「みんな、少しいいかな?」
説明が終わり茶柱が教室を出ると、爽やかな印象の男子生徒が教団の前に立ち、教室にいる生徒達全員に声をかける。
「僕らはこのクラスで過ごす事になる。だから今から自己紹介をして、一日も早く仲良くなれたらと思うんだけど、どうかな?」
「賛成〜! 私達、まだみんなの名前とか分からないし」
「そうだなっ! やろうぜ!」
男子生徒こ言葉に他の生徒達も賛成して、竜治もその提案に声を出さずに賛成していた。
(たしかに……。これからこの学校でせいかつするには同じクラスにどんなにんげんがいるかしっておいたほうがいいか)
この学校は普通の学校ではない。ここで上手く立ち回り、自分を高めるためには有望な人間と協力関係を築く必要があると竜治が考えていると、自己紹介を提案した男子生徒が話し出す。
「じゃあ僕から……僕は平田洋介。気軽に下の名前で呼んでほしい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーをやっていて、この学校でもサッカー部に入るつもりなんだ。よろしく」
平田と名乗る男子生徒が爽やかな笑みを浮かべて自己紹介をすると主に女生徒達から拍手が起こり、竜治も拍手をしながら平田を観察する。
(ヒラタくん、か……。このあいさつで多くのクラスメイトから好印象をえた。クラス全体でうごく時はかれが中心になるのかもな)
「わ、私は、佐倉愛理……です。趣味は……その、特にありません」
「俺の名前は山内春樹。小学校は軍の特別隊員になって、中学はオブジェクトを操縦するエリートだったけど、いまはオブジェクトが事故で壊れちまったんで待機中だ。よろしく!」
平田の次に女生徒が自己紹介をして、その次に山内と名乗る男子生徒が自己紹介をすると、それを聞いた竜治が不愉快そうに眉をひそめる。
(なんだ、あのおとこは? 特別隊員ってなんだよ? それにどうみてもオブジェクトのエリートなんかじゃないだろ?)
資本企業の軍隊は基本、民間軍事会社がいくつも集まって行動しているもので、他の勢力のような軍隊なのではなく、臨時隊員はあっても特別隊員というものは存在しない。そして加えて言えば山内からはオブジェクトに乗るためだけに心身を改造されたエリートの気配は微塵も感じられず、実際にオブジェクトを操るエリートである竜治からすれば山内の自己紹介は自分を馬鹿にされたようにしか聞こえなかった。
(あのおとことは関わらないでおこう……)
竜治は山内に早々と見切りをつけると、教室全体をみても可愛らしいといった印象を周りに与える女生徒が自己紹介をする。
「私は櫛田桔梗です! 中学からの友達はこの学校に一人も進学していないから、早く顔と名前を憶えてみんなと友達になりたいです! 私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆んなの自己紹介が終わったら是非私と連絡先を交換してください」
櫛田の自己紹介に平田と同じく教室から拍手が起こり、竜治もまた拍手をする。
そして自己紹介が続いていく中、一人の赤髪の生徒が苛立った様子で席から立ち上がる。
「俺らはガキかよ。自己紹介なんてやりたい奴だけでやれ。俺は別に仲良しごっこするためにこの学校に入ったわけじゃねぇんだよ」
赤髪の生徒はそう言って教室を出ていくと、数名の生徒達が同じ意見なのかそれに続いてが教室を出ていき、竜治は冷めた目で彼らの背中を見る。
(いいたいことはわかるが、だからといってあのたいどはないだろう?)
「俺は池寛治! 好きなものは女の子で、嫌いなものはイケメンだ! 彼女は随時募集中なんでよろしくっ! もちろん可愛い子か美人な子を期待!」
赤髪の生徒達が出ていったせいで教室は一時微妙な空気となったが、気を取り直して自己紹介を再開し、平田が腕を組んで両足を机の上に乗せている金髪の男子生徒に話しかける。
「あのー、自己紹介をお願いできるかな?」
「フッ、いいだろう。私の名前な高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知りおきを小さなレディー達。それから私が不愉快と感じた行為を行った者には、容赦なく制裁が加わえることとなるだろう。その辺は十分に配慮したまえ」
金髪の生徒、高円寺の自己紹介に教室が再び微妙な空気となるが、竜治はそれに構わず高円寺の顔を見る。今、高円寺が口にした高円寺コンツェルンは日本だけでなく資本企業でも有力な企業であり、その名前だけなら何回か耳にしたことがあったからだ。
(かれがあの、コウエンジコンツェルンの……。見たかんじ、このクラスで優秀そうだけど、協力関係をきずくのはは難かしそうだな……)
「あー……。じゃ、じゃあ、次は君にお願いできるかな?」
「え、オレ?」
平田が微妙になった空気を誤魔化すよう笑いながら男子生徒に自己紹介を頼むと、話しかけられた男子生徒は戸惑いながら自己紹介をする。
「えー……。えっと、綾小路清隆です。えー、得意なことは特にありませんが、皆んなと仲良くなれるように頑張りますので…….よろしくお願いします」
(……? アヤノコウジ? どこかできいたような……?)
「今度は君の番だよ」
綾小路の名前を聞いて竜治が首を傾げていると平田が話しかけてきて、思考を中断された竜治は仕方なく自己紹介をする。
「アマダリュウジだ。まずさいしょに言っておくけど、オレは『とくたいせい』だ」
『『………!?』』
竜治が自分のことを「特待生」と言うと平田を初めとする教室にいる生徒達が驚いた顔となる。
特待生というのは学生でありながらすでにどこかの企業の正社員となった者のことである。例えそれが書類整理や荷物を運ぶなどのアルバイトのような仕事しか任されていなくても、企業に就職できるだけの実力かコネを持っている特待生は、この資本企業の学生社会においてオブジェクトの操縦士とは違う「エリート」なのだ。
「かいしゃからの命令がくれば、クラスからはなれなければならないので、もしかしたら皆にめいわくをかけるかもしれない。それでも、皆とはなかよくなりたいと思っているので、よろしくおねがいします」
「な、なあ!? 特待生って言ったけど、どこで働いているんだ!? 俺達も知っている有名な会社なのか?」
竜治が自己紹介を終えると、先程自己紹介をしていた池という男子生徒が竜治に質問をして、他の生徒達も興味深そうに見てきた。
資本企業ではオブジェクトを建造、保有できることが大企業の条件とされている。一応、竜治の実家が経営している企業「雨田電機」はオブジェクトを建造できるだけあって資本企業でも大企業、日本では間違いなく上位となっているが、全てを話す気がない彼は窓の向こう、自分のオブジェクトが整備を受けている整備基地を指差した。
「あそこ……。オブジェクトのきちで働いている」
「オブジェクト関連!? マジかよ! 流石に嘘だろ!?」
嘘は言っていない。オブジェクトの操縦士である竜治はある意味、オブジェクトの整備基地で働いているようなもので、彼の言葉に教室が騒然となり、自分のことをオブジェクトの操縦士だったと言っていた山内が特に大声を出す。
(だまれよ。ウソを言っているにはおまえだろうが)
竜治が心の中で山内に吐き捨てるように言うと、彼の前に自己紹介をしていた綾小路が話しかけてきた。
「俺と同い年なのに特待生……それもオブジェクト関連だなんて凄いんだな」
「……きみは、アヤノコウジくんだっけ? オブジェクトにきょうみがあるの?」
「ああ。この国……いや、資本企業では金さえあれば自由も権力も全て手に入る。そして今の時代、最も稼げるのがオブジェクト関連だからな」
(へぇ……?)
表情を変えることなく綾小路が言った言葉はある意味で正しく、それを聞いた竜治はここで初めて綾小路に興味を持ったのであった。