モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

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せーきまつはおー?

 翌日、トレーナーの部屋にライオンハート、ハルウララ、トレーナーの三人が集まっていた。

 

「…眠たそうだね、ライオンハート」

 

「…い、いえ…っ! そ、そんな事は…」

 

 今にも瞼が閉じそうなライオンハートに声を掛けるトレーナー。その声を聴いて一瞬背筋を正すライオンハートだったが、物の数秒もしないうちに再び上体が倒れていく。

 

「無理はしないで。眠いなら少し眠ればいい。どうやら昨日は眠れなかった様だね。初のトレーニングからくる緊張…じゃなさそうだね」

 

 そう言いながら、部屋の隅に置いてあった毛布を一枚とって来るトレーナー。

 

「で、でも…」

 

「不調の時に無理をしてもケガをするだけだ。慣れない場所でのトレーニングともなれば、猶更な。大体

、そんな状態じゃ僕のいう事も耳に入ってこないでしょ? ひとまず睡眠をとって、その後に悩みを聞こう」

 

 両目をこすりながら慌てるライオンハートに、しかしその言葉を遮って毛布を手渡すトレーナー。

 

 確かに、昨日はある事に悩んで眠れなかったのだが既にそれを見抜いているとは流石熟練のトレーナーと言ったところか。とはいえ、その悩み事はトレーナーにも関係しているので手放しには褒める事は出来ないのだが…。

 

 

 

 

 

 そうして数時間の仮眠をとったライオンハート。のそりと起き上がりキョロキョロと辺りを見回し、トレーナーの部屋で仮眠をとっていたのだと思いだした矢先、

 

「うっららーっ! あ、ハートちゃんおはよう!!」

 

「おお、今起きたみたいだね。グッドタイミングだ」

 

 ジャージ姿で程よく汗をかいているハルウララと、手に資料を持っているトレーナーが部屋の中に入って来た。恐らくは、今までハルウララのトレーニングをしていたのだろう。

 

「…う、うぐ…。い、一日…一日無駄にしちゃったぁ…。私、そんな余裕ないのに…」

 

 そんな二人の姿を目の当たりにした途端、涙声でぐずり始めるライオンハート。

 

「ハ、ハートちゃん!? どうしたの!? どこか痛いの!? 大丈夫!?」

 

「落ち着けライオンハート。落ち着いて、昨日何があったのか話してみるんだ」

 

 唐突に泣き崩れるライオンハートにハルウララはびっくりして慌てて駆け寄り、トレーナーも速足で寄り添い、優しく背中をさすりながら昨日何があったのかを質問する。

 

「―――…そ、その…。実は…」

 

 そうして、昨日の出来事を話し始めるライオンハート。まだ未勝利な先輩の事、強い強いと思っていた同級生がこのトレセン学園で全く通用しなかった事、この二つが合わさり先行きが不安で不安で仕方がなかった事。

 

 その一通りを話し終えたライオンハート。部屋の中には沈黙がただよい、ハルウララは心配そうにライオンハートを見つめ、トレーナーはどう声を掛けようかと思案顔をしている。

 

 と、そこにドタドタと騒がしく聞き覚えのある足音が。そして、その足音が扉の前に着くや否や昨日と同じく扉が乱暴に開け放たれた。

 

「アンタがこのどんくさライオンのトレーナーか! 答えろ、何でこいつを選んだんだっ!!?」

 

「サ、サイさん…っ! さ、流石に相手が相手だからもう少し丁寧に…っ!!」

 

 扉を乱暴に開けた人物…サイフェロスの挨拶もなしの直球かつ失礼な態度に、隣にいたリュニフウライも流石に慌てた様子でサイフェロスを諫める。

 

 そして、これはライオンハートも知りたかったことなのだ。何故何のとりえもない自分が、こんな凄いトレーナーの目に留まったのか? 昨日寝れなかったのは、むしろこっちの方が気になったからともいえる。故に、ライオンハートも顔を上げ、すがるような目つきでトレーナーを見つめる。

 

「―――何故か…と問われれば、『何か』をしてくれそうだったから…と答えるしかないね。流石にオグリやマックイーンの様なウマ娘史に残るような偉業…とまではいかないかもしれないけど」

 

 対して、サイフェロスの失礼な行動にも特に腹を立てる事もなく、己の顎に右手を当て、その指で顎をこすりながら答えるトレーナー。

 

「えーっ!? ハートちゃん何かしちゃうの!? わー! なんかすっごいなーっ! ねえ、トレーナー、ウララも何かしちゃう!?」

 

「勿論、ウララも何かしちゃうさ! そのためのトレーニングだからね」

 

「やったー! 頑張るぞーっ!! うっららーっ!!!」

 

 そのトレーナーの言にまず反応したのがハルウララだ。が、その後のやり取りは良くも悪くも天真爛漫といった言葉がぴったりだ。

 

 一方、ライオンハートは困惑気だ。何か…等と言われても皆目見当もつかないし、本当に出来るのかという自信も全くない。サイフェロスとリュニフウライも似たような感想なのか、納得できない様子でライオンハートとトレーナーを交互に見遣る。

 

「まあ、ここで出会ったのも何かの縁だ。もう担当を持つ事は出来ないけど、何か困った事があったら相談に来なさい。話くらいならいつでも聞くよ」

 

「え!? ほ、本当かっ!!?」

 

 しかし、そこに放たれるトレーナーの言葉。これを聞いたサイフェロスの瞳が一気に輝く。

 

「…良かった。流石に数々のウマ娘を指導した名トレーナーだけあり、心の広いお方ですね」

 

 と、同時にリュニフウライも微かな笑みを浮かべる。その表情には明らかな安堵の色が見える。

 

「…っと、そうだ。一つ聞きたかったんだけど、サイフェロスは模擬レースで負けたの? ライオンハートから聞く限りでは、君はかなり強かったらしいけど…」

 

「なっ…!? ま、負けてなんかいるもんか…っ!! た、ただ、ちょっと変な奴に大差を付けられて………それで、その………」

 

 そんな中、何気なく聞いたトレーナーに対し、今度は顔を真っ赤にして反論するサイフェロス。が、その怒りに満ちた表情に違い、言葉はドンドン尻すぼみになっていく。

 

「まさか、サイさんが5バ身以上の大差を付けられて負けるとは思ってもいませんでした。確か、テイエムオペラオー…という名前のウマ娘だったと記憶しています。サイさんの言う通り立ち振る舞いは少し独特でしたが…」

 

「あっ!? その子知ってるよ!? 学校で私と同じクラスでせーきまつはおーなんだって!! せーきまつはおーってなんだろーね?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で当時の事を口にするリュニフウライに、ハルウララが反応する。どうやら、同期にとんでもない化け物がいる様だ。いろいろな意味で。

 

「ええいっ!! あの変な奴の事はもういいだろっ! 今度は必ず勝つっ!! 行くぞリュニっ!!」

 

 テイエムオペラオーという名前を聞くのが嫌なのか、強引に話を打ち切って何処かへと走り去ってしまうサイフェロスと、その後を追って行ってしまうリュニフウライ。

 

「ふふっ。まるで嵐みたいな子だな…」

 

 その後姿をほほえましそうな様子で見つめていたトレーナーだったが、不意にライオンハートが未だに落ち込んでいるのに気づく。

 

「大丈夫か? ライオンハート」

 

 そう言って手を差し伸べるトレーナーに、ライオンハートは胡乱な瞳を向けた。

 

「トレーナー…。私、そんな自信ないです…」

 

 一言。ただそれだけを口にするライオンハート。もともとそこまで自分に自信を持てていた方ではないのだろう。なので、先ほどのトレーナーの何かをしてくれそうという言葉に重圧を感じている様だ。

 

 さて、どうしたものかと再び思案顔になるトレーナーだったが、ここでハルウララが口を開いた。

 

「だったらさ! ハートちゃんも一緒にレース見に行こうよ! 楽しいよレース!!」

 

「………レース?」

 

 突然のハルウララの提案に、訝し気にするライオンハート。

 

「ああ、今度ウララの寮の同室の子の友人がレースに出るとかで、その同室の子と一緒に見に行くそうだ」

 

 そこに、トレーナーからの補足が入る。しかし、同室の子の友人とはまた何とも…近くもなくさりとて遠くもなく微妙な距離感だ。

 

「そのレースに出る子と言うのは…?」

 

 何とはなしに聞くライオンハートに、トレーナーは力強く答えた。

 

「スペシャルウィークだ」




 この辺りで察した方もいるかもしれませんが、今作の主人公たるライオンハートは実力自体は下の中くらいですが、人脈…ならぬウマ娘脈は最終的にかなり手広くなります。それも、有名どころばかりです。やはり、最後に頼れるのは人脈だと思います。
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