モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

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怪物、いまだ健在なり!

「んっ…ふっ………。よし。ふふっ、このジャージを着るのも久しぶりだな」

 

「ウララも準備運動終わったよーっ!!」

 

 ターフに赴いたオグリキャップ、ハルウララ、ライオンハートの三人。準備運動を終えた後に懐かしそうに己が着ているジャージの感覚を確かめるオグリキャップに、同じく準備運動を終えたハルウララが両手を上げて元気よく主張する。

 

 一方、ライオンハートも準備運動は終えたのだが、どことなく緊張気味だ。ひたすらに憧れていたあのオグリキャップと併走できるのは、嬉しくもあり恐れ多くもあり…といったところか。

 

 因みに、トレーナーは正式にハルウララとライオンハートの担当になるための手続きをしに行ってしまったので、この場にはいない。

 

 そして、圧倒的有名ウマ娘であるオグリキャップが突然ターフに姿を現したのだ。しかも走る準備を終えた状態で…だ。当然ながら周囲が騒然となり始める。

 

「え? あれって………まさか、オグリさん…?」

 

「えっ!? うそっ!!? ほ、本物っ!!!?」

 

「しかも、トレセン学園のジャージを着て………まさか、今から走る!?」

 

「みんな、ちょっと見てみようよ!!」

 

 こうして辺りを人だかり…ならぬウマ娘だかりに囲まれる三人。そのあまりの多さにライオンハートは勿論普段は元気なハルウララですら物怖じしてしまったのだが、

 

「まずは、二人の適性を確認したい。得意な馬場、距離、作戦を教えてくれないか?」

 

 オグリキャップは全く動じた様子はなくソワソワと周囲を見回す二人に確認を取る。かつては何十万というファンの期待と大声援に応えてきたレジェンドなのだ。たかだか十数人程度の好奇の視線に晒される程度では、微塵も乱れたりはしない…という事だろう。まさしく強者の貫禄だ。

 

「あ、えっと、ウララはダートが得意だよ! でも、あんまり長いと息が苦しいかも…」

 

 オグリキャップの質問に、居心地悪そうに視線を左右させていた二人はハッと我に返り、まずはハルウララが質問に答える。

 

「…ふむ。という事は主戦場はダートの短距離…よくてマイルというところだな。確か、この条件を満たすG1は殆どなかった…と思う。出来れば、芝も走れるようになった方がいい…か」

 

「うう…やっぱりそうだよねぇ…」

 

 難しい顔で唸るオグリキャップに、ハルウララも少し悲しそうな顔をする。とはいえ、これは仕方ないのかもしれない。この中央以外にも競バ場は地方にいくつか存在するが、中央以外の競バ場はダートが主の所が多い。対して、中央は芝が中心だ。ハルウララの先には暗雲が漂い始めている。

 

 しかし、それ以上に濃い暗雲が漂っているのがライオンハートだった。彼女はなぜかオグリキャップの質問に答えようとせず、青ざめた顔で俯いたままなのだ。しかし、それを見たオグリキャップはその理由を察したのだろう。おもむろに口を開いた。

 

「自分の得意なコースは把握しておいた方がいい。条件を選ばずに走れるオールラウンダーなウマ娘もいるにはいるが、それは勝てるからオールラウンダーとよばれているんだ。勝てなければただの器用貧乏だ」

 

 厳しいオグリキャップの言葉。そう、ライオンハートは自分の得意なコースをまだ把握できていないのだ。だからこそ、模擬レースにも手当たり次第に出場していたともいえる。とはいえ、オグリキャップにまで言われてしまった以上は、このままではいけない。早急に見つける…もしくは作らなければ恐らくこの先はないだろう。

 

 

 

 

 

 オグリキャップの診断の後、遂に併走の時間が始まった。そして―――

 

「そうだな…。ウララは走るフォームがあまりにも我流すぎて基本がおろそかになっている。あと、集中力が少し足りないのも気になるな。逆に、ハートはこの辺りは問題ないから、地力をつけるのと得意なコースを見つける…または作るのが当面の目標だな」

 

 涼しい顔で二人に評価を下すオグリキャップだが、ライオンハートとハルウララはそれどころではない。ハートは芝、ウララはダートを1000m×3の合計3000mをほぼ全力疾走したのだ。二人ともわき腹を押さえてうずくまり、荒い呼吸を繰り返している。オグリの言葉に返答する余力すら残っていないのだろう。

 

 しかし、やはりオグリキャップは凄まじい。併走なのだから、勿論オグリも一緒に走っている。つまり芝3000にダート3000の計6000走っている計算なのだ。しかも、この二人の全力疾走と同じスピードで…だ。にもかかわらず、殆ど息も上がっていない。

 

 もうこの時点で、このレジェンドとの絶望的な差をひしひしと感じるが、彼女の底力はまだまだこんなものではなかったのだ。

 

「あ、あの…。その、もしよければ、私達とも併走して頂けませんか…っ!?」

 

 ライオンハート、ハルウララと併走しているオグリキャップを見て、周囲のウマ娘達のうちの一人がこうお願いしてきたのだが、それをオグリは快諾したのだ。そうして二時間後―――

 

「………オグリ。これは何事だ?」

 

 ライオンハートとハルウララを含む、十数人のウマ娘達が全員極度の疲労でへばっている中、適度な汗をかいたオグリキャップが晴れ晴れとした様子で汗を拭っている…という風景を目の当たりにし、遅れてターフに来たトレーナーが呆れた様子でオグリに尋ねる。

 

「併走を頼まれたから付き合ってたんだ。おかげでいい汗がかけた。今日のご飯はきっとおいしいぞ」

 

 そんなトレーナーに、清々しい表情でそう口にするオグリキャップ。

 

「………ね、ねえ…。オグリさん……どれくらい……走ったの…?」

 

「わ、分からない……。最低でも……50000mは……走ってる、筈…だけど…」

 

「な、なんで……まだまだ…元気そうなの…オグリさん………」

 

「こ、これが……『芦毛の怪物』の…実力……」

 

「あ、あまりにも……あまりにも、強すぎる………」

 

 嬉しそうにトレーナーに報告するオグリキャップを、ウマ娘達は畏怖と敬意の念を込めていつまでも見つめ続けるのだった。

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