高度育成高等学校は敷地内にまるでマンションのような学生寮があり、特待生のような特別な立場や理由が無い限り、卒業まで学校の敷地外へ出る事を禁じられている。
坂柳との会話を終えた竜治は、一通り学校の敷地内を見ながら買い物を済ませて学生寮の自室へと帰った。その後彼は坂柳から「生身の兵士二人がオブジェクトを破壊した」というニュースを見せられたことを切っ掛けに、自分からもオブジェクト関連のニュースを携帯端面で調べることにしたのだが、途中でオブジェクトとは別の気になるニュースを見つけた。
「これは……『しほんきぎょう』、宇宙開発計画にレーザーしき『きどうエレベーター』を採用することをせいしきに発表? へぇ、これはうちのかいしゃも喜こぶだろうな」
地球の全て地域が調べ尽くされて資源を採掘されている現代、人類が宇宙を次の開拓地にと考えるのは自然なことであり、どの国でも宇宙の開発を計画している。
軌道エレベーターとはその宇宙開発のために人員や資材を宇宙の送るための建造物で、ロケットを打ち上げるよりも低コストな上に安全な方法だと言われている。そして資本企業では建造する軌道エレベーターを、電磁力を使って打ち上げる巨大なレールガンみたいな「マスドライバー方式」にするか、それともレーザーを使って推進力を生み出し打ち上げる「レーザー式」にするかで長年議論されていた。
だが資本企業はレーザー式軌道エレベーターを採用すると発表して、これは竜治と彼の実家の企業である雨田電機にとって朗報であった。
竜治が乗るオブジェクトのかみなりぐもは「宇宙開発支援兵器」という名目で建造されており、その主砲である多目的超高出力レーザービーム砲は武器以外にもレーザー式のカタパルトとしても利用できる。そしてこれを開発した雨田電機の技術は、レーザー式軌道エレベーターの建造にも大きく貢献できることが予想されて、今頃雨田電機は国の軌道エレベーターの開発を担当している部署に売り込みをしていることだろう。
「しかし、これに対して『マスドライバーざいばつ』のスラッダー・ハニーサックル氏は、マスドライバーしきのさいようを強調。さいごには、マスドライバーしきがさいようされなければ、亡命もじさないと……ん?」
竜治が携帯端面が表示しているニュースを読み上げていると、そこに一通のメールが届いた。ニュースを読むのを中断してメールを確認すると、それは高度育成高等学校の経理部からのメールであった。
「がっこうから? ……電気のかいとりの申し込み?」
高度育成高等学校からのメールは、簡単に言えば彼のオブジェクトのかみなりぐもが発電している電気の一部を買い取りたいというものだった。
オブジェクトはその巨体を動かしたり武装を使用するのに常識では考えられない程の膨大な電力を必要としている。オブジェクトの動力炉はそんな非常識な量の電力を一度の補給で五年間休み無しで生み出せるのだが、一度止めると再び稼働させるの多くの手間と時間がかかるので、気軽に停止させたり稼働させたりできなかった。
そこで「情報同盟」は数年前に戦闘をしていないオブジェクトの電力を基地に送り有効活用する計画を考え、その情報をとあるルートから知った雨田電機はかみなりぐもにも他の施設に電力を送れる機能を加えたのである。
待機中にかみなりぐもの電力を施設へ送るかどうかの決定権は操縦士の竜治にあり、高度育成高等学校は電力を送ってくれれば「対価」を支払うとメールで知らせてきた。
「でんきを売ったら、使用電力におうじたプライベートポイントを、まいつきげつまつにしきゅうする、か……」
入学してすぐに十万のプライベートポイントを与えて、毎月一日にプライベートポイントを支給すると説明をして、その上プライベートポイントで電気を買い取りたいというメール。これらのことから竜治は、この学校ではプライベートポイントが何をするにも必要な、重要な要素であるという考えに確信を持った。
「プライベートポイントはいくらあってもこまらないか……」
そう呟くと竜治は、学校にオブジェクトの電気を売ること了承したメールを送信するのだった。