「………」
「浮かない顔をしているな」
多国籍軍の命令で竜治が正統王国と情報同盟のオブジェクトと一緒に、潜伏しているオセアニア軍事国に攻撃を仕掛けに行った日の翌日。夜に出撃して早朝に帰ってきた竜治は何やら暗い顔をしていて綾小路が話しかける。
「きのうの任務でちょっとね……」
「昨日? ああ、そういえば向こうのオブジェクトは見つかっていなかったな」
オセアニア軍事国が唯一所有しているオブジェクト。その操縦士はオセアニア軍事国の独裁者本人で、このオブジェクトさえ破壊すればオセアニア軍事国は瓦解して今回の戦いは終結する。
だが昨日竜治達が向かった地点にはオブジェクトの姿はなく、他の多国籍軍の部隊も見つけられずいた。
綾小路は最初、竜治がオセアニア軍事国のオブジェクトが見つからなかったので落ち込んでいると思ったが、どうやらそうではないようだった。
「……うん。それもそうなんだけど……。きのう行ったばしょに『ぶぞく』のひとたちの集落があって。『オセアニアぐんじこく』のぐんじん達が集落のひと達を攻撃していたみたいなんだ」
まともな武装を持たない「部族」の人々がオセアニア軍事国の軍人に対抗できるはずがなく、その時に行われたのは一方的な虐殺だったのだろう。幸いオセアニア軍事国の軍人達は情報同盟軍によってすぐに鎮圧されて被害は最小限に済んだが、それでも死者は出たし、「オセアニア軍事国の独裁者が報復としてオブジェクトを使った復讐を行う可能性がある」と多国籍軍から発表された。
これらのことが竜治の気を重くしていたのであった。
「雨田。俺達がやっているのは『クリーンな戦争』といってもやはり戦争だ。残酷なようだが『そういったこと』は仕方がないと思う」
「そうだね……」
綾小路の言葉に竜治は力なく頷くと気持ちを切り替えていく。
竜治だって十二歳の頃からオブジェクトに乗って戦ってきたプロの軍人である。オブジェクト同士の戦闘の流れ弾で無関係の人間が巻き込まれて死んでいった光景も、数回だが見たことがあるし多少だが耐性もついていた。
「俺達は俺達の仕事をしよう。そうしていれば、この戦いを終わらせる切っ掛けがやってくるはずだ」
「うん。わかっている」
竜治はもう一度綾小路に頷いてみせる。
そして綾小路の言う「切っ掛け」は意外にもすぐに訪れることになった。
翌日。多国籍軍の監視衛星がグレートサンディー砂漠で高エネルギー反応を感知した。
グレートサンディー砂漠は、以前から近くにあるタナミ砂漠と一緒に、オセアニア軍事国が潜伏している可能性があると注目されていた地点であり、多国籍軍はそこにオブジェクトがあると考え、一番近い竜治達に出撃を命令した。
グレートサンディー砂漠に到着して竜治達が攻撃の指示が出るのを待っていると、突然全ての兵士達の無線機に通信電波が送られてきた。
『イエーイ☆ 多国籍軍の皆さん、聞こえてるー?』
無線機から聞こえてきたのは、戦場には不釣り合いなくらい明るい聞き覚えのある声だった。
(このこえ……ヘイヴィアさん?)
竜治が思わず無線機の方を見ると、次に無線機は別の、しかしやはり聞き覚えのある声で話し始める。
『こちら正統王国軍第三十七機動整備大隊のクウェンサーとヘイヴィアだ。俺達は今タナミ砂漠にいて、そこでオセアニア軍事国のオブジェクトを発見。繰り返す。オセアニア軍事国のオブジェクトはタナミ砂漠にいる。そちら、グレートサンディー砂漠にあった反応は恐らくトラップだ』
「っ!? クウェンサーさん? それは一体どういうことですか? そもそもなんで、タナミさばくにいるんですか?」
驚いた竜治が無線機に話しかけると、無線機はヘイヴィアの声で返事をする。
『その声はリュージか? いやな? 俺の相棒が「オセアニアのオブジェクトが何の考えもなく動くのはおかしい」とか「グレートサンディー砂漠だけじゃなくタナミ砂漠も怪しい」とか名推理を披露してくれてよ? その上、情報源はクソ怪しいけどオブジェクトはタナミ砂漠にいるってタレ込みがあったんで、俺達だけでコッソリ偵察に来たんだよ。そしたら見事ビンゴだったって訳だ!』
「おれ達だけ? コッソリ? それって独断行動ってことですか? ……ムチャクチャだ」
ヘイヴィアの話を聞いて竜治が思わず呟くと、無線機から「全くよ」という女性の声が聞こえてきた後、クウェンサーが無線機越しに竜治を初めとする全ての多国籍軍の兵士達に呼び掛ける。
『とにかく! オセアニア軍事国のオブジェクトは軍の電子シミュレート部門の予測通り0.5世代。オブジェクトの主砲一発、下手したら副砲の集中放火でもカタがつく。至急増援を……って、ヘイヴィア!?』
『早い者勝ちだ。急がねぇとまた俺達が美味しいとこ全部持っていって……』
無線機から聞こえてくる声がクウェンサーからヘイヴィアに入れ替わり、オブジェクトを含めた多国籍軍の兵士達に発破をかけようとしたその時……。
『不要だ。タナミ砂漠に行くことは認められない』
突然別の男の声が通信に割り込んできて、クウェンサーとヘイヴィアの声が聞こえなくなった。
「こんどは一体だれの声だ?」
『フライド評議委員』
竜治が呟くと別の通信チャンネルが開き、坂柳の声が彼の疑問に答えてくれた。
『正統王国で「王族」を除いてほとんど最高位の権力を持つ議員で、今回の戦いで多国籍軍の司令官を任されています』
「そんなひとがどうして……?」
竜治が呟くのを余所に、フライドは彼を含めた多国籍軍の部隊に呼びかける。
『クウェンサー、ヘイヴィアの両名は酷く混乱して幻覚を見ているようだ。敵はグレートサンディー砂漠にいる。オブジェクトは指示が出るまでその場で待機。これは「命令」だ』
「……!」
命令の部分を強調して一方的に通信を切ったフライドに竜治は歯を噛み締める。正統王国のオブジェクトのエリートが無線機に何やら話しかけているが、多分今の話に抗議しているか自分だけでもタナミ砂漠に行けないか上官に頼んでいるのだろう。
「アリス、オレはいったいどうすれば……」
『ちょっと待ってください。今、少し面白い会話を聞いていますから』
竜治が坂柳に意見を求めると、無線機の向こうにいる彼女はそう答えるのだが、その声はどこか楽しそうに聞こえた。そしてそれからしばらくすると、無線機から坂柳の声が聞こえてきた。
『竜治君、ヒーローを助けるヒーローになってみる気はありませんか?』