竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~ モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア 作:アママサ二次創作
『もしもし百竜。もうそろそろ10時になるんだけど間に合いそう?』
「いや、上鳴に連れて行ってもらう約束なんだけど上鳴が間に合いそうにないって連絡してきたから俺も遅れそう」
『あー……駅かどこかで集合してくる予定?』
「うん」
『わかった』
呼人の説明を聞いた尾白は、電話の向こう側の誰かと話すように一旦口を電話から離す。恐らくもう集合している他のクラスメイトと話しているのだろう。やがて、相談が終わったのかまた電話越しに話しかけてきた。
『じゃあ先にみんなで動いとくから、後から2人は合流してきてもらえる?』
「了解――あ、今上鳴来たから今から電車でそっちに行く」
『わかった。じゃあまた後で』
電話を切ってスマホをしまった呼人のところに、息を切らした上鳴が走ってくる。
「ごめん百竜! 寝坊した!」
「あいあい。みんなもう先に買い物始めとくって」
「はー……ほんとすまん」
「別に良いぞ。今日は特に急いでるわけじゃないし。まあみんなは気にしてるかも知れないけど」
後で謝っとかないとだな、と言って息を整えた上鳴は、呼人を案内して電車に乗り込む。職場体験の時は電車に乗った呼人だが、まだまともに使ったのはその一回きりで全くそういうものの利用には慣れていない。雄英高校があるのが東京中心部のような大都会ではないだけ地獄の路線図を見なくても良いのは救いだが、それでもまだ慣れるまでは混乱するだろう。
電車に乗り込んだ上鳴は、呼人の姿を上から下までじーっと眺めてから口を開いた。
「それにしても、なんつーかシンプルな格好だな」
「服か?」
「もち。靴、ってかサンダルも、だけどな。もうちょっとこう、お出かけ用! みたいな服はねえの?」
いつもこんな感じなんだけどな、と呼人は自分の格好を見下ろす。文字入りの速乾Tシャツに運動用の半ズボン、足元は脱ぎやすいサンダル。明らかに友人と出かけるような服装ではない気の抜けた服装なのだが、呼人はあいにくまともな私服をこれぐらいしか持っていない。
「無いんだよな。それに俺個性使うと服が弾けるから、この服はコスチュームと同じ特注で変身した時に取り込めるように作ってもらってるんだ」
「街中で個性使うことなんてそんな無いだろ? せっかく出かけるときぐらい、おしゃれしようぜ!」
「んん……おしゃれは全くわからないんだよな。そのあたりの人の服見てなんかすごいなって思うぐらいしか……」
「よし、じゃあ俺が一緒に服選ぶわ! 必要なもん買った後に服見に行こうぜ」
「ああ、それじゃよろしく頼む」
そんな、主に呼人が知らない現代の一般的な楽しことについて話しながら電車を降りモール近辺に到達した2人は、そこが騒然としている事に気づいた。
「んあ? なんかおかしくね? ヴィランでも出た?」
「……モールが閉鎖されてるみたいだな。人が中からどんどん出てきてる」
「うわまじ?」
モールから流れ出してくる人の波に飲まれない位置に立った2人がその様子を見ていると、クラスメイトからラインでメッセージが来た。緑谷がUSJ襲撃事件の主犯格死柄木弔と接触、というよりは遭遇して一方的に脅されたらしい。それを警察やヒーローに通報した結果、モールで騒動が起きたということだ。
「百竜ライン見た?」
「ん、見たぞ。けど閉鎖した所で見つからないだろうな。USJの時の奴ならワープで脱出してる」
「うわ確かに。ワープってずるいなまじで」
「調べてみたらかなりレアな個性らしいからな。しかもヒーローなら現着が早くなるだけだが、ヴィランが使えば好き勝手に破壊行動が出来る。むしろワープがあるのにこれだけ姿を隠してるっていうのが不思議だ。それこそワープの射程にもよるが、連続であちこち飛び回れば当然ながらヒーローがあちこちに振り回される」
やべえ結構怖えな、と言う上鳴と話していると、更にモールで買い物をしていたクラスメイトから連絡が来る。内容は、店が再開するのは早くても夕方以降という警察から聞いた内容だった。また直接ヴィランと相対した緑谷は警察で事情聴取を受けることになったという。
「えーじゃあどうする? 他のみんなはもう少ししたら出てくるらしいけど」
「今日買い物出来なくてもまあ来週になればまた来れるよな」
「そだなー……来週はいつなら行ける?」
「週末なら大丈夫だ」
「オケ、じゃあ他のやつとも相談してみるわ」
1人での買い物に慣れないだけに、呼人は誰かについてきてもらわないとまともな買い物もままならないのだ。上鳴もそれを知っているので、今日夕方までまつにしろ来週に延期するにしろ呼人の事を考えてくれている。
結局、買い物は翌週に延期されることとなった。
******
「―――ということで今年の合宿の行き先は例年から変更、行き先も当日着くまで明かさないことになった」
翌週明け、緑谷が敵連合のリーダー格の男に目をつけられていたことを受けて、林間合宿の行き先が変更されたことが相澤から通達された。ぶっちゃけ行き先の名前を言われても全く知識はないし、呼人にとっては至極どうでもいいことだ。
それよりも今日は、やらなければ行けないことがある。
「上鳴、帰りCDショップ行かない?」
帰りの挨拶が終わり相澤が教室を出た後、耳郎にそう声をかけられた上鳴は両手を合わせて謝る。彼女と一緒に行きたいのはやまやまなのだが、今日の放課後の予定はもう入っているのだ。
「わり、今日ちょっと予定あるんだ。明日でも良い?」
「そっか、じゃあ明日で良いよ……って何でコスチューム持ってんの?」
予定があるなら仕方ないか、と頷いた耳郎だが、上鳴が何故かコスチュームのケースを持っていたために思わずそう尋ねる。今日のヒーロー基礎学は午前中にあってしかも演習じゃなくて実技試験の講評だったしそもそも放課後なのでコスチュームを持ってる必要がない。だから耳郎の思わずと言った疑問は当然のことだ。
「放課後に百竜達と模擬戦の約束してんのよ。それに結構時間がかかりそうだから今日は耳郎と帰れないな~って」
「模擬戦?」
「そうそ。あ、障子ちょっと待って一緒に行こうぜ」
「……わかった」
上鳴に声をかけられた障子も、上鳴と同じくコスチュームのケースを持っている。教室を見渡すと、百竜は尾白と一緒に教室を出ようとしている所だった。そして2人と一緒に、葉隠も教室を出ようとしている。
「模擬戦って、2人と百竜と尾白の4人ですんの?」
「うん。じゃあ耳郎、また明―――」
「うちも、見に行っていいかな」
「う、うぇ?」
思わずそう尋ねた耳郎に、上鳴は驚いた表情を見せる。耳郎も、思わずついていきたいと言ってしまったが、自分が見学をしたいという明確な理由があったわけではない。ただ、4人がする模擬戦というものを見たいとなんとなく思ったのだ。
「見学、ってことだよな?」
「うん。駄目、かな」
「俺達は良いけど……良いと思う? 決まり的に」
「……ミッドナイト先生と一緒に見ているのなら良いのではないか?」
上鳴が確認するように視線を向けると、障子は少し考えた後に頷く。今日の模擬戦はいつもの移動訓練や屋内演習場、トレーニングルームなどでの組手と違ってれっきとした『戦闘訓練』であり、互いに個性をぶつけ合ったりして怪我をする可能性が高いので4人が1年生でまだうまく加減が出来るかもわからないため手空きのミッドナイトが見ていてくれることになったのだ。
上級生になると模擬戦でも時間と内容を申請書に記入して提出し、終了の報告をしっかりすれば教師の目が無くても大丈夫なのだが、あくまで彼らが1年生故の対応である。
「じゃあ耳郎も一緒に行く?」
「……行く」
「……2人を待たせると悪い。そろそろ行こう」
先に教室を出ていった3人を追うように、上鳴達も教室を後にする。他のクラスメイトは林間合宿の事を話していたり、放課後に先日買いそこねたものを少しでも補充しておく相談をしたりしている。
「何で急に模擬戦することにしたの? てか最近放課後いなかったの、それが理由?」
「あーそうだぜ。つっても模擬戦は初めてだけどな。障子と尾白と百竜が放課後に訓練してるって言ってたから、俺も混ぜてもらってたんだよ」
「……俺はUSJの事件以降尾白と百竜に稽古をつけてもらっていた。最近は職場体験後の救助レース以降、運動場γでの移動訓練もしている」
「すごいねあんたたち……自主訓練、毎週してんの?」
「俺は週2か3かな。流石に演習の後に自主練する体力はまだねえし。障子達は毎日、だよな?」
「……そうだ。演習の日などは軽い組手で済ますことも多い」
2人の返答に、次郎は耳を疑った。耳郎が予想していたのは一週間に一度ぐらいの自主練だが、2人は週複数回の訓練をしているという。毎日上鳴と一緒に帰っているわけではないし、上鳴も切島や瀬呂らと一緒に帰ることもあるので気づかなかったが、放課後いなかったのはほとんどが自主練をしていたためだというのだ。
「え、ちょ、っと待って。毎日って、毎日?」
「耳郎、それでは質問の意味がわからなくなっているぞ」
「いや、ちょ、だって毎日って……そんなにやってるなんて思わなかったから……」
「……確かに、一年で自主練をここまでしているのは俺達だけかもしれないな。これまで屋内演習場で他の1年生と一緒になったことはない」
「まー俺も一緒にやらせてもらって毎日って聞いた時にはびっくりしたなー。そんな体力ねえよ! つって」
「……上鳴は組手や移動の技術以前に体力と筋力をつけるのが先決だろう」
「これでもちゃんと帰ってから走ったり筋トレとか尾白に教えてもらったの頑張ってんだよ」
だいたいお前らの筋肉がおかしいだけでさ、もうちょっと遊ぼうぜ、などとブツブツ上鳴が言っているが、耳郎はそれを聞いていなかった。
ヒーローを目指すものとして、毎日の学校に手を抜いたつもりはない。勉強も、上鳴と比べると確実に頑張っていると言える。演習でも、飛び抜けた実力者である百竜、爆豪、轟などに戦闘力の面では負けているが、索敵、捜査など自分の得意な分野では負けていないし、戦闘でも貢献できるようになっている。
だが、自分が他の女子とカフェやファミレスでお喋りしていたり好きな音楽を聞いて楽しんでいるときに、彼らはヒーローになるための訓練をしていた。純粋に、勝てないと思ってしまった。
「てか耳郎はこんなことに時間使ってよかったの? 他の女子と帰ったりとかさ」
「……今日はあんた誘うつもりだったから誰とも約束してない」
「そっか。なんかそれ、……ちょっとうれしいかも」
「はぁ?」
上鳴の返答に思わずそんな答えを返してしまい、上鳴にそんな怒らないでくれよと謝られてしまう。そういうことが言いたかったわけではないのだ。ただ、彼らの訓練への熱意を聞いて動揺してしまっているだけで。
「じゃあ俺ら着替えてくるからさ、耳郎先に行っといてくれない? あの入学して最初に戦闘訓練した建物なんだけど」
「ん、わかった」
上鳴と障子が運動場の入り口の更衣室に向かい、更衣する必要のない耳郎は一足先にその建物に向かう。そこは初めて戦闘演習をしたビル。今日の模擬戦は上鳴の新しいサポートアイテムの性能評価の側面も持つため、市街戦を想定したこの場所が選ばれる事になっている。ちなみにこの模擬戦は上鳴が性能実験をしたいと考えたのもあるが、開発したサポート科の生徒に使ってみて欲しいと言われ、相澤からも性能の報告を上げるようにとレポートの提出を指示されていたりする。
耳郎がその建物の下まで行くと、建物近くの通りでミッドナイトと葉隠が立っているのが目に入る。近づくと気付いた葉隠が駆け寄ってきた。
「あれ、響香ちゃんも模擬戦するの!?」
「違う違う私は見学。透は?」
「私も見学だよ! 尾白くんも百竜くんも秘密で訓練してたんだよ!」
仲良いのに秘密にするなんて酷いよね! と腕を振り回す葉隠をなだめながら耳郎も頷く。
「上鳴から聞いたよ。まあ、見学させてもらえるんだから良いんじゃない? すること全部教えるのが友達ってわけでもないんだしさ」
「そうなんだけどさー……って響香ちゃん、何かあったの?」
でも頑張ってることぐらい教えてくれたら良いのに、とまだ納得出来ない様子の葉隠は、それを微妙な表情で聞いていた耳郎の様子がいつもと少し違うことに気づく。聞かれた耳郎は、図星ながらもそれを表情に出さないように心がける。
「え? 別に何も無いよ?」
「そう? なんか元気無いなって思って。ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だいじょう―――」
「大丈夫って顔じゃないわよ」
「っ、ミッドナイト先生……」
だが、そのポーカーフェイスも教師の中でも女子生徒の様子を伺うのに長けたミッドナイトには通用しなかった。葉隠だけでなく、待つ間手持ち無沙汰になっていた彼女も2人の方へと近づいてくる。
「ほら、話してごらんなさい。今なら私達しか聞いてないわよ?」
「う、先生なんでそんなノリノリなんすか……」
「若い女の子の悩みって青春っぽくていいじゃない? そういうの好みなのよ」
教師としてのあれとかじゃなく思い切り好奇心というのがどこか心配だが、2人に問い詰められてしまっては無理に隠し通すのも難しい。何よりそれぞれからクラスの他の女子だったり男子だったり、あるいは相澤あたりに話が伝わってしまう方が嫌だった。
仕方なく耳郎は、4人が自分が放課後みんなと話したり趣味に没頭している中訓練をしていたことが、特に上鳴がそれをしていた事を聞いて衝撃を受けたという事を説明した。どうショックだったかというのは自分でもはっきりとしないが、何か悔しいというか、嫌な気持ちになったということも説明した。正直自分でもこの感情とどう向き合えばよいかわからいのだ。
「わかる! 私もなんかショックだった!」
「そうねぇ、特に仲が良かった上鳴君のことがショックだったって言うなら、置いていかれたっていう気持ちが強いんじゃないかしら」
「……でも、ウチ、私じゃあ轟とか爆豪にも勝てないし、もともと置いてかれてるって気もするんですけど……」
「だから上鳴君が訓練してたことがショックだったんでしょうね。特に仲がいい人で、無意識に自分と同じぐらいの実力だと思っていたから、その彼が頑張っていて自分がそうじゃないことがショックだった。そんなところじゃないかしら」
「それ、は……」
言われてみれば、何故上鳴が、というのも不思議なところではある。百竜は轟や爆豪と同じく、実力的には抜きん出ていてもともと置いていかれたというイメージが強く、彼が訓練を密かにしていても『ああ、だから凄いんだ』と思える。
だが尾白や障子は、その3名と比べて個性が圧倒的に優れているわけでもなく、特に彼らに劣っているとすれば正にこれまでの努力や個性の使い方、ということになる。だが彼らが努力をしているということに対しては、『頑張ってるんだ』という感心以上の感情は、ほとんど浮かばない。多少『自分も』という思いはあるが、その程度だ。
だけど、上鳴に関しては違う。彼が自主練を他の3人と少しずつだがしていると聞いた時は、何かすごく嫌な気分になった。
自分と上鳴は席が隣でよく話していて。そして一番最初の戦闘演習でもペアを組んで、その後USJで―――。
「……そうかも知れない、かも」
「私も響香ちゃんと同じ気がする! でも仲良い友達が頑張ってるのに嫌なのってなんか変じゃない?」
「だよね……。だから自分でもよくわかんなくって……」
なんでだろう、と悩む2人を見てミッドナイトは、『青春ってやっぱり良いわね』ともうすでに若くない思いを抱いていた。
******
着替えから戻ってきた4人と模擬戦のルールを確認した後、見学兼監視の3人は地下のモニタールームへと移動した。模擬戦の形式は2対2で、ルールも以前したものと同じく敵とヒーローそれぞれに分かれてターゲットの確保、あるいは防衛。
ただし捕縛用のテープの扱いに関しては、以前のように腕にまいただけで捕縛扱いではなく、胴体、あるいは腕や足であるなら2つ以上まとめて巻いた場合にのみ捕縛扱いとすることになっている。これは、『片手ぐらい持ってかれても相手をぶっ殺すのはわけない(意訳)』という呼人の物騒過ぎる主張故のものだったが、上鳴においては腕や足がもげた所で放電能力が制御不能に陥ることはあれど使えなくなることはないため一矢報いることは可能であり、また障子も複製腕は本来の腕と違って再生能力があるため無茶がきくという理由から呼人と同じく片腕程度では止まらないだろうという結論に至った為に採用された。尾白は『俺はみんなと違って腕が持ってかれると辛いんだけどね』と笑っていたが、『お前には5本目があるだろ』という呼人の言葉に苦笑しながらも頷いていた。
2対2の最初のペアは呼人と上鳴が敵サイドで、尾白と障子がヒーローサイド。2戦目は入れ替えて行うことになっている。また時間や消耗具合によってはペアを組み替えても行う。ただ1つ問題があって、この4人での模擬戦となると、上鳴の新しいサポートアイテムの性能を試すには戦闘の幅が小さいのだ。上鳴以外の3人全員が戦闘においては肉弾戦のみを得意とするため、例えば轟のような強力な範囲制圧能力や、八百万のような多彩な道具を使用した戦闘、芦戸や耳郎、爆豪のような非接触での攻撃など、他の様々なパターンに対してどれだけ通用するかという事を評価しづらいのだ。
「響香ちゃんはどっちが勝つと思う?」
「んーウチは……百竜と上鳴の方かな。上鳴はアホだけど百竜が同じチームだしね。もともと敵側が有利なルールだし、百竜がちゃんと作戦考えたらそっちが勝つと思う」
「だよねーやっぱり。百竜くんがいるだけで『勝ちだ!』って思っちゃうもん」
「凄い駄目な発言に聞こえるけどチーム戦になったら百竜ほんと強いもんね……」
呼人はクラス内でも轟や爆豪と並びトップクラスの実戦能力を持っているが、それと同じぐらい頭の回転が早い。それはクラス1の頭脳を持つ八百万にすら匹敵するもので、更に戦闘演習や救助演習における現場での判断速度においては優れてすらいる。呼人が積極的に指示を出すということは何故か殆どないが、一度だけ3人チームでの演習でリーダーになった時には味方の個性と出来ることをほぼ完全に把握して方針を決め、また相手の個性から出来ることと不意打ちすら予想してのけた。総じて、まさにクラストップの実力者と言える。
「あら、でも百竜くんのペアは上鳴君が指示を出してるみたいよ?」
「え? うそっ……わ、ほんとだ」
「ええーっ!? 上鳴だよ!?」
インカムをつけて映像を見ていたミッドナイトの言葉に、イヤホンジャックを機器に接続してビル内の音声を拾う。無骨な作りになっているように見えるビルだが、内部の備品は無い代わりに多数のスピーカーなどが設置されており、どこにいても声を確実に拾えるようになっているのだ。
「あー響香ちゃんだけずるい! ミッドナイト先生! 私にも聞かせてください!」
「あら、そうね。今日は演習ってわけでもないし、スピーカーで流すわね」
多分4人も怒らないわよ、と音声をインカムからスピーカーでの出力に切り替えると、それぞれのペアが話している声が聞こえる。
「えー、設置位置わかんねえよ百竜考えてくんね?」
「お前が使うんだからお前が考えろよ……。アドバイスするとしたら相手の来そうな位置に設置して索敵代わりに使うかな」
「索敵ってType-Aの方? 戦うのはどうすんの?」
「Bの方で割とどうにかなるんじゃないか? まあそのあたりの使い方も使ってから考えないといけないだろ」
「外から行けそうだね」
「……2人がかりで登るか」
「ターゲットの場所確認したら障子が上から行ってその隙に俺が窓から行こう」
「向こうが分散していたらこちらは2人で当たったほうが良いのではないか?」
「相手によるかな。ターゲットの守りが百竜なら2人で行ったほうが良いけど、上鳴相手だと範囲で制圧される可能性が高い」
普段のコスチュームに加えて、左腕には円盤状の装置、右腕には細長いアームガードのようなものをつけた上鳴が、その左手の装置から何かを発射して階段や廊下に設置していく。その後それらをある程度視認できる位置に潜伏した。呼人は上鳴がターゲットから離れて捕縛に向かったため、ターゲットのある部屋にとどまっている。
「うわ、完全に障子達の思うつぼじゃん」
「上鳴はなんであんなところにいるの? 絶対やられちゃうよね」
「ふふふ。丁度いいからあなた達も考えてみなさい。戦闘は訓練もだけど経験した数も大事なのよ」
ミッドナイトに促され、2人は今実際に行われている戦闘について考察する。演習の後や先日の期末試験の後には、映像を見てから反省点を話し合うような授業を行っているが、実際に現在進行中の戦闘を見ながら予想していく、あるいは自分たちならどうするかと考えるということはほとんどない。普段の演習でも実際に行っているメンバー以外は外でモニターを見ているが、それも全力で予想すると言うよりは、何が起きるか『見逃さないようにする』という意味合いの方が強い。
「うわ、壁登ってる……」
映像の中では、開始時間を待っていた障子と尾白がビルの外壁に取り付いて登り始めている。尾白が先に勢いをつけて駆け上って高い位置に掴まると、そこから尻尾を垂らす。
そして今後は障子がその尻尾を複製した腕で掴むと尾白の隣あたりまで登り、今度は複製した腕を2つ合わせて手のひらに尾白の足を乗せ、上に向かって力強く押し上げる。その勢いで飛び上がった尾白は更に高い位置に掴まると、今度は監視カメラの根っこにぶら下がって障子を引き上げる。
「これって……普通壁登ってくることなんて予想しないんじゃないの?」
「え? どゆこと?」
「前に授業でやったときって、みんな中に入らなかった?」
「……確かに、入った」
以前の事を思い出した葉隠の言葉に耳郎も頷く。以前授業の初めての演習としてやったときは、全員がビル内に侵入してから索敵なり戦闘なりを行っており、スタートから壁面を登り始めるという選択を取った者はいなかった。今やっても恐らくビル内に侵入する者の方が多いが、例えば麗日などは、ペアになった相手を浮かして特定の階から侵入させることが出来るかも知れないし、瀬呂なら壁を登ることも出来るはずだ。
「だから上鳴、外から来るって思ってないんじゃないかな?」
「……アホじゃん」
葉隠の予想はまさにそのとおりで、上鳴は2人が登ってくるであろう2つの階段に索敵アイテムを張り、そのうち一方に山を張って潜伏していた。
新しく作ってもらったサポートアイテムのうち、左手の円盤状の装置に搭載されている円盤状のアイテムを壁にはりつけ、それに人が接近した際にわかるようにしているのだ。
そして仮に潜伏している方の階段を登ってきた時には、放電で一網打尽にする。そういう作戦だった。
問題は2人が建物内を直接通らずに侵入しているということで。結局上鳴が物音に気付いたときには障子を呼人が拘束して、その隙に尾白がターゲットを確保していた。
「あれっ!? お前らどこから来たの!?」
「窓から2人とも突入してきたぞ」
呼人からの連絡を聞いて慌てて駆け込んできた上鳴に、ほら、と呼人が指し示す先では、一枚の窓が打ち破られていた。
「まじで……」
「外から来るっていう予想が足りてなかったな」
「もーマジ無理だって……」
「ま、いまので覚えただろ。次同じパターンにはめられたら特別トレーニング考えてやる」
「鬼教官かよー……はあ、よし。相手が自分と同じ動きしか出来ないわけは無い、ってことね」
「ついでに、お前が得意なフィールドを相手は積極的に避けようとするってことも覚えとけ」
呼人の言葉に、室内で反省点を振り返っていた障子と尾白も頷く。
「このメンバーだと上鳴と戦うのが一番きついからね。なるべく上鳴を避けるつもりだったよ」
「おぅまじかー……俺ここから動かない方が良かったと思う?」
上鳴がそうチームメイトの呼人に尋ねると、呼人は少し考えてから首を捻る。
「難しいな。それこそ敵味方のメンバーに状況によりけりだが、この面子で俺かお前かどっちが動き回るかって言われたら俺の方が良いと思う。駆けつけるのも速いし遭遇戦からの単体戦闘に向いてる。お前の場合は、先に索敵して自分のフィールドを用意しないといけない側面が強い」
「え、っと、つまり?」
「考えるより色々やって慣れろ、ってことだ」
「ウェ、ウェーイ」
キャパシティではなく考えすぎでアホになりかけている上鳴を画面越しに見る2人は笑うことが出来なかった。4人がしているのは、授業で彼らがすることをより深めたような内容で。更に互いの出来ないことを知っているためそこを狙い合っており弱点の克服につながろうとしている。
「あ、あはは、なんか自信、無くしちゃうね……」
「透……」
「ご、ごめん! 凄いよね4人共!」
「ウチも、わかるよ。なんか焦っちゃうよねあんなの見ると」
空元気を見せる葉隠に、耳郎も唇を噛むことしか出来ない。彼らが成長しようとしているのに対して自分は、と。そう思わずにはいられない。
そんな2人に、ミッドナイトが教師としてのアドバイスを送る。
「焦っても良いのよ。というか、むしろ焦ってくれないと困るわ」
「え?」
「焦りって本人としては気持ちいい感情じゃないしむしろ嫌なものだけど、その焦りが人を成長させるのよ。前向きな憧れとやる気だけで進み続けられる人なんて本当にごく一部。だいたいの子は、そんな焦りとか劣等感に向き合って成長するの。特にうちなんて飛び抜けた子がたくさん来るからね。耳郎ちゃんみたいに割り切れる子の方が稀なのよ。本当は劣等感なんか感じないで自分の意思で努力できると良いんだけどね。でもそういう子はたまに、『自分はここまでしか出来なくて当然』って変に達観しちゃうこともあるわ」
「でも、みんなが頑張ってるのに嫌な気持ちになるんですよ? やだなあ……」
「あなたが嫌になってるのは、友達に、じゃなくて置いていかれてる自分自身。だから、気にするなっていうのは無理かもしれないけど、そういう気分になったら負けないくらい努力しなさい。でも、ちゃんと自分の出来ること、頑張っているんだということは忘れたらだめよ。焦りすぎると周りが見えなくなるし、自分の全てを否定したくなってしまうから。もし本当に辛くなったら、私でもイレイザーでも相談しなさい。私達も通ってきた道よ」
それはきっと、誰もが通る道。例えばあのNo.2ヒーローのエンデヴァーすらが、オールマイトと自分を比較した劣等感に苛まれて色々とやらかしている。大なり小なりヒーローを真剣に目指すものは誰もが通る道だ。当然ながら個人の実力が評価され求められる世界、そんな焦燥感や劣等感を感じずにいられるのは、よほどの強者かよほどの弱者か。そういう意味では、個性以外の部分を鍛えなければいけなかったイレイザーや個性を活用するすべを考えなければいけなかったミッドナイトは、正に相談相手としては適任だ。
「ほら、まずは見ること。見て学びなさい。あなた達が焦っている相手はどこまで進んでいるのかを」
小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか
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欲しい
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勝手にニヤつくからいらない
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あまり興味がない