ようこそ「エリート」、実力至上主義の教室へ   作:兵庫人

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二人の正統王国軍の兵士

「せいびしになってすぐにオセアニアに出張だなんて、アヤノコウジくんもついていないね?」

 

「これも仕事だから仕方がないさ」

 

 オセアニア軍事国周辺のベースゾーンの一つの敷地を歩きながら竜治が隣の綾小路に話しかけると、綾小路は首を横に振って答えた後、空を見上げる。

 

「……それに、あの男と同じ国から離れられると思ったら、外国にいる方が気が楽だ」

 

 あの男とは綾小路の父親のことであり、綾小路財閥の影響が少ない外国は綾小路にとって心安らぐ場所なのかもしれない。父親と関係が悪くない竜治は、実の父親を憎んでいるのがはっきりと分かる綾小路の言葉を聞いて僅かに居心地が悪そうな表情を浮かべるが、すぐに気を取り直して彼に声をかける。

 

「まあ、とにかくいまはその話をおいといて、ちゅうしょくにしよう」

 

 そう言って竜治は持っていた紙袋を綾小路に見せる。紙袋の中には二段重ねのハンバーガーにフライドポテト、炭酸飲料といった老若男女が気軽食べられて満足できるメニューが二人分入っていた。

 

「それでたべる場所なんだけど、ひとが少ないところはないかな?」

 

「何でだ? 食べる場所なんてどこでもいいだろ?」

 

「よくない。たべているときに襲われたくないだろ?」

 

「………何?」

 

 昼食を食べる場所を探す竜治にそう言った綾小路は、すぐに帰ってきた言葉に思わず動きを止めた。

 

 現代の軍隊の食事はどの勢力、どの国でも栄養調整型のレーションばかりなのだが、これらのレーションははっきり言って「不味い」。

 

 明確な味をつけると味の好みや美味い不味いの問題で兵士の士気に影響が出る、というふざけた理由であえてレーションの味を適当にしたり薄くしていて、正統王国のレーションは味が全くないことから「食べられる巨大な消しゴム」という愛称で親しまれている。資本企業のレーションは正統王国のと比べたらずっと美味しいと評判だが、味が大雑把な上にハンバーグ味とカレー味とチーズ味しかないので、やはりずっと食べたいとは思わないだろう。

 

 しかしオブジェクトを操縦するエリートは、その戦闘の結果が戦争の勝敗を決めるため、士気と集中力を上げる一助としてレーション以外の「まともな食事」が与えられている。噂ではコックピットに小型の冷蔵庫や電子レンジを完備しているオブジェクトもあるらしい。

 

 そして竜治が持っているハンバーガーセット二人前は、そんなエリートの為に用意された食料で、毎日不味いレーションしか口にしていない一般の軍人達からすれば、後で大問題になっても奪い取りたい「ご馳走」なのである。実際、今もハンバーガーの匂いを嗅ぎつけた軍人達が竜治達……正確には竜治が持っている紙袋を血走った目で見つめており、殺気だった視線を感じた竜治は綾小路を連れてこの場から立ち去るのであった。

 

 

 

 それからしばらくした後、竜治と綾小路の二人はベースゾーンを囲むフェンスの近くで昼食を食べることにした。

 

 前を見ると離れた場所で、正統王国軍の戦闘服を着た二人の兵士が滑走路の清掃をしており、竜治と綾小路はぼんやりと二人の兵士を見ながら同時にハンバーガーに齧り付いた。

 

『『……!?』』

 

 竜治達がハンバーガーに齧り付いた瞬間、正統王国の兵士二人の身体が「ビタァッ!」と止まった気がしたが、竜治は特にそれ以上気にすることなく、口の中のハンバーガーを飲み込むと綾小路に話しかける。

 

「それで? せいびしの仕事にはもうなれた?」

 

「あー……。ぼちぼちってところだな。今は見習いってことで雑用ばかりだけど、仕事内容は理解できた」

 

 綾小路は元々、竜治と同じくオブジェクトのエリートになるための訓練と教育を受けていて、本職の整備士程ではないがオブジェクトの知識はあった。綾小路の言葉に竜治は満足したのか一度頷くと、ストローで炭酸飲料を飲んだ。

 

『『……!』』

 

 竜治がストローで炭酸飲料を飲んだ音に反応して正統王国の兵士二人の首が「グリン!」とこちらに向いた気がしたが、綾小路は特にそれ以上気にすることなく今度は自分が竜治に話しかける。

 

「なぁ? 俺達はいつまでここにいるんだ?」

 

「そうだね……。オレ達はオセアニア軍事国をたおすまでって契約だけど、あいてはオブジェクトが1機だけだし、そんなにじかんはかからないと思うよ?」

 

「そうか」

 

 竜治の言葉に綾小路が納得すると二人は同時にフライドポテトを摘んで食べる。

 

『『……!!』』

 

 外で食べる解放感からか竜治と綾小路が美味しそうにフライドポテトを食べていると正統王国の兵士二人の身体が「ガタガタガタッ!」と震え出し、そこでようやく竜治と綾小路は正統王国の兵士二人の様子がおかしいことに気づく。

 

「なんだ? ……あっ?」

 

 正統王国の兵士二人に視線を向けた竜治は手にしていたフライドポテトを数本地面に落としてしまった。すると次の瞬間……。

 

『『貰ったーーーーー!』』

 

 離れた場所にいた正統王国の兵士二人が尋常ではない速さで竜治達の元まで走ってきたかと思うと、竜治が落とした数本のフライドポテトに飛びかかったのであった。

 

「何するんだよ、ヘイヴィア! これは俺が拾ったポテトだぞ! 大体『貴族』様が拾い食いなんてしていいのかよ!?」

 

「うるっせぇんだよ、クウェンサー! そんな綺麗事を言ってたら軍人なんて務まらねぇんだよ! だからこれは俺のモンだ!」

 

 数本のフライドポテトのために見苦しい争いをする正統王国の兵士二人。彼らは正統王国の言語でお互いを罵っていたが、仕事で必要なら世界各国を移動することから正統王国の言語を習得している竜治は、二人の会話を理解していた。

 

(このふたり……今、『ヘイヴィア』と『クウェンサー』っていわなかったか……?)

 

 クウェンサー=バーボタージュ。

 

 ヘイヴィア=ウィンチェル。

 

 その名前は竜治の記憶違いでなければ、先月のニュースにあった、生身でオブジェクトを破壊した兵士の名前であった。

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