「はっ…はっ………ふっ…!」
軽快な走りから、一気にラストスパートを決めるライオンハート。その勢いのままゴールまで走り切る。そして、一息入れて飲み物を口にしてから、
「よし…! もう一本…っ!」
と、再びコースに戻る。その表情には、以前の様な自信なさげな様子は微塵もない。
あのスペシャルウィークのレースを応援した日から一か月が経った。その間、ライオンハートはただひたすらに2400mという距離を走れるだけ走っていた。これはトレーナーからの指示だ。
「得意が”ない”という事は、逆に言えば今からでも得意を”決められる”という事でもあるね。どうせならば、少しでもいい方向に解釈しようよ」
というのはトレーナーの弁だが、確かにその通りだとライオンハートも思う。悪い方になどいくらでも解釈できるのだ。それよりかは良い方へ解釈した方がいいに決まっている。
そうして選んだ得意とすべき距離は”中距離”だ。芝の中距離ならレース数もそれなりにある。そのぶん選択肢も増えるという訳だ。2400mは中距離としてはかなり長い方だが、これも少しでも対応できるレースが多い方が良い…という方針だ。
作戦はまだ決まっていないが、何よりもまずはその距離を走り切れる体力を身に着ける事が最優先だ。これがなければお話にならない。と…いう事で、とにもかくにも中距離を走り続けているという訳だ。
「はっ! はっ! ふっ……ふうーーーっ……」
「お疲れ様。精が出るね」
もう一本走り終え、息を整えているところに一人のウマ娘がライオンハートに話しかけてきた。
「…? 貴女は…」
「私はザムスっていうの。貴女の同期よライオンハートさん」
訝し気に聞くライオンハートに、話しかけてきたウマ娘…ザムスは笑顔で簡潔に自己紹介をする。しかし、ライオンハートの警戒の表情は緩むことはない。どうやら人見知りのようだ。
「うーん、そこまで警戒されるとちょっと悲しいなぁ…」
「あ、ご、御免なさい…。でもどうして私の名前を…?」
「何言ってるの。貴女もう同期の中じゃ結構有名よ。なんたって、あの”芦毛の怪物”オグリキャップ先輩のトレーナーだった人が目にとどめたっていうんだから!」
悲し気にするザムスに謝りながらも疑問をぶつけるライオンハートに、ザムスは何を言っているんだ…とばかりに答える。確かにそういう観点から有名になってしまうのはおかしくはない。
「あんまり嬉しくない有名だな…。私の実力なんてまだまだ下の下だし…」
「そ、そこまで卑下しなくても…。それに、その汚点を払拭するためにこうやって頑張ってるんでしょ?」
複雑そうに顔をゆがませるライオンハートに、精一杯のフォローを入れるザムス。が、走り以外が評価されても嬉しくない…というのはザムスも分かるのだろう。そのフォローも若干ぎこちない。
「うん、そうだね。………で、貴女は私に何か用なの?」
ザムスの言葉に短く頷いてから、改めてザムスに向き直るライオンハート。
「いや、頑張ってる姿を見たらなんか触発されちゃったみたいで…。もしよければ、併走なんかどうかな~…とか思ったんだ…けど……」
対して、軽い感じで返答するザムスだったが、何故か言葉が尻すぼみになっていく。そんなザムスの瞳を、ただじー…っと見つめ続けるライオンハート。
「…う……うう……。そ、その…もしよければ、ト、トレーナーさんに何かアドバイスが貰えればなぁ~…とか、あわよくばオグリさんからも何か助言を貰えればと…」
すると、程なくして正直に口を割るザムス。どうやら、根が真面目で嘘を吐けない性格のようだ。まあ、先ほどの有名云々の話で何と無く察しはついていたのだが。
とはいえ、彼女の行動も致し方ないだろう。なにしろ、超有名ウマ娘とその担当を任された事のあるトレーナーのアドバイスともなれば、彼女ならずとも喉から手が出るほどに欲しいに決まっている。ライオンハートとて、立場が逆なら同じような事をしていたかもしれない。
「ははっ、頼られるのはトレーナーとしては嬉しい限りだね」
と、不意に背後から響く声。二人が振り向くと、件のトレーナーがハルウララを連れて立っていた。
「ウララ。最後にちょっとだけ芝を走ってみようか。一杯レースに出たいのなら、芝にも少しでも慣れておかないとね」
「うん分かった! よーし、いっくぞぉ~~っ!!」
「ハートも、少し休憩した後に一回タイムを計って、今日はそこまでにしよう」
「はい!」
「わぁ…。いいなぁ、なんかいいなぁ…っ!」
テキパキと指示を出すトレーナーと、その指示に素直に従うハルウララとライオンハート。その光景が羨ましく映ったのか、耳をせわしなくピコピコ動かしながら見つめ続けるザムス。
「何なら君…えっと…」
「あ、ザ、ザムスです!!」
「ザムスさんか。ザムスさんもハートと併走してみるかい? タイムも測ってみるよ?」
「い、いいんですか!? やる、やります!!」
そんなザムスをトレーナーが誘って最後の一本が始まる。結果は僅差でザムスの勝利だった。
「お疲れ様。あとほんのもう少しだったぞ。今度は勝てるように、もっと精進していこう」
「はあっ…はあっ………んっ、はい…っ!」
「ザムスさんも、併走してくれてありがとう。もし良かったら、また相手をしてやってくれないか?」
ライオンハートにはねぎらいの言葉を、ザムスには感謝の言葉を向けるトレーナーだったが、ライオンハートこそ息を切らしながらも答えてくれたが、ザムスは同じく息を切らしながらも何かを考えているように黙り込んでいる。
「…どうしたんだザムスさ」
「トレーナーさん! もし良ければ、トレーナーさん中心のチームを作りませんか!?」
首を傾げながら声を掛けようとするトレーナーだったが、その言葉を言い切る前にザムスが勢いよく顔を上げながら叫ぶ。そのキラキラした瞳から、我ながら名案だ! という思いがひしひしと伝わってくる。
「―――いや、悪いね。僕はチームには属さないし立ち上げるつもりもないんだ」
しかし、やや間を置いてからばつが悪そうにしながらも提案を却下するトレーナー。
「な、何故ですか!?」
「チームに所属しているとあの子も、この子も…といろんな子の面倒を見たくなってしまうんだけど、一度それで倒れてしまった事があってね。以後、オグリやマックイーンからチーム所属禁止の令を出されてしまったんだ…」
「た、倒れ…っ!? …で、でも、チームには他に貴方以外のトレーナーもいたんじゃ…」
「どうも他のトレーナーに任せる気になれなくてね…。ウマ娘達なら幾らでも信じられるんだけど…。そして、こんな態度だから他のトレーナーからも評判はあまりよくないって訳さ。オグリやマックイーンという実績にチーム内のウマ娘達が集まってくるのも、他のトレーナーからしたらあまり面白くないだろうし…」
ザムスの疑問に、少し悲し気にしながらも淡々と答えていくトレーナー。どうやらトレーナー界隈にもいろいろと複雑な事情がある様だ。
「トレーナーーーーっ!! 千メートルを三回終わったよーーーっ!!」
と、ここでハルウララが大声を出しながらトレーナーに駆け寄って来る。
「よーし! 偉いぞウララ! じゃあ、最後に軽くストレッチをして終わりにしようか」
「うんっ!!」
という事で、少し気まずそうにしているライオンハートにザムスも巻き込んでのストレッチを済ませた後、本日のトレーニングは終了するのだった。
投稿が遅くなって申し訳ありません。ウマ娘のイベント周回に他のアプリゲーもポチポチやって、加えてFF4ピクセルリマスターのレアアイテム集めや、小説家になろうで完全オリジナル小説執筆…なんてやってたら遅れて当然なんだよなぁ…。