坂柳との会話を終えた竜治が通信を切ると、オブジェクトの整備が完了したので呼びに来た綾小路が、彼の姿を感想を口にした。
「雨田。それがお前の特殊スーツなのか。……結構格好いいな」
竜治が今着ている特殊スーツは、メインカラーが黒でサブカラーが黄色のライダースーツの肩や胸にプロテクターを取り付けたようなデザインで、まるでアニメに登場する人形ロボットのパイロットみたいだった。更に戦闘時にはこれに加えてメカっぽいヘルメットも装着して、その時の姿は特撮のヒーローのように見える。
ちなみに特殊スーツの黒は竜治のオブジェクトのかみなりぐもの機体色で、黄色は資本企業を象徴していたりする。
「ありがとう、アヤノコウジくん。それじゃあ、いってくるね」
自分の特殊スーツを褒められた竜治は綾小路に礼を言うと、更衣室から出て自身のオブジェクトが待つ整備場へと向かって行った。
ここから先は戦争の時間。
竜治が整備場に向かって三十分後、オブジェクトに乗った彼は「正統王国」と「情報同盟」のオブジェクトと共にベースゾーンから発進した。
現代の戦争はオブジェクト同士の戦いで勝敗が決まる「クリーンな戦争」である。
そのためお互いのオブジェクトの性能と数によって戦う前から勝敗が決まるということも珍しくはない。
『こちらは一機のオブジェクトしかいない。だが敵はこちらと同性能のオブジェクトが二機。勝てるはずがない。降参しよう』
『こちらのオブジェクトは一機だけだが第二世代だ。敵のオブジェクトは二機いるがどちらも第一世代だ。勝てるかもしれない。交戦しよう』
司令官が戦いの最初で思い浮かべるのは、自軍と敵軍の戦力差や地形等を利用した難しい戦術ではなく、小学校の足し算のような単純な理屈。そしてその単純な理屈が優先されて進められるのが現代のクリーンな戦争なのである。
だからオブジェクトを一機、それも第二世代どころか未熟な技術で建造されたため、第一世代よりも性能で劣る「0.5世代」と呼ばれるものしか所有していないオセアニア軍事国は、第一世代と第二世代を合わせて二十機以上のオブジェクトで攻めてくる多国籍軍に、自分達では勝てないことを早々と理解していた。だがそれでも降伏しようとしないオセアニア軍事国は、自分達が遺伝子改良した植物で作った森林に、戦力を分散させて潜伏させた。
今回の竜治の任務は「正統王国」と「情報同盟」のオブジェクトと共に、そのいくつもあるオセアニア軍事国が潜伏している場所を攻撃することであった。
潜伏先にはオセアニア軍事国が唯一所有しているオブジェクトがあるかもしれない。もちろん戦えばこちらが勝つだろうが、それでも一般の兵士達に大きな被害が出るかもしれないので、竜治は僅かな違和感も見逃さないようにオセアニア軍事国が隠れている森に意識を集中する。
すでに「正統王国」と「情報同盟」のオブジェクトは攻撃を開始している。竜治は視線入力デバイスで目の前の森に標準をつけると、兵器のスイッチを押した。
竜治がスイッチを押した瞬間、かみなりぐもの球体の本体を囲むように取り付けられている八本の脚から数本のレーザーが発射された。レーザーは最初、斜めや真横、後ろへと発射されるのだが、途中で射線を曲げて狙い通り前方の森へと向かって行った。
かみなりぐもは、八本の脚と本体の上部に取り付けてある主砲の多目的超高出力レーザービーム砲に特殊な電磁波を発生させる装置を装備していて、これを使ってレーザーの射線を曲げて予測困難な砲撃を可能としている。またこの電磁波は、敵からのレーザーや下位安定式プラズマ砲といった光学系の攻撃を防御することにも利用できる。
かみなりぐもに正統王国軍がつけたコードネームは「
世界でもトップクラスの「島国」の技術で作られたレーザー系の兵器で武装して、電磁波を使い敵からの光学系兵器に対して高い防御力を発揮する第二世代オブジェクト。
光とは電磁波の一種である。それ故に「雷雲」、あるいは「雷を操る蜘蛛」という意味を込めて「かみなりぐも」という名前をつけられたのだった。
レーザーが曲がる、という光景は常識という言葉を何処かに置き忘れたオブジェクトの戦闘を見てきた者達から見ても珍しいらしく、正統王国軍と情報同盟軍から驚きの声が上がった。そして……。
「しゅほう以外のレーザーもまがるなんて……」
以前かみなりぐもと交戦したことがある正統王国軍のオブジェクトのエリートは目を大きくして驚き、
「おほほ。なかなか興味深いデータがとれましたわ」
情報同盟軍のオブジェクトのエリートは興味深そうに笑い、
「うわっ!? 本当にレーザーが曲がった! 何アレ!? 何アレ!? 一体どうしたらあんな風にレーザーが曲がるの? もう一回見たい! リュージ、もう一回撃って! ワンモアプリーズ!」
「うるっせぇぞ! 戦場で馬鹿みたいにはしゃいでいるんじゃねぇ!」
戦地留学の学生は未知の技術に瞳を輝かせて叫び、隣にいる「貴族」出身の軍人に怒鳴られていた。