ようこそ「エリート」、実力至上主義の教室へ   作:小狗丸

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 クラスでの自己紹介の後に始業式も終わると竜治はある人物に呼び出された。彼が待ち合わせの場所である学校の敷地内にある喫茶店に行くと、そこでは竜治を呼び出した人物がすでに席に座ってコーヒーを飲んでいた。

 

 席に座ってコーヒーを飲んでいるのは、他の生徒と比べて小柄で綺麗な銀髪と大きな蒼い瞳が特徴的な人形のように整った容姿の女学生だった。

 

「すまない、アリス。おくれた」

 

「いいえ、それほど待っていませんよ」

 

 銀髪の女生徒を見つけた竜治が謝罪をすると、それに彼女は笑って答える。

 

 銀髪の女生徒の名前は坂柳有栖。

 

 彼女も竜治と同じこの学校の新入生で、それと同時に彼と「同じ職場」で働く仕事仲間であった。

 

 竜治が坂柳と知り合ったのは十三歳の頃。オブジェクトの操縦士である自分を補佐する戦術オペレーターとして紹介されたのが彼女である。

 

 坂柳はエリートとなるべく英才教育を受けた竜治に負けないくらいオブジェクトの知識に詳しく、特にオブジェクトの戦術論は彼以上であった。これまでにも竜治は坂柳が立てた作戦のお陰で何度もオブジェクト同士の戦闘で勝利しており、今では二人は互いに認め合い協力し合うパートナーの関係を築いていた。

 

 ちなみに学校に入学する前の任務で、竜治と通信装置越しに会話していたのも坂柳である。

 

「高校生活の一日目はどうでしたか?」

 

「……まだ授業をうけてないからはっきり言えないが、それでもずいぶんとレベルが低いきがする。すくなくと『しょうがっこう』とくらべたらずっと低いとおもう」

 

 席に座った竜治に坂柳が質問をすると、彼は少し考えてから答える。

 

 年々少子高齢化が進んでいる日本では子供は成長資源として大切に扱われており、一部の子供は早い内から会社直属の教育施設で英才教育を受けている。

 

 竜治が言った「小学校」もその一つで、正確には彼の実家の企業である雨田電機がオブジェクトの技術を研究するための研究所であった。竜治はそこで六歳から十二歳になるまでの六年間、自身が乗るオブジェクトのかみなりぐもの開発と建造に合わせてエリートになるための訓練と教育を受けていた。その時のことを思い出しながら彼が言うと坂柳が小さく可笑しそうに笑った。

 

「ふふ……。竜治君、前にも言ったと思いますが、竜治君の言う小学校は普通の小学校と違いますからね。あそこと比べるのは流石に酷というものです」

 

「そうなのか? ……まあ、少なくともたいくつはしないとおもう。アリスや、他のみんながオレをここにいれた理由もすこしだけわかった気もする」

 

「あら?」

 

 坂柳は竜治の言葉を聞いて、彼がこの学校が普通ではないと気づいていることを察し、嬉しそうな笑みを浮かべると興味深そうに彼を見る。

 

「それは大変良かったです。……それで? 興味を持ったのはこの学校だけですか? 気になるクラスメイトはいませんでしたか?」

 

 気になるクラスメイト……つまり、自分達に有益な人材はいなかったかと坂柳に聞かれ、竜治はクラスでの自己紹介で気になった二人のクラスメイトの名前を口にする。

 

「コウエンジロクスケくんとアヤノコウジキヨタカくん。コウエンジくんはあのコウエンジコンツェルンの一人息子だけど、アヤノコウジくんのほうはよくわからない」

 

「綾小路……?」

 

 竜治が綾小路の名前を口にすると坂柳が目を僅かに見開いて驚いた表情となる。それを見て彼は彼女に話しかける。

 

「アリス? アヤノコウジくんのことをしっているのか?」

 

「はい。と言っても、私が一方的に知っているだけですし、前に彼を見たのは八年も前です」

 

「アヤノコウジくんはどんなヤツなんだ?」

 

「……『綾小路財閥』、『ホワイトルーム』、『唯一残った被験者』」

 

「っ!?」

 

 坂柳が口にした三つの単語。それを聞いただけで竜治は綾小路の経歴を理解して、自己紹介の時、彼の名前を聞き覚えがあった理由に気づくのだった。

 

「……そうか、それで。かれが『あの』アヤノコウジの……。でも、それだったらアリスはアヤノコウジくんに因縁があるってことか?」

 

 坂柳と二年間共に戦ってきた竜治はそれなりに彼女の過去を知っており、だからこそ坂柳と綾小路の間に因縁があることを予想した。しかし当の本人の坂柳は特に気にした様子もなく首を横に振る。

 

「いいえ。竜治君の口から綾小路君の名前を聞いた時は驚きましたがそれだけです。……確かに二年前の私だったら『偽りの天才を葬ることこそ、天才の役目』と言って目の敵にしていたでしょう」

 

「……」

 

 竜治は坂柳の言葉に彼女と出会ったばかりの頃を思い出す。言われてみれば確かにあの頃の坂柳は、研究所でエリートになるための訓練と技術を受けた……彼女が言う「偽りの天才」である竜治を、表には出していなかったが敵対意識を持っていた。

 

 しかし実際にオブジェクト同士の戦争やそれに付き纏う経済戦争を竜治と共に体験しているうちに、坂柳も徐々にだが考えを改めていき、今では竜治と信頼関係を築けるようになっている。

 

「生まれながらの天才でも、作られた天才でも関係ない。要は勝利して望む未来を掴み取るための『駒』となれるかどうか……大切なのはそれだけです。……それにしても大変興味深い話が聞けましたし、次は私の番ですね」

 

 そう言うと坂柳はとあるニュースサイトを開いた自分の携帯端末の画面を竜治に見せ、そこには次のような文章が表示されていた。

 

 

『衝撃! 生身の兵士二人がオブジェクトを破壊!?』

 

 

「これは……!?」

 

 予想もしなかった文章に驚いた竜治が画面を凝視して文章の続きを読むと、先月アラスカで「正統王国」と「信心組織」の間でオブジェクト同士の戦闘があり、オブジェクト同士の戦闘は信心組織の勝利で終わったのだが、その後で派遣留学生とレーダー分析官の二人が信心組織のオブジェクトを破壊したとあった。

 

「なまみでオブジェクトを破壊……? いったいどうやったんだ?」

 

「残念ながらそこまでは分かりません。……ですけど、今までオブジェクトの数と力だけが勝敗を決めていた戦争のあり方が変わるかもしれませんね?」

 

 竜治の言葉に坂柳はそう返すと、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「もしそうなったら……これからの戦争、とても楽しくなりそうです」


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