竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~  モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア   作:アママサ二次創作

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第4話 体力テスト・2

「……個性の制御に難があると聞いている。お前は力を制御できるようになれ。個性を使いこなせないやつはいらん」

「……はい」

 

 恐らく相澤は、呼人の個性について詳しいことは聞いていない。ジ・アドベンチャーも伝えていないのだろう。だから教師として言える事をいったのである。普通の生徒であれば、個性は『伸ばす』ものである。少なくともこの段階において個性が制御できないならまだしも、制御できないほど強力なものはまれだ。

 呼人はそのまれな例だと、相澤は聞いていた。

 

「……戻るぞ」

 

 そう言った相澤は、先に戻り始める。

 

『『『――――――』』』

「疼くなよお前ら」

 

 珍しく力を発揮できる機会に、モンスター達が騒ぎ出す。そのつぶやきは、かすかに相澤にも届いていた。

 

 

******

 

 

 一種目目は50m走。

 通常の体力測定は大人数で同時にやるためにいくつかの種目に分かれてめぐるようにやることが多いが、ここではクラス人数が20ほどであり、また個性を自由に開放するという特性上1つずつの種目を皆で順に行うことになっている。

 

 呼人の記録は2秒80。ジャージが破けないように四足形態となって走った。

 

「こんなもんか」

 

 体操服を無視して完全な犬型になれればもう少し更新できるだろうが、オドガロンの筋力でこの形状ではこれぐらいが限界である。

 

「くっ、速さで負けた……!」

 

 どうやら個性がエンジンという人間がいるらしく、その彼に速度で勝ったことに皆驚きの目を向けていたが、呼人は自分の体との語り合いに忙しかった。

 

 

 二種目目は握力。

 

 なのだが、呼人は相澤に体操服を損耗する許可を取って、肩までまくりあげた上で肩から先を作り変える。結果記録は900kgとなった。こと筋力の発揮という意味では、モンスターの中でも秀でた筋肉構造を持つオドガロンの力は群を抜いている。服はなんとか破れずにすんだらしい。

 

 他のクラスメイトでは、障子という腕を複製できる個性を持った大柄な少年が筋力十分な腕を複製し、それを用いて540という記録を叩き出した。

 

「握力500とか900って、ゴリラどころの話じゃないだろ!? ってか障子はまだしも、もう片方はなんだ?」

 

 その2人の記録に周りが騒ぐ中、障子が呼人に話しかけてくる。

 

「凄い筋力だな」

「ああ、ありがとう」

「握力は自信があったんだが……百竜はどういう個性なんだ?」

 

 個性の話をするのは、現在では割と普通の事になっている。言ってみればプライバシーのようなものなのだが、ここはそれを主に扱う場所であるし、社会的にもそれほど問題になる行動ではない。

 

「……まあ獣化みたいなもんだ」

 

 呼人の言葉に、障子も、周りで聞いていたクラスメイトも疑問を浮かべる。見た目とその大きさから、呼人の個性がなまじの獣と思えなかったからだ。それに呼人は、曖昧な笑みを浮かべる。

 

「説明すると長い。体を別の生物に変化させる個性だと思ってくれ」

 

 どんな生物だよ! というツッコミがあったが、それに呼人が答えることはなかった。

 

 

【立ち幅跳び】【反復幅跳び】【ボール投げ】と種目を続ける中で、呼人の記録はほとんどトップクラスだった。流石に相性が抜群な個性を持った者(反復横跳びの峰田や幅跳びの麗日)にはかなわなかったが、それ以外の中では常にトップである。

 

 そのせいか、クラスメイトから注目を受ける中でも特に“敵愾心”とも言えそうな視線を1つと、ライバル視するような視線、そして観察するような視線を感じるようになる。

 それぞれ、爆豪、八百万、轟という名の生徒だ。

 

 爆豪は明らかに自分が一番でなければ気に入らない、傍若無人という少年だったため、敵愾心も頷ける。八百万の視線は少々強すぎるきらいはあるものの、他のクラスメイトからも感じられるものだ。

 

 だが、轟という少年の目線だけ、観察する様子にも関わらず好奇心というのとはいささか違う執念のようなものが見て取れた。まるで全てを暴いてやると言わんばかりの。

 

 周りが呼人を観察する一方で、呼人も目だけでなく嗅覚や聴覚、果てはピット器官まで使って確認しているのだ。

 

「障子」

「なんだ?」

「あれはどういうあれだ?」

 

 近くにいた障子にそう尋ねる。ほとんど会話をしていない呼人にとっては数少ない言葉を交わした相手だ。ちなみに葉隠と耳郎もそうではあるが、そちらはたいてい誰かと話しているので話しかけづらかったのである。

 

「恐らくライバル視だろう。爆豪はああいう性格だし、八百万と轟は“推薦組”だそうだ。だから一般組ながらそんな成績を出せるお前が気になるんだろう」

「……推薦って、何?」

 

 その呼人の言葉に、障子だけでなく周囲のクラスメイトが揃ってずっこけた。相澤が厳しい目をしている気がしたが、呼人は無視する。睨まれている気がするが、無視するのだ。

 

「なんと言えば良いか……。通常の枠とは別に、優れた実力を持つものを自発的な受験ではなく、ヒーローによる推薦によってのみ受験できる場で判断するのだ」

 

 雄英高校ヒーロー科の推薦入試。そこには、やがてはトップクラスのヒーローになると期待され、すでに高い実力を持つもの達が集まる。その中から合格した彼彼女は、この雄英高校を持ってして優れていると判断されたということである。

 

「なるほど。プライド?」

「そういうことだ」

「ふーん」

 

 そんな中、緑谷という少年、ここまで全ての種目でほとんど最下位を取っている少年がソフトボールを投げる番がやってきた。一度目の記録は46m。その後、何か相澤から注意を受けていた。

 

「あー、個性を消したのか」

「ん?」

 

 ポツリと呟いた呼人の言葉に障子が反応するが、呼人は個性の使用が認められたからとばかりに、あらゆる感覚器官を変化させて緑谷の様子を観察する。

 

 彼から感じるのは、動揺、怯え、そして―――焦り。

 おかしな話だ。ここまでの彼の成績を見れば、自分が出来ないということを把握しているか、もしくは出来ることだけに特化しているはずであり、あれほど強い“焦り”なんて感情は生じないはずなのである。

 

「百竜、それは……」

 

 ん? と呼人が彼の方を向き直ると、それを正面から見た障子が息をのんだ。

 

 赤黒く変化した鼻先に、目元まで黒く覆われた鼻。口からチロチロと見えるのは先が割れた舌で、その目はよく見ると人間のそれではなく、まるで昆虫の複眼であるかのように見える。

 

「いや、悪いな。周りがこっちを観察してくるなら俺も、と思って観察していた」

 

 そう言う呼人の顔は、すでに人間のものに戻っている。

 

「……驚いたぞ」

「見た目が良くないからな」

 

 そんな事を言っている間に、緑谷の二投目が始まる。その瞬間、呼人の顔はまた、奇妙なものに変化していた。

 

「あ、飛ぶぞ」

「ん?」

 

 言われた障子がそちらに注目した瞬間、緑谷の手から放たれたボールが、まるで矢のように空へと消えていった。

 

「彼の個性はしっかり発揮できているのか。しかし……ならばなぜ」

「個性がうまく制御出来てないんだろ。今の、指が折れてる」

 

 それがわかったから先生も止めたんだろうな、と呼人はこともなげに言うが、障子と、反対側で起きていた言い合いを避けて近くに来ていた葉隠と耳郎が驚いた顔で近づいてくる。

 

「え、どういうこと?」

「指って、自分の個性で?」

「理由は知らないし緑谷が隠したいことかも知れないからあんまり吹聴はしたくないが、投げた瞬間に指が折れていた。多分とてつもない力がかかったんだろうな」

 

 言ってみれば、人間の体の限界である。

 

「てか、百竜は良く気付いたね」

「観察してたからな」

「観察?」

 

 知り合いがいないから周りの様子が気になって、と呼人ははぐらかす。それを見ていた障子は何事か言おうとしたが、彼にも隠したい理由があるのかもしれないと言及するのをやめておいた。

 

 

******

 

 

「ちなみに除籍は嘘ね」

 

 テスト終了後の相澤のその言葉に、皆ほっとしたような、あるいは驚愕したような表情をしていた。

 

「当たり前ですわ……」

 

 八百万だけは最初から嘘だと悟っていたようである。また轟や爆豪に至っては嘘でも嘘じゃなくてもどうでもいいという雰囲気が感じられた。

 

(見どころ見せたからな)

 

 成績最下位は緑谷であった。結局あのボール投げ以外は個性を活かしきることが出来ず成績は最下位になったものの、ちゃんと出来るところは見せた。仮に彼が記録を見せていなかったら、相澤は問答無用で除籍していただろう。

 そんな匂いが、彼からはした。

 

「行くぞ百竜。教室で説明があるようだ」

「おう」

 

 友人がいないことを見てくれたのか、障子が声をかけてくれた。それに答えて呼人も教室へと戻る。途中で葉隠と耳郎も合流してきた。彼女らも個性を全力で開放したことで少しばかり興奮しているようだった。呼人は神王寺の監視のもと世界中の辺境の地である程度個性を全開にしていたが、日本ではそんな機会はほとんどないのだ。

 

 

 

 

 ―――――――ちなみに。

 体力テスト、1位、百竜呼人。

 圧倒的なスコアとその得体のしれなさから、クラスメイトからの興味を買うのであった。




絶賛尾白のセリフが難しい。



ちなみにA組には21名在籍しています。誰か追い出すか、2組に入ってもらって2組から一人落とそうかとも考えましたが、誰を落とすか選びたくなかったのでこの形に。
2年目からの編入もありなんだから、別に定員が絶対的に各クラス20じゃなくても、入試で同率最下位合格が2人いても良いよね? って考えました。


小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか

  • 欲しい
  • 勝手にニヤつくからいらない
  • あまり興味がない

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