ようこそ「エリート」、実力至上主義の教室へ   作:兵庫人

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増援到着

「そういうことか。あのヤロウ、ふざけやがって……!」

 

 坂柳から説明と、ある「音声データ」を聞かされた竜治は苛立った様子で呟く。

 

『つまりそういうことです。先にルール違反をしたのは向こうですから、私達も好きにやらせてもらいましょう』

 

「りょうかい」

 

 竜治は坂柳にそう返事をすると「かみなりぐも」をタナミ砂漠へ向かわせようとするのだが、彼と正統王国のオブジェクトの前に、情報同盟のオブジェクトが立ちふさがった。

 

『おほほ。どこへいくつもりですの? なにやら内緒話をしていましたが、わたしたちはたいきですわよ』

 

 情報同盟のエリートの言葉を聞いて竜治は、無線機の向こう側にいる坂柳に話しかける。

 

「アリス。れいの音声データ、みんなには聞かせていないのか?」

 

『ええ。あれを皆さんに聞かせるのはもう少し後ですね』

 

 竜治が坂柳から聞かされた音声データ、それをこの場にいる多国籍軍の兵士達にも聞かせれば、この戦いはもっと早く、そして安全に終わるだろう。しかしどうやら彼女には何か考えがあるらしく、今は音声データを聞かせるつもりはないみたいだが、竜治はそのことについて口を出す気はなかった。

 

 竜治と坂柳は資本企業の兵士だ。右手には銃を左手には算盤を持ち、どんな時でも常に損得勘定を忘れず、他の勢力から「金の亡者」と呼ばれる兵士である。

 

 坂柳がより大きな戦果を得ようとしているのは疑いようがなく、それならば竜治から言うことは何もない。

 

「そうか。わかった」

 

『はい。それではそろそろ行きましょう。竜治君も正統王国のお二人を死なせたくないのでしょう?』

 

「もちろんだ」

 

『おほほ。わたくしを無視してなにを話しているのですか? わたくし達はたいきだと言っているでしょう』

 

 竜治は坂柳との会話に割り込んできた情報同盟のエリートの言葉を無視すると「かみなりぐも」の操縦桿を操作してフットペダルを踏み込んだ。すると次の瞬間……。

 

 ドパァン!

 

 と、いう音と共に「かみなりぐも」の左側にある四本の脚の接地地点で爆発が起こり、「かみなりぐも」の五十メートル以上の巨体が大きく右へ跳んだ。

 

『『……………!?』』

 

 オブジェクトが跳躍する光景に情報同盟のエリートだけでなく、情報同盟軍と正統王国軍の兵士達が驚愕する。

 

 基本的に「かみなりぐも」の推進方法は地面との接地点から超高圧の空気を噴出して機体を浮かせるエアクッション式推進システムだが、それ以外にも大出力の電力で生成した莫大なプラズマ状イオンを噴射することにより爆発的推力を得る高出力イオンクラスターも装備している。

 

 今の大跳躍はエアクッション式推進システムと高出力イオンクラスターを同時に最大出力で使い、更に四本の脚で地面を蹴ったものであった。陸戦専用で高速を得意とするオブジェクトにも負けないくらいの加速が得られる代わりに、脚部に大きな負担がかかるので何度も使えない大技だったりするが、そのかいもあって情報同盟のエリートの虚をつくのに成功したようだ。

 

 突然の跳躍に驚き情報同盟のエリートは対応が数秒遅れ、その間にも竜治が乗る「かみなりぐも」は後ろから攻撃されないよう高速で右に左にとジグザグに動きながらタナミ砂漠へと向かって行った。すると無線機に正統王国のオブジェクトから通信が入ってきた。

 

『スナイプスパイダー……。クウェンサー達の事をお願い……』

 

 本当は自分が一番、タナミ砂漠に行ってクウェンサーとヘイヴィアを助けたいのに、軍の規約等で動けないでいる。正統王国のエリートの声からはそんな悔しさが感じられた。だから……。

 

「りょうかい。任せろ」

 

 竜治はそれだけ言うと「かみなりぐも」を加速させた。

 

 

 

「クソッ! オブジェクトが一機でも来てくれたら楽勝なのによ! 結局また俺達だけでオブジェクトと戦うのかよ!」

 

「文句は全部フライドチキンの奴に言ってよね」

 

 ヘイヴィアとクウェンサーの二人は、タナミ砂漠にある緑地化計画のための貯水プラントを利用したオセアニア軍事国の基地を走りながら軽口を叩き合っていた。しかし二人の表情は緊張していて、その視線は巨大な影に釘付けとなっていた。

 

 オセアニア軍事国が保有する唯一のオブジェクト。

 

 その存在を確認したクウェンサーとヘイヴィアは、多国籍軍に増援を要請したが「とある理由」によって増援は望めない上に、通信自体も取れないという最悪の事態の中にいた。通信ができなくなってからまだ一時間も経っていないが、二人にはもう何時間、あるいは何日も経っているように感じられた。

 

 不幸中の幸いというかオセアニア軍事国のオブジェクトは、本来のオブジェクトと比べて機能があらゆる面で劣っている0.5世代でレーダーの類いもそれ程精度が良くなかった。クウェンサー達はそのレーダーの隙をついて隠れながら、自分達だけでオブジェクトを倒すための方法を探していた。……しかし、それもいつまでも続くことはなかった。

 

「おい! クウェンサー!」

 

 何とかオセアニア軍事国のオブジェクトを倒す手がかりはないかと、必死に頭を働かせているクウェンサーの耳にヘイヴィアの悲鳴のような声が聞こえてきた。クウェンサーが振り返ればヘイヴィアの視線の先、オセアニア軍事国のオブジェクトが持つ無数の大砲の一つが、こちらに標準を合わせているのが見えた。

 

「マズい! 見つかった!?」

 

「は、早く逃げ……え?」

 

 オセアニア軍事国のオブジェクトがクウェンサーとヘイヴィアに向けて砲撃を行おうとした瞬間、それより先に無数の光線がオセアニア軍事国のオブジェクトに突き刺さり、いくつもの爆発が起こった。二人が光線が飛んできた方を見ると、そこには巨大な球体から八本の脚を脚を生やした外見のオブジェクトの姿が見えた。

 

『『スナイプスパイダー!?』』

 

 過去に一度、クウェンサーとヘイヴィアが所属する部隊のオブジェクトと戦って中破させた資本企業のオブジェクトは、今度は彼らを助けるために現れたのだった。

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