モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

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オグリキャップ

「さあ、ここが僕が仕事で使っている部屋だ。入ってくれ」

 

「うっららーっ! お邪魔しまーす!!」

 

 トレーナーに案内された部屋に元気よく入っていくハルウララ。ここに来るまでもいろいろな物に興味を示したり、道行く人たちに大きな声で挨拶をしたりと、非常に元気が良く愛嬌のあるウマ娘だ。

 

 対して、ライオンハートの方は何処か訝し気にハルウララに続いて部屋の中に入っていく。ハルウララとは対照的に、道行く人たちにも無意識的に壁を作っている様に感じられた。

 

 そして、肝心の部屋の中だが、残念ながらあまり綺麗とは言えない様子だ。一応整理さている書類が机の上に並んでいたりと掃除をしようとしている形跡もあるにはあるのだが、床一面にも書類が散乱していたり、ホワイトボードにはウマ娘関連と思しき情報が乱雑に書き込まれている。

 

 しかし、ホワイトボードもそうだがここにある書類は机の上から床一面、そして本棚においてある本からその全てがウマ娘に関するものだ。更に、部屋の一角にはトロフィーらしきものまで飾られている。その中には、間違いなくG1のトロフィーまであるではないか…!

 

 もうこの時点でこのトレーナーが有能であることは間違いないのだが、更にライオンハートを釘付けにした一つの写真が、そのトロフィーの横に飾ってあったのだ。

 

「………っ!!? ま、まさか…あのトレーナーと一緒に写っているウマ娘は…オグリキャップ!?」

 

 震える指でその写真を指差しながら、同じく驚愕で震える声を出すライオンハート。とはいえ、このライオンハートの反応も無理はない。

 

 オグリキャップ。数年前に活動していたウマ娘にして、天性の豪脚から放たれる無敵の差し足は全てを喰らい尽くすとまで言われた超一流のウマ娘だ。その力でもってG1を含む数々の重賞を総なめし、ついた異名が『芦毛の怪物』。

 

 また、地方から上京して有名になったというサクセスストーリーも、オグリキャップというウマ娘を語るには欠かせない要素だ。

 

「ああ、オグリのトレーナーもやらせてもらったからね。上京するときに少しゴタゴタもあったけど、本当にすごいウマ娘だったよ」

 

 写真当時の事を思い出しているのか、しみじみと語るトレーナー。その様子を見る限り、本当にかのオグリキャップのトレーナーその人のようだ。

 

「オグリキャップ…さん? その人そんなに凄かったの?」

 

 そんなトレーナーに声を掛けようとしたライオンハートだったが、その直前にハルウララが不思議そうな顔でこんな事を言い出す。

 

「なっ…!? アンタまさかオグリさんを知らないの!!?」

 

 そのハルウララの言が心底驚きだったのか、頓狂な大声をあげてしまうライオンハート。

 

「えっ? そ、その…うん…」

 

「し、信じられないっ!! いい!? オグリキャップさんはね、『芦毛の怪物』とまで言われた…っ!」

 

 少し委縮した様子で頷くハルウララに、明らかに激怒した様子でオグリキャップの解説をしようとしたライオンハート…だったが、その説明はトレーナーが手で制する事によって遮られてしまった。

 

「オグリは本当に凄かったんだぞ。そして、ウララもオグリの様に凄くなろうな」

 

「…………うんっ!!」

 

 その後に、ウララの頭を撫でながら笑顔でそう口にするトレーナー。すると、委縮していたハルウララはすぐさま満面の笑みと共に大きく頷いた。

 

「と、トレーナー! 流石にオグリさんを知らないは無知すぎます! せめて簡単な経歴だけでも…っ!」

 

「いいんだ。オグリ自身も、過剰に持ち上げられるのは流石に疲れた…と、言っていたしな。なるべくそういう先入観は抜きで付き合って欲しいんだ」

 

 しかし、引き下がれない様子のライオンハートが尚も食い下がろうとするが、トレーナーはゆっくりと首を横に振る。心底不本意そうにトレーナーを見つめるライオンハートだが、オグリキャップのトレーナーだった人物…そして、オグリキャップ自身も望んでいないというのであれば、ライオンハートからはこれ以上何も言えなくなってしまう。

 

 と、一拍子置いてから「…ん?」と首を傾げるライオンハート。

 

 …付き合って欲しいとはどういう事だ? まるで、これから毎日いつでも会えるし会いに来る、というような言い回しだが…。

 

 そんなライオンハートの思考を裏付けるように、突如部屋の扉がノックされる。そして、

 

「トレーナー、いるか?」

 

「ああ、入っておいで」

 

 扉の向こうからの問う声に、トレーナーも嬉しそうに頷く。そして、ゆっくりと開いた扉の先には、誰あろうオグリキャップ本人がそこに立っていたのだ。

 

「久しぶりだな、トレーナー」

 

「本当にな。オグリは全く変わらないな」

 

「ふふ、それはお互い様だぞ」

 

 入室しながらのオグリの挨拶に、トレーナーも先ほどまでよりも幾分か砕けた口調で返す。交わした言葉こそ少ないが、そこには確かに無二の相棒と言えるほどの信頼感が感じられた。

 

「ねね、トレーナー! この人がオグリキャップさん!? もしかして一緒に練習するの!!?」

 

「うん、彼女がオグリキャップだ」

 

「すまない。私はもう引退した身なので一緒に練習は出来ないな」

 

 その二人の空気の中に、ある意味無敵な無邪気さを誇るハルウララが割って入る。しかし、笑顔で対応する二人を見るに、特に気にしてはいない様だ。

 

 しかし、ライオンハートはそうはいかない様で、オグリキャップが現れてからずっとストップして身じろぎ一つ、どころか瞬きすらしないのだ。先ほどの口ぶりから見ても、この少女がオグリキャップというウマ娘に並々ならぬ思いを抱いているのは明らかだ。

 

「トレーナー。この子もトレーナーの担当なのか?」

 

「ああ、ライオンハートって言う名前だ。………ライオンハート? おーい、どうしたー?」

 

「ハートちゃーん! 起きてよハートちゃーーーん!!」

 

 微動だにしないライオンハートにオグリキャップは不思議そうに尋ね、トレーナーとハルウララ…特にウララは大声で体を揺さぶりながらライオンハートの名前を呼ぶが、結局ライオンハートの意識はしばらくの間、戻ってくることは無かった。




 この物語においては、オグリキャップはゲームで育成している時のように無敗に近い実力者として描いて行きます。また、ハルウララについても、初期こそライオンハートと大差ありませんが、最終的にはゲームの様に脚質さえ合えばG1も普通に勝てるようにする予定です。
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