「あれ? アヤノコウジくんにホリキタさん。どうしてここに?」
一ノ瀬からCクラスがいる場所を聞いた竜治と櫛田は、そこへ向かう途中で自分達と同じくスポットの探索をしていた綾小路と堀北と出会った。
「雨田と櫛田か。お前達こそ何でここにいるんだ?」
「Bクラスのイチノセさんから、このさきにCクラスがいるって聞いて、ようすを見にいくところなんだ」
「Cクラスか……」
綾小路の質問に竜治が答えると、Cクラスと聞いた綾小路が何か考える素振りを見せる。Cクラスといえば須藤が罠にはめられた件もあって、警戒しているのだろう。
「雨田、櫛田。俺も一緒に行ってもいいか? 堀北もいいだろ?」
「オレはべつにかまわないよ」
「私も」
「……そうね。Cクラスの様子は調べておくべきでしょうからね」
綾小路の言葉に竜治と櫛田に堀北が頷くと、彼らはCクラスがいる海岸へとむかうのだった。
「……これはすごいな」
綾小路達と合流した竜治はCクラスがいる海岸に行くと、そこの光景を見て思わず呟いた。
海岸ではCクラスの生徒達が、ある者は水上バイクを走らせ、ある者はビーチバレーで遊び、ある者はバーベキューの料理を食べて、それぞれ夏の海を楽しんでいる。他のクラスは特別試験を受けてサバイバル生活を送っている中でCクラスの行動はあまりにも異質であった。
「皆、楽しそうだな」
「どういうこと? Cクラスは試験をする気がないのかな?」
「そんな……あり得ないわ」
綾小路が冷静に言う隣では、櫛田と堀北が戸惑った表情を浮かべており、竜治は櫛田が言った言葉に違和感を覚えた。
(Cクラスがしけんをする気がない? ……本当にそうなのかな?)
確かにCクラスの生徒達は、特別試験のことなど頭になく心から楽しんで遊んでいるのが見ただけで分かる。
しかし竜治は何の確証もないのだが、須藤の件を企んだCクラスが、何もせずにただ遊んでいるだけとはとても思えなかった。
「おい、お前ら。Dクラスだろ?」
竜治が海岸で遊んでいるCクラスの生徒達を見ながら考えていると、Cクラスの生徒の一人がこちらへとやって来て話しかけてきた。竜治は話しかけてきたCクラスの生徒の顔に見覚えがあった。
(かれは確か……スドウくんをわなにはめて訴えた生徒の1人だったはず)
「龍園さんが呼んでいる。ちょっとついてこいよ」
Cクラスの生徒の口ぶりだと、どうやらその龍園という生徒がCクラスをまとめているらしい。他のクラスの情報を得たい竜治達に断る理由はなく、彼らはCクラスの生徒の後についていって、龍園の所へ向かうことにした。
「よお。まさかオブジェクトのエリート様が偵察なんてパシリみたいな仕事をするだなんて、Dクラスってのはよっぽど人手不足なんだな?」
Cクラスをまとめる男子生徒、龍園翔を見た竜治の感想は「独裁者」というものであった。
平田や櫛田、一ノ瀬とは違う、人望ではなく力を持って他者を支配するタイプの人間。その点で言えばむしろ坂柳にタイプが似ていると竜治は思った。
Cクラスの生徒に案内されてきた竜治を見るなり、龍園は小馬鹿にするような顔で言ってきたが、竜治はそれに特に怒ることなく返事をする。
「そうだね。Dクラスは『ちょっと』にんずうが減っちゃって、みんなでそれぞれ仕事をしているんだ。それにオブジェクトのエリートだからこそ、さくせんでは皆のまえに出てこうどうするんだよ」
「……ほぉ?」
竜治の言葉に龍園は目を細め、まるで品定めをするかのように竜治を見る。それからしばらくすると龍園は獰猛な笑みを浮かべた。
「面白ぇ……! Dクラスなんて雑魚の集まりかと思っていたが、お前みたいな面白ぇ奴がいたなんてな。坂柳の奴もいい犬を飼っているじゃねぇか?」
オブジェクトのエリートの竜治と戦術オペレーターの坂柳。戦場ではパートナー同士なのだから、学校でも二人が協力関係か主従関係を結んでいると考えるのは自然なことである。
挑発するように言う龍園に竜治が答えず適当に笑っていると、龍園の側にあるテーブルに置かれていたコーラの缶を竜治に向かって投げつけ、竜治がコーラの缶を難なくキャッチする。
「それの代金代わりに一つ答えろ。この間……名前は忘れたが、赤毛のゴリラとウチの奴らが揉めた時の映像データともう一つの映像データ……。アレを用意したのはお前か?」
龍園が言っているのは、須藤とCクラスの生徒達が特別棟で騒ぎを起こした時の映像データと、それが龍園の指示だという証拠となった映像データのことだ。あの二つのデータがなければ、須藤は無実を証明することができず重い処罰を下されていたかもしれない。
「そうだよ」
「……!? ……クッ、ハハハハハッ! いいぜ、気に入ったよ、お前。お前は坂柳と一緒に俺が潰してやるよ」
竜治があっさりと答えると、龍園は目を見開くがすぐに大笑いをした後、楽しそうに宣戦布告をするのであった。