モブウマ娘達の挽歌   作:塞翁が馬

7 / 9
 名前の文字数制限についてのご指摘がありましたので、寮でのライオンハートの同室者の名前を『エルノイリュージョン』から『エルノイリース』に改名いたします。


先輩たちとレース観戦

 ライオンハートが寝不足に陥ったあの日から数日後。彼女はトレーナーとウララ…そしてウララの同室者たるキングヘイロー、更にセイウンスカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサーといった一つ上の先輩方と共にスペシャルウィークを応援すべくレース場にまで繰り出していた。

 

「………こ、この状況は一体…?」

 

 そのあまりに豪華な面子にカチコチに固まってしまうライオンハート。スペシャルウィークを含むこの五人のウマ娘は全員同期にして、更にデビュー前から注目され、その期待通りに全員メイクデビュー戦を圧勝し今期のクラシック級で注目を集めている有力にして有名ウマ娘達だ。

 

 そんな有名な人たちに囲まれれば緊張するのも無理はない。特に、エルノイリースの惨状を知っている身としては、勝てる…と言うだけでも凄い事なのだ。その感覚が猶更緊張を深くしていく。

 

「あら、あなた。とても緊張しているわね、もう少しリラックスなさい。まあ、このキングヘイローを前にして緊張するのは当然の事だけど」

 

 自信満々に高笑いしながら口を開いたのがキングヘイローだ。その言動は勿論、仕草にも自信が満ち溢れている。数日前のライオンハートとは全くの正反対だ。

 

「そうそう、今回は応援なんだからもっと気楽にいこうよ。ね」

 

 その隣で飄々としているのはセイウンスカイ。何を考えているのかわからず、底知れぬものを感じるウマ娘だ。

 

「でも、応援自体は熱いハートで…デスヨ!」

 

 後方からはマスクをしたウマ娘…エルコンドルパサーが言葉通りに熱い意思を見せている。

 

「何事も気持ちです。気持ちさえあれば、結果は後から付いてきます」

 

 そのエルの横から口を出すのがグラスワンダー。一見おっとりした少女だが、その笑顔にはなにやら物凄い芯の強さを感じる。

 

「―――ねえウララ。どこでこんなすごい人たちと知り合ったの?」

 

「んー? みんなキングちゃんのお友達だよー」

 

「ちょっ…!? き、キングちゃんって…先輩に向かって失礼な呼び方を…!」

 

 あまりの面子に思わずハルウララに尋ねてしまうライオンハートだが、きょとんとした表情からの無邪気な答えにライオンハートは失礼だと感じ慌てふためく。

 

「ライオンハートさん…よね? キングたるもの、呼び方の一つや二つでいちいち怒ったりはしないわ。だからあなたも、このキングを敬意を感じる好きな呼び方で呼んでいいわよ!」

 

 と、寛容な言葉と共に再び高笑いを上げる。どうやら怒ってはいない様だと思い、ホッと胸をなでおろすライオンハート。

 

「みんな、そろそろパドックにウマ娘達が出てくるよ。様子を見に行こう」

 

 と、ここでトレーナーが全員を見回しながら口を開く。その言葉に従いパドックの方へ向かうと、丁度よくレースに出走するウマ娘達が順々に姿を現し始めていた。そして、程なくしてスペシャルウィークも姿を現した…のだが、

 

「―――? どことなく不安げだね。調子が悪いのかな?」

 

 笑みこそ浮かべている物の、わずかながら翳りがあるスペシャルウィークの表情にトレーナーは首を傾げる。そして、

 

 

 

 

 

「スペシャルウィーク! 強烈な差し足でダーティランに迫る!!」

 

「しかしいつもの勢いがありません! これは差し切れるか…っ!?」

 

「さあ差を詰めるスペシャルウィーク! 先頭で粘るダーティラン! その差は2バ身…1バ身…っ! ここでゴールっ!! 一着は………ダーティラン! ダーティランです!! スペシャルウィーク、ダーティランを捉える事が出来ませんでした…っ!」

 

 

 

 

 

 ライオンハートたちの応援むなしく二着に終わってしまったスペシャルウィーク。そしてキングヘイロー達から話を聞くと、どうもトレーナーの予想通りスペシャルウィークは今不調なのだそうだ。

 

 その理由はスペシャルウィークの同室にして彼女が敬愛する先輩…サイレンススズカが足の不良を理由に長期休暇を取っている事。これが気になって仕方がない様だ。

 

 サイレンススズカ…逃げにおいて彼女の右に出るもの無しとうたわれるほどの逃げの巨星。そのうえ、最終直線にて更なる末脚をもって逃げ切る様から、ついたあだ名が『異次元の逃亡者』。

 

 しかし、如何に普通の人間より遥かに頑健に出来ているウマ娘と言えど、やはりそのような無茶な走りは足への負担が酷かったのだろう。最近は彼女がレースに出るという情報は全く聞かない。スペシャルウィークが心配するのも仕方がないだろう。

 

 そんなスペシャルウィークを迎えるべく、キングヘイロー達四人組はスペシャルウィークの控室へと行ってしまった。ただ、心配そうにしている三人に比べ、一人先ほどのおっとりした表情を一変…剣呑な顔つきをしていたグラスワンダーが気になったライオンハート。

 

「二人とも、いまをきらめく有名ウマ娘の走りはどうだった?」

 

 しかし、その事を口にしようとした矢先にトレーナーがライオンハートとハルウララに質問してくる。

 

「もうね、すっごくすっっっっごく速かった!! びゅーーんっって飛んできてあっという間に一着の近くまで来ちゃったんだもん!! あれで二着なのが信じられないよっ!!」

 

 興奮気味に答えるのがハルウララだ。しかしこの興奮も分かる。それほどまでにあのスペシャルウィークの差し足は強烈だった。あれで不調だというのだから本当に信じられない世界だ。

 

「速さもそうですが二着であんなお通夜みたいな雰囲気になるのがまず信じられないです…」

 

 次に答えるのがライオンハードだが、これもそうだろう。今回のレースはGⅢという重賞のレースだ。グレードのついたレースで二着など取れようものなら、ライオンハートなら打ち震えて喜ぶか、でなければあまりの出来事に信じられず茫然自失となるか…。

 

 しかし、スペシャルウィーク…に限らず、彼女達からすれば一着以外は眼中にないのだ。十八人だてのレースであっても二着以下は等しく”敗北”であり、価値などないのだ。まさしく修羅の世界だ。

 

「そう、そうだね。そして、そんな厳しい世界に身を置いている者ですら、自信が無くなるときもある」

 

 最上位の世界を実感して改めて震えるライオンハートに、ほのめかす様に口を開くトレーナー。その言葉にライオンハートはハッと頭を上げトレーナーに視線を向ける。確かに、あのパドックで見たスペシャルウィークは何処か不安げに…そして自信なさげに見えた。

 

「今ライオンハートが自信がないのは仕方がないよ。だって、その自信を裏打ちできる物が何もないからね。だから、まずはそれを作っていこう。確かに猶予はあまりないかもしれないけど、だからと言ってまだ焦るような時期でもない。慌てず、落ち着いて…いいね?」

 

 諭す口調で言い聞かせるトレーナーに、ライオンハートもやや間を置いてからコクリと頷くのだった。




 エルコンドルパサーの喋り方が結構難しいです。艦これの金剛みたいに…? とも思いましたが、実際に言わせてみるとエル…というよりはタイキシャトルみたいな喋り方になってしまい、なんかこれじゃない感が出てしまいます…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。