竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~ モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア 作:アママサ二次創作
時は過ぎ、やがて一学期も終わる。
そして、林間合宿の日がやってきた。
B組の物間がA組に突っかかる一幕があったものの、その他は全く滞りなくバスへと乗り込む。
「乗車中に立ち歩いてはいけないぞ!」
これこそ委員長の役目であると、バスの入口で皆に声をかけていた飯田が最後に乗り込みバスが動き始める。呼人の隣に座るのは常闇だ。
バスに乗ってそうそう、呼人は本を取り出して読書をすると同時に右手で握力用のトレーニング器具を使い始める。数日間の合宿ということでいつもどおりにトレーニングができるかわからないため、久しぶりに器具を持ち出してきたのだ。
「握力を鍛えているのか?」
「ん? ああ、これか。握力ってか指だな」
隣の常闇と全く会話すること無く自分の世界に入り込んでいた呼人に、常闇は興味を示して話しかけてくる。
それに対して答えた呼人は、ほら、指だけでやってる、と普通は手に握り込んで使うハンドグリップを、親指と人差し指だけで挟んでいる様子を示した。
「凄まじいな。獣を宿していても己の鍛錬を怠らぬということか」
「獣の方は鍛えようが無いしな。それに指だけは特別に鍛えとかないとすぐ弱ってくる」
人間の体というのは、当然ながら使わなければどんどんなまっていく。だがこれは、動物の世界で言えばかなり不思議なことだ。なぜなら、動物たちは筋トレなどせずただ食べて寝ているだけで、人間のそれとは比較にならないような筋肉を誇る。種が違うと言えばそれまでだが、それだけで済ますことのできない差があるのは確かだ。
「……なるほど。まさしく求道者」
「まあそれに、本読んでる間片手は暇だからな」
小さな文庫本程度であれば片手で保持しページを捲ることも可能で、その間反対の手は手持ち無沙汰になる。せっかく道具を持ってきたなら使おうというのだ。
「それは、なんの書を読んでいる?」
「ベートーヴェンとかモーツァルトとかの偉い? ってか凄い音楽家の本。音楽にもそれなりに興味があって曲まとめたりもしてるから、一応見とかないとなと思って」
「……多才だな」
「人間ってほんと面白いよな。音楽とか創作なんて興味深いものまでゴロゴロと……」
人間の作り出す娯楽に関しては、呼人の中のモンスター達にとっても未知のものが多かった。この世界の人間たちの生み出すそれは、彼らの世界には存在しなかったような多才なものばかりなのだ。
「常闇は、こういう時は何してるんだ?」
「我は……ダークシャドウと戯れたり動画を見たりしている」
『ヨッ! アソボウゼ!』
常闇が言うと同時、彼の中から出てきた黒影が呼人の方を向いて声をかけてくる。常闇とは真逆に見えるのその無邪気な性格が可愛らしく、クラスの女子などにも人気だ。
「良いぞ。と言っても遊べるものがな……絵でも書くか?」
「ここで、か?」
「ああ。絵を書ける道具は一通り持ち歩いているからな」
そう言って呼人は、鞄に本を閉まって代わりにタブレットを取り出す。最初の頃はスケッチブックに色鉛筆で絵を描いていた呼人だが、彼の描く枚数が異常に増えるに連れいちいちパソコンに取り込んでは保管するのが面倒になった神王寺がタブレットを買ってくれたのだ。
「なるほど、そういうことか」
「そういうことだ。ほら、黒影」
『オウッ! オレニマカセロ!』
呼人からペンを受け取った黒影は、拙いながらも絵を描いていく。それはひと目で何を描いているかわかるもので、故に呼人も使い方をアドバイスした。
「ほら、そこを押すと色が変わる―――違う、それはレイヤーだ。こっちだ」
やがて数分して出来上がった絵の中には、コスチューム姿の常闇と黒影の姿があった。稚拙な、しかし子供らしい絵だ。
「我とダークシャドウを描いたのか」
『ドウダ! ウマイダロ!』
楽しげに言うダークシャドウに、2人とも笑みをこぼす。他のクラスメイトのようにわいわいはしゃいでいるわけではないが、2人もまた、この空間を楽しんでいた。
******
1時間ほどしてバスが休憩場所に到着し全員が揃ってバスを降りる。呼人もトイレに今すぐ行きたいわけではなかったが、この後しばらくはそのまま走るという相澤の説明を聞いていたので一応降りたのだが。
「用を足せる場所があるようには見えないが……」
「あれ?B組はいねえのな?」
「何ここ、パーキングじゃねえな」
降りた場所はただの地面に土がむき出しの狭い広場のような場所で、トイレや休憩所などの施設があるようには見えない。
(なんかある……あの2人はヒーローとして後ろの子供はなんだ?)
鋭い五感でいち早くこの場にいる自分たち以外の人間の存在に気付いた呼人がそちらを振り返ると同時に、その人物らが名乗りをあげた。
『―――ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』
「今回お世話になる『プッシーキャッツ』のお二人だ」
「連盟事務所をそれも4人で構えるヒーロー集団! 山岳救助を特に得意とするベテランチームだよ!」
ポーズつきで登場したプッシーキャッツの2人に対して相澤は冷めた説明をし、緑谷は鼻息荒く彼女らの情報を並べ立てる。勢いを削がれた形にはなったが、2人のうちの一人、マンダレイが生徒の間を通り抜けて、広場の端、崖に面した柵の前まで言って話し始める。
「このあたりは全部私たちの所有地なんだよね。そんであんたらの宿泊施設はあの山のふもと」
そう言って彼女が指し示すのは、1キロではきかない距離の向こうにある山。それを聞いた生徒の一部が、顔を強張らせる。
「遠っ!」
「え? じゃあなんでこんなところに……」
「おいおい……なあ、バス戻ろうぜ?」
ザワザワと皆が騒ぎ始める中、マンダレイは続けた。
「今は午前9時半……早ければ12時前後かしら」
「やべえ……おい……」
「戻ろう!」
「バスに戻れ! 早く!」
その不穏な言葉を聞いて何か良くないことが起きると気付いた切島や芦戸が先導して皆がバスに向かって走るが、相手の方が遥かに速かった。
「12時半までに辿り着けなかった子はお昼抜き、よ」
マンダレイの言葉の直後、いつのまにかしゃがみ込んでいたピクシーボブの手元から発生した土の波が、生徒達を飲み込んだ。
何かあるのだろうなと察して身構えていた呼人は、土の波が襲いかかると同時に身を限界まで沈め、変化させた足と手で土の波の中を泳いでバスの屋根の上まで到達する。
モンスターの中には、今のようなほぐれた土どころかガチガチの地面や岩すら砕きながら泳ぐような化け物もいる。彼らの動きを身に付けている呼人にとって、たとえ地中での移動に適正のないオドガロンの力を使っても、波のようにほぐれ動く土の中であれば動くことは朝飯前であった。
「私有地につき個性の使用は自由だよ! 自分たちの足で施設までおいで! “魔獣の森”を突破して!」
呼人以外の全員が押し流された後、柵からそう叫ぶマンダレイの背中を呼人が見つめていると、柵のあたりに残っていた土の中から、柵の低い位置に体をひっかけることで崖下までは流されずに耐えていた2人が立ち上がる。
「うっ、と泥だらけだ……」
「手荒い歓迎だ」
障子と尾白だ。バスに向かって動いておらず森を眺めていた2人は、咄嗟に柵を掴んで体を丸め、土流に耐えることを選んだのである。下から掘り起こすように発生していた土に耐えられたのは、それぞれ尻尾と複製した腕を柵に絡みつけて腕以上の力で耐えていたからだろう。
「お前ら……」
「良いのがいるじゃんイレイザー! くぅー逆立ってきたー!」
生徒に林間合宿が始まっていることを示すための奇襲であったというのに、避けてしまった3人にその成長を認めながらも相澤はため息をつく。
「お前らもおとなしく行って来い。そうでないと始まらん。百竜、お前もだ」
「……へえ、やるじゃない。そんなところまで逃げるなんて」
マンダレイのすぐ近くで立ち上がった2人だけでなく、バスの屋根に呑気に腰掛けている一人の姿を確認してマンダレイは興味深そうに口角を上げる。
「了解です」
「む……耐えてはまずかったか」
呼人が2人のところに合流すると、改めてピクシーボブが土流を発生させて3人を押し流した。今度は3人も避けることなく大人しく流されていく。その様子を、上の3人は見守っていた。
「イレイザー、どれが前言ってた子?」
「屋根の上まで逃げてたやつです。他の2人はそいつと一緒に訓練をしている面子ですよ」
林間合宿の受け入れにあたって、全ての生徒の情報は事前に打ち合わせがすんでいる。その中で相澤は、イレギュラーとも言える実力を持った生徒のことを伝えていた。今対応できないだろうと予想していた土流に耐えきった者が複数名いるのを見て、どれがそのイレギュラーかとマンダレイは尋ねたのだ。
「なるほど……。面白くなりそうね」
******
一方、崖から改めて放り出し直された3人。土流の中で、複製腕で他の2人を確保した障子が2人を背中に載せ、尾白と呼人を背負ったまま土の中に着地しようとする。そんな障子の背中で動くと、呼人は障子が体勢を崩さない方向にその背中を蹴って前へと跳び出した。
「あっ、百竜!」
「先に行く!」
声を上げる尾白に一言だけ返して、呼人は下にいる何かわからないものに向けて手足を原寸大のオドガロンへと変身して落下していった。
一方の地表、森林の中では、突如として現れた魔獣に対して飯田、緑谷、爆豪、轟の4人が攻撃を始めて打倒し、先に進もうとしていた。そして未だに止まったままの者を襲おうと新たに魔獣が出現したところに、上から巨大な腕と爪を持つ何かが落下してきて、それを叩き潰す。潰された魔獣はもとの土くれへと戻っていった。
「何っ!? って百竜かよビビったー……」
巨大な腕と発達した足で一瞬何かわからなかったが、落下してきたのは呼人であった。先を急ぐ呼人が、敵の正体を確かめる為に早速一体屠ったのだ。そしてそのまま、足をいつもの大きさに戻すと地を蹴り、木の幹を蹴るようにして先に進んでいってしまった。
「っ! ウチらも行かないと!」
「そうですわね! 私たちも皆さんに負けてはいられません!」
その姿に鼓舞された他のクラスメイトも、先に行った5人の後を追うように走りだす。
他のクラスメイトから先を行く呼人は、早い段階で先行していた4人の頭上を飛び抜け、そのまま加速しつつ先を進んでいた。以前瀬呂に言った通り、モンスター達の力を借りてこういう動きをすることには慣れている。視界はトビカガチのそれを、鼻や耳はオドガロンのそれを借り、肌が空気を感じ取る。
そしてそれに応えるのは、大地を力強くかけるオドガロンと樹上を自由に跳び回るトビカガチの手足。
モンスター達の力を借りた体は、望んだ通りの結果を返してくれる。
空を跳ぶことも水中を泳ぐことも好きだが、こうして無数の壁をギリギリで躱しながら走り抜けるというのも呼人はかなり好きだった。
かなりの高速で宿泊所にたどり着いた呼人を向かえるのは、先についていた相澤だ。
「……荷物を部屋まで運んで着替えてこい。ここには女性もいる」
「了解です」
制服が完全に服の様を為していない呼人を見た相澤の一言目がこれである。下に着ているインナーやパンツ、靴は特注品であるため損傷していないが、他は一切が駄目である。
呼人と入れ替わるように中から出てきたマンダレイが、その後ろ姿をまじまじと見つめる。先程3時間と言ったのは、自分たちがそれぐらいで到着できるから。それを、この高校生は倍以上の速度で突破してきた。これを驚かずに何を驚けと言うのか。
「イレイザー……どういうこと?」
「イレギュラーです」
個人としての実力が高い呼人の存在は、雄英での演習の内容考案などにおいても懸案事項であり、こんな状況にも相澤は慣れたものだ。雄英においては呼人が個人的なこだわりによって力を制限している為にバランスが上手く取れているものの、それはそれで呼人にとってはよろしいものではない。
「訳ありって言ってたけど、どういう訳? 生半可なものじゃ無さそうだけど」
「……あいつは国外で育っているので、幼少期からプロヒーローにずっと鍛えられています。戦闘力だけで言えば下手なプロヒーローより高いレベルです」
尋ねてくるマンダレイに、相澤は淡々と自分の知っている事実を説明する。実際のところはジ・アドベンチャーの撮影した記録を見ているので呼人がモンスターの力を全開にした時の事もある程度はわかっているが、ヒーローとしての呼人の実力はそれではない。それは、むしろヴィラン寄りのただ破壊するだけの力だ。だから相澤は、呼人の評価は雄英でのことだけに限ることにしていた。それは他の生徒に関しても同じで、特別扱いをしているわけではない。
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「部屋広っ……男子全員一緒ってことか」
部屋まで荷物を運んだ呼人は、その広さに驚いていた。流石に雄英の体育館よりは狭いが、寝泊まりする場所でこれほどの大きさというのを見たことはない。ちなみに呼人は行ったことがないので知らないが、クラスの一部の生徒が期末試験前の勉強で入れてもらった八百万家には、今呼人のいる大部屋ほどではないもののたった数名の家族が使うには広すぎる部屋が複数ある。
ひとまず相澤の言う通り、一式特注のジャージに着替えて外に出る。当然のことだが、まだ他のクラスメイトは到達していない。呼人のスピードは、現状直線最高速の飯田や緑谷の速度で一切緩めないまま森を駆け抜けたようなものであるため、実力云々以前に真面目に魔獣と戦っている他のクラスメイトが到達するのはまだかなり先になる。更にピクシーボブの妨害も入るのでもっと遅くなるだろう。
なぜ普段は個性を全力で使わずにいる呼人がそれほどまでに急いだのか。それはひとえに、食事を取る必要があったからである。ここ最近の訓練、といっても放課後の訓練ではなく一人で夜している個性を制御する訓練において、複数のモンスターの内蔵を損傷した状態であるため、食事を抜くのはなかなかに致命傷であり、昼に間に合わずに食事抜きになることは避けたかったのだ。
ということで。
「昼食を作りたいので食材と調理器具借りても良いですか?」
相澤に昼食の用意はまだと言われた呼人は、マンダレイにそう尋ねた。
「んー他にも到達する子がいるか待っておきたいんだけど……何か急ぐ理由があったりする?」
マンダレイは、少し考えるようにしながらも探るように尋ねる。
「個性の都合でエネルギーを取らないとまずいので、それなりの量を作りたいので時間がかかります」
「どれぐらい?」
「米でもそれ以外でも良いので5人前は欲しいです」
ちなみに普段朝昼晩と最低5人前、多い時はそれ以上に食べている。
「それは多いわね……じゃあせっかくだから、私たちの分も作ってくれない?」
「……はい?」
思わずと言った風に尋ねた呼人に、マンダレイは楽しそうに笑って頷く。
「借りたいってことは君料理できるんでしょ? なら私たちの分もお願いしたいと思って。別々に作るのもあれだしさ」
「まあ、良いですけど。何人分ですか?」
「君の分と、私とピクシーボブとイレイザーと、後は……」
そう言ってマンダレイが周囲を見渡すので、探している相手が誰であるか予想がついている呼人は先に声をかけた。
「あの小さい子供ですか?」
「あ、うん、そう。あの子の分もお願い。特に好き嫌いはないから」
「美味しくなるかは保証しませんよ。まずくはしないと思いますけど」
「うん、それで良いからよろしくね」
渋る呼人に料理を任せて、マンダレイは相澤の方へと歩いていった。
その子供、今はその姿が見えない少年の顔を思い出した呼人は、その険しい表情を気にかけながらも早速料理に取り掛かることにした。
小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか
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欲しい
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勝手にニヤつくからいらない
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あまり興味がない