ようこそ「エリート」、実力至上主義の教室へ   作:兵庫人

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調査開始

 高度育成高等学校の生徒達は、毎月一日に自分達のクラスが持つクラスポイントに応じたプライベートポイントが与えられる。

 

 一年Dクラスは四月の自分達の行動によりクラスポイントが「0」となり、五月と六月に支給されるプライベートポイントも「0」となっていた。

 

 中間テストではDクラスの生徒全員が高得点を取ったことでクラスポイントが加算され、いくらかのプライベートポイントが得られるだろうとDクラスの生徒達は思っていたのだが、七月一日になってもプライベートポイントは増えていなかった。

 

 その事を雨田電機からプライベートポイントを与えられていた竜治と綾小路は、櫛田の言葉により初めて知ったのである。

 

 

 

「めんどうなことになったな……」

 

「そうだな」

 

「うん。本当にどうしよう……」

 

 放課後。竜治が呟くと綾小路が頷き、櫛田がため息を吐いた。

 

 今日の朝のホームルームで聞いた茶柱の話によると、Dクラスのクラスポイントは「87」まで上がっているのだが、Dクラスは現在Cクラスとトラブルが起こっていてプライベートポイントの支給が遅れているそうだ。

 

 そのトラブルとは、Cクラスの生徒三人が須藤に暴行を受けたと訴えてきたというものだった。これに対して須藤は「Cクラスの生徒達に呼び出されて喧嘩を売られたので自分は正当防衛だ」と主張しているが、目撃者がいないためにどちらの主張が正しいのか分からない状況で、近いうちに生徒会立ち会いのもとで審議が行われるらしい。

 

 プライベートポイントは審議が終わり次第支給されるそうだが、審議の結果次第ではクラスポイントとプライベートポイントの額にも影響が出るかも知れないと、茶柱は言っていた。この言葉が切っ掛けとなって、現在Dクラスの生徒達の何人かは今回の騒ぎの情報を集めようと行動していた。

 

 竜治と綾小路も、櫛田に協力を頼まれて詳しい情報を得るために須藤達が騒ぎを起こした現場に訪れていたのであった。

 

 竜治達が今いるのは、家庭科室や視聴覚室、理科室等といった頻繁に利用しない施設が集中している特別棟の四階の廊下。ここは生徒の動向を監視するために敷地内に無数の監視カメラを設けているこの学校で、数少ない監視カメラがない場所らしいのだが……。

 

「うーん……。本当にカメラがないね」

 

「いや、あるぞ」

 

 周囲を見回して櫛田が呟くと、竜治が即座に否定をする。

 

「え? 本当?」

 

「ほんとうだ。うまく隠してはいるが、てんじょうや壁にむすうのカメラがある。これはプロの軍人でもみおとすかもな」

 

「……ああ、言われてみれば確かに」

 

 軽く周囲を観察しただけで、プロの軍人でも見落とすかもしれない隠しカメラを発見した竜治が言うと、少し遅れて綾小路も隠しカメラの存在に気づく。

 

「そもそも、このがっこうで監視カメラがないばしょなんてあり得ない。ここはいくつものきぎょうが運営しているがっこうで、きぎょうと敵対しているものたちに真っ先にねらわれるばしょだ。そこに監視カメラがないところがあったら『どうぞここで悪巧みをしてください』と言っているみたいなものだ」

 

「そうだな。しかもこの特別棟には理科準備室もある。少し詳しい人間だったら、そこの薬品を使って好きなだけ化学兵器が作れる。それを防ぐための監視カメラがないのは不自然だな」

 

 竜治と綾小路は身体能力だけでなく五感も強化された現役のオブジェクトのエリートとエリート候補であり、監視カメラ等の機械が放つ独特の「気配」を感じ取っていた。そんな物騒な会話をしながらも隠しカメラの位置を確認している二人に、櫛田は僅かに引きつった表情となる。

 

「な、何? オブジェクト関連のお仕事をしている人って、皆そんなに凄いの?」

 

「大袈裟だ。これくらい訓練したら分かるようになるぞ」

 

「アヤノコウジくんのいうとおりだな。エリートには監視衛星の『しせん』をかんじとれる人もいるってウワサもあるし、それに比べたらふつうだよ」

 

「いや、それってもう超能力じゃない?」

 

 綾小路と竜治の話に驚きを通り越して呆れたような表情となった櫛田は気になったことを聞いてみる。

 

「でも、どうしてここだけカメラを隠したりしているんだろうね?」

 

「……たぶんだけど、ここは『エサ』なんだと思う」

 

 櫛田の疑問に竜治は少し考えてから自分の予想を口にする。

 

「餌? どういうこと?」

 

「ここに監視カメラがないとおもった人は、ここでないしょばなしをしたり、人に知られたくないことするかもしれない。そういった、この場所をりようしようとする人をかげから監視するために、カメラをかくしているんじゃないかな?」

 

「……待て。確か須藤はCクラスの生徒にここに呼び出されたって言ってたな? もしかしたら須藤は罠にはめられたんじゃないか?」

 

 竜治の話を聞いて綾小路が思い出したように言う。

 

 表向きは監視カメラがないこの場所ならば、Cクラスが本当に須藤に喧嘩を売っても分かるはずがない。Cクラスの生徒が須藤をここに呼び出したのが単なる偶然じゃなかったら、それは須藤が罠にはめられたことになる。

 

「ありえるな……。とにかく、ここに監視カメラのえいぞうデータを調べてみよう」

 

「でもどうやって? 隠しているってことは、ここの映像データも秘密になっているんじゃないの? 学校に言っても素直に見せてくれるとは思えないけど?」

 

 綾小路の言葉に竜治が自分の意見を言うと櫛田が聞いてきた。彼女の言う通り、ここの隠しカメラのデータは学校でも秘密扱いで、普通の生徒では見れるはずがない。

 

 しかし、ここにいるのは「普通」の生徒ではなかった。

 

「それはもちろん『こっそり』調べるのさ。さいわい、今日はこれからオブジェクトのちょうせいをする予定だからね」

 

 竜治はこれから悪戯をするような笑みを浮かべて櫛田にそう言うのであった。

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