「雨田君がオブジェクトの操縦士で、綾小路君が整備士!?」
竜治の自室に場所を移して、竜治達が自分が何者か教えると、それを聞いた櫛田が驚きの声を上げた。
「はい。そして私は雨田君専属の戦術オペレーターです」
「俺はこれからなる予定だけどな」
坂柳と綾小路がそう言うと、櫛田は信じられないといった顔で竜治達三人を見る。
「ふあ〜……。で、でもそれだったら雨田君と坂柳さんはどうしてこの学校に来たの? だって二人共もう勉強する必要なんてないし、オブジェクトのお仕事をしていた方がいいんじゃない?」
櫛田の疑問は最もなものであった。オブジェクト関連の仕事は例え整備士の雑用でも、資本企業では高額な方であり、操縦士のエリートであれば大企業の重役並……というか実際に大企業の重役扱いで、しかも敵のオブジェクトを撃破すれば他の企業から「協力金」として多額の報償金が得られる。
「私は将来の人脈作りのためと、竜治君の学生生活をサポートするためですね」
「オレは同年代のにんげんと一緒にこうどうすることを学ぶためだ。ここでのけいけんはきっとこれからの行動にやくだつはずだから」
「そ、そうなんだ……。二人共凄いね……」
櫛田はすでに実際に現場で働いているのに、まだ自分を高めようとしている竜治と坂柳を感心した顔で見る。
「それで櫛田さんにお願いしたい協力のことですが、竜治君と綾小路君は仕事があれば学校から離れなければなりません。貴女には二人とDクラスの間を取り持ってほしいのです」
『『ああ、なるほど』』
坂柳が櫛田に言った「お願い」の説明をすると言われた櫛田本人だけでなく、竜治と綾小路の二人も同時に同じ言葉を口にした。そんなどこか抜けている男二人を無視して坂柳は櫛田に話しかける。
「それでどうでしょうか、櫛田さん? 引き受けてくれますか?」
「どうするも何も、秘密を知られた私に断る選択肢はないじゃない。……でも、雨田君?」
櫛田は坂柳の言葉に肩をすくめて答えると、竜治の顔を覗き込むように見てきた。
「どうした、クシダさん?」
「前にクラスの皆に授業態度を何とかしてほしいって言った時に、『お礼』をしてくれるって言ってくれたよね? ……それは、忘れないでね」
「…………………………りょうかい」
(哀れ、雨田……。櫛田に一体何を頼まれるんだろうな?)
「はい。これで協力関係は成立ですね。櫛田さん、これからよろしくお願いしますね」
妖しい笑みを浮かべる櫛田に竜治が冷や汗を流しながら頷き、綾小路が同情するような視線を彼に向けていると、坂柳が楽しそうな顔となって三人に話しかけて今日の話は終了した。
竜治と坂柳が綾小路をオブジェクトの操縦士にスカウトして、それから櫛田も協力者となった日から、Dクラスでは忙しい日々が続いた。
前回の小テストで満点を取った竜治は平田に頼まれて仕事の合間に彼と他のクラスメイト達の勉強会に参加して勉強を教え、
綾小路は採用手続きを無事に終えてオブジェクトの整備士の仕事を覚えながら竜治と櫛田の行動を手伝い、
櫛田は平田達とは別の勉強会を開いて須藤や池に山内といった小テストで赤点を取ったクラスメイトに勉強を教えた。
そして最後に、坂柳の助言から今回の中間テストが毎年同じ問題が出ていることを綾小路が突き止めて、竜治が大量に持っているプライベートポイントでテスト問題を上級生から買い取り、櫛田が知り合いから譲ってもらったと言ってテスト問題をクラスメイト全体に配ることで、Dクラスは全員退学することなくテストで高得点を取ることができたのだった。
「みんな、嬉しそうだな」
中間テストの結果発表日。Dクラスの教室では全員が退学にならなかったどころか、ほとんどの生徒が高得点を取れたことでクラスメイト全員の表情が明るかった。
「そうだな。それにしても櫛田は凄い人気だな」
竜治の言葉に答えた綾小路の視線の先では、櫛田がDクラスの生徒達に囲まれていた。Dクラスの生徒達は全員、中間テストの過去問を突き止めて入手したのが彼女だと思っていて、櫛田に感謝の言葉を言っている。
(それに比べて……)
櫛田を見ていた綾小路が視線を移すと、堀北が無言で教室から出て行くところが見えた。
今回の件で元々高かった櫛田のクラスでの人気は更に上がったのだが、堀北の方は勉強会で須藤達に暴言を吐いたことが知られていて、Dクラスでは堀北に自分から近づこうとする者はほとんどいなくなっていた。そのことが何となく気になっていた綾小路は、櫛田が教室から出て行く堀北に視線を向けていたように見えた。
(櫛田……?)
堀北の背中を見送っていた櫛田は小さく嗤っていたような気がして、綾小路が内心で首を傾げていると竜治が話しかけてきた。
「アヤノコウジくん? いったいどうしたんだ?」
「……いや、何でもない。気にしないでくれ」
「そうか。……ん?」
綾小路の返事を聞いた直後、竜治は自分の携帯端末に一通のメールが来たことに気づきその内容を確認する。メールは竜治の実家の企業、雨田電機からの命令書であった。
その命令とは、かつてオーストラリアという国があった大陸にあるオセアニア軍事国で、資本企業だけでなく正統王国と情報同盟に信心組織の四大勢力による多国籍軍がある作戦を開始するので、それに竜治も参加せよというものだった。