モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

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謎のトレーナー

 トレセン学園…数々の有名ウマ娘を輩出してきた名門校。その門の前に、一人の美しい少女が佇んでいた。

 

「…ん? ねね、あの子ちょっと見てみてよ…」

 

「え? わっ…綺麗な子…」

 

「ここにいるって事は新入生かな…?」

 

 腰を通り越し、膝近くまで届く茶色がかった髪は太陽の光を綺麗に反射してキラキラと光り、スラっとした高身長に顔つきも大人っぽく、しかし目付きだけは鋭いながらも少し丸みを帯びているため、まだかすかな幼さも感じさせる。その大人と幼さの絶妙な調和が美しさを引き立たせている少女に、周囲からもひそひそと称賛する声が聞こえてくる。

 

 基本的に綺麗な見た目をしているウマ娘だが、そんな中においても、ひと際目立つ美貌を持つ少女。しかし、当のその少女自体は緊張した面持ちでトレセン学園を見上げていた。頭の上についているウマ耳を見ても、緊張しているのが見て取れる。そして―――

 

 

 

 

 

「はあっ! はあっ!」

 

 入学初日の模擬レースに出場する少女。しかし、結果は芳しくない。

 

 …いや、芳しくない…などという生ぬるいものではない。芝の800、1000、ダートの800と三つのレースに出たものの、結果はブービー、最下位、最下位と散々な物だ。

 

「うーん…」

 

「最初見たときはオッと思ったけど…」

 

「駄目だなこりゃ…」

 

 目立つ美貌を持った少女に少なからず注目も集まっていたが、この酷い結果を前に、周囲の者達は首を横に振り…あるいはため息を吐きながら注目を少女から外していく。

 

「う……く、く……」

 

 悔しそうに呻く少女。目尻にも涙が溜まっている。だが、その溜まった涙が頬をつたう前に、腕で強引にふき取り、前方を睨む。最初の掴みこそ最悪だったが、その様子からしてまだまだ諦めるつもりはない様だ。

 

 そして、少しでも遅れを取り戻そうと一歩踏み出した…その時だった。

 

「こんにちは」

 

 不意に、背後から声を掛けられる。驚きながらも振り向いた少女の視線は、ピンク色の髪をした小柄なウマ娘を連れた男性をとらえた。

 

「あ、は、はい…こんにちは」

 

「早速だけど、僕、君の担当をしてみたいんだ。良いかな?」

 

 ぎこちなく返す少女に、男性は笑みを浮かべながらとんでもない提案をしてくる。担当…とは、つまりウマ娘のトレーナーの事だ。

 

 トレセン学園に入ったばかりの新入生には三つの道がある。一つは独力で実力をつけていく道。が、よほど才能に恵まれていない限りは、所詮独力では近いうちに限界にぶつかってしまう。そこで、残る二つの道だ。

 

 つまり、ウマ娘専属のトレーナーと二人三脚で歩む道と、ウマ娘たちが組むチームに所属する道。だが、前者はウマ娘専属のトレーナーは絶対数が少ないため、優秀なウマ娘の特権の様な物だ。後者についても、そもそも実力を認められなければ加入すら許されない。

 

 必然的に、暫くは独力で実力を磨いていく事になる…のが普通なのだ。だというのに、イキナリ声を掛けられた。

 

 正直、最初はトレーナーを騙る悪い奴かもと疑った少女。先ほどのレースの結果も見ていた筈なので、猶更その疑念は増大していく。が、

 

「トレーナー! この子も一緒に練習するの!?」

 

「うん。この子が了承してくれたらね。大丈夫、こう見えても僕もそれなりにベテランのトレーナーだから。ほら、二人以上のウマ娘を同時に面倒見る許可も貰ってるし」

 

 隣にいたピンク色の髪のウマ娘が、キラキラした様子で男性に問いかけ、それに男性も懐から何やら手帳の様な物を取り出して中身を見せてくれる。

 

 それは、まぎれもなくトレーナーの証。しかも、複数のウマ娘を同時に育成する許可もちゃんと取ってある。この許可証は、ベテラン且つ実力と実績のあるトレーナーでなければ絶対に発行されないものだ。

 

 だが、これだけ見せられてもまだ少女には疑念の色が見える。明らかに「そんなすごい人がなぜ自分なんかを?」という類の疑念だ。が、その色はすぐに消え、そして

 

「よ、宜しくお願いしますっ!!」

 

 と、勢いよく頭を下げる少女。そもそもトレーナーから誘われる…ということが滅多に起こる事ではないのだ。誘われる理由は分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない! と、踏んだのだろう。

 

「うん、宜しく」

 

「宜しくねー! 私はハルウララって言うの! アナタのお名前は!?」

 

 対して、にこやかに返事をする男性と、元気よく名前を聞いてくるピンク色の髪のウマ娘…ハルウララ。

 

「私は………。私の名前は、ライオンハートって言います」

 

 そのハルウララの質問に、少女…ライオンハートは少し言いにくそうにしながらも、意を決して自分の名前を口にするのだった。

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