竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~ モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア 作:アママサ二次創作
B組との模擬戦が決まり、セメントスにステージを作ってもらう。TDLにはもともとは障害物が存在しないということで、体育祭のときと同じように平らなステージでの模擬戦となった。
「準備良いよ。地面が硬いからそれだけ気をつけてね」
『アナウンスはいるかあ!』
「いらないです」
『いるいるー!』
『んじゃ張り切っていくぜ―――!』
プレゼント・マイクが来てしまったことで半分お祭り騒ぎのようになってしまった。相変わらず騒がしいというか、エンターテイメントを忘れない教師だ。
「おし、なら最初は俺が行く!」
基本のルールはタイマン。勝利条件は体育祭に準拠、ただし故意に大きな怪我をさせた場合は反則負け。また一応のステージは設置してあるが、ヒーロー科の模擬戦ということで場外での負けは無し。ただし飛び出したら一度止めて仕切り直しということになっている。
そもそも相手は拳藤じゃないのかとか、お前はたしか鉄哲だったなとか思うことは色々とあるが、特段そのことに興味があるわけではないので呼人も黙ってステージに上る。『頑張れー』なんて呑気なことを言っている上鳴は取り敢えず後でしばいておく。
「A組には負けねえぞ!」
そう言われてなんと答えれば良いのか。クラスメイト相手ならば軽く煽るような軽口も言えるのだが。『よろしく』と短く返しておく。ステージのすぐ外では、体育祭の時よりも遥かに近い距離で上鳴とB組の面々が見学している。ぶっ飛ばしてカチ当てないようにしなければと、呼人は最新の注意を払うことを決める。
『YEEEAH!! 準備は良いかあ!! READY―――STAAAARToo!!』
始めの合図と共に鉄哲が呼人に向かって突っ込んでくる。確か呼人が覚えている限りでは彼の個性は切島のそれに類似していて体を硬質化させるものであったはず。体育祭では切島と殴り合って相打ちになっていたので、硬度も恐らくそれほど変わらず、また耐久限界も何らかの形であるはず。
そもそも硬化系の個性は、呼人の予想では体内は硬化していない。血まで硬化すると大変なことになるからだ。そのため打撃の衝撃自体は内部にも通るはず。あるいは超常の個性らしく『血などまで固まった』上で『問題ない』という超常現象になっている可能性もあるが。いずれにしろ、殴ってみればわかる。
「おおおらぁぁぁぁ!!!」
叫び声を上げた鉄哲の拳をするりと躱して懐に潜り込み、硬化して耐えるであろう相手に対してその顔面にほぼ真下からフルスイングのアッパーを当てる。やはり当たった顎部分だけでなく首や体全体まで硬化しているようで、大きくのけぞったりするのではなくそのままの姿勢で数メートル宙に浮いた。
切島もそうであるが、この硬化系二人組は無意識のこわばりに対して全身が固くなってしまうという特徴を持つ。その分消費も激しくなってはしまうが、こういう、本人が反応しきれない攻撃から身を守るのには役立つ。
だが、宙に浮いた相手はかっこうの追撃対象になる。鉄哲が体を固めて呼人の方を見ていない間に後を追うように跳び上がった呼人は、その腕とコスチュームを掴むと着地の勢いのまま地面に叩きつける。普通の相手ならしないが、彼ならば大した怪我にはならないだろうという予想が出来ていた。
案の定、叩きつけられた勢いで地面を砕きながらも鉄哲は普通に立ち上がった。地面に思い切り叩きつけられたことであまり良い気分では無さそうではあるが。
「強え……けど負けねえぞ!」
そして再び自分を鼓舞すると呼人に向かって突っ込んでくる。切島もいたく気にしていたが、2人の個性はただ硬くなるだけ故に、自分よりも動きが上の相手とやるのはめっぽう不得意だ。そもそもが動きについてこれない可能性すらある。
現在もそうで、鉄哲の本気に固めた腕や拳を呼人は受けきり、良い所で両手を跳ね上げて上体をフリーにさせる。そして半ば万歳するような姿勢で上体の起き上がったその胸の部分、平らに広がっているところに思い切り回し蹴りを叩き込んだ。それはもう面白いぐらい飛んだ。呼人は個性を使っておらず素の状態だったのだが、それでも鉄哲の側に一切の抵抗がないタイミングでの渾身の蹴りに、吹き飛ばされた鉄哲は地面についた後もゴロゴロと転がっていく。
尾白など手練と戦っていると、ここまで綺麗に力を伝えきるというのはなかなかに出来ないのだが、鉄哲がそこまで格闘術に優れていたわけではないので綺麗に決まった。
それでも鉄哲はけろりとした表情で戻ってくるのだが。硬化するというのは、呼人が思っていた以上に高い防御力を獲得するものであったらしい。少なくとも個性を使わない状態の打撃で割り切るのは手間だと感じるぐらいには。
「効かねえぞ! 俺は切島と同じぐれえ硬いからな!」
「俺の方が、とは言わないんだな」
「あいつはすげえやつだ!」
「そうか」
だから呼人は、両腕に巻いてあったロープを少し解いて垂らす。その先端には、特殊な形状をした小さな金属の金具がそれぞれ取り付けてある。半分はアタッチメントとして鉤縄やカラビナなどを取り付けるための器具であり、そしてもう半分の用途は―――
―――ロープを自由に操るための、おもり。
懲りずに突っ込んでくる鉄哲に対して、呼人は左右の手それぞれに持った金具を交互に投擲した。それぞれ手首のひねりを受けて投げられた金具は、そのアシンメトリーな形もあって空気抵抗を受け空中で曲がる。それに合わせてロープの放出を止めて曲げた呼人は、それを操って突っ込んでくる鉄哲の右手と左足にそのロープを巻き付ける。その動きはまるで―――
「あれ? なんで百竜あの動き……」
さながら相澤の操る捕縛布のように。布の動きとは違って見えるが、所々に似た動きが見受けられる。それに気付いたのは、上鳴とマイク、そして教師陣。
適切なタイミングを見計らってかけられる力によってロープはあっという間に鉄哲に巻き付き、その手足の動きを阻む。ロープによる拘束術というのは面白く、ただ結ぶのではなく人間の体が動く時に同時に動いてしまう部位を互いに結び合わせることで『動くこと』そのものを出来なくしたり、人間の力がかからない向きに固定してしまうような技術がある。相澤の捕縛布のように伸縮性に富んでいて拘束力が高いわけではないが、ロープ一本あれば人間など簡単に拘束できてしまう。
ロープを操るだけで、というわけにはいかないが、格闘戦に来てくれるなら避けながら縛ってしまえば良いのだ。
「鉄哲君動ける?」
「動きたいけど動けねえっす!」
体育祭同様審判役を買って出たミッドナイトが鉄哲に確認を取り、呼人の下で縛られて拘束された鉄哲は悔しそうに応える。
「鉄哲君戦闘不能! よって勝者百竜君!」
そうミッドナイトの言葉があってはじめて、呼人は鉄哲を拘束しているロープを緩めた。ほどいたロープは再び腕の周りに巻きつけていく。ここをしっかりしていないと投げた時に飛び出していかないので丁寧に巻いていく。
「百竜、お前強いな。いやすげー奴だってのは知ってたんだけどよ」
「ありがとう。鉄哲は体術をもっと学んだ方が良いな。切島もそうだが体を自由に固められる利点が生きてない。あくまで対人戦の話だけどな。体を固められる利点を上手く使えばもっと戦える」
「お、おう。頑張るぜ」
初対面の相手に丁寧な呼人の言葉に鉄哲は驚くが、呼人にとってこれぐらいの分析は普通のことだ。どうやれば勝てるか、どう戦うか、どう有利にことを運ぶか。その基本は丁寧な分析にある。もはや意識してするというよりはその場、あるいはその相手ごとに自然と考えが浮かんでしまう病気のようなものではあるが。
鉄哲と呼人がステージを降りた後、鉄哲の体で削られた部分を含めてセメントスによって修復される。
「なんかいつも以上に容赦なくね? 殴って大丈夫な感覚つかめたって言ってたけどそれ?」
「いや、鉄哲ならどう殴っても怪我しないだろうと思ったから結構本気でいった。アッパーとかも他の相手にあんな勢いで打つと首痛めるだろうし」
「ああ……浮いてたよな結構」
試合開始早々に呼人が放った一撃。鉄哲の腕をすり抜けて真下から鉄哲の顎を打ち抜き、何か柔らかいものを殴ったかのような音がした。実際は柔らかいもので硬い物を殴ったのだが。結果鉄哲がそれなりに宙に浮き、上鳴以外のB組の面々は若干表情が引きつっていたように思う。
「後叩きつけるのとか蹴りとかも全然容赦無かったし」
「鉄哲がどれぐらいで抜けるかってのは気になってたからな。結果素手じゃあ厳しいのはわかったわけだし」
「そういや、あのロープの奴……」
上鳴の言いたいことを察した呼人は、首を横に振る。
「便利なところをなんとか真似してみようと思っただけだ。実際相澤先生みたいに遠距離で捕縛するのはまだ時間がかかるし、あそこまで自由にも使えない。まあ俺は格闘戦に入り込めるからそういう意味では俺流の扱いではあるけどな」
「……やっぱ百竜に手伝ってもらった方が良いみたい」
「何を言ってるんだ?」
呼人が首をかしげていると、拳藤から声をかけられる。次の相手が決まったらしい。このままでは何戦すれば良いかわからなくなりそうだが、上鳴が特に何も言い出さない以上呼人に断る理由は『めんどくさい』以外にない。そして別に戦えるのであればそれほど時間の無駄とも感じない。
「てことで次は私ね、よろしく」
「よろしく、何さん?」
「私は取蔭切奈。呼び捨てで良いよ」
「ああ、じゃあよろしく取蔭」
二人目の対戦相手は取蔭というB組の推薦組の生徒。ただ呼人はその名前も知らなかった。だから個性もわからない。コスチュームを見るに爬虫類系の体表のような見た目をしているので、その手の変身系か異形系だろうか。
「でさ、ちょっとルール変えても良い?」
「良いぞ」
「ありがと」
呼人が特に考えずに頷くと、取蔭がニヤリと一瞬笑い、彼女のクラスメイトからも一瞬笑いと呆れたような表情が漏れる。彼女の容赦の無さを知っているだけに、頷いてしまった呼人の軽率な行動を見て憐れみ半分知らない相手にも容赦の無い取蔭への呆れ半分と言った様子だ。
「じゃあ勝利条件はこのタグの奪取ね。それぞれ一個ずつ好きなところに付けておく。ただし見えない位置はだめ」
「わかった」
「言っとくけど、これめっちゃ私に有利なルールだよ。やめとくなら今だけど?」
「別に……負けるなら負けるで反省が出来る。面白い方が良い」
そう応えると、取蔭は気に入らないと言った表情を見せるがすぐにニコリと笑ってみせる。なんというか、素が怖そうな女性の典型とでも言えば良いのだろうか。上鳴なんかは『怖え~』とふざけている。自分が相手しないでいいからと気楽そうだ。
それぞれに呼人が赤、取蔭が青のタグをつけ、2人ともセメントスが新しく作ったステージにあがり相対する。マイクと上鳴、B組の他の生徒なんかがはしゃいでいるが、呼人はそれらを感じながら、得意げな取蔭の表情やB組生徒の表情について考えていた。先程呼人が鉄哲を倒した直後は少し雰囲気が固くなっていたが、取蔭が持ちかけてきた内容に呼人が頷くと一気に安堵した空気が漂った。
このルールで圧倒的に有利であるとすれば、体の一部分を自由にワープさせられるとかだろうか。例えば呼人がタグを吊るしている場所、腰の前だが、そこに手のひらだけワープしてきて奪うとか。それであれば非常にめんどくさい。ただ相手本体がワープできないのであれば本体をぶん殴ってから考えれば良い。後はそのワープによってタグを届かない場所に飛ばしてしまうとかだろうか。流石にTDLの外まで出されると呼人もイラつく。
他にあるとすれば、空気を操ってタグが自然に外れて飛んでいってしまうなどだろうか。タグとりと言えば少し違うが、まだ幼い頃に精神世界でだが『タグ取り』ならぬ『虫取り』合戦ならしたことがある。特殊な虫をそれぞれ服の胸のところにつけてそれを奪い合うのだ。一番ずるかったのは、そもそもその虫を操れるモンスターが何もしないまま勝ったことだろうか。流石にあれを超える理不尽さは無いと思いたい。なにせタグが呼人の手を自分で避けて飛んでいってしまうのだ。一体どうしろと。
ついつい思い出にふけっていたからだろうか、気がつけばマイクがスタートの合図を叫び始めていた。そして直後、取蔭の体が数十個に分裂し宙へと舞い上がる。
「そーいう……!」
予想していなかったパターンに呼人は思わず笑いながら、右手からわずかにロープを垂らす。分裂した小ささとしては腕、とかそういう大きさではなく、それこそ肘から手のひらまでが3個以上に分裂しているようなレベルでの小ささだ。
そして呼人は、睨み合った顔のまま下からこっそり近づいてきていた手のひらをタグにふれる直前でつかみ取り、その手のひらと互いにつかみ合う形にして捕獲する。
算段はわかった。であれば、タグを『取る』必要がある以上何かで挟まなければならない。そして当然ながら手が一番効率が良い。上に浮き上がって更に左右に展開して視線を引きつけたあたりまでは良かった。更に止まるのではなくふわふわと動き、更に胴体部分と合体したり離れたりと目を引く行動をしているところは褒めていい。
だが一番有用であろう手を最初に使ったのはいかがなものだろうか。
そう考えながら呼人は、更に頭上から忍び寄っていたもう一方の手を捕まえる。
今度こそ、取蔭の表情が明らかに強張った。二段構え。初手を防いだことで安心、あるいは慢心させての一撃。基本的に頭が回るのだろう。おそらくは『呼人が下から来たほうを捕まえる』ことだけでなく、『手の重要性に気付いている』ことまで想定した上での作戦。
さてお返しと呼人は両手につかみ合う形になっている取蔭の手のひらを思い切り握り込む。それほど鍛えているようには思えない手のひらは、ガチガチに固まっている呼人や男性人格を持つモンスター達のそれとは違って、女性特有の柔らかさを持っている。呼人の握力で握り込まれれば、悲鳴はあげないまでも顔をしかめるぐらいはするはず。
そう考えたのだが、取蔭は再び不敵な表情に戻ってこんどは宙に漂っていた手のひら以外のパーツを飛ばしてくる。それなりに速い。そして数が多い。
それが、呼人に向かって交互に体当たりをしかけてきた。1つ1つの威力は高くはないが、その衝撃はかなり鬱陶しい。呼人はそれを、手のひらは埋まっているので足と肘、肩、頭などを使って器用に弾いていく。特に腰前に来る分は膝を使って弾いておく。むしろ背中や頭にちょっかいをかけてくる分はどうせ手を取り返したいか腰前から気を逸したいだけだろうからどうでも良い。のだが。
(暇だな。そもそもハルドの方が遥かに速くて重いし数も多い。やり方を変えるか)
残念ながら似たようなものは既に経験した事がある。だから呼人は、握り込んでいた手のひらを適当に空中に向かってリリースすると大きく飛び下がる。そして飛び下がりながら手にしたロープを鞭のように思い切り振り回した。それにひっかかって複数のパーツの動きが止まる。
「なあ、これ怪我させても大丈夫か?」
「そんなの教えるわけないじゃん」
「あそう」
怪我させても良いのであれば思い切りロープを振り回して全てはたき落とすのだが。恐らく彼女は体のパーツをかなりの精度で自由に操っているのだと思う。実際こうしている間も、顔のうち片目だけがどこかに行っている。そちらで索敵も出来るのだろう。あるいは耳や鼻も飛ばせるとすれば、障子とは別系統だが同等かあるいは以上の索敵能力を持つ。
だがだからといって、超高速で振り回される鞭のようなロープの動きに反応できるわけではない。反射神経なんかはあくまで彼女のものだ。実際ぶつかってくるのも手を狙ってきたりするのではなく『ぶつかる』という程度のものだった。
ぶっ壊せないのであればちょうど良いと呼人はしばらく様子見をしながら結界でも作るかのように右手のロープを縦横無尽に振り回す。一定の射程内は、入ってきたら基本的に叩くぞと。それでも体当たりを仕掛けてくるパーツの一部は突破してくるが、2本の手は手を拱いている様子だ。
(叩けば止まるのもありがたいな。流石に液体金属とは話が違うか)
馬鹿げているかもしれないが、呼人の変身できる司銀龍というモンスターは、彼女が体のパーツを飛ばしているのと同じように流体金属を自由に、自由な規模で飛ばす。そして、それをハルドという人格を持ったモンスターが自由に扱うともはや手のつけられない結界のようになる。ちなみに結界の射程は自由自在だ。そんな相手と、本気で手合わせた事はあまり多くはないが、小さい頃は精神世界で遊ぶにはちょうど良いとよく遊んでもらっていた。それを考えれば―――。
とはいえ、こうしているままだと呼人にも勝利する術がない。個性を使わないという縛りで勝手にやっているのだが、さてどうしたものかと考えていると。
「ヒャクリュー! そろそろ本気出せよー!」
そう外から上鳴が声をかけてきた。
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騒がしく外で騒いでいた上鳴だが、いざ試合が始まればいつものへらへらした顔を貼り付けたまま真剣に試合を見ている。他のクラスメイトの動きをよく見ろとは相澤にも言われているし、何より呼人はクラス1、個としての動きがうまい、らしい。上鳴もなんとなくはわかるのだが、大体は八百万や緑谷など他のクラスメイトからの受け売りだ。
故に百竜が戦うというのは、彼にとっては格好の見学材料であるし、なんなら室内の映像をもらうことまでエクトプラズムと約束している。自分一人だけで見るのはもったいない、他のもっと分析のうまいクラスメイトと一緒に見たいと考えたのだ。
だから、鉄哲と戦ったときも呼人の細かい体術や攻撃の本気具合に気付いていたし、今こうして取蔭と戦っているときも、呼人が何をしようとしているかに気づき、そしてさっきからまた個性を使おうとしない前の呼人に戻っていることにも気付いていた。
まだ本気の呼人が見れないかと残念がる上鳴に拳藤が話しかけてくる。
「うちの取蔭もなかなかやるでしょ?」
「すげーな。個性もそうだけど、うまく相手のしたいことさせないっつうか。俺なら適当に近づいちゃうだろうけど、目とかはちゃんとよく見えるところから見てる感じ」
「取蔭は頭良いからね。特に演習とかでの頭の回転が凄い。まあたまに嫌らしいんだけどさ」
ステージの上では、呼人が体当たりをしかけるトカゲのパーツに防戦一方になっているのが見て取れる。最初の奇襲こそしのいだが、その後は如何とも出来ないようだ。
やがて見ているうちに、百竜は鉄哲を拘束したロープを手から垂らしてそれを振り回して取蔭の攻撃を避け始めた。避けきれないからこそ無理やり払いのけようとしている。
上鳴にはそうは見えなかった。だってあいつは、これまでもずっとこうして個性を使わないでも強く戦ってきて。
だが個性を使えば、もっと強いのだ。
「ヒャクリュー! そろそろ本気出せよー!」
拳藤や他のB組の生徒が不思議そうな目で見ているが構うものか。あいつの本気が見たいし、何よりあいつがずっとやられているのは見ていたくない。
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上鳴に言われた直後に個性を使って勝ちを狙うことを決めた呼人は、少しの後にしゃがみ込み、上に向かって発射される。ジャンプ、ではない。ちょっと裏技的な個性の使い方だ。
基本的に呼人が『変身』するとき、あるいは手足を変化させるとき、これまでは『実際にある部位が大きくなったり変質したりする』ように考えてきたというのは、以前も言った通り。だが新しい個性の使い方において、『変化させる』のではなく『瞬間的に入れ替える』という動きが出来るようになっていた。つまり、手を頭に変化させるとき、手が成長して頭の形になるのではなく、その瞬間に人間の手とモンスターの頭が入れ替わるのだ。そのためにいきなり巨大な状態で出現していた。
だから発想を逆にすれば、普通に手足を使う場合でも『成長、変化』させるのではなく、『瞬間的に入れ替える』事もできるのだ。
そしてこの『入れ替えた』とき。例えば手を壁に当てた状態でより大きなモンスターの頭に変化させたとき。
位置的には頭が壁にうまる形になるのだが、物理的にそれはありえない。従ってそうなったときには、体の方が重ならない位置まで押し出されることになる。
そしてこの押し出されるの動き。重なる体積が大きいほど、だと今のところは推測しているが、大きければ大きいほど呼人の体が動く速度が上がる。
よって今、思い切りしゃがみ込み、それ以前から頭の中で練っていたイメージを使って腰から下に原寸大のオドガロンの足を、それも2本ではなくより多数、むしろ腰の下からオドガロンの下半身が生えるイメージをしたため、はじき出される勢いはオドガロンの力を使って自力で跳んだ時よりも速い。そして通常であれば重ならない位置まで移動したところで止まるのだが、重ならなくなった地点からモンスターのパーツを無くす。それによってかかる力に対して質量が小さくなり、その分押し出される力のまま射出されるようになる。
「はぁっ!?」
呼人がいきなり消滅したことに取蔭も驚愕の声を上げる。
高速で跳び上がった呼人は、目処を付けていた空中の、体当たりをしているパーツよりも更に上方に漂っていたパーツに向かって手を伸ばす。匂いでわかっていた。そこにだけは、試合前にタグに触れたミッドナイトの匂いが残っていたのだ。
だが取蔭もさるもので、流石に手を伸ばしただけでは避けられてしまう。だから呼人は、最初に左手でロープ先端の金具を。そして右手で続けて同じものを投擲する。左手で投げたものが取蔭のもとへと逃げていくパーツを掠め、続いてより高速で飛んだ右手の金具が左手で投げたそれにぶつかり方向を転換させる。
そしてそれを狙っていた呼人は左手のロープをタイミングを見計らってぴんと張り、そのまま『取蔭のパーツを起点として』巻き付くようにする。
結果、タグのついた取蔭のパーツは呼人の手から伸びたロープが巻き付き、そっちへと引っ張られる。1パーツで人間を引っ張り上げる力は無いようで、呼人が思い切り引くと手元に向かってすっ飛んできた。
そしてタグを確保。この間跳び上がってから2秒も経っていない。
「やべえよあいつまじで」
トンと軽い足音で着地した呼人を見てB組の生徒が唖然とする中、上鳴はポツリと漏らす。取蔭も、あの個性と拳藤が言うにはクレバーな性格もあってB組ではかなりの実力者なのだろう。実際2人の推薦組のうち1人ということは、タイプは違うが八百万や轟と同じレベルなのだ。
自分が戦うとしてもあそこまで小さくなられると今は適当に放電して退けるしか出来ないだろうし、索敵能力ではとてもではないがかなわない。それらを十全に使えるのであれば、A組の誰が相手でも手こずるだろう。
だが多分、呼人だけは違う。自分がその個性を持っていればどう扱うかということを突き詰めたレベルで考える。例えば取蔭の個性では、上鳴では予想もつかないが、完全に一つ一つのパーツに意思を通しての操作だろうか。
そしてそんな予想を立てるものだから、当然それに対する対策は、本来の取蔭の使い方に対する対策よりも更に先を見据えている。その個性で出来る事の見極めも行う。だがそれと同時に最大限に活用した場合も常に想定している。
戦闘能力、個性の使い方、頭の回転、個性の強力さ、そして強さへの執着。全てトップクラス。クラスではそのナンバーワンへの渇望とストイックさが尊敬の目を集めている爆豪ですら、呼人には敵わないだろう。
「ヒャクリューお疲れ! お前やっぱすげえのな!」
そう声をかけると、事も無げに呼人は頷く。もうどこにも個性を使っていた跡は無い。
「ん、ああ。飛ばれるとどうもな」
「でも勝ったじゃん」
「勝ちパターンがそれしか思いつかなかった」
「いや十分じゃん飛べる相手に」
「エクトプラズムに飛べる相手でもどうにか出来るようになるって宣言したからな」
もう少しなんとか出来たと思うんだが。そう言って頭を悩ませる様子は、とても勝った人間とは思えない。
「さっきの最後の……」
拳藤に声をかけられて呼人はそちらを振り返る。
「さっきの最後のってさ、百竜の個性、だよね?」
「ああ」
「じゃあそれまでは使ってなかった、ってこと?」
「ああいう動きが出来るってわかったら警戒されるからな」
だからそれまでは個性を使っていない、と。暗に告げる呼人に拳藤含めB組の面々は息を呑む。
「なあ、じゃあ俺とやった時も使って無かったんか?」
「使ってないぞ」
「お前、本気出さねえなんて男らしくねえぞ!」
そう噛み付いた鉄哲に、上鳴は懐かしい物を感じる。自分たちも最初はそんな鬱憤をためて、呼人にぶつけたことがあるのだ。今でも爆豪や尾白などそれが気に入らないというものはいるが。ただそれは呼人に噛み付く方向ではなく、自分たちが如何に全開を使わせるかという方向に向かっていた。林間合宿では更にその上のレベルを見せつけられたのだが。
「個性の出力を制限するのは誰でもすることだろ? それに俺の個性は俺にとっては体の延長にあるから体術を鍛えるっていうのが一番強くなる近道なんだよ」
「これは試合だぞ!」
「実戦じゃないだろ」
試合の時は本気を出せという鉄哲に、呼人は実戦以外は鍛える場でしか無いと返す。価値観の相違。以前体育祭前、轟に声をかけられたときにもあった。何を目指しているのか、どこを目指しているのか、それがはっきりと、どれくらいの明度で見えているのかという話だ。呼人の鍛える理由は、ただ強くなる事でしかない。だからそれ以外の、例えば模擬戦で勝つとか、トーナメントで優勝するとか、そういうのは正直どうでもいい。
「お前、嫌な奴だな!」
「どうも」
どストレートに言った鉄哲にさして気にもせず呼人は返す。そんな2人を見かねて、上鳴が間に入ってくれた。他のB組の生徒がかたずをのんで見ているのを見かねての行動だ。
「もー百竜お前はちゃんと説明しろって。そういうのは」
「話すと長くなる。せっかく見たことない相手とやれるのに時間がもったいないだろ」
「話さないから揉め事になってんでしょうが」
上鳴の言葉に呼人は言葉に詰まる。確かに今、それで文句を言われているところなのだ。
「説明出来ないなら電気くんが代わりにしてあげましょうか?」
「頼む」
「待って頼まないで。お前なんで煽られてんのに簡単に頼むの」
爆豪ならブチギレてやってくれんのに、と上鳴は言うが、呼人はあそこまで負けず嫌いではない。とはいえ、任せるようなことでは無いので呼人は短く説明することにする。
「今、この試合に勝つかどうかは俺にはどうでも良い。試合の中で、自分の今できることを確認して、今できないことを確認する事の方が大事だ。鉄哲の試合では鉄哲の硬度は自分の力じゃ貫けないけど拘束なら出来るのがわかったし、取蔭の試合なら上からの攻撃への対応は出来るけど自分の側からも有効打が打てないのがわかった。それが手抜きに見えたなら謝るが、これからもそのスタンスは変えるつもりはない」
個性を使って模擬戦をするときもあるだろうが、それだってどれくらいの強さで使えばどれくらい体が諸処の動作についてきて、それで相手にどれぐらい対応、あるいは有利に立てるのか、ということを確認する意味合いしか無い。勝ちたいから、なんてのは、少なくとも個人のレベルではほとんど考えない。チーム戦になれば仲間への配慮はするが。
体育祭で個性を使ってみせたのは、A組で多少とも受け入れられるような下準備としてと、本気で来るという相手に対して自分も向き合おうとしたためである。また特にあの2人に関しては、多少なりとも使わないと厳しいと感じていたのもある。上鳴なんかもその枠になるが、人間の基本性能だとどうしても無理なところがある相手には個性を使うのだ。
呼人の説明を聞いた鉄哲は、何を思ったか勢いよく頭を下げてきた。
「すまねえ! 勘違いしてた!」
「は?」
「あん時の爆豪みたいに下に見て本気じゃなかったのかと思ってた! 本当にすまねえ!」
「あん時……ああ、前廊下に人が集まってた時の」
そう言えば、何か爆豪が暴言を吐いていたと思い出す。その時のことを鉄哲は言っている。
「なんかわびさせてくれ!」
「わび?」
「ちょっと鉄哲、百竜困ってるよ。いきなりあんたの熱血で言われてもわかんないでしょ」
「でもよ拳藤! 俺百竜にひでえこと――!」
「まずはちゃんと謝っときなって。あんたからそれ押し付けても駄目だからさ」
思い切りわびなどと言っていた鉄哲だが、拳藤に諭されて改めて呼人に謝る。呼人も別にどうとも思っていないし、めんどくさがったのは自分の方なので特にわびを求めようとも思っていなかった。
「俺の方もA組相手のつもりで適当になってた。悪かった」
呼人も謝って一件落着、となった所で、今度は遠巻きにしていた他のクラスメイトも交えてちょっとした歓談タイムとなる。
最初にするのはちょっとした自己紹介。呼人の方の話は上鳴が楽しく話していてくれたのであまり聞かれなかったが、B組の生徒にはそれぞれ名前を聞いた。見学してたのは、小森、小大、角取という名の3人の女子生徒と、鱗、円場という名前の2人の男子生徒だった。それぞれ女子の方は女子で仲良く、そして男子の方もものは違えど何某か固めた物を使う者どうし自主練をしていたらしい。
そして話は当然ながら呼人の個性の話へと移っていく。というかやはり皆そればかり興味津津らしい。派手な轟や爆豪、わかりやすい上鳴なんかと違い、体育祭でもわずかに片鱗しか見せていない呼人の個性は当然ながら興味の対象となった。
「それで、百竜の個性は結局何ノコ? 上鳴に聞いても教えてくれなかったノコ」
「あーまあA組でもしばらくは秘密にしてたし気をつかってくれたんだな」
「さっきのハイジャンプを見るにパワーアップの個性デスカ?」
主に勢いの良い女性陣の勢いに呼人もタジタジである。
「はー……あのルールなら勝てると思ったのに結構ショック」
「お疲れ切奈」
「お疲れー。なああれってさ、パーツが一個でも感電したらダメージある?」
「え、どしたの上鳴。熱でも出た?」
「ちげーよ! 俺ならどう戦うかなと思ってさ―――」
上鳴の方は上鳴の方で楽しく話しているようで助け舟は来そうもない。腹をくくった呼人は取り敢えず言葉で説明する。
「個性は『モンスターになる』っていう個性だ。さっきの動きはその応用」
「モンスター、って何ノコ?」
「オー小森サーン、モンスターと言えばゴジラ! 後はカイジュウもモンスターですよ!」
「良くわからないノコ。なってほしいノコ」
「私も見たいデース!」
「……怖がるなよ」
ため息をついた呼人は一歩飛び下がると、オドガロンの姿へと変身する。鉄哲含めた男子陣や拳藤、取蔭もその姿には視線を吸い寄せられていた。
やがて呼人はトビカガチの姿にも変身し、その後人間の姿に戻る。
「結構大きかったノコ」
「ソービーッグ! ほんとにモンスターデース!」
事のほか好評である。この個性社会において、異形の存在というのはそれほど珍しいものではない。呼人が気にしているような事は、意外と大丈夫なことなのであった。
小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか
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欲しい
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勝手にニヤつくからいらない
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あまり興味がない