「はぁ……。なんか、いっきにつかれたな……」
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です」
「お疲れ様だね、雨田君。でもオブジェクトを動かしているだけで、そんなに大変じゃなかったんじゃないの?」
夕方。ようやく船が止まり、オブジェクトのエリートにも自由時間がきて、船内の通路を歩きながら竜治が言うと綾小路と佐倉が彼を労い、櫛田も労ってから疑問を口にする。
「精神的につかれたんだよ。周りをけいかいしながらゆっくりオブジェクトを進めて、その間にじょうきゃくがこちらをカメラで撮って、センサーがそれを感知して……。きが休まるひまがなかった」
「あはは……。それは大変だったね」
(まぁ、一番きになったのは『あやのこうじざいばつ』のオブジェクトだったけどな)
苦笑をする櫛田の声を聞きながら竜治は心の中で呟く。
護衛役としてビッグ・シルエット・ツアーに参加している四機のオブジェクトは、豪華客船の前方と後方の左右にそれぞれ一機ずつ専用の艦橋で繋がっている。
そして竜治の「かみなりぐも」は豪華客船の前方の右側、綾小路財閥のオブジェクトの「いなずま」は後方の右側に繋がっていた。そのためオブジェクトを乗っている時の竜治は、いつ「いなずま」がこちらへ砲撃をしてくるか気が気ではなかったのである。
「まあ、そんな雨田のために早めの夕食にしよう」
綾小路も、自分の父親が送り込んできたオブジェクトが気になるはずなのに、それを表に出すことなく先導して通路を歩いていき、竜治達もその後ろについていく。
竜治達がやって来たの豪華客船の船内にあるレストランだった。レストランには同じ学校の生徒達だけでなく他の乗客の姿もあり、店内の落ち着いた上品な雰囲気に竜治達は思わず感心する。
「うわぁ……! 凄いね。私、こんなお店初めてきた」
「おい。お前ら、Dクラスだろ?」
櫛田が感動したような声を上げると、先にレストランの席についていた学校の男子生徒が立ち上がって竜治達に話しかけてきた。しかしその生徒はこちらを見下すような表情を浮かべていて、とてもではないが友好的には見えなかった。
「おい。弥彦、やめろ」
同じテーブルに座っていた禿頭の男子生徒が止めるが、弥彦と呼ばれた男子生徒は聞こえていなかったようでそのまま竜治達に向かって話し出す。
「ここはお前達みたいなバカしかいない不良品がいていい場所じゃないんだよ。さっさと出て行って、適当な店でジャンクフードでも食って「ちょっとよろしいでしょうか?」……え?」
弥彦の言葉の途中で、綺麗な発音の「正統王国の言葉」が割り込んできた。弥彦と竜治達が声が聞こえて来た方を見ると、そこには青いドレスを着た金髪のいかにも「貴族」という雰囲気の女性が立っていた。
「貴方……。もしかしてリュージ・アマダといいませんか?」
「あっ、ハイ。そうですけど……あなたは?」
『『………!?』』
金髪の女性に話しかけられた竜治が返事をすると、レストランにいる学校の生徒が驚いた顔となって竜治の顔を見る。しかし金髪の女性と竜治はそれを気づかずに会話を続ける。
「わたくしの名前はアズライフィア=ウィンチェルといいます。ウィンチェルという家名に聞き覚えは?」
「ウィンチェル……もしかしてヘイヴィアさんのごかぞくの方ですか?」
「ええ。妹ですわ」
金髪の女性、アズライフィアの家名を聞いて竜治が、オセアニア軍事国で一緒に戦った正統王国の「貴族」出身の軍人の顔を思い出して聞くと、彼女は胸を張って答えた。
「オセアニア軍事国での戦い。そしてその直後に我が正統王国で起こった内乱。そこで貴方には兄様が助けられたと聞きました。ですから貴方には一度会ってお礼を言いたいと思っていましたの」
「いえ、オレはたいしたことはしていませんよ。ほとんどヘイヴィアさんとクウェンサーさんが主導でしたし、オレはそのてつだいをしただけです」
竜治がアズライフィアの言葉に首を横に振って答えると、彼女は興味深そうな表情となって彼を見る。
「そうですか……。それで兄様は勇敢に戦っていましたか?」
「はい。ヘイヴィアさんもクウェンサーさんも勇敢すぎるくらい勇敢でした。というより、勇敢でなかったらなまみでオブジェクトにいどもうなんてしませんよ」
「ふふっ。それもそうですわね」
アズライフィアは自分の質問に即答した竜治に嬉しそうに笑うと彼を見る。
「また機会があれば兄様がどの様に戦っていたか聞かせてくださいね。それではごきげんよう」
そう言うとアズライフィアは後ろに控えていた眼帯をしたメイドと一緒にレストランを出ていった。その後ろ姿を見送ってから竜治は小さく息を吐いた。
「ふぅ……。ヘイヴィアさんって、あんないもうとさんがいたんだね。すごい美人だったね……って、アレ?」
綾小路に話しかけようとした竜治は、綾小路以外のレストランにいた学校の生徒達が驚いた顔で自分を見ていることに気づいた。
「皆、どうしたの?」
「あ、雨田君って、英語話せたんだね……?」
「英語? 今のは正統王国言語だけど?」
竜治は櫛田の言葉を訂正しながら、何故皆が驚いた顔をしているのか内心で首を傾げる。
レストランにいる学校の生徒達のほとんどが驚いているのは、竜治とアズライフィアの会話が理由だった。
あの時、竜治とアズライフィアは話していたのは日本語ではなく正統王国で使われている言語。そして学校の生徒のほとんどは、正統王国言語どころか日本が所属している資本企業の公用語である英語も満足に話せず、流暢に正統王国言語を操った竜治の姿が異様に見えたのだった。
「それでいったい何かよう?」
「えっ!? あ、いや……な、何でもねぇよ……」
「?」
竜治が弥彦に声をかけると、呆然と竜治とアズライフィアの会話を聞いていた弥彦は、すっかり気持ちをくじかれて自分が座っていたテーブルに戻り、それを見て竜治は訳が分からないという顔となった。