、天哉は兄に憧れていた。

 

 その兄が、まだヒーローでいたいと言っている。それを止める事は、天哉には出来なかった。

 

 そしてそれを見計らったのか時間が経過したのか、男がちょうど天晴のすぐそばまで歩いてきた。

 

「どうする?」

「あなた、を……頼れ、ば……まだ、ヒーロー……を……」

「そのために来たって言ってるだろ」

「……お願い、します……」

 

「兄を、お願いします!」

 

 涙を拭って天哉は、男に向かって叫ぶ。兄はヒーローだ。自分も、彼にはヒーローでいて欲しい。誰よりも憧れた存在だ。彼が望むのならば―――。

 

「オーケーだ。なら手伝ってくれ」

 

 そう言って男は、兄の酸素吸入装置を外す。

 

「お前はインゲニウムの口を開けておいてくれ」

「何を……いえ、わかりました」

 

 天哉が天晴の顎に手を添え、力の入らない兄に代わってその口を開かせる。

 すると男は、コートのポケットから小さなナイフを取り出し、それを自分の手のひらに当てると、鋭く切り裂いた。

 

 ジャッ、という音とともに手のひらに大きな傷跡が刻まれ、そこから血が溢れ出し、1秒後には血は止まっていた。その手のひらにたまった血を男が天晴の口の中に垂らすと、天晴の体がどくんと跳ねる。

 

「兄さん!?」

 

 天哉が悲鳴のような声を上げるが、男は構わず天晴の口元に酸素吸入装置を被せ直す。

 

「5分もすれば全快する。後はその契約書に名前書いて判子押して担当の医師に提出しておいてくれ。書いてある通り俺の個性の事は守秘義務がある。母親にも『個性で治療してもらった』とだけ言っておけ」

 

 そう言って男は、天晴の回復を待たずに退出しようとする。

 

「待って――」

「ああそれと」

 

 そして、声をかけようとした天哉の言葉を遮る。

 

「体育祭、なかなかいい活躍だったぞ。飯田天哉。けどまだまだだな。仲間と切磋琢磨しろよ」

「え?」

 

 呆けた声を上げる天哉に振り向かないまま手を挙げると、男は部屋から退出していった。

 

 わけもわからぬまま嵐のように去っていた男に天哉は理解が追いつかず、復活した兄が声をかけてくるまでその場で固まっているのだった。

小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか

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