『まあ、そんなことがありましたか』
「ああ。まさか、あんなところであのふたりと会えるだなんて、おもってもいなかった」
ベースゾーンにある自分専用の更衣室でオブジェクトを操縦する時に着る特殊スーツに着替えた竜治は、パソコンを使って日本にいる坂柳と通信をしていて、パソコンの画面の中にいる彼女は彼の話を聞いて面白そうに笑う。
竜治が坂柳に話したのは昼食時に出会った正統王国軍の兵士、クウェンサー=バーボタージュとヘイヴィア=ウィンチェルの二人のことであった。
地面に落とした数本のフライドポテトを奪い合って醜い争いをしていた正統王国軍の兵士二人に、竜治がまだ大量にあるフライドポテトと二段重ねのハンバーガーのまだ口にしていない部分を差し出して「いっしょに食べますか?」と言うと、二人は目を輝かせて「喜んで!」と即答。これによって竜治は、自分がオブジェクトのエリートであると知って驚くクウェンサーとヘイヴィアの二人と食事をして、オブジェクトを破壊した時の話を聞くことができた。
クウェンサーとヘイヴィアの話を聞いて竜治が二人に懐いた印象は「普通」の二文字だった。
人並みの良心と出世欲を持ち、片方は「オブジェクトの設計士になる」、もう片方は「実家の貴族の家を継いで当主になる」という夢を叶えるために中途半端な覚悟で戦場にやって来た、良くも悪くも現代の「クリーンな戦争」に慣れきった普通の兵士。それが竜治のクウェンサーとヘイヴィアに対する印象である。
ただ一つ、クウェンサーとヘイヴィアが普通ではない点があるとすれば、それは「諦めない」こと。どんなに絶望的な状況にあっても決して希望と自分の良心を捨てないこと。
だからクウェンサーとヘイヴィアは、アラスカで自分達のオブジェクトを破壊された時も、敵に捕らわれた自分達のオブジェクトのエリートを助けることを諦めず、結果として生身でオブジェクトを破壊するという奇跡を手にしたのだと竜治は考える。
「ふだんはさえないけど、どんなピンチでもけっして諦めずにみかたを救う……。まるでマンガやアニメのヒーローみたいだ。……オレもクウェンサーさん達みたいなヒーローになれるかな?」
『いいえ。なる必要はありません』
クウェンサーとヘイヴィアの活躍は、男だったら一度は憧れるヒーローみたいで、竜治が憧れを懐いて呟くとそれに坂柳が即答した。
『竜治君。資本企業におけるヒーローの条件が何か知っていますか?』
「? いいや」
『戦場で味方の資源の損害を可能な限り少なくする。この一点だけのシンプルなものです」
「お、おう……」
パソコンからいかにも「資本企業」らしいヒーローの条件を聞かされて思わず竜治が頷くと坂柳が言葉を続ける。
『そして私はその資源の中で最も重要なのは「人間」だと思っています。結局のところ、人手がなければ何もできないわけですからね。そして竜治君は今までずっとオブジェクトに乗って戦場に立ち、私達部隊の人間を守ってくれました、ですからすでに竜治は「資本企業」にとっても私達にとっても英雄なのです』
「……」
坂柳の言葉に竜治が僅かに驚いた顔になると、パソコンの向こう側にいる彼女は小さく笑みを浮かべながら語りかける。
「クウェンサーさんやヘイヴィアさんに憧れるのはいいですが、無理に彼らみたいになる必要はありません。……というか、彼らがしたことは無謀を通り越して自殺の一歩手前ですから、真似をされては困ります」
「そうだな」
戦闘ではいつも博打に近い攻めの戦術ばかり提案するくせに、クウェンサーとヘイヴィアの行動が自殺と紙一重であると言う坂柳が少し可笑しくて、竜治は小さく笑って返事をした。
『……あと、拾い食いなんて真似もしないでくださいね? 竜治君がそんなことをすると私達のイメージまで下がってしまいますから』
「りょうかい」
昼間に地面に落ちた数本のフライドポテトを醜く奪い合うクウェンサーとヘイヴィアの姿を思い出して竜治は坂柳の言葉に即答する。いくら何でもあの姿は憧れないし、真似をしたいとは思わなかった。