モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

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 今回、ちょっと話がドロドロしているかもしれませんが、作品の性質上、今後もプレイアブルのウマ娘が出てこない話はこんな流れになりそうです…。


同室者と同級生

 オグリキャップとの併走を終えた後、入学に際し割り当てられた寮の部屋へと向かうライオンハート。その部屋を教えて貰う時に受けた説明によると、どうやら一年上の先輩が既に使っているそうだ。トレセン学園の寮は相部屋が基本なのでこれ自体は問題ないのだが、更に話を聞くとどうもこの先輩、結構長い時間部屋を一人で使っていたそうだ。

 

 それは何故かを聞くと話を濁されてしまったが、その時の説明してくれた事務員の苦々しい顔を見る限り、恐らくは…。

 

「こんばんは、確かライオンハートさん…よね?」

 

 ノックをして、許可を貰ってから入室するライオンハートに、部屋の中にいた一人のウマ娘が挨拶をしてくれる。

 

「あ、こ、こんばんは。はい、ライオンハートです。先輩は…エルノイリースさんですね」

 

「ええ、そうよ。ふふ、オグリさんとの併走の時にもご一緒していたの」

 

 少し緊張気味に挨拶を返すライオンハートにそのウマ娘…エルノイリースはにこやかに話す。

 

 言われてハッと気づくライオンハート。確かにあのウマ娘だかりの中に、目の前の人もいた…様な気がする。

 

「それにしても…やっぱり超一流のウマ娘は一味も二味も違うよねぇ…。あれで全盛期はとうに過ぎているって言うんだから、もう羨ましいも通り越して笑うしかないわね…」

 

 部屋の中に入り、事前に送られていた荷物を整理し始めるライオンハートに、話を続けるエルノイリース。その言葉尻には、何やらいろいろな感情が見え隠れしている。

 

「先輩。その………。今まで先輩がこの部屋を一人で使っていたのって…」

 

 そんなエルノイリースに、意を決して尋ねてみるライオンハート。

 

「うん、そうだよ。ガブルディアック先輩は、夢破れて故郷に帰っちゃった」

 

 神妙な顔をしているライオンハートとは対照的に、あっけらかんと答えを口にするエルノイリース。その、異常なまでに爽やかな笑みを見て、思わず訝し気にしてしまうライオンハートだったが、その理由はすぐに判明する事となる。

 

「―――私も、もう他人事じゃない。何とかしないと…」

 

 直後に、笑みを浮かべながらも冷や汗をかき始めたエルノイリース。この時に呟かれた言葉を聞いて、ライオンハートは再びハッとした様子で顔を上げた。

 

「先輩、まさか…」

 

「うん、私まだ一回も勝った事ないんだ」

 

 愕然とした表情で聞くライオンハートに、エルノイリースも正直に頷く。と、同時に彼女の笑みはドンドンと歪んでいく。まるで、心の中の焦燥を必死に笑みで抑え込んでいる様だ。

 

 ライオンハートの一年先輩という事はエルノイリースはクラシック級に属するのだが、このクラシック級の夏までに一勝も挙げられなかったウマ娘は、中央の競バの引退を余儀なくされる事となる。理由は簡単で、それ以降に未勝利ウマ娘用のレースが用意されていないからだ。

 

 実力がないとトレーナーに師事する事もチームに属する事も出来ないのに、その実力を磨く期間は二年もないというのだ。厳しい、あまりにも厳しすぎる世界だ。先ほどのあっけらかんとした様子も、既に夢破れているウマ娘の心境を察する様な余裕などない…という事なのだろう。

 

 無論、ライオンハートとて他人事ではない。今ですらオグリキャップからも忠告されるほど厳しい状況なのだ。このままいけば、来年は目の前の先輩と同じ状況に陥る事は目に見えている。

 

 と、唐突にドタドタと足音が近づいてくる。そして、その足音が部屋の扉の前に着た直後、ノックもなしに乱暴に扉が開かれた。

 

「あっ、いたっ! ライオンあんたっ!!」

 

 そこには二人のウマ娘がいた。一人は鋭い三白眼の見るからにいじめっ子気質っぽそうな子。もう一人は眼鏡をかけたちょっと神経質そうな子だ。

 

「サイフェロスにリュニフウライ…」

 

 ライオンハートもこの二人の事は知っているらしく、二人の名前らしきものを口にする。

 

「ちょっと聞きたいんだけど、あんたにトレーナーが付いたってホント!?」

 

 言いながらズカズカと部屋の中に入りライオンハートの目前まで移動し、彼女の眼前に指を突きつけて質問してくる三白眼の方に、ライオンハートはゆっくりと頷く。

 

「―――そんな、ばかな…。なんでこんなどんくさライオンなんかに…っ!!」

 

 ライオンハートの頷きを見た瞬間、顔面を真っ青にして悔しそうに呟いていた三白眼のウマ娘だったが、少し間を置いてから、くっ! といううめき声と共に脱兎の如く部屋から出て行ってしまった。

 

「サイフェロス、どうしたんだろ…?」

 

 その三白眼の子…サイフェロスの行動を不思議そうにするライオンハートだったが、

 

「おや、貴女もそんな嫌味が言えたんですね」

 

 と、その一部始終を見ていた眼鏡の子が口を開く。先ほどの三白眼の子がサイフェロスなら、この子がリュニフウライだろう。

 

「サイさんにトレーナーが付かなかったから悔しがっているに決まっているでしょう。きけば、掛け持ちとはいえあの”芦毛の怪物”オグリキャップさんの担当をしていたトレーナーが付いてくれたらしいじゃないですか。羨ましい限りですね、いったいどんな手品を使ったのやら…」

 

 冷ややかに見下しながら嫌らしい口調で責め立ててくるリュニフウライ。そして、ふん…と鼻を鳴らしながら彼女はサイフェロスの後を追っていった。

 

 だが、ライオンハートはそんなリュニフウライの口ぶりにも反応できない程驚愕の表情で震えている。

 

「あの子たちは、あなたの同級生か何か?」

 

 その時、これまで黙って見ていたエルノイリースが険しい表情で口を開く。

 

「…はい、あの二人は私の同級生です。尤も、私なんかと違い特にサイフェロスは地元でも一番速く、レースでも二バ身、三バ身離しての一着なんて至極当然…という程の強さでした。だから、トレーナーが付かなかったっていうのが信じられなくて…」

 

「このトレセン学園で一番折れやすいのはああいう半端に実力がある子なの。下手に自信がついてる分、自分の上位互換を目の当たりにしてやすやすと自信を砕かれるパターンね。トレーナーの件もだけど、多分模擬レースも思うように勝てなかったから、あんなに焦ってるんだと思う。これまで挫折した事もないから起き上がり方も分からない…」

 

 質問に答えるライオンハートに、エルノイリースは険しさに憐れみも込めて悲しそうに言う。

 

「―――あの…あの、サイフェロスが…模擬レースに勝てなかった…? あのサイフェロスが、もう既にあんなに追い込まれているなんて…っ!」

 

 そして、ライオンハートもただただ青ざめた表情でブルブルと震えている。口ぶりからして、本当にあのサイフェロスというウマ娘は強かったのだろう。が、ここ…トレセン学園ではその強さすら全く通用していない。

 

 未来に続く道にまとわりつく暗雲は、ただただ濃さを増していくばかりだ。

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