ようこそ「エリート」、実力至上主義の教室へ   作:兵庫人

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入学

 世界から戦争はなくならなかった。

 

 科学技術が発達して地球上の全てが開発され、一部の貴族が月に別荘を持つようになっても、

 

 国連という組織がなくなって全ての国家がバラバラになり、新たに四つの勢力に再構成されても、

 

 球体に無数の砲身を生やした巨大なサボテンのような兵器が登場して、戦争のあり方が「クリーンな戦争」というものに変わっても、

 

 それでも戦争はなくならなかった。

 

 しかしそれはある意味仕方がないことだろう。

 

 人間とは良くも悪くも中々変わらない生き物で、遥か昔から受け継いできた「何かを得るために何かと戦わなければならない」という生き方をそう簡単に変えることはできないのだ。

 

 それは先人が後進の人間を指導して時代を担う人材を育てるという生き方も同じで、世界から教育もなくならなかった。

 

 軍人達が「クリーンな戦争」とは名ばかりの地獄のような戦場で弾丸の雨をくぐり抜けている間にも、戦火が届かない「安全国」では学生達が親の金で学校に通い、青春を謳歌しているのである。

 

 そして世界を四分割する四大勢力の一つ「資本企業」に所属する島国日本に「高度育成高等学校」という高校がある。この高校は日本で有力な複数の企業が共同で運営している国内でも有名な名門校で、今年の春に一人の新入生が入学するのだが、その新入生は少し他の新入生とは違っていた。

 

 

 

 何処かの大陸の山岳地帯で二つの巨大な影が高速で走っていた。

 

 片方は巨大な球に無数の砲身が生えている外見で、もう片方は巨大な球から八本の脚が生えている外見であった。

 

 オブジェクト。

 

 日本によって初めてその存在を生み出された人類の叡智の歪な結晶。全長五十メートル、重量二十万トンを超える怪物兵器で、今や戦争の代名詞と呼ばれている。

 

 オブジェクトに対抗できるのはオブジェクトだけで、現代の戦闘は全てオブジェクト任せでオブジェクト同士の戦いの結果で戦争の勝敗が決まる、世間が言う「クリーンな戦争」と化した。

 

 二機のオブジェクトは互いに一発撃つだけで街の一つを消し飛ばせそうな砲撃を撃ち合い嵐のような砲撃戦を繰り広げていたのだが、やがてその戦いにも決着がついた。

 

 勝ったのは巨大な球から八本の脚が生えている形のオブジェクト。

 

 八本脚のオブジェクトは、八本の脚を持つという利点を活かして山岳地帯という不安定な足場が多い場所でも安定した砲撃体勢を取ると「曲がるレーザービーム」を放ち、相手のオブジェクトを貫き無力化させた。

 

「てきのオブジェクトの破壊をかくにん。とうじょうしていたエリートは脱出した」

 

『はい。分かりました。相手のエリートは捕まえても面白くありませんし、放っておいてください』

 

 八本脚のオブジェクト「かみなりぐも」のコックピットでエリートの青年、雨田(あまだ)竜治(りゅうじ)が報告をすると、通信装置から若い女性の声が聞こえてきた。

 

「……おもしろい、おもしろくないで、エリートをつかまえるかどうか決めるのか?」

 

『ええ、そうですよ』

 

 竜治が呆れたように言うと女性の声は即答して、口調だけで向こうが笑っていると理解した彼はいよいよため息を吐いた。

 

「わかった。これよりきかんする」

 

『ええ、急いで日本に帰ってきてくださいね。来週には入学式ですから』

 

「……」

 

 女性の声が「入学式」という単語を出した時、竜治は眉をひそめる。

 

 雨田竜治は十二歳の頃に実家が営業している企業が建造したこのオブジェクト「かみなりぐも」を操縦するエリートとなり、今日までの三年間、様々な戦場で戦ってきた。そして彼は現在十五で、本来ならば「安全国」である故郷の日本で学生をやっている年齢なのだが、エリートであることで義務教育等を免除されていた。

 

 それなのに今回の任務の直前、任務が終わったらすぐに高度育成高等学校に入学することが決まったのだった。

 

「なぁ? ほんとうにオレも入学するのか? エリートのオレが? いまのごじせい、どの国もエリートとオブジェクトをあそばせる余裕はないとおもうが?」

 

『これも貴方のためだと思いますよ、竜治君。貴方には皆さんも、そして私も期待していますからもっと成長してもらいたいのですよ。……それにきっと任務が出たら私も貴方も呼び出されるはずですから』

 

「……そうか」

 

 今更どうやっても高校の入学は取り消せないことを改めて認識した竜治は、諦めた表情で呟くとオブジェクトを自軍のベースゾーンに向けて走らせるのだった。

 

 

 

 それから数日後、雨田竜治は日本の東京にある高度育成高等学校の敷地内で掲示板の前に立ち、自分が所属するクラスを探していた。

 

「オレのクラスは……Dクラスか」

 

 

 

 

 

【かみなりぐも】

全長…120M(本体は50M)

最高速度…時速500キロ

装甲…2センチ厚×500層

用途…宇宙開発支援兵器

分類…水陸両用第二世代

運用者…雨田竜治

仕様…エアクッション式推進システム+高出力イオンクラスター

主砲…多目的超高出力レーザービーム砲

副砲…レーザービーム、電磁波発生装置、高高度無人偵察機

コードネーム…かみなりぐも(武装がレーザー系のみな上、電気関連の防御システムを持っていることから。余談だが「正統王国」でのコードネームは「スナイプスパイダー」)

メインカラーリング…黒

 

 雨田竜治の実家の企業が建造して運用しているオブジェクト。

 巨大な球に八本の脚が生えているような外見をしていて、主砲の多目的高出力レーザービーム砲は本体の上部に装備、副砲のレーザービームは八本の脚に内蔵されている。

 竜治の実家の企業はレーザー系や電気関連の技術を研究して取り扱っており、そのため「かみなりぐも」もそれらの技術で武装している。

 一番の特徴は八本の脚で、レーザービームを内蔵して不安定な足場でも安定した動きを取れるだけでなく、特殊な電磁波を発生させることで敵からのビーム等の光学系兵器の射線を歪曲させて防御することができる。

 主砲の多目的高出力レーザービーム砲は高高度無人偵察機を発射するレーザー式カタパルトでもあり、戦闘ではまず最初に装填されている無人偵察機を打ち上げ、偵察機からの情報で遠距離からの狙撃の精度を上げる。更に八本の脚と同様に特殊な電磁波を発生させる機能もあって攻撃の射線をある程度曲げることが可能で、八本脚の利点を組み合わせることで「敵が移動できない場所から予測困難な砲撃で一方的な攻撃を仕掛ける」という戦いを実現する。

 主砲の砲身は左右に展開できる構造となっていて、高高度偵察機の装填は砲身を左右に展開してそこから行う。偵察機以外の物も打ち上げて宇宙にあるステーション等の施設に物資を送ることにも使用できることから、一部の人間は「かみなりぐも」を第二世代ではなく第三世代と呼ぶ。

 

 

 

 

 

高度育成高等学校学生データベース

氏名 雨田竜治

学籍番号 S01T003916

部活 無所属

誕生日 8月7日

学力 A

知性 A

判断力 B

身体能力 B+

協調性 C

 

 全ての能力が高く、能力値だけで言えば文句無しのAクラス候補であった。だがオブジェクトのエリートという特殊な環境から義務教育を受けておらず、同年代の人間との関係性が築けるかという疑問点からDクラスとなった。

 更に言えば、これからの学園生活でも任務が入った際にクラスから離れることも予想されるので、うまくクラスメイトとの友好関係を築けるかどうかが気になるところである。

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