オセアニア軍事国があるのは、大陸の内地の砂漠とまでは言わないが水気が少ない荒野で、農業が近代都市の開発に向かない土地であった。
科学技術の発達により荒野でも尋常ではない速度で育つように遺伝子改良された植物が開発されると、荒野の緑地化が進み農業が発展し、そこから生まれる資金が近代都市の開発に使われてオセアニア軍事国は豊かな国になると多くの人々が思っていた。
しかし実際にはそうはならなかった。古くから、それこそオセアニア軍事国ができる前から大陸に生きる「部族」の人々がその遺伝子改良された植物を拒み、オセアニア軍事国の荒野の緑地化に強く反発したのだ。
これに対して一刻も早く緑地化がもたらす利益を得たいオセアニア軍事国は「部族」の人々に対して強硬手段を取ることにした。
それは原子力空母十隻の大戦力も一機で滅ぼせる怪物兵器オブジェクトを用いて、武装なんて猟銃くらいしかない「部族」の人間達全てを抹消するという常軌を逸した虐殺行為。
このオセアニア軍事国の暴走には世界各国が非難して、資本企業と正統王国、情報同盟に信心組織の四大勢力が兵力を出し合って多国籍軍を結成すると「部族」の人々を守るべく多国籍軍を大陸に送り込んだのである。
そして現在、オセアニア軍事国周辺の土地では多国籍軍のベースゾーンが複数設置されおり、その中の一つに正統王国に所属しているオブジェクトの設計士を目指す戦地派遣留学生と貴族出身の軍人の姿があった。
「俺達が大人気ないオセアニア軍事国から『部族』の奴らを守る正義の軍団だってことは分かったがよぉ。いくらなんでもこれは俺達の方が大人気ないんじゃねぇの? オセアニア軍事国は一機しかオブジェクトを持っていないのに、それに対して俺達多国籍軍は二十機以上のオブジェクトを持ち込んで……。どう見ても弱い者イジメをしているのはこっちだぜ」
貴族出身の軍人の青年がベースゾーンの敷地内を歩きながらそう言うと、その横を歩く軍人の青年と歳が近い留学生の青年が返事をする。
「戦力は多い方がいいんじゃない。俺は他の国のオブジェクトを近くに見られて満足だけどね」
現在このベースゾーンには自分達が所属している部隊のオブジェクトの他に、資本企業と情報同盟のオブジェクトが一機ずつ待機していて、少し視線を上げると巨大なサボテンのような怪物兵器の姿が見えた。すると軍人の青年は一機のオブジェクトを見て嫌そうな顔となる。
「まさかここでアイツの姿を見るなんてな」
「アイツ?」
「あれだよ。あの八本脚のオブジェクトだ」
留学生の青年に返事をした軍人の学生は、巨大な球体から八本の脚が生えているオブジェクトを指差した。
「資本企業、というか『島国』のオブジェクトでな。一年くらい前、テメェがやって来る少し前にウチの『お姫様』相手に黒星をプレゼントしてくれやがったんだよ」
「ええっ!?」
お姫様というのは軍人の青年と留学生の青年が所属している部隊のオブジェクトを操縦するエリートの愛称で、自分達のオブジェクトが敗北した相手と聞いて留学生の青年は驚いた顔となって八本脚のオブジェクトを見る。その横で軍人の青年が八本脚のオブジェクトの情報を話し始める。
「俺達、正統王国がアイツにつけたコードネームは『スナイプスパイダー』。海やら高低差が激しい場所、ようするに相手のオブジェクトが動き辛い場所から遠くまで届く上に射線が曲がる変態みたいなレーザー砲で狙撃してくる面倒臭い野郎だ」
軍人の青年の言葉に留学生の青年は好奇心を刺激されて瞳を輝かせる。
「へぇっ!? 『島国』は兵器開発関連の技術がズバ抜けていてガラパゴス化しているって聞いていたけど、曲がるビーム砲か……。それでそのスナイプスパイダーはどうやってお姫様に勝ったの?」
「その時の作戦は海岸にある資本企業の基地を、お姫様のオブジェクトともう一機のオブジェクトで攻めるって作戦で、基地の防衛をしていたのがスナイプスパイダーだったんだ。それでさっきも言ったようにヤツは、海に陸地にと自分に有利な場所を動き回りながら狙撃してきて、お姫様のオブジェクトは中破でもう一機のオブジェクトは大破。その後でお姫様が何とか隙をついてスナイプスパイダーを同じ中破にしたのは良かったんだが、その間に別の資本企業のオブジェクトがやって来て、俺達は逃げ帰ることになったんだ」
「なるほど……。海や陸地を移動できるってことは推進方法は多分エアクッション式か。でもやっぱり曲がるビーム砲か……興味深いな」
軍人の青年の話を聞いて留学生の青年は手を顎に当てて呟いた後、もう一度スナイプスパイダーを見上げるのだった。