竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~  モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア   作:アママサ二次創作

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第78話

「『ヒャクリューはノーマンに変わったの? なんで?』」

「『名前が変わるだけだ。モーメントだって本当の名前は違うだろ?』」

「『そうなの?』」

 

 本日は1月3日。世間では三が日と言われる休日の真っ只中だが、呼人たちは忙しい引っ越しの真っ最中にあった。

 

 昨年の年末に異能解放軍から離脱したビルドメイクが合流し、取り急ぎ呼人達が定めた場所に仮組みの建築物を立てたのでそちらに移動を始めるのだ。実際の子どもたちを受け入れる為の施設などの用意はまだ全くであるが、取り敢えず移動しておくことは出来る。

 

 移動と言っても、荷物などを持った重量のある移動ではモーメントの個性は使えない。まあ時間がまったくかからないので往復させても良いのだが、せっかくということでアーニャに日本を経験させてあげるためにも、大型車に同乗して向かうことにしている。一台目にはブラーと呼人、アーニャ、モーメント、神王寺。二台目にはリザードとマドレ。ちなみに呼人達の車がビルドメイクお手製の車であるのに対してリザードの車は彼の持ち物である。これから山奥に行くというのにどうするつもりなのだろうか。

 

「モーメント、お前アーニャに本名教えてないのか?」

「教えてない。あいつらを思い出すものを教えることもない」

「まあ、そうだが」

 

 『アーニャを搾取していた奴ら(あいつら)』を思い出せないように。そういうモーメントの配慮なのだろう。モーメントに実際の所どうなのかを確認した後、呼人はアーニャの方を向き直る。

 

「『人間は、本当の名前以外にも色んな呼び方をされる。その人と仲良いから特別な呼び方をしたいから、とかな。例えばアーニャのことも、もっと仲良くなったらアニーって特別な名前をつけたりもする』」

「『……私とひゃくり……ノーマンは仲良くないの?』」

「『そういうことじゃない。仲良くなったら絶対にそういう呼び方をするとは限らないんだ。でも、そうすることもある。じゃあ今度から、アーニャのことアニーって呼んでもいいか?』」

 

 呼人が尋ねると、アーニャは嬉しそうな顔でうなずく。

 

「『アニーが良い!』」

「『良い子だ。でもな、他にも本当の名前を隠すために違う名前で呼ばれることもある』」

「『なんで隠れるの?』」

「『ばれないようにするためだ。例えば、ヒーローってわかるか?』」

「『う、うん。助けてくれる人。モーメントみたい』」

 

 アーニャがいきなり炸裂させた爆弾に、反対の隣側に座っていたブラーがブフッと吹出し、モーメントが気まずそうな顔をしかめる。

 

「『そうだな。でも、ヒーローを仕事でしてる人ってとても人気なんだ。例えばちょっと歩いてるだけでヒーローを好きな人がいっきに集まってくるみたいに、な』」

「『そうなんだ。でも、モーメントはそんなことになってないよね?』」

「『モーメントは、仕事でしてるわけじゃないからな。アニーのことが特別大切だから守ってくれたんだ』」

「おいリーダー好き勝手言ってんじゃねえぞ!」

 

 呼人の説明に、アーニャは頬を赤く染めて嬉しそうに口元をニヨニヨと緩ませている。

 

「『そうなんだ……エヘヘ』」

「『それで、そんな人気なヒーロー達は名前がばれると普通の生活もできなくなる。だから名前を隠してるんだ』」

「『じゃあノーマンも人気なヒーローなの?』」

「『違うぞ。でも俺も、名前がばれると困るからってのは一緒だな』」

「『ふーん。なんで?』」

「『それはまだ秘密だ。アニーがもっとたくさん勉強して賢くなったら、教えてやる』」

「『アーニャ賢いもん!』」

 

 膨れるアーニャの頭をワシワシと撫でて呼人は笑う。まだ、何故名前を隠すのかを教えるのは早い。

 

 その後アーニャは、ブラーやモーメント、神王寺にもアニーと呼んでくれと言っていた。クールなように見えて可愛いものが好きらしいブラーはその様子に顔を赤くし、それを帽子を目深に被ってばれないようにしていたが真っ赤になった耳が見えたのでバレバレである。

 

 アーニャは、その個性を利用されていたということもあって保育園や小学校には通っていない。まあ向こうは日本とはまた形態が違うのだが、それでもまともな教育を受けていないのは確かだ。両親もろくでもない人物でまともな生活すらさせてもらえていなかったらしいので仕方の無いことだろう。代わりに、日本に来てからはマンションの一室でモーメントや神王寺が買ってきた本やドリルで勉強したり、ちょっとずつだが個性を使う練習をしていた。

 

 この調子であれば、普通の生活に戻るにはそれほど時間はかからないだろう。ただモーメントから離れたがらず、また初対面の大人を怖がる以上外に出るのも難しい。最初は神王寺もよく避けられていたものだ。呼人とブラーは若いので大丈夫だったらしいが。

 

 

******

 

 

「『この山登るの?』」

「私こんなところ歩いたこと無い」

「『歩いたら日が暮れる。少し山に入ったところからはモーメントの瞬間移動で行く。アニーもちょっと荷物持てるか?』」

「『うん!』」

 

 持ってきた荷物をいるメンバーで手分けして持つ。荷物と言っても、街中に残してきたマンションは解約しておらず普通に使うつもりなのでそのまま残しているので大きなものはない。

 

 車を麓の人気のない駐車場に止めた後、山に入っていく。場所は日本アルプス。過去の荒廃した時代に捨てられた街などは残っているものの、今は人の足が入ることはあまりない。そういった街をいくつかのヴィランが過去に拠点にしていた形跡もあるが、最近のヴィランは矛盾しているように思えるが社会を必要としているため、そうした完全に人里離れた場所に潜むということはめったに無い。彼らが求めているのは、ただ人々が組み立てた社会を好き勝手に搾取することだけなのだ。

 

「『集まれ。先にブラーと神王寺とマドレからだ。荷物しっかり持っておけよ』」

 

 先に場所を確認しているモーメントが、最初の3人を連れてワープしていく。移動先はそれなりに遠方にあるので、彼の個性でも往復で一分ほどはかかるだろう。むしろ1分で移動してしまうというのが異常なのだが。子供を抱えて潜むためにはそれぐらい人里離れた場所でないと駄目なのだ。

 

「『遠いの?』」

「『山の中だよ。そこにこれから家を作るんだ』」

「『広い?』」

「『今作ってあるのは狭いよ。でも、これからもっと広い家を俺も手伝って作る。それと、アニーのお友達になれるような子どもたちも連れてくるんだ』」

「『お友達? キリンちゃんとかキリアちゃん達みたいな人?』」

「『そうだね。キリン達も友達だ。でもこれから連れてくる子達は、親にひどい目に合わされたりしてる子どもたち何だ。だから、アニーにも仲良くなって上げて欲しい』」

 

 呼人がそう言うと、アニーは怯えた顔をする。彼女も、親に虐待を受けた一人だ。その頭を安心させるように、呼人は優しく撫でる。

 

「『大丈夫。守るためにここにつれてくるんだ』」

「『守ってくれる? ノーマンもモーメントもブラーも、守ってくれる?』」

 

 急に自分の名前を呼ばれたブラーが驚いて呼人とアニーの方を見てくる。話は聞いていたがまさか自分の方に回ってくるとは、と。2人の期待の入り混じった視線にブラーは少したじろいた後、おずおずと頷いた。

 

「『私もアニーのこと、守る。あんまり強くないけど』」

「『な? 守るから、心配するな。俺はとても強いぞ』」

 

 2人に口々に守ると言われて、アーニャも満面の笑みを浮かべる。

 

「『うん! それでみんなが怪我したら私が治す!』」

「『そうだな。その勉強もしておこうな』」

 

 ポンポンと、再度アーニャの頭をなでたところでモーメントが再度転移して戻ってくる。

 

「『よし、3人共集まれ』」

 

 モーメントの転移は、接触している地点を媒介にして一緒に瞬間移動する物を選択している。そのため、手を繋ぐなど何らかの形にしておかないといけない。モーメントが絶対に離さないようにと片方の手でアーニャを抱き上げ、もう片方の手をブラーに伸ばす。そのブラーの反対の腕を呼人が掴み、全員が連結された。

 

 そして転移。モーメントの転移は、場所の座標を感覚的に捉えることで転移をするのだが、移動先に物があった場合は転移に失敗する。そこでモーメントが長距離移動を行う際は、まず一旦高高度までワープで移動し、そのまま何もない空の上を移動した後地上を見下ろしながら移動し、着地するという形をとっている。

 

 10回ほどの転移の後、呼人たちは山の中腹あたりに設けられた木の2階建ての家の前に立っていた。周りは木に覆われているが、その家の周り十数メートルだけが木が生えていない。

 

「『わー! きれいなお家!』」

「『取り敢えず、な。入るぞ』」

 

 繋いでいた手をほどき、真っ先にアニーが家の表にあるポーチの階段を駆け上る。

 

「『転ぶなよ!』」

 

 なんていうモーメントの兄バカっぷりは、この数日でもう新しいメンバーにも周知のものとなっている。

 

 建物内の構造は至ってシンプルなログハウスという感じで、1階に大きな部屋が1つと狭い部屋が1つ。それに二階に二部屋という構造になっている。それに部屋の中央に巨大なストーブにあかあかと薪が燃えていて。今から作る巨大施設の前段程度のものでしか無いので作りも適当だとは作った人間が言っていたが、トイレまで完備なのはなかなか気合が入っていると言っていいだろう。

 

「『あ、柱のおじさん』」

「おー、アーニャちゃんか。元気やな」

 

 室内のこたつに潜り込み鍋をつくつくとつついていた壮年の男が振り返ってニカリと笑う。作業着らしき服を着込み頭を短く刈り上げた、いかにも建築業や土木作業に従事していそうな見た目のこの男がビルドメイク、本名、建造寺柱。神王寺の知人の息子であり、異能解放軍に所属しながらもその信条に深く共感はしていなかった男。

 もともと死穢八斎會とは違うがそういう筋の家系であり、今回両親に連絡を取ろうとした神王寺の依頼を受けて解放軍を脱退することを決めたのだ。ちなみに彼の希望はまっとうじゃない仕事をすること、というアバウトなものだったので、取り敢えず表の仕事をさせないことになっている。どうもそれもなんとなくのことらしく、取り敢えず両親がそうだったのでそれを見て育ったからそれが良いかな、ぐらいの感じらしい。

 

「柱さん、お疲れ様」

「おう。呼人坊もお疲れや」

「今度からはノーマンと呼んでくれ。ここに移っても来たんでな」

「おおそうか了解や。で、いけるか? こっちはもう用意出来とるで」

「俺はいつでも」

「ほな飯食うたらやってまうか。あ、一応そこに茶碗とご飯炊いとるから勝手にしてや」

 

 ちなみに柱含めて、メンバーにはそれなりの仕事を依頼することが決まっているので、一応給料も出ている。すべて神王寺の溜めに溜めた貯金からだが。呼人も何か金を稼ぐ手段を見つけなければならないが、今はずっと動くことは出来ないので神王寺の金に頼っている。とても使い切れないぐらい溜まってはいるらしく本人も好きにしてくれと言っているが、色々な手段を考えておかないといけないだろう。

 

「『あ、お鍋! アーニャ結構好きだよ』」

「『そうだな。手を洗ってから食べよう』」

 

 ひとまずは腹ごしらえ。それが終わったら、呼人にとってもそれなりな大仕事をしなければならない。

 

 

******

 

 

「『イスカンダル、調子は?』」

「『順調だ』」

 

 施工予定地点を確保していたのはもうひとりの仲間のイスカンダルだ。彼だけは他のメンバーよりも先にここに来て、ビルドメイクの整地作業などを手伝っていた。その個性の訓練も兼ねて。

 

 呼人の言葉に答えるイスカンダルの周囲にはいくつもの青白い光の塊が飛んでいる。その一つ一つが、呼人が彼に与えた雷光虫だ。

 

 イスカンダルの個性は『モーター』。その能力は、体内に溜め込んだ電気を消費して身体能力を向上させるというもの。ただし本人は一切発電することが出来ず、すべての電力を外部に頼る必要がある。その個性を使って呼人に戦いを挑んだが、全く歯が立たず。

 というよりも問題点とも言えるものだが、彼はアメリカではかなり貧乏な暮らしをしていたらしく電力の確保に困っていたらしい。そのため、盗んだ電池から得られる電気を地道に溜めるなどしていたため、一気に大出力を使う事をしてこなかったらしくせっかくの個性なのに小出力で上手く利用するという戦い方してこず、完全に呼人に力負けしていた。ただその御蔭で体術にはかなりのものがあるので幸いとも言えるが。

 

 そこで呼人が彼との決闘の後に彼に電力確保の手段として10匹ほどの雷光虫を与え、またより高出力に彼の体が耐えられるように自分を強化する事を指示していた。それを鍛える一環としてここに来て、木を伐採したりと派手な事をしていたとのことだ。

 

 ちなみにこの雷光虫、主食は電気である。また純粋な電力だけでなく、放電する性質のあるものも食べる雑食性だ。そして食べた以上の電力を発生させる。雷狼竜はこの性質を利用して、与えた電力を更に爆発的に増加させて自己の強化に利用したりしている。

 そしてイスカンダルの場合は、乾電池から発生する電力を与え、それをより増幅させるようにして利用している。

 

 その放電を蓄積したイスカンダルは、少なくとも手合わせをした段階でもオドガロンに全身を変化させた呼人と同等以上の能力を持っており、更にかなりの成長の余地を残していたため、呼人も彼は相当に強くなると期待している。

 

「『なら良い。死なない程度にな』」

「『御意』」

 

 地点を確保していたイスカンダルに労いの言葉をかけた後、呼人とビルドメイクはそこを見上げる。山々の間にある小さな谷。そこが2人の立っている場所だ。

 

「ノーマン坊が掘り出して支えとう間にわしが作ってくけえの。ただ一定区画ごとじゃねえと耐久力ないけえ下が出来たからち崩さんでくれや」

「なら一区画ごと掘り出していこう。上からガンガン固めていって下から掘り出して、最後に下をはればいい」

「ほーん……それで行こか」

 

 地面を掘ることを得意とし、更にフルビーストの状態でも手と同様の器官を持つ怒貌竜の姿に呼人は変身し、岩壁を砕いて山の内部へと侵入していく。そしてその入口の部分を早速ビルドメイクが補強をつけて固定し、自分が侵入するための通路を壁に設計する。

 

 ビルドメイクの個性は『デザイン&ビルド』。自分で引いた図面通りの物を自由に想像するという個性である。系統としては八百万の個性と似ているが、あちらが自由に思考して作れるのに対して、こちらは自分で完璧な設計図を引き、更にその設計図を両手で保持した状態でしか使用することが出来ない。その代わりに八百万と違って建造物のような大きな物を作ることもできる。設計図が使い捨てになってしまうのでかなり手間だが、非常に強力で有用な個性だ。

 

 一瞬で区画を作りきれない規模になると、怒貌竜の姿で土を掘り最初に侵入した穴から掻き出した呼人が頭部に怒貌竜のものとは違う角と、体の至るところに茜色の器官を生成し、そこから飛び出した流体金属を操って一旦天井部分などを支え、その間にビルドメイクがその上の山を支えるのに十分な柱と屋根部分を作っていく。それなりに時間のかかる作業だが、それでも人の手でやるよりは遥かに早い時間で出来ていく。途中で食事休憩などを挟みつつも、2日ほどで取り敢えずの巨大な空間まで完成させるに至った。

 

「柱さん生きてる?」

「お、おう……もう死ぬ……」

 

 呼人の始業が迫っているので超特急でやったが、体力の有り余っている呼人はともかく超巨大な建造物を作り続けた柱は瀕死の様相だ。

 

 ひとまずこれで時間をさほど気にする必要がなくなったので、呼人がビルドメイクを背負って木の小屋まで戻る。

 小屋まで戻ると、ブラー、イスカンダル、神王寺、リザードは外出していて、モーメントとマドレ、アーニャだけが残っていた。

 

 呼人の背中におぶさりぐったりした様子のビルドメイクにアーニャが慌てた様子で駆け寄る。

 

「『柱のおじさん、大丈夫?』」

「おお、嬢ちゃん、か……。ちょっと、疲、れた……だけ……」

 

 その短い言葉を言うのも一苦労な様子のビルドメイクの手に、アーニャが自分の手で触れる。

 

「『待ってね、今元気にしてあげるから』」

 

 そう言って自分の個性を使おうとするアーニャを、呼人が止める。

 

「『アニー、柱は今とても疲れてる。だからアニーの元気を分けてあげたぐらいじゃ足りないし、アニーも倒れちゃうよ』」

「『でも……元気無いから……』」

 

 アーニャは、とても優しい少女である。元気のない人や動物がいれば助けてあげたいと思うような。ただそれが出来てしまう個性故にそれを両親に売り物にされて酷い扱いを受けていた。それでも助けてあげたいと思うのは、それが彼女の一番素の部分にあるからだ。

 

「『だからアニーの元気じゃなくて俺の元気を分けて上げてくれないか?』」

「『ノーマン、の? できるの?』」

「『わからない。でもアニーよりは俺の方が元気出し力もいっぱいあるよ』」

 

 呼人がそうお願いすると、アニーは決心した表情で頷く。これまでは、自分の元気を誰かにわけることしかしてこなかった。だから誰かを元気にした後は、自分が寝込んでしまっていた。体力が無くなると病気も発症しやすくなる。そんな無茶を、親は強要するだけでけして労おうとしなかった。

 でも、ここの人たちは助けてくれる。だから、自分も彼らの助けになりたい。そんな思いが、アーニャを動かしていた。

 

「『やってみる。ちょっと待ってね』」

 

 そう言ってアニーは目を閉じ、呼人の手とビルドメイクの手に触れる。はっきり言えば、彼女の個性であれば近づくだけで十分であり触れる必要はない。だが、今は初めてすることだけに少しでも近づいてやりたかった。

 

 アーニャの個性は『メディカルケア』。自分の元気、とアーニャは言うが、呼人たちからすれば生命エネルギーのようなものを利用して他人の治療を行ったり、直接その元気を分け与えて他の人を元気にしたりする。ただし、彼女の両親はただ他の人間を元気にするための便利なものとしてしか彼女を扱っていなかったので彼女は手術など知らずただ生命エネルギーを譲渡する術しか知らず、治療の手段や人間の体に関することなど何一つ知らなかった。

 

 それを知ったのは、彼女の個性について神王寺がしっかり調べようと申し出て色々としたからだ。その結果、例えば輸血においては自分の生命エネルギーを血に変換して与えたり、手術においてはエネルギーを使って直接体内に関与して施術をしたりすることもできる可能性があると判明した。まだその制御は甘いものでしかなくとても実践できるものではないが。

 

 そして今彼女は、自分の元気を与えるのではなく、別の人間の元気を吸って一旦自分のものにし、そしてそれを他の人間に分け与える、という新しい使い方を会得しようとしていた。個性は、思いで新しい扉を開く。彼女の人を助けたいという優しい思いに個性が応えたのだ。

 

 やがて、呼人の身体に虚脱感が発生し、代わりに背中に乗っていた柱が元気にぴょんと飛び降りる。

 

「おお! なんやめっちゃ元気湧いてきたわ! じっとしてられん! 元気があるうちに作っとける部分作ってくるわ!」

 

 そう足踏みしながら言うと、元気が溢れんばかりのビルドメイクは玄関を開けて元気よく飛び出していった。

 

「『上げすぎ、ちゃった……』」

「『元気にしすぎたな』」

「『うん……』」

 

 実際的にどんなものかは判明していないが、生命力そのものとも言えるようなアーニャが操る『元気』を与えすぎると、元気が有り余ってしょうがない人間は今のビルドメイクのようになる。体力を消費したら元には戻るが。

 

「『初めて、だったから。人からもらうの……』」

「『そうだな。また練習しないとな。俺とか神王寺なら何をしても大丈夫だから』」

 

 呼人の言葉に、アーニャはコクリと頷く。彼女の個性は、使い方しだいでは命にすら関わるものである。心優しい彼女が積極的に人や動物を傷つけることはないが、それでもミスは発生する。だから普通はそう簡単に練習できないのだが、幸いにも彼女の周りには神王寺と呼人という、傷つけても死なない人間が2人もいる。彼女は傷つけるのを嫌がっていたが、自分たちは大丈夫で、それよりもそれを練習してもっと助けれるようになったほうが良いのではないか、と言う神王寺に説明に最終的には頷き、その練習を少しずつ始めていた。

 

 本当は、彼女こそ表にいるべき人材である。そうすれば彼女の願いの通り、人々を助けることができる。そして自分の生命力を使ってしまうという彼女の行動も、呼人がイスカンダルに雷光虫を渡したようにまた別の虫を与えれば解決できる。もう年老いたリカバリーガールの次代ともなることも可能だろう。だが、モーメントの個性は今の呼人たちには無くてはならないものだ。

 

 少なくとも、彼女が15になるまで。それまでには、何らかの形で彼女とモーメントの関係に決着がついていてくれれば、と思わずにはいられない呼人であった。

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