竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~ モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア 作:アママサ二次創作
文化祭が終わり、また通常の学校が始まる。そして呼人の個人的な訓練もまた毎日行われていた。のだが。
「放課後手合わせ出来ないか」
本日は、朝轟に声をかけられていた。
「手合わせ……演習場を借りてるがそこで良いか?」
「ああ、それで構わねえ。個性使いたかったからむしろ助かる」
「良いけど先生に見てもらったほうが良いんじゃないか。本気だろ?」
「そうだな。誰か先生に頼んどく」
「オーケー。じゃあ放課後になったら一緒に行くか」
そんな会話が交わされて放課後。学活が終わると同時に呼人は席を立って轟のところへ行く。と、ちょうど轟に用があったのか飯田や緑谷も集まってきていた。
「―――悪い、今日は百竜と模擬戦の約束してる」
「え、そうなの!? 僕も見に行っても良いかな!?」
「うむ、俺も是非見せてもらいたいものだな」
「良いか? 百竜」
呼人が近づいているのに気付いた轟が確認を取ってくるので、呼人も頷いて返す。
「良いぞ。別に見られて困るもんじゃなし」
「ありがとう! 2人の本気の戦いどうなるんだろう。轟くんが最近鍛えてるのは体術でそれは確かに―――」
「緑谷君、まずは見たほうが良いのではないか?」
「そ、そうだね。ごめん2人とも」
「じゃあそろそろ行くか。轟、先生は?」
「マイク先生に放課後呼びに行くって言ってある」
そうか、と轟が準備するのを待っていると、今度は斜め後ろの席で話を聞いていた八百万が話しかけてきた。
「あの、お2人とも、私も模擬戦見せて頂いてもよろしいですか? 是非今後の参考にさせていただきたいのです」
「別に。今後も特に俺が誰かと訓練してるときは何も言わずに見学していいぞ。一人でしてる時はちょっと困るけど」
「……俺も、問題ねえ」
戦闘者2名、見学3名。更に、話を聞きつけた他のクラスメイトも後で見れるようにと映像記録をもらってきて欲しいと頼んできた。それは見学の3人が率先して引き受けてくれることになった。
******
『オーケーリスナー!! ルールは先に相手を戦闘不能にした者が勝ち! やり過ぎるのはタブーだぜ!』
「了解です」
「わかりました」
離れた位置の地下にあるモニタールームから映像を見ているマイクからのアナウンスをもらい、2人は共にうなずく。呼人のコスチュームは以前と少しだけ様相を変えたものの、ファンタジー然とした見た目は変わっていない。実際には以前のものを改良したのではなく、新規に作ったものなので以前のコスチュームも残っている。
新しく作ってもらったのは、モンスター達の世界では『シーカー装備』と言われる装備を模したものだ。ただし、まず改良点として両腕の籠手がロープを巻くためにかなり小ぶりになっており、ロープを巻いても腕が太く見えないようになっている。またそれに合わせて、足、正確には膝下から足首にかけても予備のロープが巻き付けられている。また体のあちこちに、救助作業の際などに使えるようなカラビナと、ロープを引っ掛けるためのパーツが用意されている。それ以外の基礎性能は全く以前のものと変わらない。
一方の轟もまた、コスチュームが大幅に変更されていた。まず、右腕を肘のあたりまで覆う硬質な籠手が装備されている。そして肘の部分には、ノズルらしき筒のついだサポーター。またそれとは別に、肩のあたりを覆うサポーターが追加されている。右足も同様に膝下あたりから足の先までを硬質なブーツと、ふくらはぎから踵のあたりにかけてノズルが数本装備されており、股関節付近にサポーターを装備している。またそれに合わせてコスチュームのラジエーターが強化されており、熱、冷気を全身に伝導できるようにコスチューム縁などを細いチューブが走っている。総じて、以前のシンプルなコスチュームに比べてかなりいかつくなったと言えるだろう。
ちなみにこの轟のコスチューム、お披露目は今日が初であり、演習などでお目にかかったことは一切ない。事前に戦闘スタイルでアドバイスをしていた飯田だけが足部分を見たことはあったが、それでも全身を見るのは初めてだった。
「お2人とも随分コスチュームの様子が変わりましたわね」
「うん。百竜君の方はマイナーチェンジって感じで大きく変わったところは無いと思う。強いて言うなら足にもロープを巻いてるところだけど多分予備なんじゃないかな。けど轟君は多分コンセプトが全く変わってるんだと思う」
「ああ、あれは俺もとても驚いたぞ。なるほど、しかしああするのであれば腕の方も使えるのか」
3人で唯一そのしようとしている事を知っている飯田の呟きに、八百万と緑谷が視線をそちらに向ける。
「飯田君知ってたの?」
「ああ、俺は彼のスタイルについて相談を受けていたからな。全体像を見たのは初めてだが、なるほど納得できるスタイルだ」
「あの、どのようなものか教えて頂けますか?」
「うむそうだな。正直見た方が速いと思うが、一言で言えば炎をそのまま利用するのをやめた、と言ったところだろうか」
炎をそのまま利用するのをやめる、と意味深な飯田の言葉に、2人が顔を見合わせる。正確に言えば、轟は炎の力もまたこれまで以上に正確に制御し、そのまま放つことも可能になっている。だが、それだけでは駄目なのだと、エネルギーとしての炎を利用しようとしているのだ。
「何にせよ、これまでの轟君とは大きく違うだろうな」
飯田がそう言った直後。
『STAAAARTOOOOOO!!!』
プレゼント・マイクの騒がしいアナウンスとともに、試合が始まる。
******
試合開始時、2人の位置は100メートルほど離れていた。大規模な能力を持つ轟に対して、近場から始まったのでは自分に有利すぎると呼人が主張したのだ。
先手を打ったのは轟だった。叩きつけた左足から氷を生成し、呼人に向かってぶつける。それを左右に飛んで避けながら距離を詰めてくる呼人に向かって数度氷を放った後、呼人の方に右足を向けて一歩踏み出す。
そして、試合開始から溜め込んでいた炎を解き放った。爆発的な炎の膨張が地をなぞる。
それを見ていたモニタールームでは驚きの声が漏れていた。
「あれ、いつもの炎じゃない! 爆発みたい、かっちゃんと同じだ……」
「圧縮された熱量の大膨張です―――!?」
「なんだ今のは!?」
轟の放った氷は、2つに別れていた。1つ目は、呼人を直接狙った氷。これは人の身長を超える大きさまで成長し、まるで壁がいくつも轟を中心に伸びているかのようになっている。
そしてその氷の壁と壁の間。そこには壁からはみ出した氷が薄っすらと地面を覆っていた。
轟が放った爆発の意図は1つ。直接的に圧縮した熱量をぶつけると、呼人ならば死なないとしても他の相手では危険な可能性が高い。
だから、圧縮した炎の爆発そのものではなく、その熱量によって発生する二次被害、氷から発生した水が蒸発する際の体積膨張を利用した水蒸気爆発を狙った。本来であればいきなり気化することはないのだが、熱量が圧倒的に高いことで熱の伝達よりも早く気化が発生した。
結果。炎の爆発に数瞬遅れて発生した二次爆発がより大きな衝撃を生み出し、地面から発生したものを中心として呼人の体を宙へと巻き上げる。
そしてそれを放った轟は、呼人が巻き上げられるであろう推定の位置まで氷を伸ばしその上を駆け上がっていく。一撃で呼人を仕留めきれるわけがないし、あるいは仕留めていたのならキャッチする必要性があるからだ。この練習をするために、ダミーの人形がかなりの数犠牲になっている。そのため、推測はかなり正確だった。
『呼人が人間の体に爆風を受けていれば』。
「「上だ(にいる)!!」」
飯田と緑谷が叫んだのは同時だった。
水蒸気爆発を受けた呼人は、直前、炎の爆発に対して利用しようと展開していた皮膜にその爆風を存分に受け、轟の推定した地点よりも遥かに上まで舞い上がっていた。風に煽られるにしても、同じ重さの棒と布では飛び方が全く違う。轟はそれを考慮に入れていなかった。
氷の上に立つ轟のはるか上空、水蒸気にも爆炎にも覆われていない呼人は、上から轟の姿を確認して皮膜を閉じ急襲をしかける。
それに直前で気付いた轟は、氷で作った高台から直接飛び降りると自分の被害が増すため今作った氷の橋に対して足から炎を走らせ、表面を溶かしてすべり台上にしてその場から離脱する。そこに、十分な落下速度とハイビーストの状態で体重を増した呼人が落下し、熱でもろくなった氷の先端を踏み砕いた。そして今度は一番大きな氷塊を登るのではなく迂回する形で側面を駆け抜け、滑り降りた轟へと迫る。
それに対して轟は目の前に人間大の氷塊を作ると、呼人が迫った瞬間にそれの側面を炎で溶かして手を突っ込み、再度小規模な圧縮した炎を解放した。
今度は先程氷の隙間の通り道を通った炎にも抜け道がなく、膨張した空気は氷塊を砕き、その欠片を散弾のように吹き飛ばす。人間大でそれを受けた呼人は、たまらず吹き飛ばされて後ろの氷の上に皮膜を一瞬広げた後着地した。
「わ、すごい、轟君炎と氷を組み合わせてる」
「うむ。同時に使うと足が止まってしまうと言っていたが、あれだと止まっていても問題ないな」
「もともと強力でしたのに、あんな使い方を……」
同時に使うと足が止まると飯田は言ったが、厳密には違う。轟は夏休みからここまでの個性訓練で、『炎を一定出力のまま氷を放出する』ことは出来るようになっていた。氷の方の制御はある程度甘くなってしまうが、もともと精密な形は作れなかったので多少甘くなったところで指向性を持ってぶっ放せれば問題ない。そしてその間も、右腕や右足には、炎が溜められている。だから、氷で道を作り、炎を届けるという戦い方が出来る。だが轟の新しい戦闘は、それだけではない。
******
「近づかせてくれんなこれは」
肩のあたりに突き刺さった氷の破片を抜きながら、呼人はそう感想を漏らす。氷というのはとがればそれなりに鋭利なもので、体表に甲殻を持たず、また可動部故に鱗を展開していなかった肩や腕、それに胴体などに突き刺さっていた。と言っても動けなくなるほどの怪我ではないが、小さな破片はおいておいて肩に突き刺さったものはそれなりに効く。
一旦氷の影に姿を隠した呼人は、可動力の下がった肩の筋肉に意識を集中させ、別の位置の筋肉を創造してそこを補う。
普段呼人が人間形態やあるいはハイビースト、つまり中途半端な状態に変身する時に利用している筋肉は常に同一のものを使っている。だが、オドガロン本来の体の大きさはそれ以上のものであり、成体になればまだ使っていない部分は余っている。それを創造して補ったのだ。
と。敏感な嗅覚が轟の匂いが移動しているのを感じて上を見上げる。そしてその数秒後、呼人の隠れている氷壁の上から轟が飛び降りてきた。
呼人が姿を隠すのを見た轟は、その氷の上を走って迫ってきたのだ。そしてその際にただ走るのではなく、常に右足から放出した炎で上昇気流を引き起こして呼人に匂いが届かないように気をつけていたのだ。音にまで気を配っていれば気づけたのだが、残念ながらオドガロンは耳より鼻の方が遥かに鋭い。そして体のパーツを別の部位で補うという行動には、まだ相当に集中力を持っていかれる。そのため、轟が接近するまで気づくことが出来なかった。
そして落下してきた轟は、奇妙な右足を下にした体勢で落ちてきた後、一瞬右足から炎を放出して体勢を整えて着地する。轟の匂いを感知できたのは彼が接近してきたからではなく、足からの炎の放出をやめて再度溜めに入っていたからだった。
匂いというのはこういう時に弱い。まあそれは視覚も聴覚も変わらないのであるが。とにかく、その感覚を伝播する物質を止められると感知ができなくなるのだ。この場合は、発生し拡散するはずの匂い物質がすべて上昇気流に持っていかれていた。事これに関しては、音はそれなりの風なら突き破るし、光に関しては霧などで歪めるか物理的に遮るしか無く、嗅覚に頼るというのはそういう点で脆さがある。『わからない場所がある』というのは本来ならわかるのだが、残念ながら呼人の集中力は修復に割かれていた。
落下してくる轟が着地の体勢をとっている間に、ハイビーストからビーストまで形態を戻した呼人は殴りかかる。着地と言ってもそれなりの距離が離れた場所で、だからこそ呼人の攻撃は一瞬かかり、その一瞬の間に体勢は入り切らないものの拳を整えた轟はその右手を放ってきた。ただの右手ではない。溜めた爆炎の勢いを載せた拳。
それが呼人の顎に向かって伸び、そして察していた呼人に紙一重で躱される。間に合わないのはわかっていた。だから隙を演出して釣りだしたのだ。でなければ、こんな顎を開いて手を下げた姿勢で突っ込まない。
「チッ!!」
肩のサポーターのおかげで自分の攻撃の勢いによる脱臼は避けられるが、それでも轟の体勢は大きく揺らぐ。そこに踏み込んだ呼人は足払いをかけようとしてその足が氷で予想以上に強固に覆われていたので中断、気絶させようと顎を狙って拳を放つ。それを左手で受けて顎ごと撃ち抜かれ、上体を大きく揺らした轟はそれでも気を失わず、最期に一撃、無理な体勢から左足に溜めた炎を利用して上段蹴りを放ってきた。
轟が飯田にずっと習ってきたのがこれだけあって、きれいな軌道で離れたそれだが如何せん着地からのわずかな時間で溜めが足りず、地面に足の爪を突き立てた呼人はハイビーストの状態になると上体を揺らすこと無くその足を受け止め、返す拳で顎を打ち抜き、今度こそ轟を昏倒させた。その瞬間には轟の左足から伸びていた氷が呼人の半身を覆うに至っていたが、成体のオドガロン、すなわちフルビーストに移行することでその氷を砕いて脱出する。
『試合シューリョー!! 百竜轟担いで一旦カモン!』
模擬戦を再度行うにしろそうでないにしろ、怪我の確認はしておかないといけない。怪我をしている可能性としては、おそらく呼人のパンチから顎を庇った腕にはひびぐらいは入っているだろうし、無理な蹴りで腰かどこかを痛めているだろう。正直、パンチの方は良いとして蹴りの方は自爆的な意味で危なかった気がする。確かに爆炎を利用すれば、力の入らない方向にも力を加えられる。だが体がそれについてこれるかは別の問題なのだ。
気を失った轟をハイビーストの長い腕でお姫様抱っこし、呼人はモニタールームへと移動する。取り敢えず意識が戻らないことには始まらないだろう。
幸い、床に寝かすと同時に轟は目を覚ました。
「つっ……。俺の負けか」
起き上がろうとして顔を顰め、そのまま呼人の方に顔を向けて聞く。
「俺の勝ちだな。後反省点がいくつかあるから、リカバリーガールの所行った後寮で反省するぞ」
「……わかった。まだ勝てねえか」
そう言って再度顔を顰めながらも起き上がろうとするので、それを呼人と飯田で止める。
「やめとけ、腰痛めてる可能性が高い。あと腕も多分やってる」
「ああ、そうだぞ轟君! あんな無茶な体勢で蹴りを放つとは! 担架を用意するから少し待っていたまえ!」
そう言っている間にも飯田は担架を袋から取り出して用意してくれていて、すぐに担架が出来上がった。
「……わりぃ」
「模擬戦をすればそうもなる。百竜君、そっちの足を持ってくれないか。緑谷君と八百万君は映像データを」
「わかりましたわ。轟さん、無理はしないでくださいね」
「わかったよ。先に寮に戻っておくから、ちゃんと治癒してもらってから来てね」
「ああ。ありがとう」
そこで八百万らと別れ、プレゼント・マイクとともに呼人らは轟を保健室まで運んだ。
『グッドバトルだったぜ2人とも! 1年生とは思えねえな!』
「ありがとうございます」
「うす……。でもまだ……強いな百竜」
「まあやっぱりお前のスタイルが完成してないのがキツいだろうな。俺はどこで殴ってもどこで受けてもいいが、お前は蹴る瞬間と殴る瞬間しか超パワーにならないから如何にそれをねじ込むか、あるいは使わないで済ませるかってところだろ」
「……そうだな。俺も……正直お前に近づかれたとき殴られたら負けるって焦っちまった。俺から狙いに行ったのにな。けどお前なら顎に来るだろうからって受けたんだが……」
「読みは良かったんだけどな。まあそこは後で映像見ながら反省だ」
「うむ。寮に戻ってから反省会を行おう! 俺も見ていてなかなか有意義だったように思う」
確かに、今の模擬戦は勝ち負けを決めるもので。だが、重要なのはそこから何を学び、成長に変えるかだ。それに轟は、呼人にロープを使わせなかった。もちろん個性上ロープが通用しないというのもある。だが、仕留めきらないとまずいと思えるぐらいには、今日の轟の頭は冴えていた。特に嗅覚潰しや氷と炎の連携などは、以前のそれぞれをぶつけるものとしてしか認識していた轟と比べて遥かに強く感じた。
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「模擬戦でやったのかい。また無茶な攻撃をしたね。あんたこの腰は腕よりひどいよ。下手すると再起不能になるなんてこともあるんだからね」
「うす……気を付けます」
「全く。最近緑谷が自分で怪我しないと思ったら次はあんたかい」
そう言われて、聞いていた飯田と呼人はつい笑ってしまう。確かに、自爆は緑谷の十八番だったのに気づけば彼は克服し、今度は轟がそれを引き起こしている。
「すいません、俺も治してもらいたいです」
「あああんたもかい。傷は?」
ちょっとまってくださいね、とリカバリーガールに告げて、呼人はハイビーストになる。肩には深い傷が残っており、変身するとまだそこから血が流れていた。
「あらまあ。でもこれぐらいなら一回で治るさね。チュー」
リカバリーガールが個性を使うと、その傷がするするとふさがっていく。代わりに、それなりの虚脱感が呼人に押し寄せた。今日はしっかりと食べないと行けないらしい。寮に帰ったら米を炊いて、冷凍しているひき肉とたまねぎと卵を使って大盛り炒飯を夕食とは別に作る。呼人はそう決めた。以前なら自然治癒を待ったが、今の相手は、特に轟や爆豪、常闇、緑谷、砂藤ら出力が高い組はハイビーストが使えないと後手に回る可能性がある。
「細かい傷は自力で治しなさい。それまで治してると体力が足りないからね」
「ありがとうございます」
「あざっす」
保健室を出た後、ここまで運んでくれた事を飯田に礼を言って2人は片付けと着替えに戻る。飯田は先に寮に戻っていることになった。
「百竜、正直あのパンチならお前に通用するか?」
主に氷を轟が溶かし、飛び散った塊を呼人が運んで片付けを終えた後着替えていると、そう轟が話しかけてくる。
「今日のパンチの威力なら普通にくらえば通用するな。ただ俺の場合は脳みそも複数持ってるようなものだから入れ替えがきくし、身構えれてたら首を本来の大きさまで発達させて顎が揺れないようにする」
「そうか……お前ずるいな」
「俺も流石に今のはずるいと思うわ。単純に言ってライフ3つ分だからな。今使ってるのだけでも」
1つ落とされても、入れ替えれば使えるようになる。正直言って、落とされることは滅多に無い。ただ模擬戦のときなどはモンスター達の手を借りないと決めているので、仮に不意打ちで意識を刈り取られれば、呼人の負けである。
「ただまあ、胴にくらってもあの威力なら十分に効くな。それに足元、そのために氷で固定したんだろ?」
「ああ。力の伝達を考えたらあれの方が良いと思って」
「あれのおかげで、お前のパンチのエネルギーは当たったものに完璧に伝わるからな。今なら木とか岩でも殴ってへし折ったり余裕なんじゃないか?」
「やってねえからわからねえ、けど、氷は砕けた」
「まあそれぐらいの出力はあるってことだ。削るじゃなくて砕けたってことは」
「……そうだな。切島にもうってみたい」
「それ砕ける前に吹っ飛んでくかもな。氷ででも足を止めないと」
「なるほど」
氷の塊というのは、弱いようでいて存外堅い。例えば硬化できる鉄哲や切島でも、削るのは余裕であっても叩き割るというのは至難の業だ。それに関しては硬さ以前に相当の力がいる。鉄パイプを持てばだれでも氷を粉砕できるわけではないのだ。
着替えて教室に荷物を取りに戻った後、2人で寮への道を歩く。口数が多い方ではないが、それでも話す内容があれば話す2人だ。模擬戦でどうすべきだったか、あるいは厄介だった点などを互いに話していると、すぐに寮にたどり着く。
共有スペースに行くと、既に3人と、他に集まってきたクラスメイト達が映像を見ていた。
「あ、2人とも。先に映像見させてもらってるよ」
「ああ、構わねえ」
「ちょっと水飲んでくる」
水飲みついでに、ささっと米を研いで釜のスイッチを入れておく。
席につくと、既に緑谷がノートを取り出し、映像を見ながら何かをまとめているのを八百万と飯田、それに常闇と瀬呂が覗き込んでいた。轟と芦戸は映像に集中している。
「あ、百竜くん。あの百竜くんが一旦壁裏に隠れたときなんだけどこれは何をしてたの?」
「ああ、あの氷の散弾を受けた後か?」
「そうそのとき」
水の入ったペットボトルをテーブルに置き、コップの水を飲み干してから呼人は答える。
「あれは治療してた」
「治療、ですか? 一体どうやって?」
「道具なんて持ってないよねこの場面でしょ?」
ちょうど映像がそこに行っていて、芦戸がそっちを指し示す。壁の裏に隠れた呼人は、目を閉じて手をだらりと下げて集中していた。
「このとき、肩の筋肉が氷で切断されて動かなくなってたんだ。一部な。けど、これってあくまで中途半端な変身状態で、ホントはもっと大きいからまだ再現してない筋肉があるんだよ。だから損傷した分と入れ替える形でそれを作ってた。ただ損傷した部分を探るのと本来こうはならない形の筋肉を変形させてたからかなり集中してた」
「そんな使い方があるのだな」
「医術の類か?」
「自分の体限定でな。ずっと体の一部を変形させてたから、どこがおかしくなってるかとか掴むのが得意になったんだ」
本来人間は、自分の体のどの筋肉が傷ついているかどころか、そもそも体内がどんな構造をしているかすら知らない。だが呼人は、モンスターの体に関しては知っていた。それを常に再現し続けていたのだから当然だ。だからこそ出来た芸当である。
「それって難しいの? この後全然轟が近づいているの気付いてないでしょ?」
「めちゃくちゃ難しいな。考えてみろ。人間がこうしてるときに、自分の筋繊維一本一本、骨、関節の構造なんてわかるか? 知識として持ってればわかるがあくまで知識だろ。それを自分の個性の感覚から辿って探るわけだからな」
「それは、確かに難しいね。どこが動いているかイメージしてトレーニングするのもある程度の大まかさだし」
「どれくらいの時間で修復は終わる予定だったのですか?」
「あと20秒もあれば完治。そもそも接近に気づけると思ってたから、重要な場所からやってたんだよな。だから動けたわけだけど。これなら総入れ替えしたほうが良かったかも知れん」
そこでまた聞き慣れないワードが出たと皆が首を傾げる。それに気付いた呼人は自分から説明した。
「この時は切れた部分を消して、代わりにまともなのを生やしてたんだ。けどそうするよりは、もう全部消してしまってそれでもう一回まるごと作った方が速かったかもしれないってことだ」
「そんなことも出来るんだね」
「出来るぞ。ただ感覚が崩れるからあまりやりたくないのも事実だ」
それこそ、やろうと思えば肩だけじゃなく体中あちこちの筋肉を取り寄せることも出来る。だが、その分本来とは違う使い方になるので感覚は変わってくるのだ。
「ここ轟君の視界から百竜君が遮られてるよね。だから轟君が動けてないんだけど……」
「うむ、難しいな。氷は自分の視界を遮ってしまうが轟君にとっては生命線だ」
「百竜君からはわかってたんだよね?」
「聴覚嗅覚でな。あれは氷に遮られるものじゃないから。ただその後の轟が近づいてきた時は対策がされてたから気づけなかった」
「ああ、この炎はそういう意味合いだったのですね」
呼人の話を聞いている5人の中で、八百万だけが理解を示す。説明を求める他の4人に八百万は基本的なことから説明した。
「先程の百竜さんが氷の裏から攻めた場面轟さんが気づけなかったのは、視界に捉えられなかったからですわ。それと同じで、どれだけ百竜さんの嗅覚が良くても捉えられないことがあるんです。このときは轟さんの足から出した炎による上昇気流で、匂いが百竜さんまで届いていなかったのではないでしょうか」
「そっか、そうやって遮ることも出来るんだ……」
「ですがこれが出来るのは轟さんぐらいですわ。他の方であれば乱すことは出来ても遮断するのは不可能かと」
「うん……でも風で乱すことが出来るってのはその分隙が出来るってことになるから……。例えば僕でも風とか……」
相手の感覚を奪うというのは一番小さな情報戦だ。そしてそれが戦局をも左右しうる。普段は目の前の相手を倒せば良いとあまり考えることがないが、相手に思うようにさせない、というのはいやらしく、されど大事なやり方だ。ちなみに文字通り自由にやらせてくれなくなるフィールドを作るモンスターもいるのでもう……経験は力とはよく言ったものである。
「なーにやってんの?」
「あ、これが今日言ってた模擬戦か。うちも見ていっていい?」
そうこうしていると、他のクラスメイトもちらほらと集まってくる。大体は放課後に自主練をしたりあるいは勉強をしたりしているのだが、午後7時を過ぎたこれぐらいの時間になってくると共有スペースにも人が集まり始めるのだ。
「そう言えば、耳郎さんも五感の鋭くなる個性だよね」
「え、何の話?」
後から来た上鳴と耳郎に、ここまでの話の経緯を説明する。感覚が鋭くなるという点で言えば、彼女も呼人か、あるいはそれ以上のものを持っている。
「あーそうゆうことか。でもそれ言っちゃったらうちめっちゃこれから不利にならない?」
「確かに……ごめん」
「冗談。別に良いよ。うちもそれされた時の対策を考えないといけないし」
少しだけからかうように言った後、耳郎は笑いながら自分の感覚を狂わす方法について説明する。
「うちに悟られたくないんだったら、やっぱりもっとでっかい音で叩き潰すか、音を一緒にするしか無いと思う。でも心音とか息遣いなんてそんな真似できるもんじゃないし、真似できるとしたら足音ぐらいじゃないかな」
「もっと大きな音というのは……」
「うん、期末試験のときマイク先生にやられたんだけどさ。ずっと大きすぎる音にさらされてると、地面とかにジャックをさして音をとったりするのもできなくなるんだよね。それ以上に大きい音が直に聞こえるからさ」
「なるほど……かき消してしまうしかないということだな」
耳郎の説明にクラスメイト達が頷いているところに、呼人も自分の持っている知識を提供する。
「後は轟なら空気の温度を変えて空気の壁を作れば音の位置を狂わせることが出来るな。それと芦戸は自分を酸で覆ってしまえば多少の音漏れは防げるから勝手が変わるかも知れない。他にはスタングレネードを使うぐらいか」
「待って、一個ずつ説明して。うちも聞きたい」
「なるほど……確かにそれは効果的ですわね」
「ごめんヤオモモ、先に納得されても私たちわからないから」
やはりというべきか、博識な八百万は単純な説明でもすぐに理解してくれるのだが、他のクラスメイトはそうもいかない。もともと個性が近くない分野というのはそれほど詳しくないことも多くあるのだ。
「空気の壁の方は視覚に対しても有効なんだが、音も光も空気の分子の影響をもろに受ける。音はその分子の振動で伝わるわけだし、空気は屈折率が変わるからな。で、例えば轟がある場所の空気をとことん温めて、その隣に氷でとことん冷やした空気を並べると、そこを通して見たはずの物の場所がずれてたり、あるいは音が来ている位置をずれて感じたりするわけだ。芦戸の方は粘度の高い酸で体中を覆っておけば直に外に接するより音漏れが減って気づかれにくくなる。スタングレネードに関しては普通の人間の聴覚に大ダメージを与えるものだからな。耳の良すぎる耳郎にとっては多少離れた位置でも鳴ったらきついんじゃないかと思うわけだが?」
どうだ? と耳郎に話をふると、耳郎はしばらく考え込んだあとうなずく。
「うん、多分どれもちょっと困るかも。うち一人だったら精度が下がるってことだもんね。特に室内だと壁を隔ててるのかとかがずれる可能性もあるから……でもチーム戦だったらおおよその場所がわかるから見てきてもらえるし、そういう意味では音かき消されるよりは困らないかな。スタングレネードって実際に聞いたことがわからないんだけど……ヤオモモ出せる?」
「ええ、出せますわ。お作りしますか?」
「ううん、明日ちょっと訓練手伝って欲しい」
「私も行く! 耳郎の耳を欺けるなら何でもする!」
女子陣が翌日の放課後の自主練の内容を決める一方で、再度2人の戦闘に目を向けたクラスメイト達も自分たちのすべきことを確認していく。
「うむ、これをされると俺は……どうしたものか、まだ完成していないとはいえ完成すれば蹴りの威力はレシプロバーストに並ぶ可能性もある。打たせてからになるだろうな」
「深淵暗闇であれば抗しきれるか。手合わせ願いたいものだ」
「また轟成長しちゃって。俺どうやってこれ相手にすれば良いんだろ」
実力も、個性も関係ない。ここにいるのは、強くなるという意思を持った者達なのだ。
呼人の影響でクラスメイトの成長が色々とあります。そろそろ纏めようかな。
轟に関しては原作でももっと鈍器としての氷とか使えば良いのにな~と思ってました。
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小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか
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欲しい
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勝手にニヤつくからいらない
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あまり興味がない