竜と龍の血を継ぎし者~英雄と狩人の証~ モンスターハンター×僕のヒーローアカデミア 作:アママサ二次創作
「ノーマン……?」
「ああ。はじめまして。
「は、はじめまして」
2月に入り、雄英ではヒーロー公安委員会からの指示の元生徒たちにインターンを継続させていた。その中で呼人も、正月以降時間をかけてビルドメイクが主となって体裁を整えた山の内側に出来た拠点を訪れていた。
そしてそれと同時に、モーメントやリザード達が日本中を回って保護してきた子どもたちも、少しずつだが集まり始めていた。
まだ用意が完全には整っていないこともあり、また子どもたちにとっても本来の家庭があることが何よりも望ましいだろうと呼人が考えていることもあり今連れてくるのは本当に切羽詰まっている子どもたちだけと指示を出していたのだが、それでも3人の子どもたちが2人の手で拠点まで連れてこられているところを見ると、やはりそういう子どもたちは数多くいるのだ。
「明は何をするのが好きだ?」
「え? 私?」
一人目に呼人が声をかけたのは、拠点内に作られた図書室で静かに本を読んでいた少女だ。図書室といっても本の数も少なく、まだ子供部屋ぐらいの感じしか無いが子供の数が増えるまでには適度に増やして、その後は子どもたちの要望に合わせて揃えていこうという話になっている。
呼人の質問に少女の代わりに応えようとしているアーニャを手で制して、呼人はその少女の応えを待つ。
「……ゲームが好き」
「そっか。なんでゲームが好きなの? それと、どんなゲームが好き?」
その少女の年齢が9歳であるとマドレから聞いていた呼人は、適度に難しい会話もできるだろうと話をふくらませる。
「えっとね、ゲームをしてるときは私もちゃんといるの。ゲームしてないといなくなっちゃうんだ。後ね、ゲームだとマリオとマリオカートが好き」
マリオ、というのは、超常以前から長く人気を獲得しているゲームのことだ。赤が特徴のキャラクターが平面のステージを横に向かってジャンプしたりダッシュしたりしながら進んでいくゲームであり、マリオカートとはそのキャラクター達を使ったレースゲームである。
そして少女の答えから明らかだが、彼女は透明人間である。彼女が言うには昔から、つまり生まれたときから透明だったらしく、異形型だと推測されている。そのためその姿を表に出すことが一切できず、それを心無い父親や祖父母に事あるごとに言われていたらしい。頼りだった母親も数年前に亡くなっており、味方が1人もおらずアパートの階段で倒れ込んでいた彼女をリザードが保護してきたそうだ。
「そっか。じゃあ今度みんなでできるようにゲーム買ってこようかな」
「ほんと!?」
彼女が表情を明るくした、というのはその声からわかった。つらい生活をしていたのだろうが、母親が良い育て方をしたのか自分が透明である事を悪いことだと思う以外は変にねじれていないようだ。
「それと、明」
「何?」
「明は、ちゃんとここにいるよ。見えなくても、いなくなったりしない」
そう言うと、明が息をのんだ雰囲気が伝わってきた。
「でも……でも、見えないよ。だからいないんだよ私は」
そう言う明の頭を、呼人は優しく撫でる。
「人間は、自分のできる方法でしか周りを判断出来ないんだ。だから、明のお父さんとかおじいちゃんおばあちゃんは明がいないって言うしか出来なかった。でもね。例えば明が最初に助けてもらったおじさん、わかる?」
「う、うん」
透明であることへの処世術が身についているのか、首を縦に振りながらも声に出して返事をする。
「あの人は実はね、温度を見てるんだ」
「え? どういう、こと?」
「あの人の個性は『蛇』なんだけど、蛇って、人みたいに目で見るだけじゃなくて、温度を見て周りを探すことができるんだ。ちょっと難しい話になるんだけどね、人の目っていうのは、光を受け止めてる」
「明るいから見えて、暗いと見えない、ってことでしょ?」
明の答えに、呼人は頷く。
「そう。そして明は、その光が通り抜けちゃうから普通の目じゃ見えない。でもさ、明はそこにいるから周りの空気より温かくてあのおじさんはわかったし、俺は鼻が良いから『明の匂いがする』ってわかるんだ。それにこのアニーも人の『元気の力』がわかるから、目を閉じてても明がここにいるよ、ってわかってる」
「そ、そうなの? 私、ちゃんといる?」
そう言う明の頭をポンポンと呼人は優しく叩く。
「いるよ。だってそうじゃなかったらこうやって触ることも出来ないし、こうやって撫でることも出来ないよ?」
呼人にそう言われて、ようやく彼女は黙ったままコクリとうなずいた。透明である、ということはおそらく周囲だけでなく自分にまで大きな影響を与えてきたのだろう。それは今すぐには溶けないだろうが、だんだん忘れていってくれればありがたい。
「さ、そうしたらゆっくり本読んでて良いから。ご飯の時間になったら食堂に来るんだよ」
「うん。ありがと、ノーマン、さん」
「それと、見えないからって裸になったら駄目だよ」
「なんで? 見えないんだよ?」
「だって裸になったら寒いし、ぶつけたときに怪我するだろ? 別に服っていうのは身体を隠すためだけにあるんじゃないんだ。身体を守ったり暖かくしたりするためでもある。だから、『見えなくなりたい』っていうとき以外は裸にならない。かくれんぼとかで使うのは良いかもしれないけどね」
ようやく笑ってくれた明の頭を優しく撫で、呼人はアーニャの頭をポンポンとした後部屋を出る。言葉が互いに通じない2人だが、それでも3人の中で1人だけ女性である明の事をアーニャは気にかけてか一緒にいるらしい。互いに何か話すことは無いが、図鑑なんかを一緒に眺めている姿をたまに見かけるとモーメントからは報告を受けた。
部屋を出た呼人は、もうひとりの子供のところへと向かう。もうひとりの子供は、連れてこられた時は何回も逃げ出そうとして、その後森で迷っているところを救助された後は自分の部屋に引きこもって食事も部屋に運ばれたものだけを食べて部屋から出てくることは無いそうだ。顔合わせついでになんとか話してみろと呼人は言われていた。
子どもたちがどういう部屋を求めるかはわからないので、拠点内には大部屋も個室も用意しており、あるいは工事をして2人一部屋、3人一部屋にする用意もある。そのうちの個室の一室に、その少年は引きこもっている。
「入るぞ」
合鍵を使って室内に侵入した呼人は、少年の姿が見えないのに一瞬眉をひそめそうになるが盛り上がったベッドの上の布団を見てそこに少年が潜り込んでいるのだと理解する。正確な話は聞けていないが、少年が両親や周囲の人間たちから『心を読んでいる』と気味悪がられていたのは調査でわかっている。
呼人が布団をそっとめくると、うずくまっていた耳を抑えていた少年は険しい表情で呼人を見上げて顔をしかめた。『心が読める』という少年。それなら心の中に招き入れてしまおうと呼人はその耳を抑えている両手の上から自分の手をかぶせる。
そして、ちょうどよく呼人の手に集中している少年を心の中へと招き入れた。
******
呼人と少年が放り出されたのは、明るく広い、森を見下ろせる小高い丘の上。
精神世界に移ったさいに耳元から外れていた手に少年が慌てて耳を抑えようとするが、直後に先ほどとは別の意味で眉をひそめた。先程までうるさいほどに耳に響いていた声が、一人分しか聞こえない。
「もう聞こえないだろ?」
そう尋ねる呼人を警戒しながらも、少年はコクリとうなずいた。その少年をつれて近くの丸太に腰掛けながら、呼人彼に今いる場所について簡単に説明する。
「ここは俺の心の中の世界だ。俺とお前の身体はさっきの場所にあるまま。だが心だけが、こうやって俺の心の中にいる。だから外の人の心の声は遮断されている。だろ?」
『心を読まれている』という少年の周囲の大人達の発言。それに、先程の布団に隠れて耳を抑えていた動作。少年は、心が読めるのではなく、ただ本人でも意図せずに聞こえてしまっているだけではないのだろうか。
「なんで、わかるんだよ」
「そりゃあお前が『人の心を読める』っていう話は聞いてたし、さっき耳抑えてただろ? だから読んでるんじゃなくて、お前にその気が無いのに聞こえてうるさいんじゃないかと思ってな」
「……なんで俺をこんなところに連れてきた」
「まずはお前が落ち着かないと話すことも説明する事もできないだろ」
そう言った後少年が落ち着いたのを見て、呼人は説明を始める。
「まずは、個性を制御する方法を練習していこうか」
「できるわけないだろそんなこと。生まれてからずっとだぞ」
頑なに拒む少年の心を開かせるために、まずは話すよりも自分の事を見せるべきだと、呼人は少年を抱えて飛び上がる。当然少年は暴れるが、そんなことはお構いなしだ。
今2人がいるのは、再現した世界ではなく記憶の世界。区分が難しいが、こちらはまさにモンスター達の記憶をそのまま反映した世界であり、そこに生きる生物、モンスター達の日々をただ繰り返すだけの世界になっている。そのため、モンスターに襲われることはないが干渉する事もできない。
「離せ!」
「良いから。ちょっと高くなるぞ」
そう言って呼人は森の木々の間を抜けて空高く飛び上がる。途中から騒いでいた少年が静かになったので怖くなったかと様子を伺うと、真剣な表情で地面を見つめていて怖がっている様子には見えなかった。
「怖くないみたいだな」
「当たり前だろ。こんなの怖くねえよ。それに……」
「それに?」
「……ちょっと、楽しい、し」
「そうか。ならもうちょっとだけ、飛ぶからな」
そのまま少年をぶら下げて、呼人は空を飛んでいく。目指すのは、その近辺にあるとあるモンスターの巣だ。
呼人の言葉に一応はちゃんと応えてくれる少年だが、それには理由があった。小さい頃から彼が聞いてきたのは、彼を気味悪がる大人や子どもたちの声で、その半分以上は彼を疎ましく思う声を、それも一切のオブラートに包まない本心を聞いてきた。そんな彼にとって、心の声と言っていることが一致している呼人は珍しく、またそれまでの人間ほど嫌には思えなかったのだ。
「ほら、見えてきたぞ」
指し示す先は、崖の張り出した部分に作られた大きな巣。そこには、一匹の赤い飛竜が眠っていた。その近くに呼人は着地し、少年をその場に下ろす。
「何、これ……」
「竜だ。ワイバーンとも言うな。心配するな。絶対にこいつは俺たちには気づかない」
そう呼人が言うが、少年はゴクリと息をのみながら一歩後退りする。目の前にいる生物はそれだけ巨大で。その爪のひとかき、あるいは一噛みでたやすく自分を殺せるのだということが少年にはわかったのだ。
「俺の個性なんだけどな。俺はこんなモンスター達に変身できるんだ」
「え?」
困惑した様子の少年に、呼人は目の前で実際に変身してみせる。2人の目の前で眠っている火竜と同様の姿に。
「ほら。変身できるだろ?」
「お前の、心の中だから?」
「いや、普通に現実でも変身できるぞ。俺の個性だ」
意味がわからないという様子の少年に、呼人は自分が伝えたかったことを説明する。
「昔はな、それこそ初めて変身したときとかは、この大きい姿になることしか出来なかったんだよ。でもそれじゃあ不便だろ? だからその後ずっと、例えばこの小さな翼みたいに大きさを変えたり、身体の一部分だけを変化させたりできるように、って練習をしてたら今はこうやって人間の形のまま変身したりもできるようになった」
「だから、俺も練習すればできるかも、って?」
「そういうことだ」
よく出来ました、と言わんばかりに頭を撫でる呼人の手を少年ははたき落とす。彼の年齢は11歳らしく、生い立ちを考えると精神的に老成している代わりに反抗期も迎えていそうな年頃ではある。
「できるわけ……」
「俺の仲間でな。ここの拠点にはいないけど凄い人がいるんだよ。お前が聞こえるみたいに、全部が見える人。例えばお前の過去とか、俺の過去とか、今あの人はどうしてるかとか。その人も小さい頃、お前と同じで見たくないのにちょっと思っただけで見えたらしくてな。例えば『ヒーロー』って思ったら、勝手にヒーローの色んな映像がブアーって勝手に頭の中に入ってくるんだって。お前ならどれだけしんどいかわかるだろ?」
呼人が話しているのは、星詠みから聞いた彼女が幼い頃の話しだ。当時の彼女はそれを自分で抑えることも出来ず。そして、両親がそれぞれに不倫しているという状況を知ってしまったために子供心にそれは言わない方が良いのだと言い出すことも出来ず。そんなところを神王寺が救ったという。
「めちゃくちゃ、しんどい」
「だろ? でもその人は今は、見たいときにしか見えないようにできてるし、見たくないものは見ないようにもできてる。ちゃんと訓練をすれば、できるようになるんだよ」
「俺も、なるかな。聞こえないように。本当にうるさいんだ。笑ってるのに、みんな俺を邪魔だと思ってるんだ」
そういう少年の表情が辛そうで。呼人は、再び少年を抱きかかえると空高く飛び上がった。
「そういうときは、俺がこうやって飛んでやるよ。良いだろ? 空。嫌なこと全部忘れられる」
「……うん。もうちょっと、飛んでて」
少年に言われて、呼人は更に高度を上げて雲の中に突っ込み、しばらくそこを飛んだ後雲の上に飛び上がる。
「俺が変身できる奴らのことも、時間があったら教えてやる。たくさんいて、ちょっと恐いけど面白いぞ」
「……うん」
そうして2人は、少しの間飛行を楽しんだ。
******
地上に降りた後呼人は、改めて今現実世界で彼のいる場所について説明する。
「お前が現実で連れてこられたのは山の奥にある俺達の拠点だ。図書室も走れる場所もあるし、もう少ししたら外でも遊べるようにする。食べ物もちゃんとある。だから、もし帰りたくないならここで暮らさないか? 帰りたいなら、家には返す」
もう自分で判断できる年齢だと、そして、その上で彼は帰らないだろうと踏んだ呼人は彼に選択を委ねる。もともとそういう子どもたちしか連れてこない予定だ。
「帰るのは嫌だ。でも……」
「ここでも同じだったら嫌、か?」
コクリと頷く少年の頭を呼人は優しく撫でる。
「少なくとも大人は大丈夫だ。お前みたいなやつを助けたくて連れてきたんだからな。子どもたちは、これからお前みたいに家族や周りの人間から酷い事をされていたやつを連れてくる。だからもしかしたら、お前みたいに周りが全部嫌で、お前のことも嫌だっていうやつもいるかもしれない。でもそういう奴を俺たちは助けたいと思ってるし、お前らも互いに仲良くなってもらいたいと思ってる。それでも無理だったら、会わないようにわける事もできる」
「仲良く、なる……」
「相手の思ってることが聞こえるお前には難しいかもな。子供なんて特に、何も考えないで相手をうざいと思ったりするから。だから、取り敢えず心の声が聞こえないような練習頑張ろうな」
「どうやるんだ?」
「例えば、お前は耳を抑えてるけどその声は頭の中に響いてくるんだろ? だったら本物の耳じゃなくて、心の耳を抑えるって考えるんだ」
そんなことで? と言いたげに少年は呼人見上げるが、個性とはそういうものなのだ。特に物理的に発露するのではなく精神に干渉する彼の個性はその傾向が強いだろう。
「他にも色々方法がある。だから一個ずつ試していこう」
呼人が言うと、今度こそ少年が力強くうなずいた。
「お前、名前は?」
「
「俺はノーマンだ。これからよろしくな。他の奴にも会ったときに名前を聞いておくといい。子供はお前の他にも後3人いる。1人は英語しかまだわからないから心の声が聞こえても何言ってるのかわからないだろうけどな」
「……会って、みる」
「おう」
******
3人目は心に比べて比較的簡単であった。保護された当初は虐待を受けていたらしく傷だらけで、保護されたのがつい昨日ということもあってアーニャが治療をしてくれたもののまだ医務室で寝ているということであった。組織内で医療の心得があるのは神王寺と看護程度のマドレ、それに野性味溢れる治療程度ならできる呼人とイスカンダルぐらいだが、それでも治療用にとしっかりした設備にベッドが揃えられていた。
そのベッドの1つの上で、3人目の少年はもくもくと本を読んでいた。彼が倒れているときに抱えていたという雑誌で、ボロボロになっているがヒーローについてまとめた雑誌である。
「何の本を読んでるんだ?」
「ヒーローの雑誌」
「そっか。ちょっとだけ話があるんだけど、良いか?」
呼人がそう言うと、少年は聞き分けよく雑誌から顔を上げる。
「良いよ」
「じゃあ、まずは自己紹介から。俺の名前はノーマンだ」
「僕は力久火花。よろしくお願いします」
「よろしく。まずここのことだが、お前はこれから俺たちと一緒にここで過ごしてもらう。少なくとも、家には返せない。それは良いか?」
「なんで? 僕いじめられても平気だよ。だってヒーローは負けないから」
まさに自分はそう思っているのだと言いたげな様子の火花だが、彼の身体に残っていた虐待の跡は酷いもので、中には骨折に至っていたであろうという傷跡もあったそうだ。
「火花はヒーローになりたいのか?」
「絶対になる」
「なんでヒーローになりたいんだ?」
「だってたくさんの人を助けたいから。みんなが危ない目にあっても、僕が助けるんだ」
助ける、と。まさに求められるヒーローとして当然で、そして一番大切な事を火花は言った。
「そうか。火花の個性はどんなのなんだ?」
「力を溜める個性だよ。グーって溜めた分の力を後で好きなときに使えるんだ」
「すごい個性だな」
「うん」
力を溜める、という名前から一瞬違うものを想像したが、彼の個性は発揮した物理的エネルギーを好きなタイミングまで溜めておいて放出できる個性のようだ。蓄積できる量によっては非常に強力である。
「でも個性が強いだけじゃ駄目だぞ。ちゃんといっぱい運動していっぱい食べて、身体を大きくしないとな」
「やっぱりそう、かな」
「そうだ。ヒーローはみんな、個性に関わらず身体を鍛えるんだ。俺はヒーローの学校に行ってるから詳しいんだよ」
「そうなの!?」
呼人がヒーローの学校に行っている、と言うと、火花は表情を変えないまま若干キラキラとした目で呼人の方を見つめてくる。本当にヒーローというのが好きなようだ。そしてそれでも笑わない。
「ああ。だからヒーローの先輩から、火花に1つ大事な事を教えてやる」
「ほんと! 何? 早く教えて!」
急かす火花に、呼人はまず一番大事な事を教えることにする。今の彼にとっての、だ。
「ヒーローが絶対に負けない、っていうのは、嘘だ。ヒーローは戦いに負けることもある」
「そ、そんなことない! ヒーローは絶対に―――!」
「落ち着いて聞いてくれ」
勢い込む火花を抑えて、呼人は続ける。
「でも、それでも、大事な事があるんだ。それは、絶対に他の人達を守ったり、助けたりすること。逆に言えば、自分がヴィランに負けて倒れたとしても、助けた人たちが逃げれたらヒーローの勝ちなんだ」
「で、でも……」
「だからな。ヒーローが負けちゃ駄目なのは、守る人たちの前で、だけなんだ。他のヒーロー達は、ヒーローが守らないといけない相手じゃないだろ?」
「……うん」
「じゃあ、ここで問題だ」
そう呼人は明るく問いかける。
「ヒーローが辛いとき、倒れそうなとき。心が傷ついてるときに助けてくれるのは、誰だと思う?」
「……わかんない。ヒーロー?」
「そうだ。ヒーローを助けてくれるのは、他のヒーローだけなんだ」
「そっか……そうだね。ヒーローは人を助けるんだもんね。同じヒーローでも助けるんだね」
「そうだ。だから他の人の前じゃあずっと頑張ってるヒーローも、他のヒーローの前ではただの人間に戻ることができる。だからな、火花」
―――泣いても良いんだぞ。
呼人は続ける。泣いても良いんだ。お前はまだ、ヒーローになる前の卵だ。これから成長していくんであって、まだヒーローになるには身長も、筋肉も、力も、心の強さも足りない。だから、ヒーローの先輩の俺の前では、泣いて良いんだぞ。
そう、呼人は優しく語りかけながら火花を優しく抱き寄せる。泣け、と。笑えないぐらいに表情を固めてないといけないなら、いっそ思い切り泣いてしまえ。
そんな呼人の思いが通じたのか、少年は勢いよく泣き始める。彼の両親は、とても粗野で、かつ常識がわからず周囲に迷惑をかけてばかりの人物らしい。そのため例え彼が虐待を受けていることに周りの人間は気付いても、声をかけようとしなかったのだ。君子危うきに近寄らず、とはよく言ったものである。
だからこれまで一度も、心許せる誰かに吐き出すということを覚えてこなかった。信頼しかけた教師すらが、両親の怒声にあてられると火花を見捨てた。
だから、火花が物心ついてから思い切り泣いたのはこれが初めてだった。
泣くことに慣れていないのか下手くそに声を漏らしながら、まだ9歳になったばかりの少年は声を上げて泣く。
その背中を、呼人は彼が泣き止むまでずっと優しく叩き続けていた。
小説内で登場したモンスターの形態変化とか生態について細かい説明が欲しいですか
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欲しい
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勝手にニヤつくからいらない
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あまり興味がない