結論から言えば、平田と櫛田に協力してもらったDクラスの授業態度の改善は、あまり効果はなかった。
竜治の頼みを聞いた平田と櫛田はそれとなくDクラスの生徒達に授業態度を改めるように言ってくれた。だが強く注意して相手との友好関係を壊したくない二人はあまり強く注意できず、注意された生徒達も最初こそは大人しくしてくれたが、すぐに元の無法状態と戻ってしまったのだ。
そしてDクラスの授業態度を改善することができないうちに一ヶ月が経過した。
「うまくいかなかったな。……でも、無理にかいぜんする必要はなかったかな」
四月の月末、竜治は自室で残念そうに呟いてから携帯端面の画面を見る。そこにはオブジェクトの電気を高度育成高等学校に売った代金であるプライベートポイントが表示されていた。
「あしたは答えあわせか」
明日はプライベートポイントが支給される日で、竜治の予想が当たっているのか否か、予想が当たっていた場合Dクラスはどうなるのかが分かる。それだけ言うと彼は明日に備えて眠ることにした。
「なぁ、雨田?」
次の日に竜治が教室に行くと生徒達が困惑した表情をしており、彼が自分の席に座ると綾小路が話しかけてきた。
「どうした、アヤノコウジくん?」
「今日の朝、プライベートポイントが支給されていなかったんだが、雨田は支給されていたか?」
綾小路の言う通り、竜治が今朝携帯端面を確認してみたら昨日とプライベートポイントの額が変わっておらず、周りの様子を見るに他の生徒達も同じなのだろう。
「……オレも、きのうとプライベートポイントの額がかわっていなかった」
「そうか」
竜治は嘘は言わずただ事実だけを言って綾小路の質問に答えず誤魔化すと、綾小路はそれで納得したように頷いて自分の席に戻っていった。
そうしているうちに丸めた紙を二枚脇に抱えた茶柱が教室に入ってきて、ホームルームを開始する。
「これより、朝のホームルームを始める。その前に何か気になる事があるようだが、質問はあるか?」
「先生、おかしいですよ。朝ポイントを確認しても全く振り込まれてませんでしたよ。何か不備でもあったんですか?」
茶柱の言葉に男子生徒の一人が発言し、他のクラスメイトも便乗する。しかし茶柱はそんな生徒達に冷たい目で見ていた。
「前にも説明した通りだ。ポイントは毎月一日に振り込まれる。今月のポイントは既に振り込まれている」
「え……でも、ポイント増えてませんよ?」
「……はあ。お前達は、本当に愚かな生徒だな」
『『……!?』』
いきなり茶柱はこれ見よがしにため息を吐くと雰囲気を冷たいものへと変えた。そんないつもとは違う茶柱の態度に生徒達は困惑し、平田と櫛田の二人は最悪の状況に思い至り顔を青くする。
「もう一度言うがポイントは既に振り込まれている。これは間違いない。このクラスだけ忘れられていた、と言うこともない」
「いやでも、実際に振り込まれてませんし……」
最初に茶柱に質問をした男子生徒が食い下がるように同じことを言うが、ここで高円寺の高笑いが教室中に響き渡る。
「ハハハッ! 理解したよティーチャー。この謎解きがね」
「は? どういう事だよ高円寺」
男子生徒が茶柱から高円寺に聞くと、高円寺はそれに余裕な表情で答える。
「簡単な話だ。私達Dクラスは0ポイントを支給された訳さ」
「それはないだろ。だって、毎月一日に十万ポイント振り込まれるって……」
「そんな言葉を私は一度も耳にしたことは無いね。そうだろう、雨田ボーイ?」
「高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントを与えて気づいたのは数人とは……。雨田、お前の努力は全て無駄に終わったな」
高円寺が男子生徒に答えてから雨田を見ると、茶柱も再びため息を吐いてから彼を見る。
「……なんのはなしですか?」
「隠す必要はない。……まあ、いい。とりあえず皆の疑問から答えるとしよう」
竜治の言葉に茶柱はそう言うと、生徒達の最初の疑問であるプライベートポイントが増えていない理由を説明する。
「遅刻欠席、合計七十六回。授業中の私語や携帯を使用した回数、二百四十一回。一月でよくもまあここまでやらかしたものだな。この学校は、クラスの成績がそのままポイントに反映される。途中で平田や櫛田が注意したが焼け石に水だったな。この一ヶ月間のお前達Dクラスの実力を調査した結果、お前たちの評価は……0だ」
『『………!?』』
茶柱の言葉にクラス中がざわめきだすが、茶柱はそんな生徒達を馬鹿にするような目で見ながら口を開く。
「ちょっと考えれば分かるだろう。高校に入学したばかりのお前達に十万もの大金を何の理由もなく渡すわけがないだろう? そこにいる雨田を見ろ。雨田は入学式当日、プライベートポイントの支給額に疑問を抱き、私に質問をしていたぞ。更に言えばクラスの成績がポイントに反映されることに早くも気づいて、平田と櫛田に協力を頼み、クラスの授業態度を改善しようとした」
(いったいどこで会話がきかれていたんだ?)
『『………!?』』
内心で舌打ちをする竜治の方をクラスの生徒のほとんどが驚いた顔となって見て、その間に茶柱は持ってきていた二つの丸めた紙の一枚を広げて黒板に貼る。そこには全クラスと数字が書かれていた。
Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 490
Dクラス 0
「これは各クラスの評価表だ。これを見て気づく事はないか?」
「……妙に綺麗に並んでいますね」
「その通りだ、堀北。この学校では優秀な生徒からAクラスへ、ダメな生徒ほどDクラスへ配属される。つまりお前達は、最悪の不良品という訳だ」
堀北と呼ばれた黒髪の女学生が茶柱に答えると、茶柱は更に衝撃的な発言をしてクラスの混乱は強まり、非情な現実に嘆く者が多く現れる。
「……これから俺たちは他の連中に馬鹿にされるのかよ」
「何だ須藤? お前にも気にする体面はあったんだな。だったら頑張って上のクラスに上がれるようにするんだな」
赤髪の男子生徒、須藤が歯を食いしばりながら言うと、それに茶柱が意外そうな顔をして言う。
「あ?」
「クラスポイントは毎月の支給額と連動してクラスのランクにも反映される。つまりはお前達が他クラスより多くのポイントを得れば昇格できるという訳だ」
ポイント次第では上のクラスになれるかもしれない。
その言葉を聞いたDクラスの生徒の何人かは、絶望の中で微かな希望を見た表情となるのだが、Dクラスの絶望はまだ終わりではなかった。
茶柱はもう一枚の丸めた紙を広げて黒板に貼り付ける。今度はDクラス全員の名前と点数が表記されていた。
「さて、ここでお前達に知らせなければならない残念な知らせがもう一つある。この数字は先週行った小テストの結果だ。揃いも揃ってクズのような点数だ。お前達、中学で一体何を習っていたんだ? これが本番なら赤点を取った七人の生徒が退学になっていたぞ?」
『『はあっ!?』』
赤点を取った七人の生徒達が驚愕の声を上げる。しかしそれに構うことなく茶柱は話を続ける。
「次からの中間、期末試験では赤点を一つでも取った生徒は即刻退学となる。覚えておくように」
『『……!?』』
(あかてんを取ったらたいがく……進学校ではよくあるペナルティだと思うけど、みんな大丈夫かな?)
学力の問題では退学の危険はなく、茶柱の説明にも納得している雨田なのだが、次から次へとショックを受けて顔色を悪くしているクラスメイト達を見て流石に彼らに同情をしていた。
「最後に、この学校が誇る就職率・進学率100%の恩恵を得られるのはAクラスのみだ。それ以外の生徒には、何一つ保証する事はない」
「そ、そんな……聞いてませんよそんなの! 滅茶苦茶だ!」
「みっともないねぇ幸村ボーイ。男が慌てふためく姿ほど惨めなものはない」
いい加減耐えかねたのか、眼鏡をかけた男子生徒、幸村が悲鳴のような声を上げるとそれに高円寺が笑みを浮かべながら言う。すると幸村は高円寺に敵意のこもった目を向ける。
「……お前はDクラスであることに不服はないのかよ、高円寺?」
「フッ、実にナンセンスな質問だ。学校側はただ単に私のポテンシャルを計れなかっただけのこと。私は誰よりも自分のことを評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。それに私は将来高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは決まっている。輝かしい現在と未来が決まっている以上、DでもAでも些細なことだよ。君もそうだろう、雨田ボーイ?」
「そこでなぜオレの名前がでる?」
「……これで浮かれた気分は払拭されたな。ではこれでホームルームは終了する。各人生活態度を改めより良い学校生活を送ってくれ。中間テストではきっと生き残れると信じているぞ」
茶柱はそう告げると教室を後にして、その背中を見ながら竜治は心の中で呟いた。
(答えあわせは、ほとんど当たっていたが、あまりよろこべないな……)