竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~  モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア   作:アママサ二次創作

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第42話 それぞれの決意

「ちょっと遅くなったけど、誕生日おめでとう」

「おめでとう」

「ありがとな!」

 

 模擬戦を終えた呼人たちは、葉隠と耳郎も加えてマクドナルドに来ていた。模擬戦は最初のペアでの2戦とチームを変えての1戦のみで終えたため、時間的には少し余裕があり、とある事情で珍しくマクドナルドへとやってきたのだ。

 

 それは、模擬戦を終えた男子連中が4人で更衣室にいたとき障子が発した言葉に端を発する。

 

「そう言えば……」

「どしたの障子」

「お前は先日誕生日だったと聞いているが、祝いを出来なかった分今から食事にでも行かないか?」

「お、なら行こうぜ! でも奢ってくれんならファミレスよりマックがいい!」

「誕生日おめでとう。俺も初めて聞いたよ」

 

 障子は彼が切島らと話しているのをちらりと耳にしただけだが、上鳴が言うには期末テスト間際だったということもあって彼ら以外のクラスメイトに言うことはなく、また彼らにも祝いらしい祝いはしなくて良いと伝えていたらしい。そのため、実質誕生日会は家で少ししてもらったぐらいでクラスメイトには祝ってもらっていないということだった。

 

 それを受けて、それならこの4人と、もし来てくれるなら見学していた2人を誘って行こうということになったわけだが。ここに1人、状況をよく理解していない男がいた。

 

「誕生日、ってのは、上鳴が生まれた日ってことか? それを祝うのが日本の普通?」

「む……百竜は誕生日を祝う風習を知らないのか」

「まあ、ずっと外国にいたしな。後俺自身自分の生まれた日知らん」

 

 実は呼人は、誕生日を祝うことはおろか誕生日という概念すら知らなかったのである。単純な話、小さい頃に両親を失っておりまたそれがわかるような情報すら残っていなかったので拾ってくれた神王寺にも知るすべが無かったのだ。そして当然、あんまりそういう方向には頭の回らない神王寺もモンスター達も呼人の誕生日を決めたり祝ったりはしていない。

 

「誕生日知らねえって何か事情がある感じか?」

「まあ……子供の頃に個性事故で両親が死んでな」

 

 呼人の来歴を少し知っていて納得した様子を見せる2人とは違って、まだその話を聞いたことの無い上鳴が疑問の声を上げるので呼人は他のメンバーにも説明したことのある内容を説明する。自分の個性は小さい頃、物心付く前から出力自体は高かった事。そしてそれを何も知らないまま使ってしまった結果、恐らく両親にじゃれついて殺してしまったこと。

 

 最初は驚愕に目を見開いていた上鳴だが、呼人の個性は発現した当初から現在の最大の状態に変身することが可能であり、むしろこれまでの人生をその制御に費やしてきた事を説明されると、納得の表情を見せた。上鳴自身も制御できない個性で人を傷つけたことがあり、呼人の状況を理解出来たのだ。

  

「なんか色々すげーやつだと思ってたけど、子供のときから大変だったんだな」

「まあ……そうだな。せっかくだから、お前の誕生日を祝わせてくれ」

「よっしゃ! じゃあ祝ってもらって差し上げよう!」

「なんだそれ」

 

 暗い話を呼人にさせてしまったとあえて明るく振る舞う上鳴に、呼人は突っ込みながらも笑う。彼の気遣いがわかったし、生まれたことを祝うという以上辛気臭い顔はふさわしくない。

 

「そんじゃあ耳郎たちにも連絡してみるぜ」

 

 祝われる上鳴が自分で言うのもどうなのかと思ったが、特に問題なく耳郎と葉隠の2人も賛同してくれたので6人でマクドナルドに行くことになった。上鳴はハンバーガーが好きらしく、そこに行きたがったのだ。ついでに模擬戦の反省会と上鳴のレポートの手伝いもすることになった。

 

 かくして、6人はマクドナルドへと来ることになった。

 

「にしても、上鳴あんたならテスト前だろうが『祝ってー』って言い出しそうな気がしたんだけどね」

「いや俺も少しは気遣うのよ? 流石に試験前だったし言わないって」

「でも誕生日のお祝いみんなでするのって学校ぽくて良いよね!」

 

 誕生日祝いと言っても特段何かパーティーのようなものを用意しているというわけではないので、上鳴にみんなでハンバーガーを奢った後、ポテトやドリンクを買って一緒に話しながら食べているというだけである。

 そのため、話の内容もちょっとした思い出話やそれぞれの趣味の話から、次第に学校の話や、訓練の話へと変わっていった。

 

「あ、そう言えば百竜、模擬戦のことなんだけど」

「ああ。何か気になることか?」

「模擬戦というか授業での演習もなんだけど、百竜って絶対に殴ったり蹴ったりしないよね。何か理由があるのか?」

 

 尾白の言葉を聞いた他の者も、記憶を探って確かにと、尾白の言っていることがあっているのに気づく。授業での戦闘演習や組手でも絶対に打撃を使わず、組技や拘束ばかりを使うのだ。実を言えば、放課後組手をする際の尾白にだけは打撃を使っているが、それも命中させるものではなく防御できる程度のものしか使っていない。

 他の者がただ疑問を持っているだけだが、武術に長けた尾白からすれば、明らかに手を抜いていると言えるものだった。実際USJ襲撃事件の際は、明らかに打撃によって無力化されていた敵もいたのを彼は見ている。

 

「理由……特段打撃を使う理由が無いし、打撃よりも拘束したほうが相手に怪我させないですむからな」

「……言い方は悪いかもしれないが、手を抜いているということか?」

 

 単刀直入に切り込んだ障子の言葉に、呼人は頷くでも首を振るでもなく説明する。

 

「そういうことにはなるけどそういうわけでもないぞ。格闘戦に持ち込めば尾白以外に苦労することはないから打撃を使う必要が無いし、まだ演習で尾白とぶつかってないからな。組手だと結構打ち合ってるだろ?」

「まあそうだけどね。でもそれも本気じゃないだろ?」

「それを言うならお前も顔と急所は狙ってこないだろ」

 

 呼人からしてみれば、別に打撃を使っていないことの積極的理由なんてほとんど無い。最近の戦闘演習では以前使った捕縛扱いとするためのテープを使わないこともあったが、それでも尾白以外の相手は打撃を使わないでも拘束出来たし、実際その自信もあった。

 

「ええー! 百竜くんあんなのでまだ本気出してなかったの!?」

「……まあ、そうではある。怪我させれば勝てる、って思ったことはないからな」

 

 逆に言えば、例えば今日の模擬戦の一戦目なんかは『怪我させても間に合わない』って判断したために障子を無傷で拘束したわけだし、本当に『怪我させるつもりで殴れば勝てるが、拘束を狙うだけでは勝てない』という微妙な切羽詰まり方を学校の演習でしたことが無いのだ。

 

「後これまで本気で殴ったことしか無かったから、どれぐらいの強さなら打撃を使っても大丈夫か確かめてたんだ。だから2学期以降は普通に使うと思うぞ」

 

 別にいつまでも優しくする必要もないしな、とジュースを飲みながら呼人は言う。実際問題、これまでまともに殴り合ってきたのは擬人化したモンスター達で、当然ながら彼らの強さときたら生半可なものではない。そのため、これまで放ってきた蹴りや拳は文字通り一撃で仕留めるつもりのものでしかなく、どの程度なら人間相手に打っていいのかと測りかねていたのだ。

 

「本気でって、どんぐらいの強さ?」

「顔とか腹に入ったら殺せるぐらいの強さで」

 

 まあそれでも殴り合ってた相手は耐えるんだけど、と内心呼人は呟くが、実際彼らに対して放っていた拳や蹴りをクラスメイト相手に向ければどうなるかは目に見えている。それを聞いた耳郎と葉隠は少し怯える様子を見せたが、既に一緒に訓練をしている3人は呼人の規格外さをあちこちから感じていたので納得の表情を見せる。

 

「あーだから加減が出来るかわかんなくて怖かったって話ね。納得」

「まあそういう事だ。別に手を抜きたくて抜いてたわけじゃないが嫌な気にさせてたら悪いな」

「別にそれは無いよ。実際百竜には勝ててないわけだしね。これで演習とかで負けてたら『本気出せよ』とか思うかもしれないけど……事情も事情だしね。流石に『お前たちには使う価値もない』とか言われたらかちんとくるけど」

「……実際、今日も容易く拘束されてしまった。俺達の実力ではお前に全力を出させる事も出来ないのだろうな」

「障子は体術、尾白はもう少しパワーと経験、上鳴は全部ってところだな」

「俺だけ雑なんだけど……」

 

 そう凹む上鳴に、他の2人がドンマイと肩を叩く。この4人の中では上鳴が一番肉体的な強さが弱い。あまり鍛えてきていないというのもあるし、個性上肉体的な強さがあまり必要ないと判断してきていたというのもある。だから、この4人での訓練ではたいてい彼が他の3人に手を借りたり助けられたりしていた。

 

「そう言えば上鳴、お前相澤先生が言っていたのはどうするつもりなんだ? あの布? の奴」

 

 自分の話は終わったと、今度は呼人が上鳴に話を振る。呼人の端的で衝撃的な答えから立ち直った耳郎と葉隠も、相澤の名前を聞いて興味を持ったようだ。

 

「え、何上鳴あんた相澤先生となんかあんの?」

「ちょ、耳郎さんジャック伸ばすのやめて怖いから!」

 

 上鳴の目の前に耳郎が伸ばしたプラグは、上鳴の言葉に応えて下がること無く、良いから言えとばかりにフヨフヨ揺れる。普段からその被害を受けている上鳴はそれに若干オーバーに怯えながらも、以前相澤に彼の武器の扱いを学びたいと伝えたこと、そしてその時は断られたが、後から『本気で学びたいなら』と言われたことなどを説明した。

 

「待ってあんたなんでそんな相澤先生と仲良いの」

「そうだよー! 私達も話したくても全然話せないのに!」

「相澤先生と仲良くなりたかったんだね……」

「だって担任の先生だし、戦ってる時はかっこいいし!」

 

 相澤と仲良くなりたいと騒ぐ葉隠と若干呆れた尾白の掛け合いを聞きながら、耳郎の問いかけに上鳴は答える。

 

「別に仲良いってわけじゃねえっていうか今でも小テストとか演習だとよく怒られる」

「小テストも演習で怒られるのもあんたがアホだからでしょ」

「うっ……でも話したのはそんぐらいだぜ。別に仲良いわけでも毎日話してるわけでもねえよ」

「それで、どうするんだ? 結局。やるなら早いほうが良いだろ?」

 

 それなんだよなー、と上鳴は腕を組み、悩む様子を見せた。いつの間に食べ終えたのか、彼の前に皆が合計3つ奢っていたハンバーガーはなくなっている。ポテトに手を伸ばそうとした彼は、皆の視線を感じるとその手を引っ込めて自分の考えてる事を言った。

 

「結局、百竜とか尾白みたいな体術か相澤先生のあれみたいな個性なしで戦える方法は持っておきたいなって思ったのよ。実際今日も百竜に電気受け流されて何も出来なかったわけだし、USJのときもそんなことあったし」

 

 上鳴の言葉に、それを思い出した耳郎が顔をしかめる。

 今日の模擬戦の3戦目、百竜と尾白、障子と上鳴が組んで上鳴らが敵側として戦ったとき、障子が尾白を迎撃し上鳴は新しいサポートアイテムを活用して百竜に電撃を命中させたのだが、トビカガチの体毛を生成した呼人にそれを全部吸収され無力化されてしまったのだ。

 そこでやはり、サポートアイテムを作ってもらったときから考えていた欠点を再確認した。

 

「結局さー、サポートアイテムも多分相当強いし使いやすいんだけど、放電が通用しない相手には意味ないんだよな」

「あれ、結局あんたの新しいサポートアイテムってどんなもんなの?」

「なんか電気がまっすぐ飛んでるように見えた!」

 

 と、葉隠と耳郎の疑問に、2人には詳細を説明していなかった事を思い出した上鳴は簡単に説明をすることにした。その間、事前にその細かい内容も知っていた残りの残りの3人は食事に勤しむ。特に3人は上鳴よりも食事量が多く、呼人に至っては20個ほどのハンバーガーを買っていたのでまだたくさん残っていた。

 

「俺放電出来るつっても指向性無くて味方も巻き込むしかなかったからさ。サポートアイテムで放電がまっすぐ狙ったところに飛ぶようにしてもらったんだよ」

「あの右手と左手に2つつけてたのは? なんか飛ばしてるように見えたけど」

「違う性能のアイテムを打ち出せんだよ。左の方は円盤状のアイテムで、壁とか床とか天井とかに貼り付けて放電を誘導してくれる。んでそれを10個まで設置できるから、腕の装置でどの装置に放電誘導するか設定して、視界に入った分の装置が何番かとか射程内にあるかとかをゴーグルに映し出してくれるんだ」

「そう言えば、なんかかっこいいゴーグルみたいなのつけてたね」

「前までの無線に加えて、装置、ってかType-Aって名前なんだけど、Type-Aの場所とか、後は設置してきたType-Aに誰か接近してるかとか教えてくれる高性能な奴。結構ハイテクなんだぜ」

「索敵も出来る、ってこと?」

「設置したのに近づいているってことしかわからないけどな。それで一戦目はどっちの階段から来るか絞ろうとしたんだけどさー……」

 

 結果その性能を発揮する事無く全く別の方向から突破されてしまった、と。だがその性能は3戦目に置いてはしっかり発揮された。

 

「それで、右手の方は?」

「右手の方は放電を誘導する性能しか無い小さいのが入ってんのよ。左手の方がリモコンとか誘導装置本体も結構でかくてさ、最初はそれだけにしようかって話になってたんだけど、結局右手に別で使いやすいの装着することにしたんだよ。右手の方は吸着能力はあるけど左ほど高性能じゃないし、放電した時には放電の誘導射程内で一番装置からまっすぐの先にあるやつに勝手に誘導するだけのやつ。結局発信機とかセンサーとかバッテリーがスペース食ってるらしくて、んじゃあそれ取っ払ってシンプルな性能にしたやつも装着しとけばいいじゃんっていう話になった」

 

 その後も、その装置に関しての性能の細かい説明や、実戦での使い方などの話に及んで少しした所で、呼人が話をもとに戻そうと声をかけた。もともと相澤の武器の扱い方を教えてもらうかどうかという話になっていたのだ。

 

「だからさー……相澤先生に教えてもらうにしろそうじゃないにしろ、電気の通用しない相手に通用するなんかは考えたいんだよな。でそう考えたらさ、前百竜にも言われたけど相澤先生のあれってめっちゃ凄いよなって思って」

「まあ……俺も使えるようになりたいぐらいのもんではあるからな」

 

 素直に称賛した呼人の言葉に耳郎と葉隠、障子が驚いて目を向けるが、尾白は賛同するように頷いてその理由を説明した。

 

「相澤先生の武器は、色んな点で格闘術より優れてるからね。あれ自体が拘束の道具になるし、上鳴みたいな相手でも接触しないで攻撃できる。直接的な打撃力はないけど、そのあたりのものを振り回したり敵を捕まえて振り回したりも出来る。射程も素手と比べたら明らかに長い。それに、相澤先生はあれを移動にも使ってるみたいだしね」

「だよなー。色々考えて比べてみたんだけどさ、やっぱ素手での格闘よりもあの武器の方がどう見ても強そうに見えるんだよな。教えてもらって悪いけどさ」

 

 ポテトをつまみながら言う上鳴に、呼人は特に気にすることなく頷いた。それは呼人も理解していたからだ。有史以来、武器が使われるようになって以降人間は武器を主に使うようになった。当たり前の話だが、その方が強いし、素手の方が良ければ武器を放棄すればいいからだ。そしてそれは、相澤の武器についても変わらない。

 

「全部が使えないってことはないだろ。蹴りとかパンチは相澤先生も使うだろうし」

「じゃあじゃあ、上鳴は相澤先生からあの武器の使い方教わるの?」

「そうしたいとは思ってる、けどよ……相澤先生に本気でやるならって言われたのが気になってんだよな……俺前も先生に中途半端なとこ見せちゃったしさ。また失望させたくねんだよ」

 

 自分が相澤の求めるぐらいまで真剣になりきれるのかわからない、というのが上鳴が悩んでいるところであった。サポートアイテムを作ってもらう際も、呼人達に言われてようやく動き始めたのだ。そんな自分が、相澤の期待に答えられない、という悩みだが、呼人からしてみればそれは『逃げ』だった。だが、それをはっきり指摘してやるほど優しくはない。それぐらい、『命を賭して守る者』を目指すのなら自分で気付いて欲しい、と。

 そう思っていたが、呼人の思っていた事を耳郎が口にした。

 

「あんた、それ逃げてるだけじゃん」

「え?」

「先生の期待に応えられるかって、それなら応えられるだけ頑張ればいいでしょ。それをしないのって、あんたが本気になることから逃げてるだけじゃん。変わったかと思ったら全然変わってないじゃん」

「お、おう?」

 

 急に畳み掛ける耳郎の言葉に、上鳴は目を白黒させる。普段も、耳郎が上鳴に対して多少歯に衣着せぬ事を言うことはあるが、それは半ば悪ふざけのような、2人の互いに特に気を使わない関係性を示したものでしかない。けして、今のように思いつめた表情で言うようなことではない。

 

「っ! ……ごめん、ちょっと言い過ぎた。ウチさき帰る。バイバイみんな」

「あっ、ちょっと耳郎ちゃん!?」

 

 最後まで止まること無く言い切った所で、唖然とした皆の表情に気付いた耳郎は慌てて席を立ち、そのまま店の出口へと向かってしまう。

 

「あっ、ちょっと待てよ耳郎!」

 

 そう言って立ち上がった上鳴が逡巡した様子で他の4人の方を振り返るが、尾白が『追いかけた方がいいんじゃない?』と言い、他の3人が頷いたの見て

 

「わりっ、後よろしく!」

 

 と告げて耳郎の後を追っていった。

 

「耳郎さん、どうしたんだろ」

「……上鳴の弱気が気にさわったということなのだろうが……そういう人物には思えなかったがな」

 

 様子のおかしかった耳郎を気にかける尾白と障子。呼人も気にかかりはしたものの、特別自分が何かをしたわけでもないのでもくもくとハンバーガーを頬張っている。呼人は自分の個性やモンスター達と関わって来た育ちの結果、自分と他の人間の間に一線を引いてしまっているところが多分にある。相手側から、例えば障子や尾白のように関わってくる時にはそれに答えるが、積極的に新しい関係を作ろうとはしないし、また手を差し伸べようともしない。そういう意味では、あまりヒーローに相応しい性格ではないと言える。

 

 2人が悩む中、観戦中と観戦前の会話を思い出した葉隠がうーんと唸っているので皆で話し始めるのを待っていると、やがて整理がついたか話し始める。

 

「さっきの模擬戦見る前なんだけどね」

「うん。確か俺達と葉隠さんが来た後、障子たちと一緒に来たんだよね?」

「ああ、そうだな。上鳴と話している時に耳郎がそれを聞いて見学したいと言っていた」

「まあそれはどうでもいいんだけど!」

 

 状況の確認をしたが、それは関係ないと葉隠は話を続ける。

 

「それで、ミッドナイト先生と待ってたんだけどその時の耳郎ちゃんの様子がなんかおかしかったの。なんかみんなが訓練してるのにショック受けてる感じだった……特に上鳴が訓練してるのがなんか嫌だったって。ミッドナイト先生は上鳴を嫌だと思ってるんじゃなくて、出来る努力をしてない自分を嫌だと思ってるとか、焦りが嫌な気にさせてるんだみたいに言ってたけど……」

「葉隠さんもそんな風に感じてたの?」

「え、うん、まあ……ちょっと、ちょっとだけだよ!」

 

 私は耳郎ちゃんみたいに思いつめてないから! と腕を振り回して主張する葉隠だが、まあ葉隠さんの話は後で俺が聞くから、と、葉隠の失言を逃さないと尾白に断言されて葉隠が嫌そうな声を出す。

 今一緒にいるメンバーはクラスの中でも特に性の違い関係なく仲の良いメンバーだが、その中でも個人個人の親交の深さというものはあり、尾白と葉隠は個人でもよく一緒にいるのだ。普段は葉隠が尾白に絡んでいくのだが尾白も葉隠の事を気にかけている様子である。

 

 呼人や障子も2人のどちらかに声をかけられて一緒にいることは多いのだが、2人が自分からは話さないタイプなために尾白と葉隠の掛け合いを見せられることが多い。障子曰く『お似合い』だそうだ。呼人はよくは理解していないが、恐らく男性女性としてお似合いという、いわゆる恋愛の話だろうということは理解できた。

 

「とにかく、そんな感じの事を耳郎ちゃんは気にしてたの! ミッドナイト先生が向き合って頑張りなさいって言ってくれたけど、そんな簡単に言われても納得できないし……わ、私は大丈夫だよ! でも耳郎ちゃんは結構気にしてたんだと思う。それで自分でも考えてることがわかんなくなっちゃって、あんな風に言っちゃったんだと思うよ」

 

 説明しているうちに、いつも元気な声を出している葉隠の声に、わずかに無理が混ざったのに呼人は気付いた。彼女は姿が透明で見えないためにその様子は表情や動きからしか見て取れないのだが、非常に上手に元気なように『振る舞う』のだ。

 それに気付いているのは、恐らくクラス内では尾白と呼人ぐらいなものである。呼人自身は、昔ずっと練習していたあることのおかげで非常に細かく音を聞き分ける事が出来るようになったために気づくことが出来ている。

 

「……耳郎の悩みが葉隠さんが言ってたのだとして、俺達に出来る事はあるかな。悩んでるなら相談に乗りたいけど……」

「……どうなのだろうな。相談と言うならミッドナイト先生が既にしてくれているのだろうし、後は時間と……それこそ上鳴ぐらいではないだろうか。それも下手に追い打ちを掛けるようでは逆効果な気がするが」

「モグモグ」

 

 話に一切参加せずにハンバーガーを頬張り続けている呼人に、3人は少し奇妙なものを見る目を向ける。呼人の前に積まれていた山は、既にその数を残り3つとしていた。

 

「百竜はどう思う?」

「今すぐどうこうという話ではないんだし、自分で乗り越えるべきだと思うけどな。別に皆が相談に乗るのを止めるわけじゃないが、俺に出来る事は何も無いだろ。そういう経験をしてきたわけでもないしな」

 

 一見薄情とも言える呼人の言葉だが、呼人の基本的な方針はこれである。

 呼人自身はモンスター達の力を借りて自分が強くなることに躊躇いはないが、同時にその結果周囲の同年代の人間より成長している自分を半ばずるい存在だとも思っていた。実際問題、例えばヒーローとしての活動に関しても、呼人が本気を出せば大半のヴィランは活動する前に制圧することすら容易いだろう。なにせ、呼人はモンスター達が無作為に奮っていた力を制御し、相当に細かく使うことが出来る。索敵、移動、攻撃、拘束、救助、治療、出来ないことは無いと言っていい。加えて、呼人や神王寺がモンスター達の力を『個性かどうかすら怪しい』と思っている原因も相まって、呼人が力尽きる事は基本的にない。

 だから、やろうと思えば、本当に全てのヴィランを討伐、そう、捕縛ではなく文字通り消してしまうことも不可能ではない。

 

 だが、それをすべてしてしまうのは、違う、と呼人は思っていた。だからこそ今もこうして制限した、1ヒーローとしては多少スペックがいい程度の個性という扱いで学校に通っているわけであるし。なめていると言われればそうなのかもしれないが、少なくとも『ヒーローになる』という目的にそれ以上の力を使うつもりは無いし、当然ながらモンスター達の力を借りるつもりはない。例えば、戦闘中も彼らの力を借りればもっと良い作戦を立案してくれるだろうし、動きも自分で動かすより指示してもらったほうが的確になる。言ってみれば超優秀な複数の頭脳がついてくることになる。

 

 だから呼人は、自分の実力で出来る事をするが、全ての力は出さない。そう決めているのである。

 

 

******

 

 

 最低だ。自分が妙に焦っていたのを、特に否の無い上鳴にぶつけてしまった。完全に八つ当たりだ。きっと嫌な気分にさせてしまった。

 

 上鳴達の模擬戦を見学する事を決めたときからマイナスな気分になってしまう。

 早く家に帰ってベッドに飛び込みたい。上鳴には落ち着いてから謝罪のメッセージを送ろうと道を歩いていると、後ろから呼んでいる声が聞こえた。

 

「じろー!」

 

 耳郎、ですらなく、最後が長音付になるような呼び方をする知り合いは1人しかいない。今、一番顔を合わせたくない人間。

 

 逃げたい、出来ることなら隠れたい。だが残念ながら、自分も相手も目的地は同じ駅。全力で走って逃げるぐらいしか出来ないし、流石にそれは上鳴に悪い気がする。いつも冷たい態度を取っているが、全力で酷いことをしたいわけじゃない。

 

 そんな事を考えていると、すぐに追いつかれてしまった。

 

「おおい耳郎、なんで逃げるんだよ」

 

 ふー疲れた、と膝に手をつく上鳴に、『何?』と可愛げのない声をかける。申し訳ない、とか、まだ落ち着いてない、とか以上に、気まずくて今は話したくない。けど上鳴は、そんなこと全く気にしない様子で話しかけてくる。

 

「なんでって……」

「俺が嫌な気分にさせちゃったのは謝るからさ、ちゃんと思ってること教えてくれよ」

 

 煮え切らない態度でごめん、俺、ちゃんと頑張ることにする、と上鳴が頭を下げてくる。意味がわからない。八つ当たりをして逃げ出したのは自分だ。上鳴が謝るようなことじゃない。

 そんな事をされると、余計に自分が惨めになってくる。

 

「あんたさあ……やめてよ、そんな風にあやまんの」

「え?」

「八つ当たりをしたのはウチだよ? そんな謝り方されたら余計惨めになるじゃん、やめてよ……」

「耳郎……」

 

 ポツリと名前を呼ぶ上鳴に、なんとも言えない感情が湧き上がってきて思わず目をそらす。こんな、自分でもわかっていない感情、ぶつけられても戸惑うだけだ。明日になれば、きっと明日になればいつもの冷めた自分に戻ることが出来る。こんなうじうじ悩んでるなんて、ウチらしくない。

 そう思うのに、自分を見つめる上鳴の目線は真っすぐで逃してくれない。

 

「八つ当たりって事は、なんか嫌な事があるんだよな? 俺でよかったら相談に乗るぜ?」

「なん、で、そこまで……」

「なんで、って……耳郎がなんか辛そうだからよ。気になるじゃん」

 

 そこまで言って、上鳴は慌てたように腕を振る。

 

「いや、別にナンパとかそういうのじゃなくてだな、ただお前が元気が無いとなんか気持ちわりーっつーか―――」

 

 かっこいい、まさにヒーローのような事を言っていたかと思えば、いつものアホな上鳴に戻る。ああ、変わらないんだ。そう思った。

 

 どれだけ頑張ってても、どれだけアホな事してても、こいつは上鳴なんだ、と。

 そう思うと、妙に焦ってムカムカしていて気持ちが、少し落ち着いた気がした。

 

「そんなに言うなら、相談してあげる」

「だから嫌なら別に―――え、相談してくれんの?」

「駅に行くまでだけだけどね」

「よっしゃー! って待てよ俺が相談に乗ってあげる側じゃね!? って耳郎置いてかないで!」

 

 とりあえず、今思ってる事は上鳴に聞いてもらう。多分、ミッドナイト先生の言っている通り、さっきまで感じていたのは焦りとか自分に対する嫌な感情でしか無い。だって、仲間が頑張っているのにそれを疎ましく思うことなんて無い。

 

 そして、もし出来るなら自分も頑張ると宣言しよう。上鳴に負けないぐらい全力で。

小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか

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